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2007年7月31日 (火)

コンプライアンス・トライアングル

さて、昨日ご紹介した『「まずい!!」学 組織はこうしてウソをつく』でありますが、いや実におもしろく、現在ほぼ2回目の読了となりました。これを読んでおりますと、企業におけるコンプライアンス・オフィサー的立場の方が、どのように活躍すべきか、といったことを、ふと考えてみたくなりました。ちょっとしつこいようでありますが、二夜連続のコンプライアンス経営に関するエントリーであります。

今年6月、東京の行方先生とお話をさせていただいたときに、金融機関のコンプライアンスの難しさについて語っていただいたことがあったのですが、タテ割り組織であるがゆえに、上から下への指揮監督関係は整備されており、上司のコントロールの届く範囲においては目立った不祥事は発生しないそうであります。むしろ問題なのは、タテ割り組織の弊害、つまりヨコの繋がりが薄いために、「隙間」の部分の問題を誰も扱おうとしなかったり、忙しいときに別の部署がヒマそうにしていても、なかなか遠慮してしまって、別の部署の応援を頼みにくくなってしまったり、というあたりの問題が、企業不祥事の温床になってしまうわけであります。(このたびの樋口氏の「まずい学」にも、同様の事例が紹介されております)そういったところをカバーするために、社内を横断的に動くことができる職種が必要だと思われますし、それこそコンプライアンス・オフィサーのような資格者の存在がピッタリなのかもしれません。金融機関のコンプライアンス・オフィサーといった立場と同様、一般の会社においてもオフィサーが活動できるかどうかは私もわかりませんが、リスクマネジメント委員会あたりの直轄として、活躍できる方(おそらく現場ではあまり歓迎されない役回りだとは思いますが)がいらっしゃったら、全社的リスクマネジメントの立場からコンプライアンス経営の一端を担える存在になるのではないでしょうか。企業組織のヨコ軸に一本串を刺すような役割を誰かが担う必要はあると思われます。

さて、企業組織にはタテ軸とヨコ軸を想定することはありますが、もう一本「時間軸」というものもコンプライアンスを考えるうえでは想定できるような気がいたします。これは現在、私が数社のIPO企業の支援活動を行っているなかでの感想でありますが、ワンマン経営者以外、一般の企業にはローテーションがありますので、就任早々は「あれもやりたい、これもやりたい」と仕事に対する前向きな気持ち(改革への意欲)でいっぱいの方も多いのでありますが、時間が経過して、そろそろ次の職務に異動するころになりますと、「ちょっと気になることがあるが、もう黙認してしまって、次の人に任せてしまおう」といった気持ちになってしまうケースが多いようです。新たに就任した方も、前任者が積み残した問題点について疑問に思うものの、新しい職務遂行には関係ないということで、そのまま放置してしまって、いつまでたっても不祥事の芽が摘まれないままに違法状態が増幅してしまう、といったケースであります。先ほどの遠慮が「ヨコ軸の遠慮」であるならば、こっちは「時間軸における遠慮」であります。コンプライアンス委員や、リスクマネジメント委員をしていて、こういった時間軸に起因する「隙間」による危機的な不祥事発生のリスクはけっこう多いように感じます。いまのところ、こういったリスクへの対策は思いつきませんが、こういった時間軸における問題につきましても、コンプライアンス・オフィサー的な立場の方々が「引継ぎにおける啓蒙活動、とりわけ後任者の勇気」を社内で根付かせるような取り組みを始めるべきだと思います。私自身は、これまでいくつかの具体的な事例を知っておりますので、そういった事例を多少デフォルメして、社内研修などで対応策を検討してみることが一番手っ取り早い方法かもしれません。

このようにコンプライアンス・オフィサーが一般事業会社で有効に機能するためには、タテ軸、ヨコ軸、そして時間軸の「コンプライアンス・トライアングル」のような発想を基本に据えて検討してみるのもひとつの方法ではないかと思います。なお、この樋口氏の著書の言葉を借りるのでありましたら、「やかまし屋」のような存在こそ、コンプライアンス経営には機能発揮が期待されるのかもしれません。

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コメント

Toshi先生、ご紹介&トラバいただきありがとうございます。
縦割りの弊害というのは、おっしゃるように自分の庭先しか掃除しない、ということもありますが、いわば下流にある現場に多方面から通達類が振ってきて洪水のような状態にある、ということもあるかと思います。
また、縦割りに加えて本部が”オタク化”してしまうと、縦のコントロールさえ覚束なくなってしまっています。
コンプライアンス・オフィサーに限らず、本部の人達は、縦と横の目配りがキチンとできることが重要なのだと思います(それができる”ゆとり”はもっと重要ですが)。
また、「時間軸」ということですと、例えば、人事ローテーションによるジェネラリストの育成とスペシャリストの育成のバランスも重要かな、と外資系と日系の双方を見てきて思います。もちろん、スペシャリスト自身も単に「オタク化」しないよう、縦横の意識を保つことが大切だと思います。

投稿: なめかた | 2007年7月31日 (火) 23時29分

行方先生のブログは毎回欠かさず拝見するようにしております。最近の金融庁の検査姿勢のようなものも、先生のブログでおぼろげながら理解できるようになりました。
しかし、沖縄で研修の講師をされる、というのはずいぶんといいご身分ですね。(笑)私もそういった依頼はないでしょうかね?(あるわけないか・・・)

投稿: toshi | 2007年8月 2日 (木) 02時34分

コンプライアンス・トライアングルの視点については、そのとおりかと思いますが、それだけではいかんともしがたい部分も多いと思います。樋口氏の同書は非常に面白く、示唆に富むものですが、組織心理学や集団心理学などの微妙な力学が社内で働き、コンプライアンス・オフィサーだけではいかんともしがたい状況になることも比較的多いと思います。

私は確かに、樋口氏が指摘するような病理現象も多いと思いますが、企業不祥事との関係で考えたときは、それだけでは片付けられないような気がします。

私は、むしろ、
・『「まずい!!」学 組織はこうしてウソをつく』(樋口晴彦著・祥伝社)
・『組織戦略の考え方』(沼上幹著・ちくま新書)
・『リスク・マネジメントの心理学』(岡本浩一・今野 裕之著)(新耀社)

のトライアングルというのが実際ではないかと感じています。

投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2007年8月10日 (金) 21時43分

>コンプロさん

ご紹介どうもありがとうございました。
組織の行動学あたりは、本当はコンプライアンス経営に関心を持つ者としましては、きちんと勉強する必要があるとは思っているのですが、なにぶん時間が割けず、自身の経験からだけしかモノが言えない状況です。
また、そういったジャンルのご意見を頂戴できましたら幸いです。

実際にコンプライアンス.オフィサー的な仕事をされている方の「横のつながり」といいますか連絡協議会のようなものが関西でもあると、先日ある出版社の方からお聞きしました。そういった活動が活発化すればいいですね。(一度その代表を務めていらっしゃる大学の先生にお会いしてみようかと考えております)

投稿: toshi | 2007年8月14日 (火) 11時53分

TOSHI先生
そのような協議会があるのですか。
他社での取り組みに関する情報交換等、非常にありがたい場所でもありますので、今後、もっと大きくなればよいですね。

ぜひ、機会があれば、参加してみたいものです。


投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2007年8月15日 (水) 21時20分

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