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2007年9月28日 (金)

続・COSO「モニタリング・ガイダンス」と内部監査人

今週は「保全」という、きわめて弁護士チックな仕事に忙殺されましたので、ブログのほうもきちんと調べもせずに書き下ろしておりまして、不正確な内容のエントリーや、問題提起に終わっているものばかりのようで、常連のみなさま、どうもすいませんです。(言い訳ここまで)

さて、COSO「モニタリング・ガイダンス」と内部監査人のエントリーには、たくさんの実務家の方々のご意見をいただき、ありがとうございました。とりわけ技術屋の内部監査人さん、そしてのらねこさん、熱いコメントを頂戴し、現場で奮闘されていらっしゃる姿が垣間見えるようで興味深く拝見いたしました。こういったコメントを読ませていただいた後に、あらためて企業会計審議会の「実施基準」を読み直しますと、平板に見えていた「なにげない文章」にも、創意工夫の痕跡があるように思えてきますので不思議です。機野さんのコメントで紹介されておりましたCIA資格保有者の急増とも関係すると思うのですが、内部監査人という法律上ではお目にかかれなかった立場の人が、金商法に基づく「実施基準」のなかでいきなり登場し、にわかに注目を浴びるところになったわけでして、だからこそ金融商品取引法といった法律の世界で、この内部監査人をどう位置づけて考えたらいいのか、いまだ世間的には戸惑いがあるに思います。

内部監査人が経営者評価における(独立的評価の部分において)、実際の評価主体とみるべきかどうか・・・といった問題、ふたつほど論点の整理をしてみたいと思います。ひとつは、(内部統制の有効性に関する)最終評価の責任者は当然のことながら経営者にあるわけですが、評価プロセスの一部を内部監査人が代行してもいいのかどうか、といった問題。つまり法律上の用語を利用して恐縮ですが、「擬制」ということですね。内部監査人による実際の独立的評価をもって経営者評価と考えてよいか、といった問題であります。もし「擬制」ではないとしますと、評価プロセスは経営者自身ものでなければいけないけれども、そこに内部監査人の独立的評価を「参考」にすることができる、ということになりましょうか。これは現実の評価主体を経理担当者・・とみた場合にも同じ問題が出てくるはずであります。経営者からみれば、「擬制」とみたほうが楽かもしれませんが、もし内部監査人や経理担当者のスキルに問題があったとなりますと、評価プロセスそのものに大きな不備があったと解釈される可能性が出てくるのではないでしょうか。

そしてもうひとつの論点は、実施基準によりますと、比較的規模の小さな(組織が比較的単純な)上場企業の場合には、全社的内部統制の有効性の評価内容によって業務プロセスの評価範囲を決定することができるとのことでありますが、そうしますと、取締役会が十分な機能を果たしているかとか、監査役と経営者に対するモニタリング機能を果たしているか等、内部監査人が評価できるかどうかはかなり疑わしいところの判断内容によって内部監査人の本来の評価範囲が決定されてしまう、という大きな矛盾を抱えてしまうのではないか、との疑念が拭いきれません。(このあたりが、のらねこさんのおっしゃっている独立性の限界とか、機野さんが指摘されている「実施基準の不明瞭な点」といったことになるのでしょうかね?)この矛盾を解決するためには、経営者は評価プロセスにおいては経理担当者や内部監査人(もしくは外部専門家)に代替させることはできないのであって、「実施基準」にいうところの「補助させることができる」というのは、代行させるのではなく、あくまでも参考意見を報告してもらうための「補助」にすぎない、と理解する以外には方法がないように思えますが、いかがでしょうか。

ほかにも、実施基準によりますと、内部監査人は独立的立場から、内部統制の有効性を評価し、改善事項を報告する役割があると記載されておりますが、改善事項はあくまでも内部監査人の意見でしょうから、その改善をはかった場合にこれを評価するというのも、やはり自己監査に該当するように思います。皆様方のコメントを拝読しながら、やはり内部監査人と経営者評価との関係については、いくつか解決すべき前提問題があるのかなぁと少し疑問に思った次第であります。(今回も屁理屈のような内容かもしれませんが、やはり経営管理の世界での「内部監査人」は、すでに金商法施行とともに、法律の世界に片足を突っ込んだ重要な役割を担う人たちと理解しておりますので、こういった論点整理も必要なのではないか、と思ったものですから・・・・・)

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2007年9月27日 (木)

上場審査厳格化ルールの実効性

独禁法コンプライアンスの話題や、COSOモニタリングガイダンスの論点へのコメント、たくさんいただきまして、どうもありがとうございます。きちんと問題点を整理したうえで、あらためてお返事させていただきますが、まだまだコメントのほうもお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします。

ところで、たしか今日(9月26日)はモック社の株主総会ではなかったでしょうかね?もうすでに27日に日付が変わっておりますが、会社のHPにも適時開示情報のほうにも総会の結果についてのリリースが掲載されておりません(^^;; yahoo掲示板で、どなたかが「可決された・・・」との情報を書き込んでおられますが、決議内容につきまして、いずれのマスコミでも報道されておりませんので、なんとも不確定な状態であります。(追記 27日の日経朝刊に「議案すべて可決」との記事あり。総会は2時間半に及んだ、とのことであります。)今朝(26日)の日経新聞でも採り上げられておりましたし、株価変動をみましても、それなりに注目されておりましたので、なんらかのリリースは必要だと思いますが。。。(会社側提案に賛成する立場で委任状を提出されている株主さんへの結果説明はどうされているのでしょうか?)

出来高が昨年の半分以下となり、株価も低迷を続けております新興企業向け市場にとりまして、上場後も健全に業績を伸ばす新興企業にこそ上場してほしいと願うところでありますが、やはり「上場はやりたいことのための手段ではなく、目的」と捉えている企業が目立ちますと、どうも回復基調の兆しがなかなか見えてこないような気もいたします。そのような状況のなか、以前から話題になっていたところではありますが、東証はIPO企業の主幹事証券向けの引受審査ルール策定の意向を表明されたようであります。(26日の日経朝刊7面の新聞報道参照、またフジサンケイビジネスニュースはこちらです)証券取引所の上場審査基準のうち、適格要件(実質基準)の判断にあたっては、主幹事証券会社が上場申請企業の経営内容等に関する推薦書を提出することになるわけでありますが、①その推薦書に様々な企業情報を盛り込み、②引受審査に関する社内監査体制をルール化し、③証券会社の営業部門と調査部門に厳格なチャイニーズウォールを設置する等を主な柱としております。本年12月ころからのルール施行を目指す、とのことでありますが、実際に上場引受業務をされる証券会社さんの場合、すでに内部統制調査などを含む体制整備に関する審査事項へのチェックルールは策定されているはずであります。おそらく15から20項目程度のチェックポイント(細分化されれば、その4倍程度)があると思われます。もちろん、そのチェック項目のなかには、公開企業にふさわしい「株主、投資家に対する適切な情報開示の社内態勢」チェックも含まれております。

そういえば本日(26日)パブコメを経て正式公表されました金融商品取引業者等検査マニュアル(証券取引等監視委員会のHPよりパブコメ回答集とともにダウンロード可能です)におきましても、第一種金融商品取引業者の態勢および引受業務に関する確認事項として「引受審査態勢の整備」が掲げられておりまして、引受主幹事証券会社の取締役会および引受審査部門の重い責任が記述されております。このように、証券取引所そして金融庁から「引受審査部門の充実」を期待されている証券会社もたいへんではありますが、なんといいましてもたいへんなのは上場を目指す一般事業会社であります。証券会社および監査法人からの厳しい目で経営を監視されるわけですから、公開企業にふさわしい経営管理体制を構築するためのコストもけっこうかかるんじゃないでしょうか。ただ、審査基準を厳格にするといいましても、どの企業にも一律に適用されるような判断基準があるわけでもないと思いますので、その実効性を左右するのは、やはり各企業の創意工夫によるところが大きいものと思っております。

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2007年9月26日 (水)

COSO「モニタリング・ガイダンス」と内部監査人

(9月26日午前 内容を修正いたしました)

最新号の「経営財務」では、「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」の公表記事がたいへん参考になるところでありますが、9月17日に公表されましたCOSO討議文書「内部統制システムのモニタリングに関するガイダンス」に関する記事も目に留まりました。すでに丸山満彦先生や眞田光昭先生のブログやHPでも、このガイダンスが紹介されておりましたのでご存知の方も多いと思います。米国SOX法のもとでの内部統制報告制度との関係で、今年1月からモニタリングに関する新たな指針作りが進められてきたものであります。どうも最近、アメリカでも日本でも、内部統制報告制度における内部監査部門の重要性が力説されるようになったように思われます。

私自身、よく理解していないところでありますが、こういったモニタリングに関するガイダンスの盛り上がり(ブーム?)というものは、やはり米国SOX法404条の実質緩和方針と関係があるのでしょうかね?たとえばダイレクトレポーティングが二本(直接監査と報告書監査)だったものが一本(直接監査のみ)に変更される、といったことから、能力ある内部監査部門によるモニタリングシステムがきっちりと機能していれば、直接監査の多くを内部監査人の恒常的かつ独立的な監査への信頼に依拠できるし、またトップダウン型のリスクアプローチも採用できる、といったような関係に立つのでしょうか?すくなくとも、アメリカの中小規模における上場企業へのSOX法適用(同時に費用対効果の検討)と歩調を合わせたように、最近はこういった「内部監査人」の役割が重視されるようになった気がしております。

しかしながら、もしそうだとしますと、内部監査人の「内部統制報告実務」における位置づけというものは、日本とアメリカとでは同じに考えていいのかどうか、さらに疑問が湧いてきます。差が曖昧だとはいえ、日本は米国のようにダイレクトレポーティングを採用しておりませんので、こういったアメリカのモニタリングガイダンスをそのまま日本の制度にあてはめてもいいのでしょうか?つい先日、ある内部統制コンサルティングをされている会計士さんにお聞きしましたが、内部統制報告制度におきまして、実際に「経営者評価」の主体となるのは、(内部監査人とは別の)「経理部」の方と「内部監査人」の方と、現在までのところ、企業によって半々くらいに分かれているようです。経理部、財務部等の担当者が評価する、というものであれば理解しやすいのでありますが、内部監査人が評価をする、ということになりますと、このアメリカのモニタリング指針というものは(モニタリングに関する評価については)自己評価になってしまいますよね。このあたりがどうも、私自身うまく理解しきれていないところがあります。

いずれにしましても、内部統制報告制度におきまして、その運用が現実味を帯びるにしたがって内部監査人の占める地位が次第に大きくなってきたように思いますし、また内部監査人の適格性にも、そのうち焦点があてられてくるのではないかと考えております。たとえば、会社法監査や金商法監査といった外部監査人によるものであれば、法律上の企業情報開示制度と結びついているわけですから、開示情報が正しいことに関する「合理的保証」といった帰結もわかりますが、そもそもそういった法律上の制度と(現状として)結びついていない内部監査制度の場合、主たる目的が「評価やコンサルタント」であったとしましても、たとえば企業によっては不正発見の責任まで認められてもいいのではないでしょうか。一般に内部監査人に「コンサルティング機能」を認める以上、管理執行的な役割を認めて、不正発見の責任まで負担していただく、というのもひとつの方法ではないかと思うのですが。(このあたりは、まだ思いつきの段階ですが。)

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2007年9月25日 (火)

買収防衛策と独禁法コンプライアンス

今週以降、M&A関連の話題として盛り上がりそうなのがヤマダ電機、ビックカメラ、ベスト電器による事業提携話のようであります。(ヤマダ電機の株買い増し、防衛策発動も辞さず・・・ベスト電器 読売新聞ニュース)ビックカメラとの事業提携に邁進しようとするベスト電器社に対して、業界ダントツトップのヤマダ電機社が持分法適用会社(20%超)とした後、事業提携を持ちかける意思のあることを表明されたとのことです。本年5月の株主総会で勧告型決議によって事前警告型買収防衛策を導入(正式には継続)しているベスト電器としましては、今後ヤマダ電機が買い増しを続ければ、防衛策ルールに則った対応を予定しているようであります。

もし独立委員会(社外取締役2名、社外監査役1名の合計3名)による評価手続きが開始されるとなりますと、私的に一番関心がありますのは、ベスト電器の企業価値をき損するかどうかの判断において家電量販店特有の独禁法コンプライアンスといった問題をヤマダ、ベスト双方がどのように考えているのか、明らかになるのではないか、といったあたりのことであります。先日リリースされておりましたTBSの企業価値評価委員会の報告書におきましても、楽天社の企業としてのコンプライアンス問題が判断対象になっておりましたが、とりわけ家電量販店におきましては、平成18年6月発表されました家電量販店ガイドライン(公正取引委員会)にもありますように、地域小売事業者との競争関係確保や、不当廉売(不当表示)、優越的地位の濫用等、コンプライアンス上の問題点が山積している状態ですので、支配権取得までいかなくても、事業提携としても気を遣うところではないでしょうか。

とりわけこの5月にはヤマダ電機社の場合、メーカー社員を無償で派遣労働させていたとして公正取引委員会より調査を受けておりますし、九州地区におけるベスト電器とヤマダ電機との店舗数の比率が極端に違うことから、小売事業者への量販店の及ぼす影響度も違ってくるかもしれません。今後、買収防衛ルールによる事前交渉が行われるならば、そういったコンプライアンス問題について双方の現経営陣がどのような説明を果たすのでしょうか。これまで敵対的買収の話題のなかで、あまり独禁法に関連する論点が出てこなかっただけに(ニッポン放送事件では少しだけ話題になっておりましたし、意見書も出ておりましたが)、コンプライアンス問題と絡めて法的観点からの議論がなされることに期待しております。(とりいそぎ備忘録程度のみ)

(9月26日追記)関西の者にはなじみがありませんが、キムラヤを子会社化するといった話題や、ベスト電器の株式を一気に買い増すなど、M&Aに向けたヤマダ電機の動きが活発化したようであります。ベスト電器の株価もストップ高のようで。

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2007年9月22日 (土)

懲戒処分の実体調査(労務行政研究所)

昨日(9月21日)はセミナーに多数ご参集いただき、ありがとうございました。3時間半という時間は聴講される方からしますとずいぶんと長い時間かもしれませんが、お話する側からしますと、お伝えしたいことが多すぎたせいか、あっという間でした。(時間の関係でレジメの最後に添付しておりました「具体的事例から考える」の部分まで完了できず、ご迷惑をおかけしました。)

さて、企業コンプライアンス関連の調査レポートとして、財団法人労務行政研究所より、「企業内の懲戒処分の実態に迫る」が報道関係者向けとしてリリースされております。(なお、詳細は労政時報9月28日号に掲載されているようですので、本誌をごらんいただける方はそちらをご参照ください。)4年ぶりの実態調査とのことでありますが、リリースされているものを読むだけでもなかなかおもしろい内容であります。

他の会社では、こんな従業員の不祥事が発生した場合に、どれくらいの処分を選択するのだろうか・・・・といった人事労務担当者の方のご関心があろうかと思いますが、単純比較は禁物でしょうね。企業にはそれぞれの行動規範、倫理規範がありますし、またステークホルダーを大切にするための優先順位もあるでしょうから、(また後述しますように、各企業によって、懲戒対象事実の認定能力にも差があるでしょうから)その処分の程度は企業ごとに違うのが当然だと思います。たとえば「社外持ち出し禁止のデータを独断で自宅に持ち帰っていた」というのが、この調査結果では半数以上の企業が「注意処分以下」で済んでおりますが、これが顧客情報管理や営業秘密管理に厳しい会社の場合でしたら、「解雇処分」に該当してもおかしくないと思いますので、単純に「会社はこんな場合はけっこう厳しい」などと一般的な傾向を結論付けるのは困難ではないでしょうか。(ひょっとしますと、本誌のほうでは業界別の集計結果なども掲載されているのかもしれませんが)

ただ、あえて一般論としての意見でお許し願いたいのでありますが、「事故は起こさなかったが、酒酔い運転のために検挙された」場合、解雇処分とするのは30%程度の企業(懲戒解雇、諭旨解雇の合計)であり、その他60%の企業では自宅謹慎などの社内処分で済むんですね。(10%程度の企業が「判断できない」とのこと)これはちょっと意外でありました。これだけ酒酔い運転に関する厳罰化(たしか3日前から改正道交法が施行されましたよね)の機運が高まっているわけですし、また同乗者や酒類提供者も犯罪者になってしまうわけですから、酒酔い運転によって事故を発生させた社員の企業名は報道される可能性が今後も高まりますよね。昨日、飲酒事故によって3人のお子さんを亡くされたご夫婦に新たな命が授けられたニュースが大きく報道されていたことからも、世間の風潮が読み取れる気がします。酒酔い運転の常習性とか、新しい法律の施行によって他の社員を犯行に巻き込む可能性が高まったことや、マスコミにとってのニュースソースとしての関心の高さという観点からみて、「事故さえ起こしていなければ検挙されても社内処分でOK」といった感覚は、企業のリスク管理として、会社の常識と世間の常識との間にブレが生じていないかどうか、確認をしておく必要があるんじゃないでしょうか。(せめて「原則解雇処分、ただし情状により救済措置あり」といったルールにされたほうが、リスク管理としては適切な気もいたしますが)

「労働法の解釈との関係で回答がしにくいケース」(たとえば配転のケース)を抜きにしますと、もっとも企業において処分のバラツキが大きいのが「妻子ある上司が、部下と不倫関係を続けていることが発覚した」とのケース。(事例として最近は「夫のいる上司が部下と不倫関係をしているケース」もけっこうありますが、そちらも含むんでしょうね)経営トップの方の行動自体が、こういった社内処分のあり方に影響を与えていたりして・・・(^^;;  ただ、相思相愛の状態にある「不倫関係」って、一体社内の誰が公式に「事実認定」なさるんでしょうかね?(笑)不思議です。「不倫」であることの要件事実と、その事実確定のための証拠とはいったいナンなのでしょうか?とても興味があります。また、このケースでは不倫の双方に同じ処分が下されるのでしょうかね?この「不倫関係」の判明というのは、私が推測しますに「もつれ」が原因でしょうから、ほとんどの事例では「つきまとい行為」か「セクハラ、パラハラ」のケースに該当するんじゃないでしょうか。つまり、そっちのほうで処分をすれば、もはやそれ以上に「不倫関係」で処分する必要がないケースがほとんどのように思います。要は事実認定に問題が出ないようなケースでは解雇処分まで進めるけれども、社内で事実認定に曖昧さを残すようなケースの場合には、自信をもって解雇処分とはできないために、社内処分で済ます、もしくは不問に付す・・・といった傾向が強いように思われます。なお、私が過去に取り扱った案件で、上司の奥様が、会社に「うちの人、おたくの会社の○○さんと不倫してるのよ!」と怒鳴り込んでこられたケースがありました。ちなみにその奥様は「悪いのは○○さんだから、即刻やめさせてちょうだい!」とのことでした。こうなりますと、もう会社としては対応に困りますよね。

合わせ技(複数ケースに該当する場合に、処分内容が重くなるのかどうか)に関する記述が見当たりませんが、複数の懲戒事由に該当するケースも多いので、そのあたりも悩むところであります。その他、マスコミに実名や社名が公表された場合には、懲戒処分の程度に差をつける、との企業が40%もあるとのことですが、そうなりますと、懲戒事実を別の社員が知ったときにはどうされるのでしょうか?(そもそもマスコミ報道されることで懲戒処分に差が生じるといった問題には、どうも法的な問題に発展しそうな匂いも感じられますが・・・)今のご時世、内部告発は当たり前になっていますから、そのあたりで従業員が別の従業員の「クビ」を握るケースも出てくる、ということなんでしょうかね?いやいやオソロシぃ世の中になってきたものであります。

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2007年9月21日 (金)

イマドキの独立第三者委員会

9月19日に名古屋の某会社にて、事前警告型買収防衛ルールにおける独立委員会の正式会合に出席してまいりました。社外監査役(某上場企業の役員の方)、東京の会計士資格を有する財務コンサルタント会社の社長さん、そして私の3名構成なんですが、委員会の要請で防衛策を設計した法律事務所の方にもお越しいただきました。会社との委任契約上、委員会での内容はあまり詳しくは書けませんが、やはりみなさん、ブルドック最高裁決定や、原審、原々審の内容など、けっこうよく勉強されていて、独立委員会の位置づけだけでなく、そもそもの防衛策の建てつけについてもご意見をお持ちのようであります。

2時間ばかりの会議だったんですが、「望ましい独立委員会のあり方」というのも、どうやら最低でも3つくらいの視点によって違った形になりますね。ひとつは、そもそも全体の防衛策スキームが違法と判断されないための独立委員会とは?といった視点、ふたつめは機関投資家や議決権行使助言会社からみて望ましいと判断される独立委員会とは?といった視点、そして三つめはといいますと株主や第三者から損害賠償責任を負わないような活動をする独立委員会とは?といった視点であります。とくに三つめにつきましては、そもそも取締役会からの諮問によって活動する委員会であって、どんな結論(勧告)を出したって株主や第三者に責任を負担しないでいいのではないの?といった考え方もあろうかとは思いますが、よく考えてみますと、平時の防衛ルールには有事における取締役会の行動が記載されておりませんので、有事の際、独立委員会はおそらく具体的な取締役会の執行予定(たとえば防衛策発動の場合には、買収者の経済的損失をどの程度補完する予定なのかとか)を聞く場面が出てくると思いますし、発動を勧告する場合には多くの会社資産が流出することを容認するわけですよね。長期的にみれば、これは株主共同利益を守るための手段であるともいえそうですが、短期的にみてこれは損害賠償責任を負担しないでもいい、といった保証はあるのかどうか、ちょっと不明であります。社外監査役さんなんかも、こういった独立委員会の委員として就任されているケースも多いとは思うのですが、これは社外監査役の職務との関係って、どうなんでしょうか?独立委員としての職務は、社外監査役の職務とまったく別個と考えていいのでしょうか、それとも通常の社外監査役の職務のひとつである、と考えるべきなんでしょうか?(独立性といったことからは前者のように考えるのが望ましいとは思うのですが、実質をみれば後者のように思われます)いずれにしましても、この「独立第三者委員会」のあり方については、問題ごとに、先のどの視点からみたらどんな方法が適切なのか、問題意識を共有しながら検討したほうが妥当なように思います。

以前、買収防衛策・独立第三者委員会の役割とは? のエントリーでも書きましたが、ホントこの委員会って、防衛策発動の場面における違法適法の判断といった視点からみた場合、一生懸命職務をまっとうするわりには「司法判断においてはほとんど影響なし」とみなされる存在なのかもしれません。先日ご紹介したとおり、会社法立案担当者のA澤さん曰く

「社外の独立性のある者の判断といったところで、しょせん取締役から依頼を受けた者の判断ですし、株主総会で選任された者でもなく、その者自体、適切な判断をする保証もなく、会社法上の責任を負うものでもないわけですから、そのような者の判断が法的な意味があるわけではありません」(商事法務1807号29ページ)

とまで、軽視(無視?)されてしまっている存在ですから、せめて株主の代弁者といいますか、透明性、公正性にふさわしい人選と活動が要求されてしかるべきなんでしょうね。昨日の独立委員会では、こういったところをけっこうまじめに議論しておりました。(ほかにも課税関係とか、事業価値評価の視点なども検討されましたが)また、防衛策を見直すのかどうかはわかりませんが、今後発動の場面では株主総会にかならず提案するのか、それとも取締役会決議で発動できるものとするかのよっても、独立第三者委員会の活動内容も異なってくるのではないか・・・といった疑問も出ておりました。まぁ、だいたい年間3回程度、こういった委員会を開催する程度がよろしいんじゃないでしょうか。

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2007年9月20日 (木)

子会社の独立性と内部統制システム

IPO企業の支援業務をやっておりますと、本当に厳しい場面に出くわします。上場をめざす企業として、利害関係人と企業との取引をどう解消していくべきか、というところで経営者のエゴ(わがまま、というわけでもなく、企業に対する長年の愛着から・・・といったほうが適切でありますが)と、上場企業としての透明性、公正性を確保していくべき要請との衝突場面など、けっこう頻繁に発生しますね。とりわけ「特別利害関係者・関連当事者との取引(その解消方法)」といったあたりは、経営者の方々のご認識と、支援する方とではかなりズレが生じているようですから、「上場するということはこんなものなのか・・・、ここまでまじめにやってきた俺を信用しないのか・・・」といったショックをはじめて経営者の方々が味わう場面かもしれません。証券会社さんや、監査法人さんは、これまでの経験から保守的な意見を述べる傾向にありますが、それが経営者にとってはナットクがいかないことも多いようで、ときには代替案を提示したり、ときには監査法人さんの見解を法律的な面から解釈して経営者の方へナットクしてもらったりと、最近はけっこう弁護士を中心としたIPO支援業務にも、それなりの役割があるように思えてきました。

ところで、IPOにも既上場企業にも関係するテーマでありますが(このあたりの話題はkatsuさんや、辰のお年ごさんの関心分野だと思いますが)NECの子会社(70%保有)であるNECエレクトロニクス社の一般株主(ペリー・キャピタル)が、NECエレの業績不振が長引いているのは親会社による支配に一因があるとして、親会社であるNEC社からの独立を要求しているそうであります。(朝日新聞ニュースはこちら)NECエレの業績不振(2年連続赤字)の原因は、親会社であるNECの意向により、思い切った戦略に踏み込めないとして、具体的にはこの株主が、NECエレの25%の株式に、65%程度のプレミアムを付して約1500億円で買い取る旨意思表示をされているとのこと。これに対して、NEC側は一般株主側に対して、まだ何の明確な意思表示はされていないようであります。なお、これまでの経緯につきましては、katsuさんのエントリー(アクティビスト活動が本格化? NECエレクトロニクスの続き)あたりが詳しくて参考になります。(といいますか、katsuさんの9月18日の英国年金運用会社ハーミーズの話題、ホンマおもろいです。・・・笑)

現在、東証に上場している会社のうち13.5%程度が親会社を有するものだそうでありますが、親会社(支配株主)とその他の一般株主との間においては、親会社の意向にはなかなか子会社の取締役は異を唱えることができず、親会社の戦略に拘束されてしまうおそれを内包している、とのことで利害対立することが考えられます。東証では「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方について」と題するニュース(今年6月)におきまして、証券取引所としての考え方を公表しておりますし(「上場制度総合整備プログラム2007」参照)、また東大の神田先生を座長とする上場制度整備懇談会の中間報告書(本年3月リリース 15ページから17ページ)におきましても、少数株主と親会社との利益相反の関係があるために、かならずしも市場関係者にとって望ましい資本政策とはいえない、とされています。

問題はあるけれども、子会社上場にもそれなりの効用はあるので禁止されるものではなく、ただ「望ましい資本政策とはいえない」ということですから、これを「グレー」と表現することも適切ではないのかもしれません。そこで子会社上場を認めつつも、その弊害を防止するための措置といったものをどう考えるかがポイントになろうかと思われます。証券取引所にも上場審査基準としての「独立性要求基準」や、その後の独立性確保のための情報開示などの弊害防止措置があるようですが、それらは主に説明責任(アカウンタビリティ)を尽くすことに重点が置かれているようで、実際の防止措置の仕組み作りといったことは、上記中間報告書においても「今後の検討課題」とされているようであります。

ただ、ひとつ疑問に思いますのは、実際の防止措置の設置というのは「将来への課題」ということで済ませておいていいのかどうか、といったあたりであります。会社法362条4項6号、同施行規則100条1項5号によりますと、大企業の場合、内部統制システムに関する基本的な整備に関する決議を必要とするわけですが、そのなかに企業集団における業務の適正を確保するための体制確保に関する決議も必要になるはずであります。たとえばある上場企業がある企業の子会社となった場合には、その子会社側はガバナンス報告書のなかで基本方針をリリースするべきでしょうし、親会社が上場企業であれば、同じく親会社にも企業集団の業務適正確保のための整備に関する決議が必要なのではないでしょうか?もちろん、自分の会社は新たに体制を整備する必要はない、という決議も可能かもしれませんが、それではどういった体制が存在するので不要と判断したのか等、その「仕組みが存在すること」を説明する必要もあるのではないでしょうか?そういったことからしますと、たとえば先の例で一般株主から子会社の独立性に関する疑義が呈されたような場合においては、まずなによりもこの会社法上の内部統制システムの整備義務に関する法令上の根拠から、なんらかの法令遵守に関するリリースがあっても当然のように思えますが、いかがでしょうか。

ちなみに、「論点解説 新会社法(千問の道標)」(相澤・葉玉・郡谷編)では、その338ページにおきまして、親会社や子会社において、「企業集団の業務の適正を確保するための体制として」どのような事項について決定すべきか、といった例示がかなり豊富に記載されております。このあたりは、いままであまり議論されてこなかったところかもしれませんが、単に「将来的な課題」では済ませられない場面というものも、株主側からのアクションによって顕在化するものだと私自身は理解しているのですが。(また、どなたかお詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示ください)

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2007年9月18日 (火)

企業の不祥事体質と取締役の責任(その2)

(関西地区の方へのお知らせです。)

8月以降、おかげさまで、企業や金融機関等のコンプライアンスセミナーに招聘いただき、講演させていただきましたが、このたびは第一法規さん主催のセミナーで講演をさせていただきます。直前(9月21日午後1時半から5時まで)ではありますが、まだお申し込み可能と思いますので、もしご関心のある方にはぜひ、ご聴講いただければ幸いです。(特別講演って、そんな偉そうなものではございませんので・・・(^^;; )

セミナーのWEB広報はこちらです。

ある先生の論文タイトルと同一になっておりますが、(少しタイトルを工夫したほうがよかったかもしれません)この講演はすべて私個人の責任に基づくものでありますので、ご留意願います。

なお、講演内容がほぼ確定いたしましたので、目次のみ以下のとおりお知らせします。

序論 なぜ「法令遵守」と「コンプライアンス」は違うのか?(事例から検討する)

1   企業コンプライアンスの議論を盛り上げる要因

2   取締役の責任が問題とされた最近の企業不祥事

3   企業不祥事はなぜなくならないのか?

4   取締役の責任の厳格化(刑事、民事、行政、進退問題等)

5   不祥事リスクを最小化するためのポイント

6   不祥事リスク発生後に求められる対応

7   コンプライアンスを具体的事例から考える(ケースメソッド)

いずれの項目も、具体的な事例を中心として、かなりわかりやすい内容になっております。できれば、こういった形で継続的な「関西コンプライアンス研究会」を開催したい・・・といった、自分の思い描いている意図に沿った形での講演になると思います。私的には、1から7まで、どれもお聴きいただきたいのでありますが、強いてあげれば、5と6あたりが自社にお帰りになって、それぞれご検討いただきたい内容であります。また、皆様方とお会いできるのを楽しみにしております。

なお、今後の講演の予定でありますが、11月ころに上場企業向けの「インサイダー取引と情報管理」に関するテーマと、「プロセスチェックによる内部統制」に関するテーマを中心とした講演を予定しております。これは私と、先日まで金融検査官をされていた弁護士とのコラボによる講演でして、上場企業だけでなく、IPOをめざす企業の経営者の方にも有益なものにしたいと考えております。

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2007年9月17日 (月)

危機管理としての「報告」と「公表」

大阪のエキスポランド内のコースターで、9月15日に事故が発生したようですが、この事故を公表せずして16日も営業を継続していた、とのことであります。(読売新聞ニュース)この件に関しまして、丸山満彦先生も自身のブログでコメントをされております。以下、引用させていただきます。

些細な事故まで報告することは、重要な事故を埋没させてしまうので、よくないとは思いますが、今回の場合は、やはり事故の件を公開し、原因を追究してから運転を再開するというような慎重な対応が必要だっと思いますが、じゃぁ、どのような場合には公表すべきで、どのような場合は公表しなくてもよいのかを決めるのは、難しいですね。。。

あの痛ましい事故につきましては、私のブログではほとんど触れませんでしたが、このたびの事故につきましては、ちょっとだけ個人的な意見を述べたいと思います。エキスポ社の取締役の方は、今回の事故発覚の後、マスコミからの質問に対して以下のように回答されておられるようです。

一方、エキスポ社の取締役は「このようなトラブルを起こし申し訳ない。けが人がなく、車両やレールの破損もなかったので、公表はしなかった。認識が甘かったかもしれない」と釈明している。朝日新聞ニュース参照)

まず読売新聞ニュースが報じたところが真実だとすると、エキスポ社は事故発生直後に、関係官庁に対して事故報告を行った、というものであります。エキスポ社側とマスコミとの間に意思の疎通があったかどうかは不明でありますが、もしエキスポ社が関係官庁への事故報告を行ったことが公表にあたるとの認識であれば、これは間違いであります。「報告義務」と「公表義務」は明らかに異なります。「報告」は法令遵守の世界の話であって、コンプライアンスの話ではありません。法令は個別の企業の事情まで斟酌して制定されたものではなく、あくまでも最低限度の遵守事項を規定したものであります。コンプライアンス経営は企業不祥事を防止するために、個別企業の経営環境に応じて、どう対応すべきか、といったことまで検討することを含むものであります。したがいまして、エキスポ社のように、つい先日たいへんな事故を発生せしめ、「安全宣言」を新たに謳った企業としては、「報告」とは別に、「事故の公表」をすることがまさにコンプライアンス経営の具体化であります。「報告義務」は(行政目的を達成するために)外の世界から強要されるものかもしれませんが、「公表義務」はまさに企業の自律作用から生まれてくるものであります。

ただ、丸山先生のご指摘のとおり、些細な事故まで公表しなければならないのか?といったあたりは当然、企業にとっての悩ましい問題であろうかと思います。ただ、先日の事故直後ということもあり、エキスポ社という個別事情にかんがみるならば、コースター事故に直結する事故もしくは、原因は不明だが事故に直結するおそれのある事故につきましては、公表すべきでしょうし、公表基準のようなものを策定しておく必要があると思われます。もちろん、今回の事故につきましても、私は公表すべきであったと考えております。些細な事故につきましても、発生ごとに公表するのではなく「ヒヤリ・ハット」事例集として、一年ごとにまとめて類型的に公表する必要があります。そうすることによって、実際に人身事故が発生したような場合に、即時の事実認定と原因究明が可能となりますので、まさに危機管理の一環であります。

そこで次に朝日新聞ニュースにおける取締役の方の発言でありますが、これは「人身事故が発生してから公表すればいい」とのエキスポ社としての認識を開陳してしまったというほかなく、先日の事故の教訓が全く生かされていないのではないか・・・と悲しい気分になってしまいます。あのような事故を発生させてしまった企業としては、遊園地へ来られるお客さまの信頼を回復させなければならないにもかかわらず、逆にふたたび信用を落としてしまう結果になってしまうのではないでしょうか。こういった回答内容ですと、おそらく「安全宣言」は公表していたとしても、具体的な再発防止策が検討されていなかったのではないかと推測いたします。もし本気で検討されていたのであれば、役員間において「どういった場合に事故を公表すべきか」といった議論がされているはずだからであります。そもそも「公表措置をとる」ことのメリットとしましては、①公表することで企業自身が再発防止策等のルール遵守に緊張感を増すこと、②一般消費者等にこれ以上の被害が拡大しないよう、被害拡大を防止する役目を果たすこと、③社長自身のコンプライアンス重視の経営姿勢が、現場従業員に至るまで「本気であること」が理解することができること、④事実関係を自社が速やかに確認するクセがつくことなどが掲げられます。こういった公表措置のもつ機能からみますと、エキスポ社としましては、事故発生後直ちに新聞広報もしくは自社HP等におきまして広報すべきであったといえます。

たしかに「そんな些細なことまで・・・」といった意見が出てくるかもしれませんが、そんな些細なことまで公表する姿勢こそ、前回の事故を重視している姿が確認でき、信頼を回復できる可能性も高まるように思います。

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2007年9月16日 (日)

コンプライアンス経営はむずかしい(金融機関編)

9月14日の日経朝刊に「金商法、投資家保護へ月末施行 金融機関大わらわ」なる記事が掲載されておりました。ご承知のとおり9月末に金融商品取引法が完全施行されることを控えて、銀行や証券会社は準備にたいへん忙しいとのことでありまして、おそらく今日あたりは年度末以来の休日出勤をされている銀行員の方も多かったのではないでしょうか。

私はいつも帰宅しますと、嫁さんと1時間以上、ちゃぶ台で向かい合いながら他愛もないことを語り合うのが日課となっておりますが、最近は帰宅しても嫁さんに「コンプライアンス」を語ることになってしまっております。といいますのも、嫁さんは某信託銀行に勤務しているのでありますが、最近よく次長さんから「あーだ、こーだ」と研修を受けるたびに「その内容がさっぱりわからない」と愚痴っております。支店内でも、パンフの差し替えだとか、ノベルティの業者が打ち合わせしてるとか、「なんかやってる」くらいにしか理解していない様子なんですね。ということで、(結婚以来17年間、家で仕事の話などしたこともなかったのでありますが)次長さんの講義内容を私が自宅で解説する・・・といったことでありまして、嫁さんも「なーんだ、それでかぁ」と自分の使命をようやく理解するような次第であります。(ちなみに、嫁さんが勤務する支店はかなり規模の大きなところなんで、けっこうどこでも同じようなものかもしれません・・・現実は (^^;  )

実際、金融商品取引法や内閣府令に基づいて金融機関がどう対応すべきか、というあたりは「銀行法務21」の8月号や9月号あたりの行方先生のご解説や座談会発言等をお読みになるとかなり理解が進むのではないかと思いますが、金融商品取引法に対する金融機関の対応は、超エリートが集まっている本店融資・審査部だけが理解して事足りるのではなく、お客様と接する営業部門にこそ命運がかかっていると言っても過言ではないはずであります。かといって、「この忙しいときに、あの○○さん、10日も休みとってるんだから、信じられなーーい」(いや、それはたぶんコンプライアンス上の要求事項として長期休暇をとってるんだよ・・・・(^^;; )のようにのたまう嫁さんのような行員に行方先生のご指導がすぐに理解できるはずもなく(笑)、結局のところ、金融商品取引法(および政省令)が金融機関に要求するレベルを解釈する人と、嫁さんクラスの現場の行員とを「仲介する人」こそ、金融機関のコンプライアンスの鍵を握る人になってくるのではないかと想像いたします。

さて、問題はここからでありますが、このまま「金融機関大わらわ」でコンプライアンス態勢の構築を急ピッチで進めておりますが、金融商品の販売に従事される支店では10月以降、混乱が生じることはまず間違いないところではないかと想像いたします。といいますのも、嫁さんの勤務する支店は、効率経営の極みといいますか、想像を絶する忙しさでありまして、窓口利用のお客様を平気で1時間以上は待たしてしまうところであります。(いえ、けっして大げさではございません。)待合椅子に座っている方々は常に殺気立った顔つきをされているそうでありまして、なかには、とりあえず順番カードだけ先にとって、買物を済ませ、簡単な手続をされて、「駐車場カード」を2時間分くらいもらって帰っていく方もいらっしゃいます。信託銀行というところは、高齢の顧客も多く、そもそも窓口対応に時間がかかるところであるかもしれませんが、これが金融商品取引法の施行によって、ますます時間がかかるようになりますと、もはや限界を超えて、暴動が起きるのではないかと危惧しております。まぁ暴動はないとしても、おそらく新たな事務リスクが発生することは間違いないと思います。金商法対応といった法令遵守態勢の構築が、新たなコンプライアンス上の問題を発生させる、といったおそろしい懸念が現実のものにならないよう、それこそ柔軟な対応が必要でしょうし、新法適用によって硬直化しがちなテラーや相談員の皆様をどうやってスムーズな対応に導くか、それこそ「仲介する人」たちの手腕に負うところが大きいのではないかと思われます。

先の日経新聞におきまして、金融庁への(対応に関する)金融機関からの問い合わせが殺到しており「お伺いをたてる前に、現場で対応すべき問題ではないのか」と金融庁の職員の方がぼやいておられる、と報道されておりました。たしかに私も正論だとは思うのですが、現場が上記のとおり余裕のない状態であれば、新たに発生するリスクを低減しようとする金融機関の行動にも理解できるところであります。

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2007年9月14日 (金)

モック社に対する東証の公表措置

司法試験に合格された皆様方、本当におめでとうございます。こころよりお祝い申し上げます。京大、神戸大、名大などのロースクールが抜群の合格率を示したにもかかわらず、わが母校のロースクールはといいますと・・・・↓。(トホホ・・)それから、後期課程から私が教員として参加いたしますロースクールはといいますと・・・(うーーん、ビミョウ・・・しかし、一橋と千葉大はスゴイですね・・・・・)(ご挨拶はここまで)

ここのところ、たくさんの方に非常にハイレベルかつ有益なコメントを頂戴しているにもかかわらず、私の能力がなかなかついていけないために、お返事が遅れておりますこと、陳謝いたします。どのコメントも、力作ばかりでありましてお気楽に回答しにくいものばかりです。本当にありがとうございます。

さて、いつもチェックさせていただいておりますligayaさんのブログでも「これはあかんやろ・・・」と評価されておりますマザーズの株式会社モックの株式併合および特に有利な条件による新株予約権第三者割当てでありますが、今朝(9月13日)の日経朝刊でも少し「公表措置」に関する特集記事が組まれておりました。流通市場に混乱をもたらすおそれがある、ということでモック社に対して東証規則による「公表措置」がとられたそうであります。(モック社によるリリースはこちら)今年1月ころから、このブログでもご紹介した「粉飾の論理」(高橋篤史著 東洋経済新報社)における「メディアリンクス事件」の記述中にも登場されていた方がモック社の大株主になっていらっしゃいましたので、「何が起こるんだろうか・・・?」と、ずいぶんと前から気に留めていた会社であります。ただ、モック社には社外監査役として、コンプライアンスで著名な弁護士の方もおつきになっておられましたので、あまり騒動になるようなことはないだろう・・・と考えておりました。しかしながら、その先生もモック社の株式併合のリリースと同日に役員異動(9月26日の総会にて退任)がリリースされておりますので、おそらく今回のことと関係があるのではないか・・・と推測いたします。

おそらく東京の法律事務所によるリーガルチェックを受けて「問題なし」との意見をもとに、このような株式併合(10株→1株)と新株予約権の「特に有利な条件による第三者割当て」が行われることになった(もちろん、株主総会における特別決議の成立が条件でありますが)と思料されるわけですが、本当に「問題なし」と言えるのでしょうか?証券取引法的な観点からみたら、これってTOBやMBOによって株主に売却の機会を与えつつ、支配権を移動させるべき筋のスキームがとられるべき事案ではないでしょうか?(マザーズ市場ですから、すぐに上場廃止になる、というわけではないでしょうけど)また、会社法的に考えましても、株式の併合等の際に端数株主が生じる場合、それが会社法上容認されている不平等扱いだとしましても、併合後の一株が極端に大きいために、一部の大株主を除き大部分の株主は端株主になってしまう等の場合には、株主平等の原則に違反する結果となってしまいます(参考「株式会社法」江頭著 126頁)。本件では10株未満の株主(つまり端株主になってしまう株主)の持株保有割合こそ13%ほどであるものの、その株主数は全体の80%を越える人数であり、この「一部の大株主を除き、大部分の株主は端株主となってしまう」場合に該当するのではないでしょうか。なお、先の江頭「株式会社法」によりますと、もし不当な目的(たとえば株式の併合が、少数派の株式を端数にして、会社経営から追い出す目的)で利用されるケースなどにおいて、かりに多数派株主の賛成によりその特別決議が成立した場合には、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議が成立した場合にあたるものとして、決議取消請求も可能である、とされております(会社法831条1項3号)したがいまして、株主の権利侵害を最小限度に抑えつつ、支配権の移動を生じさせる方法としてはMBO等の手続きがあるにもかかわらず、株式併合手続きを選択したことの合理的な説明がつかないかぎりは、たとえ特別決議が成立した場合であっても、それは不当な目的による株式併合とみなされる可能性は高いのではないでしょうかね?(もし、法律の解釈や証券取引法制度に関する誤解がございましたらご指摘ください)

法が明確に禁止していないのであれば、何をやっても違法ではない・・・という解釈がまだまだ強いところなのかもしれませんが、明確とはいえないまでも、おそらくこういった株式併合手続きというのは、金商法や会社法の制度趣旨からみて違法と評価される場合もあると思うのですが、いかがでしょうか。最近拝読いたしました上村教授と金児氏による「株式会社はどこへ行くのか」のなかで、上村教授がご立腹されていたような状況が、いままさに目の前で行われているような気がするのは私だけでしょうか。今後、モック社の株主総会も含めて、会社や株主の方々の動向に注目してみたいと思います。

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2007年9月13日 (木)

コンプライアンス経営はむずかしい(やぶへび編)

ひさしぶりの「コンプライアンス経営はむずかしい」シリーズであります。(って、別にシリーズ化しているわけではないのですが)これまでのエントリーは、下のカテゴリーのところをクリックしていただきますと、ご覧になれますので、またお時間のあります方はご参照ください。

本日、私の自宅近くにあります(大阪府堺市の)遊戯施設のエレベーターが落下する、という事故が発生しました。またシンドラー社製のエレベーターだそうであります。(日経ネット関西版ニュースはこちら)「またこの会社のエレベーターか・・・。怖いなぁ・・・」と一般の方々はそちらに関心が向くと思うわけでありますが、私がもっと「コワイなぁ・・・」と感じましたのは、「なお、エレベーターに乗っていた9名のうち、数名の負傷者は18歳未満であり、夜10時以降、ゲームセンター等への出入りを禁じた大阪府青少年保護育成条例に違反する可能性があり、大阪府警は関係者より事情を聴いている」とのくだりであります。ちなみに、14歳から17歳までの少年が5人乗っていた、ということですから、保護者同伴でも遊技場(ゲームセンター)に午後10時以降は立ち入ってはいけない(16歳未満)少年がいた模様であります。(16歳以上18歳未満の少年の場合は、保護者同伴でない場合に営業者に規制違反が認められる可能性あり)

本来ならば、営業店舗側としましては、エレベーター事故発生ということで、おそらくエレベーター運営管理会社の問題として処理したいところではあります。しかしながら、たとえ営業店舗側にミスが認められないような突発事故が発生したとしましても、その事故を機会としてそこに「言い逃れできない不祥事」が突然発覚してしまう事態となってしまうことにはゾッとしますね。警察のほうも、単なる青少年保護育成条例違反といいましても、比較的軽微な営業規制に違反するような事態といいますのは、おそらく日常茶飯事でしょうから、なかなか手が回らないところではありますが、「目の前で見ちゃった」以上は事情聴取せざるをえないでしょうし、当然のことながら、行政処分にも発展する可能性があると思われます。もちろん、店舗側としては、きちんと条例を遵守して、目に付くところに青少年の立ち入りに関する規制を掲示して、なおかつ指導しなければならないことは当然でありますが、ひょとして心のどこかに「エレベーター事故のせいで、運の悪いことになっちゃったなぁ」といった気持ちも出てくるかもしれません。

おそらくこの営業店舗は上場企業による運営店ではないと思いますが、これが上場企業の場合ですと、コンプライアンス違反ということでマスコミにも叩かれるかもしれませんし、また業績への影響が軽微であったとしましても、とりあえず開示情報としてリリースしなければならないかもしれません。企業のなかでの「責任者探し」も始まるかもしれません。こういった行政取締法規違反の事実というものは、その違反事実だけを捉えてみますと「どこでもやっている」「どの会社でもこれくらいのことはやっている」「件数が多すぎて処分の対象にならない」などと軽くとらえがちでありますが、本日のシンドラー社製エレベーター事故のように、予期していなかったような突発事故をきっかけとして、行政庁が「見てみぬふりはできない」状況に至ってしまうケースがあります。まさに「やぶへびコンプライアンス」の事例であります。企業不祥事はリスク管理の一種である、とよく言われますが、こういった違反事実のリスクを企業としてどのように評価するのか、こういった事件が発生する可能性を認識しているか、していないかによって、ずいぶんと評価の程度が変わってくるのではないでしょうか。ふだんの小さな法令遵守の心がけが、企業の社会的信用を守ることにつながる好例だと思います。とりわけ新規事業へ進出される場合には、どういった行政法規による取締対象となるのか、十分調査することも必要でありますが、その法規違反がどういった企業リスクとなるのか、といった点につきましても、よく吟味されたほうがよろしいかと思います。

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2007年9月12日 (水)

内部統制報告制度における内部監査人の役割

イソライト工業さんが、連結子会社(イソライト建材)の不適切な会計処理に関して改善状況報告書(大阪証券取引所宛)を提出しておられます。不適切な処理の原因事実や、それに対応する改善方法、および会計士の資格を有しておられる内部監査人による改善状況など、いろいろと参考になりますね。子会社の内部監査や実際の棚卸し資産の監査にあたっては、会計士の先生が内部監査人となってチェックされているんですね。

さて、本日(9月11日)は朝から、来年新規公開を予定している某会社のリスク管理委員会に出席してきましたが、ここでもやはり「内部監査人をどうするか?」議論になっておりました。とくに不適切な会計処理があったからではなく、監査法人さんからの指摘で、いわゆる「財務報告に係る内部統制」を整備する一環としての内部監査人の選定に関するものであります。このブログにおきましても、過去に内部監査人と内部統制の関係とか、内部統制の重要な欠陥と人材流動化リスク などのエントリーで内部監査人の立ち位置(ポジション)について議論してきましたし、たいへん有益なコメントも頂戴してまいりましたが、財務報告に係る内部統制における内部監査人の役割といった問題は、けっこうホットな話題になってきているのではないでしょうか。

旬刊経理情報1159号の特集記事「内部統制の評価はこうする」や、内部統制実務書の新刊である「内部統制の実務Q&A(新日本監査法人 編)」(東洋経済新報社)における「内部統制の評価体制の検討事項」などを読みますと、「経営者による有効性評価」の実際の担い手は内部監査人であることが原則のようであります。私の理解では、経理財務部門の担当者が有効性評価をして、その評価内容をあらためて精査するのが内部監査人と認識していたのでありますが、(それも間違いではないようですが)原則的には内部監査人自身が経営者評価の主体とみるのが主流的見解のようですね。(ちなみに、以前ご紹介いたしました「COSO簡易版ガイドライン」の和訳本によりますと、専任の内部監査人を選定できないような規模の小さな上場会社であれば、たとえば別のラインを担当している経理担当者どうしが、相互に普段業務プロセスに関与していないラインについて客観的に監査し合う、ということで独立性を担保する方法も紹介されております。)

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しかしながら、上記のように内部監査人が内部統制テストを責任をもって実施する体制をとる場合、この内部監査人が適正に有効性を評価できるだけの能力を有していることは、いったい誰が評価するのでしょうか?もちろん実務的には内部監査人によるテストだけでなく、経理財務担当社員によるチームのテストや自己点検を利用したテストなどを組み合わせて実施することが一般的といった記述もありますが(上記「内部統制の実務Q&A」)たとえそうであったとしても、内部監査人によるテストを実施する以上、同様の疑問は拭えません。「内部統制の重要な欠陥と人材流動化リスク」のところでも書きましたが、業務プロセス評価や決算財務プロセスの評価といったあたりはかなり専門的な財務会計的知見を要することは明白でありますから、その「知見」のところで内部統制監査人と意見が食い違ってしまうと「重要な欠陥リスク」を背負うことになりますよね。以前、内部統制システムの整備を担当されていらっしゃるhisaemonさんも頭を悩めておられましたが、このあたり、(誤解をおそれずに申し上げますと)内部統制監査を担当される監査人さん方は、指摘する気持ちはあるのでしょうかね?漏れ聞くところによりますと、アメリカのSOX法元年には12%もの上場企業の内部統制が有効とは認められなかったそうで、そのうち大半は人材リスクに関するものであったと記憶しております。日本でも、もし重要な欠陥があると評価されるのであれば、そういった人材の能力不足を監査先企業に問うことは可能なのでしょうか?それともこのあたりは、アメリカとちがってダイレクトレポーティングが採用されていないことを理由に消極的にならざるをえないのでしょうか?そもそも先の「内部統制の実務Q&A」にもありますが、内部監査人に求められる業務としては、コンサルティング業務から次第に保証業務に移りつつある、とのことですし、この流れは内部統制報告制度が実施されることとも整合性があろうかと思います。しかし「保証」するのが業務であるならば、やはり保証できるだけのレベルに達しているかどうかが非常に重要なわけでして、そのあたりを曖昧にしたままでは制度自体に破綻をきたすのではないでしょうか。また、このあたりが曖昧であるということは、結局のところ監査人が自信をもって重要な欠陥が疑われると述べることができるのは、自ら財務諸表上での虚偽表示が見つかった場合に「結果責任」を問える場合のみであって、これではなんのための内部統制報告制度なのかわからなくなってしまいますよね。(虚偽表示のリスクを開示するための制度であるにもかかわらず、虚偽表示が認められた場合に「重要な欠陥あり」・・・ではお粗末ですよね)

もうひとつ疑問なのが「自己点検」であります。実施基準によりますと、「日常の業務を執行する者、又は業務を執行する部署自身による内部統制の自己点検は、それのみでは独立的評価とは認められない」とのことであります。一方、一般的に見まして、内部監査人は会社法上の内部統制の基本方針におきましては、「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」のなかで「内部監査部門がグループ各部門毎のリスク管理の状況を監査し、その結果を定期的に総務担当取締役もしくは取締役会に報告する」と定められております。内部統制報告制度も、純然たる「財務報告の信頼性を阻害するリスクの管理」であることは間違いないでしょうから、内部監査人の日常の業務は業務プロセスのなかにおいて「運用」状況の評価対象になるわけですよね。そうしますと、評価の基準日におきまして、そういった運用状況を内部監査人が評価することは実施基準が認めていない「自己点検」になってしまうんじゃないでしょうかね?

長々と書き連ねてしまいましたが、最近の内部統制報告実務に関する雑誌や書物を読んでおりまして、実際に内部統制コンサルティングに関与されていらっしゃる方々の経験に基づく指針が豊富に記載されるようになっておりまして、それはそれで内容がわかりやすくなってきたなぁ・・・と感じるのではありますが、経営者による評価の適法性を監督しなければならない「監査役」という立場から見た場合、どうも理屈のわからないところも顕在化してきたように思えますし、監査役が連携協調しなければならない内部監査人に何を期待すればいいのか・・・といったところが、もすこし理解しやすければありがたいと思っております。(ちなみに本文で引用させていただきました「内部統制の実務Q&A」、ここまでいろんな議論がなされてきての一冊ですので、非常に読みやすく、参考になります。また、旬刊経理情報1159号の特集記事につきましても、このブログで盛り上がりましたサンプルのとり方を含む内部統制評価方法が、かなり詳しく解説されておりまして、こちらも必読かと思います。しかしどなたかがおっしゃっておられたように第1フェーズから第2、第3フェーズと進むにつれて、まだまだいろんな問題点が出てくるんじゃないでしょうかね)

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2007年9月 9日 (日)

田中論文と「濫用的買収者」

(9月9日夜 追記あります)

大杉先生のブログで「9月5日号の旬刊商事法務にビックリ論文がありますよ」といった予告が出ておりましたので、期待しておりましたところ、ホンマ、これは「監査役制度改造論」以来のビックリ論文ですね。(ブルドックソース事件の法的検討 田中亘 成蹊大学准教授)圧巻はブルドック高裁決定がスティール(関係者)を「濫用的買収者」と認定した理由付けはおかしい、とする見解であります。

ブルドックソース事件で「濫用的買収者」に関する議論をされていた方々のうち、高裁決定の「スティールは『濫用的買収者』である」との判断理由に「日本のM&Aの行く末」を悲観的に嘆いておられた方にとりましては、まさにナミダモノの論文ではないでしょうか。ちょうど二年ほど前に田中論文と企業価値論というエントリーをアップしておりますが、当時の論文を拝見して以来、取締役の責任論やMBO論考など、田中亘准教授(成蹊大学)の論文はいつも楽しみにしておりました。ただ、いつも田中先生の論文は、何度も読み込まなければ私のような凡人には理解できない部分もあったのですが、このたびの「ブルドックソース事件の法的検討(上)」は、なんといっても「論旨が明解でわかりやすい」のが特長かと思います。おそらくこれだけわかりやすい論文ということは、田中先生がブルドック高裁決定に触れたとたんに、「これはおかしいぞ?」と脊髄反射的に疑問点を感じ取られたからではないでしょうか。とりわけ高裁決定がスティールを濫用的買収者と認定(断定?)したことへの「法と経済学」的な視点からの的確なご批判は、日経新聞の記者(?)さんはじめ、MAに携わる多くの方が「これまでの辛酸をなめていた日々」を忘れさせてくれるほどに胸のすく思いを味わえたのではないかと推測いたします。(ただ、私自身はこの田中教授の論文を読んだ後でも、日本の当事者主義的な訴訟制度および、濫用的買収者かどうか、といった判断は規範的要件の解釈に関するものであって、評価根拠事実や評価障害事実に関する当事者の主張にひきづられるところもあるので、裁判所が「濫用的買収者」にスポットをあててしまった以上は、こういった結論になるのもやむをえないところもあるかな・・・と思ったりもしておりますが。ただ、正確には高裁や地裁レベルにおける双方の準備書面(主張書面)まで確認しなければなんとも言えないところではあります。なお、このあたりの議論につきましては、私のブログでもたいへん盛り上がりました7月中旬ころの 濫用的買収者って何だろう? あたりをお読みいただけますと幸いです。)

田中先生の論文では、最高裁決定および東京地裁決定(論文では原々決定)の論旨を客観的に手堅くまとめあげていらっしゃいますので、逆に東京高裁決定の濫用的買収者認定に関するご批判がますます際立っている感がしております。「濫用的買収者かどうか」といった論点は、TBS・楽天事件におきまして、企業価値評価特別委員会の報告書でも議論されているところですし、事前警告型防衛策の発動要件として、今後も有識者の方々によるいろんなご意見が出るところだと思いますので、この田中教授の視点も今後議論の対象になってくるものと推測いたします。なお、この「法的検討(下)」ではブルドックソースの株主の意思決定に関する問題点についても検討されていらっしゃるようですので、大杉先生の経済刑法に関する判例評釈とともに、ますます次号が楽しみになってまいりました。

(追記)田中先生の上記論文以外にも、この商事法務9月5日号では「スクランブル」で「ブルドックソース事件最高裁決定の射程」なる小稿が掲載されておりまして、買収防衛策と「濫用、非濫用の買収ニ分類」に関する考え方の整理が示されております。そもそも買収防衛策の発動は「濫用的買収者」が現れたときのみ許されるとする考え方と、濫用的買収者の定義に含まれない者であったとしても(非濫用的買収者)、企業価値(ひいては株主共同価値)を毀損する者に対しては、買収防衛策を発動できるとする考え方の比較ということであります。TBSの企業価値評価委員会の判断過程などを報告書から検討しておりますと、そもそも「非濫用的買収者」が企業価値を毀損するおそれのある場合でさえ「濫用的買収者」の概念に含んで考えていらっしゃるように読めますので、こういった考え方の違いというのも、まだまだ流動的な部分が多いように思えます。要は、アクティビスト的な買収者の場合と競争事業者的な買収者の場合とで「濫用的買収者」の概念を同じに扱うのか、違う定義とするのか、また上記のとおり買収防衛策発動が許される場合というのを「濫用的買収者」の場合に限るのか、非濫用的買収者にも一定の要件のもとで可能とするのかなど、まだまだ整理しなければならない余地がありそうですね。

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2007年9月 7日 (金)

インサイダー取引と組織的犯罪処罰法の適用

昨日(9月5日)の毎日新聞ニュースでは、インサイダー取引防止に関する対策セミナーへの受講者が非常に増えている、といった記事が掲載されておりました。(ニュースはこちら)また、タイミングも絶妙に、同じ日に証券取引等監視委員会のHPでは「公正な市場の確立に向けて~「市場の番人」としての今後の取り組み~」といったリリースが出ておりました。(新しい委員長が「課徴金制度、強化進めるべき」と語ったとするニュースも)施行から2年で課徴金制度を見直す・・・といったことでしたので、今後の課徴金制度の改正内容についても目がはなせないところであります。

ところで先日、家族を不幸にするインサイダー取引といったエントリーをアップいたしましたが、インサイダー取引が不幸にするのは家族だけではないようであります。一昨日、関西のある証券取引法(金融商品取引法)を専門にされていらっしゃる先生(法科大学院教授)とお話しておりましたときに、「世間ではあまり論じられていませんが、組織的犯罪処罰法が経済犯への適用される可能性は高いのではないでしょうか」といったご意見をいただきました。そもそも、金融商品取引法における罰則強化(すでに施行されております)によってインサイダー取引による刑事罰の長期は5年(5年以下)に引き上げられましたが、別表によりますと、証券取引法の時代から組織的犯罪処罰法の適用は十分に可能だったんですね。

つまりインサイダー取引によって得た利益が内部者のもとに残っている場合には、これは組織的犯罪収益法2条2項の「犯罪収益」を構成することになりますので、もし、内部者以外の人(つまり外部者)が、この収益を受け取ったりした場合には、同法11条によって犯罪収益収受罪が成立して、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられる可能性が出てくるということになるみたいです。そして、犯罪収益といったものは、ほかの財産と混じってしまっていても、「混和財産」として犯罪収益性は否定されないようであります。(以下、これが最新のものかどうかは確認しておりませんが、ご参考まで)

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律

第一条    【 目的 】
  この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害し、及び犯罪による収益がこの種の犯罪を助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることにかんがみ、組織的に行われた殺人等の行為に対する処罰を強化し、犯罪による収益の隠匿及び収受並びにこれを用いた法人等の事業経営の支配を目的とする行為を処罰するとともに、犯罪による収益に係る没収及び追徴の特例並びに疑わしい取引の届出等について定めることを目的とする。

第二項  この法律において「犯罪収益」とは、次に掲げる財産をいう。
第一号  財産上の不正な利益を得る目的で犯した別表に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産

別表   (第二条、第十三条、第二十二条、第四十二条、第五十六条、第五十九条関係)

第十四号  証券取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第百九十七条(虚偽有価証券届出書等の提出等)、第百九十八条第十五号(内部者取引)又は第二百条第十三号(損失補てんに係る利益の収受等)の罪

第十一条   【 犯罪収益等収受 】
  情を知って、犯罪収益等を収受した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、法令上の義務の履行として提供されたものを収受した者又は契約(債権者において相当の財産上の利益を提供すべきものに限る。)の時に当該契約に係る債務の履行が犯罪収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者は、この限りでない。

たとえばインサイダー取引が疑われている企業もしくは個人につきましては、平成17年から課徴金制度の対象となりましたので、課徴金処分のための調査の時点から刑事罰の疑いもあるわけです。そうしますと、具体的なインサイダー取引の疑いのある企業から、相談もしくは依頼を受けた弁護士に支払われる報酬といったものも、ひょっとすると「犯罪収益」となる可能性も出てきますよね。「ひょっとしたら、この着手金はインサイダー取引で儲けたお金の一部かも・・・」といった疑念を抱いてしまいますと、法理論的には弁護士に犯罪収益収受罪の「未必の故意」があったとされるかもしれませんし、けっこうヤバイんじゃないでしょうか。私だったら、インサイダー取引疑惑の持たれている企業もしくは個人さんからの依頼があったとすれば、「貴殿にお支払いする金員は決して犯罪収益によるものではないことを証拠に基づいて誓約いたします。」といった念書をいただき、なおかつ金銭の流れの証明できるものの写しなどを確認しないと、あぶなっかしくて受任しないかもしれません。たとえそういった念書をとったとしましても、捜索差押さえの対象にはなるかもしれませんので、弁護士の守秘義務が侵害されてしまって依頼者との信頼関係が維持できない状況になることも予想されます。株主に対する利益供与の問題もそうですが、経済犯罪に関与する弁護士にとりましては、依頼者のためにも、こういった捜査対象になってしまうリスクを最小限度に抑える必要はありそうですね。(ただし、本年4月より施行されております「犯罪収益の移転防止に関する法律」の適用関係に注意)

いずれにしましても、現行の課徴金制度は、利益返還的な運用がなされておりますので、利益のないところにはかかってこないと思うのでありますが、独禁法上の課徴金制度のように、今後課徴金制度が改正されて、いまよりももっと「ペナルティー」としての性格が強くなりますと、利益に預かっていない共犯関係者にも課されることになるかもしれません。また、上記のとおり、刑事罰ともなりますと、いったいどこまでの関係者がインサイダー取引によって捜査対象となるのか、たいへん曖昧な部分が発生してくるのではないかと思いますので、役員個人のリスク管理のためにも、また企業の社会的信用を守るためにも、対策セミナー等で一定のリーガルリスクについて学ぶことも価値があるように思います。

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2007年9月 5日 (水)

ブルドックにみる次世代買収防衛策(2)

ある東証一部上場企業さんの不適切な会計処理発覚の原因が、担当監査法人さんに対する内部告発によるものであった、とのことでありますが、その監査法人さんが流出させてしまった情報のなかに、この内部告発者の氏名や住所が存在していたら、いったいどうなってしまうのだろうか・・・と、他人事ながら心配してしまう今日このごろ、皆様いかがおすごしでしょうか?

さて、hiroさんのコメントで知りましたが、北畑経済産業省事務次官がブルドックソース社が新たに導入を決めた事前警告型買収防衛策についての個人的感想として、敵対的買収者に対する(割り当てられた新株予約権の行使ができないことの経済的損失補完としての)金銭的な支払いができる、と規定されている部分について難色を示しておられるようであります。(事務次官スピーチ9月3日分)「かならず支払う」とはされておりませんが、いちおう「支払うことができる」とは、たしかに明記されております。

このあたり、(実際にアメリカの企業で導入されている防衛策にも、そのような規定はないことを説明されたうえで)2年ほど前の企業価値研究会において、すでに議論がされていたようでして、平時導入型の防衛策においては、買収者に対する経済的損失補てんは必要ない、との結論が(企業価値研究会にも)あったというようなスピーチ内容になっております。(先のスピーチ内容参照)また、経済的損失を補填することを前提とする平時導入型防衛策であれば、グリーンメイラー的な人たちを誘い込む要因になってしまう、との懸念も示されております。

しかしながら、アメリカでは未だ正式に防衛策が発動されたことがないわけですから、発動時における相当性についての議論のなかではアメリカのモデルを引用することにどれだけの説得性があるかは疑問ですし、アクティビスト型の買収者だけでなく、事業者型の買収者の場合であっても、すべて経済的補填が不要かといいますと、そこまで割り切って考えていいものかどうかは不安の残るところであります。さらに、そもそも平成17年5月27日に企業価値研究会から出されております「企業価値・株主共同利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」のなかでは、(旧商法下のものではありますが)その6頁以降におきまして、差別的行使条件のある新株予約権の発行については、買収者以外の株主であることを行使条件とすることは株主平等原則に反するものではない、といった前提でのお話であります。今回のブルドック最高裁決定は、新株予約権の差別行使条件付きの無償割当てについては株主平等原則の趣旨が及ぶとしたうえで、例外的に平等原則違反とはならない「正当性と相当性」の判断根拠のなかにおいて、この「金銭的補償」の件を理由付けのひとつとして掲示しております。最高裁決定における「理由」の書きぶりからしますと、有事導入と平時導入(つまり買収者に対する予見可能性の問題)に区別して手段の相当性判断基準に差があってもいいのではないか、と考えられる根拠のひとつとして、この「金銭支払いの有無」を持ち出していいものかどうかは、かなり微妙ではないかと私は思っております。

ところで急に話は変わりますが、本日経済産業省のHPでは、1ヶ月前(8月3日)に意見募集をしておりました「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」がリリースされております。一ヶ月前の指針(案)と比較しますと、私が見たかぎりでは、若干の修正が2箇所ほどございますが、ほとんど内容的には変更はないようです。したがいまして、今回一番勉強になりましたのが、同時にリリースされております「意見募集の結果について」に記載されております意見かもしれません。

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2007年9月 4日 (火)

事後チェックバブルの時代

(4日夕方 追記あり)

帝国データバンクのまとめによりますと、行政処分を受けたり、粉飾決算をするなど、コンプライアンス違反が確認された負債額1億円以上の法的整理は、2006年度には102社にのぼり、前年比で37.8%も増加しているそうであります。あまり詳細な引用は避けますが、今週号の日経ビジネス誌では「ルールなき『事後規制社会』」特集ということで、行政処分を受けたことで企業が大きく信用を失うことの功罪と、場当たり的な行政処分を達観できる企業作りを目指すことへの提案が示されており、コンプライアンス経営に関する関心を持つ方にはお勧めの記事であります。(先の帝国データバンクの数字も、また本日のエントリーのタイトルも今週号の日経ビジネス特集記事より引用)実は同じような問題意識につきましては、私自身も昨年5月16日に行政法専門弁護士待望論というエントリーのなかでも少しばかり示しておりました。事前規制から事後規制の社会へ、という時代の流れのなかで、企業には自由を確保することと引き換えに自律的行動が求められるわけでして、ルール違反があれば事後的に厳しいペナルティが課せられるのも当然のこと(自己責任原則)と考える傾向が強まりつつあると思われます。

行政処分を受けることでマスコミからも標的にされ、事件の内容が一般消費者の脳裏にこびりつく前に、たとえ行政処分に不満はあったとしても、役員一同で謝罪をして、マスコミの騒ぎを一回ポッキリで済ませてしまおう・・・・・。この「一回ポッキリで済ます」ことができるかどうかも、結構企業におけるクライシスマネジメントとしては重要なところでありますので、こういった企業の対応もけっして「弱腰」と決め付けることはできないところであります。しかしながら、社会からどのように非難されようとも、自分たちの言い分が正しいと思うのでありましたら、企業の名誉にかけて、断固行政処分の不適切であることを主張し、戦う姿勢を持つことも企業コンプライアンス経営の一方法であると考えます。ただし、その場合には、行政と互角に渡り合えるような有能な「行政専門弁護士」が不可欠である・・・というのが私見であります。(税務訴訟の分野では、著名な弁護士の方々もいらっしゃいますが、税務以外の行政分野となりますと、行政書士さん方の独壇場でありまして、風営法等の警察行政も含めて、なかなかいらっしゃらないのではないでしょうか?)

この日経ビジネス誌の特集記事のなかで、すこしだけ気になりましたのは、フルキャスト社の全営業所における業務停止1ヶ月(神戸市内の営業所は2ヶ月)という処分が、ほかの具体的な前例などと比較すると理由もわからず重い処分であり、なぜフルキャスト社だけ重いのか、その説明もほとんどないのは不合理ではないか?との認識が書かれております。(もともと今回フルキャスト社が労働者派遣業法違反と指摘されている港湾運送業務といったものも、どこまでが普通の検品作業であり、どこからが港湾運送作業となるのか等、かなり曖昧な部分も残るところでありますが、本日はそのあたりまでは論及しません)たしかに、私自身も行政処分については平等原則、比例原則、ディープロセス原則といったあたりは重要だと思いますし、納得できなければ、争うべきものと思います。ただし、行政処分というものの性質を考えた場合、比較すべき材料はたくさんあって、他の面からみれば行政処分に差があっても不合理とはいえない、といった最終判断が下される可能性もありますので、留意する必要があると考えます。

たとえば労働者派遣業法違反を例にして考えましても、同じ違反行為であっても、それがどれだけ労働者を過酷な状況にしていたか、被害者たる労働者たちは、実際にどれだけの被害を受けていたかといった被害状況の差や、同様の行動が繰り返されていたのかどうか、実際の行政処分発令までの間に、未然防止のためにどれだけコンプライアンス体制を構築したか、問題とされる事実関係を企業自身が自社独自で十分調査できたか、最終責任者を特定して、しかるべき対処をしたか、といった状況によって、客観的には同じようにみえる他の事例とは行政処分に軽重が出てもおかしくないと思われます。この日経ビジネス誌のフルキャストの事例を読みましても、こういった部分においても同じだったのか、差があったのかは不明であります。最近でこそ、課徴金賦課のように、ペナルティを主目的とした行政処分が発令されるようにはなりましたが、もともと行政処分は行政目的を達成するための手段、つまり先の例でいえば、労働者の生命身体および財産の安全を守るために発令するためのものでありますので、客観的な事実における前例と今回の対象行為が同様に見える場合でありましても、その代表者の属性とか、違反行為の累犯性とか、再犯防止のための反省や行動などによって、事業停止期間や免許取消など、必要な対応は千差万別であってもとくに不合理とはいえない世界ではないでしょうか。これを「行政の恣意性」と捉えるか、「行政目的を達成するための柔軟性」と捉えるかは紙一重であります。

この紙一重のところを、できるだけ明確に行政に説明責任を尽くさせることこそ、行政に精通した弁護士に期待されるところであり、私が行政専門弁護士を待望するところであります。(ただし金銭的にはあまり儲かる分野ではないかもしれません。(^^;;)今後の金融行政におきましても、同様の問題点が大きくとりあげられるときが近い将来に到来すると思ったりもしております。

(追記)

こういった行政関連の話題となりますと、普段お越しいただいていない方も合わせて、たくさんのアクセスをいただきました。(ありがとうございます)そういえば、以前「耐震偽装」に関する話題のときにイーホームズ社のコンプライアンスを採り上げましたが、事前規制から事後規制へ、といった流れのなかで、これまでは行政権限だったものが民間委託されるケースが増えておりますので、こういった民間に委託された処分行為といったものをどう扱うべきか・・・というのも「新しい論点」になってくるように思います。また、別の機会にでも検討してみたいと思っております。

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2007年9月 3日 (月)

IXI粉飾、管財人が監査法人を提訴

9月1日の読売新聞に、IT関連企業であるアイ・エックス・アイ社(以下、IXIといいます)の民事再生手続きにおける管財人が、IXI社の2005年と2006年の3月期(2事業年度)の架空循環取引による粉飾決算に適正意見を出した監査法人に対して、1億2700万円の損害賠償を求める訴えを提起した、との記事が掲載されております。(ちなみに、民事再生事件におきましても、資産の保全管理の必要がある場合には管理命令とともに管財人が就任するケースがときどきあります)

元経営陣と一緒に粉飾決算に加担したとか、経営陣に粉飾方法を指南した・・・といった話だとわかりやすいのでありますが、そうではなくて、監査法人(担当した公認会計士)の注意ミスによって粉飾を見逃してしまった、というケースのようでありますが、損害として管財人より請求されている金額は、監査法人さんの2年分の報酬2700万円と、慰謝料1億円であります。どんなところに法律上の問題(注意ミス)があったかと言いますと、先の新聞報道によると、メディア・リンクス社の架空循環取引が発覚した後の2005年3月、「情報サービス産業における監査上の諸問題について」と題する日本公認会計士協会からの通達が出されていたにもかかわらず、IXI社の会計監査人らは(この通達が公表された以降も)IXI社による商品確認が適正に行われていなかったことを見抜けなかった(2006年12月まで適正意見を出し続けていた)というものであります。監査法人さんには「不正発見義務」はないわけですから、ここで問題にされるのは「見逃した」というよりも、なぜ会計処理に不審を抱かなかったのか、もしくは会計処理がおかしいと思ったら、どうしてもっと早期に「意見不表明」としなかったのか、といったところでしょうか。

この会計士協会から平成17年3月11日に出されました「情報サービス産業における監査上の諸問題について」と題する通達(A4にして14頁程度)の内容を拝見しましたが、IT企業の会計監査基準を厳格に定めたものではなくて、単に商法上の取引慣行においては循環取引(Uターン取引)のような付加価値をもたらさない目的の取引もあるので、留意されたい、とりあえずアメリカにおける参考基準を示します・・・といった内容であり、異常な商取引の留意点や取引価格の合理性の検証に関する部分にも、一般的な注意事項程度のことのみ記載されているようです。しかしながら、これだけでは、違法とはみなされていないスルー取引(信用補完取引)と、売上高を多く見せかける架空循環取引との区別を明確に判断できるものではありませんので、企業側から「これは適法なスルー取引です」と言われてしまえば、それ以上ツッコめないかもしれません。いつも伝票と納品書だけで処理しており、それ以外の帳票は存在しないといわれればそれまでですし、取引関係者に確認しようとしても、「企業秘密が記載されているのでお見せできない」と言われれば、それ以上の調査は会計士さんに「不正発見義務」でも認められていないかぎりはツッコミをいれることは(監査法人に対して)期待できないでしょう。

そもそも、ソフトウエアやサービスといった「モノ」を扱う商売ですから、在庫商品が不良なのか、優良なのかも不明であり、どこまで仕掛なのか(分割検収は正しいのか)もわからないことも多いでしょうし、このIT関連業界において納品確認を正確に把握することなど、監査法人さんにはかなりムズカシイ作業ではないでしょうか?結局は、不審な点があったとしましても、企業側からあれこれと説明を受けてしまうと、それを信用せざるをえない点もあったのではないかと推察いたします。最近よく証券取引所の方々とお話する機会がありますが、(最近の新興企業における不祥事の多発や、経営不振を受けて)有識者の方から「上場継続審査のようなものを採用してはどうか」といった提案がありましても、証券取引所としましては、いったん上場を認めてしまいますと、たくさんの一般株主の方が株を買ってしまっているので、なかなか継続審査(つまり、途中で審査基準を満たさなければ上場廃止にしてしまう)採用までは考えられない、といった見解をお聞きします。同じように、監査法人さんとしましても、「意見不表明」や「不適正意見」といったものは、一般投資家への影響も考えるならば相当の自信がなければ出せないというのがホンネのところではないかと思いますし、(つまり、どっちか迷ったけど、とりあえず不適正意見を出しましょう・・・とはならないわけで)そうであるならば意見を表明しないための相応の証拠も必要ではないかと思います。そのあたりを考えますと、加担事案や指南事案は別として、監査法人の不注意による見逃し事案につきましては、損害賠償を求める方に相当の持ち駒がなければ「しんどい裁判」になるのではないかと想像いたします。

ただ、IXI社の場合は、M&Aを繰り返していたわけでもないのに急激に売上高、売掛金が増えていたこと、この監査法人が会計監査を担当していた時期に、ナスダックジャパン(現大証ヘラ)から東証2部に上場しようとしていたこと、(いつ判明したかは不明ですが)メディアリンクス社の循環取引にIXI社も関与していたこと等からすれば、一般のIT関連企業以上に相当な注意をもって監査しなければならなかったとはいえるかもしれませんし、そのことを前提とするならば、先の公認会計士協会による通達が出た後から、高度な注意義務をもって会計監査にのぞむ必要があった、とされるのかもしれません。ちなみに、山一證券の簿外債務を見落としたとして、山一の破産管財人と旧中央監査法人との間に1億6600万円による和解が成立した事案(監査法人への請求金額は60億)や、足利銀行が旧中央青山との間で、違法配当を見逃した件の裁判のなかで2億5000万円で和解が成立(請求金額11億)した事案などがありますが、今回も、どこかで和解的な解決がはかられる可能性は高いのかもしれません。(ただ、私自身は監査人の不正発見のために尽くすべき義務と善管注意義務違反との差異というものについて、裁判例と通して予見可能性が高まるほうが、いいのではないかと考えております。ちなみに、引用しております足利銀行事件でありますが、これ、監査法人と一緒に監査役4名も訴えられておりまして、監査役4名で合計1200万円を支払う・・・との和解が成立しております。こういった事件での和解の是非につきましては、また別の機会にでも議論してみたいと思っております)

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2007年9月 1日 (土)

月刊テーミスをご愛読の皆様へ

光栄にも月刊テーミス9月号にてご紹介いただきましたので、ひとことご挨拶を・・・

テーミスをご愛読の皆様へ

はじめまして。管理人の山口利昭です。まだまだ大阪は暑い日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。このたびは当ブログへお越しいただきまして、ありがとうございます。このブログは立ち上げまして、ちょうど2年半となりました。当時流行のきざしをみせておりました「ブログ」なるものを批判したいがために、とりあえず自分で開設してみなければ説得的な批判もできないだろう・・・といった不埒な理由から当ブログを書き始めました。その後どういうわけか、ミイラ取りがミイラになってしまった経過は、みてのとおりであります。

このブログが唯一自慢できますものは、コメントやメールをいただく方々の温かさであります。温かいといいますのは、なにも管理人の意見に迎合されるような応援メッセージをいただく、というものではございません。まじめに管理人の意見に反論をしていただいたり、批判をしていただくところであります。(もちろん共感のコメントも頂戴すればウレシイですけど・・・)法律専門職の社外監査役からみた企業法務、社外役員の立場から企業価値を考える、といったかなりマニアックな視点ではございますが、テーミスをご愛読の皆様のなかで、そういったマニアックは世界をのぞいてみたい・・・といったお気持ちがございましたら、これを御縁に「お気に入り」にチョボっといれておいていただければ幸いです。そしてまた、どんなご意見でも結構ですので、コメントを頂戴できましたら望外の幸せであります。

今後とも、当ブログをご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

弁護士山口利昭 拝

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