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2007年9月 7日 (金)

インサイダー取引と組織的犯罪処罰法の適用

昨日(9月5日)の毎日新聞ニュースでは、インサイダー取引防止に関する対策セミナーへの受講者が非常に増えている、といった記事が掲載されておりました。(ニュースはこちら)また、タイミングも絶妙に、同じ日に証券取引等監視委員会のHPでは「公正な市場の確立に向けて~「市場の番人」としての今後の取り組み~」といったリリースが出ておりました。(新しい委員長が「課徴金制度、強化進めるべき」と語ったとするニュースも)施行から2年で課徴金制度を見直す・・・といったことでしたので、今後の課徴金制度の改正内容についても目がはなせないところであります。

ところで先日、家族を不幸にするインサイダー取引といったエントリーをアップいたしましたが、インサイダー取引が不幸にするのは家族だけではないようであります。一昨日、関西のある証券取引法(金融商品取引法)を専門にされていらっしゃる先生(法科大学院教授)とお話しておりましたときに、「世間ではあまり論じられていませんが、組織的犯罪処罰法が経済犯への適用される可能性は高いのではないでしょうか」といったご意見をいただきました。そもそも、金融商品取引法における罰則強化(すでに施行されております)によってインサイダー取引による刑事罰の長期は5年(5年以下)に引き上げられましたが、別表によりますと、証券取引法の時代から組織的犯罪処罰法の適用は十分に可能だったんですね。

つまりインサイダー取引によって得た利益が内部者のもとに残っている場合には、これは組織的犯罪収益法2条2項の「犯罪収益」を構成することになりますので、もし、内部者以外の人(つまり外部者)が、この収益を受け取ったりした場合には、同法11条によって犯罪収益収受罪が成立して、3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられる可能性が出てくるということになるみたいです。そして、犯罪収益といったものは、ほかの財産と混じってしまっていても、「混和財産」として犯罪収益性は否定されないようであります。(以下、これが最新のものかどうかは確認しておりませんが、ご参考まで)

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律

第一条    【 目的 】
  この法律は、組織的な犯罪が平穏かつ健全な社会生活を著しく害し、及び犯罪による収益がこの種の犯罪を助長するとともに、これを用いた事業活動への干渉が健全な経済活動に重大な悪影響を与えることにかんがみ、組織的に行われた殺人等の行為に対する処罰を強化し、犯罪による収益の隠匿及び収受並びにこれを用いた法人等の事業経営の支配を目的とする行為を処罰するとともに、犯罪による収益に係る没収及び追徴の特例並びに疑わしい取引の届出等について定めることを目的とする。

第二項  この法律において「犯罪収益」とは、次に掲げる財産をいう。
第一号  財産上の不正な利益を得る目的で犯した別表に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産

別表   (第二条、第十三条、第二十二条、第四十二条、第五十六条、第五十九条関係)

第十四号  証券取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第百九十七条(虚偽有価証券届出書等の提出等)、第百九十八条第十五号(内部者取引)又は第二百条第十三号(損失補てんに係る利益の収受等)の罪

第十一条   【 犯罪収益等収受 】
  情を知って、犯罪収益等を収受した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。ただし、法令上の義務の履行として提供されたものを収受した者又は契約(債権者において相当の財産上の利益を提供すべきものに限る。)の時に当該契約に係る債務の履行が犯罪収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者は、この限りでない。

たとえばインサイダー取引が疑われている企業もしくは個人につきましては、平成17年から課徴金制度の対象となりましたので、課徴金処分のための調査の時点から刑事罰の疑いもあるわけです。そうしますと、具体的なインサイダー取引の疑いのある企業から、相談もしくは依頼を受けた弁護士に支払われる報酬といったものも、ひょっとすると「犯罪収益」となる可能性も出てきますよね。「ひょっとしたら、この着手金はインサイダー取引で儲けたお金の一部かも・・・」といった疑念を抱いてしまいますと、法理論的には弁護士に犯罪収益収受罪の「未必の故意」があったとされるかもしれませんし、けっこうヤバイんじゃないでしょうか。私だったら、インサイダー取引疑惑の持たれている企業もしくは個人さんからの依頼があったとすれば、「貴殿にお支払いする金員は決して犯罪収益によるものではないことを証拠に基づいて誓約いたします。」といった念書をいただき、なおかつ金銭の流れの証明できるものの写しなどを確認しないと、あぶなっかしくて受任しないかもしれません。たとえそういった念書をとったとしましても、捜索差押さえの対象にはなるかもしれませんので、弁護士の守秘義務が侵害されてしまって依頼者との信頼関係が維持できない状況になることも予想されます。株主に対する利益供与の問題もそうですが、経済犯罪に関与する弁護士にとりましては、依頼者のためにも、こういった捜査対象になってしまうリスクを最小限度に抑える必要はありそうですね。(ただし、本年4月より施行されております「犯罪収益の移転防止に関する法律」の適用関係に注意)

いずれにしましても、現行の課徴金制度は、利益返還的な運用がなされておりますので、利益のないところにはかかってこないと思うのでありますが、独禁法上の課徴金制度のように、今後課徴金制度が改正されて、いまよりももっと「ペナルティー」としての性格が強くなりますと、利益に預かっていない共犯関係者にも課されることになるかもしれません。また、上記のとおり、刑事罰ともなりますと、いったいどこまでの関係者がインサイダー取引によって捜査対象となるのか、たいへん曖昧な部分が発生してくるのではないかと思いますので、役員個人のリスク管理のためにも、また企業の社会的信用を守るためにも、対策セミナー等で一定のリーガルリスクについて学ぶことも価値があるように思います。

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コメント

台風の朝から、ゾッとするような話をありがとうございます(笑)。

いや、この話、多分に拡大解釈のおそれを含んでいるのではないでしょうか?
「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」という法律は
あくまでもその取締対象は暴力団やテロ組織など「犯罪を行うために
存在する、或いはその組織が存在するために犯罪が必要な組織」に
限定されていたと思うのですよね。
だからこそ、この法律を改定して共謀罪規定を新設するという話になったとき、
「対象は限定される」「対象とならないものを明確にせよ」「それは
現場で決めることだ」「そんなもん危なくて認められない」…てな
議論になったかと。

まあ、政治性の高い宗教団体なんて解釈によっては全部引っ掛かってきそうで
与党にいるからとはいえ、よく某政党はこれを認めようとしたもんだと
思います。一回作ってしまわれるといくらでも現場で拡大解釈されかねない
というのに。
ちょっと余計なことを言い過ぎましたかね(ごめんなさい)。


近い将来、共謀罪、またはそれに類する規定を新設せざるを得ないとすれば、
インザイダー取引に関して弁護士先生がたは皆官憲に引っ張られるように
なりかねませんよ。
何せ「皆んなで考えただけで実行されなくても罪になる」ということ
だそうですから、怖くて相談受付も出来なくなるのでは(笑)。
当初はマスコミや弁護士は対象から除外されることになるでしょうけど
そんなものはあとからいくらでも修正されてしまいますでしょう。

投稿: 機野 | 2007年9月 7日 (金) 11時20分

そういえば関東から北の地域は台風の被害が大きかったのですね。関西のほうなほとんど影響がなかったものですから。被害に逢われた方にはお見舞い申し上げます。

基本的には機野さんのおっしゃるとおり、組織犯罪(団体)への適用が目的でありますが、たとえば西村真悟元議員に対する適用(地裁では無罪、現在控訴審)などにみる検察の動きなどからしますと、「犯罪組織」といった概念もそれほど明確ではなくて、要は財産犯罪を含めて、違法な資金の流れを食い止めるため、といったところがポイントではないかと思います。インサイダー取引といったものも、一般企業や投資組合といったあたりでは、組織がらみの行動も考えられるところでありますから、私自身はちょっと心配しております。(本丸にのぼりつめるための便法としてこの法律違反を利用する・・・といった事態、すでにいくつか事例が出ているのではないでしょうか?)今後もフォローしてみて、新聞などで新しい事件が出ておりましたら、また続編をアップしてみますね。

投稿: toshi | 2007年9月 8日 (土) 01時48分

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