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2007年8月27日 (月)

ブルドック事件と買収防衛策の見直し

スティールパートナーズのブルドックソース株式へのTOBにつきましては、結果的に2%弱の応募があったのみで、結局のところほとんどの株主がTOBに応じないことで幕を閉じたようであります。(もちろん、今後の展開としては再TOBもあり得るわけですが、とりあえず一段落といえそうです)法律雑誌「ビジネス法務10月号」などでも、「ブルドック事件に学ぶ買収防衛策の運用・見直し」なる特集記事が掲載されており、(この特集記事作成時点では未だ最高裁決定が出されていないようでありますが)もうそろそろ有識者の方々の裁判分析や、各社における買収防衛策見直し気運が高まってくる頃ではないでしょうか。私が独立委員会委員を務める某上場企業におきましても、近々、委員が集まって、今後の独立委員会の位置づけや、運用ガイドラインの改訂等協議することが決まりました。

さて、現実問題としては「見直し」が当面の課題かもしれませんが、私はもっと根本的なところで検討すべき問題があるように思えます。あくまでも結果論ではありますが、今回のブルドック事件の場合、TOBの応募状況をみますと、敵対的買収防衛策発動に関する株主総会における議決権行使状況とかなり近接した結果になっているようでありますから、そもそも買収防衛策を発動することにどれほどの意味があったのか?といった疑問が出てきても不思議はないと思います。わざわざ有事に至って買収防衛策を導入して発動することについてどれほどの有用性があったのでしょうか?TOB成立の阻止へ向けた会社側の情報開示や中期事業計画の説明のみで足りたのではないでしょうか?もし、今回の事件におきまして、ブルドック側が買収防衛策を導入していなければ、結論は変わっていたのでしょうか?たしかに「裁判におけるブルドックの完勝」といった結果を見るならば、買収防衛策を発動することいは十分な意味があるように思えます。しかし、どっちみち、ブルドック側がTOBで株式を集められないのであれば、わざわざ導入するまでもなかったんじゃないの?といった素直な意見には合理的な理由があるように思えます。このあたり、法律論というよりも、(敵対的買収者の出現、つまり事前交渉を実質的にはほとんどされなかったTOBの開始というものは、上場企業における一種の危機管理と捉えることができますので)リスクマネジメントとして「買収者出現時の対応方法」としてどう考えるのか、かなり関心の高いところであります。

買収防衛策導入ではなく、「発動すること」を宣言することで、買収者側がTOBの撤回に動くことが十分期待されるような場面であれば、本件のようにいきなりTOBを仕掛けてくる相手方には有効な危機管理手法のように思えます。詳細は不明でありますが、ブルドック側も当初はスティールのTOB撤回への期待というものもあったのではないでしょうか。しかしながら、現実にはTOBの撤回どころか、発動差止の裁判手続き(仮処分申立)に至ったものであり、またTOBの続行にまで至ったわけであります。買収防衛策が発動されたことで、もし買収者側にかなり大きな経済的損失が「合法的に」発生するのであれば、今回の裁判結果も防衛策導入への大きな意味合いを持つのかもしれませんが、株主平等の原則との関係で「買収者の経済的損失の補填を要する」と解釈されるのが一般であるならば、防衛策発動が現実化しても、買収者側として簡単にTOBを撤回してくる可能性は低くなるのではないでしょうか。そう考えますと、やはり高額の補償金を支払うことも含めまして、防衛策導入の意義といったものをもう一度検討するべきではないかと考えております。なお、その検討のなかには、買収防衛策発動にかかる株主総会を実際に開催したことと、TOBの結果との因果関係の検証も当然のことながら含まれるものと思います。

さて、上記はあくまでも「企業のリスク管理」といった観点からの意見であります。そこでは企業固有のリスク評価やその対応策としての合理性を冷静に見つめる作業が必要になるわけでありますが、「そんな悠長なことを言っている場合ではない。敵対的買収の局面はいわば『ケンカ』である。売られたケンカには負けるわけにはいかない」といった、経済的な側面だけでは説明できない要素が意外に大きいのかもしれません。本来ならまずは事前交渉があってしかるべきなのに、いきなりTOBを仕掛けてきた、とか、(先日の読売朝刊にも記載されておりましたように)スティールの代表者が、初めてブルドックの代表者と面談した際に「私はソースはきらいだ」などと言って相手方の冷静さを失わせるほどの挑発的言動に至ったといった場合、もはやリスク管理ということよりも、ケンカの世界に入ってしまったのかもしれません。まさに伝統企業の「威信」をかけての攻防を望む、ということになりますと、どんな手段を使ってでもケンカに勝つためには・・・という考え方になりますので、買収防衛策発動には十分な意味がある・・・といった方向に向かうのかもしれません。

いずれにしましても、スティールがTOBの最終攻防まで臆することなく経営支配権奪取を目指した行動をとり続けたことで、買収者側、企業側双方にとりまして、買収防衛策の運用を見直すための論点が増えたように思います。

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コメント

前段の部分、
TOBの応募状況をみますと、敵対的買収防衛策発動に関する株主総会における議決権行使状況とかなり近接した結果になっているようでありますから、そもそも買収防衛策を発動することにどれほどの意味があったのか?といった疑問が出てきても不思議はないと思います。わざわざ有事に至って買収防衛策を導入して発動することについてどれほどの有用性があったのでしょうか?

はまったくそのとおりですね。同時期の天竜製鋸はおおむねそれでOKでしたね。

リスク管理の観点…
「有事に備える」 → 備えた後のことの方がより大事…。

今後「仮想敵国」の見直しも必要かもしれないですね。日本で話題になるのはやや異常なケースばかりで、真に事業会社による本格的TOB(ダビンチよりもっと事業会社っぽいものを想定)の方が「逃げ道」がなさそうですから。

サッポロビールはあまり調子が良くないそうですね。

投稿: katsu | 2007年8月28日 (火) 00時45分

katsuさん、いつもコメントありがとうございます。

おっしゃるとおり、事業会社による敵対的買収がなされた場合、このたびの買収防衛策および判例法理の展開によって結論がどうなるかは、非常にむずかしいところですね。正直申し上げて、対象会社の経営者によっては厳しい対応が予想されると思います。ただ、事業会社として、いきなりTOB、という手法もまた、作らない敵を作ってしまう可能性も(日本では)高いと思います。いずれにせよ、過程における「独立委員会」の活動などは、相当に悩むところだと思います。

企業価値を向上させるMAは賛同できますし、毀損するようなものは排除されるべき方策が必要であることは私にも理解できるのですが、そのために今の「防衛策ルール」が唯一のものではないという気がします。そろそろ会社法と金融商品取引法の関係を明確にして、企業の自助努力にゆだねるのか、それともTOB規制の強化によって対応するのか、議論する段階に来ているのではないかと思っています。

投稿: toshi | 2007年8月29日 (水) 14時19分

経済産業省の事務次官スピーチでこのたびのブルドックソースが導入した敵対的買収防衛策について疑問が呈されているようです。(9月3日付けのスピーチ)最高裁の判断も考慮したうえでの導入だとは思うのですが、なぜ企業価値研究会の指針に合致しなければ苦言を呈されるのか、よくわかりません。

投稿: hiro | 2007年9月 4日 (火) 20時34分

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