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2007年9月 3日 (月)

IXI粉飾、管財人が監査法人を提訴

9月1日の読売新聞に、IT関連企業であるアイ・エックス・アイ社(以下、IXIといいます)の民事再生手続きにおける管財人が、IXI社の2005年と2006年の3月期(2事業年度)の架空循環取引による粉飾決算に適正意見を出した監査法人に対して、1億2700万円の損害賠償を求める訴えを提起した、との記事が掲載されております。(ちなみに、民事再生事件におきましても、資産の保全管理の必要がある場合には管理命令とともに管財人が就任するケースがときどきあります)

元経営陣と一緒に粉飾決算に加担したとか、経営陣に粉飾方法を指南した・・・といった話だとわかりやすいのでありますが、そうではなくて、監査法人(担当した公認会計士)の注意ミスによって粉飾を見逃してしまった、というケースのようでありますが、損害として管財人より請求されている金額は、監査法人さんの2年分の報酬2700万円と、慰謝料1億円であります。どんなところに法律上の問題(注意ミス)があったかと言いますと、先の新聞報道によると、メディア・リンクス社の架空循環取引が発覚した後の2005年3月、「情報サービス産業における監査上の諸問題について」と題する日本公認会計士協会からの通達が出されていたにもかかわらず、IXI社の会計監査人らは(この通達が公表された以降も)IXI社による商品確認が適正に行われていなかったことを見抜けなかった(2006年12月まで適正意見を出し続けていた)というものであります。監査法人さんには「不正発見義務」はないわけですから、ここで問題にされるのは「見逃した」というよりも、なぜ会計処理に不審を抱かなかったのか、もしくは会計処理がおかしいと思ったら、どうしてもっと早期に「意見不表明」としなかったのか、といったところでしょうか。

この会計士協会から平成17年3月11日に出されました「情報サービス産業における監査上の諸問題について」と題する通達(A4にして14頁程度)の内容を拝見しましたが、IT企業の会計監査基準を厳格に定めたものではなくて、単に商法上の取引慣行においては循環取引(Uターン取引)のような付加価値をもたらさない目的の取引もあるので、留意されたい、とりあえずアメリカにおける参考基準を示します・・・といった内容であり、異常な商取引の留意点や取引価格の合理性の検証に関する部分にも、一般的な注意事項程度のことのみ記載されているようです。しかしながら、これだけでは、違法とはみなされていないスルー取引(信用補完取引)と、売上高を多く見せかける架空循環取引との区別を明確に判断できるものではありませんので、企業側から「これは適法なスルー取引です」と言われてしまえば、それ以上ツッコめないかもしれません。いつも伝票と納品書だけで処理しており、それ以外の帳票は存在しないといわれればそれまでですし、取引関係者に確認しようとしても、「企業秘密が記載されているのでお見せできない」と言われれば、それ以上の調査は会計士さんに「不正発見義務」でも認められていないかぎりはツッコミをいれることは(監査法人に対して)期待できないでしょう。

そもそも、ソフトウエアやサービスといった「モノ」を扱う商売ですから、在庫商品が不良なのか、優良なのかも不明であり、どこまで仕掛なのか(分割検収は正しいのか)もわからないことも多いでしょうし、このIT関連業界において納品確認を正確に把握することなど、監査法人さんにはかなりムズカシイ作業ではないでしょうか?結局は、不審な点があったとしましても、企業側からあれこれと説明を受けてしまうと、それを信用せざるをえない点もあったのではないかと推察いたします。最近よく証券取引所の方々とお話する機会がありますが、(最近の新興企業における不祥事の多発や、経営不振を受けて)有識者の方から「上場継続審査のようなものを採用してはどうか」といった提案がありましても、証券取引所としましては、いったん上場を認めてしまいますと、たくさんの一般株主の方が株を買ってしまっているので、なかなか継続審査(つまり、途中で審査基準を満たさなければ上場廃止にしてしまう)採用までは考えられない、といった見解をお聞きします。同じように、監査法人さんとしましても、「意見不表明」や「不適正意見」といったものは、一般投資家への影響も考えるならば相当の自信がなければ出せないというのがホンネのところではないかと思いますし、(つまり、どっちか迷ったけど、とりあえず不適正意見を出しましょう・・・とはならないわけで)そうであるならば意見を表明しないための相応の証拠も必要ではないかと思います。そのあたりを考えますと、加担事案や指南事案は別として、監査法人の不注意による見逃し事案につきましては、損害賠償を求める方に相当の持ち駒がなければ「しんどい裁判」になるのではないかと想像いたします。

ただ、IXI社の場合は、M&Aを繰り返していたわけでもないのに急激に売上高、売掛金が増えていたこと、この監査法人が会計監査を担当していた時期に、ナスダックジャパン(現大証ヘラ)から東証2部に上場しようとしていたこと、(いつ判明したかは不明ですが)メディアリンクス社の循環取引にIXI社も関与していたこと等からすれば、一般のIT関連企業以上に相当な注意をもって監査しなければならなかったとはいえるかもしれませんし、そのことを前提とするならば、先の公認会計士協会による通達が出た後から、高度な注意義務をもって会計監査にのぞむ必要があった、とされるのかもしれません。ちなみに、山一證券の簿外債務を見落としたとして、山一の破産管財人と旧中央監査法人との間に1億6600万円による和解が成立した事案(監査法人への請求金額は60億)や、足利銀行が旧中央青山との間で、違法配当を見逃した件の裁判のなかで2億5000万円で和解が成立(請求金額11億)した事案などがありますが、今回も、どこかで和解的な解決がはかられる可能性は高いのかもしれません。(ただ、私自身は監査人の不正発見のために尽くすべき義務と善管注意義務違反との差異というものについて、裁判例と通して予見可能性が高まるほうが、いいのではないかと考えております。ちなみに、引用しております足利銀行事件でありますが、これ、監査法人と一緒に監査役4名も訴えられておりまして、監査役4名で合計1200万円を支払う・・・との和解が成立しております。こういった事件での和解の是非につきましては、また別の機会にでも議論してみたいと思っております)

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コメント

私は、「IXI社の民事再生手続きにおける管財人が、IXI社の2005年と2006年の3月期(2事業年度)の架空循環取引による粉飾決算に適正意見を出した監査法人に対して、1億2700万円の損害賠償を求める訴えを提起した」という記事に、あまり違和感を持ちませんでした。

 その理由は、ゼロ成長が常態となっているソフト開発業界で、M&Aもしていないのに、5割も6割も売り上げを伸ばすというのは、いかにも「不自然」であり、その不自然さに気がつかなかったとすれば、善管注意義務違反を指摘されてもやむをえないのではないかと思ったからです。

 監査法人に対して、もう一つ気にかかるのは、監査役との連携です。会計検査上は不備が発見できなくても、不自然な成長の背景には、業務取引自体に取締役の違法行為の存在が、可能性として存在します。そうすると、監査役と連携を取り、業務監査を要請することが必要ではないでしょうか。もしこのステップを抜かしていたとすれば、この点も善管注意義務違反に問われる恐れがあります。。

 私も類似のケースで、監査法人から業務監査の要請を受けたことがあります。そのときには、監査をした結果、違法性はないと判断しましたが、不適切であることは否めませんでしたので、売上を総額計上から、純額計上に切り替えるよう意見を出したことがありました。IXI社の場合も、監査役が業務監査の要請を受けていて、架空循環取引を見抜けなかったのであれば、監査役にも損害賠償の責任が生じるのではないでしょうか。

 なお、エントリーで、「違法とはみなされていないスルー取引(信用補完取引)と、売上高を多く見せかける架空循環取引との区別を明確に判断できるものではありません」と述べておられますが、やや不正確ではないかと思います。といいますのは、スルー取引には、信用補完の目的も含まれているでしょうが、多くの場合、売上高を多く見せかける意図も含まれています。架空循環取引は、売上高を多く見せかける意図もさることながら、実物商品の裏づけがないのにも循環取引を続けるわけですから、詐欺取引の色彩が強いと私は理解をしておりますが、いかがでしょうか。

投稿: 酔狂 | 2007年9月 3日 (月) 08時37分

酔狂さん、おひさしぶりでございます。

ご指摘のとおり、用語の使用法については不明確なところがあるかもしれませんが、いちおうインターネット総研(IRI社)HPにあります社長さんのメッセージなどにおきましても、スルー取引は適法、架空循環取引はなんらの経済目的を伴わないものであるから違法とする基準で区分されておりますので、一般的な用い方ということでご容赦ください。

ただ、通達だけで判断するのではなく、やはり売上高推移や売掛金や棚卸資産の変動など、架空循環取引とまでは特定できなくとも、取引の異常性を疑わせる事由がいくつか認められると思いますし、その異常性を会計士が監査役と協議することもできたのでは、と私も思います。(じつは、IXI社ではありませんが、メディアリンクス社の循環取引に関与していた企業の会計士さんは、この異常性を疑ったときに、社外監査役さんと相談をされたところもありました。)

投稿: toshi | 2007年9月 4日 (火) 11時51分

少なくとも内部の人間(IXIの下層)は売上の実態観がないのに
あんなに売上があるの? 誰の売上なの? って疑問がありました。

ほんとにばからしい。 なんで誰もみぬけないの?

投稿: 関係者 | 2008年6月 6日 (金) 01時53分

実際内部の人間はみんなわかってますよね。事件になると
一営業マンのせいにしたりもしますけど、1人でできる事
なんかじゃないです。企業ぐるみで社長の目標である
売上右肩上がりを演出してるわけです。
ただ紙ベースの帳票は揃ってるし、半面調査したとしても
循環相手もグルなので会計士も”架空”と証明しにくい
と思います。

投稿: IT企業勤務 | 2008年6月 6日 (金) 03時00分

事件の筋としては、先日のナナボシ事件に似ているように思います。ただ、報酬と慰謝料という「損害構成」ではたして注意義務違反と損害との因果関係が認められるでしょうかね?(ちょっと疑問があります)このあたり、丁寧に論証する必要がありそうですね。

投稿: toshi | 2008年6月 7日 (土) 19時53分

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