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2007年7月10日 (火)

企業の不祥事体質と取締役の責任

(追記:一部訂正がございます)

昨年のいまごろは、ダスキン代表訴訟高裁判決が出されまして、不祥事を公表しなかった取締役や監査役の責任が認められたことで、コンプライアンス経営やクライシスマネジメントに関する議論がさかんに行われたところであります。ある程度、ダスキン事件の話題も出尽くしたかなぁ・・・と勝手に考えていたところ、6月25日の旬刊商事法務におきまして京都大学の北村教授が「違法行為の隠蔽による信用の失墜と取締役の責任」という論文を出しておられ、これを読ませていただきましたが、また新たな論点について突っ込んだ議論がなされておりまして、たいへん刺激的であります。

内容的には過失相殺や損益相殺、割合的因果関係論など、法曹でなければちょっとわかりにくい論点ではありますが、あえてデフォルメして問題点を提示いたしますと、高裁の判断では、実際に食品衛生法違反の事実を「口止め料を払って隠蔽」した取締役2名については、50億円といった賠償責任が認められているが、そういった事実を知りながら公表措置をとらなかった取締役、監査役らに対しては2億円の範囲で賠償責任(全員で連帯債務)が認められている。しかし、これは公平の観点からみておかしくはないか、というものであります。(北村教授の解説部分は以上)

こういった意見から、私自身の推測ではありますが、そもそも担当取締役らが口止め料を払った事実を知っていながら、公表措置をとろうとしなかった取締役、監査役が大半であったのだから、そういった企業はそもそも不祥事隠蔽体質にあり、そのような体質のなかで「口止め料」を払った取締役らは、(たまたま担当者という立場であったために、自身が実行したにすぎず)その口止め料の支払いによって、長期間にわたってダスキン社が営業利益を上げていた以上、(企業自身が口止め料効果によって恩恵を受けていたのであるから)他の取締役、監査役らも「隠蔽を実行した責任を負担すべきではないか」・・・といったところも検討されるべき論点になりそうであります。

私自身、昨年にダスキン高裁判決を検討していたころには、こういった取締役間の責任の公平な負担・・・といった視点にはまったく気がつきませんでした。しかし、よく考えてみますと、北村教授がおっしゃるように、不祥事とはまったく無縁な企業体質と、なにか不祥事があったら隠蔽するのがあたりまえ・・といった悪質な不祥事を生む体質の企業環境とを区別せずに、そこで発生した不祥事への対応について、その隠蔽の実行者だけが極端に大きな賠償責任を負担して、それ以外の取締役は現実的な範囲での責任を負担させる、というのも、なんかおかしいような気もします。その実行者と隠蔽に賛成した者との間において、モラル的な差がそれほど大きなものではない場合が多いでしょうし、また「責任者としての地位」からすれば、企業不祥事を生む企業環境のもとにおいては、会社を守るために「隠蔽工作」に手を染めることにブレーキをかける期待可能性が乏しい場合もあるかもしれません。蛇の目ミシン事件の高裁判決ではありませんが、取締役らが違法行為を犯すことについて善管注意義務違反の事実はあるものの、期待可能性がないために責任を問えない、といった判例もあるわけですから、責任はあるにせよ、その責任の範囲を企業体質を考慮しながら、合理的な範囲に限定しようと考えられるのも、それなりに説得力があるのではないかと思われます。

ただ、もし隠蔽を実行した取締役らの責任が限定されるとすると、「損害の公平な負担」といった見地から、他の取締役らの責任が加重されることになるのかもしれません。そしてその責任が加重される根拠としましては、企業不祥事体質の解消、つまり内部統制システムの構築義務あたりに論点が移ってくるのかもしれません。つまり今度は企業自身の体質が問題視されるわけでして、そこでは内部統制システムの構築に向けて、取締役らがどのように努力していたのか、といったあたりが議論の対象となるのかもしれません。もちろん、「不祥事を発生させやすい企業体質」など、すぐに立証できるものとも思えませんし、また取締役の監視義務違反、といったあたりで公平を図ることもできるのかもしれませんが、ガバナンス体制を見直して、積極的に違法行為の防止のために努力している企業へのインセンティブを考えますと、場当たり的な監視義務違反の問題と考えるよりも、全社的な体制整備の一貫としての「企業体質」を捉えるほうが妥当ではないか、と考えております。

(追記)unknownさんより、北村教授の解説の趣旨が少し間違って紹介されているのではないか、とのご指摘を受けました。たしかに、再度論文を読み直したところ(たとえデフォルメしたものであっても)私の引用に不適切なところがございましたので、一部訂正いたしました。たいへん失礼いたしました。

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コメント

旬刊商事法務を一読いたしましたが、北村教授は、直接関わりのあったY1の賠償額に疑問を呈しておられるのであって、先生の「他の取締役・監査役と同じムジナ云々」と違うニュアンスに感じるのですが・・・

投稿: unknown | 2007年7月10日 (火) 11時27分

ちょっと話がずれてしまいますが、松岡大臣に続いて赤城農水大臣の架空請求・・・金融庁から憶測的な情報漏れ(緩和の話)・・・極めつけは年金問題!全く内部統制が取れていませんよねえ!企業よりも先に政治家、官庁の方に内部統制の制度を導入して欲しいです。それで、どのくらい大変か思い知ってから、企業に導入するのが筋ってものではないでしょうか?国民の信頼の無さは、企業よりも官庁や政治家だというのは、明白でしょう!それこそ税金なんて、大きな投資はしたくありません。税金払うなら、JALの株買った方が安全だと思います。同じ破綻経営の株式会社日本国の株なんていりません。JALはワンワールドで世界の仲間入りできたけど、日本は、いつまでたっても浮いた存在!参院選とかいう前に税金返せ!それこそ、情報開示、透明性確保をお願いしたいと思ってしまった!
すいません!内部統制の実務でのストレスでついつい馬鹿なことを書いてしまいました。評価範囲が決まらない!ウチは事業所で切り分けたいのだけれど、実際に業務自体がどの事業所も一緒なので、監査法人は、事業所ではなく、勘定科目で切り分けたいとのことで、意見がまとまらないのです。ああ面倒だ!

投稿: 竹村 | 2007年7月10日 (火) 12時27分

どうもご指摘ありがとうございました。人の論文を引用したり、趣旨を紹介することの難しさを痛感いたしました。たしかに、自分のイメージが先行してしまったようでした。今後は注意してエントリーにアップしたいと思っております。

>竹村さん
特定団体や特定個人への誹謗中傷にあたらないかぎり、ストレス発散のコメントはまったくフリーですので、ご遠慮なく(^^; こちらこそ、いつもなかなかうまくコメントにからめずに(?)申し訳ありません。ツボにはまった場合には、うまく切り返しますので、どうか穏便に(笑)

投稿: toshi | 2007年7月11日 (水) 01時20分

どうもありがとうございます。
では、最後に一言「領収書とかの情報開示もしないって、それはないだろ!ミートホープの偽装なみに悪質だな!でも、政治家だから、OKになるんだろうな・・・今から、参院選で、どこに投票するか迷っちゃうなあ!自民はないな!

投稿: 竹村 | 2007年7月11日 (水) 08時48分

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