来年のトレンドは「ほっとこう大作戦」
(minoriさんより、「掲示されているイラストは他人の権利侵害に該当しないのでしょうか?」とのご指摘を受けました。そうですね、イラストであっても、あるキャラクターを連想させるものであることは明らかですので、明確な権利者の許諾を確認しなければ使用はできません。たいへん失礼しました。また、ご指摘いただいたminoriさん、どうもありがとうございました。ときどき、たいへん初歩的なミスを犯してしまいまして、赤面することがあります。これからもご不審な点がございましたら、どうかご指摘くださいませ。とりいそぎ、削除させていただきました。)今年は不二家事件、ミートホープ事件に始まり、赤福、船場吉兆など、いわゆる「食品表示偽装事件」がコンプライアンス関連記事における一番の話題となりました。また、食品だけにかぎらず、たとえば11月29日日経朝刊記事「外国人への(軍事転用可能な)重要技術提供については記録、報告義務」、同28日日経夕刊ほか「食品原材料の業者間取引においても表示義務設置(政府が骨子案)」、同28日読売ほか「ファミレス、コンビニにも省エネルギー規制の対象に。エネルギーの使用量報告、省エネ計画策定義務の明記」などなど、いわゆる一般企業に報告義務、届出義務、公表義務を課す規制が著しく増えているのが今年の傾向だと思われます。そしてこの傾向は、来年に向けて益々効果的な手法として、行政によって多用されていくのではないでしょうか。
1 行政による新たな規制手法「ほっとこう大作戦」
このブログで扱うコンプライアンス関連のテーマとしましては、来年のトレンドとして、この行政による報告・届出・公表義務の設定、つまり「ほっとこう大作戦」が大きな目玉になるであろうと(少なくとも私は)予想しております。行政による規制のあり方としましては、従来、細々(こまごま)とした事前の法規制の網をかけ、また法が足りない部分では行政指導をくりかえすことによって、一般消費者の生命身体財産を守るといった手法が多用されたのでありますが、最近はとりあえず企業の自律的行動へ期待しつつ、なにかあるまでは放置(ほっておいて)して、その間、報告、届出、公表をもって適正な行動を担保する方針に転換しつつあるようです。そして事後規制として、問題が発生した場面においては、これまでの報告、届出、公表内容を吟味したうえで、企業活動による違法状態を速やかに除去し、もし企業側に隠匿(非公表、無届け)や虚偽(虚偽報告)が認められる場合には厳罰を課す、といった対応をとることが予想されます。ここまでは、当然のこととしまして、問題は今年後半の食品表示偽装問題で明らかになりましたように、行政による調査を受けることがマスコミによる不祥事報道の嵐に拍車をかける要因となり、もはや現経営陣では立ち直ることができないような事態にまで至ることであります。(本日のマクドナルド社の追加報道をみましても、社内で把握している事実以外の事実が次々と発覚してしまうわけでありまして、経営者自身も「隠匿では」といった疑惑を向けられる結果となってしまいます)なにをすれば「法令遵守」といえるのか、基本的に規制当局は教えてくれないわけでして、自分で遵法経営の道を選択しなければならない・・・、まさに内部統制の整備の必要性が高まるわけであります。あるときは過小な対応をとることで更に非難を浴びることとなり、またあるときは過剰な反応をしてしまって、無駄に経営資源を費消してしまうリスクもあるわけです。これからの時代、行政とマスコミとのコラボによって、企業の社会的評価はあっけなく毀損されていくことが予想されます。
また、「ほっとこう大作戦」とは少し趣向が異なりますが、「刑罰なき規制」というものも行政手法としては効果的かもしれません。これはたとえばパソコンによる私的なダウンロードも、「とりあえず著作権侵害幇助として違法」としておいて、そのかわり平等な捕捉が困難なこともあって、ペナルティは課さない、とするものです。「刑罰がない規制なんて、結局はやったもん勝ちじゃないの?」と思われるかもしれません。しかし、本来ならば行政は、他人のパソコンの中身を無断で調査することなどプライバシー侵害をして許容されないはずですが、そもそも「違法行為」が行われている疑いがあるならば、不正調査としてプライバシー侵害にはなりませんよね。もし、大掛かりな組織を見つけ出すために、一般人のパソコンのサーバーを経由せざるをえないような捜査が必要な場合、こういった手法が効果を発揮するわけでして、知らず知らずのうちにパソコンの中身が調査されている・・・といったことも出てくるかもしれません。(なお、上記の事例は「たとえば」の話であります)
2 「ほっとこう大作戦」に向けた一般企業の対応策はあるのか?
「対応策」と書きますと、なにか悪いことでもたくらむようでありますが、けっしてそうではありません。コンプライアンス経営のためにできるだけ少ない経営資源を向けて、最大の効果を得るための手法について検討すべきだ、というものであります。今年6月、政府は一般企業向けに「反社会的勢力による被害を防止するための指針」を公表し、そこに反社会勢力との断絶のための内部統制システム構築の指針が盛り込まれております。とりわけ反社会勢力に関する情報収集については、「自助」→「共助」→「公助」の指針が盛り込まれており、情報収集が個人情報保護法違反にならない(例外規定の適用可能性)ためのヒントも含まれております。私は、反社会勢力断絶の場面だけでなく、この情報共有の精神がコンプライアンス経営全般にも及ぶものだと思っております。自社の不祥事や、その対応策といった情報は、どうしても外に出したくないものであります。しかしながら、そういった過去の情報を共有することで(とりわけ有事における対応策等)、「ベストの対応ではないかもしれないが、そこそこ最適解に近いところの対応」といったものも認識できるのではないでしょうか。先日、もし可能であればリスク管理の成功体験を共有しよう・・・と述べましたが、これも同様の趣旨からであります。情報の共有だけでなく、最終的には業者ルールのようなものまで出来上がれば、コンプライアンス経営への経営資源の投入はかなり少なく済むことになると思います。
また、今朝(11月29日)の日経朝刊「経済教室」におきまして、独占禁止法違反に関する手続は、現在の公取委による事後審判制から直接行政訴訟によるべきである、といった村上教授(一橋大学)のご意見が出ておりました。(まったく同感であります)行政による調査が不当である、行政による事実認定におかしい、と思えば異議を申し立てる、といった企業側の対応が、もうすこし頻繁になされるような環境作りが必要ではないかと思います。現状では、「おかしい」と思っていても、長時間争っているうちに、不祥事を犯した企業という社会的評価だけが残ってしまい、裁判で勝ったころには、あまりマスコミで取り扱ってくれない・・・といった事態が予想されるために、異議も述べないのが通常ではないでしょうか。一朝一夕に出来上がるような制度ではありませんが、そういった日が到来するときに備えて、企業としても報告、届出、公表に耐えうるような「事実認定能力」を自社で磨かれることを強くお勧めいたします。
3 今年のトレンド予想は当たったのか?
さて、私は昨年末、2007年は「課徴金」と「利益相反」がトレンドになる、と予想しておりました。課徴金につきましては、「うっかりインサイダー」はじめ、金融商品取引法上の課徴金制度については、かなり認知度も高くなりまして、また金融庁のWGより、12月には、今後の課徴金制度のあり方に大きな影響を与える報告書が出るようですので、ほぼ当たったかな・・・と思います。しかしながら「利益相反」のほうにつきましては、銀証の兼業緩和がまだ検討され始めたばかりであり、兼業問題(ファイアーウォール規制)、情報共有問題(チャイニーズウォール規制)、役員の兼職等(アームズレングスルール)などなど、またこれからというところでありまして、どうも予想は外れてしまったようであります。コンプライアンス問題というものは、その時々の発生した事件にも影響されますし、先の「ほっとこう大作戦」も、どこまで当たるのかはあまり自信のないところでありますが、法律家の視点から、これからも総括していきたいと思っております。
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