食品表示偽装と内部統制システムの整備
(30日お昼 追記あり)
昨日はニフティのトップページでも当ブログを紹介していただきましたので、7500アクセス(PV)を超える新記録となりました。(どうもありがとうございますm(_ _)m )ただ、当ブログはアフィリエイトもございませんし、ブログランキングにも参加していない、普通のマニアックな法務ブログでありますので、また平常どおりのアクセス数に戻るような話題で参りたいと思っております。
さて、いつも内部統制の最新情報を発信しておられる丸山満彦先生のブログで「食品表示偽装と内部統制」に関するエントリーがアップされておりまして、たいへん参考になります。なるほど、米国のCOSOではなくカナダのCoCo基準※では、内部統制の重要な目的のひとつとして「財務報告の信頼性」ではなく「情報の信頼性確保」が掲げられているのですね。(私は存じ上げませんでした)食品の消費期限に関する表示につきましても、これを企業が消費者に向けて発信する情報だと捉えますと、その表示の信頼性を確保することも内部統制システムの整備運用に関する問題と言えそうであります。最近の企業不正事例からしますと、財務報告の信頼性確保というよりも、もっと広く企業の発信する情報の信頼性確保のための内部統制・・・と捉えたほうがイメージが連想しやすいですし、会社法上の内部統制との親和性も高いのではないでしょうか。投資家が安心して市場に参加するための企業情報、消費者が安心して商品を選択できるための商品情報(製品情報)、改正会社法が積み残した問題とされている企業結合に関する情報など、どれをとりましても「何を開示するか」といった開示内容(実体)に関する統制と、「どうやって開示するか」といった開示手続きに関する統制は、企業情報の虚偽表示リスクを低減するためには欠かせないシステムだと考えております。そうは申しましても、とりあえず、J-SOX(財務報告に係る内部統制報告制度)は待ったなしの状態になっておりますので、財務報告に係る内部統制の整備運用については各企業におかれましては監査法人さんと協議のうえで尽力されることとして、J-SOXを超えた開示統制問題につきましても、コンプライアンスの視点から検討していただきたいところであります。
※CoCo基準 カナダ勅許会計士協会の統制規準委員会(Criteria of Control Committee of the Canadian Institute of Chartered Accountants)が発表した「CoCo-統制モデル」(1995年)
ところで、昨日の船場吉兆の商品表示偽装問題でありますが、創業者一族の方々がそれぞれ(福岡と大阪で)謝罪会見を行い、商品販売を委託していた百貨店の社長も謝罪されておりまして、かなり対応は評価すべきものだと追記をしておりましたが、どうも私のなかでは、追加報道された内容からみましても、その謝罪会見における偽装に関する原因事実について未だ疑問を抱いているところであります。会社側の説明では、消費期限偽装が行われた天神フードパークに勤務していたアルバイト社員たちが、一存でラベルの取替えを行っていた、とのことのようでありまして、社員たる店長ですら表示の改ざんは知らなかった、とのことであります。しかし、本当にアルバイト社員の方々だけでそのような表示偽装が実行されるものでしょうか?アルバイトという立場にもかかわらず、商品在庫をできるだけ抱えないように・・・といった本部からの意向がプレッシャーとなっていたことのようでありますが、はたして消費期限切れ商品へ2000回以上も偽装表示を繰り返すインセンティブはアルバイト社員のどこにあるのでしょうか?普通はありえないはずですよね。このあたり、まだマスコミからのツッコミの要因となるような疑問点が解消されていないように思えますが、皆様いかがでしょうか。
(追記)上記疑問に関連する記事が朝日新聞ニュースに掲載されているようです。販売責任者のアルバイトの方が、天神フードパーク店のすべてを任されていたようですが、ただこういった販売体制のなかで商品一個一個の管理まで要求することは果たして可能なのでしょうか。内部統制の構築は現場のプロセスに実現困難な作業まで要求するべきではありませんし、それで販売体制における法令違背を厳守できないのであれば抜本的な販売体制の見直し(これは赤福問題でも議論されるところですが)が必要になってくるはずです。
私の住む堺の町には、千利休の時代から何代にもわたって和菓子を作り続けている老舗が何軒かありますが、「売り切れゴメン」体制でして、ひどいときにはお昼すぎにお店に行っても「もう売り切れました」。「あいかわらず時代遅れの大名商売やね・・・」と皮肉を言って帰ってくるときもあります。お客様に迷惑をかけないように、在庫や配送に気を遣うのか、お客様に評判が悪くても消費期限を守り、在庫は残さない体制を守るのか、基本的には二者択一の世界なんでしょうか、それともその調和点をどこかで見出すことはできるのでしょうか。赤福餅の販売休止をうけて、追い風が吹いたかにみえた伊勢の「御福餅」さんにもJAS法違反と食品衛生法違反の疑いで調査が入った、との報道に触れますと、本当にどこも組織的な関与がなかったとはいえないような気がしてまいりました。そのうち、健康被害が認められなかった食品衛生法違反、JAS法違反に関するマスコミや国民の関心が薄れていき、報道する価値も薄れ、そのころになって我も我もと自主申告が始まるような時代が到来するのかもしれませんし、そのような時期をすでに待っている企業もあるかもしれませんね。
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コメント
コンピュータ屋です。
おはようございます。
「最近の企業不正事例からしますと、財務報告の信頼性確保というよりも、もっと広く企業の発信する情報の信頼性確保のための内部統制・・・と捉えたほうがイメージが連想しやすいですし、会社法上の内部統制との親和性も高いのではないでしょうか。」、おっしゃるとおりと思います。
私の言葉で「統合的内部統制システム」と言って、
・会社法の5つのテーマ
・COSOの3つの目的
これらを包含したもので、回すことができないかと考えています。
制度対応も間近なこともあり、あまり関心を持ってもらえないのが残念です。
ただ、制度対応もだんだんショボクなってきているように感じます。
目先だけにとらわれずに、もう少し先の統合的な内部統制について意識すれば、今の対応の価値も見いだせるではないでしょうか。
コンプライアンスをこれからの内部統制システムでどのように確保すべきか、ご教授よろしくお願いします。
投稿: コンピュータ屋 | 2007年10月30日 (火) 08時04分
テレビ朝日、毎日新聞等の報道によりますと、
そもそも消費期限のラベルは委託製造業者ではなく、「船場吉兆」側が
貼る事になっていたようで(製造業者の証言として「世界の吉兆さん
だから信用していた(但しそういう有文の契約は結んでいない)」)。
このこと自体が(法的問題は分かりませんが)、
非常に問題ではないでしょうか?
どうやらこの業界ではよくあることのようですけどね
(憶測でスミマセン)。
しかし、吉兆がここまで分社化(暖簾分け)していたとは
知りませんでした。本家や他の分家はさぞや憤激してることでしょうが。
投稿: 機野 | 2007年10月30日 (火) 09時13分
はじめまして、niftyのデイリーランキングからこちらのブログを知りました。私は関西の専業主婦ですので、法律的なことはわかりませんが、販売責任者のアルバイトの方は、自分で発注した商品が売れ残るのが嫌で、このような改ざんを行っていた、と今朝の新聞に出ていました。アルバイトといっても、いろいろありますから、この販売責任者の方はおそらく現場では相当信頼されていた方ではないかと思います。でも社員が知らないうちに40日間も消費期限を書き換えたものが店頭に並んでいるというのは気持ち悪いです。
私のような一般の主婦からすると、高級料亭の吉兆さんが、わざと凡人に対しては「この程度のものでいいだろう」といった安易な考え方で商品を売っていたとしか思えません。
ダラダラと駄文失礼しました。
投稿: shoco | 2007年10月30日 (火) 10時17分
のらねこです。
新たな食品の虚偽表示が発生しています。
企業の発表内容と異なる事態が次々に発生すると、聞き手は相手が嘘を言っていると解釈します。
最近読んだ「NYPDNo.1 ネゴシエーター 最強の交渉術」には、交渉の基本原則は①うそをつかない、②約束をしたら必ず守る、③尋ねない限り、答えは出てこない、です。
交渉に限らず、企業の発表の基本はうそをつかないことです。
うそをつく会社はコンプライアンスが守れていないということで、マスコミからさらに攻撃を受けます。
ダメージがひどいと最悪の場合は、企業自体が存続できなくなります。
内部告発がことの発端ならば、うその発表はバレル確立は高くなります。
告発者が企業の隠しているうそを指摘するからです。
投稿: のらねこ | 2007年10月30日 (火) 22時14分
皆様、コメントありがとうございます。
のらねこさんの言うとおりですね。
本日の船場吉兆の新たな疑惑報道を読むかぎり、私の認識が甘かったようで、組織ぐるみ・・・といった線も現実化してくるかもしれません。しかし、お惣菜屋さんで売っていた商品の残りを、岩田屋7階の吉兆天神店で出している・・というのは(もし毎日ニュースが本当だとすると)、信じられないですね。もしそうだとすると、とても高いお金を払って食べにいこうとは思わないでしょう。鮮度の問題ではなくて、食べている人の気持ちとして、いったん惣菜として商品化したものですからね。shocoさんが厳しい意見を書いていらっしゃる気持ちもわかるような気がしてきましたです。
なんだか「偽装表示ブーム」になってきました。
投稿: toshi | 2007年10月31日 (水) 01時33分