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2007年8月 5日 (日)

企業価値研究会「MBO報告書」

8月2日、経済産業省HPに企業価値研究会による「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する報告書」が公表されております。(以下、このブログでは「MBO報告書」といいます)上場企業における非上場化を伴うMBOの件数はもっとも多かった昨年が10件程度、今年も5月までで6件程度ということですから、ご関心の薄い方も多いかもしれません。しかしながら、①市場の活性化を図るためには、入場審査だけでなく出口からの退場方法についても予見できることが不可欠であること、②親会社による子会社の上場を原則として認める以上は、その非公開化についても「構造上の利益相反問題」を伴う点ではMBOと同様の議論が可能であること、③買収防衛策の議論と同様、会社と株主との関係について、会社法と証券取引法(金融商品取引法)のどちらで議論をするのか、たとえば少数株主保護については仮処分も含む司法判断を念頭において議論するのか、それとも罰則を含む行為規範による事前規制を念頭において議論をするのか、など、たいへん興味深い大きな論点を含んでいることなどから、今後おおいに議論が盛り上がるのではないかと勝手に想像しております。

ところで、MBOの素人である私にとりまして、MBOに関する報告書がなぜ企業価値研究会から公表されるのか、よく理解できていないところであります。MBO(マネジメントバイアウト)と企業価値というのは、いったいどういった関係に立つのでしょうか?ホントは当たり前に関係しているようで、じつはよくわかっていなかったりするんじゃないでしょうか?いちおうこの報告書の題名が「企業価値の向上のための経営者によるMBO」とありますし、報告書の7ページには「MBOを行うことの合理性については、MBOが当該企業の企業価値の向上を企図しているものであるかという点がポイントになるものと考えられる」とされております。では、どういった場合が企業価値の向上を企図していない、つまり合理的ではないMBOかといいますと、「株主の利益を代表すべき取締役が、その責務を果たさないで株価が低迷しているような場合に、当該低迷している株価を奇貨として単に取締役自らの利益追求を目的として行われるようなMBO」と考えておられるようであります。しかし、買収防衛策の場合には企業価値を毀損する買収者・・・といった概念が想定されるとしましても、はたしてMBOの場面において企業価値を毀損するようなMBOというのは想定されるのものなのでしょうか?取締役が私利私欲のためにMBOを敢行する、といったことが例示されておりますが、これは株式の時価総額そのものを企業価値と考えていることを前提とされているように思えますが、そもそも株式の時価総額と企業価値とはベツモノと考えるべきなのではないでしょうか?つまり、取締役が怠慢によってある企業の株価が低迷しているとしても、その企業の真の企業価値は別に概念されるものでありますから、先の例はMBOが企業価値を向上させるものであるかどうかをポイントにしなければならない理由とはなりえないような気がするのであります。現に、この報告書のなかにおきましても、かならずしも企業価値を向上させることのないMBOであっても、株主が納得して判断を行っているかぎり、否定されるべきではない・・・との意見が出されているようでありますし(その意見へ賛同するかどうかは別にしまして)、企業価値向上の有無と、MBOの合理性判断とはあまり関係がないのではないか、取締役が私利私欲のためにMBOを敢行していたとしても、それは単に時価総額が低迷しているといった事実を(当該取締役が)利用しているにすぎず、そういった場合でも結論としてMBOによって企業価値が向上されるケースはいくらでもあるのではないか、と思う次第であります。この報告書の論点整理のなかにおきまして、MBOを行う上での尊重されるべき原則として、この企業価値を向上させるMBOか否かという点が判断基準となることが明記されておりますが、この非常に曖昧な「企業価値」といった言葉を用いて判断基準とすることは、議論の中身をも曖昧にしてしまい、少数株主の利益保護の要請との詳細な検討を回避する理由として使われてしまうのではないか、といった危惧を抱いてしまいそうであります。

先週月曜日、GCA代表の佐山先生の講演をお聞きしましたが、株式の時価と、企業価値とはまったく異なるもの・・・といった解説をお聞きした記憶がございます。もしそうであるならば、そしてかりに企業価値向上といった判断基準を検討するのであるならば、まずMBOを論じる場面におきまして、「企業価値」と株式の時価との関係について明確にしていただきたいと思いますし、たとえばTOB開始時点より過去6ヶ月間の平均値にプレミアムを20%上乗せしたTOB価格と、取締役が評価根拠とすべき第三者機関作成にかかる「株価算定評価書」に登場してくる株価(及びその算定方式)との関係につきましても、そもそも単純に比較していいものなのかどうか、明確にすることが前提となってくるのではないでしょうか。MBOの場面におきまして、もっとも問題となるのは、企業価値向上のために上場会社が非公開化を目指すことは当然の前提でありまして、むしろそういった企業価値向上を目指すものであったとしても、取締役と株主との利害が対立する必然性を有した交渉ゴトであるがゆえに、そのルールをどうやってみつけるのか・・・といったところではないかと考えております。したがいまして、企業価値云々といったところで「いいMBO」と「悪いMBO」を判断することは議論の深化を妨げはしないかと心配するところであります。(あまりにもたくさんの論点がございますので、またおりにふれて、不定期にて続編を書かせていただきます)

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コメント

私もtoshiさんと全く同じことを感じます。複雑な要素が絡み合っている企業活動の評価を単純化して分析してしまうことの危険性は、MBOに限らずあるものと思います。

それと、私も企業価値研究会の報告書にざっと目を通して思ったのは、具体的な事例の検討からではなく、一般論に終始している危険性を感じました。経済行為(経済犯罪?)は、単純な倫理基準や指数評価で判断できるものではなく案件毎に複雑に種々のことが絡み合っており、ルールは具体的な事例から学び取って作るべきものと私は思っています。例えば、COSO報告書にしても、粉飾決算に関する具体的な事例の調査を基としてのレポートであるから価値が高いと私は思います。

投稿: ある経営コンサルタント | 2007年8月 5日 (日) 12時07分

株価と企業価値の理論的関係は、それだけでもいろいろ論点がある問題なので、それは後日ということにしておきます。

単純に考えて、企業経営者は、事業環境、業界状況その他諸般の事情に一番通じているといっていいでしょうが、そういう経営者はどういう動機でMBOを実施しようとするのでしょう?
批判する側からは、自己の利益を図る形でMBOを実施するおそれがあるといわれますが、具体的にどういうような形で自己の利益を図るのでしょうか?
ひとつは、できるだけ低い価格でMBOをするという価格面でのMBOの問題性を取り上げることがありますが、これだけが唯一のMBOの問題なのでしょうか。
それ以外に、そもそも上場したままで事業改革をすることが株主にとっても、その利益に資するということはないのでしょうか。

ほぼ毎回といっていいほど、大胆な経営刷新・経営改革が必要だが、そのためには株主に迷惑になるので上場廃止が必要である、という類の説明がなされるようですが、それって本当なのでしょうか。どれだけ本当に上場廃止が必要なのでしょう。
一般投資家がいる場合の経営には一生懸命ではなくて、上場廃止になって自分達が会社の支配権を掌握し、一般株主が排除された場合の方が一生懸命に経営するのでしょうか。

論じるべき点はいろいろあるように見えます。しかし、本質的には、やっぱり「おいしい」思いをしたいという気持ちがなければ、そもそもMBOなど、考えたりしないのでは? 
その際、MBOをやって上場廃止になって、わずか1年半とか2年とかでまた上場した会社があったら、昔の株主はどう考えるんでしょう?最初は、大胆な経営刷新が必要といっていたし、それなりのプレミアムがあったから応じたけど、何のことはない、経営陣や関係者の一部がしこたま儲けたかっただけじゃないか、ということになりませんか?
結果を見て批判するとようなことも一部あるかもしれないけれど、最初から(うまくいくと)分かっていた可能性が高い場合の方が多いんではないか、と。
こういう取引は、野放しがいいのか、そうすることで失われる信頼があったりしないのでしょうか。誰かの利益を犠牲にしているといえないでしょうか。
いろいろ具体的な場面を想定してみてみると、問題点として何を議論すればいいか分かってくるのではないでしょうか。
抽象的議論だけでは、見損なう論点があると思います。

投稿: 辰のお年ご | 2007年8月 6日 (月) 02時19分

少数株主保護のために行き過ぎたエージェンシー問題を抱えたMBOを規制するとすればよいものを企業価値と絡めるのでおかしくなるのでしょうね。

企業価値を引き上げるのは本来経営者の使命のはずで、MBOでなくともやればいいじゃないかといわれても、説明に困りますね。

買収防衛のように、買収者の提案より、取締役案の方が長期的な企業価値に資する、などと似たようなことが出来ないのでややこしいですね(一時的に大出血するリストラをやっても、MBOの方が企業価値向上に資するって説明できるのなら、株主は売却に応じないでしょうから)。

企業価値というものは定性的に取扱っても定量的に取扱っても、解釈しがたいものですね。定性的に取扱うとおっしゃるとおりあいまいになってしまい、定量的に取扱うと、ブルドックのような、とってつけた数字に過ぎなくなる懸念もありますので。

ただし、MBO=悪 のような風潮は避けてほしいものです。大半のMBOは投資ファンドの力添えを借りるため、仮に再上場できた場合は、長期的には効率性のよい企業になると思われます(そうでなかったら再上場できないので)。トーカロのように、親会社新日鉄のノンコアビジネスとみなされ、他社に売却されそうになったものを、経営陣がファンドを活用して買取、新日鉄時代には経営資源を集中できなかった情報産業部門に売上を伸ばし、再上場できた例もあります。
確かに経営者の株主持分は倍近くになったかと思いますが、それでも経営陣も買収時点でかなりのプレミアムで株式を買っていますし、確か数千万円レベル経営陣も出費していたはずで、リスクもとっています。結果的に設けたかもしれませんが、リスクあってのことで、同じく良いMBO(かどうかまでわかりませんが)を阻害するような議論になってほしくないです。

株主権の大きな異動を伴う取引は基本的にすべての方に利益あることのはずです。たとえ間接的でも(勤務先の年金基金が投資しているかもしれない)、アクティビスト=悪、儲けすぎ批判のような風潮は避けたいですね。

投稿: katsu | 2007年8月 6日 (月) 23時57分

MBOの問題は本質的には、利益相反状況もさることながら、その価格で納得しない株主たちの株式も買い占めることができることにあるものと思います。
MBOの意義として挙げられている取締役に対するインセンティブの付与や、市場からの圧力を避けることなどについては、ある程度の株数を集めてしまえば問題でなくなります。
それを超えて全部の株式を取得する必要があるのはなぜなのか、その必要性は明確ではないように思えます。

また、最終的にスクイーズアウトが予定されている場合、企業価値の向上と支配株主(=取締役)の利益とは一致することになります。
MBOの問題状況から考えて、企業価値の向上を第一の解釈指針に据えるのは、いかがなもんでしょうかね。

投稿: UA | 2007年8月 7日 (火) 02時31分

ちょっと分かりにくくて、気がつかないまますごしてしまいそうだったのですが、MBO報告書とともに実はMBOの指針案も公表されていて、パブコメの受付をしていますね(8月17日まで)。いろいろな議論が盛り上がり、しっかりとした指針が示されることが大切ではないか、と思われます。

「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針(案)」に対する意見募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=595207033&OBJCD=&GROUP=

投稿: 辰のお年ご | 2007年8月 8日 (水) 07時33分

ほんとですね。
意見書案、見逃しておりました。
ご指摘ありがとうございました。>辰のお年ごさん

なお、コメントを頂戴したみなさま、ありがとうございます。
本件につきましては、いろいろと考えている最中でして、もうすこし
時間をいただいたうえで、エントリーのなかで、コメントへの
意見など書かせていただこうかと思っております。

投稿: toshi | 2007年8月 8日 (水) 12時01分

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