« 企業の不祥事体質と取締役の責任(その2) | トップページ | イマドキの独立第三者委員会 »

2007年9月20日 (木)

子会社の独立性と内部統制システム

IPO企業の支援業務をやっておりますと、本当に厳しい場面に出くわします。上場をめざす企業として、利害関係人と企業との取引をどう解消していくべきか、というところで経営者のエゴ(わがまま、というわけでもなく、企業に対する長年の愛着から・・・といったほうが適切でありますが)と、上場企業としての透明性、公正性を確保していくべき要請との衝突場面など、けっこう頻繁に発生しますね。とりわけ「特別利害関係者・関連当事者との取引(その解消方法)」といったあたりは、経営者の方々のご認識と、支援する方とではかなりズレが生じているようですから、「上場するということはこんなものなのか・・・、ここまでまじめにやってきた俺を信用しないのか・・・」といったショックをはじめて経営者の方々が味わう場面かもしれません。証券会社さんや、監査法人さんは、これまでの経験から保守的な意見を述べる傾向にありますが、それが経営者にとってはナットクがいかないことも多いようで、ときには代替案を提示したり、ときには監査法人さんの見解を法律的な面から解釈して経営者の方へナットクしてもらったりと、最近はけっこう弁護士を中心としたIPO支援業務にも、それなりの役割があるように思えてきました。

ところで、IPOにも既上場企業にも関係するテーマでありますが(このあたりの話題はkatsuさんや、辰のお年ごさんの関心分野だと思いますが)NECの子会社(70%保有)であるNECエレクトロニクス社の一般株主(ペリー・キャピタル)が、NECエレの業績不振が長引いているのは親会社による支配に一因があるとして、親会社であるNEC社からの独立を要求しているそうであります。(朝日新聞ニュースはこちら)NECエレの業績不振(2年連続赤字)の原因は、親会社であるNECの意向により、思い切った戦略に踏み込めないとして、具体的にはこの株主が、NECエレの25%の株式に、65%程度のプレミアムを付して約1500億円で買い取る旨意思表示をされているとのこと。これに対して、NEC側は一般株主側に対して、まだ何の明確な意思表示はされていないようであります。なお、これまでの経緯につきましては、katsuさんのエントリー(アクティビスト活動が本格化? NECエレクトロニクスの続き)あたりが詳しくて参考になります。(といいますか、katsuさんの9月18日の英国年金運用会社ハーミーズの話題、ホンマおもろいです。・・・笑)

現在、東証に上場している会社のうち13.5%程度が親会社を有するものだそうでありますが、親会社(支配株主)とその他の一般株主との間においては、親会社の意向にはなかなか子会社の取締役は異を唱えることができず、親会社の戦略に拘束されてしまうおそれを内包している、とのことで利害対立することが考えられます。東証では「親会社を有する会社の上場に対する当取引所の考え方について」と題するニュース(今年6月)におきまして、証券取引所としての考え方を公表しておりますし(「上場制度総合整備プログラム2007」参照)、また東大の神田先生を座長とする上場制度整備懇談会の中間報告書(本年3月リリース 15ページから17ページ)におきましても、少数株主と親会社との利益相反の関係があるために、かならずしも市場関係者にとって望ましい資本政策とはいえない、とされています。

問題はあるけれども、子会社上場にもそれなりの効用はあるので禁止されるものではなく、ただ「望ましい資本政策とはいえない」ということですから、これを「グレー」と表現することも適切ではないのかもしれません。そこで子会社上場を認めつつも、その弊害を防止するための措置といったものをどう考えるかがポイントになろうかと思われます。証券取引所にも上場審査基準としての「独立性要求基準」や、その後の独立性確保のための情報開示などの弊害防止措置があるようですが、それらは主に説明責任(アカウンタビリティ)を尽くすことに重点が置かれているようで、実際の防止措置の仕組み作りといったことは、上記中間報告書においても「今後の検討課題」とされているようであります。

ただ、ひとつ疑問に思いますのは、実際の防止措置の設置というのは「将来への課題」ということで済ませておいていいのかどうか、といったあたりであります。会社法362条4項6号、同施行規則100条1項5号によりますと、大企業の場合、内部統制システムに関する基本的な整備に関する決議を必要とするわけですが、そのなかに企業集団における業務の適正を確保するための体制確保に関する決議も必要になるはずであります。たとえばある上場企業がある企業の子会社となった場合には、その子会社側はガバナンス報告書のなかで基本方針をリリースするべきでしょうし、親会社が上場企業であれば、同じく親会社にも企業集団の業務適正確保のための整備に関する決議が必要なのではないでしょうか?もちろん、自分の会社は新たに体制を整備する必要はない、という決議も可能かもしれませんが、それではどういった体制が存在するので不要と判断したのか等、その「仕組みが存在すること」を説明する必要もあるのではないでしょうか?そういったことからしますと、たとえば先の例で一般株主から子会社の独立性に関する疑義が呈されたような場合においては、まずなによりもこの会社法上の内部統制システムの整備義務に関する法令上の根拠から、なんらかの法令遵守に関するリリースがあっても当然のように思えますが、いかがでしょうか。

ちなみに、「論点解説 新会社法(千問の道標)」(相澤・葉玉・郡谷編)では、その338ページにおきまして、親会社や子会社において、「企業集団の業務の適正を確保するための体制として」どのような事項について決定すべきか、といった例示がかなり豊富に記載されております。このあたりは、いままであまり議論されてこなかったところかもしれませんが、単に「将来的な課題」では済ませられない場面というものも、株主側からのアクションによって顕在化するものだと私自身は理解しているのですが。(また、どなたかお詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示ください)

|

« 企業の不祥事体質と取締役の責任(その2) | トップページ | イマドキの独立第三者委員会 »

コメント

私の関与する企業集団も「親子上場」していたりしますので、
この問題(という以前にそもそもこれが「問題」なのかという問題)は
ひとごとではありません。

「望ましい資本政策とはいえない」というのは
きっと望ましくないということなんでしょうね(笑)。
将来解消され得るなら解消すべきことだという意味だと解釈しますが、
それならそれで、当局として親子双方の株主に損失を与えない方法での
解消策を考え、そちらに誘導していくべきだと思うのですが。
とりあえず巨大企業には持ち株会社制への移行を促すべきかと。

「そこまでは言ってないよー」と言うことなら、「望ましいとはいえない」
などと軽々に言って欲しくありません(当局として公式にはそういう
言い方をしてないでしょうが)。上場子会社は不肖の息子なのか、と(笑)。
「他国はどうあれ、日本としては認める(このことに関して正邪善悪はない)」
と表明すべきではないでしょうか。

日本の主なリーディングカンパニーがほとんど行っていることですし、
欧米との資本市場の自由度の差などの問題もあるのでしょう
(結局、煎じ詰めると「資本と経営の分離」の度合いの話に行き着きますが)、
アメリカでは見られない親子上場だからといってすぐに解消できること
ではないのでしょうが、どちらにせよ現状は宙ぶらりん感は否めません。

投稿: 機野 | 2007年9月20日 (木) 09時56分

Toshi様トラックバックありがとうございます。
帰ってアクセスカウンターを見たら今日1日で1週間分以上のアクセスがあって、え?っと思ったら…。影響力は絶大です。ありがとうございます。改めて御礼申し上げます。

子会社上場も、一昔前は「上場すれば一人前」みたいな風潮があり、子会社経営の成功事例のようにもてはやしていた時代がありました。証券会社・証券取引所(ともにバブル崩壊で案件数に困っていた。これが新興市場の基準緩和の悪意的な形で今日の弊害がある)、監査法人を含め責任の一端がありそうです。
総合商社などもIT系の子会社上場で経営危機を逃れたのもあったような。つまり不況にあえぐ各社の錬金術だったのでしょうね。
ではその時に、内部統制問題は別として(そんなに注目されていなかったような記憶アリ)、少数株主問題をもっとクローズアップしなかったのだといわれれば、資本市場の責任ですね(もっとも冷え切っていましたが)。
そう考えるとソニーは立派といいたくなりますが、ファイナンスが上場するんですよね。やはり錬金術でしょうか。
それがわかっているので、抜本策が取れない…。東京証券取引所の社長はN証券出身ですよね。彼は公務員ではないが、天下りと同じ構図を抱えているような感あります。

企業集団内の内部統制の客観性はおおせおとおりで、鋭い視線だと感じました。
近い将来、東証も上場するそうですが、東証の敵対的買収(ロンドンはいまだに買収されそうになっていますよね)となった場合、この問題は「サッカールールがラグビールールのように」(銀行の不良債権基準が一気に変更になったときに銀行首脳がぼやいた言葉)なってしまう可能性もあり、結局早急に各社はコンテンジェンシープランを考えた方がよいかもしれません(それもリスク対策でしょうか?)。

投稿: katsu | 2007年9月21日 (金) 00時38分

山口先生

ちょっとお邪魔します。簡単ですがちょっとコメントをさせて頂きます。

この論点に関して、監査役協会の内部統制システムに係る監査の実施基準(12条1項3号と2項9号)は、必見といえるでしょうね。山口先生ご指摘の相澤さんの解説と合わせて検討するといいかもしれません。上場子会社の担当者の方には、是非問題を検討していただきたいですね。

実際にどこまで実務が進んでいるかについては、月刊監査役に掲載されている鳥羽教授の調査報告(522号)の関連ページも非常に参考になります。親会社からの不当な圧力に言及する例が実際にあったとは。。。どこの会社か明示はなかったですが、感服しました。

問題となる事案も、(実際には各所に存在しているのでしょうが)これまでは陰に隠れて目立たなかっただけでいるだけで、問題は意外に多いのかもしれません。もしかしたら、内部告発を含めて、今後いくつか明るみに出るかもしれませんね。
子会社の役員の方々の個人責任のリスクまで考えると、本当は看過できないはずですが、これからどういう方向にすすんでいくのでしょうか。

山口先生のご解説をまた楽しみにしています。

投稿: 辰のお年ご | 2007年9月21日 (金) 02時53分

語弊がある言い方でしょうが、素人目から見ると、
問題視されつつある今この時期の新たな「支配権を維持したままの子会社上場」
なんて、例えば元ライブドアの堀江氏らがやったとされる行為と
本質的にどこが違うのか分かりません(突飛な比較ですけどね)。
誠に失礼な表現ですが、盗人みたいなものです。

資金調達はしたいけど、支配権も維持したい…

それは虫がよすぎやしませんか?

極論すれば、いっそ日本市場において流通する株式は原則的に
議決権を伴わないものにする、とでもしたほうがスッキリしそうです。
そうすれば、ハゲタカに乗っ取られる心配もありませんしねっ。


- - - 


落語に「頭山」というのがありまして、それは自分の頭の上に咲いた桜で
近所の住民が花見をするという不条理な噺ですが、
東証の上場ってまさしくこの「頭山」のような話だとは思いませんか?
世界的には一般的なことなのかもしれませんが、
証券取引所と一般上場企業の間には峻別すべきもの、違いがあって
しかるべきだと考えます。

「頭山」のサゲ(オチ)は、ノイローゼになった主人公が自分の頭に出来た
池に身投げして死んでしまうというシュールなものですが、
上場を強行した東証の将来が暗示されてませんでしょうか。

投稿: 機野 | 2007年9月21日 (金) 09時27分

機野さんの「現場感覚」、katsuさんの「歴史的感覚」そして辰のお年ごさんの「法的感覚」いずれも私の理解が浅い部分をフォローしていただき、ありがとうございました。まだまだ自分の認識が問題点を掲示したにすぎないことを思い知りました。おそらくこの問題は今後も別の事案などでも再燃することでしょうから、もうすこし勉強したうえで(その2)をアップしたいと思います。なお、このエントリーにつきましては、まだまだ他の方のご意見もお聞きしたいところです。

投稿: toshi | 2007年9月25日 (火) 02時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 子会社の独立性と内部統制システム:

« 企業の不祥事体質と取締役の責任(その2) | トップページ | イマドキの独立第三者委員会 »