日本の内部統制のルーツ(原点)を訪ねる
企業不祥事で揺れております石屋製菓の社長さんは、不祥事発覚前の新聞インタビューにて「『白い恋人』を伊勢の『赤福もち』のような代表的なお土産用のお菓子に育てたい」と述べておられたようです。ところで、「赤福もち」さんは、自社製品が贈答用として買われることを重視され、自社が納得できないような原材料しか仕入れることができなかったときは、質の悪いものを贈答用に購入されてはブランドが地に落ちるということで、何日でも製品販売を休止していた時代があったそうであります。「白い恋人」もおそらく購入者が自分で食するというよりも、他者に喜んでいただくための贈答品の部類に属するのではないでしょうか。そうであるならば、消費者への信用といったものは、経営における生命線であり、昨今のコンプライアンスルールといったものへの認識の甘さがあったことは否定できないところではないでしょうか。
(2007年10月12日 追記)赤福もちさんも、消費期限に関する虚偽表示の疑いがあるとのことで、調査対象となっております。上記記載は、今後の行政の対応をまって消去する可能性があります。
(2007年10月14日 追記)赤福社長さんの記者会見で、製造年月日改ざんに関する事実を認めておられましたので、上記エントリーはブログ管理人の事実誤認による不適切な内容の記述であると思い、消除いたしました。
ところで、石屋製菓の偽装表示問題発覚とほぼ同時期に、関西では名門スーパーである「いかりスーパー」の牛肉偽装表示問題が発覚したわけでありますが、かたやマスコミで大きく叩かれて、経営難を10億円の緊急融資でしのぎ、社長は辞任に追い込まれることとなり、いっぽうは「第一報」こそ各マスコミでかなり大きく採り上げられましたが、社長さんは一度もマスコミで謝罪会見をすることもなく、その後はまったく沈静化しております。この差はいったいどこにあるのでしょうか?大きな違いは、行政の調査で発覚したのか(いかりの場合)、内部告発で発覚したのか(石屋)という点と、不祥事を隠蔽するような行動に出たかどうか、といった2点にあるのではないかと思われます。あまり詳細なことは(企業様の名誉信用毀損に該当する可能性がありますので)推測に基づくものであっても、ブログでは書けませんが、企業不祥事が企業の信用をどのように毀損していくのか、他社との比較において浮かび上がるところも多いと思いますし、またそういった比較検討が自社におけるクライシスマネジメント対応への参考となるところもあると思われます。
さて、直接に企業コンプライアンスと関係するものではございませんが、ある方からのメールをきっかけに、近江商人の故郷である滋賀県近江八幡市に訪ねてみたいと思っておりましたところ、本日、たいへん暑い日ではありましたが、旧西川家邸宅(1930年ころまで300年続いた商家 重要文化財)の文献等を見学してまいりました。(なお、写真につきましては撮影可能と思われるもののみとさせていただきます)
邸宅自体が重要文化財に指定されておりますので、どちらかといいますと、建築家の方々に関心の高いところかもしれませんが、江戸時代に近江商人として栄えたこの西川家では、江戸時代の会計帳簿、棚卸資産表などが展示されておりまして、なんといいましても、掟書きと呼ばれる「商人としての行動規範」や、会計帳簿の正確性を担保するための規則、つまり「内部統制システム規範」が展示されております。
この「掟書」は1823年・文政6年)に店内(社内文書)として作成されたものであります。
いわゆる会計帳簿の正確性を担保するための社内規則ですね。もちろん「複式簿記」など日本に存在しなかった時代のものでありますが、どういったことが書かれてあるかといいますと、支配人が会計帳簿の最終責任者として、その責務を全うすべきであるが、最終責任者といえども、ミスや不正があるかもしれないので、〆後にも2番目そして3番目に帳簿をチェックする必要があること、そしてその立場の者を決めておくべきことが記載されております。いわゆるチェックアンドバランスの考え方は江戸時代の商家でもきちんと認識されていた可能性が高いようであります。しかし絶大なる支配人への懐疑心、そしてその不正チェックを本当に誰が行っていたのか(内部監査人)、本当にそんなことが可能だったのか、かなりナゾであります。
こちらの文献はといいますと、この西川家の商人としての「行動規範」であります。1667年(寛文7年)ころに作成されたものということですので、おそらく西川家が商人として初期の頃に作成されたものであり、長年承継されたもののようであります。内容を現代風に訳しますと、西川家の商人としては、①博打や色気にまよってはいけない、②商売のときには身なりを整えなければならない、③異業種との交流にあたってはでしゃばった意見を述べてはいけない(守秘義務ということなんでしょうか?それとも道徳ということか?)、④他の商人とトラブルが発生したときには、まず事実関係をきちんと調査のうえ、自ら慎重に主張すべし、といったところであります。どれも非常に重要なものだと思いますが、とりわけ③と④あたりは現代の日本企業でも十分通用しそうな行動規範ではないでしょうか。身分制度があたりまえの時代に、商家の社会的信用を守ることは今以上にたいへんだったかかもしれませんし、こういった「掟」といったものは外から規制されずとも、あたりまえのように守られていたんでしょうかね。(文献の解釈は現地の解説と私の意訳によるものでありまして、不正確なところが混じっている可能性もあります。引用につきましてはご留意ください)
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コメント
興味深く拝見しています。
>③異業種との交流にあたってはでしゃばった意見を述べてはいけない(守秘義務ということなんでしょうか?それとも道徳ということか?)、
わたしは、この部分を
「どう受け取られるか予想の付かない事には慎重に接しろ」
という意味に取りました。
守秘義務とか道徳といったほど、明確な基準はないけど需要な事はある、という代表例として挙げたのではないか?と思うところです。
酔うぞ拝
投稿: 酔うぞ | 2007年8月20日 (月) 12時46分
酔うぞさん
コメントありがとうございます。
なるほど、酔うぞさんの解釈がもっとも適切な気もいたします。「社内の常識」がじつは社外の非常識だったりすることもありそうですし。
「内部統制」の問題と合うように解釈しよう、といった私の中の偏見があったかもしれません(笑)ご指摘ありがとうございました。
「どう受け取られるか予想の付かない事には慎重に接しろ」とは、まさに私がブログを書くときの教訓としてもピッタリかもしれません(^^;;
今後とも、またご意見よろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2007年8月20日 (月) 14時20分