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2007年9月 4日 (火)

事後チェックバブルの時代

(4日夕方 追記あり)

帝国データバンクのまとめによりますと、行政処分を受けたり、粉飾決算をするなど、コンプライアンス違反が確認された負債額1億円以上の法的整理は、2006年度には102社にのぼり、前年比で37.8%も増加しているそうであります。あまり詳細な引用は避けますが、今週号の日経ビジネス誌では「ルールなき『事後規制社会』」特集ということで、行政処分を受けたことで企業が大きく信用を失うことの功罪と、場当たり的な行政処分を達観できる企業作りを目指すことへの提案が示されており、コンプライアンス経営に関する関心を持つ方にはお勧めの記事であります。(先の帝国データバンクの数字も、また本日のエントリーのタイトルも今週号の日経ビジネス特集記事より引用)実は同じような問題意識につきましては、私自身も昨年5月16日に行政法専門弁護士待望論というエントリーのなかでも少しばかり示しておりました。事前規制から事後規制の社会へ、という時代の流れのなかで、企業には自由を確保することと引き換えに自律的行動が求められるわけでして、ルール違反があれば事後的に厳しいペナルティが課せられるのも当然のこと(自己責任原則)と考える傾向が強まりつつあると思われます。

行政処分を受けることでマスコミからも標的にされ、事件の内容が一般消費者の脳裏にこびりつく前に、たとえ行政処分に不満はあったとしても、役員一同で謝罪をして、マスコミの騒ぎを一回ポッキリで済ませてしまおう・・・・・。この「一回ポッキリで済ます」ことができるかどうかも、結構企業におけるクライシスマネジメントとしては重要なところでありますので、こういった企業の対応もけっして「弱腰」と決め付けることはできないところであります。しかしながら、社会からどのように非難されようとも、自分たちの言い分が正しいと思うのでありましたら、企業の名誉にかけて、断固行政処分の不適切であることを主張し、戦う姿勢を持つことも企業コンプライアンス経営の一方法であると考えます。ただし、その場合には、行政と互角に渡り合えるような有能な「行政専門弁護士」が不可欠である・・・というのが私見であります。(税務訴訟の分野では、著名な弁護士の方々もいらっしゃいますが、税務以外の行政分野となりますと、行政書士さん方の独壇場でありまして、風営法等の警察行政も含めて、なかなかいらっしゃらないのではないでしょうか?)

この日経ビジネス誌の特集記事のなかで、すこしだけ気になりましたのは、フルキャスト社の全営業所における業務停止1ヶ月(神戸市内の営業所は2ヶ月)という処分が、ほかの具体的な前例などと比較すると理由もわからず重い処分であり、なぜフルキャスト社だけ重いのか、その説明もほとんどないのは不合理ではないか?との認識が書かれております。(もともと今回フルキャスト社が労働者派遣業法違反と指摘されている港湾運送業務といったものも、どこまでが普通の検品作業であり、どこからが港湾運送作業となるのか等、かなり曖昧な部分も残るところでありますが、本日はそのあたりまでは論及しません)たしかに、私自身も行政処分については平等原則、比例原則、ディープロセス原則といったあたりは重要だと思いますし、納得できなければ、争うべきものと思います。ただし、行政処分というものの性質を考えた場合、比較すべき材料はたくさんあって、他の面からみれば行政処分に差があっても不合理とはいえない、といった最終判断が下される可能性もありますので、留意する必要があると考えます。

たとえば労働者派遣業法違反を例にして考えましても、同じ違反行為であっても、それがどれだけ労働者を過酷な状況にしていたか、被害者たる労働者たちは、実際にどれだけの被害を受けていたかといった被害状況の差や、同様の行動が繰り返されていたのかどうか、実際の行政処分発令までの間に、未然防止のためにどれだけコンプライアンス体制を構築したか、問題とされる事実関係を企業自身が自社独自で十分調査できたか、最終責任者を特定して、しかるべき対処をしたか、といった状況によって、客観的には同じようにみえる他の事例とは行政処分に軽重が出てもおかしくないと思われます。この日経ビジネス誌のフルキャストの事例を読みましても、こういった部分においても同じだったのか、差があったのかは不明であります。最近でこそ、課徴金賦課のように、ペナルティを主目的とした行政処分が発令されるようにはなりましたが、もともと行政処分は行政目的を達成するための手段、つまり先の例でいえば、労働者の生命身体および財産の安全を守るために発令するためのものでありますので、客観的な事実における前例と今回の対象行為が同様に見える場合でありましても、その代表者の属性とか、違反行為の累犯性とか、再犯防止のための反省や行動などによって、事業停止期間や免許取消など、必要な対応は千差万別であってもとくに不合理とはいえない世界ではないでしょうか。これを「行政の恣意性」と捉えるか、「行政目的を達成するための柔軟性」と捉えるかは紙一重であります。

この紙一重のところを、できるだけ明確に行政に説明責任を尽くさせることこそ、行政に精通した弁護士に期待されるところであり、私が行政専門弁護士を待望するところであります。(ただし金銭的にはあまり儲かる分野ではないかもしれません。(^^;;)今後の金融行政におきましても、同様の問題点が大きくとりあげられるときが近い将来に到来すると思ったりもしております。

(追記)

こういった行政関連の話題となりますと、普段お越しいただいていない方も合わせて、たくさんのアクセスをいただきました。(ありがとうございます)そういえば、以前「耐震偽装」に関する話題のときにイーホームズ社のコンプライアンスを採り上げましたが、事前規制から事後規制へ、といった流れのなかで、これまでは行政権限だったものが民間委託されるケースが増えておりますので、こういった民間に委託された処分行為といったものをどう扱うべきか・・・というのも「新しい論点」になってくるように思います。また、別の機会にでも検討してみたいと思っております。

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コメント

toshi先生、おひさしぶりです。
ちょっと、病気をしておりまして、自宅療養中です。(^^;
ということで、毎朝拝見しておりましたが、こんな時間にレスいれます。私もこの日経ビジネスの記事、おもしろかったんで、全部読みました。
toshi先生はエントリーのなかでふれておられませんが、内部統制報告制度が今後の金融庁による監視行政の手段となることが書いてありましたよね。大手監査法人さんあたりも、同様に予想されているとか。。。でも、私、なんで内部統制が金融庁による監視行政のために利用されるのか、そのカラクリがまったくわかりませんです。(toshiさんはわかりましたか?)思考力すら減退してきたのかしら??企業のリスク管理の手法など、金融庁が口出しできるようなものでもないと思いますし、金融検査マニュアルによる金融機関への検査体制を例に出されてもまったく連想できないのでありますが。

投稿: narita-k | 2007年9月 4日 (火) 02時55分

ご無沙汰しております。行政法専門弁護士、正に待望しています。

行政事務に関わる仕事をしていますと、行政処分もさることながら「現場での運用(行政指導や“届出の不受理”)」でモメるケースが後を絶ちません。行政側と事業者側の利害が対立することは起こりえる話しであるはずですが、その利害調整の機会が現実的には極めて少ないことが残念でなりません。

行政法専門弁護士が儲からないかも・・・というご意見ですが、個人的には他士業にそれぞれの領域内で「行政処分取消しの仮処分」については弁護士と共同受任(出来れば単独受任)できるようになれば一つの解決の道筋になるのではと感じています。

投稿: Swind@立石智工 | 2007年9月 4日 (火) 08時18分

こんにちは。いつも拝見しています。
「行政専門弁護士」ということですが、先生がお考えなのは事件専門弁護士ということでしょうか、それとも行政対応弁護士ということでしょうか。「行政専門弁護士」というだけでは、やや内容が不明瞭ではないかと考えます。
事件専門ということでしたら、告知聴聞、不服審査、行政訴訟など、それぞれの特性に精通する必要があるでしょうし、行政対応ということでしたら、膨大な法律とその改正を常にモニターする必要があり、まったく別の仕事でしょうね。専門と標榜する以上は、専門家としてかなりのリスクを背負う仕事になろうかと思いますよ。

投稿: unknown | 2007年9月 4日 (火) 11時30分

ご無沙汰しています。
危機管理は専門外ですが、行政処分と経営責任で思うのは、東横インやAPAグループが社長自ら「ごめんなさい」と記者会見した後は、ほとんど騒がれなかったのに、それ以外は破産・倒産に追い込まれるケースもあったりと格差が大きいと感じている点です。
したがって、行政専門弁護士の登場は鋭い発想ですね(勝率は低そうですが)。

行政処分があったか良くわからないですが、松下電器やトヨタのリコールなど事実は公表されるものの、それっきりのものと、「組織ぐるみ」「管理がずさん」などと徹底的に追及されるもの(パロマなど)などワイドショー的側面も否定できない気がします。
政治力も危機管理能力の一種かなあ、などと斜に構えてしまいます。

投稿: katsu | 2007年9月 5日 (水) 23時11分

>narita-kさん
どうもおひさりぶりです。
といいますか、ビックリいたしました。お大事になさってください。

内部統制報告制度そのものは監査法人さんの監査を受けるわけでありますが、報告書を提出するのは代表者自身でしょうから、開示統制は受けるわけですよね。内部統制報告書に虚偽記載の可能性があったり、開示方法に不適切な部分があれば、調査の対象となる可能性も高くなるんじゃないでしょうかね?そのあたりが監視体制強化と関連するように理解しております。

>立石さん
どうも、おひさしぶりです。
実際にワンストップサービスの一環として、そういった共同受任などは経験されたりしていませんでしょうかね?今後は需要は高まるように私も思います。ただ、この他業種との共同というものも、けっこういろいろな問題点も含んでいるようでして、またお話できる範囲で別の機会にでも、他業種協同作業における悩ましい問題などもエントリーしてみたいと思います。
(unknownさん、katsuさんへのお返事はまた改めてさせていただきます。ちょっと時間がなくなってきましたもんですから・・・)

投稿: toshi | 2007年9月 6日 (木) 01時58分

行政全般(一般)か”特定”行政かで少し話は違うのかもしれませんが、後者の意味では、官庁勤務経験(任期付任用など)のある弁護士がその担い手になっているように思いますし、今後もそれが期待されるところです。特に、従来から独禁法(下請法や景表法もある程度は)の分野ではその傾向が強く、一線級の弁護士はほぼそういったキャリアを持つ先生方に独占されているように思います(尤も、弁護士が公取委に勤務して、というよりは、公取委に出向した判検事がその後退官して弁護士になる、というパターンも多いのですが)。
司法試験合格者3,000人時代になる訳ですから、そういうキャリア・パターンは、独禁法分野に限らず、もっと増えてしかるべきと思います。

投稿: 監査役サポーター | 2007年9月 8日 (土) 01時27分

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