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2007年7月 9日 (月)

ブルドック高裁決定(速報版)

(ちょっと出遅れましたが)ブルドック抗告審決定が出たようであります。スティールが「濫用的買収者」に該当する、とのことだそうで。私はまだ、この毎日新聞ニュースが伝える決定内容と、大杉先生、磯崎先生のブログあたりしか読めておりませんが、ほとんど内容が理解できませんです。

毎日新聞ニュースを読みますと、防衛策導入(発動)が株主平等の原則に反しない理由としては、「濫用的買収者には差別的な取扱いをしても許される」からなのか、「ある程度の財産的損害の補填をしているのだから許される」のか、ほとんど理解不能であります。(おおすぎ先生のブログを拝読すると、前者のようでありますが)ひょっとすると、財産的補填をしたことは、防衛策の相当性判断のなかでの事由にすぎないのかもしれません。

もうひとつ、素直にこんな疑問が出てこないのでしょうか?(もし、スティールへの財産的補填、という事実が平等原則とはあまり関係ない、とするならば)おそらく今回の「濫用的買収者」という概念は、「グリーンメイラーを含む濫用的買収者」といった概念だと思うのですが、それだったらライブドア事件の際の高裁決定や、このたびの東京地裁決定でも出てくるように「緊急避難的な措置が可能な事例」であって、そもそも株主総会にかけずとも、取締役会決議で発動しても適法(オッケー)だった、ということになるんじゃないでしょうか?

そもそも株主総会で特別決議にかけて、株主総会が買収防衛策を発動したことと、実体法のどこにも出てこない「濫用的買収者」という概念がどこでどう結びつくのでしょうか?もし株主総会主体の対抗措置発動が、「必要性」のところで「濫用的買収者」と結びつき、「特別決議」が「相当性」のところで結びつくのであれば、あのライブドア事件や東京地裁決定の濫用的買収者排斥の論理は修正された、とみるべきなのでしょうか?

そして、この論理からいきますと、防衛策というものが発動されるのは、「濫用的買収者」という「TOBのふるいにかけることにふさわしくない買収者」を排斥するにすぎないわけで、そうであるならば、(買収防衛ルールのあり方としては)買収者側の情報だけを取締役もしくは株主に開示するシステムだけがあれば足りることになり、双方の企業価値向上に向けての計画等を株主に開示する必要はない、ということでしょうか?それとも、「濫用的買収者ではないけれども、TOBのふるいにかけてはいけない買収者」といった概念があって(「濫用的買収者プラスα)、そのプラスαの買収者を排斥するために企業価値比較のための情報開示が行われるのでしょうか?(ちなみに、2005年5月27日の経済産業省・法務省による「買収防衛策の指針」では、その原則として「買収防衛策の導入、発動および廃止は、企業価値、ひいては株主共同利益を確保し、または向上させる目的をもって行うべきである」と明記されております)会社側の役員としては、素直にこのような疑問が出てもおかしくないと思うのでありますが。(また決定全文を読んだ後に、意見が変わる可能性もありますが、ともかく現時点では、上記のような印象しか出てきませんです。)

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コメント

私はなぜスティールが乱用的買収者に該当するのかが新聞TVの報道だけですので理解不能です。
ユシロ化学工業では、いまだに株主として存在しますし、企業はスティールが株主になってから、格段に企業価値・株式価値が向上しています。企業もまたコーポレートガバナンスに目覚め、株主と対話を重視するようになりました。
唯一、明星食品の事例が該当するのでしょうが、より高値をつけた買収者に白旗を上げただけといえないでしょうか?

先般のライブドアVSフジTV の判決の「食い物にする」とう解釈は、個人的には、濫用は従業員や工場資産の売却をもって保身を図るブルソス役員自身がぴったり当てはまる気がしてなりません。

敵対的とはいえ、投資ファンドを全体的に否定する判決だったら、経済音痴の法律オタクな一部の方に、株式市場をゆがめられてほしくないです。

濫用的買収の実績があやふやなうちにスティールを濫用的と決め付けているように感じ入りました。
利益を得るための投資家が経営をする資格がないというのと株式の自由譲渡性という会社法の理念的なものがどうなったのでしょう?
Toshiさんのおっしゃる様、怪しげな投資ファンドがTOBをかけたら、取締役会決議のみで新株予約権を乱発できるような解釈だとすれば、大変なことになってしまいますね。

あくまで法律の専門家でなく、一回のサラリーマンコンサルタントの感想です。しかし、裁判長に記者会見ぐらいする義務があるような気がします。一部の法律家にしか筋道がわからない判決であれば、法律のために法律を作っているような感じがして、一般人が法律から遠のいてしまいそうです。雑感です。

投稿: katsu | 2007年7月10日 (火) 00時58分

おはようございます。
ずいぶんとへんな決定が出ちゃったという感想です。
toshiさんの言われるように、学者や専門家の方々でさえ、今後の防衛策のあり方がわからなくなった(葉玉さんのブログでも)のではないでしょうか。誰が防衛枠を発動すべきか、といったことすらわからないようですね。
これではなんのための司法判断だったんでしょうか。

投稿: unknown | 2007年7月10日 (火) 09時41分

ご無沙汰しております。
決定全文読みましたが、私も山口先生と同じ疑問を抱いております。
濫用的買収者という概念を用いている分、決定の理屈自体は理解しやすいですし、結論に至る筋道はかなり地裁決定よりもはっきりとしているものと思います。
ただ、各企業のリーガルリスクがこの決定で低くなったかといえば、そうではないと思います。ご指摘のとおり「濫用的買収者」とそうでない買収者をどうやって、誰が区分けするのか、といったことはまったくわかりませんし、また「そうでない買収者」に対して果たして防衛策を発動していいのか、そもそも「そうでない買収者」と「TOBで株主の意思を問うべき買収者」(ひょっとすると、株主に・・・といういいまわし自体も問題になってしまうのかもしれませんが)の区分けが果たして可能なのか・・・といった問題など、予想もつかないような状況にあるのが現実だと思います。

投稿: sara.onji | 2007年7月10日 (火) 10時02分

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