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2007年8月 9日 (木)

ブルドック最高裁決定と事前警告型防衛策の行方(2)

今年6月22日に東証は「上場制度総合整備プログラム2007に基づく上場制度の整備等について」をリリースされ、そのなかで「企業行動規範」を制定する方針について定めておられます。(詳細は、株式会社大和総研の「東証の企業行動規範(案)」解説をご参照ください)この企業行動規範(企業行動に関する行為規範)といいますのは、上場企業に対して、その社会的な信用ある立場にふさわしい行動を求める上場規則(上場ルール)となるわけでして、これまでにも要望事項として公表されているものや、このたび新設される内容などがひとつのルールとしてまとめられるもののようです。(今年10月ころに正式に公表される予定。ルール違反には「勧告」や「公表」などのペナルティあり)この「行動規範(案)」のなかには、たくさんの注目すべき内容が含まれているわけでありますが、「買収防衛策の導入に係る尊重事項」という項目も存在するようであります。

これは、現行の適時開示規則1の3をまとめたものだと思いますが、先の大和総研社の解説によりますと、東証上場企業の場合、買収防衛策を導入する場合には、①開示の十分性、②透明性、③流通市場への影響、④株主の権利の尊重、以上四点について尊重義務がある、とされております。 (なお尊重義務違反にはペナルティとして公表措置がとられることとなります)本日(8月8日)、ブルドック事件の最高裁決定を受けて、スティール側はTOB価格を4分の1に値下げして、期間延長のうえで手続きの続行を公表されたわけでして、今後のTOBの成り行きが注目されるところでありますが、このたびの一連のブルドック事件に関連する法務、税務そして資本市場における株価への影響などを総合的に観察したうえで、すでに導入されている企業の買収防衛策や、今後導入を予定される上場企業のスキームとして、この東証の行動規範に合致する買収防衛策とは、一体どういったスキームとなるのか、検討する必要がありそうですね。事前警告型の買収防衛策と導入した企業(もしくは今後導入しようとされている企業)としましては、「裁判になったときでも、負けない(つまり、買収防衛策発動が差止められない)スキーム」について、まず検討することは当然としましても、それと同時に、こういった各証券取引所が今秋以降に制定される「企業行動規範」のルールに合致することにつきましても配慮が必要なのかもしれません。裁判におきましては、現在の株主の共同利益が確保されるかどうか、といった視点だったものが、行動規範のうえでは、将来の株主(一般投資家)の利益確保といった視点も要求されることになりそうであります。

そこで、先に掲げました防衛策導入の際における尊重義務4点を、もうすこし詳しくお知りになりたいという方は、旬刊商事法務1760号(2006年3月5日号)の論稿「買収防衛策導入に係る上場制度の整備」(当時の東京証券取引所上場部企画担当、飯田一弘氏)をご一読ください。この論稿で解説されているところを要約いたしますと、(1)開示の十分性とは、「買収防衛策に関して必要かつ十分な適時開示を行うこと」(2)透明性とは「買収防衛策の発動及び廃止の条件が経営者の恣意的な判断に依存するものでないこと」(3)流通市場への影響とは「株式の価格形成を著しく不安定にする要因その他投資者に不測の損害を与える要因を含む買収防衛策でないこと」、そして(4)株主権の尊重とは「株主の権利内容およびその行使に配慮した内容の買収防衛策であることと記されております。(先の商事法務の論稿では、さらに詳しい解説がなされております)このたびのブルドック最高裁決定を踏まえて、今後の行動規範に合致したスキーム作りを考えた場合、まず2番目の「透明性」に関するところが問題となりそうでありますが、発動場面において株主総会による特別決議に委ねるといった形式でありますと、極力経営者による恣意的な判断に依存するものとはいえませんので、まずクリアされるところだと思われます。つぎに(3)の流通市場への影響というところでありますが、「投資者に不測の損害を与える要因を含む防衛策」とは、どういった防衛策であるのか、このたびの最高裁決定では微妙な影を落としているのではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。このたびのスキームの相当性判断の場面におきまして、21億円でスティール側の新株予約権を買い取るスキームが、スティールの株主たる権利とは別に、既存株主の利益をもき損しているのではないか、といった考えを最高裁が表明しているようにとれる箇所があるからであります。今回の裁判を教訓としまして、防衛策を導入する企業としましては、事前警告型の防衛策の開示にあたり、大量取得行為を開始した企業に対してどのように対応するのか、詳細に記載する必要があるのかもしれません。ただ、あまり経済的な補填について具体的に書きすぎるのも、なんだか「濫用的買収者」的な方々をあえて登場させてしまう結果にもなりそうですし、このあたりは今後、どなたか有識者の方のご意見でも、うかがってみたい気もいたします。そして(4)の株主権の尊重でありますが、ここにいう「株主権」とは、おそらく敵対的買収を企図する株主も含まれるものと思いますので(そもそも既存の一般株主の株主権が尊重されない場合は、「株主の権利の不当な制限」条項に違反するものとして、別途上場廃止基準に抵触することになると思われますので)、こらまでの一連のブルドック決定の内容からいたしますと、防衛策のスキームと「株主平等の原則」「株主の財産権保障」といったあたりが上手に説明できるかどうか、といったところが検討されるポイントになるのではないでしょうか。

そういえば、先の東証の尊重義務に関する4項目を眺めていて感じたのでありますが、買収防衛策のなかには、「株式を大量保有しようと企図する者が現れた場合、現時点では明確な防衛策を示すわけではないが、何もしないわけではなく、有事にはこれに対抗する手段を講じる用意がある」といったスタイルの防衛策があったように記憶しておりますが、(新日鉄?ダイキン工業?ちょっと曖昧な記憶ですいません・・・)あのような防衛策というものは、第一点目である「開示の十分性」をクリアできるものだったんでしょうか?曖昧な対抗策に関する説明ですと、透明性や流通市場への影響など、ほとんど不明ですし、個別の事前面談の際には問題にはならなかったんでしょうか?いや、それとも「買収防衛策に関する適時開示」にはそもそも該当しない、といったことだったのでしょうか。またご存知の方がいらっしゃいましたら、お教えください。

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ブルドックソースのスティール・パートナーズに対する買収防衛策に対して最高裁判所の [続きを読む]

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