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2007年9月22日 (土)

懲戒処分の実体調査(労務行政研究所)

昨日(9月21日)はセミナーに多数ご参集いただき、ありがとうございました。3時間半という時間は聴講される方からしますとずいぶんと長い時間かもしれませんが、お話する側からしますと、お伝えしたいことが多すぎたせいか、あっという間でした。(時間の関係でレジメの最後に添付しておりました「具体的事例から考える」の部分まで完了できず、ご迷惑をおかけしました。)

さて、企業コンプライアンス関連の調査レポートとして、財団法人労務行政研究所より、「企業内の懲戒処分の実態に迫る」が報道関係者向けとしてリリースされております。(なお、詳細は労政時報9月28日号に掲載されているようですので、本誌をごらんいただける方はそちらをご参照ください。)4年ぶりの実態調査とのことでありますが、リリースされているものを読むだけでもなかなかおもしろい内容であります。

他の会社では、こんな従業員の不祥事が発生した場合に、どれくらいの処分を選択するのだろうか・・・・といった人事労務担当者の方のご関心があろうかと思いますが、単純比較は禁物でしょうね。企業にはそれぞれの行動規範、倫理規範がありますし、またステークホルダーを大切にするための優先順位もあるでしょうから、(また後述しますように、各企業によって、懲戒対象事実の認定能力にも差があるでしょうから)その処分の程度は企業ごとに違うのが当然だと思います。たとえば「社外持ち出し禁止のデータを独断で自宅に持ち帰っていた」というのが、この調査結果では半数以上の企業が「注意処分以下」で済んでおりますが、これが顧客情報管理や営業秘密管理に厳しい会社の場合でしたら、「解雇処分」に該当してもおかしくないと思いますので、単純に「会社はこんな場合はけっこう厳しい」などと一般的な傾向を結論付けるのは困難ではないでしょうか。(ひょっとしますと、本誌のほうでは業界別の集計結果なども掲載されているのかもしれませんが)

ただ、あえて一般論としての意見でお許し願いたいのでありますが、「事故は起こさなかったが、酒酔い運転のために検挙された」場合、解雇処分とするのは30%程度の企業(懲戒解雇、諭旨解雇の合計)であり、その他60%の企業では自宅謹慎などの社内処分で済むんですね。(10%程度の企業が「判断できない」とのこと)これはちょっと意外でありました。これだけ酒酔い運転に関する厳罰化(たしか3日前から改正道交法が施行されましたよね)の機運が高まっているわけですし、また同乗者や酒類提供者も犯罪者になってしまうわけですから、酒酔い運転によって事故を発生させた社員の企業名は報道される可能性が今後も高まりますよね。昨日、飲酒事故によって3人のお子さんを亡くされたご夫婦に新たな命が授けられたニュースが大きく報道されていたことからも、世間の風潮が読み取れる気がします。酒酔い運転の常習性とか、新しい法律の施行によって他の社員を犯行に巻き込む可能性が高まったことや、マスコミにとってのニュースソースとしての関心の高さという観点からみて、「事故さえ起こしていなければ検挙されても社内処分でOK」といった感覚は、企業のリスク管理として、会社の常識と世間の常識との間にブレが生じていないかどうか、確認をしておく必要があるんじゃないでしょうか。(せめて「原則解雇処分、ただし情状により救済措置あり」といったルールにされたほうが、リスク管理としては適切な気もいたしますが)

「労働法の解釈との関係で回答がしにくいケース」(たとえば配転のケース)を抜きにしますと、もっとも企業において処分のバラツキが大きいのが「妻子ある上司が、部下と不倫関係を続けていることが発覚した」とのケース。(事例として最近は「夫のいる上司が部下と不倫関係をしているケース」もけっこうありますが、そちらも含むんでしょうね)経営トップの方の行動自体が、こういった社内処分のあり方に影響を与えていたりして・・・(^^;;  ただ、相思相愛の状態にある「不倫関係」って、一体社内の誰が公式に「事実認定」なさるんでしょうかね?(笑)不思議です。「不倫」であることの要件事実と、その事実確定のための証拠とはいったいナンなのでしょうか?とても興味があります。また、このケースでは不倫の双方に同じ処分が下されるのでしょうかね?この「不倫関係」の判明というのは、私が推測しますに「もつれ」が原因でしょうから、ほとんどの事例では「つきまとい行為」か「セクハラ、パラハラ」のケースに該当するんじゃないでしょうか。つまり、そっちのほうで処分をすれば、もはやそれ以上に「不倫関係」で処分する必要がないケースがほとんどのように思います。要は事実認定に問題が出ないようなケースでは解雇処分まで進めるけれども、社内で事実認定に曖昧さを残すようなケースの場合には、自信をもって解雇処分とはできないために、社内処分で済ます、もしくは不問に付す・・・といった傾向が強いように思われます。なお、私が過去に取り扱った案件で、上司の奥様が、会社に「うちの人、おたくの会社の○○さんと不倫してるのよ!」と怒鳴り込んでこられたケースがありました。ちなみにその奥様は「悪いのは○○さんだから、即刻やめさせてちょうだい!」とのことでした。こうなりますと、もう会社としては対応に困りますよね。

合わせ技(複数ケースに該当する場合に、処分内容が重くなるのかどうか)に関する記述が見当たりませんが、複数の懲戒事由に該当するケースも多いので、そのあたりも悩むところであります。その他、マスコミに実名や社名が公表された場合には、懲戒処分の程度に差をつける、との企業が40%もあるとのことですが、そうなりますと、懲戒事実を別の社員が知ったときにはどうされるのでしょうか?(そもそもマスコミ報道されることで懲戒処分に差が生じるといった問題には、どうも法的な問題に発展しそうな匂いも感じられますが・・・)今のご時世、内部告発は当たり前になっていますから、そのあたりで従業員が別の従業員の「クビ」を握るケースも出てくる、ということなんでしょうかね?いやいやオソロシぃ世の中になってきたものであります。

9月 22, 2007 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

「合わせ技」で「不倫カップルが社用車で飲酒運転して事故を起こした」だと不謹慎ですが笑ってしまいそうです(笑)

「黒革の手帖」のような話を思い出しますが、昨今ではちょっとした事件でも明るみにでると、一気に会社の信用が落ちてしまいますから、他の社員の不祥事を元に、会社をゆする社員なんてのも出てくるのでしょうか。
それに派遣さんやバイトさんを使用する会社も増えているわけですから、色んな人間が入れ替わり立ち代り会社に入ってくるので、社内での情報の取り扱いもきちんとしなければいけなくなってしまいますね(派遣さんが信用できないというわけではなく、出入りが激しくなるとあまり好ましくない方もくる可能性があるという意味です)。

投稿: m.n | 2007年9月23日 (日) 17時00分

回答率は僅か3%程ですか、なるほどなぁ。この手の調査って、ちょっとまともに応えにくいですよね。設例を単純化して判りやすくしたつもりでしょうが。その意味では「判断できない」という選択肢の回答率がもっと高くて然るべきなんでしょうが、そう思った会社は回答していないんでしょうね。

そういうわけであくまで一つのデータとして見るべきであって、あんまりこれに依拠したり、世間相場だと思わない方が安全であるように思いますが、それにしても、個人的に、びっくりしたのは、

1)「社内の通報窓口に連絡をせず,直接マスコミに内部告発をした」だけで解雇(懲戒/諭旨の双方を含む。以下同じ)してしまう会社が8%もあるんですね(実数でいうと、10社弱というところでしょうか)。思わず、北陸地方のさる物流会社の著名な事件を思い出してしまいました。

2)「満員電車で痴漢行為を行ったことが被害者からの訴えで判明した」場合は、6割弱の会社が解雇してしまうんですね。他の設例との対比でいうと、これは未だ逮捕には至らず、「被害者からの訴え」の段階を意味することになると思いますが、それはともかく、この回答者(人事担当者?)の方々は、昨今「痴漢冤罪」が続出しているという事実をどう評価されているんでしょうかねぇ。

大変難しい問題であるのは確かでしょうが、「コンプライアンス」の名の下に、安直な企業防衛的発想(”臭いものに蓋””トカゲの尻尾切り”など)のみで、安易に処分(特に解雇)に走る(または、それを煽る)のは、如何なものかという気もしますね。

投稿: 監査役サポーター | 2007年9月24日 (月) 00時12分

山口先生

金曜日のセミナーに出席しました総務担当者です。先生こそ、長時間のご講義お疲れ様でした。事例が豊富でたいへん勉強になりました。もう少し参加企業を少なめにして、「具体的事例」によるケースメソッドの方を中心にセミナーを組み立てていただきますと、さらにおもしろいものになるのではないかと思いました。次回はいくつかの班に分けて、そういったご講演をいただけますとありがたいです。勝手な要望で失礼しました。これからの先生のますますのご活躍を祈念しております。

投稿: unknown | 2007年9月24日 (月) 01時18分

 TOSHI先生、ご無沙汰しております。

 最近は、どのようなプロセスで処分を決定するのか、とか、処分内容を被害者に通知するのか、といったところに興味を持っています。

 私の経験上、被害者には「処分の詳細を知りたい」ニーズは強くあるものなのだと思われるのですが、経営サイドの意向で「知らせる必要性がない」として処理しようとするケースがこじれます。
 ブログなどで簡単に情報を公開できる時代なので、被害者が納得感をもてるレベルの情報開示は必要ですよね。
 

投稿: minori | 2007年9月25日 (火) 00時59分

>m.nさん
こんばんは。その「合わせ技」ですと「自業自得」という以外に言葉がありませんね。情報管理につきましては、深刻な問題がありますが、スポット委託のお仕事がやはり一番問題になりますね。反社会的勢力による会社情報の収集も、受託作業からのものが多いようです。

>監査役サポーターさん
そうですね、3%なんですね。(気がつきませんでした)
「痴漢行為で逮捕」の事例は、じつは何度か刑事弁護人として経験したことがあるんです。会社の方も顧問弁護士と相談され、勾留満了(延長含めて20日間)経過するまでは様子をみて、正式起訴された段階でなんらかの対応を決するというパターンが多いように思います。(なお、その際、本人が認めているのか否認しているのか、刑事弁護人がその段階でついているケースならば、その弁護人の意見も参考にされるようです)

>unknownさん
金曜日はありがとうございました。参考になるお話ができたかどうかは、不安もありますが、とりあえずリクエストもありましたので(笑)自分なりには満足しております。要望事項、真摯に検討させていただきます。
今後ともよろしくお願いいたします。

>minoriさん
こちらこそご無沙汰しております。
なるほど、懲戒処分においても「被害者の権利」が問題となるのですか・・・。なかなかこれが問題となりますとやっかいですね。懲戒処分はそもそも何のためにあるのか、被害者の情報提供行為は単なる処分の発端にすぎないのか、それとも固有の権利なのか・・・。私的には被害者の方には極力詳しく処分理由などを説明するほうがいいのではないかと思っておりますが。
またときどき遊びに来てください。

投稿: toshi | 2007年9月25日 (火) 02時59分

監査役サポーターさん
>昨今「痴漢冤罪」が続出しているという事実
このような事実はありません。
無罪判決のことだとすれば、それは潔白という意味ではありません。
起訴に至るまでにはそれなりの理由があるのですよ。そこへ敢えて難癖をつける向きもあるようですが、法律で定められたことに歯向かっているだけのことです。
自称「キリスト者」を名乗る冤罪被害者なる人物もいるようです。が、そういった輩をあまり信用しすぎないことです。冤罪で冤罪を主張する者よりも犯罪で冤罪を言い募る者のほうが遥かに多いのです。

投稿: 椿 | 2007年11月17日 (土) 23時53分

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