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2007年10月31日 (水)

法化社会と企業価値研究会のあり方

先週月曜日(10月22日)の読売新聞朝刊に、事後型買収防衛策のルール作りのために、10月末頃から経済産業省の企業価値研究会が新たな検討に入る・・・との報道がされておりました。先日のブルドックソース最高裁決定を受けて、これまで防衛策を導入している企業も、そうでない企業も、防衛策のスキームを検討しているところが多いと思われますが、導入や発動の手続きにおいて誤った認識がされないように・・・ということで(おそらく最高裁決定に過剰反応することを回避するために)、とりわけ事後型防衛策のあり方についても検討課題とされるようであります。

企業価値研究会のなかで議論される内容につきましては、また大杉先生のブログとか、経済産業省のHPで議事要旨等を読ませていただくことにしたいと思いますが、まずこのたび把握しておきたいことは、この経済産業省の企業価値研究会のお出しになるルール(防衛指針)といったものが、法化社会の実現を目指す日本の司法制度のあり方とどういった関係に立つものと認識すればいいのか、といったところであります。

まずひとつめは、この研究会の防衛指針そのものが規範的ルールとなることを目指しており、各企業がとりあえず指針にしたがった行動をとり、この指針に従う企業が増えることで指針そのものが「ソフトロー化」することに狙いがあるのでしょうか。そもそも、買収防衛策というものが「発動されるべきもの」ではなくて、交渉の道具である・・・という本来の防衛策導入の目的を考えたり、そもそも防衛策を導入してみたところで、敵対的買収に発展する可能性が著しく乏しいといった確率論から考えましても、「企業価値研究会がお墨付きを与えたルール」が存在すること自体が、アクティビストファンドあたりには「脅威」となることは確かであろうと思いますし、買収を仕掛ける競業他社からみると、誠実な交渉を余儀なくされるためのインセンティブにもなろうかと思われます。しかしながら、現実には(旧商法の時代であり、また想定されていたライツプランの建て付けも今とは少し異なるわけでありますが)、株主平等の原則に関する解釈とか、多数決要件(普通決議か特別決議を要するのか)とか、相手方への金銭補償の点など、裁判所の決定理由と指針内容を比較してみますと、予想していなかった点や予想に反していた点などが重要な部分に存在していたわけでして(少なくとも、一般人の目にはそのように見えたわけでして)、「本当に、この指針にしたがっておけば、いざというときにもだいじょうぶなんだろうか?」との不安感を(このたびのブルドック最高裁決定との比較におきまして)一般の企業担当者の皆様にも与えることになったのではないでしょうか。

次にふたつめは、先日のブルドックソース最高裁決定が述べているところを補充したり、敷衍したりしながら法解釈を行い、もしくは最高裁決定からみて、防衛策発動要件の解釈指針を提示する、といったような、つまり裁判規範としての防衛策の適法要件の定立(法解釈)にあえて経済産業省内の研究組織が踏み込むことに狙いがあるのでしょうか。以前はライツプラン発動に関する裁判例がなかったわけでして、今回こういった目的で「発動の合法的要件を最高裁決定から探る」といった規範定立方法を、企業価値研究会が構築することも十分考えられるところであります。とりわけ「事前警告型ライツプランのあり方」というよりも「事後防衛策のあり方」に重心を置いた議論がなされるのであれば、M&Aルールを規範化しようとするものではなくて、むしろ最高裁決定の射程距離というものを法や判例の解釈によって限定、拡大していこうとされているようにも思われます。しかし、この考え方は巷間よく説明されているところの「法化社会」のあり方とは矛盾するのではないでしょうか。事前規制から事後規制へと向かう社会のあり方において、そもそも法の解釈によるルール定立は裁判所における裁判規範を通じての政策形成機能に期待すべきであり、立法機能によって事前規制をかけることは可能でありましても、無限に存在する前提事実を抜きにして、法の解釈指針だけで事前規制をかけることはナンセンスだと思います。これはノーアクションレター制度をみてもわかるとおり、法の解釈指針を示すことで行政が事前規制機能を発揮できるのは、詳細な前提事実が存在する場合のみ(つまり、その前提事実が正しい場合限り)であります。

そして三つめは、企業経営者への「檄」といいますか、取締役の善管注意義務違反となるリスクを少しでも軽減する、つまり、ひょっとすると防衛指針に従って防衛策を発動してしまうと、裁判において現経営者側が敗訴してしまうことになるかもしれませんが、それでも、これだけ日本のM&A実務をリードされておられる方々が大いに議論をして世に公表したものに従ったわけであるから、違法な防衛策発動によって不当にTOBが妨害されたり、発動後に権利行使が不当に制限されて、金銭補償すらしなかった相手から現経営陣が訴えられたとしても、おそらく「経営判断原則」で免責されますよ・・・、だからリーガルリスクは乏しいわけですから、どうか現経営者の皆様、頑張ってください、といったメッセージを世に送ることが狙いなのでしょうか。企業経営者の立場からすれば、この「檄文」的効果が一番ありがたいわけでして、私自身も社外役員という立場からすれば、たとえば独立第三者委員会としては、こういった立場から企業価値を考えるべきである・・・といった行動指針が盛り込まれていれば助かるなぁと思ったりしております。しかし、そこで出された指針というのは、現在の会社法と金融商品取引法と、独占禁止法、法人税法、企業会計制度といった法制度が不変であることを前提として、また予想されるべき事態というのも、おそらくモデルケース程度ではないかと思いますと、果たしてどこまで重大なリスクとなる前提事実を検討されているのか、という不安はあります。いわゆる内部統制でいうところの統制上の要点ですよね。敵対的買収局面における取締役の責任負担可能性をどこまで予想できて、それに対応可能な指針が策定されることはおよそ不可能だと思いますね。そのことは、今回のブルドック事件においても、たくさんの税務上の問題などが噴出したことからも明らかだと思います。

「法化社会」というのは、社会事象としての「紛争」を解決するにあたって、なんでもかんでも裁判(もしくは裁判的機能)に委ねることではなく、法的ルールに合理性があるかぎり、そのルールにしたがって紛争が(自律的もしくは他律的に)解決されうる社会のことを指すものであります。したがいまして、原則論としましては、企業価値研究会のようなところでM&Aの効率的活用が図られるための合理的ルールが定立されることにつきましてはおおいに賛成するところであります。今後はMBO指針のあり方を含めまして、この企業価値研究会の活動には大いに期待をしておりますので、いま一度、この研究会の成果はなにを目指しているのか、わかりやすくどなたか解説をしていただければ・・・と考えております。

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2007年10月30日 (火)

食品表示偽装と内部統制システムの整備

(30日お昼 追記あり)

昨日はニフティのトップページでも当ブログを紹介していただきましたので、7500アクセス(PV)を超える新記録となりました。(どうもありがとうございますm(_ _)m )ただ、当ブログはアフィリエイトもございませんし、ブログランキングにも参加していない、普通のマニアックな法務ブログでありますので、また平常どおりのアクセス数に戻るような話題で参りたいと思っております。

さて、いつも内部統制の最新情報を発信しておられる丸山満彦先生のブログで「食品表示偽装と内部統制」に関するエントリーがアップされておりまして、たいへん参考になります。なるほど、米国のCOSOではなくカナダのCoCo基準では、内部統制の重要な目的のひとつとして「財務報告の信頼性」ではなく「情報の信頼性確保」が掲げられているのですね。(私は存じ上げませんでした)食品の消費期限に関する表示につきましても、これを企業が消費者に向けて発信する情報だと捉えますと、その表示の信頼性を確保することも内部統制システムの整備運用に関する問題と言えそうであります。最近の企業不正事例からしますと、財務報告の信頼性確保というよりも、もっと広く企業の発信する情報の信頼性確保のための内部統制・・・と捉えたほうがイメージが連想しやすいですし、会社法上の内部統制との親和性も高いのではないでしょうか。投資家が安心して市場に参加するための企業情報、消費者が安心して商品を選択できるための商品情報(製品情報)、改正会社法が積み残した問題とされている企業結合に関する情報など、どれをとりましても「何を開示するか」といった開示内容(実体)に関する統制と、「どうやって開示するか」といった開示手続きに関する統制は、企業情報の虚偽表示リスクを低減するためには欠かせないシステムだと考えております。そうは申しましても、とりあえず、J-SOX(財務報告に係る内部統制報告制度)は待ったなしの状態になっておりますので、財務報告に係る内部統制の整備運用については各企業におかれましては監査法人さんと協議のうえで尽力されることとして、J-SOXを超えた開示統制問題につきましても、コンプライアンスの視点から検討していただきたいところであります。

CoCo基準 カナダ勅許会計士協会の統制規準委員会(Criteria of Control Committee of the Canadian Institute of Chartered Accountants)が発表した「CoCo-統制モデル」(1995年)

ところで、昨日の船場吉兆の商品表示偽装問題でありますが、創業者一族の方々がそれぞれ(福岡と大阪で)謝罪会見を行い、商品販売を委託していた百貨店の社長も謝罪されておりまして、かなり対応は評価すべきものだと追記をしておりましたが、どうも私のなかでは、追加報道された内容からみましても、その謝罪会見における偽装に関する原因事実について未だ疑問を抱いているところであります。会社側の説明では、消費期限偽装が行われた天神フードパークに勤務していたアルバイト社員たちが、一存でラベルの取替えを行っていた、とのことのようでありまして、社員たる店長ですら表示の改ざんは知らなかった、とのことであります。しかし、本当にアルバイト社員の方々だけでそのような表示偽装が実行されるものでしょうか?アルバイトという立場にもかかわらず、商品在庫をできるだけ抱えないように・・・といった本部からの意向がプレッシャーとなっていたことのようでありますが、はたして消費期限切れ商品へ2000回以上も偽装表示を繰り返すインセンティブはアルバイト社員のどこにあるのでしょうか?普通はありえないはずですよね。このあたり、まだマスコミからのツッコミの要因となるような疑問点が解消されていないように思えますが、皆様いかがでしょうか。

(追記)上記疑問に関連する記事が朝日新聞ニュースに掲載されているようです。販売責任者のアルバイトの方が、天神フードパーク店のすべてを任されていたようですが、ただこういった販売体制のなかで商品一個一個の管理まで要求することは果たして可能なのでしょうか。内部統制の構築は現場のプロセスに実現困難な作業まで要求するべきではありませんし、それで販売体制における法令違背を厳守できないのであれば抜本的な販売体制の見直し(これは赤福問題でも議論されるところですが)が必要になってくるはずです。

私の住む堺の町には、千利休の時代から何代にもわたって和菓子を作り続けている老舗が何軒かありますが、「売り切れゴメン」体制でして、ひどいときにはお昼すぎにお店に行っても「もう売り切れました」。「あいかわらず時代遅れの大名商売やね・・・」と皮肉を言って帰ってくるときもあります。お客様に迷惑をかけないように、在庫や配送に気を遣うのか、お客様に評判が悪くても消費期限を守り、在庫は残さない体制を守るのか、基本的には二者択一の世界なんでしょうか、それともその調和点をどこかで見出すことはできるのでしょうか。赤福餅の販売休止をうけて、追い風が吹いたかにみえた伊勢の「御福餅」さんにもJAS法違反と食品衛生法違反の疑いで調査が入った、との報道に触れますと、本当にどこも組織的な関与がなかったとはいえないような気がしてまいりました。そのうち、健康被害が認められなかった食品衛生法違反、JAS法違反に関するマスコミや国民の関心が薄れていき、報道する価値も薄れ、そのころになって我も我もと自主申告が始まるような時代が到来するのかもしれませんし、そのような時期をすでに待っている企業もあるかもしれませんね。

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2007年10月29日 (月)

「吉兆」グループ会社に商品の偽装表示疑惑

(29日午後追記あり)

日曜深夜の朝日新聞ニュースで知りましたが、吉兆グループ会社の船場吉兆さん が消費期限の偽装表示で食品衛生法およびJAS法違反で調査を受けているとのこと。(こちらが朝日ニュースです。読売ニュースはこちら です。)本吉兆さんの高麗橋店は、ちょっと私のような者では、到底お昼さえ暖簾をくぐることはできませんが、船場吉兆さんのほうは、ときどき心斎橋OPA(オーパ)のお店は寄せていただいております。もちろん、関西におきましては、高級料亭の知名度はナンバー1でしょうから、このニュースはちょっと信じがたいところであります。匿名の通報に基づいて調査が開始されたようでありますが、これが社員の方によるものなのか、食品購入者等外部からの通報によるものかはまだ明らかではありません。また現時点での報道内容によりますと、従業員の一人が勝手に消費期限を偽装していたものであって、店長さんは知らなかったとのことでありますが・・・(?)

赤福社の消費期限切れ商品疑惑の第一報が報じられたときにも、同様のことを申し上げましたが、現場の担当者の判断による法令遵守違反行為が発覚した場合に、まさにこの第一報の時点こそ「これだけで事件が終結して、時の流れとともに消費者から企業不祥事の記憶が消えていくのか(たとえばホルスタイン牛を「和牛」と表示したいかりスーパーさんが典型的ではないでしょうか)」、それとも「別の不祥事が発覚したり、組織ぐるみの違反行為が判明することで、マスコミの標的となり、赤福社のような大きな問題に発展するか」の分水嶺でありまして、もしこのまま終結するということであれば、いったいどのような対応が功を奏したのか、といったあたり、企業の危機管理として注視すべきところであります。とくに最近の企業不祥事におきましては、たとえ第一報の不祥事報道疑惑に該当する事実だけが調査結果として認められる場合でも、その時点における行政機関やマスコミへの対応に不手際があった場合には、その「不手際」自体が「不祥事」と同等に評価されて、企業の信用を毀損するケースがありますので要注意だと思われます。

(29日午後 追記)

読売新聞ニュースによりますと、吉兆グループの創業家の方と、店舗の入っている百貨店トップの方お二人で謝罪会見を行ったそうであります。(大阪本店でも謝罪会見が行われた・・・とのこと)しかも、調査結果の数値も遡及性が認められるうえに具体的であり、現時点における偽装の原因事実も表明しておられるようです。今後のことはまだ流動的ではありますが、生命身体への消費者被害が報告されていない段階における不祥事企業の対応としてはほぼ100点満点に近いものではないでしょうか。「企業経営においてあってはならないこと」を企業自身が十分認識していることを、親会社のトップが(直ちに)自ら謝罪されたことで社会的にも誠意は理解してもらえそうです。しかし驚くべきことは、店舗のある百貨店の経営トップが同席されていることですよね。いままでこのような謝罪会見はありましたでしょうか?ちょっと私の記憶にはないのですが。岩田屋の経営理念に通じるところがあったり、「岩田屋で販売しているから信用しているのに・・・」と感じている消費者への謝罪の意味かもしれませんし、またほかの入店企業にも心してもらいたい・・・との気持ちからかもしれません。

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2007年10月28日 (日)

ジャッジ(島の裁判官)第3話への個人的感想

ひさしぶりに連続ドラマを欠かさず視ておりますが、本日の「ジャッジ(島の裁判官)第3話」も鼻水を流しながら涙して視ておりました。o(;△;)o

このドラマは一般人に戻って、その展開される人間ドラマと奄美大島の美しい風景に浸るのがよろしいかと思います。法律家として、本日のドラマをみておりますと、ちょっとビックリな場面がありました。

主人公(裁判官)曰く

「私はこれまでのあなたのお話や関係者のお話を聞いていて、まだ判決を書く自信がありません。」(殺人罪か嘱託殺人か)

(被告人に向かって真剣なまなざしで)

「どうか真実を話してください!」

ええ!!?( ̄□ ̄;)ガーン

だって裁判官は、裁判のはじめに「あなたには黙秘権がありますので、ここで、最初から最後まで黙っていてもかまいません。しかし、ここで話したことは有利にも不利にも証拠になりますので、そのつもりでお話してくださいね。」とおっしゃったではありませんか??

裁判官が被告人の黙秘権を侵害するとは前代未聞ではないでしょうか。これは裁判員制度が始まる直前に、国民に大きな誤解を与えるような気がいたします。

弁第1号証(被害者作成にかかるノート)の証拠提出方法についてもビックリでしたが、そんなことは専門的なお話でどうでもいいと思いますが、この黙秘権侵害はありえないのでは・・・・・・・・・・

あっ、でも次回は交通事故に関する刑事事件のようで、またたいへん興味深いテーマなんで、絶対に見逃しませんよぉ

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2007年10月27日 (土)

監視委員会事務局長氏の論文

(27日午前 追記あります)

ひさしぶりに素晴しい論文を読ませていただきました。ひとつ前の旬刊商事法務(合併号1812号)冒頭の「金融市場・市場監視当局の現状と今後の課題」であります。この論文の著者でいらっしゃる証券取引等監視委員会事務局長の内藤純一氏という方が、どのような方なのかはまったく存じ上げませんが、「秀逸」のひとことです。自分もこのような文章が書けたらなぁと(もちろん才能的に無理ですが・・・)思いますし、できれば一言一句をすべて暗誦できるようにして、このスタイルを盗みたいとも思うほどであります。論旨明解、長い論文の至るところに個人的意見が述べられているおもしろさ、構成の巧みさ、文章の美しさ、それらの結果から生まれる抜群の説得力・・・・・と、数え上げたらきりがありません。証券取引等監視委員会を取り巻く金融商品市場がどう変わろうとしているのか、そのなかで監視委員会はどういった組織であるべきか、どういった優先順位でなにを守ろうとしているのか、非常にわかりやすく意見が述べられております。私のような法律家が書く文章は他人様からツッコミを入れられてもだいじょうぶなように、「なお」「もっとも」「ただし」といった条件や例外を説明する接頭語のオンパレードとなってしまうことが多いのでありますが、この論文にはそのような「但し書き」が一切ありません。これが読みやすさの第一歩でありますし、著者の意見の説得力の裏づけではないかと思います。

上場企業におけるコンプライアンス経営、内部統制、開示統制などに興味をお持ちの方でしたら、(かなり長い論文ですが)ご一読をお勧めいたします。私も、この論文は何度も読み返すつもりであります。

(27日午前 追記)備忘録のような内容でありますが、NOVAのエントリーのコメント欄にも書かせていただきましたが、やはりJASDACはNOVAのような有償による新株予約権発行についても対応を早急に検討する方向のようであります(27日読売ニュース)。上記事務局長氏の論文でも新興企業向けの市場の対応についてのご意見が記載されており、新興企業自身が持つリスクの問題と、新興企業向けの市場の健全性を確保する問題とは「貯蓄から投資へ」といった観点からは全く別個であり、これを分けて検討する必要がある・・・と述べておられ、強く共感するところであります。金融庁ができること(プロ専用市場の創設も含めて)、取引所ができること、証券会社やVCができること、投資運用業者や助言業者ができること、そして自己責任の基礎になるもの、それぞれをどう分けて考えるか、こういったNOVAのような事案をもとに考えていきたいと思います。

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2007年10月26日 (金)

迷走するNOVA(倒産手続へ)

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(26日午前9時半 追記あります)

(ご承知のとおり、26日早朝にNOVA社より会社更生手続き開始の申立および保全管理人選任に関する開示情報がでております。また、深夜4時台には、取締役解任等に関するリリースもあったようです。以下のエントリーは、会社更生法申立前に書かれたものでありますことをご承知おきください)

ここのところ、日経新聞すらまともに読めないほど、諸事情で忙しかったのでありますが、やっと一息ついて「まとめ読み」しておりましたら、やっぱりNOVAの件、ずいぶんとたいへんなことになっているようであります。新株予約権の発行に関する「迷走」が水曜日の日経朝刊なら、木曜日には監査役3名全員が辞任届けを提出、とあります(日経ニュースはこちらこちら。新聞では10月初旬に監査役の皆様が辞任届けを提出した、とありますので、10月9日に決議されました新株予約権発行決議とも関係があるかもしれませんね。そういえばEDINETで開示されております新株予約権発行届出書に添付されておりました取締役会議事録に、監査役3名の記名押印がありませんでしたので、「おかしいなぁ」と思っておりましたが(会社法369条3項、会社法施行規則101条)、すでに取締役会にはどなたも出席されていなかったのかもしれません。なお26日には、監査役不在の件で、緊急取締役会が開催されるようであります。(注 25日の報道ではそのようになっておりましたが、26日時点の報道内容のとおりです)上場企業において、取締役と対立した監査役が全員辞任する、というのはクレイフィッシュ社の件以来ではないでしょうかね。あのときは、大株主の通信会社主導で役員派遣を行って事態が収拾されたわけでありますが、NOVAの場合は70%以上の株式を代表者(グループ)が保有しているわけですから、すこし状況が異なるようであります。(会計監査人も困ってしまうでしょうね)

なお、常勤監査役と社外監査役合計3名全員が辞任届けを提出されたようですが、ご承知のとおり、会社法上は監査役さん方は辞任をしたとしましても、後任の方が決まるまでは監査役としての権利義務を有するわけですので(会社法346条1項)、とりあえず職務は継続する必要があります。本日(25日)、第三者割当てによります新株予約権の払込も完了したようでありますし、また緊急の役員会等も開催されるでしょうから、監査役として出席して、意見を述べる機会もあろうかと思います。ただ、監査役さんの発言によりますと、役員会を招集するよう社長に求めていたにもかかわらず、これを社長さんが無視しておられた、ということですから、もしこれが本当だとしますと、会社法383条2項違反のおそれもありますし、かなりヤバイ状況になっているのかもしれません。(なお、これは私自身の憶測にすぎません。投資行動におきましては、皆様方ご自身の責任においてご判断いただきますよう、お願いいたします)

詳細はまた追って検討することとして、ひとつ気になることがございます。私がオックスHDのMSワラントに関するエントリーは書けても、こっちの新株予約権についてはちょっと書きにくかった理由は、こちらの経営改革委員会がNOVA社には存在するからであります。(6月28日付け経営改革委員会設置のお知らせ)今年春の四季報におきましても、今年こそNOVA社はコンプライアンス体制の改善に尽力をする予定、とありましたので、このお知らせを読みまして、「これはスゴイ体制だなぁ。本腰を入れるんだなぁ」といたく感心をしていた次第であります。(改革委員として名前があがっておられる方の面子がスゴイです・・・・・汗)こういった方々が目を光らせて、NOVAのコンプライアンス体制を支援している、ということであれば、私などが頭をかしげるようなファイナンスであったとしましても、「きっとスキーム自体にはなんら法的な問題が発生しないという自信があるに違いない」(のでは?)と心の隅で考えていたからであります。しかしながら、この「お知らせ」では中間報告書や最終報告書の内容を公表するとあるにもかかわらず、その後リリースされました2つの「改善報告書」を詳細に確認しましても、どこにもそのような報告書が上がってきた形跡がないのであります。さらに、この「お知らせ」によりますと、この経営改革委員会というのは、取締役会もしくは経営トップが委嘱するものではなくて、委員会の公正性を担保するために監査役会が委嘱をするものとされております。ということは、今回、監査役全員が辞任されてしまいますと、監査役会自体が構成できなくなってしまいますので、この経営改革委員会はほとんど「宙ぶらりん」の状態になってしまうわけでありまして、存在自体、曖昧なものになってしまっております。さて、この経営改革委員会は現状どうなっているんでしょうかね?こういった日本を代表する著名な方々の報告書をぜひとも勉強させていただきたいと思っているのでありますが。。。

このメンバーの方々の信頼性からみて、株主のなかには、NOVAがコンプライアンス体制を本気で構築しているものと(私のように)確信している方も多いでしょうし、それが株価維持にも関連しているところが大きいように思えます。しかしながら8月、9月ころに予定されておりました中間報告も最終報告もなされていない、といった状態は、どう考えればよいのでしょうか。少なくとも、今回辞任届けを提出されていらっしゃる監査役の皆様方には、この経営改革委員会を直轄する監査役会の構成メンバーとして、せめてこの委員会の活動状況だけでも、至急株主に対して公開して説明すべきではないでしょうか。これは特別にNOVA社特有の問題ではなく、上場企業における監査役の職責として検討してほしいところであります。

(26日正午追記)全国の教室が一時閉鎖される、とのことで、たいへん深刻な状況でありますので、NOVAを揶揄するような題名を変更させていただきました。

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2007年10月24日 (水)

「夜のお菓子」工場見学決定!!

さすがに、赤福ネタはもうそろそろ「ええんじゃないか?」・・・というところまで来たようですし、このブログも通常ネタに戻す時期ではないかと思われますので、とりあえずこのあたりで赤福社の件につきましては一区切りとさせていただきます。ただ、監査役サポーターさんがおっしゃるように、この程度の規模の会社には、検証の対象とすべき内部統制は必要ないのでは?とのご意見につきましては、たしかに鋭いご意見だとは思いますが、いちおう従業員さんは700名以上と「会社概要」には記載されておりますし、売上は100億円を超える時期もあったようですし、また本社、名古屋、大阪とそれぞれ工場を配置している企業でありますから、米国SOX法の適用会社のうち、「簡易版COSOのガイダンス」で想定されている程度の規模はあるんじゃないでしょうか?(私自身はもうすこし赤福社の内部統制に関心を持ち続けたいと考えております。)

ただ、それにしましても、机上の理屈であれこれと空想していてもよくわからないところも多いので、私、来週の金曜日(11月2日)、「白い恋人」「赤福餅」と並ぶお土産品の定番商品「うなぎパイ」の工場見学を申し込むことに相成りました。(ちなみにHPはこちらです)この春華堂さんも、創業100年以上の老舗でありますし、企業規模も赤福社とかなり似ているように思いますので、ぜひとも伝統あるお菓子製造会社の内部統制システムについて勉強させていただきたいと存じます。経営トップの企業倫理というものが、どのようにお菓子製造に生かされているのか、ぜひ担当者の方に、いろんな質問をさせていただこうかと思っております。夏の近江八幡めぐりのときのように、また工場見学の折にはご報告させていただきます。(もちろん、ブログのネタのために私が浜松まで衝動的に向かうほどヒマではございませんよ。なぜ私が11月はじめに浜松へ向かうのか・・・・・、それは同業者の方であればすぐにおわかりですよね。。。(^^;;  )

うなぎパイといえば 夜のお菓子・・・・・

しかしこのHPを読みますと、「家族だんらんのひとときにみんなで食べてほしい」と願う気持ちから「夜のお菓子」と銘打ったんですね。これは存じ上げませんでした。私はてっきり「☆あっちのほう☆」とばかり思っておりました。

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2007年10月23日 (火)

赤福から考える平時と有事のリスク管理

(23日午後 追記あります)

投資信託協会が公表された平成19年株主総会議決権行使アンケートの内容や、昨日の三宅伸吾さんの新刊への感想のつづきなど、エントリーしたいことはあるのですが、これだけ赤福関連のコメントをいただいておりますので、もう少しだけ続きを書かせていただきます。(このたびは、たくさんのご意見ありがとうございました。それにしても、上記アンケートの結果につきまして、投信委託業者が監査役選任に対して多くの反対票を投じている結果は意外です。原因についてはまた別の機会に分析してみたいと思っております)

株式会社赤福の代表者である濱田氏は慶應義塾大学商学部を卒業後に、2年ほど大手百貨店に勤務した後、赤福に戻っておられますので、もうかれこれ20年ほど、赤福の経営に参画しておられるようです。おそらく赤福入社の頃は、いくら先代社長の御曹司(ご長男)といいましても、20代の若造ですから、現場での経験などは、おそらく積んでおられると思います。したがいまして、もし問題となっております「まき直し」「むきあん」「むきもち」が30数年前から現場で恒常化していたものであるならば、おそらく現社長の濱田氏は当時から社内の慣行については知っていたのではないか・・・とも考えられそうであります。ところで、今回の赤福社の不祥事の特徴といいますのは、この30数年前から・・・という非常に長期間にわたって繰り返されていたことなんでしょうね。こんなに長い期間となりますと、「なぜこういった消費者を騙すようなことをしたのか?」と問うことすら、なんだか空しい気もいたします。いまから30年も前ということになりますと、「食の安全、安心」ということが今とは比較にならないほどに軽んじられて当然だった時代だと思いますし、ひょっとしたら「どこでもやっていること」ぐらいに当たり前のことだったのかもしれません。消費者を騙す・・・といった感覚も、今の時代だからこそ言えるのであって、当時はまったく騙すような感覚すら覚えておられないのかもしれません。実際のところ「もったいない」程度の動機によって繰り返されてきたんじゃないかと思います。したがいまして、この赤福問題を論じるにあたりましては、「なぜまき直しをしたのか」と問うことはあまり意味がないようで、「なぜ不二家事件の直後まで続けてきたのか」という点こそ問題にすべきだと思われます。

一連の報道のなかで象徴的だと思いますのは、2004年に大阪市に対して匿名通報があり、通常検査ではありますが、大阪市による調査があった、という記事であります。2004年といえば、愛知万博とセントレアブームに沸くなかで、赤福が100億円を越える空前の売上を伸ばす直前期であります。まさに売上拡張が最大の目標だった時期であったわけでして、もしこの大阪工場の調査が赤福にとって平常営業の時期であったとすれば、調査の重みを少しは認識できたのではないでしょうか。これは単なる結果論にすぎませんが、もしこの2004年の時期において、平時のリスク管理手法(内部統制システム)として、赤福社にヘルプライン(内部通報制度)が整備されていたとしたら、外部への匿名通報というものではなく、社内への通報によって「社内処理で済んだ」可能性はありそうです。(報道によりますと、この匿名通報は、通報者が特定されることを非常におそれていた、とのことでありますから、社員だった可能性は高いもののように推測いたします)平時のリスク管理としましては、このあたりが最大のポイントだったのではないかと考えております。いまから3年前のことですし、社内の常識と社外の常識とにズレがあり、そのズレは大きな損害をもたらす可能性があることは十分認識できたのではないかと思われます。なお、平成5年以降は、現社長は伊勢市の町おこし事業のリーダーになっておりまして、ここ数年は三重県の活性化を目的とした株式会社スコルチャ三重の代表取締役にも就任されておられたようですので、もし入社から5年ほどの間、現社長が現場での経験を積んでいらっしゃらないとすれば、本当に「裸の王様」だったのかもしれません。そのあたりは、もうすこし事実がはっきりしませんと、なんとも確実なことはいえないのでありますが・・・

さて、きょうあたりの報道からしますと、現場幹部が従業員に対して「何も言うな」と指示していたり、調査の直前に関係書類を廃棄処分していた事実が判明しておりますし、次第に赤福創業者一族が、こういった食品衛生法違反行為に関与しているのではないか、と疑わせる事実が増えてきております。まさに経営問題に発展してきていることは間違いないところであります。これは有事の対応策として、でありますが、もはや赤福創業者一族に残された道はただひとつ、事実関係の調査を外部第三者委員会に委託することではないかと思います。もしこういった独立性の高い委員会に事実調査を委ねないままですと、報道されている事実はますます創業者一族にとって「真実なもの」として世間一般からは評価されるだけであります。ここで起死回生に転じることができるとすれば、責任問題や事実調査を含めて第三者に委ね、自らは一日も早く営業禁止処分が解除されるよう、安全衛生面での対策に衷心すべきだと思います。

(23日午後 追記)機野さんのコメントへのお返事を書きながら、ふと思いついたのですが、明確な被害者が出ない状況でも、「消費者への詐欺行為である」とマスコミが大きく報道するようになったのはいつごろからなんでしょうか?

私の推論では、1955年に雪印食品の食中毒事件(脱脂粉乳事件、東京の小学生1936名が食中毒となったとされる)が発生したにもかかわらず、ご承知のとおり2000年6月にふたたび同社において食中毒事件を起こし、3700名を越える被害者を出した事件の直後あたりからではないかと思いますが、いかがでしょうか。このとき、なぜ45年前に「二度と過ちを繰り返さない」と誓ったスノーブランドが、ふたたび甚大な事件を起こしたのか・・・・ということが大きな話題となり、「予防的見地からの食の安全」がきわめて大きな問題であることが認識されだしたのではないかと思います。JAS法関連はまた、制度趣旨が異なりますので、別の見方もあるかとは思いますが、その後のいわゆる「偽装事件」が2001年から2002年ころに集中しているところをみますと、やはりこの2000年の事件が転機になっているのではないでしょうか。もし、また別の意見がございましたらご教示ください。(このあたりは、企業コンプライアンス的な発想における検証といった観点から、とても重要なところだと思います)

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2007年10月22日 (月)

「市場と法」-いま何が起きているのか-

もう、かれこれ2年ほど前になりますが、三宅伸吾さん(日本経済新聞社編集委員 法務報道部)の著書「乗っ取り屋と用心棒」の書評を書かせていただきましたが、このたび、また三宅さんの新著「市場と法-いま何が起きているのか-」(三宅伸吾著 日経BP社)を拝読させていただきました。僭越ながら、この本のご紹介を兼ねて、若干の書評を書かせていただきます。(しかし2年前とはいえ、私ずいぶんと偉そうに書評書いてますね。。。いま読み返してみますと、おまえはいったい何様か?と思います。実名ブログのコワさがまだよくわかっていなかった頃だったんですね ハズカシイ・・・・笑)

Miyake 日本が市場国家として生きていくことを選択した以上は、その市場が健全に発展するためには、一般市民や投資家から信認されなければならないわけであります。そして、その信認のためのひとつの条件としては、「規律の包囲網」が適切に構築されなければならない、そのために「法とその担い手である法律家」がいかに市場と向き合うか・・・といったところへの鋭い観察と問題提起が今回の主たるテーマとなっております。

本来、こういったテーマは法律家こそ、問題提起すべきであろうかとも思いますが、三宅さんはご自身のポジションをよく心得ていらっしゃるようであります。たとえば法律にかぎらず、ある社会的なルールが制定される場合、そのルールがなぜ作られなければならないのか、を十分議論する必要があります。(もう少しムズカシイ言い方をしますと、「ルールの正当性を基礎付ける事実を検証する」といったところでしょうか。)これを「立法事実」と言い換えるならば、この立法事実は机上の学問で習得できるものでもなく、また秀才のヒラメキによって認識できるものでなく、経験に基づいた仮説の定立と、それを裏付けるために汗をかいて実証材料を集めることにあるわけでして、これは到底法律家によってなしうるものでないことは明らかであります。「あとがき」の謝辞をみるまでもなく、経産相から、著名法律家の方々に至るまで、日経記者としての職責をまっとうして集めた取材データの分析は、まさにこの「立法事実」、つまりルール定立のための正当性を基礎付ける事実を検証するにふさわしいものでありまして、私のような「三宅ファン」ならずとも、ぜひご一読されることをお勧めいたします。丁寧な取材に基づく粉飾決算・不正会計事例、刑事司法制度の背景、敵対的買収防衛事件、法律事務所の実態、そして裁判所と政治との関係など、どれもおそらく今後の市場をとりまくルール定立のあり方について、議論の前提としての「共有資産」としての価値があると思います。

個別にいくつかの感想を述べさせていただきますと、まず今回は三宅さんの意見が最終章で大きく語られていることが印象的であります。理想論ではなく、現実社会の錯綜する利害状況を冷徹に見据えながらの問題提起でありますので、かなり説得力があります。ただ、法人処罰に関する提言部分(「日本版DPA」に関する提言部分)につきましては、アメリカの制度を導入できるほど、日本の社会は甘くないことを実際の仕事のなかで実感しているところですので、私自身は三宅さんの提言に若干異論を唱えるところであります(詳細はまた別エントリーにて述べたいと思います)

つぎに「市場への背信」のなかで、村上ファンド事件、ライブドア事件、日興コーディアル事件について詳細に触れられているわけでありますが、なかでも一番多くのページが割かれているのが日興コーディアルの不正会計事件であります。ここは日経新聞の「日興コーデ上場廃止へ」といった一面記事が、当時大きな問題となったこともあり、東証が上場廃止予測から一転、上場維持決定へと変遷していった(変遷というのは東証関係者の方からすると語弊があるかもしれませんが)経過が、見事に浮き彫りにされております。(ここは日経新聞記者として、渾身の力を振り絞って書かれたように思いました)これは個人的には読み応え十分で、圧巻です。

最後に、三宅ファンとしましては、「この次はいったいどこに視点を合わせるのだろう」といった興味がまた湧いてくる本であります。私的には、この本を拝読した感想としまして、今後さらに運用状況を検討すべきは、市場が継続的な信認を得るためのキーワードとして、課徴金制度、企業の自己規律のための内部統制、そして市場関係者による自主規制ではないかと考えております。(しかし、最終章にあります企業コンプライアンスへの提言などは、いま問題になっている「赤福」にも通じるところがありまして、たいへん興味深いです。なお、公式には10月24日発売・・・とされているようであります。)

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2007年10月19日 (金)

「赤福」問題にみる事実認定の難しさ

(20日午前 追記あります)

(19日正午 追記あります)

一昨日のエントリーで書かせていただいた「赤福の正念場」ですが、やはり最悪の結果になってしまったようであります。クライシスマネジメントの視点で考えた場合、本日赤福が公表したような事実を最初の報道後直ちに認定できるのか、それとも認定が困難と判断した場合には、12日付けのようなリリースを一切出さずにやりすごすか(もしくは早期に外部第三者に委託するか)、すみやかに決断すべきだったと思われます。先日(9月21日)の私のコンプライアンスセミナーにお越しいただいた方は、もう一度レジメをご覧いただきたいのですが、危機管理の一番の難しさは社内における事実認定と、その開示のタイミングでして、「報道初日に認定できる事実」「3日後」「一週間後」「一ヶ月後」とレジメのなかでは分類しておりますが、「事実認定」と「認定事実の開示判断」とを時期的に分けて明確に仕訳する必要があります。

しかしテクニカルな点は別として・・・・・、この18日付けの赤福のお詫び文書(兼回答書)は、行政への回答書の中身を公表した、というスタイルであるとしましても、あまりにもひどいのではないでしょうか?(もし、私の読み方が誤っていれば、私も赤福社に謝りますけど。)この文書をザクっと読みますと、まるでグループ子会社と身障者の従業員の方に責任をなすりつけているように私には思えるのですが、どうでしょうか。たとえ事実がそうであったとしても、いまこの時点の開示情報として、この文書を読んだ赤福ファンの方が、これからも応援しよう!という気にはなれないように思えるのですが、いかがでしょうか。(私自身も、この文書さえなければ、できるだけ赤福社にとって有利な見方を展開しようと考えていたのでありますが、どうもその気も萎えてしまいそうな気分であります・・・・・)

本日のマスコミ各社の「赤福、JAS法違反から食品衛生法違反へ」といった趣旨の報道をご覧になった際、多くの方は赤福社長が事実を隠蔽していた、事実を「小出しにしている」といった感想を抱くと思われます。たしかに私も直接社長さんからお聞きしたわけではありませんので、そういった可能性も否定はしませんが、私は同族企業のトップである11代目の若き社長の「裸の王様」説に与したいと思います。結局、現場で何が起こっているのか、よくわからない状態だったと思います。まず、内部告発を端緒とする行政の立ち入り検査があり、その時点で事実確認を詳細に行ったと思われます。また、今回の報道が開始された直後も再び現場へは事実確認を要請したと推測されます。ただ、普段から事実認定や事実の開示に関する内部統制システム(開示統制システム)がまったく整備されていなかったでしょうから、現場担当者や責任役員から真実が語られるはずがありませんし、それを確認する方法もありません。そりゃそうですよね、ふだんから廃棄処分をできるかぎり少なくするように指示されていた現場担当者などが、この期に及んで真実を社長に話すはずがありません。おそらく、現場では「会社のために」長年の慣行が一部従業員の手によって繰り返されていたと推測されます。正直に話したら「処分」、隠しておいて後からばれれば「処分」、もしばれなかったら処分されない、ということでしたら、当然隠すほうに賭けるわけでして、家族がいらっしゃる従業員さんならなおさらだと思います。ふだんから「うちの会社は素晴しい社員ばかり」と社長が信頼をしている従業員さん方のお話ですから、社長さんは従業員さんの話をすべて真実である、と受け取るわけでして、だからこそ、12日付け文書も、18日付け文書も「・・・であることが判明いたしました」と記述されているわけであります。もし、社長ご自身が事実隠蔽の故意があったとすれば、こんなにも短期間に180度転換したような文書を出すはずがないと思われます。また、突然社長さんの目の前に、まったく新しい事実が飛び込んできたために、取り繕う時間もなく、先のとおりの心ない理由で会社を守ろうとすることになってしまうのではないでしょうか。(このあたりの記述は、多分に私自身の仕事からの推測であることにご留意ください)

危機管理の手法としては、事実認定と、その開示の判断はとてもむずかしい ところです。社内のみんなが冷静さを失っているわけですから、なおさらです。だからこそ、内部統制(開示統制)の重要性を強調したいところであります。平時から開示統制システムを整備する方法はいくつか考えられるところでありますし、とりわけ今回のような事案をみると、分水嶺となる場面も想定されることから、いま一度、各社におかれましては平時にこそ検討される必要があると思います。また、赤福社の件につきましては、新たな事実が判明するかもしれませんので、今後も注視したいところであります。

(19日正午 追記)午前11時42分の読売ニュースでは、やはり社長さんは、私の上記推測とほぼ同様の弁明をされているようです。norikoさんより、(記述が赤福寄りではないか、と)ご批判を頂戴しておりますが、私はほぼ、この社長さんの弁明内容が(現時点では)真実だと思います。

(20日午前 追記)昨日の立ち入り検査において、また新たな虚偽説明が発覚した、とのことであります。これまでは、製造年月日について、午前0時を待って、当日の刻印を付していたとのことでありました。しかしながら、このニュースによりますと、「先付け」という慣行が現場では常態化していたようです。やはり事実確定までには、まだ時間を要するみたいです。

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2007年10月18日 (木)

「危機管理役員手控帖」

昨日はクライシスマネジメントという視点を若干呈示いたしましたが、企業の危機管理に関する対応を(リーガルリスクという面から)わかりやすく丁寧に解説されている本といえば、私が何度も愛読させていただいているこの一冊であります。私自身、コンプライアンス関連の講演をさせていただく際にも、かならず事前に内容をチェックさせていただいております。法曹向けではなく、一般の企業の役員、法務担当者向けに書かれたものですので、基本的にとても読みやすいものです。

「危機管理・役員手控帖」 (諸石光煕 著 社団法人日本監査役協会)

Shuppan_010s 本書は大江橋法律事務所の弁護士でいらっしゃる諸石先生が2004年10月から2006年10月まで、2年間にわたって「月刊監査役」に連載されていたものに、今年全面的に手直しをされて一冊の本として発刊されたものでして、元々は監査役を対象として連載されたものでありますが、会社役員や法務担当者向けに改訂されておりますので、監査役以外の方にもお勧めです。こういったコンプライアンスを語る書物というのは、具体的な事例をどれだけ連想させるか・・・といったところで勝負が決まるように思うのですが、企業内弁護士としての経歴も長く、また実際に法律が誕生するところ(法制審議会)にも関与されていらっしゃるので、具体的な事例が豊富であり、先生の主張内容がかなり説得的なところが特長であります。

ところで、10月16日に公正取引委員会より、独占禁止法の改正等の基本的な考え方が公表されましたが、このリリースは独占禁止法基本問題懇談会が、今年6月26日に発表しました独占禁止法基本問題懇談会報告書の内容が基本になっております。この懇談会報告書の意見につきましては、独禁法の改正問題だけでなく、金商法上の課徴金制度を改正しようと企図している金融庁の見解にも影響を与えるものとされております。(金融庁の担当者ご自身が、この12月までに公表するガイドラインのなかで、この懇談会報告書の内容を参考にする・・・とのこと)この報告書のなかにおきましても、本著者でいらっしゃる諸石先生(懇談会委員)は、その末尾に詳細な個人意見を述べておられます。最初は経済団体向けのパフォーマンスだろうか・・・などとたいへん失礼な予断で読み進めておりましたが、そうではないようでありまして、競争政策に「法の支配」を貫徹せんとされる先生のよどみなき見解が詰まっておりまして、たいへん感銘を受けました。おそらく諸石先生の見解を明快に論破できなければ、この報告書は先には進めないのではないかと思わせるほど、論理に説得性を有しております。そんな諸石先生が、むずかしい理屈ではなくて、長年の企業とのお付き合いや、ご自身のインハウスロイヤーとしてのご経験から著された「役員手控帖」は、とりわけ企業不祥事とクライシス管理あたりをお読みになるだけでも、たいへん参考となるはずです。

上場企業の役員、幹部クラスの方向けに、著名な法律家が書かれた最近の本としては「豊潤なる企業」(鳥飼重和弁護士 著)が東の横綱であれば、西の横綱は、この「危機管理役員手控帖」ではないかと思います。(所属事務所が関東か、関西か、といった違いであり、東と西にそれ以上の意味はございません)赤福社という、関西や中部の方だけにわかるようなマイナーな話題であると思っておりましたら、意外にもたくさんの方にコメントを寄せていただき、またとりわけ企業の危機管理に関する対応にも、みなさまの関心が高いようですので、あえて研究のための参考文献としてご紹介させていただいた次第であります。

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2007年10月17日 (水)

続・「赤福」からコンプライアンス経営を考える

昨日の皆様方からのコメントに返事を書くだけで、いつものエントリー以上の時間を費やしてしましました。(@_@;; 安鳴りさん、ちょうど時間的にコメントがかぶってしまって、ゴメンなさいです。。。ひとつ申し上げたいことは、昨日の私のエントリーは(エントリーのなかにも書いておりますとおり)企業の持続的成長のためにはどう考えるべきか、といった視点を盛り込んでおりますので、有事対応という点(特にマスコミ対策)には触れておりません。そのあたりは一応、整理して考えておく必要があろうかと思います。

もし赤福社の問題をクライシスマネジメントという視点から捉えた場合、m.nさんへのコメントにも書かせていただきましたが、赤福社が不二家さんや石屋製菓さんと同じ道を辿るかどうかは、いわゆる「やぶへびコンプライアンス」にかかってくると思いますし、ここからが本当の正念場だと思います。要は①製造年月日、消費期限の不適切な表示以外の「不祥事」がこれから赤福に発覚するかどうか(この点で、マスコミの力を甘くみてはいけません)②マスコミの騒ぎを沈静化させるほどの「赤福頑張れ」コールが、一般市民から聞こえてくるかどうか、この2点につきるように思います。社長さんのキャラがツッコミどころ満載!のほうが、マスコミネタとしてはウケがいいですよね。だとすれば、こういった有事対応としましては、社長はまずはきちんと謝罪会見を行ったうえで、あとはあまり露出されないほうが好ましいかもしれません。(ただし、不祥事によって、国民の生命、身体、財産への被害が拡大しているような場合はまったく別でありますよ)

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2007年10月16日 (火)

「赤福」からコンプライアンス経営を考える

株式会社赤福は、200年以上の歴史をもつ同族系企業のなかでも、とりわけ健全経営が認められる企業のみが会員とされる「エノキアン協会」の会員企業ということだそうであります。(AKAFUKUの紹介ページ。なお、日本企業では、エノキアン協会に登録されている企業は、月桂冠、法師温泉、岡谷鋼機、赤福の4社のみ)11代目の社長さんを頂く(いただく)この企業の持続的成長の実現は、まさに日本の企業経営者の目標でしょうし、「かくありたい」と経営者が願う理想の企業といっても過言ではないと思います。

Akahuku001_2  さて、そのような日本の伝統ある企業に対して、農林水産省より「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(いわゆるJAS法)に基づく是正措置が10月12日に発令されました。(農水省リリース)是正措置(指示)のなかでは、罰金に次ぐ2番目に重い「命令」措置であります。いろいろな報道やブログ等で、すでに製造年月日を、実際に製造した日ではなく、解凍した日としていた(全体の製品の20%弱について)事実について公表されておりますので、当ブログでは、あえて赤福社を非難するような論調で記述するつもりはございません。(私も、お土産に買って帰ったり、もらったりするのが好きだったりします・・・・(^^; )ただ、企業コンプライアンスという観点から、今回の赤福社の事実関係をもとに、今後も赤福が持続的成長をなしうる企業であり続けるための方策を検討してみたいと思います。

かりの話ではありますが、赤福社が上場企業であり、CSR担当取締役とコンプライアンス担当取締役が存在するものとします。いままで報道されている事実関係のみから、この取締役らの抗弁を想像します。

コンプライアンス担当取締役: 法令遵守については十分に配慮してきました。10年前に三重県衛生局に対して、「製品の解凍日をもって製造年月日とすることに問題はないか」とたずねましたところ、当局は立ち入り調査を2回行った末、だいじょうぶとの回答でした。したがいまして、我々は衛生局からお墨付きをいただいたので、その後も継続して解凍日を製造日とする慣行を続けていました。不二家の報道がなされたことで、食品衛生法とは別に問題が生じることを知ったので、その後は対応を変えましたけど。

CSR担当取締役: 流線型の餡の形は機械でできるものではなく、すべて手作業でなければ作ることができません。個別包装とせず、どれも手作業で作る、といった赤福の伝統は捨て去るわけにはまいりません。したがいまして短時間における大量製造は困難でありまして、製造調整には限界があります。お客様の食の安全を確保するために保存料を使用することなく、確実に各観光地で販売体制を確保するためには、約20%の商品については冷凍して確保する以外に方法はありません。我々はお客様のもとへかならず商品を滞ることなく届けることがお土産品製造企業としての社会的使命であり、観光に来られたお客様との信頼の礎であります。

まず、コンプライアンス担当取締役の抗弁にも一理あるように思われます。一般企業の担当者からみて、食品衛生法とJAS法の関係とか制度趣旨の違いを詳細には知らない場合もあるでしょうし、県の衛生局に事前相談した場合に、そういった関連法規違反の有無についても回答してもらえる・・・といった期待をもつことにも同情できるところはあると考えられそうであります。しかしながら、コンプライアンスの上には「企業倫理」とか「企業行動規範」というものがあるはずです。もしくはそういった概念もコンプライアンス経営には内包しているはずであります。(300年という歴史ある企業であればなおさらでしょう)たとえ衛生局の回答によって違法性の認識がなかったとしても、解凍日を製造日と刻印して商品を販売する行為に「うしろめたさ」を感じなかったのでしょうか?ちなみに、現在は閲覧できない状態になっている赤福のHPでありますが、キャッシュをたどっていきますと、品質管理に関するQ&Aの頁にたどりつきます。そのなかで、消費期限とは何を意味するのか?消費期限切れの赤福は食べてもいいのか?赤福は冷蔵庫で保存してもいいのか?などへの回答が用意されております。そこまで配慮している赤福社として、「うしろめたさ」を感じなかった、とはいえないはずであります。そうであるならば、やはり「気づき」はあったでしょうし、法律を知らないのであれば、専門家の意見を聴取する等の対応は当然に必要だったはずであります。

いっぽう、CSR担当取締役の抗弁は、逆に企業行動規範や企業理念を考慮した回答のようにも思われます。伊勢の名物である「赤福」をぜひ買って帰りたい・・・というお客様の期待に応えること、赤福をお土産としてもらった人たちに喜びを与えたいこと、そういった企業理念に忠実にしたがうのであれば、解凍日を製造日とするといった「うしろめたさ」よりも大きな社会的使命を全うすることのほうがより重要であり、赤福の社会的責任(CSR)を果たすことにつながるものである、と考える余地もありそうです。なんといいましても、CSRは米国型(メセナ型、社会貢献型)よりも欧州型(本業型、正当な業務履行による持続的成長戦略こそ企業の社会的責任)のほうが日本ではウケがいいようでありますし、そういった見地からは、大きな社会的使命をまっとうするためには消費者の安全性には問題のない範囲での小さな問題には目をつぶることもやむをえない、といった理屈で考えてしまうこともあるかもしれません。しかしながら、時代とともに企業と消費者との距離は変わります。昔の赤福であれば、お客様は「赤福」の看板に魅了され、ただ「赤福餅」であれば喜んで購入していたことでありましょう。しかし時代は変わり、消費者にはたくさんのお土産のなかから赤福を選ぶという「選択権」が生まれました。また、値段とともに品質も自己責任によって選択できるだけの知識や能力も有するようになりました。 (だからこそ食品衛生法とは別に、また景品表示法とは別に、JAS法が生まれたわけであります)50年ほど前の時代とは赤福とお客様との距離は大きく変わったのでありまして、そうなりますと企業理念の解釈も、品質に対する常識も変わるのが当然であります。社内の常識だけで企業理念を解釈してしまうと、そういった企業と消費者との距離感が把握できなくなるおそれがあるのではないでしょうか。よくCSR担当取締役は、自社のCSR戦略を株主やステークホルダーに対してアピールする能力が必要だと言われますが、私はその前に、株主やステークホルダーの声を真摯に聞き、社内の常識と社外の常識との間にズレがないか、まず検証することから始めるべきだと考えております。

以上のお話は、赤福社に担当取締役が存在することを前提としたものでありますが、いずれにせよ、もっとも重要なことは社長さんのCSRやコンプライアンスへの理解であり、また現実の社会において、お客様の信頼を確保するために何が大切か、常に社内に発信することであります。「社外への発信」は黙っていても担当役員さん方が上手にやってくれるはずです。しかし社内への発信がなければ、上記のような役員さん方の「考え方」が通用してしまう可能性は高いのではないでしょうか。経営トップの間においてすら、企業行動規範、企業倫理の解釈を共有していなければ、いくら外向きに「コンプライアンス担当役員を置いた」「CSR担当役員を置いた」と自慢してみましても、絵に描いた赤福餅に帰してしまうこととなるわけであります。赤福社にかぎらず、消費者へ商品を販売する企業にとりましては、商品の安全だけでなく、商品の値段や品質に基づく(消費者の)選択権の確保といった社会的要請が広く認められた現代社会において、「お客様を騙す」姿勢こそ、企業の命取りとなることを肝に銘じる必要があるのではないでしょうか。(なお、本件では企業の危機管理という面において、内部通報制度のあり方や、マスコミへの対応など、個別テクニカルな論点もありますが、あえて本件では触れておりません。また事実関係につきましては、できるだけ客観性のある報道から引用しておりますが、11月12日が農水省への提出期限とされております赤福社の原因分析報告書の内容等によって、後日修正する可能性があることをご了解ください。)

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2007年10月14日 (日)

財務報告内部統制と内部統制システム基本方針改定

(10月14日深夜 追記あります)

昨日(12日)の適時開示情報のなかにおきまして、大証ヘラの燦(さん)キャピタルマネジメント社が「内部統制システム構築の基本方針の改定に関するお知らせ」をリリースされておりました。燦キャピタルさんの基本方針の最後に、財務報告内部統制確保のための体制整備について記載がされておりますが、こういった財務報告に係る内部統制システムの整備運用方針を追加的に記載するために、内部統制システムの基本方針を改定する企業が最近目立つところであります。金融商品取引法が全面的に施行され(ただし財務報告に係る内部統制制度については来年4月以降)、内部統制府令(第62号内閣府令)も正式に公布されるに至りましたので、企業としても体制整備の一環として、財務報告内部統制確保に関する基本方針を追加しているのでしょうね。また、監査役協会が財務報告内部統制に関する監査基準を新設して、監査役による監視検証の対象として採り入れていることなども、こういった改定の要因になっているのかもしれません。

さて、このところの基本方針の改定を調べてみましたところ、上記の財務報告内部統制を確保する体制については、概ね3つの改定パターンがある ことがわかります。(追記 改定を検討してみたが、諸々の理由によって改定をしなかった、というものをパターンのひとつと捉えれば4パターンということになりそうです。技術屋の内部監査人さん、のらねこさん等のコメント 参照)ひとつは取締役、使用人の職務執行が法令定款に基づき適正に行われるための体制確保のなかで追加するパターン、ひとつは連結財務諸表の適正性確保を主たる目的として内部統制報告書が作成されることから(金融商品取引法24条の4の4)、企業集団における業務の適正を確保するための体制として捉えているパターン、そしてもうひとつが、上記燦キャピタルさんのように、これまでの条項とは関係なく、独立条項を設けて体制整備を謳っているパターンであります。いずれのパターンによるかは、各上場企業の置かれている経営環境によって異なるものと思われますが、いずれにせよ、会社法における内部統制システムの構築と、金融商品取引法(内部統制報告制度)における内部統制との融合的理解といったことが前提となりますので、各企業とも、統一的な理解をもって体制構築を企図されているようであります。以前からこのブログでも述べておりますように、私自身は会社法上の内部統制とJ-SOXはまったく別次元のものであり、安易な統一的理解はすべきではない(異質説 ただし、いずれの法目的をも充足させるような共通部分が相当にあるので、企業はそこから対応すべし)と考えておりますが、最近の法曹界の通説では統一的理解が可能である(同質説)とみるようでありますので、注1 最近の基本方針の改定は、そういった通説的理解との親和性は高いものと思います。

注1この分野における秀逸な論文として、「金融商品取引法の内部統制と法令遵守体制の関係」池永朝昭著・旬刊商事法務1796号22頁以下がある。会社法上の法令遵守体制と財務報告内部統制との関係について整合的に理解するには大変参考になるものと思われる。

ところで、取締役や使用人の職務執行が法令および定款に適合することを確保するための体制の一環(会社法362条4項6号、施行規則100条1項4号等)として「財務報告内部統制を確保する体制」を捉える場合、そこで適合性が求められる「法令および定款」とはいったい何をさすのでしょうか?金融商品取引法をさすのでしょうか?金融商品取引法では、上場企業が内部統制報告書を有価証券報告書と併せて提出すること(金商法24条の4の4)、その報告書には監査証明を付すこと(同193条の2、2項)、および報告書の虚偽記載に関する罰則等が規程されているのみでありまして、財務報告内部統制の確保に関する具体的な定めはありません。ただし(金融商品取引法の委任もしくは細則的な意味合いをもって作られております)今年8月10日に公布されました「財務報告に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」(内閣府令第62号)によりますと、当該会社(もしくは当該会社が帰属する企業集団)における財務報告が、法令等にしたがって適正に作成されるための体制のことを、財務報告に係る内部統制と定義されておりますので(上記府令3条)、この府令3条の「法令等」の具体的な中身の問題になろうかと思われます。注2 そして、この法令等の中身につきましては、当該府令1条1項において、当該府令と「一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準」とされているようでありまして、同1条4項では企業会計審議会により公表された基準が、この「公正妥当と認められる基準に該当する」と定められておりますので、結局のところは「内部統制実施基準」までが「法令等」に該当することになろうかと思われます。そして「実施基準」が、経営者評価にあたり、各上場企業に広範な裁量範囲を付与していることは皆様ご承知のとおりであります。

注2 立案担当者は、この内部統制府令3条について、「この体制は、各社の状況(置かれた環境や事業の特性、規模等)により異なることから、一律に示すことは困難であり、各社において適切に判断されることになるものと考える」とされる。(谷口・野村・柳川 「開示制度に係る政令・内閣府令等の概要(上)」旬刊商事法務1810号38頁)

さて、上記のように「法令等」が金融商品取引法から内部統制報告制度の実施基準まで、広範な部分を包含するものと捉えますと、法令への適合性が求められるといいましても、非常に曖昧かつ漠然としたものであることがわかります。とりわけ経営者評価基準といったものは唯一の会計慣行も存在しませんので、誰か(評価に詳しい方)が「こうでなければならない」といった基準を示しても、それ以外は基準として適合しない、といったことでもありません。内部統制監査人が、(事実上)経営者評価はこうでなければならない、と指摘したとしても、それ以外の評価方法が違法という評価は出てこないということになりそうであります。(いや、「こうでなければならない」といった話はそもそも前提としては成り立たず、「こうであれば、評価方法としては適切ではない。」とまでしか言えないのではないでしょうか)内部統制システム構築に関する基本方針のひとつとして、財務報告内部統制を含ましめることに、どれほどの意味があるのかは、いまのところ私自身もよく理解していないのでありますが、とりあえず会社法と金商法との内部統制に関する統一的理解を前提とした場合には、このあたりが議論の出発点になるのではないか・・・と思った次第であります。

あまり理屈っぽい話だけではおもしろくありませんので、すこしだけ具体的なお話をしたいと思いますが、たとえば財務報告内部統制の構築体制を確保する、といった基本方針を開示する場合、単に「体制を確保すること。取締役会は代表者の整備運用への評価を監視すること」などといった抽象的なことだけでなく、もうすこし具体的なことも書いてみたらいかがでしょうかね。10月はじめに、「内部統制府令に関する金融庁ガイドライン」が「Q&A」とともに公表されていますが、そのなかで報告書に署名捺印を要する「最高財務責任者」に関する解説がありまして、単なる経理担当者にとどまらず、経営者とともに、財務報告に係る内部統制の評価に責任を負うべき者であることを要する・・・とありました。もし、そのような意味で責任を負う立場にある最高財務責任者を設置している企業であれば、そういったことも財務報告内部統制の基本方針として記述すべきだと思いますが、いかがでしょうか。単に経営者評価は代表者が責任をもって評価する、とされる企業と、最高財務責任者も併せて署名する、とされる企業とでは、現実の評価手続きを考えた場合、後者のほうがよっぽど「取り組みへの真剣度」が高いように思えますし、会社債権者や株主への開示情報からの印象度注3 にも差が生じるように思えるのでありますが。。。(記述することについても、それほど面倒なこともありませんし)

注3 そもそも会社法の規定する内部統制システムの基本方針決定(体制整備に関する取締役会決議)は、法が特別に内部統制システムの構築を企業に義務付けたものではなく、基本方針を決議するかどうかの自由を与え、もし決議した場合には適時開示情報や、事業報告(会社法施行規則118条2号)等で開示せよ、というものであり、開示制度の有するガバナンス機能が重視されているものである。(「会社法下における企業法制上の新たな課題(下)」旬刊商事法務1789号5頁相澤発言 参照)いっぽう、財務報告に係る内部統制報告制度の場合には、連結財務諸表等の信頼性を確保するに足るレベルの内部統制システムの構築が目標とされ、インダイレクトレポーティングによるものとはいえ、監査水準による監査証明も要求されるわけであるから、一定水準の統制システムの構築が法により要望されているといえるが、特別に個々の企業の財務報告の内部統制システム自体が、法によって開示されることまで要求されるものではない。なお、会社法における内部統制システムの構築の水準というものを想起するのであれば、それは個々の企業における取締役の善管注意義務のレベルを模索することになると思われる。

(10月14日夜 追記)

明朝から某会社の経営会議のため、別エントリーをたてるだけの時間がありませんので、追記とさせていただきます。のらねこさん、監査役サポーターさんのコメントを読ませていただきました。会社法と金融商品取引法の内部統制が密接不可分の関係にあるとか、財務報告にかかる基本方針は会社法の基本方針の下方に位置する等といった見解もあろうかとは思いますが、ひとつ整理をしたい問題がございます。もし財務報告内部統制が、業務の適正性確保のための体制と同質もしくは下部に位置するとすると、取締役は会計監査人による監査証明において、「内部統制は有効である」とした経営者評価に適正意見さえもらえれば責務を全うしたことになるのでしょうか?財務報告内部統制の実施基準において「内部統制の限界」とされるような事例において、不正会計が発生した場合には、取締役の責任は免除されるのでしょうか?今後、J-SOXの基準が緩和された場合、その基準の変化にしたがって取締役の注意義務も変化するのでしょうか?財務報告の信頼性を確保するための体制が一般的にみて業務の適正性確保のための体制の一部であることは私も認めるところでありますが、それは会計監査人だけでなく、監査役とか、内部監査人とか、諸々の構築、モニタリングにかかわる人たちによって、外部監査とは無関係にコンプライアンス的発想から要求されるものでありまして、そもそもJ-SOXとは次元が違うのではないでしょうかね。

また、判例上では、会社法上の内部統制システムの構築については、取締役の経営判断原則が成り立つものと言われておりますが、(実際、ダスキン高裁判決においても、広範な経営判断原則の適用を認めております)たとえば財務報告に係る内部統制の構築といった問題は(同質説の場合)どう捉えるべきなのでしょうか?やはり広範な経営判断原則の適用があるのでしょうか?

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2007年10月12日 (金)

エントリー修正のお知らせ(石屋製菓の件)

(10月14日 追記あります)

8月20日に「日本の内部統制のルーツを考える」と題するエントリーをアップいたしましたが、そこで「白い恋人」の製造元である石屋製菓社を、赤福のお土産品販売精神と比較したような記述をしておりました。

ところで、本日の報道によりますと、内部告発(と思われます)により、赤福が虚偽の製造年月日を印刷していた疑いでJAS法違反として農水省の立ち入り検査を受けている、とのことであります。(東京新聞ニュース

したがいまして、上記8月20日付けエントリーにつきましては、一部訂正をしております。また今後の調査内容次第では、上記エントリーは不適切なエントリーとして、一部消除する可能性がございますので、あらかじめお知らせいたします。私もよくお土産に伊勢名物赤福餅をいただきますし、先日、合歓の里の帰りに買って帰りましたので、もし容疑が事実とすれば非常に残念です。

(追記)昨日の赤福代表者の記者会見内容から、私の上記エントリーには不適切な内容があったものと認められ、ブログ管理人の事実誤認があったものとして一部削除いたしました。伝聞の報道内容を軽々に引用したことに起因するものであります。失礼いたしました。

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上場企業は社外監査役に何を求めるのか?

10月4日付けで日本監査役協会さんのHPに「社外監査役の活動と監査役スタッフの役割」(関西支部監査役スタッフ研究会)」がリリースされており、以前このブログでも社外監査役と監査役スタッフとの関係について持論を述べさせていただいたこともあり、興味深く拝読させていただきました。ある方のコメントでは、社外監査役の活動「と」の意味が不明とのことでありましたが、私が読ませていただいた限りでは、やはり監査役スタッフ側からの社外監査役制度への提言もあり、単なる並列ではないものと理解いたしました。

常勤監査役の方、そして社外監査役に就任されていらっしゃる方におきましては、数少ない監査役スタッフと社外監査役との関係を協議するための題材としてふさわしいものでありますので、ぜひご一読をお勧めいたします。とりわけ社外監査役を現任されていらっしゃる方にとりましては、すでにこのブログでもご紹介しております「社外監査役(コーポレートガバナンスにおける役割)」とともに参考にされますと、理解が進むものと思われます。(アンケート結果に基づいて、理想ではなく、かなり現実的な社外監査役のあり方を模索されていらっしゃるように読めました。)

このリリースを読んでの私個人の感想でありますが、2点だけ書かせていただきます。ひとつは社外監査役の特質(特長?)にふさわしい社内での活用を考えるべき、ということであります。社外監査役に期待されるものとして「大所高所より意見を述べる」とか「社外の常識を社内に取り入れる」「専門家にふさわしい意見を求める」といったことに多数の意見が集中しているようでありますが、しかし現実には、そういった要請であれば代替できるコンサルタントや専門職の意見を求めることで足り、特別に社外監査役でなければいけない・・・というものでもないように思います。(もしこのあたり、別のご意見をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ご教示よろしくお願いいたします。ここは以前から、私自身かなり懐疑的に感じているところであります)社外監査役の一番の特質はといいますと、「社内の人間ではないけれども、月1回から2回程度、役員会や経営会議に出席することで、ある程度その会社の事情や、経営環境等を知っている」ことがいえそうであります。せっかく、相当の報酬を支払って、社外監査役に就任してもらっておりますので、こういった「独立性はあるけれども社内の事情に詳しい」といった社外監査役の特質に合致した役回りをもっと検討すべきでしょうし、それがもっとも効率的な選択ではないかと考えております。「法律で決まっているから、とりあえず・・・」といったあたりが現実とは思いますが、もうすこし理想に近いところで申し上げれば、常勤監査役、社外監査役相互の関係構築にも特長が生かされるような人選がよろしいかと思います。

そしてもうひとつでありますが、(ひとつめに述べたところとも関連するのでありますが)社外監査役の仕事は「ひな型には乗りにくい」ということであります。常勤監査役の方々のほうが、もうすこし「ひな型」に沿ったお仕事が連想できるところでありますが、社外監査役の業務は「かくあるべき」が具体的に提案しにくいのではないかと思われます。実際、私が複数の会社の社外監査役をやってみて、またリスク管理委員会の委員として、いくつかの企業の社外監査役の方のお仕事を身近に拝見しておりまして、「全社的なリスク管理の一環として社外監査役を活用するのがベストではないか」と思っております。つまり、中小から大きな企業に至るまで、その企業の健全性および効率性監査のポイントは千差万別でありまして、もっともウイークポイントとなるところで社外監査役が活躍できるのが有効ではないかと思います。社長の独断的采配が強い企業であれば社長と直に意思疎通ができるような社外監査役の存在が必要でしょうし、(買収のおそれなどを含めて)株主対策に問題があるような企業でしたら、株主の代弁者たるにふさわしい社外監査役が必要であります。要は、その企業固有の全社的リスクを社外監査役が早期の段階で把握したうえで、そのリスクへの対応にふさわしい形において職務の重点を置く、といった大胆な構想をとりうるのが社外監査役の役割といえるのではないでしょうか。社外監査役の実務指針に関する本を共同で著した人間としては、自己矛盾と非難されるところもあるかもしれませんが、ガバナンスの問題として、社外監査役のベストポジションというものは、年間の監査計画などにおきましても、個々の企業によって大きく異なるものであることを前提として発想したほうがいいのかもしれません。

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2007年10月11日 (木)

この年齢(トシ)で法律を学ぶ「幸せ」

いろいろとエントリーしたいことはあるのですが、ここのところブログを認める(したためる)時間がなく、まともなお返事も書けずに申し訳ございません。m(_ _)m  先週から同志社大学の法科大学院で会社法のゼミを担当させていただいておりまして、まだ慣れないせいでしょうか、その準備がけっこう時間を要します。毎週1回京都の美しいキャンパスに向かうことはそんなにしんどいものではないのですが、本業の合間にけっこうたくさんの資料に目を通しておかないといけないですし、「今後いかに効率よく、手抜きをせずに準備するか」を検討しませんと、ブログのほうも更新が滞りがちになってしまうかもしれません。(なお、同志社のロースクール生の皆さんには、ほとんどこのブログは認知されていなかったようです・・・(^^;)

しかしながら、ひさしぶりに初心に帰って会社法を基礎から学びなしてみますと、法務ブログを2年半ほど続けてきたせいか、どの論点にぶつかっても、なかなか興味をそそられまして、たいへんおもしろく勉強させていただいております。たとえば会社法の授業では、おそらくどちらの大学でも「定款に記載された事業目的と株式会社の権利能力」といった論点を(最初の授業あたりで)学ぶ機会があると思います。私が司法試験の浪人中は、こういった論点がなんとも退屈でして(といいますか、鈴木竹雄先生の「会社法」の基本書がどうも頭に入らなかったのであります。いま想い出しても結局何を基本書として会社法を学んだのか、あまり記憶が定かではありません)、著名な昭和45年大法廷判決の政治献金事件の判例あたりを「サラ」っと読み流していただけでありました。しかし、ここ数年の某ゼネコンの政治献金事件判決(地裁、高裁)あたりを読みますと、地裁と高裁で結論が逆になっていたりして、けっこう面白い論点に変貌しているんですね。いや、ひょっとすると、「会社の定款」は以前からおもしろい論点だったのかもしれませんけど、私自身が「おもしろい」と感じるだけの実力も関心も知識もなかったのかもしれません。「会社法」だけを純粋な学問のように学ぼうとすると無味乾燥なもののようにも思えますが、商法科目らしく、現実の世界にどう機能しているか・・・といったあたりが理解できますと、条文の構造も理解できますし、自ら疑問も湧いてくるようになるのではないでしょうか。ただ、会社といいましても、大会社から家族経営会社まで、その形態は様々ですし、現実の世界と法律とをどう関連付けて考えるか・・・といったあたりは口で言うほど易しいものではないようです。

そういえば今年の株主総会では、「談合決別宣言」といったコンプライアンス条項を定款に記述する、といった上場企業もありました。いわゆる「企業行動規範」の定款への取り込みであります。かなり特殊な例かもしれませんが、この企業行動規範の定款への反映といったものが、そもそも定款の性質と合致するものかどうか・・・といったことについてはあまり議論されていないようであります。そもそも企業倫理規範とか、行動規範といったものは経営の理念であって、経営者が示すものであります。その理念に株主が賛同することもあれば、反対することもあるでしょう。いっぽう、定款は株主の意思の総和(特別決議)によって形成される規範であります。たとえ取締役会が定款の一部変更議案を上程するとしても、変更を決議するのは株主でありますから、果たして企業の倫理規範を株主が決議したり、後で消除したりしていいんだろうか・・・といった疑問が出てきてもおかしくないような気がいたします。(実はこれは元々司法書士のぐっぱるさんとのメールのやりとりのなかで、ぐっぱるさん自身が疑問を抱いておられた点です)ちなみに、そのコンプライアンス条項はといいますと、

(法令遵守および良識ある行動の実践)第3条 当会社においては、役職員一人一人が、法令を遵守するとともに、企業活動において高い倫理観をもって良識ある行動を実践する。特に建設工事の受注においては、刑法及び独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)に違反する行為など、入札の公正、公平を阻害する一切の行為を行わない。

といった条項になっております。株主オンブズマンの方々が、長年要望していたことが、一部の企業において実現したわけでありますし、企業コンプライアンスの実現のためには有意義なものであることは間違いないわけですから、私自身、こういった試みに反対するものではありません。ただ、定款の法的な性質や、企業倫理規範が企業経営者による永続的な「看板」であることを考えますと、こういった試みが広範に検討されるなかで、少し考えておいたほうがいいこともあるように思ったような次第であります。

なお、先の某ゼネコンさんの政治献金訴訟は、この株主オンブズマンの方々が原告となっておられる株主代表訴訟でありますが、実は地裁や高裁の判決のなかでは、定款の記載が取締役の善管注意義務の根拠条文に影響を与えたり、経営判断原則の考え方に影響を与える可能性を示唆しているんですね。ということは、定款に役職員の行動規範を記述する、といったことは、道義的もしくは倫理的な意味合いを越えて、法的な意味合いをも含んだものに進化する・・・ということも言えるかもしれません。また、こういった考え方の延長線上には、蛇の目ミシン判決の最高裁と高裁との判断の違いが見えてきたり、ダスキン高裁判決の考え方が見えてきたりするわけでして、いろんな論点がつながってくるわけであります。「談合との決別」を宣誓した役員の皆様方にとって、この「定款への決別宣言組み入れ」が、どれだけ重い意味を持っているか・・・ということを、こういった会社法の基本原則のような論点を改めて学ぶなかで認識することができました。(なお、これはあくまでも私見であり、これが関係当事者の真意なのかどうかは定かではございません。ねんのため)

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2007年10月 9日 (火)

MSワラントに対する株主の理解度

ちょうど1年前の2006年10月11日にMSCBと内部統制の限界論というエントリーをアップいたしましたが、サンテレホン事件やオープンループ事件等、裁判所の「有利条件発行」に関する判決なども出た関係で、少しずつMSCBやMSワラント(MSSOとも言われておりますが、証券取引所の開示に関する要請文書等では「MSワラント」と称されておりますので、ここでも「MSワラント」といいます)の法的論点なども認知されてきたようであります。ただし、ビジネス系ブロガーの方々の間では、もうすでにライブドア・ニッポン放送事件以前から、このオプション理論に基づく金融手法の功罪についてかなり詳細な解説がなされていたようでありますし、コーポレートファイナンスにお詳しい方々には、もはやそれほど新鮮な話題ではないのかもしれません。

ただ、最近オックスHD社よりリリースされております「第三者割当てによる第5回乃至第14回新株予約権発行に関するお知らせ(MSワラントの発行」などを読んでおりますと、ホンマ私には内容が理解できません。大証さんなどでも、今年6月に「MSCB等の発行及び開示並びに第三者割当増資等の開示に関する要請について」(東証さんからも、ほぼ同様のものがリリースされています)と題する発行企業向けの要請文を出しておられますし、その要請文によれば、MSワラント発行に関するリリースの最低1週間前までには大証に事前相談に来られたし・・・とありますので、ずいぶんと一般株主でも仕組みがわかるようなMSCBが発行されるようになるのかなぁ・・・と期待をしていたのでありますが、やっぱり私のような典型的な文系人間には、上記オックスHDさんの新株予約権のオプション価値算定の合理性はよくわからないままであります。そもそも、証券取引所の担当官の方々も、とりあえず事前相談は受けるけれども、とくに仕組みの変更を要請したり、一般株主への注意を促すような公表措置をとることもないようでありますので、当事者以外に、いったいどこまでMSワラントの内容が理解できているのか、よくわからないところであります。ちなみに上記リリースの後、オックスHDの株価はストップ高が連日続き、この火曜日からの値動きにも、また注目が集まるところでありますが、オックスのY板(ヤフー掲示板)でのご議論を垣間見ましても、あまりオプション理論に基づくような検討がなされているような気配はなく、また2ちゃんねるの「死期報」シリーズでも、活発な議論はされていない様子であります。

上場企業におけるMSワラント(転換価格修正条項付新株予約権)の発行問題も、純粋な会社法240条、238条あたりの解釈問題ですし(第三者割当てによる場合は、「特に有利な発行金額」の場合には株主総会による特別決議が必要)、行使価格の合理性については、おそらく開示情報からも、一般株主がその価格の合理性を(その気になれば)理解しうる程度に「やさしい開示」が必要になるのではないか・・・と常々思っておりますが、一向にそんな気配はないようですね。たとえ私が「あぼーん」と言われようとも、せめて私クラスの「ごく一般的な株主のレベル」の人間に、その仕組み程度は発行要領から推認できる程度の説明がなされないとおかしいのではないか?と思うのですが。もちろん、MSCBやMSワラントが、ある意味で企業の資金調達方法としては有意義であることは承知しているつもりですし、新株予約権取引上の税務問題や、資本取引における会計上の取扱がスキームに影響している(本件スキームの複雑さは、むしろこっちのほうと関係しているようにも思えますが)こともある程度は理解しているつもりでありますが、まずはその前提として「これはどんなスキームなのか」把握できませんと、なんとも前に思考が進まないわけでありまして、同じような気持ちでイライラされている方もいらっしゃるのではないでしょうかね。たとえば、先のオックスHDの例でいいますと、二項格子モデルをもって合理的な新株予約権の発行条件を算定されているようでありますが、この算定価格というものは、いったい修正条項がどのように使われることを前提としているのか、それとも修正条項は参考とされていないのか等、算定の基礎となる条件事実がはっきりと説明されていなければ、はたして一般株主によって第三者割当がどの程度の経済的不利益をもたらすものなのか、本当に理解できないと思うのであります。MSワラント発行の仕組みにつきましては、相対取引当事者の細かなリスク管理とも関係するものでしょうから、その仕組み自体が複雑になることは承知しているものの、開示情報のなかでは別紙を使ってわかりやすく解説することは当然の前提ではないかと思ったりしております。

このオックスHDのMSワラントにつきましては、どちらかというと表向きでは発行企業側のほうに若干有利に作られていて、一般株主の株式の希薄化を極力低減するためのスキームとなっているのかもしれませんが、そうであるとしても、もう少しオックスHD社の取締役の方としては、株主への説明責任を尽くすべきではないでしょうかね。このMSCBやMSワラントによる資金調達におきましては、たしかに既存株主への影響度をできるだけ少なくするための対応に配慮されつつあるとはいえ、いまのところ「やったもん勝ち」の世界にあるような気がしてなりません。(どなたか、先のオックスHDのMSワラントにつきまして、包括行使請求と個別行使請求との関係について、わかりやすく解説いただいておりますブログ等ご存知の方、またお教えいただけましたら幸いです)

※なお、本エントリーは管理人自身の「ボヤキ」を綴ったものであります。どうか証券取引にあたっては、すべて自己責任においてなされますよう、お願いいたします。

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2007年10月 7日 (日)

NHK土曜ドラマ「ジャッジ」(島の裁判官)

(10月7日深夜 追記あり)

金融庁「Q&A」のエントリーには、たくさんのコメントをいただき、ありがとうございました。私自身、コメントを拝読して、新たに多くのことを学びましたし、また新たな疑問も湧いてまいりました。また、引き続き続編も書かせていただきますので、皆様の活発なご議論の「とっかかり」にしていただけましたら幸いです。なお、まだまだここ二日ほど、新たなコメントを頂戴しておりますので、私からも追って追加コメントを書かせていただきます。きょうは連休ということで、ビジネス法務以外の話題とさせていただきます。

さて、ろじゃあさんが試写会に行かれた、とのことで、私も楽しみにしておりましたNHK土曜ドラマ「ジャッジ(島の裁判官 奮闘記) 」の第1回(全5回)をビデオ録画(って、うちはまだVHSの巻き戻しのやつです・・・・・(^^;  )で視ました。これは間違いなく第5回まで、全部視ると思います。(笑)毎度、こういった法廷モノのドラマを視ますと、「ここが間違ってるぞ~」とか「こんなのありえねぇ~」といった視点で批判したくなるところでありますが、そんなことはまったく気にならないほど、人間ドラマの描き方がうまいですね。

しかしこの主人公の裁判官、シチュエーションはかなりリアルやわぁ・・・

大阪地裁の知財専門部(知的財産部)から「島の裁判官」って、これ、実際ありますよね。ご承知の方も多いかとは思いますが、知財専門部(ドラマでは3人でしたが、実際は6名ほどの裁判官が在籍。ただし、大阪には現在ふたつの知財専門部あり)の裁判官はかなり優秀な方々ですから、司法行政(最高裁事務局とか)を拝命される方もいらっしゃるでしょうが、こういった地方の支部長として赴任される方もなかにはいらっしゃいます。これまで双方に大手の法律事務所の代理人が就任している民事事件(特許、営業秘密、不正競争防止法関連等)を処理されていた裁判官が、いきなり本人訴訟を含む一般民事、保全、刑事、家事調停(離婚や相続、少年事件)、破産、令状そして支部行政と、なんでもこなさないといけないわけですから、これはたいへんな状況になってしまうのであります。(そういえば「当直」って、どうされているんでしょうかね?)ただ、たった2年ほどではありますが、こういった「島の裁判官」の経験が、今後のエリートコースを歩む裁判官にとっても、非常に貴重な体験になるわけでして、そこに「光」をあてたドラマの基本設計はかなり秀逸だと思います。一般の方には、そもそも裁判官の生活というものがあまり認知されていないところでありますが、このドラマはかなり現実の裁判官の生活に近いところで勝負しようとしておられるようで、今後の展開に大いに期待をしております。(しかし、裁判官の実生活に近いぶん、裁判官がご夫婦で視た場合に、かなり笑えないところもあるかも・・・)

さてこのドラマ、裁判官家族の人間ドラマが中心となって展開されていくものと思いますが、ぜひ一般の方に知っていただきたいのは的場浩二さんが演じる「家事調査官」「少年調査官」といった立場の方々です。漫画などではスポットがあたっているのかもしれませんが、家事少年事件にとって、実際、これほど重要な立場の方はおられません。私が少年事件の付添人(刑事事件における弁護人のような立場)に就任した場合、裁判官はほとんど意識せず、ただひたすら時間があれば調査官に会いにいきます。調査官をどこまで説得し、調査官とどこまで真剣に少年の将来について考えることができるか、というところが付添人の仕事のすべてだといっても過言ではないと思います。(もちろん、被害者等存在する場合には示談交渉も大切ですが、そういった示談交渉の進捗も、少年の家庭環境等にも影響します)さっそく、第1回から、裁判官と調査官の葛藤がありましたが、あれもけっこうリアルなところでして、おそらく実務では、もっと調査官の意見を裁判官は尊重する場面が多いと思います。

それから、傍聴席の家族に見守られながら、傷害事件の被告人が主人公の裁判官より懲役10月(未決勾留算入30日)を言い渡されるシーンがあり、子供から鬼のような目で見つめられるシーンがありましたが、もともと執行猶予中の犯行ゆえ、実刑は十分にありうる事案でしょう。(もちろん、ダブルで執行猶予がつく可能性はありますが)もし恨むのであれば、あの寺田農さん演じる「酒乱」弁護士です。執行猶予中の被告人の刑事弁護は、たとえ国選事件であっても、他の事件以上に神経を使います。おそらく最高裁までみすえた上で弁護計画をたてるはずです。(また、一審で実刑となっても、控訴審で被害弁償や家族の情状証人で執行猶予がつく可能性も十分にあります)したがいまして、裁判官から指摘を受けるまで、執行猶予中の犯行であったことを知らない、などといった弁護人はありえないと思いますが、「弁護人があの程度の弁護しかしない」といった認識を一般の方にもたれてしまうのではないか、というところがちょっと心配になりました。(あっ、すいません。最後はやっぱり「ありえねぇ~」になってしまいました。。。)

※ どうも私の予感では、あの「酒乱弁護士」さん、寺田農さんが演じているというところをみると、第3回とか4回あたりで、この若い裁判官に何かを教える・・・といった展開になるのではなかろうかと。。。

(追記)知財専門部といえば、今日の産経新聞ニュースによりますと、ピンクレディーのおふたり(ミーちゃん、ケイちゃん)が、「ウォンテッド」の振り付け写真を雑誌に勝手に使用されたとして、振り付けのパブリシティ権侵害を根拠として出版社を相手に損害賠償請求訴訟を提起されたそうであります。パブリシティ権は、人格権に基づく著名人の経済的権利との位置づけが通説判例でありますが、これは名誉毀損を扱う裁判所なのか、知財を扱う裁判所なのか、とすこし疑問を持ちますが、平成14年の馬名のパブリシティ権問題については知財専門部(東京地裁)が扱っておられたようですので、やはり知財部で扱われているんでしょうね。しかし、この著名人のパブリシティ権でありますが、これが頻繁に著名人個人の経済的利益として認められるようになりますと、今度は著名人の名義貸しについても、ぎゃくに著名人には厳しい責任が問われることになりませんでしょうかね?利益の帰属するところ、責任も当然に帰属するわけですから、L&G事件ではありませんが、自分の名前を商品販売に使用許諾しているようなケースでは、出演していた著名人自身にも商品調査責任のようなものが発生するかもしれませんよね。

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2007年10月 3日 (水)

内部統制Q&Aにみる金融庁の考え方

(10月5日夕方 追記)

昨日よりたいへんなアクセス数となっておりますし、忍者アクセス分析でも、コメント欄をアクセスされている方が多いことが明らかでありますので(近接した時刻に同一の閲覧者が複数ページをアクセスされておられます)、このエントリーをトップに残しております。しかしやまたけさんがおっしゃるように、ホントこの「Q&A」は大きな反響ですね。会計雑誌あたりでは、また11月号などで解説記事とか出るかもしれませんね。

(10月3日午後 追記)

いつも勉強させていただいております澤村八大先生(会計士)も、この10月1日から「現場復帰」ということだそうでありまして、今後のご活躍を祈念いたしております。(半年の間、主夫?をされておられたそうで、急に朝早く出勤されるようになった澤村先生をみて、ご子息が泣いてしまって困ってらっしゃる、とのこと。うーーん、たしかにそれはありますよね・・・。しかし、子供がそんなカワイイ時期はあっという間に過ぎ去っていきますよ。>澤村先生)

さて、もうすでにあちこちのブログで話題になっております「内部統制報告制度に関するQ&A」(金融庁総務企画局)でありますが、みなさんもう中身をお読みになられましたでしょうか?私もgrandeさん と同じ意見ですが、実務的にはけっこう重要ではないか(参考になるのではないか)と思います。ちなみに、私の場合、まず20問の質問を読んで、約1時間かけて回答を考えてみて、それから金融庁の答えを読んでみましたところ、20問中18問が理由、回答ともほぼ正解でしたが、2問は不正解でありました。(私の不正解は問9と問15です。)正解と申しましても、単に金融庁が正解と考えているところと合致していた・・・ということに過ぎず、内部統制報告制度の趣旨実現のための最良の回答かどうかはわからないですよね。それに、これらの質問のうちの4分の1くらいは、当ブログでもこれまで議論された問題ですよね。。(^^;

内部統制報告制度の運用についての金融庁の考え方(とりわけ経営者の有効性評価の方法に関するもの)について、このQ&Aを読んでの私の感想は以下のとおりであります。

まず全体を通していえることは、金融庁の運用指針として①トップダウン方式のリスクアプローチが基本であること②経営者による恣意的運用を回避するための仕組み作りが重要であること③プロセスの有効性評価が複雑で、経営者も監査人も業務が煩雑となることを避けるために、統制環境やモニタリングへの信頼性評価で代替すること④内部統制報告制度が経営活動の支障になるような事態を絶対に正当化しないこと、この4つが有効性評価のための基本となるものと思います。なぜなら、不正会計防止、誤謬、虚偽表示リスクの低減、費用対効果といった本来の内部統制報告制度導入における基本的な制度趣旨からみて、具体的な問題に金融庁の理念を落とし込むためには、上記4つのいずれかの基準をすくなくとも一つ以上はクリアすることが必要だからであります。(なお、「有効性の評価」という用語を使っておりますが、これが適正な用語かどうかはわかりませんが、不備と認められない・・・といった程度にお考えいただければ結構かと思います)

このQ&Aに沿って、もうすこし具体的に考えてみますと、たとえば上記②(経営者による恣意的運用を回避するための仕組み作りが重要)というのは、いろんな設問のなかに出てきます。「財務諸表監査における金額的重要性との関連をふまえつつ」(問2)、「必要に応じて監査人と協議しながら」(問1、2、4)、「サンプリングの手法を用いて」(問10)、「前年度の運用および四半期決算業務を参考として」(問11)、「モニタリングの一部を社外の専門家を利用して実施する」(問20)などなど、いずれもいわゆる「内部統制の限界」をできるだけ狭めて、経営者による内部統制報告制度の恣意的運用の機会を限定的なものにしようとするための運用方針でありますので、これらは非常に重要だと思われます。自社の内部統制システムの整備運用にあたり、実施基準との適合性を検討する場合に迷いが生じるケースがあると思いますが、こういった「経営者恣意を排除しうるような『モノサシ』が用意されているかどうか」をきちんと理解しておく必要があると思われます。

また、③でありますが、経営者が適正にリスク評価をしているか、そのリスク回避のための有効な回避方法を選択しているかどうか、といったあたりは経営者も監査人も十分検討すべきところでありますが、その回避方法が正確に運用されているかどうか・・・といったあたりは、経営者はモニタリングシステム(内部監査人)を信頼することで代替することになりましょうし、また監査人は統制環境や、内部監査人の能力などへの信頼で代替することになろうかと思います。(このあたりが、思いのほか監査費用が増加するのを防止しながらも、経営トップから現場社員まで、統制活動が全社的に行き届いていることの全体的評価を重視することで、制度への信頼性を高める工夫がみられます)この②や③あたりの基本的な考え方は、今後の内部統制報告実務において、現場での担当者と監査人との意見の食い違い等が発生した場合の「共通言語」的なものとして活用されることを期待しております。

一般的な評価範囲の決定方法や、全社的内部統制の評価すべき事業拠点の選択、重要な欠陥の判断基準など、実施基準の例示と個々の企業の有する個別事情との乖離から生じる問題点に悩むケースもあろうかとは思われますが、このQ&Aを読むことで、けっこうホッとされた担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。ただ、重要だと思われるのは、評価範囲の決定方法にせよ、事業拠点の選択にせよ、その決定や選択が、個々の企業におけるリスク評価と、そのリスクへの対応方法の選択との間で、十分に合理性があることが前提となるわけでありまして、これはまさに社長を含んだ経営陣による全社的な(会計上の虚偽表示に関する)リスク評価と、そのリスクへの対応(つまり、統制上の要点の識別)が十分に説得的であることが条件だと思います。そこに経営者が関与していなければ、(企業のリスクを最も上手に洗い出すことができるのは社長さんだと思いますので)評価範囲の決定方法についても、事業拠点の選択についても、監査人による(経営者の)評価手続きへの検証において疑問符がついてしまうのではないでしょうか。

個別の設問をみておりますと、どれもコメントしたくてウズウズしてくるようなものばかりでありますが(最近当ブログで話題になっております「内部監査人の位置づけ」につきましても、問19あたりで出てきますね)、最後の問20などは結構、おもしろいですよね。「中小規模の企業」って、いったいどれくらいの規模の上場企業までを含むのでしょうかね?「事業規模が小規模で、比較的簡素な組織構造を有している企業」と実施基準にはありますが、この説明だけでは曖昧ですし、このあたりの基準も例示としてQ&Aの中で示してほしかったと思います。このあたりは以前、紹介させていただいた「簡易版COSOガイドライン」などがとても参考になりますし、この設問の回答に近い内容の解説も書かれております。ともかく、経営者の目が会社の隅々まで行き届く程度の規模の場合には、管理部門の人数も少ないでしょうし、人材不足をどうやって補っていくべきか・・・ということが問題になろかと思われますが、部門間モニタリングや、モニタリング機能を外注することで補えるということですから、ずいぶんと一般に言われている内部統制システムの構築内容とは異にします。私が現在、支援業務を担当しているIPO企業などは、こういった内部統制システムの構築運用を導入しております。(中小規模の場合ですと、企業会計不正と、それ以外の業務上の不正を区別してシステムを作ることも困難でしょうから、たとえば会計不正についても、内部通報制度等によって、社外窓口を設けて、経営者不正をモニタリングする・・・ということも考えられます)IPO企業の場合、最初のリスク評価と、その対応方法の検討のところから、社長さんをかならず引っ張り出してきて、役員会で決定しておりますので、その後の構築はかなりスムーズに進むことが多いですね。(ただし、経理や内部監査のできる人材不足、というのが最大の問題ではありますが・・・・)(ということで、つづく)

(追記)grandeさんのブログで、個別設問に関するコメント等、新しくアップされていらっしゃいますので、参考にされてはいかがでしょうか。

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2007年10月 2日 (火)

証券会社の自己売買と価格安定操作

さて、昨日に引き続き、もうひとつ金融商品取引法の話題でありますが、先週金曜日の新聞等ですこしだけ報道されておりました丸八証券社の株価操縦(価格維持)に関する話題 であります。かなりマニアックな話題になってしまいますが、証券会社による不当な株価維持について、証券取引等監視委員会が処分勧告を行うことはきわめて異例のことのようであります。(監視委員会の処分勧告に関するリリースはこちら)この処分勧告を受けての丸八証券社のリリースによりますと、事実調査とともに、今後の再発防止策を含めた対応を4名の弁護士委員からなる第三者調査委員会に委ねたとのことでして、金融庁の処分だけでなく、丸八証券社の今後の対応についても注目してみたいところです。(ちなみに、この丸八証券社の場合、過去にも二度ほど行政処分を受けたことがあるようですね)

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株価操作(価格維持操作)の対象とされていた名古屋証券取引所二部上場のケイエス冷凍食品社の株式公開時の価格変動をみますと、問題の期間中(2006年4月中旬から5月下旬にかけて)の取引があまりにも不自然なのが一目でわかります。顧客より、33,200株の買付け注文を受託して執行していた、ということでありますが、実際の当該期間中の売買出来高と比べても異常に大きい数値ですので、その外観だけをみれば証券会社主導による「見せ玉」にも近いもののようにも感じられます。(もちろん、公表された情報だけからは、断定的な言い方はできないと思われますので念のため)

ところで、今回の丸八証券社の場合、IPO企業の引受主幹事を務めた経験が浅かったのではないかと思われますが、おそらく引受主幹事業務で成功をおさめて、地元企業における丸八証券社の信頼を確保したいといった「実績作り」に執着してしまったのでしょうね。公募価格を上回る時価相場を維持するために、100名以上の顧客からの買付けをとって価格を維持していた、とのことですから、おそらく検査によって容易に発覚したものと思われますが、引受主幹事に慣れている証券会社であれば証券会社としての資力も豊富でしょうから、もし同様の事態であれば自己売買によって買い支える・・・といったことも考えられるところではないでしょうか。(おそらく丸八証券社の場合、自己売買で支える、といったところまでの資金力がなかったのかもしれません)ただ自己売買による株価操縦の場合、その不当な目的をもって売買したことを立証することがかなり困難な場合が多いので、なかなか立件することが容易ではないと思います。しかしながら、証券会社による相場操縦目的の自己売買行為も、証券取引法(金融商品取引法)159条2項、同3項に違反するケースもありますし、証券会社による自己の計算による見せ玉行為につきましても、市場の公正性に疑問があるものとされておりましたので、今回の件は金商法の施行とともに(金商法51条に基づく改善措置命令や、課徴金制度を有効に利用しながら)証券会社によるルール違反にも厳格に対応していこう、といった監視委員会のメッセージではないかと考えております。具体的には株価操作を疑わせるような取引の存在を監視したうえで、証券会社における自己売買の公正性が疑われないような社内における管理体制システムの強化を求める、といったところではないかと思います。また、「見せ玉」につきましては、金融商品取引法によって課徴金の対象となりましたし、証券会社による自己計算に基づく見せ玉等の売買行為の申し込み自体につきましても、相場操縦行為として刑事罰、課徴金の対象となりましたので、課徴金賦課を前提とした広範な調査も可能になろうかと思われます。

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2007年10月 1日 (月)

金融商品取引法と買収防衛策の関係

いよいよ10月となり、金融商品取引法もほぼ全面施行(正確には9月30日より)となりましたが、当ブログでも、若干ではありますが金融商品取引法に関連した話題について考察してみたいと思っております。といいましても、私の素人的発想からの「会社法と金融商品取引法にまたがる論点」に関する話題でありますので、また気楽に読み流していただければ結構かと存じます。

当ブログでは、過去に何度か「買収防衛策に関する素朴な疑問」シリーズをアップしてまいりましたが、今回もその延長上でのお話であります。ブルドック最高裁決定を契機として、法曹界(企業法務実務の世界)では今後の事前警告型買収防衛策のあり方について、盛んに検討会が開催されているようでして、ひさびさにコメントを頂戴しました「とーりすがり」さんのご指摘も、私なりに正論ではないかと考えております。つまり、事前警告型買収防衛策の導入発動の場面においては、今後は(とりわけ発動の場面では)株主総会による承認手続きがなければ、裁判所は認めてくれないのではないか(適法とは判断しないのではないか)・・・との考え方もある一方で、そもそも株主としては、TOB手続きのなかで成否を決することができればいいわけですから、なぜ株主総会で承認手続きを得る必要があるのだろうか・・・との疑問であります。なお、この疑問につきまして、ひとつの回答としては、田中亘成蹊大学准教授が「ブルドックソース最高裁決定の法的検討(下)」(商事法務9月15日号)のなかで、「強圧的な二段階TOBの可能性がある場合」には、一般株主への萎縮的効果を緩和するためには(発動の是非を問う株主総会を開催することも)意味があるのではないか・・・と説明されていらっしゃるところであります。(つまり、買収希望者の意向に賛同しているわけではないが、ひょとしてTOBに応募しないていると、思いがけずに少数株主となってしまって、その後著しく不当な価格で排除されてしまうのではないか・・・と不安に思う株主にとっては、この総会決議の帰趨によって事後の対応を予測することが可能となる、というところでしょうか。)

私も、このブログで以前から述べておりますとおり、とーりすがりさんと同じ疑問を抱いているひとりでありますが、ちょっと素人考えの域を出ておらずに恐縮なのですが、はたして裁判所は、こういった金融商品取引法の法制度の現状を「所与の前提」として、買収防衛策の適法性の要件に関する解釈に用いていいものなのだろうか・・・といったところの疑問であります。つまり、発動場面に総会決議を要するとみる側も、不要だとする側も、TOBの制度があるから、とか、強圧的TOBの可能性があるからとか、そういった金融商品取引法上のルールを持ち出すことは、裁判所に対して説得的な理由たりうるのだろうか、といったあたりの疑問であります。買収防衛策の是非を裁判所が論じる場合、そこには機関における権限分配論とか、株主平等の原則とか、株式の自由譲渡性の制限など、会社法の解釈問題として判断されることは当然だと思いますが、そこに(政省令を含めて、頻繁に改正される)金融商品取引法制の解釈問題は出てきていいのだろうか、といったあたり、これまでそんなに議論されてこなかったのではないでしょうか。もちろん、買収防衛が問題となる場面、つまり買収者の相対取引の効力とか、対象会社側の株式割当て行為の効力など、個別の取引行為の効力が問題となるような場面では「行為規範としての金融商品取引法違反の相対取引や割当て行為の民事上の効果に及ぼす影響」といった問題は出てきますが、それはそういった取引行為などが独占禁止法に抵触するかどうか、といった問題と同様のレベルでありまして、防衛策の発動要件の解釈にあたり、金融商品取引法制のあり方が影響を与えるか、といった問題とは明らかに区別されるはずであります。

私の疑問は普通に考えましたら、かなりナンセンスかもしれません。そもそも上場会社の株式でなければ、買収者は企業価値の把握は困難ですし、また買収に要するコストの把握も困難でありますので、上場会社以外の大規模敵対的買収はありえないようにも思えますし、だからこそ上場企業以外には、買収防衛策の導入を検討するようなリスクはありえないのかもしれません。しかしながら、ご承知のとおり、会社法上の「公開会社」=「上場会社」ではありませんよね。市場における株式売買制度を利用していないけれども、種類株式発行会社として、発行株式の一部でも自由な株式譲渡が制限されている会社は、会社法上の「公開会社」として、当然のこととして存在するわけであります。したがいまして、裁判所としましては、上場されてはいないけれども、「会社法上の公開会社」として、株式が自由に譲渡できるような会社にも妥当する買収防衛策の是非に関する判断基準を想定しなければならないのではないでしょうか。いや、そこまでの必要性はないとしましても、買収防衛策の適法性要件を裁判所が検討する場合には、「金商法がこうなっているから」といった判断理由を書くことについては、かなり消極的になるのではないか・・・とも思われますが、いかがでしょうか。これが会社法上の公開会社=金融商品取引法適用会社であったり、「公開会社法」といった特別の会社法制が誕生すれば、金商法の制度がこうなっているから・・・といった理屈も堂々と判断理由にできるのでありますが、どうもそのあたりが私にはすっきりと整理できていないところであります。

このように考えますと、金商法上のTOBルールがあるからといっても、それだけでは裁判所が定立する防衛策の適法性に関する要件にはあまり影響はなく、むしろ最高裁の考え方というのは、金融商品取引法の制度はどうあろうと、(少なくとも、無償割当てによる事前警告型の買収防衛策の発動にあたっては)株主総会の承認手続きを必要とする方向性にあるのかな、と最近は考えたりしております。さらに言えば、今回は、たまたま「買収防衛策そのもの」の適法性要件との関係で、ブルドック最高裁決定が検証されておりますが、本当に買収防衛策と司法判断との関係を検討するためには、どういった争い方をすれば金商法マターで争点を形成することができるのか、独禁法マターで争点を形成することができるのか、などかなり広い視点を持つことが必要のように思います。

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