最良の企業統治を考える
日本取締役協会の「企業にとって最良のガバナンスのあり方を考える委員会」の対談について日経ニュースで報じられております。企業の発展段階によってガバナンスの形態も変わる、とする報告書がまとめられた、とのことで、つまりは新興企業から成長企業、大企業へと推移するなかで、企業統治のベストプラクティスも変容する、ということなのでしょうか。
いま私自身、社外役員やリスク管理委員会委員として、数社の新規株式公開を目指す企業の実態を見せていただく機会がございますが、企業が順調に運営されている状況のなかで、企業統治のあり方を変える、というのはたいへん勇気のいることではないか、と思います。とりわけカリスマオーナーや、創業家が代表を務める企業におきましては、そのトップの考え方が余程柔軟なものでなければ、リスクを抱えてまで企業統治のあり方を変えようという気持ちにはならないのではないでしょうか。また、企業不祥事が発生した場合こそ、企業統治のあり方を変える契機になるのかもしれませんが、はたしてコンプライアンスリスクの顕在化がそれまでのガバナンスに起因することが証明できるものでもないと思われますし、これも検証することが難しい場合になろうかと思われます。独立社外取締役制度を導入したり、取締役相互間におけるけん制機能を強化したり、監査役、内部監査人などのモニタリング機能を充実させることも重要かとは思いますが、先日「簡易版COSOガイダンス」でもご紹介いたしましたとおり、創業家や新興企業オーナーなどのように、その権限が社内で絶大な権勢を誇っている企業こそ、内部通報制度(ヘルプライン)などの内部統制システムの整備によって違法行為の予防(もしくは早期発見)に尽力すべきであります。
むしろ、不祥事防止という面ではなく、パフォーマンスの向上といいますか、収益性、効率性向上のためのガバナンス構築という面から考えたほうが経営者に対するガバナンスへの関心を高め、ガバナンス改良への動機付けとしては有効ではないかと思われます。ただ、こちらのガバナンスの問題につきましては、単に企業の成長過程によって変容させればよい、といったものではなくて、たとえば間接金融のあり方とか、株主構成、株式持合い制度の風潮、ステークホルダー論など、企業を取り巻く経営環境への対応として変容させるべきものと認識しておりますので、はたして企業の発展段階によって変容させるべきものとのみ、捉えられるものなのかどうか、疑問に思うところがございます。なお、上記対談内容は18日の日経産業新聞で詳しく報じられているそうです。
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