MSワラントに対する株主の理解度
ちょうど1年前の2006年10月11日にMSCBと内部統制の限界論というエントリーをアップいたしましたが、サンテレホン事件やオープンループ事件等、裁判所の「有利条件発行」に関する判決なども出た関係で、少しずつMSCBやMSワラント(MSSOとも言われておりますが、証券取引所の開示に関する要請文書等では「MSワラント」と称されておりますので、ここでも「MSワラント」といいます)の法的論点なども認知されてきたようであります。ただし、ビジネス系ブロガーの方々の間では、もうすでにライブドア・ニッポン放送事件以前から、このオプション理論に基づく金融手法の功罪についてかなり詳細な解説がなされていたようでありますし、コーポレートファイナンスにお詳しい方々には、もはやそれほど新鮮な話題ではないのかもしれません。
ただ、最近オックスHD社よりリリースされております「第三者割当てによる第5回乃至第14回新株予約権発行に関するお知らせ(MSワラントの発行」などを読んでおりますと、ホンマ私には内容が理解できません。大証さんなどでも、今年6月に「MSCB等の発行及び開示並びに第三者割当増資等の開示に関する要請について」(東証さんからも、ほぼ同様のものがリリースされています)と題する発行企業向けの要請文を出しておられますし、その要請文によれば、MSワラント発行に関するリリースの最低1週間前までには大証に事前相談に来られたし・・・とありますので、ずいぶんと一般株主でも仕組みがわかるようなMSCBが発行されるようになるのかなぁ・・・と期待をしていたのでありますが、やっぱり私のような典型的な文系人間には、上記オックスHDさんの新株予約権のオプション価値算定の合理性はよくわからないままであります。そもそも、証券取引所の担当官の方々も、とりあえず事前相談は受けるけれども、とくに仕組みの変更を要請したり、一般株主への注意を促すような公表措置をとることもないようでありますので、当事者以外に、いったいどこまでMSワラントの内容が理解できているのか、よくわからないところであります。ちなみに上記リリースの後、オックスHDの株価はストップ高が連日続き、この火曜日からの値動きにも、また注目が集まるところでありますが、オックスのY板(ヤフー掲示板)でのご議論を垣間見ましても、あまりオプション理論に基づくような検討がなされているような気配はなく、また2ちゃんねるの「死期報」シリーズでも、活発な議論はされていない様子であります。
上場企業におけるMSワラント(転換価格修正条項付新株予約権)の発行問題も、純粋な会社法240条、238条あたりの解釈問題ですし(第三者割当てによる場合は、「特に有利な発行金額」の場合には株主総会による特別決議が必要)、行使価格の合理性については、おそらく開示情報からも、一般株主がその価格の合理性を(その気になれば)理解しうる程度に「やさしい開示」が必要になるのではないか・・・と常々思っておりますが、一向にそんな気配はないようですね。たとえ私が「あぼーん」と言われようとも、せめて私クラスの「ごく一般的な株主のレベル」の人間に、その仕組み程度は発行要領から推認できる程度の説明がなされないとおかしいのではないか?と思うのですが。もちろん、MSCBやMSワラントが、ある意味で企業の資金調達方法としては有意義であることは承知しているつもりですし、新株予約権取引上の税務問題や、資本取引における会計上の取扱がスキームに影響している(本件スキームの複雑さは、むしろこっちのほうと関係しているようにも思えますが)こともある程度は理解しているつもりでありますが、まずはその前提として「これはどんなスキームなのか」把握できませんと、なんとも前に思考が進まないわけでありまして、同じような気持ちでイライラされている方もいらっしゃるのではないでしょうかね。たとえば、先のオックスHDの例でいいますと、二項格子モデルをもって合理的な新株予約権の発行条件を算定されているようでありますが、この算定価格というものは、いったい修正条項がどのように使われることを前提としているのか、それとも修正条項は参考とされていないのか等、算定の基礎となる条件事実がはっきりと説明されていなければ、はたして一般株主によって第三者割当がどの程度の経済的不利益をもたらすものなのか、本当に理解できないと思うのであります。MSワラント発行の仕組みにつきましては、相対取引当事者の細かなリスク管理とも関係するものでしょうから、その仕組み自体が複雑になることは承知しているものの、開示情報のなかでは別紙を使ってわかりやすく解説することは当然の前提ではないかと思ったりしております。
このオックスHDのMSワラントにつきましては、どちらかというと表向きでは発行企業側のほうに若干有利に作られていて、一般株主の株式の希薄化を極力低減するためのスキームとなっているのかもしれませんが、そうであるとしても、もう少しオックスHD社の取締役の方としては、株主への説明責任を尽くすべきではないでしょうかね。このMSCBやMSワラントによる資金調達におきましては、たしかに既存株主への影響度をできるだけ少なくするための対応に配慮されつつあるとはいえ、いまのところ「やったもん勝ち」の世界にあるような気がしてなりません。(どなたか、先のオックスHDのMSワラントにつきまして、包括行使請求と個別行使請求との関係について、わかりやすく解説いただいておりますブログ等ご存知の方、またお教えいただけましたら幸いです)
※なお、本エントリーは管理人自身の「ボヤキ」を綴ったものであります。どうか証券取引にあたっては、すべて自己責任においてなされますよう、お願いいたします。
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コメント
toshi先生、ごぶさたしております。
直接エントリーとは関係しませんが、発行要領などの読み方や、新株予約権のオプションプレミアムの算出等については「種類株式・新株予約権の活用法と会計税務」(中央経済社)がお勧めかと思います。
いろいろと算定方法に関する説はありますが、ブルータス・コンサルティングLLPの方々の著作であり、実務にもっとも近いのではないかと思います。
MSワラントの場合、コミットメントライン契約に近似した融資手法であって、ゴチャゴチャ書いてあるのは一般株主保護のため(外向き)だと認識していますが、どうなんでしょうね。手数料収入は損失に計上されないまま、株主が実質的には負担しているようなものなんでしょうかね。
投稿: sara.onji | 2007年10月 9日 (火) 11時48分
私も、トラックバックを張られたGrandeさんと同じように、ヤバイものを感じます。直ぐに頭に浮かんだのが、モックです。オックスHDの場合のMSCBの割当先は資本金2香港ドルですから、モックより1香港ドル(13円)資本金が大きな会社です。これは比較する方が、悪いでしょうが。
オックスHDも、このMSCBの発行により(株式転換された後ですが)68.64%-81.67%(幅があるのは、MSCBのため、発行株数が調整されるからです。)の株式は、この香港の財昇投資有限公司と2009年7月31日に第三者割当増資を引き受けたエルダ企業再生投資第1号投資事業組合の2者が占めます。このような、開示情報が全くない正体不明の株主2者で2/3以上を占める場合、一般株主は相当注意をせねばと思います。
2006年10月から2007年3月の半期営業キャッシュフローが12億円のマイナスです。(売上高9億円より金額が大きい。)
私は、MSCBの問題より、それ以前の大問題ありというか、大問題があるから、MSCBに走るということを感じます。
本社が東京ですが、ヘラクレスに上場しているのですね。そして、この状態で取引値が付いているのは、何故なのだろうと思ってしまいます。
本来ならば、自分のブログに書くべき様なことをコメント欄に記載して、失礼いたします。
投稿: ある経営コンサルタント | 2007年10月 9日 (火) 14時51分
saraさん、経営コンサルタントさん、コメントありがとうございます。
しかし株取引とは不思議なものですね。ある意味予想はしておりましたが、オックスHD株、連日のストップ高のようです。この後、ガクンとくるのでしょうね。
エントリーする余裕がありませんでしたのでフォローしておりませんが、NOVAの70億新株予約権発行(こちらはMSワラントではありませんが)も、従前のイチイ株(総会無効確認訴訟)とほぼ同様の手法が用いられておりますので、これもいろんな意味で検証すべきものだと思っております。
また経営コンサルタントさんのブログでも勉強させていただきます。
投稿: toshi | 2007年10月11日 (木) 13時42分