家族を不幸にする「インサイダー取引」
8月22日付けにて、金融庁から「証券取引法等の一部を改正する法律の施行等に伴う関係ガイドライン(案)」がリリースされており、そのなかに『「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令(平成19年内閣府令第62号。以下「内部統制府令」という。)」の取扱いに関する留意事項について(内部統制府令ガイドライン)案』も含まれております。個別にまた検討してみたいと思っておりますが、当面は内部統制府令と併せてお読みいただくのがもっとも理解しやすいのではないかと思います。通常、内閣府令が出されますと、その内容を補足するための「ガイドライン」が出されるわけでありますが、注目されるべきところは、このつぎに「Q&A」が出るのかどうか、出るとして「実施基準」の内容を実例に沿ってわかりやすく解説した指針のようなものになるのかどうか、といったところでしょうか。(一時期、Q&Aのなかで実施基準が緩和されるのでは?・・・といった噂も流れましたよね・・・・・)
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よく「インサイダー情報は家族にも話してはいけない」と言われますね。本日、私がこの方からお話をお聞きするまでは、「上場企業における重要事実は、それが公表されるまでは、たとえ家族に話すことであっても、自分が情報提供行為者に該当するおそれがある。また新たな犯罪者を生む可能性もある。」ことを戒めるための言い回しだと認識しておりました。家族が共犯関係にたつほどの「共謀」がありましたら上記の認識のとおりかもしれませんが、じつはそういった意味よりも、もっと重大な意味があることが理解できました。そうです、じつは家族に漏らしてしまった途端、何の連鎖もない家族も情報提供行為者としての疑惑の渦中に巻き込まれてしまう可能性が出てしまい、刑事訴追の時効期間が明けるまでの長く苦しいインサイダー取引の被疑者として、取調べの対象になってしまうことになるわけであります。「私は株をしない」「私は何の利益も得ていない」といった抗弁が通用しないところに家族による共犯疑惑のおそろしさが潜んでおります。
たしかに少しばかりインサイダー取引が立件される過程を想像してみますと、十分考えられるところであります。内偵の対象となりますのは会社だけでなく、対象者の自宅の通信記録なども含みます。たとえば私の顧問先企業が倒産の危機に瀕しているとして、妻に「あの会社、来週会社更生法の申請を出すから、3日ほど家には帰れないよ」とうっかり告げたとしましょう。間が悪いことに信用取引を行っている私の友人が、私の不在に自宅へ電話したところ、妻が「なんだか顧問先がたいへんだということで、3日ほど帰らないようです」などと話してしまいますと、私の友人はピンときて、思わず信用売りによって儲けてしまうかもしれません。こういった事案ですと、客観的な証拠からすれば私と妻と友人がグルになってインサイダー取引を行った疑いが濃厚ですよね。実際、こういった事例は空想のものではなく、けっこう存在するわけでありまして、私も友人も、ある程度疑われても耐えられるところがあるかもしれませんが、取調べの対象となってしまう妻はパニックに陥ってしまう可能性が高いと思われます。実際に取り調べによって精神的な疲労を残してしまうケースもあるようです。家族を不幸に導いてしまうがゆえに家族にすらインサイダー情報は話してはいけない・・・、これがもっとも恐ろしいインサイダー取引規制に関する戒めではないかと思います。自分が犯罪者になったり、犯罪者を新たに生む可能性があるからではなく、犯行とはなんら関係のない家族を犯罪疑惑の真っ只中に追い込んでしまうことのおそろしさ・・・、これこそ留意しなければならないところであります。
以前、インサイダー取引規制と内部統制に関するエントリーを書かせていただき、会社情報の機密管理の重要性を申し上げましたが、「家族」とまでは言えないものの、もし重要事実へのアクセス制限が「ゆるゆる」の企業であれば、証券取引等監視委員会による犯則調査や検察庁における刑事事件捜査の対象者(つまり被疑者)は社員のなかに無限大に拡散していきます。身に覚えのない嫌疑をかけられ(そもそも故意が存在しないはず)、犯罪者扱いされる社員としましては、たまったものではありません。そういった一般の社員の方々を不幸に陥れないためにもまた、インサイダー情報の管理については厳格に対応する必要があると思われます。(たしかインサイダー取引防止へ向けての社内での取り組み等につきましては、証券取引等監視委員会などによる派遣セミナーなどを利用することも可能かと思われます)
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コメント
ちょっと話はズレてみえるかもしれませんが、
裁判員制度のなかで、裁判員は裁判内容を漏らしてはいけない
(ブログなどで一般的な感想を述べることぐらいはOKとか)
ということだそうですが、
そんなもん「漏れないわけがない」じゃないですか(爆)。
裁判官や検事、弁護士はそれでご飯を食べているプロ。
それに対して裁判員に選ばれる一般人は(手当が出るとはいえ)
あくまでも素人です。法曹の世界で生きているわけではありません。
しかもこのネット社会、「王様の耳はロバの耳」じゃないですが、
書きたい喋りたい話したいと思うひとからの情報漏洩を
押し留める方法はないでしょう。
むろん「罪に問われますよ」と釘を刺すんでしょうし、
実際にそういう事例-「喋っちゃったから捕まっちゃった」てなことも
出てくるでしょうが、それって罪びとをいたずらに生産することに
なりませんでしょうか?
司法を市民の手に、
という趣旨の裁判員制度が市民を犯罪者にしてしまう…、
おぞましい限りです
(必ずしも「裁判員制度」自体には反対ではありませんが)。
管理人さまがお書きのようなケースで、家族からたまたまインサイダー的な
情報が故意ではなく結果的に漏れてしまったようなことを「犯罪」とするのは、
冷静に、常識でもって考えてみれば分かるはずのことだと思うのですが
馬鹿馬鹿しくも愚かしい話であります。
社会的生活を送ることを阻害しかねないという意味合いでは
憲法違反ではないかとすら思ってしまいます。
もちろん、一線は引かれて然るべきではありますが
(極力仕事は家庭に持ち込まないのも当然でしょうし)、
公安・司法のやり方に、却って市民生活を脅かしてしまうような部分が
蔓延りつつはないかどうか、関係者におかれましては
留意していただきたくお願い申し上げるばかりでございます。
投稿: 機野 | 2007年8月24日 (金) 10時06分
機野さん、いつもコメントありがとうございます。
>司法を市民の手に、
という趣旨の裁判員制度が市民を犯罪者にしてしまう…、
おぞましい限りです
おっしゃるとおりですね。
市民に「守秘義務」を課す、ということは現実問題としては
「ゆるゆる」の扱いにならざるをえないでしょうね。
それでなくても、裁判員制度に国民参加を促さなければならない
のが現実でしょうから、そこへ持ってきて守秘義務違反を厳格に
適用するとなると、誰も協力しなくなってしまうでしょう。
ブログで公表する・・・となると別かもしれませんが、とりあえず
大阪の場合は2800人に一人の割合で裁判員に選任されるわけで
すから、「経験談」を語りたい人は出てくることは十分予想されます。
いったいどういった運用になるんでしょうかね?
>管理人さまがお書きのようなケースで、家族からたまたまインサイダー的な
情報が故意ではなく結果的に漏れてしまったようなことを「犯罪」とするのは、
冷静に、常識でもって考えてみれば分かるはずのことだと思うのですが
馬鹿馬鹿しくも愚かしい話であります。
長期間に及ぶ内偵を無駄にしたくない・・・といった気持ちが、怖いです。実質的に「無罪」の客観的な証拠が出てきたとしましても、「これで終わり」とは言ってくれないですよね。「またなにかあったら、呼び出しますから」ってことで。
投稿: toshi | 2007年8月24日 (金) 11時51分
夫がインサイダー取引になるといけないから といって怪しいメールを正当理由にして見せようとしません(笑)
投稿: とある妻 | 2015年12月22日 (火) 22時54分