証券会社の自己売買と価格安定操作
さて、昨日に引き続き、もうひとつ金融商品取引法の話題でありますが、先週金曜日の新聞等ですこしだけ報道されておりました丸八証券社の株価操縦(価格維持)に関する話題 であります。かなりマニアックな話題になってしまいますが、証券会社による不当な株価維持について、証券取引等監視委員会が処分勧告を行うことはきわめて異例のことのようであります。(監視委員会の処分勧告に関するリリースはこちら)この処分勧告を受けての丸八証券社のリリースによりますと、事実調査とともに、今後の再発防止策を含めた対応を4名の弁護士委員からなる第三者調査委員会に委ねたとのことでして、金融庁の処分だけでなく、丸八証券社の今後の対応についても注目してみたいところです。(ちなみに、この丸八証券社の場合、過去にも二度ほど行政処分を受けたことがあるようですね)
株価操作(価格維持操作)の対象とされていた名古屋証券取引所二部上場のケイエス冷凍食品社の株式公開時の価格変動をみますと、問題の期間中(2006年4月中旬から5月下旬にかけて)の取引があまりにも不自然なのが一目でわかります。顧客より、33,200株の買付け注文を受託して執行していた、ということでありますが、実際の当該期間中の売買出来高と比べても異常に大きい数値ですので、その外観だけをみれば証券会社主導による「見せ玉」にも近いもののようにも感じられます。(もちろん、公表された情報だけからは、断定的な言い方はできないと思われますので念のため)
ところで、今回の丸八証券社の場合、IPO企業の引受主幹事を務めた経験が浅かったのではないかと思われますが、おそらく引受主幹事業務で成功をおさめて、地元企業における丸八証券社の信頼を確保したいといった「実績作り」に執着してしまったのでしょうね。公募価格を上回る時価相場を維持するために、100名以上の顧客からの買付けをとって価格を維持していた、とのことですから、おそらく検査によって容易に発覚したものと思われますが、引受主幹事に慣れている証券会社であれば証券会社としての資力も豊富でしょうから、もし同様の事態であれば自己売買によって買い支える・・・といったことも考えられるところではないでしょうか。(おそらく丸八証券社の場合、自己売買で支える、といったところまでの資金力がなかったのかもしれません)ただ自己売買による株価操縦の場合、その不当な目的をもって売買したことを立証することがかなり困難な場合が多いので、なかなか立件することが容易ではないと思います。しかしながら、証券会社による相場操縦目的の自己売買行為も、証券取引法(金融商品取引法)159条2項、同3項に違反するケースもありますし、証券会社による自己の計算による見せ玉行為につきましても、市場の公正性に疑問があるものとされておりましたので、今回の件は金商法の施行とともに(金商法51条に基づく改善措置命令や、課徴金制度を有効に利用しながら)証券会社によるルール違反にも厳格に対応していこう、といった監視委員会のメッセージではないかと考えております。具体的には株価操作を疑わせるような取引の存在を監視したうえで、証券会社における自己売買の公正性が疑われないような社内における管理体制システムの強化を求める、といったところではないかと思います。また、「見せ玉」につきましては、金融商品取引法によって課徴金の対象となりましたし、証券会社による自己計算に基づく見せ玉等の売買行為の申し込み自体につきましても、相場操縦行為として刑事罰、課徴金の対象となりましたので、課徴金賦課を前提とした広範な調査も可能になろうかと思われます。
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