「危機管理役員手控帖」
昨日はクライシスマネジメントという視点を若干呈示いたしましたが、企業の危機管理に関する対応を(リーガルリスクという面から)わかりやすく丁寧に解説されている本といえば、私が何度も愛読させていただいているこの一冊であります。私自身、コンプライアンス関連の講演をさせていただく際にも、かならず事前に内容をチェックさせていただいております。法曹向けではなく、一般の企業の役員、法務担当者向けに書かれたものですので、基本的にとても読みやすいものです。
「危機管理・役員手控帖」 (諸石光煕 著 社団法人日本監査役協会)
本書は大江橋法律事務所の弁護士でいらっしゃる諸石先生が2004年10月から2006年10月まで、2年間にわたって「月刊監査役」に連載されていたものに、今年全面的に手直しをされて一冊の本として発刊されたものでして、元々は監査役を対象として連載されたものでありますが、会社役員や法務担当者向けに改訂されておりますので、監査役以外の方にもお勧めです。こういったコンプライアンスを語る書物というのは、具体的な事例をどれだけ連想させるか・・・といったところで勝負が決まるように思うのですが、企業内弁護士としての経歴も長く、また実際に法律が誕生するところ(法制審議会)にも関与されていらっしゃるので、具体的な事例が豊富であり、先生の主張内容がかなり説得的なところが特長であります。
ところで、10月16日に公正取引委員会より、独占禁止法の改正等の基本的な考え方が公表されましたが、このリリースは独占禁止法基本問題懇談会が、今年6月26日に発表しました独占禁止法基本問題懇談会報告書の内容が基本になっております。この懇談会報告書の意見につきましては、独禁法の改正問題だけでなく、金商法上の課徴金制度を改正しようと企図している金融庁の見解にも影響を与えるものとされております。(金融庁の担当者ご自身が、この12月までに公表するガイドラインのなかで、この懇談会報告書の内容を参考にする・・・とのこと)この報告書のなかにおきましても、本著者でいらっしゃる諸石先生(懇談会委員)は、その末尾に詳細な個人意見を述べておられます。最初は経済団体向けのパフォーマンスだろうか・・・などとたいへん失礼な予断で読み進めておりましたが、そうではないようでありまして、競争政策に「法の支配」を貫徹せんとされる先生のよどみなき見解が詰まっておりまして、たいへん感銘を受けました。おそらく諸石先生の見解を明快に論破できなければ、この報告書は先には進めないのではないかと思わせるほど、論理に説得性を有しております。そんな諸石先生が、むずかしい理屈ではなくて、長年の企業とのお付き合いや、ご自身のインハウスロイヤーとしてのご経験から著された「役員手控帖」は、とりわけ企業不祥事とクライシス管理あたりをお読みになるだけでも、たいへん参考となるはずです。
上場企業の役員、幹部クラスの方向けに、著名な法律家が書かれた最近の本としては「豊潤なる企業」(鳥飼重和弁護士 著)が東の横綱であれば、西の横綱は、この「危機管理役員手控帖」ではないかと思います。(所属事務所が関東か、関西か、といった違いであり、東と西にそれ以上の意味はございません)赤福社という、関西や中部の方だけにわかるようなマイナーな話題であると思っておりましたら、意外にもたくさんの方にコメントを寄せていただき、またとりわけ企業の危機管理に関する対応にも、みなさまの関心が高いようですので、あえて研究のための参考文献としてご紹介させていただいた次第であります。
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