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2007年10月23日 (火)

赤福から考える平時と有事のリスク管理

(23日午後 追記あります)

投資信託協会が公表された平成19年株主総会議決権行使アンケートの内容や、昨日の三宅伸吾さんの新刊への感想のつづきなど、エントリーしたいことはあるのですが、これだけ赤福関連のコメントをいただいておりますので、もう少しだけ続きを書かせていただきます。(このたびは、たくさんのご意見ありがとうございました。それにしても、上記アンケートの結果につきまして、投信委託業者が監査役選任に対して多くの反対票を投じている結果は意外です。原因についてはまた別の機会に分析してみたいと思っております)

株式会社赤福の代表者である濱田氏は慶應義塾大学商学部を卒業後に、2年ほど大手百貨店に勤務した後、赤福に戻っておられますので、もうかれこれ20年ほど、赤福の経営に参画しておられるようです。おそらく赤福入社の頃は、いくら先代社長の御曹司(ご長男)といいましても、20代の若造ですから、現場での経験などは、おそらく積んでおられると思います。したがいまして、もし問題となっております「まき直し」「むきあん」「むきもち」が30数年前から現場で恒常化していたものであるならば、おそらく現社長の濱田氏は当時から社内の慣行については知っていたのではないか・・・とも考えられそうであります。ところで、今回の赤福社の不祥事の特徴といいますのは、この30数年前から・・・という非常に長期間にわたって繰り返されていたことなんでしょうね。こんなに長い期間となりますと、「なぜこういった消費者を騙すようなことをしたのか?」と問うことすら、なんだか空しい気もいたします。いまから30年も前ということになりますと、「食の安全、安心」ということが今とは比較にならないほどに軽んじられて当然だった時代だと思いますし、ひょっとしたら「どこでもやっていること」ぐらいに当たり前のことだったのかもしれません。消費者を騙す・・・といった感覚も、今の時代だからこそ言えるのであって、当時はまったく騙すような感覚すら覚えておられないのかもしれません。実際のところ「もったいない」程度の動機によって繰り返されてきたんじゃないかと思います。したがいまして、この赤福問題を論じるにあたりましては、「なぜまき直しをしたのか」と問うことはあまり意味がないようで、「なぜ不二家事件の直後まで続けてきたのか」という点こそ問題にすべきだと思われます。

一連の報道のなかで象徴的だと思いますのは、2004年に大阪市に対して匿名通報があり、通常検査ではありますが、大阪市による調査があった、という記事であります。2004年といえば、愛知万博とセントレアブームに沸くなかで、赤福が100億円を越える空前の売上を伸ばす直前期であります。まさに売上拡張が最大の目標だった時期であったわけでして、もしこの大阪工場の調査が赤福にとって平常営業の時期であったとすれば、調査の重みを少しは認識できたのではないでしょうか。これは単なる結果論にすぎませんが、もしこの2004年の時期において、平時のリスク管理手法(内部統制システム)として、赤福社にヘルプライン(内部通報制度)が整備されていたとしたら、外部への匿名通報というものではなく、社内への通報によって「社内処理で済んだ」可能性はありそうです。(報道によりますと、この匿名通報は、通報者が特定されることを非常におそれていた、とのことでありますから、社員だった可能性は高いもののように推測いたします)平時のリスク管理としましては、このあたりが最大のポイントだったのではないかと考えております。いまから3年前のことですし、社内の常識と社外の常識とにズレがあり、そのズレは大きな損害をもたらす可能性があることは十分認識できたのではないかと思われます。なお、平成5年以降は、現社長は伊勢市の町おこし事業のリーダーになっておりまして、ここ数年は三重県の活性化を目的とした株式会社スコルチャ三重の代表取締役にも就任されておられたようですので、もし入社から5年ほどの間、現社長が現場での経験を積んでいらっしゃらないとすれば、本当に「裸の王様」だったのかもしれません。そのあたりは、もうすこし事実がはっきりしませんと、なんとも確実なことはいえないのでありますが・・・

さて、きょうあたりの報道からしますと、現場幹部が従業員に対して「何も言うな」と指示していたり、調査の直前に関係書類を廃棄処分していた事実が判明しておりますし、次第に赤福創業者一族が、こういった食品衛生法違反行為に関与しているのではないか、と疑わせる事実が増えてきております。まさに経営問題に発展してきていることは間違いないところであります。これは有事の対応策として、でありますが、もはや赤福創業者一族に残された道はただひとつ、事実関係の調査を外部第三者委員会に委託することではないかと思います。もしこういった独立性の高い委員会に事実調査を委ねないままですと、報道されている事実はますます創業者一族にとって「真実なもの」として世間一般からは評価されるだけであります。ここで起死回生に転じることができるとすれば、責任問題や事実調査を含めて第三者に委ね、自らは一日も早く営業禁止処分が解除されるよう、安全衛生面での対策に衷心すべきだと思います。

(23日午後 追記)機野さんのコメントへのお返事を書きながら、ふと思いついたのですが、明確な被害者が出ない状況でも、「消費者への詐欺行為である」とマスコミが大きく報道するようになったのはいつごろからなんでしょうか?

私の推論では、1955年に雪印食品の食中毒事件(脱脂粉乳事件、東京の小学生1936名が食中毒となったとされる)が発生したにもかかわらず、ご承知のとおり2000年6月にふたたび同社において食中毒事件を起こし、3700名を越える被害者を出した事件の直後あたりからではないかと思いますが、いかがでしょうか。このとき、なぜ45年前に「二度と過ちを繰り返さない」と誓ったスノーブランドが、ふたたび甚大な事件を起こしたのか・・・・ということが大きな話題となり、「予防的見地からの食の安全」がきわめて大きな問題であることが認識されだしたのではないかと思います。JAS法関連はまた、制度趣旨が異なりますので、別の見方もあるかとは思いますが、その後のいわゆる「偽装事件」が2001年から2002年ころに集中しているところをみますと、やはりこの2000年の事件が転機になっているのではないでしょうか。もし、また別の意見がございましたらご教示ください。(このあたりは、企業コンプライアンス的な発想における検証といった観点から、とても重要なところだと思います)

10月 23, 2007 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

いや、お言葉ですが、
赤福社は「その日に製造したものを販売する」というのを
ウリにしていました。
マスコミが勝手に言い始めた、或いは昔はそうだったということをその
まま伝えていただけのかもしれませんが、赤福側も少なくともそれを否定
してこなかったわけです。それどころか(確認してませんが)赤福自身
それを宣伝文句にして長年PRしてきたと思うのです。

でも実際は違っていた…

これは顧客への詐欺行為ではないでしょうか。

このことこそが私は最大の問題のような気がします。

                               .

>消費者を騙す・・・といった感覚も、今の時代だからこそ言えるので
>あって、当時はまったく騙すような感覚すら覚えておられないのかも
>しれません。

どこの製造会社でも同じだろう(同じだった)、ということで
済まされては、法規制があろうがなかろうが顧客に真摯に対応してきた
多くの真面目な企業は浮かばれません。
「まき直し」とやらを始めたとき、おそらく大量生産大量販売を始めた時
彼らは少なくとも「その日に豆から製造したものだけを販売してます」
という看板を外さねばならなかったのです。
「豆から作ってるなんて言ってませんよー」などというそういう抗弁を
一切聞くつもりはありません。

赤福は小説やTVドラマにさえその歴史が描かれているこの国を代表的
する和菓子屋さんです。代々の伝統の重みを意識していれば「感覚が
ない」などということはありませんでした。

味が悪くなるから、品質が低下する恐れがあるから大量生産をしない、
支店を出さない…という老舗は現にたくさんあります。
大量生産を否定するわけではもちろんありませんが、
中小企業にとってはこれこそが「真のコンプライアンス」のありかた
だったのではないでしょうか。

投稿: 機野 | 2007年10月23日 (火) 10時36分

あ、あと(すみません(笑))
NOVAの問題も取り上げていただきたいのです。
関係者の多さ、社会的影響、被害という意味では赤福問題よりも
こちらのほうがずっと深刻であると思いますので。
マスコミで伝えられている限りに於いては
雇用問題、事業維持等経営者らの説明、広報がほとんどされてないよう
ですね。

投稿: 機野 | 2007年10月23日 (火) 12時01分

 今回の赤福の問題は、コンプライアンスと危機管理の、
双方の反面教師としてフルコースに近くなってきましたね。
こうしますと、世間も「まだ何かあるのでは。」と思う
でしょうし、マスコミもキャンペーンを継続することが
容易になるので、山口先生のおっしゃるとおり、第三者
委員会のようなインパクトある施策が必要なのでしょうね。

 ところで、本店の被毛氈の上で食べる赤福が特別おいし
かったのは、雰囲気以外にも品質の違いもあったような
気がしてならないのは私だけでしょうか。

投稿: Kazu | 2007年10月23日 (火) 14時11分

現在閉鎖されております赤福のHPには、たしかに消費期限に関するQ&Aが掲載されておりまして、機野さんが指摘されるように、(ふつうに読むと)製造した日の翌日が消費期限である(夏季の場合)とされております。そのことからして、消費者を欺く行為であると言われても仕方ないのかもしれません。ただ、その違法性に関する意識というものは、いまと30年前とでは、一般の認識においてもかなり変わってきていると思います。もし道義的非難を加えるとするならば、一般の認識が変わり、消費者への詐欺行為は「会社にとって重大なことだからやめるべきである」といつ認識できたのか、どこで止めることができたのか、その場合、過去の過ちを葬り去るのか、それとも公表するのか、そういったあたりを企業経営陣において決断する必要があったはずだと思います。そのあたりが今回のエントリーの趣旨でした。
昔から認識はあったかもしれませんが、食中毒の被害が出ていない場合において、「消費者をだました」として新聞が騒ぐようになったのは、最近のことではないでしょうか。もし理解不足がありましたら、またご指摘ください。

NOVAの件については、当ブログではエントリーしておりませんね。最近のNOVAの新株予約権発行に関しては関心がありますので注目しているのですが。裁判も始まったようですので、ちょっとエントリーしにくいですね。。。(^^;

投稿: toshi | 2007年10月23日 (火) 14時20分

kazuさん、コメント入力時間がかぶってしまったようです。

お土産品製造販売会社としての危機管理の問題ですよね。観光地の記念として自分で食べる分はいいのですが、他人様へ贈答するためのお菓子ですよね。これって、買った人のセンスが問われるわけじゃないですか。そう思うと、普通以上に「製品や会社」のブランドが問われるわけですから、そのあたりをどう赤福社は認識されていたのだろうか・・・と。こういったことが社会問題化するという認識がなかったのか、それとも認識はあったけれども、発覚する可能性がないと認識していたのか、それとも単純に代表者の現場を知らなかった(いわゆる内部統制の欠如)のか、そのあたりが今後とても知りたいところであります。ぜひ、マスコミにも、そのあたりまで突っ込んだ分析を期待しております。

投稿: toshi | 2007年10月23日 (火) 14時58分

お菓子の好きな「のらねこ」です。

危機的な状況に陥った時は、事実を語ることが大切であると思います。
赤福に関して、次々に新しい問題が発表されています。
もはや赤福の関係者の発言は信じてもらえないと思います。

先生が指摘されているように、ここは外部の第三者に責任の追及と今後の対処を委ねた方が良いと思います。

賞味期限の設定についても問題があるのではないでしょうか。
賞味期限の設定はある程度の余裕をもって設定されているはずです。
余裕があること自体が、返品などの際に「もったいない」、「まだ使える」などの発想が生まれる土壌になります。

もし、賞味期限が品質保証ギリギリのラインであったら、再利用するにはとてもリスクが高くてできないでしょう。
実際のリミットに余裕がある基準を設定すれば、実質上問題がないとのことで罪の意識は薄くなります。
建前の基準と本音の基準のダブルスタンダードがコンプライアンス欠如のスタートラインになります。

内部統制に付き合いながら、最近こんなことを思っています。

投稿: のらねこ | 2007年10月23日 (火) 22時44分

 もうどうしようもないところまで来てしまったようなので、気楽にコメントを書き込めない気分です。ただ、今は200人(400人との情報もあります)の従業員の方々とそのご家族の”生活”を侵さないようにして欲しいなぁ、と切に願うのみです(この期に及んでは、あのアンコロ餅自体がどうなろうと、それが殆ど唯一の商品である製造販売会社がどうなろうと小さな事に過ぎないように思えます)。

 一つだけ最後に申し上げたいのは(これで最後にします)、本件に関する限り「内部統制」の議論を持ち出しても余り意味はないんじゃないかなぁということです。このサイズの会社に「内部統制」なんて不要(無用の長物)ではないかと思うからです(トップが全部見渡せる筈のサイズの会社です)。そのトップが確信犯”的”に行ってきたことである可能性が高いと思われるからです(ここでいうトップとは、必ずしも現社長を意味しません)。

 したがって、最近はやりの「独立第三者調査委員会」も不要でしょうね。トップが全部判っている筈だからです。もし第三者の登場が必要だとしたら、そのトップに進言できる(そして、トップも素直にそれを受け入れられる)立場の人でしょうね。そしてその人には、必ずしも「独立性」などは不要でしょう。(ネット上のインタビュー記事のいくつかによると、関西系電器メーカー某社の創業者が適任のようですが、残念ながら物故者です。)

 最近はやりのフレームワークで本件を「斬る」ことは少し無理があるんじゃないかと思いますし、本件をごくごく初歩的な家庭教育(「嘘をついてはいけない」)の題材にすることに意味はあっても、一般企業の不祥事防止の教訓にはなかなかしにくいと思います。

投稿: 監査役サポーター | 2007年10月24日 (水) 00時48分

toshi先生の予想どおり、弁護士を委員長とした独立第三者委員会が立ち上がりましたね。
やはり行政調査終了後のタイミングと人選で若干時間を必要とした、というところでしょうか。

投稿: unknown | 2007年11月 8日 (木) 16時13分

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