弁護士人材紹介と弁護士法72条(その2)
昨日の「弁護士の人材紹介と弁護士法72条」のエントリーについて、m.nさんよりコメントをいただきました。
あくまでも弁護士資格を持った方を斡旋するだけで、特定の法律事件等に関してのみ紹介するといったことでなければいいのかもしれませんね。つまり、派遣元の会社は弁護士資格をもった人材を派遣する。そしてその後に法律事件が発生し、弁護士資格をもった人がいるからということで法律事件に関与させるのは派遣先の会社の勝手ということかもしれません。 |
弁護士法72条の解釈として「事件性必要説」に立脚するものですね。つまり、72条により弁護士の紹介行為として禁止されているのは「事件性のある(争訟性のある)法律事務」を行う場合のみを指すのであって、事件性の存在しない法律事務については紹介行為(周旋行為)は72条違反にはならない・・・といった解釈を前提とするということでしょうか。これは法律事務を弁護士資格を保有する者が独占するにあたり、隣接他業種の方々の法律事務をどこまで認めるか・・・といった場合にも問題となる論点であります。しかし、特定の法律事務に関してのみ紹介するものではないとしても、派遣先では事件性のある法律事務を扱うことを予想しながら(つまり、事件性のある法律事務にはつかないことを誓約することなく)弁護士を紹介(派遣)することについては、そもそも紹介時点において潜在的には事件性のある法律事務を(業務として)周旋していることにはならないでしょうかね?弁護士の人材紹介を欲する派遣先企業としては、そもそも弁護士資格者のリーガルマインドに期待をして採用するのではなく、(コンプライアンス経営への期待に応える、とありますが、そこまで日本の企業が弁護士に対して寛容だとは思えないのであります)やはり「何かあったときに、すぐに事件に対応できる資格」に期待をしているからこそ、要望があるんじゃないでしょうか。そうしますと、やはり派遣先では「事件性」を有する法律事務への対処を(弁護士が)求められることになるはずでありますから、そういった業務に就任する弁護士の履歴書を登録した段階で、派遣元企業としては事件性のある法律事務を業務として周旋する者・・・とみなされてしまうような気もいたします。
こういった弁護士人材派遣に関する企業の要請としては、おそらく知的財産権の管理に関する需要に由来しているのではないでしょうか。たとえば企業グループにおいて、子会社および子会社従業員が保有する知的財産権を、親会社が一元管理しておきたい場合とか、信託法の改正によって活用が期待されている知的財産権信託制度を利用したい場合などにおきまして、親会社による管理行為、知財信託における受託者などにみられるように、権利売買や権利保全管理行為など、一般に法律事務と称される業務において弁護士資格保有者を活用せざるをえない状況にあると思います。そして、そういった知的財産権や信託に強いスペシャリストを紹介したり派遣することへの企業社会からの要請はかなり高いものがあろうかと思われます。「企業における法令遵守(コンプライアンス)への意識が高まっている」ことも事実だとは思いますが、だからといって、(私が申し上げるのもちょっとヘンなのですが)直ちに弁護士資格を保有している者が、企業のコンプライアンス経営に有用性を発揮できる・・・と考えるのは、すこし短絡的のような気もいたしますが、どうでしょうか。
また、弁護士の側からみますと、もしこういった紹介(周旋)制度が弁護士法72条に抵触するおそれがあるとなりますと、違法な周旋行為によって紹介を受けた弁護士として、弁護士法27条により問題とされる「非弁提携弁護士」になってしまう可能性が残りますよね。こういった周旋行為が明白に弁護士法72条に抵触しない、といった「お墨付き」がないと、27条違反のリスクを背負ってまで、こういった紹介制度に登録しようといった気持ちにはなかなかなれないように思います。(ちなみに、私はけっしてこのご商売を批判しているものではなく、むしろ積極的に派遣や紹介を行っていただきたいと願うほうであります。ただ、登録する側の弁護士にとって、安心して登録できるようなスタイルにしていただく必要があるのではないか・・・と思う次第であります)私自身、もはや18年ほど、「弁護士会」のなかにどっぷりと浸っておりますので、頭の中にカビが生えてしまうほど、弁護士会的発想から脱却できないのかもしれませんが、この弁護士法72条、27条問題につきましては、弁護士会的な解釈はコンサバでありますし、世間での通用力もあると思いますので、(制度自身につきましてはおおいに共感できるところがあるものの)、人材紹介制度のあり方について、もうすこし適法性を明確に説明していただければ・・・と思うのであります。
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コメント
私のコメントにコメントを付けていただいてありがとうございます。まさか、自分のコメントがエントリー中に引用されるとは思ってませんでしたので、少し吃驚しております(汗)
>派遣先では事件性のある法律事務を扱うことを予想しながら(つまり、
>事件性のある法律事務にはつかないことを誓約することなく)弁護士を
>紹介(派遣)することについては、そもそも紹介時点において潜在的に
>は事件性のある法律事務を(業務として)周旋していることにはならな
>いでしょうかね?
私も前回のコメントを書いていて思ったのがこのことでした。企業が法曹資格所有者を必要とする理由はやはり事件性のある法律事務をやらせたいと思うからだと思います。
おっしゃっている通り、知的財産の分野でも需要はあるかと思います。ですが、この分野はかなり専門性の高い分野ですから派遣元の会社がどれだけ良い人材を雇うことができるかというと難しいかもしれませんね。それだけ良い人材ならローファームがほっとかないと思いますし。
また、コンプライアンス経営の実践に一番重要なのが個人個人の意識のはずですから、確かに弁護士が居たとしても余り関係ないように思えますね。
そうなると、弁護士を派遣してもらうのと、弁護士事務所に顧問になってもらうのとどう違うかという色分けも明確にしなければいけなくなってしまいますね。派遣してもらう方が格段に安い、といった利点がないと派遣先企業も、弁護士法72条に抵触する可能性があるかもしれない派遣元企業の人材を使うリスクとの兼ね合いを考えなければいけないですし。
こういうのはやはり一度裁判沙汰かなんかになって判例を残していただかないと合法・非合法といったのが明確にでないんでしょうねえ・・・。ただ新しいビジネスモデルとしては良いのではないかと思います。
だらだらと長文・乱筆になってしまい失礼しました。
投稿: m.n | 2007年8月31日 (金) 00時34分
・営利企業Aが、弁護士Bを講師として有料のセミナーを主催する。
・同セミナーを受講した企業担当者Cは、講師を務めた弁護士Bにその後コンタクトをとり、ある事件を委任する、または法律相談を持ち掛ける。更には顧問契約を締結する。
なぁーんてことは時々ありますよね? この場合、明示はしないまでも、AもBもCもそういうことを、最初から多少なりとも期待して(狙って)、ということもあるんじゃないでしょうか(少なくとも、結果的にそういうことになりました、とは必ずしも言い難い場合もあるような…)。
とすると、該社のビジネス・モデルはこれといかほどの径庭があるのでしょう。目的が相当程度純化されただけで、所詮程度差に過ぎないような気もします。弁護士法72条はあんまり問題にならないんじゃないでしょうか。
該社のHPには「法曹界のサポート」とあります。ということは、このビジネスは企業ニーズに即応するものいうよりは、法曹界ニーズに応えるということが第一義なのでしょうか。つまり、「供給過多になりつつあるため、黙っていても客がくる時代訳ではない。だから客を探してくれ。」という訳。
他方、企業側はどうでしょう。余りニーズがあるとは思えませんが、あるとすると、中小・新興のところでしょうか。つまり、「法務専任者も専門部署もない。コンプラがうるさく言われる世の中なので、一人くらい専任者を置きたい。しかし、どういう人がいいのか判らずなかなか求人できない。有資格者=弁護士なら大丈夫だろう。でもウチみたいに中小・無名のところに来てくれる弁護士なんているのだろうか。法外の報酬をふっかけてくるんじゃないだろうか。」…という訳でエージェントの出る幕もあるのかなぁ、と思います。なかなか固定クライアントが見つからない弁護士と弁護士のアテがない企業とをマッチングさせる”結婚相談所”的なものと理解するとそれなりにニーズがありそうな気もします。その際、「需要」を喚起するキーワードとしては、やはり「コンプライアンス」が一番手っ取り早いのでしょう。
蛇足ながら、この会社の出資者に個人の方が1名いらっしゃいますが、この方は著名な弁護士さんではないでしょうか(同姓同名なら見当違いですが)。とすると、やはり「弁護士の、弁護士による、弁護士のための」ということになるんじゃないでしょうかね・・・。
投稿: 監査役サポーター | 2007年9月 1日 (土) 00時34分
>m.nさん
ちょっと私も言葉の遣い方があいまいだったかもしれません。
「弁護士の人材紹介」というのが、社内弁護士の紹介なのか、顧問も含めての紹介なのか、区別して考えるほうが議論が整理しやすいかもしれませんね。外部第三者であることと、社内弁護士であることとは、派遣元と派遣先による「指揮監督関係の競合」といった意味合いが異なるように思われます。
また、こういったビジネスモデルの場合、企業側が弁護士の「なに」に期待をして紹介を要請されるのか、そのあたり千差万別ではないかと思っています。ありきたりのマッチングシステムでは、なかなかビジネスとしては成り立たないと思いますので、そのあたりのノウハウの蓄積が必要でしょうね。
>監査役サポーターさん
いつもながら、ご指摘ありがとうございます。
ご指摘のとおり、中小、新興企業さんがターゲットではないかと思います。また「弁護士の・・」といったあたりも、(推測ではありますが)当たっているかもしれません。
セミナーの件はむしろ弁護士広告との関係で問題になったことはありますが、72条との関係では(弁護士以外の者が法律業務を行うという前提が欠けますので)あまり問題にはされていないようです。やはりここでは、業として紹介業務を行う・・・といった点が大きな論点になるんでしょうね。そこで経営陣に法律資格者が入っていればいいのでは?といったあたりが問題になるかもしれませんが、現在のところサービサーのように特別な法律がある場合ですら、取締役に弁護士の存在を必要としておりますので、そうった除外事由でもないかぎり、それでオッケーとまでは言えないように思います。(といいますか、弁護士は監督官庁がないぶん、弁護士会による監督には非常に神経を使います)
投稿: toshi | 2007年9月 3日 (月) 11時49分