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2007年10月 1日 (月)

金融商品取引法と買収防衛策の関係

いよいよ10月となり、金融商品取引法もほぼ全面施行(正確には9月30日より)となりましたが、当ブログでも、若干ではありますが金融商品取引法に関連した話題について考察してみたいと思っております。といいましても、私の素人的発想からの「会社法と金融商品取引法にまたがる論点」に関する話題でありますので、また気楽に読み流していただければ結構かと存じます。

当ブログでは、過去に何度か「買収防衛策に関する素朴な疑問」シリーズをアップしてまいりましたが、今回もその延長上でのお話であります。ブルドック最高裁決定を契機として、法曹界(企業法務実務の世界)では今後の事前警告型買収防衛策のあり方について、盛んに検討会が開催されているようでして、ひさびさにコメントを頂戴しました「とーりすがり」さんのご指摘も、私なりに正論ではないかと考えております。つまり、事前警告型買収防衛策の導入発動の場面においては、今後は(とりわけ発動の場面では)株主総会による承認手続きがなければ、裁判所は認めてくれないのではないか(適法とは判断しないのではないか)・・・との考え方もある一方で、そもそも株主としては、TOB手続きのなかで成否を決することができればいいわけですから、なぜ株主総会で承認手続きを得る必要があるのだろうか・・・との疑問であります。なお、この疑問につきまして、ひとつの回答としては、田中亘成蹊大学准教授が「ブルドックソース最高裁決定の法的検討(下)」(商事法務9月15日号)のなかで、「強圧的な二段階TOBの可能性がある場合」には、一般株主への萎縮的効果を緩和するためには(発動の是非を問う株主総会を開催することも)意味があるのではないか・・・と説明されていらっしゃるところであります。(つまり、買収希望者の意向に賛同しているわけではないが、ひょとしてTOBに応募しないていると、思いがけずに少数株主となってしまって、その後著しく不当な価格で排除されてしまうのではないか・・・と不安に思う株主にとっては、この総会決議の帰趨によって事後の対応を予測することが可能となる、というところでしょうか。)

私も、このブログで以前から述べておりますとおり、とーりすがりさんと同じ疑問を抱いているひとりでありますが、ちょっと素人考えの域を出ておらずに恐縮なのですが、はたして裁判所は、こういった金融商品取引法の法制度の現状を「所与の前提」として、買収防衛策の適法性の要件に関する解釈に用いていいものなのだろうか・・・といったところの疑問であります。つまり、発動場面に総会決議を要するとみる側も、不要だとする側も、TOBの制度があるから、とか、強圧的TOBの可能性があるからとか、そういった金融商品取引法上のルールを持ち出すことは、裁判所に対して説得的な理由たりうるのだろうか、といったあたりの疑問であります。買収防衛策の是非を裁判所が論じる場合、そこには機関における権限分配論とか、株主平等の原則とか、株式の自由譲渡性の制限など、会社法の解釈問題として判断されることは当然だと思いますが、そこに(政省令を含めて、頻繁に改正される)金融商品取引法制の解釈問題は出てきていいのだろうか、といったあたり、これまでそんなに議論されてこなかったのではないでしょうか。もちろん、買収防衛が問題となる場面、つまり買収者の相対取引の効力とか、対象会社側の株式割当て行為の効力など、個別の取引行為の効力が問題となるような場面では「行為規範としての金融商品取引法違反の相対取引や割当て行為の民事上の効果に及ぼす影響」といった問題は出てきますが、それはそういった取引行為などが独占禁止法に抵触するかどうか、といった問題と同様のレベルでありまして、防衛策の発動要件の解釈にあたり、金融商品取引法制のあり方が影響を与えるか、といった問題とは明らかに区別されるはずであります。

私の疑問は普通に考えましたら、かなりナンセンスかもしれません。そもそも上場会社の株式でなければ、買収者は企業価値の把握は困難ですし、また買収に要するコストの把握も困難でありますので、上場会社以外の大規模敵対的買収はありえないようにも思えますし、だからこそ上場企業以外には、買収防衛策の導入を検討するようなリスクはありえないのかもしれません。しかしながら、ご承知のとおり、会社法上の「公開会社」=「上場会社」ではありませんよね。市場における株式売買制度を利用していないけれども、種類株式発行会社として、発行株式の一部でも自由な株式譲渡が制限されている会社は、会社法上の「公開会社」として、当然のこととして存在するわけであります。したがいまして、裁判所としましては、上場されてはいないけれども、「会社法上の公開会社」として、株式が自由に譲渡できるような会社にも妥当する買収防衛策の是非に関する判断基準を想定しなければならないのではないでしょうか。いや、そこまでの必要性はないとしましても、買収防衛策の適法性要件を裁判所が検討する場合には、「金商法がこうなっているから」といった判断理由を書くことについては、かなり消極的になるのではないか・・・とも思われますが、いかがでしょうか。これが会社法上の公開会社=金融商品取引法適用会社であったり、「公開会社法」といった特別の会社法制が誕生すれば、金商法の制度がこうなっているから・・・といった理屈も堂々と判断理由にできるのでありますが、どうもそのあたりが私にはすっきりと整理できていないところであります。

このように考えますと、金商法上のTOBルールがあるからといっても、それだけでは裁判所が定立する防衛策の適法性に関する要件にはあまり影響はなく、むしろ最高裁の考え方というのは、金融商品取引法の制度はどうあろうと、(少なくとも、無償割当てによる事前警告型の買収防衛策の発動にあたっては)株主総会の承認手続きを必要とする方向性にあるのかな、と最近は考えたりしております。さらに言えば、今回は、たまたま「買収防衛策そのもの」の適法性要件との関係で、ブルドック最高裁決定が検証されておりますが、本当に買収防衛策と司法判断との関係を検討するためには、どういった争い方をすれば金商法マターで争点を形成することができるのか、独禁法マターで争点を形成することができるのか、などかなり広い視点を持つことが必要のように思います。

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コメント

というと、最高裁は今後の種類株式市場までにらんだ回答にもなっている可能性がある、といえるのでしょうか?
後半のご解釈は、少数派(現時点では)になりそうなので。
(もちろん会社法はおっしゃるとおりなのでしょうが)

東証も創設検討中みたいなこと言っていましたし。

今後、同じようなことが起これば「けど対象企業は普通株式しか発行していないじゃないか。確かに規範はそうだけど、今回は当てはまらない」なんて議論が飛び出すのかな、などと。そうすると各社こぞって種類株式を発行するような事態まで飛躍して考えてしまいました。

投稿: katsu | 2007年10月 3日 (水) 03時33分

>katsuさん

かなりマニアックな話題にコメントいただき、ありがとうございます。もちろん、少数派(というよりは一人説)ですし、まだまだ整理のついていないところでありますが、上場企業以外であっても、敵対的買収といった場面が想定されるケースというのは、可能性としては残されているのではないか・・・と、ふと思ったものですから。たとえば、葉玉先生の会社法であそぼ、の2年ほどまえのエントリー(http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50055514.html)からの引用で恐縮ですが・・・

「では,株式を売買する機会を広く一般の人に与える方法は,日本の証券取引所や証券会社を通じたものだけでしょうか。日本法の証券取引所に該当しない外国の株式市場で売りに出したものは?自分のホームページで,自分の持っている株式を売りに出したら?インターネットオークションで自分の持っている株式を出品したら?
 インターネットの普及も原因の一つとなり,証券取引法の規制に違反しない形態で,広く一般の人に株式を売買する機会を与える方法が以前よりも増加しているのが現状ではないでしょうか。そこで,私達は,将来の株式売買形態の多様化を見据えて,「公開会社」を株式譲渡制限をつけていない株式を発行する会社と捉えたのです。」(以上引用おわり)

敵対的買収というものは、なにも新聞を賑わせるような事例だけでなく、もし公開会社といった会社法上の制度を利用しているケースであれば中小企業でも起こりうるのではないか?といった疑問であります。中小企業でも種類株式発行会社というのは、ありうるのではないかと。

投稿: toshi | 2007年10月 4日 (木) 01時11分

遅くなりまして申し訳ありません。

田中先生の商事法務掲載の論文はもちろん目を通しましたが、田中先生もどちらかといえば最高裁の判断枠組みには懐疑的であると私は受け取りました(商事1810号16-18頁)。

先のコメントに挙げた「某先生」は江頭先生のことなのですが、先生はブルドック事件に関しては地裁決定と最高裁決定を比較検討するのみで、高裁決定に関してはほとんど触れておられませんでした。
そのうえで、先に紹介したことをおっしゃられていたわけです。
参考文献として、江頭憲治郎「事前の買収防衛策─発動時の問題」法の支配145号21-30頁(2007)が挙げられておりました。
おそらく2,3号ぐらい先の金商に掲載されるのではないかと思います。

逆に高裁決定の判断枠組みを是とするものとして、上村先生が
http://www.21coe-win-cls.org/activity/publication.html#bulldog
で未提出に終わった意見書を公開されておられます。

自分の意見が全くありませんが、ひとまず情報提供ということでご参考までに。


最後に蛇足ながら、先生がおっしゃる未上場会社の買収防衛策ですが、実際のニーズはほとんどないように思いますので、検討対象からははずしていいのではないでしょうか。
また上場会社を前提とする限りにおいて、金商法と会社法を一体として考えるのは妥当ではないかと思います(従来の自己株式をめぐる議論なんかもそうでした)。
先の上村先生も、証券規制が不完全だから、買収防衛策を広く認める必要があるとの御主旨のように思われます。

投稿: とーりすがり | 2007年10月 4日 (木) 11時16分

とーりすがりさん、ご解説ありがとうございました。
ときどき、赤面モノのエントリーをアップしておりまして、お恥ずかしいかぎりなのですが、論文とは違って、ブログという媒体は「思いつき」で書いてもいいかなぁなどと、開き直ってしまいました。いちおう、MAモノをエントリーするときは「素人的発想」として前置きはしておりますが・・・
何名かの方より、健全なご意見をいただき、ありがたいかぎりです。

ただ、田中先生の商事法務の論文では(下)におきまして、まだ2点ほどよくわからないところがありまして、(上)ほど、すっきりとは頭に入りませんでした。また思いつきではなく、整理したうえでエントリーしたいと思っております。
今後とも、ご指導よろしくお願いします。

投稿: toshi | 2007年10月 4日 (木) 13時05分

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