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2007年8月31日 (金)

ブルドックにみる次世代買収防衛策

自宅に戻ってパソコンを閲覧しておりましたところ、やはり各新聞社とも、ネット版で「ブルドック事前警告型の買収防衛策を導入」と報道されていますね。法廷闘争の渦中にあったブルドック社が、TOB手続き終了後に導入する買収防衛策ということですので(平時導入であることはリリースのなかにも記載されております)、今後の各上場企業における防衛策導入や見直しにおけるモデルケースになるのではないかと期待されている方面も多いのではないでしょうか。例のごとく、私のような者はスキームの良し悪しについて批評するだけの力量もなく、またその立場にもございませんので、一般上場企業の社外役員や独立委員会の委員としての立場から、企業のリスクマネジメントの一貫として、こういった防衛策をどうみるか・・・といった視点で感想を述べたいと思います。

なお、すでに他のエントリーで書かせていただきましたように、こういった防衛策に関する感想を述べるにあたりましては、多面的からの評価が可能かと思われます。裁判に負けないスキームかどうか、東証規則や議決権行使助言会社における基準などのような株主からの評価基準に適合しているかどうか(株価にどのように影響するか)、有事において株主への利益供与のおそれやインサイダー取引等、違法リスクが少ないかどうか(取締役の責任問題)、税務面において企業や一般株主に過大な負担をかけないものか等、どの観点からみても、企業に重大なリスクが発生する可能性が高いものばかりであります。どういった観点からも、たくさんの感想が出てきそうですし、今後も「買収防衛策の見直し論議」のなかで、このブルドック社の次世代買収防衛策が検討されるものと思いますが、本日はブルドック・スティール事件の最高裁決定との整合性についてのみ考えてみます。

あの最高裁決定が出てからも、やはり防衛策の最大の関心事は、防衛策発動の時点で株主総会の決議を要するのかどうか、かりに必要だとして、普通決議でいいのか、特別決議まで必要なのか、(これ以前に定足数などの問題もあろうかと思いますが)といったところではないかと思いますが、このブルドックの防衛策では、原則として取締役会決議で発動可能、例外として必要があれば株主からの書面表明を求めることができるし、場合によっては株主総会で発動の是非を問うこともできる(なお決議が普通決議なのか、特別決議を求めるのかは不明)といった方針が定められております。先日の最高裁決定では、株主、投資家、買収者いずれにおいても予見可能性を高めることができることから、あらかじめ対応策を定めておく場合には、緊急で防衛策を定めて発動する場合よりも、防衛策発動が「著しく不公正」とはいえないケースが多いのではないか・・・といったニュアンスの記述がありますので、その記述との整合性からしますと、事前警告型の防衛策が導入されている場合には、かならずしも株主総会において発動の是非を問わずとも(また、買付希望株主への経済的損失を補填せずとも?)防衛策発動が著しく不公正とはいえない・・・といった筋道になるのかもしれません。また、発動の要件を柔軟に定めておくことは、投資会社による大量取得行為の場合と、今後予想される国内外の同業事業会社による取得行為とにおいて、その対応を異にすることで「公正性」の要件該当性を確保する狙いがあるのかもしれません。また、独立委員会の存在も、こういった対応の柔軟性に合わせて、公正な手続きを経ていることの一事由と捉えられているものと思われます。

いっぽう、株主平等原則からみた防衛策発動の正当性についてはどうなんでしょうか。ここは最高裁決定におきましても、基本的には差別行使条件つきの新株予約権の無償割当ては株主平等の原則と大きな関連性があるので、特定の株主による経営支配が、株主共同の利益を毀損するような場合にかぎり、最終的には株主の判断において発動が正当化される、とあります。防衛策導入についてはもちろん最高裁決定は何も判断はされていないと思うのですが、この発動場面におきましては、株主自身が判断する場合のみ正当性があると読めますし、このあたりは今後の事前警告型の防衛策ではどう考えるべきなのでしょうか。相当性の要件につきましても、抗告人関係者が意見を述べる機会のあった総会での議論をへてもなお、ほとんどの株主が発動に賛成した点を理由に掲げているので、このあたりが相当に「株主総会必要説」の根拠になりうるところではないでしょうか。

なおブルドックの買収防衛策においては、このあたり、たとえ取締役会で発動決議を行ったとしても、先日変更された定款19条1項により、差別行使条件付の新株予約権無償割当てに関する事項を取締役会決議で行えることが承認されているのだから、取締役会決議は株主総会における意思によるものと擬制できる・・・といった根拠を示しておられるようです。しかしながら、株主共同利益を毀損したものかどうかを総会で決議したうえで、その詳細は取締役会に委ねるという定款の内容と、そもそも株主共同利益を毀損しているかどうかの判断を取締役会に委ねるのとは大きな違いがあると思いますし、はたして定款19条1項を、取締役会決議で発動できる根拠とするには論理の飛躍があるのではないかといった疑問が出そうであります。また、こういった説明からですと、取締役会で株主総会決議を必要と判断した場合に、普通決議で足りるのか、特別決議を要するのかといった判断基準の説明もできないですし、さらに発動に関する問題について、そもそも現時点における株主が、将来の発動場面における取締役会の行動を拘束できるものなのでしょうか?現時点における株主が将来の株主のあり方について、なにゆえ拘束できるのか、その根拠は私にはよくわかりません。いずれにしましても、最高裁決定の流れと、取締役会決議のみで新株予約権の無償割当てによる防衛策発動が正当化されることとの整合性が、このブルドック防衛策を読ませていただいても、明確に理解できないところがあるように思います。

まだまだ、ほかにも不公正な方法とはいえないスキームであると評価されるための「大量買付情報リストの内容の特定」とか、「取締役会が株主共同利益を著しく毀損すると判断するための類型の特定」に工夫が凝らされていることや、公正性を担保すべき独立委員会がそういった取締役会の判断類型に拘束されるのか、そもそも独立委員会は発動要件の選択などについても勧告できるのか、買収者側から最初に事前交渉ルールの決め方に関する質問を投げかけてよいのか(それは無視してよいのか)・・・など、たくさんのたいへん興味深い論点がありますが、ちょっと明日のIPO研究会の用意などもありますので、きょうはこのあたりで「つづく」とさせていただきます。

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2007年8月30日 (木)

(速報版)ブルドックソース、買収防衛策導入

企業情報をみておりましたらブルドックソースからの開示情報がありました。(午後4時)

当社の株券等の大規模買付け行為に関する対応方針(買収防衛策)について

ムム!?

なかなか興味深い内容です。

おそらく、これからいろいろなところで話題になるんじゃないでしょうか。。。

とりいそぎ、業務中ですので、速報版ということで失礼いたします。

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弁護士人材紹介と弁護士法72条(その2)

昨日の「弁護士の人材紹介と弁護士法72条」のエントリーについて、m.nさんよりコメントをいただきました。

あくまでも弁護士資格を持った方を斡旋するだけで、特定の法律事件等に関してのみ紹介するといったことでなければいいのかもしれませんね。つまり、派遣元の会社は弁護士資格をもった人材を派遣する。そしてその後に法律事件が発生し、弁護士資格をもった人がいるからということで法律事件に関与させるのは派遣先の会社の勝手ということかもしれません。

弁護士法72条の解釈として「事件性必要説」に立脚するものですね。つまり、72条により弁護士の紹介行為として禁止されているのは「事件性のある(争訟性のある)法律事務」を行う場合のみを指すのであって、事件性の存在しない法律事務については紹介行為(周旋行為)は72条違反にはならない・・・といった解釈を前提とするということでしょうか。これは法律事務を弁護士資格を保有する者が独占するにあたり、隣接他業種の方々の法律事務をどこまで認めるか・・・といった場合にも問題となる論点であります。しかし、特定の法律事務に関してのみ紹介するものではないとしても、派遣先では事件性のある法律事務を扱うことを予想しながら(つまり、事件性のある法律事務にはつかないことを誓約することなく)弁護士を紹介(派遣)することについては、そもそも紹介時点において潜在的には事件性のある法律事務を(業務として)周旋していることにはならないでしょうかね?弁護士の人材紹介を欲する派遣先企業としては、そもそも弁護士資格者のリーガルマインドに期待をして採用するのではなく、(コンプライアンス経営への期待に応える、とありますが、そこまで日本の企業が弁護士に対して寛容だとは思えないのであります)やはり「何かあったときに、すぐに事件に対応できる資格」に期待をしているからこそ、要望があるんじゃないでしょうか。そうしますと、やはり派遣先では「事件性」を有する法律事務への対処を(弁護士が)求められることになるはずでありますから、そういった業務に就任する弁護士の履歴書を登録した段階で、派遣元企業としては事件性のある法律事務を業務として周旋する者・・・とみなされてしまうような気もいたします。

こういった弁護士人材派遣に関する企業の要請としては、おそらく知的財産権の管理に関する需要に由来しているのではないでしょうか。たとえば企業グループにおいて、子会社および子会社従業員が保有する知的財産権を、親会社が一元管理しておきたい場合とか、信託法の改正によって活用が期待されている知的財産権信託制度を利用したい場合などにおきまして、親会社による管理行為、知財信託における受託者などにみられるように、権利売買や権利保全管理行為など、一般に法律事務と称される業務において弁護士資格保有者を活用せざるをえない状況にあると思います。そして、そういった知的財産権や信託に強いスペシャリストを紹介したり派遣することへの企業社会からの要請はかなり高いものがあろうかと思われます。「企業における法令遵守(コンプライアンス)への意識が高まっている」ことも事実だとは思いますが、だからといって、(私が申し上げるのもちょっとヘンなのですが)直ちに弁護士資格を保有している者が、企業のコンプライアンス経営に有用性を発揮できる・・・と考えるのは、すこし短絡的のような気もいたしますが、どうでしょうか。

また、弁護士の側からみますと、もしこういった紹介(周旋)制度が弁護士法72条に抵触するおそれがあるとなりますと、違法な周旋行為によって紹介を受けた弁護士として、弁護士法27条により問題とされる「非弁提携弁護士」になってしまう可能性が残りますよね。こういった周旋行為が明白に弁護士法72条に抵触しない、といった「お墨付き」がないと、27条違反のリスクを背負ってまで、こういった紹介制度に登録しようといった気持ちにはなかなかなれないように思います。(ちなみに、私はけっしてこのご商売を批判しているものではなく、むしろ積極的に派遣や紹介を行っていただきたいと願うほうであります。ただ、登録する側の弁護士にとって、安心して登録できるようなスタイルにしていただく必要があるのではないか・・・と思う次第であります)私自身、もはや18年ほど、「弁護士会」のなかにどっぷりと浸っておりますので、頭の中にカビが生えてしまうほど、弁護士会的発想から脱却できないのかもしれませんが、この弁護士法72条、27条問題につきましては、弁護士会的な解釈はコンサバでありますし、世間での通用力もあると思いますので、(制度自身につきましてはおおいに共感できるところがあるものの)、人材紹介制度のあり方について、もうすこし適法性を明確に説明していただければ・・・と思うのであります。

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2007年8月29日 (水)

弁護士人材紹介と弁護士法72条

日経ニュースで知りましたが、東京に本社のある某上場企業さんが、弁護士人材紹介に特化した新会社を設立されるそうであります。(ニュースはこちら)私個人の意見としましては、2年ほど前に「弁護士も派遣さんになる日がくる?」のエントリーで述べましたように、これだけ切実な法曹人口急増時代が到来し、また弁護士自身のライフスタイルも多様化していることからみて、パートタイム弁護士とか、弁護士派遣センターのようなものがあってもいいのではないか・・・と思っておりました。(今でもそう思っております。あくまでも私個人の見解でありますが・・・)

ところで、上記の上場企業さんのHPを閲覧いたしましたが、弁護士人材紹介と弁護士法72条との関係については問題はないのでしょうか?ちなみに弁護士法72条といいますのは・・・

第72条 (非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 

というものであります。「弁護士人材紹介制度と弁護士法72条との問題」といいますのは、法律事務を取り扱う弁護士の周旋行為を弁護士でない者が、報酬を得る目的で業務として行ってはいけない、といったところでありますが、本件のように新会社の業務として弁護士を紹介することはこの「周旋行為」に引っかからないのか?という問題であります。さらに、弁護士紹介制度の場合には、紹介先と派遣先とのトラブルが発生した場合、弁護士はどちらの指示に従えばいいのか、その指揮命令関係が不明確となり、弁護士としての職務の公正独立性が阻害される・・・といった職務の独立性の観点からも問題視されているようであります。(楽天のサムライ業紹介制度のなかに、唯一弁護士紹介制度が存在しなかった理由はこのあたりにあります)おそらく先の上場企業さんの場合、弁護士法72条の解釈から、この新会社の業務は法律に触れるものではない・・・といった結論を導いていらっしゃるとは思うのですが、「コンプライアンス経営推進のための弁護士紹介」を標榜する以上は、こういった不審感を拭うためにも、なにゆえ当社の弁護士人材紹介制度が弁護士法72条に抵触するものではないのか、その明確な説明をどこかに掲載する必要があるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

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2007年8月28日 (火)

IT統制とメール管理(その3)

「あっ!、この本おもしろそう~♪」と思って衝動買いしましたのが「株式会社はどこへいくのか」(日本経済新聞出版社)。上村教授と金児昭氏との「掛け合い」を一冊の本にまとめたものであります。金児氏の「財務会計」モノはほとんど拝読させていただいておりますので、今回も新会社法に関する金児氏のご意見に興味を抱いておりましたところ、お読みいただいた方はおわかりのとおり、そのほとんどが上村教授のご意見で占められておりまして、それはそれでたいへん読みゴタエのある本であります。(ただし、まだ半分ほどしか読み終えておりませんので、前半部分までの感想であります。しかしここまで上村教授がご自身の意見を述べられるのも、ある意味でスゴイなぁ・・・と。(^^;; )またどこかのブログで、この本に関するご意見などが開陳されることを期待しております。。。

さて、以前「IT統制とメール管理」というシリーズをエントリーしまして、かなり多方面の方々よりご意見を頂戴いたしました。当時は「財務報告に係る内部統制報告制度におけるIT統制にはメールの管理は重要な要点となるのか」といった問題の立て方だったと思うのでありますが、少し趣旨は異なりますが、本日(8月27日)日経朝刊の「法務インサイド」にて「メール消去は命取り?」といった企業におけるメール管理に関係する話題が採り上げられておりました。基本的には米国民事訴訟法上のディスカバリー制度(2006年12月から施行されているE-ディスカバリー規則)の紹介と、日本企業としての対応方法に焦点をあてたものですので、海外子会社のある企業や、海外親会社の日本法人を対象としたものであります。したがいまして、日本の全ての事業会社向けのメール管理ということではありませんが、E-ディスカバリー規則には「善意による電子保存情報紛失に関する制裁条項の適用制限」がありますので、会社の正当な理由によってメールを消去した場合には、民事上、刑事上の制裁を受けない、といったことが規則化されました。こういった規則内容から、企業としては電子保存情報管理規則を速やかに作成して、これを施行することが勧められております。そして、そのひとつの具体例として、企業としてはメールは3ヶ月ごとにサーバーから消去すること・・・といった規則を作り、すみやかにデータ消去をはかるべきことが述べられております。(なお、Eディスカバリー規則に関する内容は、雑誌「ビジネス法務」の10月号より連載されておりますので、詳しくお知りになりたい方はそちらをご参考にされてはいかがでしょうか)

以前「IT統制とメール管理」をエントリーしたときに、知り合いのSEさんにお聞きしたところ、社内メールを長期間にわたって保存するということは「非現実的」とのことで、「もし、本気で数年分の社内メールを(メール内容まで特定できる形で)保存したいのであれば、おそらく何億もの費用を要するでしょう」とのことでありました。記録用テープが大量に必要ですし、どこに何が書いてあるのか(あるいはどんな添付ファイルが存在するのか)、特定するのであればそのための人員も確保しなければならない、ということであります。私自身としては、企業内で発生した不祥事の事実認定の有力な証拠になることや、外部からの捜査等への協力体制としては最低限度、メールの管理は不可欠であって、内部統制報告制度の一貫としても重要なIT統制の一部ではないか・・・とも思ったのでありますが、どうも「費用対効果」といった面からしますと、かなり「非現実的」な考え方だったのかもしれません。

しかし、法律上保存義務が課せられている文書や電子保存情報は別として、一般の事業会社としては「電子保存情報は3ヶ月程度でサーバーから消去する」といった情報管理規定は、米国民事訴訟法対応といった特別の理由でもないかぎりは、ちょっと保存期間としては短すぎるのではないでしょうか。メール自体、内部統制の評価の場面においては「情報と伝達」といった構成要素をなしているものでしょうし、また統制システムの運用状況を内部監査人がチェックしていること自体を「文書化」したものとして、事業年度の期末日までは確保されるべきものでしょうから、最低限度1年間は保存すべきものだと思われます。もちろん、メールの種別を区別して、内部統制システムの評価に関わるものとか、経営者不正の証拠となりうるような情報伝達に関わるものなどを別途保存する、といった運用も考えられるかもしれませんが、その区別自体に多額の費用を要するようにも思いますので、一括してメールを保存しておくほうが現実的ではないでしょうか。会社法上の内部統制システムの構築ということになりますと、経営判断の原則が妥当するところではありますが、取締役や従業員の職務の適正を確保するための体制ということには、その職務の適正を担保するものとして、意思伝達の記録化も重要な要素であろうと思われます。そうであるならば、メール管理に関する一般原則を議論したうえで、個別に除外すべき合理的な理由を検討していくほうが妥当ではないかと思います。(システム監査などに携わっていらっしゃる方へお聞きしたいのでありますが、実際1年分のメールを管理する・・・ということも、やはり多額のシステム費用を要することなのでしょうかね?またお時間のあるときにでも、メールかコメントにてチョロっとお教えいただけますと助かります)

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2007年8月27日 (月)

女子7種競技の果たす役割

自宅近くで開催される世界陸上ということで、昨日(8月26日)のイヴニング・セクションを家族みんなで観戦して参りました。気分だけは夫婦そろって「織田裕二と中井美穂」になれました。(途中からは天覧競技会になりました。)最後の100メートル決勝が終わったのが午後10時25分で、たいへんな警備のなかスタジアムを退場できたのが午後11時10分、いやいや暑い中観戦するほうも厳しい状況でした。

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                                                     左の写真は ご存知、100メートル男子決勝で「世界最速」の男になったタイソン・ゲイのウイニングランであります。サービス精神旺盛で、スタジアムをポーズをとりながら一周していました。やっぱり、短距離競技というのは陸上の花形ですよね。満員のスタジアムがスタート前には静まりかえり、終われば拍手喝さいです。朝原選手も準決勝で敗れはしましたが、地元(大阪ガス)でこれだけの応援のなかで走ることができて、気持ちとしては最高だったのではないでしょうか。私的にはイシンバエワ(ロシア)の棒高跳びを楽しみにしていたのですが、跳躍競技というのは「決勝」を観戦しないと期待はずれに終わってしまいますね。(笑)2時間の競技のなかで、わずか5分ほど登場して、決勝標準(4m55)をヒョイっと1回軽く越えて帰ってしまいました。

ところで、あのタイソン・ゲイのウイニングランでさえ、長居スタジアムにはスタンディングオベーションが起こらなかったのですが、唯一、会場全体が立ち上がって拍手喝さいとなったのが女子7種競技のフィナーレでした。

Dscn0697_400 この競技をされていらっしゃった方がおられたら失礼にあたるかもしれませんが、こういった世界大会における7種競技の役割というものは貴重であります。

2日間で7種の競技に24人の参加選手が挑むわけでありますが、特別になにかの種目に秀でた選手が出るわけではありません。しかし注目競技の間に、この競技が粛々と執り行われるために、観衆が観戦するのを飽きさせないのであります。どの種目をやるときにも、参加選手のみなさんがたいへん愛想良くスタンドに反応されます。最終競技となる800メートルが終了すると、ヘロヘロになりながらも、みんなでそれぞれのがんばりを称えあい、最後には写真のように参加24人全員で手をつないでスタジアムを一周します。(中田選手も日の丸を掲げて一周していました)大阪人にも、この女子競技の素晴らしさに感動した人が多かったようで、ごらんのとおり会場は立ち上がって長い間拍手を送っておりました。ヨーロッパでは人気の高い種目だとは聞いておりますが、おそらく世界陸上におけるこの競技の位置づけのようなものは当然参加選手も理解されているでしょうし、はじめて7種競技を目の当たりにした私には、たいへん感動モノのシーンでありました。

なにかの競技に秀でていなくても、「まんべんなくソコソコできる」こと自体が「秀でたこと」であって、注目はされないけれども、自らの立場をわきまえて競技に貢献する、そして最後までライバルと励ましあって、見る人に感動を与える・・・・、うーーん、そういった仕事人になれたらいいですよねぇ。

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ブルドック事件と買収防衛策の見直し

スティールパートナーズのブルドックソース株式へのTOBにつきましては、結果的に2%弱の応募があったのみで、結局のところほとんどの株主がTOBに応じないことで幕を閉じたようであります。(もちろん、今後の展開としては再TOBもあり得るわけですが、とりあえず一段落といえそうです)法律雑誌「ビジネス法務10月号」などでも、「ブルドック事件に学ぶ買収防衛策の運用・見直し」なる特集記事が掲載されており、(この特集記事作成時点では未だ最高裁決定が出されていないようでありますが)もうそろそろ有識者の方々の裁判分析や、各社における買収防衛策見直し気運が高まってくる頃ではないでしょうか。私が独立委員会委員を務める某上場企業におきましても、近々、委員が集まって、今後の独立委員会の位置づけや、運用ガイドラインの改訂等協議することが決まりました。

さて、現実問題としては「見直し」が当面の課題かもしれませんが、私はもっと根本的なところで検討すべき問題があるように思えます。あくまでも結果論ではありますが、今回のブルドック事件の場合、TOBの応募状況をみますと、敵対的買収防衛策発動に関する株主総会における議決権行使状況とかなり近接した結果になっているようでありますから、そもそも買収防衛策を発動することにどれほどの意味があったのか?といった疑問が出てきても不思議はないと思います。わざわざ有事に至って買収防衛策を導入して発動することについてどれほどの有用性があったのでしょうか?TOB成立の阻止へ向けた会社側の情報開示や中期事業計画の説明のみで足りたのではないでしょうか?もし、今回の事件におきまして、ブルドック側が買収防衛策を導入していなければ、結論は変わっていたのでしょうか?たしかに「裁判におけるブルドックの完勝」といった結果を見るならば、買収防衛策を発動することいは十分な意味があるように思えます。しかし、どっちみち、ブルドック側がTOBで株式を集められないのであれば、わざわざ導入するまでもなかったんじゃないの?といった素直な意見には合理的な理由があるように思えます。このあたり、法律論というよりも、(敵対的買収者の出現、つまり事前交渉を実質的にはほとんどされなかったTOBの開始というものは、上場企業における一種の危機管理と捉えることができますので)リスクマネジメントとして「買収者出現時の対応方法」としてどう考えるのか、かなり関心の高いところであります。

買収防衛策導入ではなく、「発動すること」を宣言することで、買収者側がTOBの撤回に動くことが十分期待されるような場面であれば、本件のようにいきなりTOBを仕掛けてくる相手方には有効な危機管理手法のように思えます。詳細は不明でありますが、ブルドック側も当初はスティールのTOB撤回への期待というものもあったのではないでしょうか。しかしながら、現実にはTOBの撤回どころか、発動差止の裁判手続き(仮処分申立)に至ったものであり、またTOBの続行にまで至ったわけであります。買収防衛策が発動されたことで、もし買収者側にかなり大きな経済的損失が「合法的に」発生するのであれば、今回の裁判結果も防衛策導入への大きな意味合いを持つのかもしれませんが、株主平等の原則との関係で「買収者の経済的損失の補填を要する」と解釈されるのが一般であるならば、防衛策発動が現実化しても、買収者側として簡単にTOBを撤回してくる可能性は低くなるのではないでしょうか。そう考えますと、やはり高額の補償金を支払うことも含めまして、防衛策導入の意義といったものをもう一度検討するべきではないかと考えております。なお、その検討のなかには、買収防衛策発動にかかる株主総会を実際に開催したことと、TOBの結果との因果関係の検証も当然のことながら含まれるものと思います。

さて、上記はあくまでも「企業のリスク管理」といった観点からの意見であります。そこでは企業固有のリスク評価やその対応策としての合理性を冷静に見つめる作業が必要になるわけでありますが、「そんな悠長なことを言っている場合ではない。敵対的買収の局面はいわば『ケンカ』である。売られたケンカには負けるわけにはいかない」といった、経済的な側面だけでは説明できない要素が意外に大きいのかもしれません。本来ならまずは事前交渉があってしかるべきなのに、いきなりTOBを仕掛けてきた、とか、(先日の読売朝刊にも記載されておりましたように)スティールの代表者が、初めてブルドックの代表者と面談した際に「私はソースはきらいだ」などと言って相手方の冷静さを失わせるほどの挑発的言動に至ったといった場合、もはやリスク管理ということよりも、ケンカの世界に入ってしまったのかもしれません。まさに伝統企業の「威信」をかけての攻防を望む、ということになりますと、どんな手段を使ってでもケンカに勝つためには・・・という考え方になりますので、買収防衛策発動には十分な意味がある・・・といった方向に向かうのかもしれません。

いずれにしましても、スティールがTOBの最終攻防まで臆することなく経営支配権奪取を目指した行動をとり続けたことで、買収者側、企業側双方にとりまして、買収防衛策の運用を見直すための論点が増えたように思います。

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2007年8月25日 (土)

社外監査役と監査役スタッフとの関係(追補)

一昨日、社外監査役と監査役スタッフとの関係についてエントリーをアップしましたが、unknownさんと監査役サポーターさんよりご意見をいただきました。私なりのお返事をまた書かせていただこうかと思っておりましたところ、あまりにもタイミングよく(?)といいますか、8月24日付けにて、日本監査役協会より「監査役監査委員スタッフの現状と意識調査」なる報告書が公表されております。

社外監査役と監査役スタッフとの関係とか、効率的な監査と監査役スタッフの関係など、具体的な論点に触れているものではありませんが、上場企業における監査役制度の現状を「監査役スタッフ」に焦点をあてて検討するにあたり、有益な資料になるかもしれません。とりいそぎ、本日は備忘録程度での記述とさせていただきます。

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2007年8月24日 (金)

家族を不幸にする「インサイダー取引」

8月22日付けにて、金融庁から「証券取引法等の一部を改正する法律の施行等に伴う関係ガイドライン(案)」がリリースされており、そのなかに『「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令(平成19年内閣府令第62号。以下「内部統制府令」という。)」の取扱いに関する留意事項について(内部統制府令ガイドライン)案』も含まれております。個別にまた検討してみたいと思っておりますが、当面は内部統制府令と併せてお読みいただくのがもっとも理解しやすいのではないかと思います。通常、内閣府令が出されますと、その内容を補足するための「ガイドライン」が出されるわけでありますが、注目されるべきところは、このつぎに「Q&A」が出るのかどうか、出るとして「実施基準」の内容を実例に沿ってわかりやすく解説した指針のようなものになるのかどうか、といったところでしょうか。(一時期、Q&Aのなかで実施基準が緩和されるのでは?・・・といった噂も流れましたよね・・・・・)

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

よく「インサイダー情報は家族にも話してはいけない」と言われますね。本日、私がこの方からお話をお聞きするまでは、「上場企業における重要事実は、それが公表されるまでは、たとえ家族に話すことであっても、自分が情報提供行為者に該当するおそれがある。また新たな犯罪者を生む可能性もある。」ことを戒めるための言い回しだと認識しておりました。家族が共犯関係にたつほどの「共謀」がありましたら上記の認識のとおりかもしれませんが、じつはそういった意味よりも、もっと重大な意味があることが理解できました。そうです、じつは家族に漏らしてしまった途端、何の連鎖もない家族も情報提供行為者としての疑惑の渦中に巻き込まれてしまう可能性が出てしまい、刑事訴追の時効期間が明けるまでの長く苦しいインサイダー取引の被疑者として、取調べの対象になってしまうことになるわけであります。「私は株をしない」「私は何の利益も得ていない」といった抗弁が通用しないところに家族による共犯疑惑のおそろしさが潜んでおります。

たしかに少しばかりインサイダー取引が立件される過程を想像してみますと、十分考えられるところであります。内偵の対象となりますのは会社だけでなく、対象者の自宅の通信記録なども含みます。たとえば私の顧問先企業が倒産の危機に瀕しているとして、妻に「あの会社、来週会社更生法の申請を出すから、3日ほど家には帰れないよ」とうっかり告げたとしましょう。間が悪いことに信用取引を行っている私の友人が、私の不在に自宅へ電話したところ、妻が「なんだか顧問先がたいへんだということで、3日ほど帰らないようです」などと話してしまいますと、私の友人はピンときて、思わず信用売りによって儲けてしまうかもしれません。こういった事案ですと、客観的な証拠からすれば私と妻と友人がグルになってインサイダー取引を行った疑いが濃厚ですよね。実際、こういった事例は空想のものではなく、けっこう存在するわけでありまして、私も友人も、ある程度疑われても耐えられるところがあるかもしれませんが、取調べの対象となってしまう妻はパニックに陥ってしまう可能性が高いと思われます。実際に取り調べによって精神的な疲労を残してしまうケースもあるようです。家族を不幸に導いてしまうがゆえに家族にすらインサイダー情報は話してはいけない・・・、これがもっとも恐ろしいインサイダー取引規制に関する戒めではないかと思います。自分が犯罪者になったり、犯罪者を新たに生む可能性があるからではなく、犯行とはなんら関係のない家族を犯罪疑惑の真っ只中に追い込んでしまうことのおそろしさ・・・、これこそ留意しなければならないところであります。

以前、インサイダー取引規制と内部統制に関するエントリーを書かせていただき、会社情報の機密管理の重要性を申し上げましたが、「家族」とまでは言えないものの、もし重要事実へのアクセス制限が「ゆるゆる」の企業であれば、証券取引等監視委員会による犯則調査や検察庁における刑事事件捜査の対象者(つまり被疑者)は社員のなかに無限大に拡散していきます。身に覚えのない嫌疑をかけられ(そもそも故意が存在しないはず)、犯罪者扱いされる社員としましては、たまったものではありません。そういった一般の社員の方々を不幸に陥れないためにもまた、インサイダー情報の管理については厳格に対応する必要があると思われます。(たしかインサイダー取引防止へ向けての社内での取り組み等につきましては、証券取引等監視委員会などによる派遣セミナーなどを利用することも可能かと思われます)

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2007年8月23日 (木)

社外監査役と監査役スタッフ(補助者)との関係について

昨日、ある企業グループにおける監査役スタッフの方々と懇親を深める機会がございまして、いろいろと有意義な意見交換をさせていただきました。さすがに大きな企業ともなりますと、たいへん優秀なスタッフがそろっておられるようでして、私も一部執筆させていただきました「非常勤社外監査役~その理論と実務~」(2007年 商事法務)あたりも隅々まで読んでいらっしゃるようで、たいへん驚いた次第です。

その懇親会の席で、何人かの監査役スタッフの方より「いままで一度も社外監査役さんとはお話をしたことがない」という報告をお聞きし、たいへん意外に感じました。私が社外監査役を務める企業では、専任のスタッフもいらっしゃいませんので、「社外監査役(ここでは非常勤社外監査役を念頭においております)と監査役補助者(スタッフ)との関係」についてはこれまであまり考えることがなかったのでありますが、監査役スタッフの方々からすれば「なぜ、社外監査役の方は、監査役スタッフに対して、こうしてほしい、とか要望を出されないのでしょうか。社外監査役の方々は、いったい監査役会のあり方をどう考えておられるのか、また監査役としての仕事をどのようになされたいのか、見えてきません」とのご意見。

事務所に戻って上記「非常勤社外・・・」を読み直してみましたが、たしかに「監査役スタッフ」に関する記述が若干あるだけで、全体を通して「社外監査役と監査役補助者との関係」について触れたところはほとんどありません。(おそらく、ほかの監査役マニュアル本の類につきましても、同様ではないでしょうか)たしかに私の「感覚」からしましても、社外監査役は常勤監査役さんとの情報共有をはかることで、常務会や取締役会で問題となっているポイントを把握することで十分であって、わざわざ常勤監査役さんを飛び越えて監査役スタッフの方に「こういったことをしてほしい」と要求する必要はないのではないか・・・といったところがホンネではないかと思います。(必要があれば、法務スタッフや内部監査人との連携をはかるべき・・・といった意見は出てくることもありますが)

しかしながら、よく考えてみますと、会社法施行規則100条3項1号では「監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項を定める」ことが内部統制システム構築のひとつの要点とされておりますが、この「監査役」には独任制である社外監査役も当然含まれるわけですから、「当該会社には、兼任ではなく、専任の監査役補助者が数名必要である」と社外監査役から取締役会に申し出ることができるわけですね。もし、監査役制度に欠陥があって、企業不祥事を防ぎきれなかった、といった事態になれば、こういった申出をしなかった社外監査役の責任は回避されるのでしょうか?つい先日、日経新聞の一面で「監査役の権限強化」が話題となり、会計監査人の報酬決定権と選任権を監査役(監査役会)が保有するような会社法改正が検討されている、といったことをエントリーしておりましたが、単に「監査役」の権限だけを補強するだけで、監査役まわりの体制整備をないがしろにしているのでは、本来会社法や金融商品取引法、公認会計士法等が期待しているような「監査役制度の実現」はおぼつかないようにも思われます。たしかにアメリカの監査委員会制度の運用などをみますと、社外取締役たる監査委員は年に数回、報告を受けるにすぎず、「監査人を監査する」役割だと説かれているようでありますが、それは前提として、監査委員会の活動を補佐するスタッフの充実があるからこそではないでしょうか。

大和銀行事件の判決にもありますとおり、一生懸命前向きに仕事をしている社外監査役ほど、「不祥事に関する予見可能性があった」とされて、株主代表訴訟等による責任追及を受けやすい、といったことでありましたら、「わざわざなぜ(予見可能性を高めるために)社外監査役が監査役スタッフと連携しなければならないのか」といった素朴な疑問も湧いてくるところではありますが、もはやこれだけ内部統制システムの整備が叫ばれる時代となった今、そういった議論は過去の遺物になりつつあるのではないでしょうか。社内における監査環境の整備につきましては、常勤さんも社外監査役も同じように考えなければならない時代であり、内部統制システムの整備に関する取締役らの意思決定や執行行為の相当性監査にあたっては、きちんと考えますと、常勤監査役おひとり(もしくはおふたり)くらいで評価することは困難であります。(本当に監査役だけで検証できるかどうか、日本監査役協会が先日リリースされました財務報告に係る内部統制監査基準の内容をご確認いただければと思います)常勤監査役の方が、予算や人事の関係から代表取締役に対して積極的な監査環境の整備を訴えることができない場合には、むしろ社外監査役から申し出る必要があるかもしれませんし、またそもそも常勤監査役さんのほうで、「そういった必要はない」と感じておられるのであれば、その常勤監査役の方の抱いておられる「監査役スタッフは何をするのか」といったイメージと、「会社法で求められている監査役の職責は何か」といったイメージを、再度監査役会で確認すべきではないかと思います。とりわけグループ企業において子会社調査権を行使すべき立場にある監査役の場合には、今後企業社会の常識として、監査役への期待が高まるにつれて、監査役スタッフの養成が不可欠であることは間違いないでしょう。

監査役スタッフの人事評価や処遇問題についてもしかりであります。本来的には監査役スタッフ(補助使用人)制度が出来上がった場合、常勤監査役さんこそ、監査役スタッフの人事問題を整理して、その監査独立性を保持する責任があろうかと思いますが、監査役に就任された方の「会社上の立場」を現実に考えた場合、そこまでなかなか取締役会へ進言することは期待できないように思われます。そういったケースでは、社外監査役こそ、補助者の職務上の地位を確保できるような努力をすべきであり、そういった努力の積み重ねによって、本当の監査役制度が生まれてくるのではないかと考えております。とりあえずは、まずなんといいましても、社外監査役自身が、監査役スタッフの本来的業務の内容を知り、そこからどういった関係を築くべきか、真摯に検討すべきであります。したがいまして、冒頭ご紹介したような「社外監査役とはしゃべったことがない」といった事態こそ、回避すべきだと思います。

ご承知のとおり、東証も大証も規則を改正することにより、今後は上場企業全般において監査役会制度を要求する、つまり監査役は3名以上で、かつ半数以上は社外監査役で占められることが上場企業にとっては必須の条件となりますので、このあたりで「社外監査役と監査役スタッフとの関係」につきましても、監査役制度の充実のための真剣な議論があってもいいのではないでしょうか。あまり社外監査役に厳しいことを申し上げますと、「なり手」が減少するのではないか、といった懸念事項もありますが、社内の管理部門に予算を配分することができるのは、やはり社外監査役の職責であり、監査環境整備へ向けてのきちんとした意見をお持ちの方こそ、たくさんの企業にて就任していただきたいと思いますね。

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2007年8月21日 (火)

企業情報開示の「遅れ」と「訂正」

(21日午前 追記あります)

今週号の経営財務(2832号)に掲載されている「内部統制報告の留意点(下)」(前金融庁企業開示課長さん)はなかなか面白いですね。前号の「留意点(上)」は、なんとなくこれまでの「実施基準」や内閣府令をもとにした議論の復習といったイメージでしたので、(たいへん失礼ながら)あまり期待もせずに読み始めたのでありますが、「内部統制報告制度にまつわる数々の誤解シリーズ」のようなものになっておりまして、金融庁があれだけ嫌っておられた呼称である「日本版SOX法」(J-SOX)の定義のようなものまで解釈がなされており(注 もちろん意見にわたる部分は筆者の方の個人的意見だとは思いますが)、実務的に役立つかどうかは別として、購学的には面白い箇所が散見されます。

さて、そういった「誤解を正す」シリーズのなかにおきまして、「内部統制報告制度がスタートすると決算発表の時期が遅れるのではないか」といった噂に対するご意見が述べられておりますが、内部統制報告制度自体にかかわらず、会計基準も公表されております四半期報告制度が導入された場合、上場企業のなかには報告書提出の遅れとか、報告数値の訂正の問題というのが今以上に頻繁に発生するのではないでしょうか。「連結」が基本となりますので、本体企業の経理部門が厳格に運営していても、子会社のほうでうっかりミスなどが発生してしまいますと、そういったリスクというのが顕在化する可能性は高いのではないでしょうか。このあたり、私は会計の専門家ではございませんので、素人的発想ではありますが、四半期報告書の提出遅延とか度重なる数値訂正などが発生した場合、これは内部統制における「重要な欠陥」に該当することになるんでしょうか?どういった言い訳があるにせよ、本来法律に基づいて期限までに提出しなければならないものを提出できなかったり、信頼性のある数値を表明できなかったことについては、全社的内部統制や決算財務報告プロセスあたりになんらかの不備があり、全体への影響度が大きいと判断されれば「重要な欠陥」と認められる、というのがリスク管理としての「プロセスチェック」の考え方ではないかと思われます。(しかし、遅延や訂正といった結果発生から、どういった原因行為を特定するのか、これも各企業においてマチマチでしょうから、真剣に考えますと、ずいぶんとたいへんな作業のような気もします。監査人の意見と経営者の意見が一致するとは思えないのですが)

ところでプロセスチェックといった観点からみた場合、企業情報開示の「遅延」と「訂正」では、どっちのほうがミスした企業側にとって致命的といえるのでしょうか。もちろん、経営者は確認書を提出しなければなりませんし、ミスしないのが当たり前ですから、そもそもミスのないように正確性と迅速性といった相反する要請をうまく調和させる必要があることは承知しておりますが、相反する要請である以上は、それが調和できないリスクといったものも検討しておく必要はあると思います。もちろん、上場企業が報告書提出を遅延したり、また訂正するにあたっては諸事情あるはずですので、単純に比較することはできないでしょうから、ひとつのモノサシとして「どちらがより内部統制報告制度における『重要な欠陥』に該当する可能性が高いか」といった基準で考えてみたいと思います。私の考えですと、「訂正」の場合は、迅速性への配慮とか、全社的な内部統制構築への対応は進んでいるものの、単純なミスがあったとか、会計基準への理解が不十分であったということで修復が容易な不備という理解で済みそうなケースが多いように思うのでありますが、いっぽう遅延ということになりますと、たしかに正確性への配慮は認められるものの、経営者不正があったのではないかとか、そもそも基本的な開示統制システムができていないのではないかとか、内部統制の根幹にかかわる問題を当該企業が内包していることを連想させてしまうように思われますので、どちらかといいますと「遅延」のほうがプロセスチェック的には重要な欠陥と結びつきやすいように思いますが、いかがでしょうか。(勝手な素人的発想にすぎませんので、またご意見等ございましたら、いろいろとご指摘ください。また、こういった疑問点をズバリ解説されている文献等ございましたら、ご紹介いただけますと幸いです。重箱の隅をつつくようなものかもしれませんが・・・・)

(21日午前 追記) 先日のプロネクサス社につづき、今回は宝印刷社でも「元社員」によるインサイダー取引が発生したようです(毎日新聞ニュース)。ご専門家である宝印刷さんですので、企業情報開示はおそらく「遅れ」なく公表されると思っておりましたが、午前9時30分、さすがに適切な情報開示がなされました。内部者取引を社内で防止するための再発防止策(すでに社内で履行されているものを含む)がリリースされておりますので、こういったことも情報管理のためには参考になるところです。

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2007年8月20日 (月)

日本の内部統制のルーツ(原点)を訪ねる

企業不祥事で揺れております石屋製菓の社長さんは、不祥事発覚前の新聞インタビューにて「『白い恋人』を伊勢の『赤福もち』のような代表的なお土産用のお菓子に育てたい」と述べておられたようです。ところで、「赤福もち」さんは、自社製品が贈答用として買われることを重視され、自社が納得できないような原材料しか仕入れることができなかったときは、質の悪いものを贈答用に購入されてはブランドが地に落ちるということで、何日でも製品販売を休止していた時代があったそうであります。「白い恋人」もおそらく購入者が自分で食するというよりも、他者に喜んでいただくための贈答品の部類に属するのではないでしょうか。そうであるならば、消費者への信用といったものは、経営における生命線であり、昨今のコンプライアンスルールといったものへの認識の甘さがあったことは否定できないところではないでしょうか。

(2007年10月12日 追記)赤福もちさんも、消費期限に関する虚偽表示の疑いがあるとのことで、調査対象となっております。上記記載は、今後の行政の対応をまって消去する可能性があります。

(2007年10月14日 追記)赤福社長さんの記者会見で、製造年月日改ざんに関する事実を認めておられましたので、上記エントリーはブログ管理人の事実誤認による不適切な内容の記述であると思い、消除いたしました。

ところで、石屋製菓の偽装表示問題発覚とほぼ同時期に、関西では名門スーパーである「いかりスーパー」の牛肉偽装表示問題が発覚したわけでありますが、かたやマスコミで大きく叩かれて、経営難を10億円の緊急融資でしのぎ、社長は辞任に追い込まれることとなり、いっぽうは「第一報」こそ各マスコミでかなり大きく採り上げられましたが、社長さんは一度もマスコミで謝罪会見をすることもなく、その後はまったく沈静化しております。この差はいったいどこにあるのでしょうか?大きな違いは、行政の調査で発覚したのか(いかりの場合)、内部告発で発覚したのか(石屋)という点と、不祥事を隠蔽するような行動に出たかどうか、といった2点にあるのではないかと思われます。あまり詳細なことは(企業様の名誉信用毀損に該当する可能性がありますので)推測に基づくものであっても、ブログでは書けませんが、企業不祥事が企業の信用をどのように毀損していくのか、他社との比較において浮かび上がるところも多いと思いますし、またそういった比較検討が自社におけるクライシスマネジメント対応への参考となるところもあると思われます。

さて、直接に企業コンプライアンスと関係するものではございませんが、ある方からのメールをきっかけに、近江商人の故郷である滋賀県近江八幡市に訪ねてみたいと思っておりましたところ、本日、たいへん暑い日ではありましたが、旧西川家邸宅(1930年ころまで300年続いた商家 重要文化財)の文献等を見学してまいりました。(なお、写真につきましては撮影可能と思われるもののみとさせていただきます)

Dscn0642_400 邸宅自体が重要文化財に指定されておりますので、どちらかといいますと、建築家の方々に関心の高いところかもしれませんが、江戸時代に近江商人として栄えたこの西川家では、江戸時代の会計帳簿、棚卸資産表などが展示されておりまして、なんといいましても、掟書きと呼ばれる「商人としての行動規範」や、会計帳簿の正確性を担保するための規則、つまり「内部統制システム規範」が展示されております。

Dscn0638_400 この「掟書」は1823年・文政6年)に店内(社内文書)として作成されたものであります。

いわゆる会計帳簿の正確性を担保するための社内規則ですね。もちろん「複式簿記」など日本に存在しなかった時代のものでありますが、どういったことが書かれてあるかといいますと、支配人が会計帳簿の最終責任者として、その責務を全うすべきであるが、最終責任者といえども、ミスや不正があるかもしれないので、〆後にも2番目そして3番目に帳簿をチェックする必要があること、そしてその立場の者を決めておくべきことが記載されております。いわゆるチェックアンドバランスの考え方は江戸時代の商家でもきちんと認識されていた可能性が高いようであります。しかし絶大なる支配人への懐疑心、そしてその不正チェックを本当に誰が行っていたのか(内部監査人)、本当にそんなことが可能だったのか、かなりナゾであります。

Dscn0641_400 こちらの文献はといいますと、この西川家の商人としての「行動規範」であります。1667年(寛文7年)ころに作成されたものということですので、おそらく西川家が商人として初期の頃に作成されたものであり、長年承継されたもののようであります。内容を現代風に訳しますと、西川家の商人としては、①博打や色気にまよってはいけない、②商売のときには身なりを整えなければならない、③異業種との交流にあたってはでしゃばった意見を述べてはいけない(守秘義務ということなんでしょうか?それとも道徳ということか?)、④他の商人とトラブルが発生したときには、まず事実関係をきちんと調査のうえ、自ら慎重に主張すべし、といったところであります。どれも非常に重要なものだと思いますが、とりわけ③と④あたりは現代の日本企業でも十分通用しそうな行動規範ではないでしょうか。身分制度があたりまえの時代に、商家の社会的信用を守ることは今以上にたいへんだったかかもしれませんし、こういった「掟」といったものは外から規制されずとも、あたりまえのように守られていたんでしょうかね。(文献の解釈は現地の解説と私の意訳によるものでありまして、不正確なところが混じっている可能性もあります。引用につきましてはご留意ください)

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2007年8月17日 (金)

勧告的決議は「アンケート調査」OR「気休め」?

(追記 辰のお年ごさんが、たいへん有益なコメントを残しておられますので、そちらも併せてご覧ください)

FX取引で大もうけをして、何億円もの脱税をしていた方々のニュースをみながら、「このまま円安が進行すれば俺もひょっとして・・・」といったひそかな期待でFX取引を始められた方々は、ちょっとブログをお読みになる余裕もないかもしれませんが。。。

さて本日のタイトルを一瞥して「ニヤッ」とされた方は、お盆休みもあまり遠方へも行かれず、勉強熱心に旬刊商事法務のお盆特別号(1807号)を熟読された方でありましょう。葉玉先生もご自身のブログで少し触れておられましたが、「会社法への実務対応に伴う問題点の検討」と題する座談会記事のなかで、買収防衛策に関する白熱した議論が交わされておりまして、(ブルドック地裁決定、高裁決定に関する有識者の方々のご意見もたいへん参考になるのでありますが)事前警告型買収防衛策を導入する際に、定款変更決議を伴うことなく、ダイレクトに株主総会の承認決議を得ること(つまり「勧告的決議」といわれるもの)にどのような意味があるのか・・・といったあたり、出席者の方々のやりとりが実に興味深いものがございます。(ところで、こういった座談会というのは、あらかじめの打ち合わせはされないのでしょうか?議論の進行方向が、司会の方の予想や期待と反してしまって、途中から修正が効かなくなってしまうような状況が読み取れますので、とてもリアルです・・・)

勧告的決議になんらかの法的意味を認めようとされる(もしくは、そういった流れになることを期待される)司会者的立場のM弁護士とパネリストのN証券執行役のN氏(いずれも、法務・財務アドバイザーとして買収防衛策導入になんらかの法的意味があることに期待されているご様子)と、かたや会社法立案に関わっておられた法務省A課長と京都大学のM教授が対峙する構図。なお、東大のI教授はこの対峙を静観されているご様子です。

M弁護士「この『勧告的決議』の方法について伺いたいと思います」

A課長「その性格はいわばアンケート調査です。単なる株主の意識調査ですね」(切って捨てたような物言い・・・・筆者 注)

M教授「そのように思います。私はこれを気休めのようなもの と説明しています」

M「・・・・もしそういうことだとすると、私も含め買収防衛策の仕事に関与している弁護士や証券会社などのアドバイザーは立場がなくなってしまうかもしれませんね。・・・」

M教授「ぎりぎりの可決なら、むしろマイナスではないですか?」

A課長「『勧告的決議』をもって、あたかも何かが決まったかのような報道がなされていますが、意味不明ですね」(昨年の大阪弁護士会でのご講演の際も、またいろいろな論稿等でも、いつも慎重なご発言が印象的なA課長。しかし今回の討論会では、なにげにこの「勧告的決議」に関する討論では他の方の意見を一切寄せ付けないほどのご発言。)

(その後、さまざまな議論がなされるが、結局、意見の集約はみられず)

M弁護士「勧告的決議に対して、こんなに批判が強いとは少し意外でした。結局、会社法に根拠のない勧告的決議などというものはけしからんということなのでしょうか?」(と、最後は半ば開きなおりに近いようなM弁護士のご発言まで飛び出す)

ただ、A課長もM教授も、勧告的決議に法的効果は一切ない、と断言されながらも、「ほとんどの株主が賛成するような場合には、一定の事実上の効果はあるかもしれません」とおっしゃっておられましたが、この「事実上の効果」とは一体何ぞや?とのツッコミも入らず、じつは私もよくわかりませんでした。(もし、「事実上の効果」といったものが、裁判において斟酌されるべき事実、ということを捉えているのであれば、これも「法的効果」に含まれるんじゃないでしょうか。それとも、たとえばすくなくとも機関投資家からの要求には応えられているという意味を指すのでしょうかね?)この買収防衛策に関する論点だけでも、たいへん多くの問題点が議論され、とても紹介することは困難なのでありますが、この座談会記事を拝読しての「野次馬的感想」は以下のとおりであります。

1こんなに、勧告的決議の法的な意味合いが問題となるのであれば、どなたか一度「勧告的決議」に関する司法判断を仰いでみたらどうでしょうかね?今年の6月総会におきましても、たくさんの上場企業で普通決議をもって、買収防衛策の承認がなされておりますが、そういった承認決議の無効確認訴訟といったものは、どなたか提訴してみたらいかがでしょうか。決議内容が法令に反するものといった主張することになりそうですから、そもそも裁判所はどういった立場で「勧告的決議」についての評価を下すのか、実に関心のあるところであります。裁判所が「導入」そのものへの差し止めを問題としないとしても、導入決議そのものの無効確認ということであれば、(決議取消の訴えとは異なり)原告に訴えの利益さえ認められれば門前払いをされることはないと思うのですが。

2ブルドック最高裁決定などを読みましても、果たして防衛策発動の場面における株主総会決議は普通決議で足りるのか、特別決議を要するのか、といった問題の立て方が出てくると思うのでありますが、発動の場面で「株主総会で株主の意思を問う」ことが重要であるとしても、そもそも別の問題の立て方もあるのではないでしょうか。つまり「どれだけの株主が、防衛策発動に賛同したか」ということよりも、たとえば「スティールという反対意見を述べる人たちが参加して、意見を述べる機会が与えられて、十分な審議がなされて、それでもなおスティールの意見に賛同して意見を翻意した人がすくなかった」という意味があるからこそ、株主総会にかけることが(プロセスとして)重要だ、といった考え方もありうるのではないでしょうか。こういった問題の立て方からしますと、とくに特別決議の要件まで満たす必要はなく、せいぜいスティールに告知聴聞の機会が十分に確保されたのであるから、過半数の賛成があれば防衛策発動は相当性が認められる、といった理屈も成り立つようにも思われます。(なおブルドックの最高裁決定におきましては、株主総会における「ほとんどの株主による承認」があったことが問題になっておりますが、これはブルドック側がスティール側へ現金供与することで、企業価値が毀損するおそれがあるとみるためであって、この事案特有の問題点に関する判断ではないかと思いますが、どうでしょうか。)そもそも会社法における「株主総会」とは、そこで会社運営にかかる方針を議論して意見形成をすべき場所であり、単に会社もしくは株主からの提案を「承認」するだけの場ではないことが原則なはずであります。これは閉鎖会社だけでなく、権限が制約されている公開会社の株主総会においても理屈は同じではないかと思います。もちろん、意見表明の機会は事前にも付与されており、また委任状獲得競争などによって多数派工作は行われるわけでありますから、現実には総会決議に至るまでの時間軸も想定してのプロセスに関する話ではありますが。そういった株主総会の基本的な機能からすれば、いくつかの問題の立て方があってもいいのではないかと思います。ダヴィンチによるTOCのMBO阻止の事例や、いちごファンドによる東京鋼鐵の合併阻止事案のように、「株主間情報提供行為」によって会社側提案が承認されない事案も出ておりますので、こういった敵対的買収防衛策のあり方につきましても、事前に会社側が「株主による情報アクセス保証や、株主間による情報提供の自由を保証」するシステムを確保することが、最終的には「株主の意思を尊重する」ことに繋がる、といえるのかもしれません。

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2007年8月16日 (木)

上場企業の株式持ち合いの効用

一昨日(8月14日)の読売新聞ニュースなどでは、上場企業における株式持ち合い比率が90年代以来、久しぶりに増加傾向に転じた、とのことであります。(読売ニュースはこちら フジサンケイビジネスアイはこちら )そういえば、先日のブルドック事件に関する最高裁決定の内容から、「買収防衛策の発動が適法とされるためには、総会における圧倒的多数の株主からの支持が必要」とする解釈(もちろん、あくまでもひとつの解釈にすぎませんが)がやや定説化しつつあるようでして、今後は安定株主工作に走る企業が増える懸念も示されております。(関連ニュースはこちら)本来、法律家がこの「企業間における株式の相互保有」を論じるのであれば、企業結合規制との関係や、相互保有(事業の提携)と「インサイダー取引における重要事実の決定への該当性」などを解説すべきなのかもしれませんが、そのあたりは独占禁止法や金融商品取引法に詳しい先生方のご著書などを参照いただくとしまして、私的に関心がありますのは、この株式持ち合いといったものは、安定株主工作として利用されるのであれば、株主への利益供与に該当するのかどうか、さらにはそもそも株式の持ち合いと企業価値とは、いったいどのような関係に立つのだろうか・・・といったあたりでしょうか。つまり、経営陣としましては、この株主持ち合いを復活させるとして、どういった理屈で株主の皆様方へ説明責任を果たすべきなのか、といった視点であります。

一般に企業間において株式の持ち合いがなされている場合には、敵対的買収への防衛策になる、と言われておりますが、これは持ち合いがなされている議決権についての数量に焦点をあてて、「安定株主」が増えるためである、と解説されているようであります。つまり企業としましては、事業提携の一貫として株を相互に保有することが目的であって、その副次的効果として防衛策になるものと公表することになろうかと思われます。しかしながら、そのような理由からであれば、事業提携の契約だけを締結すればいいわけであり、なぜ株式を相互に保有する必要があるのだろうか・・・といった疑問も呈されるところであります。安定株主工作のため、とはっきり説明するわけにもいかないと思われます。そこで、この「株式相互保有」それ自体の持つ経済的効果といったものが理由として付加されますと、株式持ち合いそれ自体の合理性(もちろん、企業側からみた場合の理屈でありますが)が説明されるところになろうかと思われます。つまり、ただでさえ日本の上場企業は浮動株式が少ないところに、さらに持ち合いによって浮動株式が減少することになるわけでして、もし事業CF(キャッシュフロー)に変動がないとした場合、株価が上昇する要因となるわけですね。そうしますと、それ自体、TOB価格を押し上げる要因(買収資金の増加要因)となりますので、買収されにくい体質になるということのようであります。(説明の仕方としましては、「市場で評価されていなかった当社の企業価値について、その真の価値に株価が近づくように努力する」といったところでしょうか)さらに興味深いのは、実際に株式の持ち合いが継続しているとして、これをシナジー効果の達成であると解釈できるならば、もし敵対的買収者が現れた場合に、(経営支配権の移転が発生しますと)その持ち合いが解消されてしまって、それまで保有していたシナジー効果が毀損されてしまいますので、一種のクラウンジュエルとしての防衛効果も果たすこととなる、というものであります。このような株式持ち合いが有する経済的効果からすれば、「持ち合い」を発表する際に、経営陣が安定株主工作のため、と表現しなくても、素直に「事業戦略上の目的」とだけ説明すれば株式を持ち合うことの必然性を合理的に説明できそうであります。

このように、株式持ち合いの復活というものについて、現経営陣にすれば「いいことづくめ」の手法のようにも思えますが、ただ、これを内部統制(会社法上の)といった側面から考えてみますと、どうなんでしょうか。いわゆる全社的リスク管理といった観点から考えた場合、「株式持ち合い」をしている相手方企業に事業経営上重要な影響を与えかねないような不祥事や企業リスクが発生した場合、持ち合い関係にある当社の企業価値にも影響は出ないのでしょうか?昨日、松下電池のバッテリー不具合で数百億もの交換費用を要する事態が発生してしまいましたが、これで「次世代自動車のバッテリー共同開発」のために株式持ち合いをされている企業への影響というものはほとんどない、ということなんでしょうか。まぁ、巨大企業どうしの事業提携ということでは、軽微な影響しかないかもしれませんが、中小の上場企業におきましては、やはり時価会計制度による影響だけでなく、事業提携そのものの頓挫を含めた戦略上の大きなリスクが発生するのではないでしょうか。つまり、これだけ内部統制の整備運用が上場企業の責務として謳われている昨今、もし株式の持ち合い復活ということであれば、そのリスク評価についても事前に明確にする必要があると思いますし、なにかあれば、すぐに解消しなければならず、もし解消しないのであれば、その理由は株主に直ちに説明する責任があるのではないだろうか、と思います。事業戦略上の目的を第一に掲げて持ち合いの道を選択する以上は、やはりリスク管理として、事業戦略上の効果についてもまた、株主へ説明する必要があるのではないでしょうか。持ち合い復活が「コーポレートガバナンスの向上を阻害する」と言われているところでありますので、せめて経営陣としましては、内部統制的な観点から、その有効性やリスク判断を徹底すべきだと思われます。

※本日のエントリー作成にあたりましては、「検証 日本の敵対的買収(M&A市場の歪みを問う)」(新井富雄、日本経済研究センター 編 日本経済新聞出版社)を参考にさせていただきました。新刊書ですが、これなかなかおもしろかったです。たとえば、株式を持ち合っている企業が、買収者の提示しているプレミアム価格にも応じないことを、どのように自社の株主に説明すべきか・・・、そのあたりのヒントなどもこの書物に掲載されており、読まれる方の立場によって共感、ご批判はあるでしょうが、非常に有益です)

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2007年8月14日 (火)

これぞ洋菓子の「費用対効果」!!

昨日内部統制の限界論のなかで、費用対効果のことに少し触れましたが、「安くて美味しい洋菓子」として、いまもっとも大阪で熱いスイーツといえば、もうこれしかないでしょう。

そうです。

堂島ロールであります。遂に買えました(* ̄∇ ̄*)

Monshu_320 いやいや、本当のところは、盆休み期間は営業時間が短縮されておりまして、早々に「堂島ロール」は完売ということで入手できませんでしたが、「シンデレラロール」のほうをなんとかゲットできました。。。

現物のほうは お店のHPをご覧になっていただきたいのでありますが、つい先日、中央大学の大杉教授と大阪でお食事をさせていただいたときに、ある弁護士の方が、お土産にと、私の分も買ってきてくださいまして、帰宅して食したところ、あまりの美味に家族みんなで驚嘆の声(°口°;) !!
をあげました。(買ってきてくださいました弁護士さんは、お店で20分も並んでくださった、とのことで、その先生のタイムチャージを考えますと、・・・・・費用対効果とは言えないかもしれませんが・・・)これが発端となり、時間に余裕があればぜひ自分で購入したいと思っておりました。電話で確認したところ「あと10分程度でお越しになれるのであれば、なんとか『シンデレラロール』ならば商品がございます」とのこと。家族が喜ぶ顔を思い受かべつつ、中之島をチャリンコでぶっ飛ばして終業間際の店内にすべりこみ、ヘトヘトになりつつもなんとか「残りあと2個」のうち1個をゲットし、念願かなったような次第でありました。(注 当日予約もありますので、大阪の方は事前予約されることをお勧めいたします)

おそらく関西でもっとも美味しい和菓子は「あまから手帖」でも21世紀に残したい和菓子として著名となりました喜久寿のどら焼き かと思いますが、洋菓子は?となりますと、このMON chou chou(モンシュシュ)の堂島ロールが最有力候補にあがるのではないでしょうか。なんといいましても、

この味で1050円は安い!(6個に切り分けるとひとり分175円・・・・・て、かなりせこい計算ですが(^^; )

HPでも掲載されておりますが、トーク番組等で、ゲストが司会者にお土産として持参する頻度もアップしているようでして、一度召し上がっていただけますと、このクリームと生地のすばらしさがご理解いただけるかと思います。

諸事情のため、今年のお盆休みは家族で旅行へも行かずじまいでありますが、1470円(シンデレラロール)で、みんながハッピーな気持ちになれるのであれば、これほど費用対効果として効率性の高いものはありません。。。(トホホ・・)なお、残念ながら通販はされていないようでありますが、関東地区では銀座三越と川崎に店舗があるようですので、甘党の方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度そちらでご賞味いただけたら、と。(すいません、きょうはまったくビジネス法務とは関係のないエントリーになってしまいました)

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内部統制制度における現場の課題

商事法務の真夏の合併号(1807号)が手元に届きましたが、会社法と金融商品取引法関連の記事、論文など、どれも興味深いテーマがずらりと並んでおりますが、またまた最初に目に留まりましたのがスクランブル記事「内部統制制度における現場に残された課題」であります。「重要な欠陥」の判定のあり方、内部統制監査人が統制環境を評価(つまり、取締役会や監査役制度のあり方について重要な欠陥あるのかないのか等)することの問題を論じ、最後にはマスコミや投資家がこの新しい制度について冷静に対応すべきと提言するものでありまして、その問題点の見つけ方といい、問題への切り口といい、解決指針といい、共感する点が多々ございます。

このスクランブル記事によりますと、財務報告に係る内部統制報告制度における「内部統制の限界論」を引用され、「重要な欠陥」に過剰な費用をかけることが合理的と言えない場合もあるのではないか、とされておりまして、たとえば(このブログでも、まさにひとつの問題点として提示させていただきましたが)経理、財務部門の専門的能力や人員不足について、監査人が「重要な欠陥」ありと指摘した場合、短期間にかつ、低廉な費用で欠陥を補うことは困難なのであるから、そもそもたとえ重要な欠陥であるとしても、「経営判断の法理」が妥当する場面ではないか。これは企業と外部監査人とのネゴによって、直ちに補填したり妥協できるような問題ではない、企業としては、「重要な欠陥」と指摘されることにビビることなく、「企業と外部監査人が真摯に協力して、厳正に内部統制評価制度を活用した証拠として」重要な欠陥の内実を開示して、あとは投資家のリスク評価や自己責任に委ねることが理論的である、重要な欠陥が直ちに企業価値を下げたり、また企業の社会的信用を低下させるものではないのだから・・・・、といったあたりが骨子かと思います。

そういえば、この「内部統制の限界論」への解説としましては、週間「経営財務」の最新号(8月6日号)では、「内部統制報告制度の留意点(上)」と題する、前金融庁企業開示課長さんの連載記事が掲載されておりまして、そのなかで「内部統制の限界論」について少しばかり触れておられます(12頁以下)。経営者による内部統制の無視や、非定型取引の介在等による内部統制の限界論といった、定番の解説ではありますが、企業が安易にこの「限界論」を用いることへ警告を発しておられるようで「ガバナンスの充実や、環境変化、非定型的取引が発生しやすい業務プロセスに、知識経験にすぐれ、適切な判断をできる者を重点的に配備する等して、相当程度対応範囲を広げることが可能である」(おそらく個人的意見でいらっしゃると思いますが)、と述べておられ、一見「限界」と思われる場合でありましても、内部統制の構築によって、その限界は狭くできる・・・といった解説をされております。しかし、そうはいいましても、そういった「知識経験にすぐれ、適切な判断ができる者を重点配備せよ」とのことでありますが、そのようなスタッフを養成したり、どこかから招くことへの費用はかなり莫大なものになってくるわけでありまして、そこに「費用対効果」の問題がやはり出てこざるをえないのであります。

以前にも述べましたが、私はこの財務報告に係る内部統制報告制度におきましては、外部監査人や経営者からみて、重要な欠陥が見つかった場合、その是正に多くの費用を要する課題が残るとしましても、企業情報開示に関する制度である以上は経営者も監査人も正直に「重要な欠陥」と評価すべき場合があると考えます。ただし、本当に「重要な欠陥」なのか、また重要な欠陥であるとしても、その欠陥を費用をあまりかけることなく、補填することはできるのか等、企業と監査人において十分議論する必要はあると思います。(一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準というものは、これまでにはモデルは存在せず、実施基準の現場への適用などを通じて今後の慣行のなかで形成されるものですから、経営者はご自身の主張をどんどん出すべきだと思います。たとえば、先の経理財務部門における能力不足の問題点などは、評価する人の主観的な評価基準に頼るところが多いでしょうし、経営環境の変化や、非定型取引の問題につきましては、それほどの経理財務に関する知識経験がなくてもモニタリングがある程度可能なほどに、社内の業務プロセスを簡易化する(非定型的取引の発生をなるべく少なくする)ことも工夫次第では可能だと思われるからであります。(現に、私の近辺におきましても、監査法人さんのアドバイスを受けて、非定型取引が極力でないような取引の仕組みに変更する作業を進めているところもございます。このあたりの工夫につきましては以前、書籍の紹介をさせていただいた「簡易版COSO内部統制ガイダンス」の31頁以下に詳しく掲載されておりますので、ご関心のあります方はご参照ください)

それにしましても、最近この「費用対効果」という用語が頻繁に出てまいりますが、そこで議論されている「効果」というものは一体何を指しているのか、合意はできているのでしょうか。おそらく業務の有効性、効率性の向上といったことが「効果」だというのが一般的のようにも思えますが(といいますか理想的だと思えますが)、現実的には「財務諸表に虚偽表示が含まれるリスクをある程度低減させること」といった意味で使われているのかもしれません。いずれにしましても、内部統制制度における会社法上の議論と金融商品取引法上の議論を整理したうえで、この「費用対効果」といった概念がどこで用いられているのか、十分把握しておく必要がありそうです。さて、私的に「現場に残された課題」を論じるならば、四半期開示制度の義務化と内部統制報告制度との関係論だとか、過度のリスク評価(プロセスチェック)は内部統制制度を滅ぼす・・・あたりではないかと思っております。いずれまた、シリーズものとして語ってみたいと思います。

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2007年8月10日 (金)

ブルドック最高裁決定と事前警告型防衛策の行方(3)

ブルドック最高裁決定と企業が導入している(もしくは今後導入を予定されている)事前警告型買収防衛策との関係について、これまで2回にわたって私自身の思いを述べてまいりましたが、それぞれ最高裁決定を参考としながらも、1回目は「どうしたら裁判を有利に戦えるのか」という視点、2回目は「上場企業として一般投資家から信用されるべき買収防衛策とはなにか」という視点から検討をしております。そして、今回はそもそも「最高裁判決の妥当すべき範囲はどこまでか」といった視点で検討してみたいと思います。私のブログにおきましても、katsuさんや経営コンサルタントさん、そして辰のお年ごさんはじめ、いろいろな方よりコメントをいただいており、それぞれの立場から高裁決定、最高裁決定などへの意見をいただいております。外資脅威論者の方や「モノ言う株主」を歓迎しない立場の方々からすれば、このたびの決定を受けて「ほれみろ、最高裁がお墨付きを与えたぞ。これで投資ファンドや外資による強圧的なM&Aが日本では通用しないことが証明された」とされ、いっぽうグローバルな国際分業時代の到来を待ち望んでいらっしゃる方(金融国家ニッポン)や、ガバナンス推進論者の方などからは、「司法はまったく日本の経済国家としてのあり方について理解していない。こんな司法であれば世界から失笑を買うであろう。日本の将来は真っ暗闇となった」とおっしゃいます。こういった議論は我々法律家(とくに一般の弁護士)からみると、民事、刑事、商事にかかわらず、裁判的決着をみる場合にはよくある話であります。裁判に勝訴した側に与する立場の人たちは、事例の特殊性を問題にすることなく、自分たちの主張が全面的に通ったと考え、また敗訴したほうに与する方は、裁判の妥当範囲を広くとらえて、こんな思想がまかりとおるようでは、司法も腐敗したものだ、と立腹され、もしくはお嘆きになるわけであります。

普段から裁判制度を身近なものとして捉えておられない一般の方々に向けて、こういった社会的に大きな影響を与えかねない最高裁の判断が出た場合に、法律家には、この「最高裁の判断の妥当する範囲はどこまでか」を説明する責任があると思います。それはこういったM&Aに詳しい弁護士の方々の重要な仕事かもしれませんし、また著名な商法学者の先生方の大切な仕事なのかもしれません。今朝(8月9日)の日経朝刊におきまして、有識者のどなたかが「日本にも金融裁判所を創設すべし」とおっしゃっていましたが、まさに的を得たひとつの見解かと思います。日本の裁判所は、あくまでも紛争解決のための機関でありまして、政策形成機能としては「憲法裁判所」すら存在しないのであります。もし裁判官がM&Aの行く末を案じて、なんらかの政策形成的判決を出したいと考えましても、それは原告、被告双方の弁護士さん方がお出しになられた「争点」への判断に拘束されるわけでして、またその目の前の事件を解決する範囲でのみしか判断をしてはいけないわけであります。ましてや、最高裁のように、その判断が後世まで絶大なる影響力を有する判断を下す機関であればなおさら、政策形成的な判断は謙抑的にならざるをえないはずです。そのように考えますと、このたびのブルドック最高裁決定につきましては、①この紛争解決にあたって、双方の代理人が提示した争点に過不足はなかったのか、②この判断理由部分は、どこまでの事例に適用されるべきものなのか、事実のうち、どの部分が異なれば、まったく最高裁の先例が及ばないものと考えるのか、③会社法や金融商品取引法の解釈が問題となるのであれば、それはいったいどの条文の解釈が問題となるのであって、その条文の正当性をささえる根拠(立法事実)は時代とともに変容しやすいものなのかどうか等、きちんとした仕訳作業を法律家が行わなければ、今後の事前警告型の買収防衛策の巧拙は本来語れないものではないか、と私は考えております。

たとえば今回(かりの話でありますが)、スティールは「濫用的買収者」だけれども、ブルドックの防衛策発動が、既存の一般株主に多大な経済的損失を出すものであるから、その防衛策の「相当性」に問題があるために、違法な防衛策である、したがって発動は差止られるべきである、といった決定が出たとしましょう。こういった決定が出たとしますと、実質的にはスティールは勝訴するわけでありますから、「濫用的買収者」と認定されたことに不満はあっても不服申し立てはできないわけであります。これは日本に金融裁判所というものが存在しないわけでありまして、紛争解決機能のみを果たす日本の裁判制度からみますと、やむをえない結果であります。また、双方代理人の論点の立て方の巧拙次第では、こういった決定が出てしまう可能性も、現実にはあったかもしれません。もし、こういった決定が実際に出された場合、皆様方は今回のスティールとブルドックとの「代理戦争」的な結末をどのように解説されたでしょうか。

(法に触れないかぎり  注1)どんな手を使ってでも、クライアントのために勝利に導くことも、法律家としてのプロの仕事として高い評価を受けるものだと思います。しかしながら、それに匹敵するほど、先に述べたような仕訳作業を行い、どんな時代であれば、またどんな事案であれば、どういった防衛策がもっとも効果的(勝てる、という意味や、社会的信用を維持できる、という意味で)かを検証できる法律家もまた、プロとして高い評価を受けるべきものだと思います。もちろん、商事裁判に基づく仕訳作業ですから、税務、会計、証券分野、会社法実務等すべてにある程度精通していなければ、適切な分析は困難でしょうし、その仕訳の巧拙はおそらく公開の場における評価によって理解されるはずだと思います。こういったM&A実務に関与されている方々にとりましては、今後始まるであろう、そういった法律家の仕訳作業に冷静にご注目いただければ、さらに今回の最高裁決定の自社防衛策への応用に資するヒントが得られるのではないか・・・と(私は)考えております。

(注1)「法に触れないかぎり」の法とは、弁護士法も含みます。したがいまして実定法違反ということだけでなく、弁護士としての品位を汚す手法を用いたり、所属弁護士会の社会的信用を毀損するような手法を用いることも、当然のことながら禁止されます。

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2007年8月 9日 (木)

ブルドック最高裁決定と事前警告型防衛策の行方(2)

今年6月22日に東証は「上場制度総合整備プログラム2007に基づく上場制度の整備等について」をリリースされ、そのなかで「企業行動規範」を制定する方針について定めておられます。(詳細は、株式会社大和総研の「東証の企業行動規範(案)」解説をご参照ください)この企業行動規範(企業行動に関する行為規範)といいますのは、上場企業に対して、その社会的な信用ある立場にふさわしい行動を求める上場規則(上場ルール)となるわけでして、これまでにも要望事項として公表されているものや、このたび新設される内容などがひとつのルールとしてまとめられるもののようです。(今年10月ころに正式に公表される予定。ルール違反には「勧告」や「公表」などのペナルティあり)この「行動規範(案)」のなかには、たくさんの注目すべき内容が含まれているわけでありますが、「買収防衛策の導入に係る尊重事項」という項目も存在するようであります。

これは、現行の適時開示規則1の3をまとめたものだと思いますが、先の大和総研社の解説によりますと、東証上場企業の場合、買収防衛策を導入する場合には、①開示の十分性、②透明性、③流通市場への影響、④株主の権利の尊重、以上四点について尊重義務がある、とされております。 (なお尊重義務違反にはペナルティとして公表措置がとられることとなります)本日(8月8日)、ブルドック事件の最高裁決定を受けて、スティール側はTOB価格を4分の1に値下げして、期間延長のうえで手続きの続行を公表されたわけでして、今後のTOBの成り行きが注目されるところでありますが、このたびの一連のブルドック事件に関連する法務、税務そして資本市場における株価への影響などを総合的に観察したうえで、すでに導入されている企業の買収防衛策や、今後導入を予定される上場企業のスキームとして、この東証の行動規範に合致する買収防衛策とは、一体どういったスキームとなるのか、検討する必要がありそうですね。事前警告型の買収防衛策と導入した企業(もしくは今後導入しようとされている企業)としましては、「裁判になったときでも、負けない(つまり、買収防衛策発動が差止められない)スキーム」について、まず検討することは当然としましても、それと同時に、こういった各証券取引所が今秋以降に制定される「企業行動規範」のルールに合致することにつきましても配慮が必要なのかもしれません。裁判におきましては、現在の株主の共同利益が確保されるかどうか、といった視点だったものが、行動規範のうえでは、将来の株主(一般投資家)の利益確保といった視点も要求されることになりそうであります。

そこで、先に掲げました防衛策導入の際における尊重義務4点を、もうすこし詳しくお知りになりたいという方は、旬刊商事法務1760号(2006年3月5日号)の論稿「買収防衛策導入に係る上場制度の整備」(当時の東京証券取引所上場部企画担当、飯田一弘氏)をご一読ください。この論稿で解説されているところを要約いたしますと、(1)開示の十分性とは、「買収防衛策に関して必要かつ十分な適時開示を行うこと」(2)透明性とは「買収防衛策の発動及び廃止の条件が経営者の恣意的な判断に依存するものでないこと」(3)流通市場への影響とは「株式の価格形成を著しく不安定にする要因その他投資者に不測の損害を与える要因を含む買収防衛策でないこと」、そして(4)株主権の尊重とは「株主の権利内容およびその行使に配慮した内容の買収防衛策であることと記されております。(先の商事法務の論稿では、さらに詳しい解説がなされております)このたびのブルドック最高裁決定を踏まえて、今後の行動規範に合致したスキーム作りを考えた場合、まず2番目の「透明性」に関するところが問題となりそうでありますが、発動場面において株主総会による特別決議に委ねるといった形式でありますと、極力経営者による恣意的な判断に依存するものとはいえませんので、まずクリアされるところだと思われます。つぎに(3)の流通市場への影響というところでありますが、「投資者に不測の損害を与える要因を含む防衛策」とは、どういった防衛策であるのか、このたびの最高裁決定では微妙な影を落としているのではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。このたびのスキームの相当性判断の場面におきまして、21億円でスティール側の新株予約権を買い取るスキームが、スティールの株主たる権利とは別に、既存株主の利益をもき損しているのではないか、といった考えを最高裁が表明しているようにとれる箇所があるからであります。今回の裁判を教訓としまして、防衛策を導入する企業としましては、事前警告型の防衛策の開示にあたり、大量取得行為を開始した企業に対してどのように対応するのか、詳細に記載する必要があるのかもしれません。ただ、あまり経済的な補填について具体的に書きすぎるのも、なんだか「濫用的買収者」的な方々をあえて登場させてしまう結果にもなりそうですし、このあたりは今後、どなたか有識者の方のご意見でも、うかがってみたい気もいたします。そして(4)の株主権の尊重でありますが、ここにいう「株主権」とは、おそらく敵対的買収を企図する株主も含まれるものと思いますので(そもそも既存の一般株主の株主権が尊重されない場合は、「株主の権利の不当な制限」条項に違反するものとして、別途上場廃止基準に抵触することになると思われますので)、こらまでの一連のブルドック決定の内容からいたしますと、防衛策のスキームと「株主平等の原則」「株主の財産権保障」といったあたりが上手に説明できるかどうか、といったところが検討されるポイントになるのではないでしょうか。

そういえば、先の東証の尊重義務に関する4項目を眺めていて感じたのでありますが、買収防衛策のなかには、「株式を大量保有しようと企図する者が現れた場合、現時点では明確な防衛策を示すわけではないが、何もしないわけではなく、有事にはこれに対抗する手段を講じる用意がある」といったスタイルの防衛策があったように記憶しておりますが、(新日鉄?ダイキン工業?ちょっと曖昧な記憶ですいません・・・)あのような防衛策というものは、第一点目である「開示の十分性」をクリアできるものだったんでしょうか?曖昧な対抗策に関する説明ですと、透明性や流通市場への影響など、ほとんど不明ですし、個別の事前面談の際には問題にはならなかったんでしょうか?いや、それとも「買収防衛策に関する適時開示」にはそもそも該当しない、といったことだったのでしょうか。またご存知の方がいらっしゃいましたら、お教えください。

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2007年8月 8日 (水)

ブルドック最高裁決定と事前警告型防衛策の行方

(8月8日午後 スティール TOB価格引下げに関するニュースを受けての追記)

ニュースでも報道されておりますとおり、今後の敵対的買収防衛だけでなく、友好的買収に関しても影響を及ぼすと思われるブルドック最高裁決定(抗告棄却決定に対する許可抗告事件)が出ております。また、最近の最高裁は注目裁判の公開は非常に早いのでありますが、早速決定全文が公開されておりますので、ご関心のある方は(それほど長いものではありませんので)全文ご覧いただけます。

社外役員という立場からの私見でありますが、いやいや実に会社側(買収対象となった会社)に厳しい最高裁の決定だという印象であります。地裁、高裁決定では、この「スティール対ブルドック」といった個別企業の紛争解決を第一に考えてきたところ、この最高裁決定では、今後予想される事業会社対事業会社といったところでも普遍的に妥当するルールの適用を検討されているのではないかといった印象をもっております。一般事業会社が敵対的買収をかけてきた場合の「普遍的な裁判ルール」を想定しますと、これくらい対象会社にとって厳しい姿勢を示すことが裁判所の使命なのかもしれません。株主の議決権の割合を変える・・・という会社の所為については、(取締役を選択する以外に方法がない株主で構成されている)公開会社の場合、裁判所からこれほど厳格に審査されてしまうものなんですね。しかし買収防衛策の発動の正当性(企業価値及び株主共同利益の確保・向上)や相当性判断の基準を、裁判所は何故ここまで株主総会の決議状況に求めるのでしょうか?この最高裁決定を読む限りにおきましては、企業価値や株主共同利益をどちらの経営に委託したほうが、より向上させることができるのか、株主がもっとも判断できる立場だから・・ということでもなさそうですね。(私はそのように考えていたのですが)つまり、基本的には「裁判所は敵対的買収防衛策による特定株主の排除にはキビシイ」わけで、ただし「会社を食い物にしようとする人」だけは排除してよろしい、株主が最良の選択ができるかどうかはわからないけれども、その特定株主も意見を述べることができるような場所が確保され、その結果の議決権行使の機会も付与されたのだけれども、その特定株主以外のほとんどの人が特定株主を排除せよ、といった結論を出した、というブロセスがあれば、「食い物にしようとする人」と認定してよろしい、といったところが大きなポイントではないでしょうか。

そう考えますと、この最高裁決定では、株主総会重視(尊重?)型の買収防衛手続きとして、発動の際には(正当性、相当性の根拠として)総会の普通決議で足りるのか、特別決議を要するのか、といった点については明示されてはいないものの、どう考えても特別決議を要すると考えておいたほうがよろしいのではないでしょうか。普通決議があったからといって、「食い物にしようとしている」ことは立証できないですよね?とりわけ、この最高裁決定は最後のところ(10ページ)におきまして

また、株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが、会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく、専ら経営を担当している取締役等またはこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には、その新株予約権無償割当ては原則として著しく不公正な方法によるものと解すべきであるが

と述べられておりますが、「特定の株主の経営支配権を維持するため」の防衛策が不公正であるならば、最初から50%程度を保有する特定支配権を有する株主というものは、関係者を含めれば現実の上場企業にはたくさんいらっしゃるでしょうし、最低限度67%の株主が賛同しなければ買収希望者を「食い物にする人」扱いにはできないといったところではないでしょうか。なお、この最高裁決定では、スティールに新株予約権引取り金額を支払うことが、既存株主にとっても不利益となる可能性があることについても、既存株主のほとんどが承諾していることを理由にして、防御方法の相当性を判断しておりますが、ここは「食い物にする人」の立証とは別でありますが、やはり不利益を甘受すべき人たちの判断としては特別決議を要するとみるのが無難ではないかと思われます。

ところで、裁判ですから、立証責任をいうものが出てきますよね。今回の最高裁の決定では、「こっち側の事情」つまり、ブルドック側の事情をていねいに立証することで防衛策の合理性を主張することが可能だったわけでありますが、もしたとえば株主総会決議のところで「食い物にする人」を立証できなければブルドック側は敗訴する可能性が出てくるわけです。そこで「あっち側の事情」つまり、スティールが濫用的買収者であることを持ち出して防衛策の合理性を主張立証することもできそうでありますが、それは以前にも申し上げましたように信義則、権限濫用の法理というのは、ほかに主張するものがない場合の最後の策ですから、最高裁決定は、「こっち側」の事情だけで合理性を根拠付けることができるとみて、判断を控えたのではないでしょうか。したがいまして、緊急避難的に取締役会決議のみで発動を決断する場合、もしくは株主総会の普通決議で防衛策発動を決定して発動した場合には、司法判断の場におきまして、またこの「濫用的買収者」の法理が必要となる場面も出てくるかもしれません。(つまり、「会社を食い物にする人」を対象会社側が立証できるかどうか、が最終目標であり、それを対象企業側の事情だけで立証できるのか、それとも買収企業側にも焦点をあてて立証を補足するのか、そのあたりの違いに由来するのではないか、と考えましたが、いかがでしょうか)

さて、企業側からのこの最高裁決定への評価でありますが、もっとも関心が深いのは、これまで導入した事前警告型の買収防衛策はどうなるのだろうか?やっぱり発動するにあたっては、買収者の損失は(たとえ平時に警告を発していても)適正金額で補償しなければいけないのだろうか?といったところではないでしょうか。このあたりは最高裁決定の9ページから10ページあたりを十分検討しておく必要がありそうですし、またいろいろな方にご教示いただきながら、考えてみたいと思います。また、買収防衛策における事前交渉ルールと金融商品取引法上の事前交渉ルールとの関係についても検討する必要があろうかと思われます。ただひとつ言えそうなことは、(私の願望とは裏腹に)いくら事前警告型防衛策のなかで、社外役員の活躍や独立第三者委員会の活躍を期待してみても、この最高裁決定の内容を見るかぎりでは、ほとんど裁判所に考慮されることはないなぁ・・・といったところでしょうか。(とりあえず、決定全文を読んだうえでの印象のみで失礼いたします)

(追記1)

辰のお年ごさんもご指摘のとおり、スティールは最高裁決定を受けて、TOB価格を、これまでの1700円から引き下げ限度いっぱいである425円(いずれも1株)に引き下げたうえで、買付け期間についても延長することを決定したようであります。(読売ニュースはこちらです)公開買付け開始後におきましては、TOB価格の引き下げは原則として禁止されておりますが、平成18年の証券取引法改正により、制限的に許容される場合がありまして、公開買付け期間中における対象会社の株式分割や、株式もしくは新株予約権の(株主に対する)無償割当てがなされた場合であって、買付け開始時点において「引き下げることがありうること」をあらかじめ明記している場合には、例外的にTOB価格の引き下げが許容されることとなっております。

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2007年8月 7日 (火)

TBS「不二家報道」に関するBPO報告書

(8月7日 午後追記あり)

放送倫理・番組向上機構(BPO)における放送倫理検証委員会が、例の『朝ズバッ!』における不二家報道の件で、委員会としてははじめての決定を出しております。(TBS「みのもんたの朝ズバッ!」不二家関連の2番組に関する見解)5月に不二家の信頼回復対策会議が審理申立を行い、6月8日に審理開始決定が出されておりましたので、約2ヶ月での決定ということになります。この委員会における審理目的が「国家権力による放送の自由侵害から、メディアを守るための自浄的作用を機能させること」や、最終的には一般視聴者が事実誤認に陥ることを防止することを目標としていることなどから、捏造かどうか、といったことへの委員会の見解にはいろいろと意見が分かれるところではないかと思いますが、文章や構成がとても上手ですし、25ページにわたる意見書の内容はたいへん参考になるところが多いと思います。

とりわけ一般企業の法務、コンプライアンス担当の方には、ぜひ一読されることをお勧めいたします。といいますのも、内部告発を受領した企業の対応策について考えさせられるところが大きいと思われます。たとえば内部通報制度に基づいて、企業の窓口が社員より不正事実の申告を受けたとき、その内容が真実であることをどうやって証拠によって担保していくか、証人的立場にある人物からの聞き取りについてはどのようにすればよいのか、窓口から事実認定者まで、中間に介在する人が多い場合、どのような結果になってしまうのか等、内部通報制度自体の運用方法などを考えさせられるところであります。また、今後は逆に、マスコミが内部告発によって察知した事実について、マスコミから真偽に関する意見を求められた場合、企業としてはどう対応したらいいのか、といったクライシスマネジメントのあり方についても示唆に富む内容であります。(参考となる記載がありますのは、11ページから14ページにかけての部分)

ただ、いくら再発防止策の提言がメインではないとしましても、TBSは10年前に坂本弁護士ビデオ問題を契機として「放送のこれからを考える会」を外部有識者を中心として立ち上げ、そこでは再生のための行動指針をうたっております。そこでは報道番組やワイドショーにおける取材ルールを確立したり、品性のある番組作りをこころがけること、放送や報道についての社会の問題提起に対し、説明責任があることを宣言されております。今回の不二家事件において、クレームから謝罪まで3ヶ月もの時間を要した点につきましては、どう説明されるのか、この10年前の行動指針では、今回のような場合にTBSはどのように対応することが要求されており、その要求にしたがって今回も行動されたのかどうか、行動したにもかかわらず、事実解明には合理的な限界があったのかどうか、まず説明をTBS側に求めることが先決ではないかと思うのでありますが、そのあたりについてはなんら触れられておりません。(ちなみに、10年前の坂本弁護士ビデオ事件の際には、坂本弁護士のビデオを事前にオウム幹部に見せた・・・という事実をTBSが認めるまで5ヶ月を要しました。このあたり、とても気になるところであります。)内部告発に基づく報道に不十分さが認められるものの、その不十分さは個人的資質に帰すべき事柄ではなく、番組制作体制そのものが内包する深刻な欠陥である・・・とこのBPO報告書は結論付けておられますが(23ページ)、もしそうであるならば、あれだけ世間を騒がせた不祥事から10年経過した現在、TBSの再発防止策が、このたびの騒動について機能していたのか、いなかったのか、その検証をしなければ「深刻な体制」だったのかどうかも十分把握できないように思われます。

(追記)7日の朝刊は、どこも本件をかなり大きく採り上げているようです。ネットで読めるニュースとしては、産経WEBのこちら や こちら がかなりよくまとまっているように思います。7日「朝ズバッ!」では、あらためてTBS側よりコメントが出されたようですが、本当に国家権力による放送の自由侵害を自らの手で守るのであれば、この程度のコメントではすまなくなると思われますし、不二家ではなく、一般消費者、視聴者の知る権利を第一に考えるのであれば、さらなる独自の調査報告が必要ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

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2007年8月 5日 (日)

企業価値研究会「MBO報告書」

8月2日、経済産業省HPに企業価値研究会による「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」が公表されております。(以下、このブログでは「MBO報告書」といいます)上場企業における非上場化を伴うMBOの件数はもっとも多かった昨年が10件程度、今年も5月までで6件程度ということですから、ご関心の薄い方も多いかもしれません。しかしながら、①市場の活性化を図るためには、入場審査だけでなく出口からの退場方法についても予見できることが不可欠であること、②親会社による子会社の上場を原則として認める以上は、その非公開化についても「構造上の利益相反問題」を伴う点ではMBOと同様の議論が可能であること、③買収防衛策の議論と同様、会社と株主との関係について、会社法と証券取引法(金融商品取引法)のどちらで議論をするのか、たとえば少数株主保護については仮処分も含む司法判断を念頭において議論するのか、それとも罰則を含む行為規範による事前規制を念頭において議論をするのか、など、たいへん興味深い大きな論点を含んでいることなどから、今後おおいに議論が盛り上がるのではないかと勝手に想像しております。

ところで、MBOの素人である私にとりまして、MBOに関する報告書がなぜ企業価値研究会から公表されるのか、よく理解できていないところであります。MBO(マネジメントバイアウト)と企業価値というのは、いったいどういった関係に立つのでしょうか?ホントは当たり前に関係しているようで、じつはよくわかっていなかったりするんじゃないでしょうか?いちおうこの報告書の題名が「企業価値の向上のための経営者によるMBO」とありますし、報告書の7ページには「MBOを行うことの合理性については、MBOが当該企業の企業価値の向上を企図しているものであるかという点がポイントになるものと考えられる」とされております。では、どういった場合が企業価値の向上を企図していない、つまり合理的ではないMBOかといいますと、「株主の利益を代表すべき取締役が、その責務を果たさないで株価が低迷しているような場合に、当該低迷している株価を奇貨として単に取締役自らの利益追求を目的として行われるようなMBO」と考えておられるようであります。しかし、買収防衛策の場合には企業価値を毀損する買収者・・・といった概念が想定されるとしましても、はたしてMBOの場面において企業価値を毀損するようなMBOというのは想定されるのものなのでしょうか?取締役が私利私欲のためにMBOを敢行する、といったことが例示されておりますが、これは株式の時価総額そのものを企業価値と考えていることを前提とされているように思えますが、そもそも株式の時価総額と企業価値とはベツモノと考えるべきなのではないでしょうか?つまり、取締役が怠慢によってある企業の株価が低迷しているとしても、その企業の真の企業価値は別に概念されるものでありますから、先の例はMBOが企業価値を向上させるものであるかどうかをポイントにしなければならない理由とはなりえないような気がするのであります。現に、この報告書のなかにおきましても、かならずしも企業価値を向上させることのないMBOであっても、株主が納得して判断を行っているかぎり、否定されるべきではない・・・との意見が出されているようでありますし(その意見へ賛同するかどうかは別にしまして)、企業価値向上の有無と、MBOの合理性判断とはあまり関係がないのではないか、取締役が私利私欲のためにMBOを敢行していたとしても、それは単に時価総額が低迷しているといった事実を(当該取締役が)利用しているにすぎず、そういった場合でも結論としてMBOによって企業価値が向上されるケースはいくらでもあるのではないか、と思う次第であります。この報告書の論点整理のなかにおきまして、MBOを行う上での尊重されるべき原則として、この企業価値を向上させるMBOか否かという点が判断基準となることが明記されておりますが、この非常に曖昧な「企業価値」といった言葉を用いて判断基準とすることは、議論の中身をも曖昧にしてしまい、少数株主の利益保護の要請との詳細な検討を回避する理由として使われてしまうのではないか、といった危惧を抱いてしまいそうであります。

先週月曜日、GCA代表の佐山先生の講演をお聞きしましたが、株式の時価と、企業価値とはまったく異なるもの・・・といった解説をお聞きした記憶がございます。もしそうであるならば、そしてかりに企業価値向上といった判断基準を検討するのであるならば、まずMBOを論じる場面におきまして、「企業価値」と株式の時価との関係について明確にしていただきたいと思いますし、たとえばTOB開始時点より過去6ヶ月間の平均値にプレミアムを20%上乗せしたTOB価格と、取締役が評価根拠とすべき第三者機関作成にかかる「株価算定評価書」に登場してくる株価(及びその算定方式)との関係につきましても、そもそも単純に比較していいものなのかどうか、明確にすることが前提となってくるのではないでしょうか。MBOの場面におきまして、もっとも問題となるのは、企業価値向上のために上場会社が非公開化を目指すことは当然の前提でありまして、むしろそういった企業価値向上を目指すものであったとしても、取締役と株主との利害が対立する必然性を有した交渉ゴトであるがゆえに、そのルールをどうやってみつけるのか・・・といったところではないかと考えております。したがいまして、企業価値云々といったところで「いいMBO」と「悪いMBO」を判断することは議論の深化を妨げはしないかと心配するところであります。(あまりにもたくさんの論点がございますので、またおりにふれて、不定期にて続編を書かせていただきます)

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2007年8月 3日 (金)

株主への利益供与禁止規定の応用度(その2)

さて、昨日のエントリーの続きであります。株主等の権利行使に関する利益供与禁止規定が、総会屋対策以外にも検討される場面としまして、「なおとさん」からご指摘のありましたように、親子会社における支配権濫用事例や、従業員持株会への奨励金交付、支配権維持のための第三者割当などもここに含めて検討されるべきものだと思いますが、あまりいろいろなものを持ち出しますと、ブログが終わらなくなってしまいますので、最近話題になっておりますものを優先させていただきます。

そもそも、総会屋対策(株主総会の健全化)を図るために昭和56年の商法改正で「株主等への利益供与禁止」規定ができあがったわけでありますが、昨日よりご紹介しているような事例でも問題とされているところから明らかなように、条文のうえでは、総会屋への利益供与だけに限って規定しているものではありません。したがいまして、利益供与罪(刑事規制)の本質とか保護法益は何か・・・という点につきましては、(1)会社資産の浪費防止と(2)株主の権利行使の適正化といったふたつの本質が並存しているものと考えるのが通説のようであります。そして保護法益につきましても「会社運営の健全性の保持」とされ、そこでは一次的には会社資産と株主権が保護法益と解されているようでありますが、二次的には株式会社制度に対する社会の信頼、といった社会的法益を保護する面もあるものとされております。(このあたり、よくまとまっているのが「会社法A2Z」第18号新会社法罰則の研究、における川崎友巳先生の解説であります。)

しかし、こういった利益供与罪の本質とか「保護法益」に関する解説を理解しましても、現実の事案がスッキリ整理できるかといいますと、実際のところ、よくわかりません(笑)具体的な例としましては、たとえば大株主と会社経営者とが経営方針について対立しており、その採決が注目されるような総会におきまして、会社経営者側が議決権行使書を送付した一般株主に対して500円の商品券を交付するような場合、これは会社としての利益供与行為に該当するのでしょうか?これは民対民の紛争に発展する典型的なケースですし、実際にも総会決議取消訴訟が提起されている某事案にも似ているかもしれません。こういったケースを先の利益供与罪の本質とか保護法益の議論を参照にしながら、検討してみたいと思います。なお、利益供与に関する会社法上の刑事規制、民事規制は以下のとおりであります。

株主の権利の行使に関する利益供与の罪)
第九百七十条  
第九百六十条第一項第三号から第六号までに掲げる者又はその他の株式会社の使用人が、株主の権利の行使に関し、当該株式会社又はその子会社の計算において財産上の利益を供与したときは、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2  情を知って、前項の利益の供与を受け、又は第三者にこれを供与させた者も、同項と同様とする。
3  株主の権利の行使に関し、株式会社又はその子会社の計算において第一項の利益を自己又は第三者に供与することを同項に規定する者に要求した者も、同項と同様とする。
4  前二項の罪を犯した者が、その実行について第一項に規定する者に対し威迫の行為をしたときは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
5  前三項の罪を犯した者には、情状により、懲役及び罰金を併科することができる。
6  第一項の罪を犯した者が自首したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。

(株主の権利の行使に関する利益の供与)
第百二十条  
株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。
2  株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社又はその子会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。

3  株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを当該株式会社又はその子会社に返還しなければならない。この場合において、当該利益の供与を受けた者は、当該株式会社又はその子会社に対して当該利益と引換えに給付をしたものがあるときは、その返還を受けることができる。
4  株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(委員会設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。
5  前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。

こういったケースでたいへん参考になりますのが、「利益供与ガイドライン」(東京弁護士会編 商事法務研究会発行)であります。この本のなかで、(民事規制に関するものではありますが)①総会出席株主への手土産の提供、②日当の支給、③交通費の支給に分けて、これが会社による株主への「利益供与」に該当するかどうか、解説がされております。そして、日当支給については利益供与、交通費支給は該当しない、手土産につきましては「一般社交的儀礼の範囲内かどうかを検討せよ」とされております。株主が権利を行使するかどうかは自由であり、義務ではありませんので、たしかに日当支給というのはおかしいように思われます。交通費につきましては、株主が議決権を行使しやすい環境を整備することについては会社側の事務手続きの範囲内といえそうでありますので、これは利益供与には該当しないというのも理解できそうであります。こういった基準を参考にして、自宅から議決権行使書を発送した株主が500円の商品券をもらえる・・・といった制度はどう考えるべきなのでしょうか?「交通費基準」とは明らかに違うように思えます。どちらかといいますと議決権行使書送付の「対価」として考えるのが素直かもしれません。ただ、総会に出席した人だけが「手土産」をもらえるのであれば、その「手土産」に代わるものとして郵送料を安くするために議決権行使書を送付した株主には「商品券」を送付する、というのも、平等といえば平等といえそうでもありますね。その手土産が500円相当のものであって、社会常識からみても「儀礼的なもの」であれば、利益供与にはあたりまんせんので、この500円の商品券も利益供与には該当しない、といった結論になるのかもしれません。(いやいや、「手土産」というものはわざわざ会場まで足を運んでくださった株主様だからこそお渡しするものであって、自宅から議決権を郵送した人とは区別すべきものである・・・といった反論もあるかもしれません)また、この500円という金額と配当金額との割合を検討する必要もありそうですね。さらに、もし「利益供与」に該当するのであれば、議決権行使書を送付した株主はこの利益を返還する必要があるわけですが、これはたいへんな事後処理が必要となりますので(このあたりが、法律制定の際には予想されていなかった場面ではないかと思われます)、この事後処理のことを考えますと、利益供与は認められにくいのではないか・・・とも思われます。

すこし見方が変わりますが、この500円の商品券というのは、本当に「議決権行使」の対価といえるのでしょうかね?いまのご時勢、ちょっとアンケートに回答しただけでも、500円相当のカードとかもらえたりしますよね。このあたりは、利益供与禁止規定というものが、利益と対価である「株主の権利行使」との牽連関係をどこまで要求するか、によっても結論が異なるように思えます。議決権行使が500円という商品券の価値とつりあっているのかどうか、大株主に賛同するか、経営陣に賛同するか、どちらかわからない議決権行使を誘引することが、果たして利益供与罪の保護法益を侵害しているといえるのかどうか、微妙なところではないでしょうか。なお、株主の権利行使をお金で誘引すること自体もってのほかである、として、あまり牽連関係が認められなくても「利益供与」にあたる、とする立場(つまり、刑事規制としての利益供与罪について、その社会的法益保護を重視する立場)からは、金額の多寡にかかわらず問題である、との結論に達することになりますが、刑事規制が存在する利益供与問題につきまして、そこまで漠然と構成要件を広げてしまいますと、予見可能性が薄れてしまって、あぶなっかしい規定になってしまうような気がいたします。

なお、kazuさんのコメントへの回答になっているかどうかは微妙でありますが、たとえ「利益供与」に該当しないとしましても、この500円の商品券が、当該企業の販促活動、つまり損金として扱えるかどうか、といった問題が残ることになりそうです。企業は営利法人でありますので、一般の株主優待制度につきましては「販促活動費」として取り扱っているものと思われます。したがいまして、販売促進のために認められる範囲のものであればよいのですが、それを超えたもの(たとえば実質的には利益の分配)とみなされる場合には、違法配当だったり、会社資産の浪費だったりするわけですから、取締役の善管注意義務違反行為に該当するのではないか・・・といった問題が別途生じることとなります。

この問題も、著名な弁護士の方が「利益供与が問題である」と明言されていらっしゃいますので、まだまだいろんな論点があるのかもしれませんが、私個人としましては、結論的にはとりあえず会社が利益供与をしたとまでは言えないのではなかろうか・・・と思いますが、皆様はいかがでしょうか?

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2007年8月 2日 (木)

株主への利益供与禁止規定の応用度(その1)

今週はGCAの佐山展生先生の企業価値に関する講演、中央大学法科大学院の野村修也先生のM&A最前線に関する講演などを直接お聞きする機会に恵まれ、また先週は同じく中央大学の大杉先生、そしてこのブログでもおなじみの「酔狂さん」とお食事を供にする機会にも恵まれまして、とても外からのシゲキの多かった2週間でありました。野村先生とは本日はじめてお話させていただきましたが、名刺をご覧になるなり「あれ?あのブログを書いてらっしゃる方ですよね?読んでますよぉ~♪日経出てましたよね?」(やっぱり日経に採り上げていただいた効果はかなり大きかったかも・・・・・)お世辞ではなく、野村先生の企業再編に関する解説は非常にわかりやすく、有益だと思いました。法制度としての再編行為の経済的な意味を上場企業、閉鎖企業、ベンチャー企業それぞれの立場から考えて、その法制度の長所短所を解説する手法というのは、まさに全体の理解があるからこそなしえるものであり、ブルドック東京地裁決定へのご批判については異論があるものの、三角合併の位置づけを含め、たいへん勉強になりました。

さて本日午前中に、ある上場企業の役員セミナーでもお話させていただいたのですが、取締役のコンプライアンス経営の論点として、最近経済刑法関連の問題がにわかに浮上してきているような気がいたします。「経済刑法」という分野は、そもそも取締法規でありますので、企業(経営者)と行政庁(検察庁とか、証券取引等監視委員会とか、公正取引委員会など)とが対峙する事案が容易に想像できるわけでありますが、そういった場面ではなく、敵対的買収事案のように「民間対民間」といった構図のなかで、この経済刑法がどのように活用されていくのか・・・といった論点であります。先日、どなたでしたか、村上ファンドのインサイダー取引関連のエントリーのなかにおきまして、「私はこれから5%以上の株式を買うつもりです」と一般株主が買収希望者に電話で告げただけで、その後の買い進める行動はインサイダー取引に該当するので、それが最良の防衛策になるのではないか・・・との意見を述べておられましたが、この例(果たしてそれが有効なものかどうかは別として)などは、内部者取引に関する刑事罰の脅威を利用することによって、民間対民間の関係において武器として使用することを目的としたものであります。

ひとつ気になりますのは、「民間対民間」の紛争に刑法規定を活用するといいましても、その活用がどれだけ相手方に対して「刑事罰の脅威」としてプレッシャーを与えることができるかにつきましては、別個の考慮を要することであります。といいますのは、警察や検察は、ご自分たちが民事紛争の解決策として利用されることを極度に嫌う傾向がありますので、(そりゃそうですよね、一生懸命捜査した後で、「示談が成立したので、告訴は取り下げますね」などと言われる立場になれば、誰だって最初から本気で捜査したくなくなるはずであります)包括条項を使って安易に立件する傾向は回避するはずでありますし(一般人が包括条項違反で告訴もしくは告発してくるケースが増えてしまいますよね)、たとえ告訴を受理する方向で検討されたとしましても、できるかぎり民、民での解決を待って民事刑事の裁判の齟齬を回避することを考えるからであります。したがいまして、ここで問題としますのは、「ひょっとしたら、あなたの行動は違法なものかもしれませんよ。法令違反行為として取締役の責任追及を受ける可能性がありますよ。刑事訴追の可能性すら孕んでいますよ。」といった警告を発して、自らその行為を思いとどまらせて、妨害を排除することを企図することを念頭においております。

そういった意味で、以前にも少しエントリーのなかで書かせていただきましたが、経営者のコンプライアンス問題として捉えますと、インサイダー取引リスクと「株主権の行使に関する利益供与の禁止規定」違反リスクをワンセットとして、それらのコンプライアンス上のリスク管理について検討しておくことが肝要ではないか、と考えております。インサイダー取引につきましては、課徴金制度がございますので、すこし状況が異なるかもしれませんが、株主への利益供与に関する会社法上の民事規制、刑事規制をどう考えるのか、といった点はかなりリスク管理の観点から重要ではないかと思います。とりわけ最近は、①議決権行使株主に対してのみ株主優待券を配布する経営者の行動②ブルドックソースが買収防衛策の一環として敵対的買収者を排除する目的で23億円を支払った行動③そもそも議決権を相手方会社の経営者のために行使することの見返りとして、相互に利益を与え合う関係となる「相互株式持合い」制度、など、いずれも「総会屋対策」として規定されたはずの株主への利益供与禁止規定違反が疑われているケースであります。これらのケースにつきましては、かなり著名な法律実務家の先生方が、「利益供与禁止」に反するのではないか、と問題を提起されておられますので、本当に株主権行使への利益供与に該当するのかどうか(もしくは該当する可能性が高いのか低いのか)、そのあたりをきちんと検討しておくことも有意義ではないでしょうか。株主権行使に関する利益供与問題について、このような規定が刑事上もしくは民事上なぜ禁止されることとなったのか、制度趣旨はなにか、保護法益はなにか、構成要件はどう解釈すべきなのか、といった刑法分野特有の論点について検討をくわえ、その規定の応用度(どこまで民民の紛争のなかで武器として活用できるか)を考えてみたいと思っております。なお、私個人の見解をブログで述べるにすぎず、学者さんのように精緻な調査検討に基づくものではございませんので、少々ラフな物言いになることをご了解ください。(以下、続きます)

PS

grandeさんの4代目ブログをリストに追加しました。

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2007年8月 1日 (水)

金融商品取引法制パブコメ回答集(速報版)

こんばんは、山口利昭です。金融庁から遂に出ましたね、金融商品取引法制に関する意見の概要と金融庁の考え方 & 政令案・内閣府令案等に対するパブコメ結果と金融庁の考え方 とりわけ後者は700ページを超える大部でありますし、ともかく金融庁の見解がてんこ盛りですから、今後いろいろなところでこの解析が始まることでしょうね。しかし、このような大作、皆様はきちんとプリントアウトして解析されるんでしょうかね?これ、印刷して製本するだけでもたいへんですよね(^^;;

私的に関心の高いところも多いのでありますが、このブログにお越しの皆様にとって最大関心部分はなんといいまいしても「財務報告に係る内部統制報告制度」に関するパブコメ結果と金融庁の回答だと思われますが、この「政令案・府令案パブコメ結果」のほうの133ページから139ページにかけて記載されております。一読して、先に公表されております企業会計審議会の意見書の中身を超えるようなものはそれほど見当たらないようにも思えますが、ざっと目を通しただけですので、また皆様方の印象などございましたらお教えくださいませ。ただ、金商法24条の4の4関連の項目16あたり(ページ数でいいますと136ページあたりでしょうか)に、財務報告に係る内部統制報告の評価範囲などが不明確なので、記載例などもうすこし示してほしいとの要望に対して、金融庁は各企業の状況の応じて一律ではないとしながらも、今後事務ガイドライン等によって記載例を明示する、と回答されていますね。(今後はやはり金融庁の事務ガイドラインのようなものが作成されるようですね。また内部統制報告書の添付書類は何か?といったエントリーを以前書きましたが、同じようなことを金融庁に問い合わせた方もいらっしゃるみたいですね。笑 ちなみ今後検討のうえで決定されるようであります。)

その他、法定化されました「経営者確認書」につきましては、技術的な部分がほとんどでありますが、四半期開示制度につきましてはどうなんでしょうか?(まだ目を通しておりません)会計士の先生方のブログなどで概説いただけますとありがたいです。本日は、村上ファンド事件を題材にして、経済刑法関連のエントリーを企画しておりましたが、急遽速報版に変更させていただきました。

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