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2007年9月16日 (日)

コンプライアンス経営はむずかしい(金融機関編)

9月14日の日経朝刊に「金商法、投資家保護へ月末施行 金融機関大わらわ」なる記事が掲載されておりました。ご承知のとおり9月末に金融商品取引法が完全施行されることを控えて、銀行や証券会社は準備にたいへん忙しいとのことでありまして、おそらく今日あたりは年度末以来の休日出勤をされている銀行員の方も多かったのではないでしょうか。

私はいつも帰宅しますと、嫁さんと1時間以上、ちゃぶ台で向かい合いながら他愛もないことを語り合うのが日課となっておりますが、最近は帰宅しても嫁さんに「コンプライアンス」を語ることになってしまっております。といいますのも、嫁さんは某信託銀行に勤務しているのでありますが、最近よく次長さんから「あーだ、こーだ」と研修を受けるたびに「その内容がさっぱりわからない」と愚痴っております。支店内でも、パンフの差し替えだとか、ノベルティの業者が打ち合わせしてるとか、「なんかやってる」くらいにしか理解していない様子なんですね。ということで、(結婚以来17年間、家で仕事の話などしたこともなかったのでありますが)次長さんの講義内容を私が自宅で解説する・・・といったことでありまして、嫁さんも「なーんだ、それでかぁ」と自分の使命をようやく理解するような次第であります。(ちなみに、嫁さんが勤務する支店はかなり規模の大きなところなんで、けっこうどこでも同じようなものかもしれません・・・現実は (^^;  )

実際、金融商品取引法や内閣府令に基づいて金融機関がどう対応すべきか、というあたりは「銀行法務21」の8月号や9月号あたりの行方先生のご解説や座談会発言等をお読みになるとかなり理解が進むのではないかと思いますが、金融商品取引法に対する金融機関の対応は、超エリートが集まっている本店融資・審査部だけが理解して事足りるのではなく、お客様と接する営業部門にこそ命運がかかっていると言っても過言ではないはずであります。かといって、「この忙しいときに、あの○○さん、10日も休みとってるんだから、信じられなーーい」(いや、それはたぶんコンプライアンス上の要求事項として長期休暇をとってるんだよ・・・・(^^;; )のようにのたまう嫁さんのような行員に行方先生のご指導がすぐに理解できるはずもなく(笑)、結局のところ、金融商品取引法(および政省令)が金融機関に要求するレベルを解釈する人と、嫁さんクラスの現場の行員とを「仲介する人」こそ、金融機関のコンプライアンスの鍵を握る人になってくるのではないかと想像いたします。

さて、問題はここからでありますが、このまま「金融機関大わらわ」でコンプライアンス態勢の構築を急ピッチで進めておりますが、金融商品の販売に従事される支店では10月以降、混乱が生じることはまず間違いないところではないかと想像いたします。といいますのも、嫁さんの勤務する支店は、効率経営の極みといいますか、想像を絶する忙しさでありまして、窓口利用のお客様を平気で1時間以上は待たしてしまうところであります。(いえ、けっして大げさではございません。)待合椅子に座っている方々は常に殺気立った顔つきをされているそうでありまして、なかには、とりあえず順番カードだけ先にとって、買物を済ませ、簡単な手続をされて、「駐車場カード」を2時間分くらいもらって帰っていく方もいらっしゃいます。信託銀行というところは、高齢の顧客も多く、そもそも窓口対応に時間がかかるところであるかもしれませんが、これが金融商品取引法の施行によって、ますます時間がかかるようになりますと、もはや限界を超えて、暴動が起きるのではないかと危惧しております。まぁ暴動はないとしても、おそらく新たな事務リスクが発生することは間違いないと思います。金商法対応といった法令遵守態勢の構築が、新たなコンプライアンス上の問題を発生させる、といったおそろしい懸念が現実のものにならないよう、それこそ柔軟な対応が必要でしょうし、新法適用によって硬直化しがちなテラーや相談員の皆様をどうやってスムーズな対応に導くか、それこそ「仲介する人」たちの手腕に負うところが大きいのではないかと思われます。

先の日経新聞におきまして、金融庁への(対応に関する)金融機関からの問い合わせが殺到しており「お伺いをたてる前に、現場で対応すべき問題ではないのか」と金融庁の職員の方がぼやいておられる、と報道されておりました。たしかに私も正論だとは思うのですが、現場が上記のとおり余裕のない状態であれば、新たに発生するリスクを低減しようとする金融機関の行動にも理解できるところであります。

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コメント

一応、小池総会屋事件の発端銀行に勤務していたものとして、経験則から推測する一般行員のコンプライアンス意識等を述べさせていただきます。信託銀行と違うことと、総会屋事件以降コンプライアンスについてはかなり厳しく反省した銀行であることをご念頭にお含み置きください。(銀行法務21は入手できず)

総論として、同情的に言えば「コンプライアンス疲れ」といいますか、悪く言えば「狼少年」といいますか、そんな状況だと思います。したがって、認識が違えど、「コンプライアンスの構築が新たなコンプライアンスの問題を発生させる」というご主旨は同意見かと思います。

ただし、金融機関は業種特性として、リスク回避意識は他産業よりも強いとコンサル経験等も含めた他産業比較ではいえると思います。

一般的にバブル崩壊を経験している職員は(最近の若い人は微妙ですが)、コンプライアンスに関しては、大なり小なり自分が経験するか、上司・同僚や同期など信頼できる誰かが「危ない橋」を経験しており、決して「他人事」と思っていないと感じます。エリートとか兵隊とかに関係なく。
したがって、「仲介する人」にコンプライアンス遵守の必然性を理解していない人はいないはずです。

在籍していた銀行では、97年ごろから本部からかなり切れる優秀な方が「コンプライアンス対策本部営業店巡回部長」みたいな肩書きで、各支店を巡回し、研修などで、「なぜ必要か」、「遵守しないとどうなるか」などを延々と実施していました。

ここで、各職員レベルのコンプライアンス遵守についてですが、銀行にはものすごく整備された事務処理マニュアルがあり、問題があるごとに改訂され、どのようなベテラン職員でもわからない処理・対応は必ず当該マニュアルを参考にする、本部にも事務推進本部なるものがあり、重要な部署であったという前提をお含み下さい(営業表彰と事務表彰という評価制度があったぐらい)。
総会屋事件がなくとも「営業できても事務が出来ないやつは使わない」 とする風土がありました(なので総会屋事件は残念)。

各職員では、「何か顧客トラブルが発生した場合や重要な事務上の事故が発生した場合、マニュアル通りに処理したものについては、無罪放免とする。ただし、そうでなければ厳しく責任を問う。」という風に徹底されました。厳しく責任を問うというのは、「銀行を懲戒免職された上、起訴され、個人が損害賠償を請求される」 というのがワーストシナリオだと考えられていました。

よく職員が預金者の預金を横領したり、浮き貸し(勝手に無権限で自分の預かった預金を他人に融資する)したりしたのが発覚し、このような処分になる記事が目立ったのもこの頃からではないでしょうか?

誰でも、きわめて日常レベルでコンプライアンスと隣り合わせのはずです(どちらかといえば、融資関係ですが。しょっちゅう裁判沙汰になりますよね。普通の中堅行員でも経験しますし、証言台に立たされる可能性は常にあります)。こんなことを言えば、どのような職種・業種の方も同じでしょうね。私が知らないだけかもしれませんね。

私も写真のない本人確認資料で、本人と認識し、その相手に住宅ローンを実行したところ、債務者はまったくの別人であった。延滞が発生し、督促のために面会したところ、融資当日に銀行にいなくて職場にいたことを職場の上司が証明し、住宅ローンの回収ができなくなりそうなリスクにあったことがありました(当時の本人確認事務手続きは、例えば印鑑証明と実印を所持しているものを本人とみなす、みたいなものでした。今ではパスポートか運転免許書ですよね。本件は「運よく」相手が先に自己破産したので、担保処分ができました)。

ただし、バブル崩壊は「身から出たさび」ですので、仕方ない部分があるとはいえ、最近は証券業・保険業や複雑なデリバティブ(通貨オプションとかを高度に絡ませた外貨預金を含む)など業務内容・領域の高度化・複雑化に現実現場レベルでついていけない側面があるだろうな、と感じます。
やっているほうも、一取引するのに、顧客に念書(リスクがあるのを承知していますみたいなもの)や説明などものすごい時間を取られるにもかかわらず、待ち時間等も含めた評判悪化などペイしないのが実態であるのはご指摘の通りです。

ただ、相次ぐ「業務改善命令」を受けたり、目立つとたたかれるがさっぱり給与も上がらない業界事情もあり、コンプライアンスばかり突きつけて 「やってられん」 と各職員が感じないようなことも考えてあげないと、冒頭のごとく「コンプライアンスがコンプライアンス問題を起こす」という目も起こりかねませんね(注:現場レベルであり、経営者レベルはまた別問題です)。

投稿: katsu | 2007年9月19日 (水) 02時03分

Toshi先生、すっかりごぶさたです。金商法対応のドタバタでご紹介いただいていたのすら知らず、大変失礼いたしました。

おっしゃるように、金商法という分かりやすいとはなかなか言えない法律の中核部分を担うのは、奥様をはじめ顧客と向き合う現場の方々でして、では、この短期間で十分なトレーニングを経たか、となると、まあ…厳しいところがあると思います。

適合性原則や説明義務、投資者保護の目的とやるべきことは明快なのですが、詳細な相談シート、複雑な商品の選定基準、時間のかかる重要事項の説明、署名しなければ販売できない確認書…その手段が相当かつ適量なのか…まだDay1ですので、コメントは差し控えますが(暗に言ってる)、「やってらんない!」との現場感覚は、たぶん正しいところがあると思います。

「こりゃわかんないだろうな…」と思いつつも複雑怪奇な社内規則等を限られた時間で作らざるを得なかった本部の皆さんもお疲れ様なのですけど。

ともかく、落ち着くべきところになるべく早く落ち着くことを個人的には期待しています。そのために、まず大事なのは、問題や要望を現場から本部に率直にフィードバックできる環境、良好なコミュニケーションではないかと思います。内部統制の基本要素ですよね。

投稿: 行方 | 2007年10月 2日 (火) 00時39分

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そのために、まず大事なのは、問題や要望を現場から本部に率直にフィードバックできる環境、良好なコミュニケーションではないかと思います。内部統制の基本要素ですよね。
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さすがです。的を得た一言、おそれいります。
しかし、金融機関という性質上、この「良好なコミュニケーション」というのは「最大の課題」ではないかと思います。現場の問題を率直にフィードバックすることが、その支店における評価を上げるものなのか、下げるものなのか・・・、いや本当にしゃれにならないくらいの難問のような気がします。(笑)このあたりも、銀行そのものが変わってきたのでしょうか?ぜひ、知りたいところであります。
ちなみに、うちの妻に聞いたところ、この2日間はそれほど目立った混乱はなく、むしろ「キャンペーン」をやっていないせいか、ヒマだったそうであります(笑)
また、そちらのブログにもおじゃまいたします。

投稿: toshi | 2007年10月 3日 (水) 02時36分

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