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2007年7月20日 (金)

村上ファンド、東京地裁決定の影響度(1)

すでにご承知のとおり、東京地裁で村上ファンドの元代表村上氏に対する実刑2年追徴金11億という有罪判決が出ております。基本的な構成要件を整理しますと、

証券取引法167条「公開買付者等関係者等のインサイダー取引規制」が問題

公開買付者等関係者等←①公開買付者等には、議決権数ベースで5%以上の株式の買い集め行為者も含む②「関係者等」には、関係者から情報の伝達を受けた者も含む(以上、証券取引法167条3項、および施行令31条参照)

公開買付等事実の発生後、公表前に(売却、買付の時期的制限) ←つまり、この時期にインサイダー取引の故意が認められなければならない

当該公開買付等事実を←公開買付等(ここでは買い集め行為)事実とは?←①業務執行を決定する機関が②買い集め行為実現への決定行為にいたること

「知りながら」 ←決定行為の実現可能性を認識していなければ故意があるとは認められない(なお、実現可能性は「決定があった」という事実認定にも影響している模様)

現実に、有価証券の売買、買付を行い、その後当該公開買付等事実が公表されたこと。ただし、買い集め行為者の要請を受けて、応援買いをする者については適用除外とする。

と、いったところでしょうか。(間違いがございましたら、ご指摘ください)

そこでまず「公開買付者等関係者等」につきましては、村上氏が「伝達を受けたか」どうかが問題となります。それから実行行為時に故意が認められる必要がありますが、逮捕事実によりますと、平成16年11月9日から翌17年1月26日にかけての約193万株の買い付け行為が実行行為ですから、すくなくとも11月8日までに村上氏に実行行為の故意が認められる必要があります。したがいまして上記のとおり、決定行為に関する実現可能性を、この11月8日までに村上氏が認識していなければ故意が認められませんので、 「執行機関による決定」の有無と、その実現可能性の有無、そしてそれらの時期が判断される必要がありそうです。私的な整理ではありますが、このように理解すると、新聞報道なども頭に入りやすくなるのではないでしょうか。

先日のブルドック・スティール事件のように、地裁と高裁でかなり構成が異なる裁判の結果となる可能性もありますので、現段階での地裁判決への感想でありますが、上記のような各論点への地裁の対応が、すべて「村上ファンドは存在そのものがインサイダーである」という特殊な見方から帰結されているように思えますので、私はこの地裁判決は、今後の企業実務にとりまして、(後記の点を除けば)それほど大きな影響を与えるものではない、といった印象をもっております。たとえば、買い集め行為決定の時期や、その実現可能性の有無、また「伝達を受けたかどうか」につきましては、それまでの村上ファンドのライブドアへの働きかけや、実際の資金運用力の大きさ、そしてなによりもファンドとしての組織的欠陥(監査役からアクティビスト活動部門と、投資顧問業部門を分離するように、強く勧められていたにもかかわらず、なんらの措置もとらなかったようです)が大きく事実認定に影響を及ぼしているようですし、まさに判決に出てくるように「本件は偶発的な犯行ではなく、必然的なもの」が前提となっているからであります。(もちろん、事実の当てはめ方が罪刑法定主義の見地から適切かどうか、といった問題は別途ありますが、ここでは事案の特殊性を裁判所が強調したかったのではないか、といったところに焦点をあてております)感覚的な物言いで恐縮ではありますが、先日のブルドック高裁決定が突然「濫用的買収者だ」と認定したかのごとく、本件地裁判決でも、「あなた自身が自らインサイダー状況を作り出している」と言われて、困惑している、といったところではないでしょうか。なお、当初気になっておりました「応援買い」や「共同買付者」に該当するのではないか、といった論点につきましては、公判前整理手続きの中身がわかりませんので、推測にすぎませんが、ライブドアとフジテレビを天秤にかけて、自己の利得のみを考えていたとの事実や、そもそもの要請があったかどうか、といったところでのライブドア側からの供述が得られなかったことなどから、論点としては採用されなかったのかもしれません。

と、いいましても、この裁判が指摘している「村上ファンドの組織上の構造的欠陥」というものはやはり気になるところでありまして、今後のファンドや証券会社などにおける活動への影響といったところも無視できないように思えます。また、このたびの刑事事件でも、やはりメールの証拠価値といったものが明確になったようですので、またそのあたり続編ということで書かせていただきます。

7月 20, 2007 村上ファンドとインサイダー疑惑 |

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コメント

こんにちは。

私は「重要事実」について、この判決は先の最高裁判決よりもハードルを下げてしまったと思いますので、やはり一般企業にも重要な影響を与えるのではないか、と考えます。

ところで、実現可能性がほとんどない場合にまで、「聞いちゃった」らインサイダーに該当するのであれば、たとえばスティールが買い増ししようと考えているときに、誰かが電話で「私は5%株を買い増そうと考えています」とスティール事務局に告げるだけで買収防衛ができるのでしょうか?敵対的買収防衛が電話一本で可能であれば、ぜひお手軽な買収防衛策として検討してみたいものです。

投稿: halcome2005 | 2007年7月20日 (金) 13時48分

>「村上ファンドは存在そのものがインサイダーである」という特殊な見方から帰結されているように思えますので、

国や世論が悪と認定したら悪ですか。
どこの独裁国家なんでしょうか。ここは。

裁定取引のような取引を認めないというなら、日本は鎖国した方が
いいかもしれませんね。

投稿: ななし | 2007年7月20日 (金) 23時56分

こんちには。(このエントリーとは関係なく恐縮ですが。)

今朝の日経記事、「監査役に選任権」というヤツですが、ちょっとビックリですね。

内容的には以前から言われていることですから、どうこう言うものではありませんが、ビックリしてしまうのは、その紙面上の扱いです。

いくら土曜日とは言え、またいくら日経が「一般紙」とは違うとは言え、一面トップとは…。しかも見出しの大きいこと、大きいこと…。大体「監査役」というコトバ自体が、一面に、またこれほどの大きなフォントで紙面を”飾る”ことって、今までにありましたでしょうかね。

これが、どういう意味を持つか、どういう効果・影響を及ぼすかは、また今後に委ねるとして、まずは”驚愕の第一報”です。

投稿: 監査役サポーター | 2007年7月21日 (土) 11時52分

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