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2007年9月14日 (金)

モック社に対する東証の公表措置

司法試験に合格された皆様方、本当におめでとうございます。こころよりお祝い申し上げます。京大、神戸大、名大などのロースクールが抜群の合格率を示したにもかかわらず、わが母校のロースクールはといいますと・・・・↓。(トホホ・・)それから、後期課程から私が教員として参加いたしますロースクールはといいますと・・・(うーーん、ビミョウ・・・しかし、一橋と千葉大はスゴイですね・・・・・)(ご挨拶はここまで)

ここのところ、たくさんの方に非常にハイレベルかつ有益なコメントを頂戴しているにもかかわらず、私の能力がなかなかついていけないために、お返事が遅れておりますこと、陳謝いたします。どのコメントも、力作ばかりでありましてお気楽に回答しにくいものばかりです。本当にありがとうございます。

さて、いつもチェックさせていただいておりますligayaさんのブログでも「これはあかんやろ・・・」と評価されておりますマザーズの株式会社モックの株式併合および特に有利な条件による新株予約権第三者割当てでありますが、今朝(9月13日)の日経朝刊でも少し「公表措置」に関する特集記事が組まれておりました。流通市場に混乱をもたらすおそれがある、ということでモック社に対して東証規則による「公表措置」がとられたそうであります。(モック社によるリリースはこちら)今年1月ころから、このブログでもご紹介した「粉飾の論理」(高橋篤史著 東洋経済新報社)における「メディアリンクス事件」の記述中にも登場されていた方がモック社の大株主になっていらっしゃいましたので、「何が起こるんだろうか・・・?」と、ずいぶんと前から気に留めていた会社であります。ただ、モック社には社外監査役として、コンプライアンスで著名な弁護士の方もおつきになっておられましたので、あまり騒動になるようなことはないだろう・・・と考えておりました。しかしながら、その先生もモック社の株式併合のリリースと同日に役員異動(9月26日の総会にて退任)がリリースされておりますので、おそらく今回のことと関係があるのではないか・・・と推測いたします。

おそらく東京の法律事務所によるリーガルチェックを受けて「問題なし」との意見をもとに、このような株式併合(10株→1株)と新株予約権の「特に有利な条件による第三者割当て」が行われることになった(もちろん、株主総会における特別決議の成立が条件でありますが)と思料されるわけですが、本当に「問題なし」と言えるのでしょうか?証券取引法的な観点からみたら、これってTOBやMBOによって株主に売却の機会を与えつつ、支配権を移動させるべき筋のスキームがとられるべき事案ではないでしょうか?(マザーズ市場ですから、すぐに上場廃止になる、というわけではないでしょうけど)また、会社法的に考えましても、株式の併合等の際に端数株主が生じる場合、それが会社法上容認されている不平等扱いだとしましても、併合後の一株が極端に大きいために、一部の大株主を除き大部分の株主は端株主になってしまう等の場合には、株主平等の原則に違反する結果となってしまいます(参考「株式会社法」江頭著 126頁)。本件では10株未満の株主(つまり端株主になってしまう株主)の持株保有割合こそ13%ほどであるものの、その株主数は全体の80%を越える人数であり、この「一部の大株主を除き、大部分の株主は端株主となってしまう」場合に該当するのではないでしょうか。なお、先の江頭「株式会社法」によりますと、もし不当な目的(たとえば株式の併合が、少数派の株式を端数にして、会社経営から追い出す目的)で利用されるケースなどにおいて、かりに多数派株主の賛成によりその特別決議が成立した場合には、特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議が成立した場合にあたるものとして、決議取消請求も可能である、とされております(会社法831条1項3号)したがいまして、株主の権利侵害を最小限度に抑えつつ、支配権の移動を生じさせる方法としてはMBO等の手続きがあるにもかかわらず、株式併合手続きを選択したことの合理的な説明がつかないかぎりは、たとえ特別決議が成立した場合であっても、それは不当な目的による株式併合とみなされる可能性は高いのではないでしょうかね?(もし、法律の解釈や証券取引法制度に関する誤解がございましたらご指摘ください)

法が明確に禁止していないのであれば、何をやっても違法ではない・・・という解釈がまだまだ強いところなのかもしれませんが、明確とはいえないまでも、おそらくこういった株式併合手続きというのは、金商法や会社法の制度趣旨からみて違法と評価される場合もあると思うのですが、いかがでしょうか。最近拝読いたしました上村教授と金児氏による「株式会社はどこへ行くのか」のなかで、上村教授がご立腹されていたような状況が、いままさに目の前で行われているような気がするのは私だけでしょうか。今後、モック社の株主総会も含めて、会社や株主の方々の動向に注目してみたいと思います。

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コメント

 いつかは取り上げてくださるのではないかとお待ちしておりました。
授権枠については、旧商法では株式併合の際に自動的に圧縮されると
いう実務(登記)が行われていましたが、これを、株式併合や自己株
消却の際にいちいち行うのは煩雑であろうということで圧縮しない
とした、現行会社法を悪用したのかと思います。個人的には、会社法
113条3項(授権枠拡大は4倍以内)の趣旨に反していると思いま
すが、類推解釈として何をどう類推するかが煮詰まっておりません。
 また、会社法の世界よりは、むしろ監理ポスト経由整理ポスト行き
という上場ルールの世界における対応が妥当な案件かと思います。8
割の株主を追い出すことが、上場会社として自由にできるということ
では、安心して投資できる市場にはならないのではないでしょうか。
 ちなみに、このような議案は、株式会社アライヴ コミュニティ(大
阪ヘラクレス上場)で上程され、可決・施行されています。もっとも、
大阪証券取引所も「流通市場に混乱をもたらすおそれがある株式分割等
について」という発表を行っています。

投稿: Kazu | 2007年9月14日 (金) 11時39分

モック社についての、toshiさんの記述は、全てその通りだと思います。

「法が明確に禁止していないのであれば、何をやっても違法ではない。」として、取締役・取締役会が進み出した時、監査役がどうブレーキを掛けられるのか、取締役会で反対意見等を述べるが、限界なのであろうかとの気持ちになりました。

投稿: ある経営コンサルタント | 2007年9月14日 (金) 14時05分

>kazuさん

おひさしぶりです。
授権枠の件、気がつきませんでした。ご指摘ありがとうございました。
金商法の発想で処理する(上場廃止手続)のもひとつの方法だとは思うのですが、個別対応の限界がありそうですし、そこまで取引所に負担をかけるのが適当かどうか・・・という点も考えまして、会社法的対応についても考えるべきではないか・・・というのが私の発想です。
こういったグレーな手法に対して、司法的解決を果たす必要があるのではないかとも思うのでありますが、自分がやらないで、誰か法的解決に持ち込んでください・・というのもちょっと無責任な感じではありますが。

磯崎さんのとこでも、アライヴの件、検証されていますね。非常に参考になりました。また、法的な論点につきましては大杉先生が意見を書かれています。これ、また続編を書きますので、またいろいろとご指摘いただけますと幸いです。

投稿: toshi | 2007年9月15日 (土) 19時25分

>経営コンサルタントさん

いつもコメントありがとうございます。
じつは私もそのあたりが気になっております。
ここの会社の社外監査役のメンバーは錚々たる人たちですよね。
この株式併合が突発的なものではなくて、今年に入ってから、いろいろとうわさの多い会社だったんで、監査役の方々もどう経営陣と対応されていたのか、非常に関心のわくところですよね。苦悩もあったのではないかと想像するのでありますが。。。

投稿: toshi | 2007年9月15日 (土) 19時33分

>法が明確に禁止していないのであれば、何をやっても違法ではない・・・
について。

1)一昔前、「コンプライアンス」がまだ余り強調されていなかった頃:
営業部員A氏「こういうことをやりたいんだけど・・・。」
法務部員B氏「いや、それはちょっとマズイな。」
A「なんで?」
B「○○法に反する恐れがあるよ。」
A「○○法のどこに(何条に)、ダメって書いてあるの?」
B「明文規定はないんだけど、●●の趣旨から見て、違法と考えられるんだ。」
A「判例とかはあるの?」
B「いや、判例はないようだが、学説などでは有力説とされているんだ。」
A「何だ、それ。とにかく信頼できる弁護士の意見を聞いてくれよ。」
B「(聞いても同じなんだけどな、と思いつつも)あー、ハイハイ。」

2)「コンプライアンス」花盛りの昨今:
営業部員A氏「こういうことをやりたいんだけど、前例も聞いたことないし、法令上の規定もないし、多分ダメだよね。」
法務部員B氏「いや、確かに明文規定はないけど、●●の趣旨から見て多分いけると思うよ。」
A「あぶない橋は渡りたくないんだ。本当に大丈夫?とにかく、信頼できる弁護士の意見を聞いてくれよ。」
B「(聞いても同じなんだけどな、と思いつつも)あー、ハイハイ。」

ということで、どちらにころんでも、今も昔も、最後は弁護士の先生方に頼ってしまうのですが、何よりも重要なのは、その会社の「骨太の基本理念」だったり、「企業の社会的責任」だったりするんじゃないでしょうか。

投稿: 監査役サポーター | 2007年9月16日 (日) 22時45分

>監査役サポーターさん

おひさしぶりです。
弁護士としても、企業側から与えられた情報にもとづくならば・・・、といった「条件付きの」意見書を提出したくなるときがあります。こういった意見書を提出するのはけっこう「胆力」が必要です。(それか、何も考えていないか、のどっちかです・・・笑)

>何よりも重要なのは、その会社の「骨太の基本理念」だったり、「企業の社会的責任」だったりするんじゃないでしょうか。<

おっしゃるとおりだと思います。最近、いろんな会社の中身を知る機会に恵まれましたが、従業員向けの行動規範が、実は会社の外の一般消費者や取引先に尊敬される一因になっていたり、逆に会社が外に発信している情報が、実は従業員にとっての経営者のメッセージとして受け取られたりするのを目の当たりにしますと、同じような感覚を抱きます。

投稿: toshi | 2007年9月17日 (月) 13時16分

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