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2007年11月28日 (水)

株主優待券の会計処理(その2)

(28日午後 追記あります)

先週、株主優待券の会計処理というエントリーをアップしましたところ、ある会計士の方よりメールをいただきまして、懇切丁寧に概要を教えていただきました。以下、メールの内容をご紹介いたします。

そもそも、株主優待引当金に関する会計処理のルールが明確になっていなかったのがいけなかったのですが、会社法で規定される以前も、会計理論の考え方に則れば株主優待引当金は計上するのが原則です。 一般的に引当金の設定用件というのは、 ①将来の費用または損失 ②それが当期以前の事象に起因する ③その費用または損失の発生可能性が高い ④金額を合理的に見積もることができるという4用件がありこの全てを満たす場合は引当金の計上が要求されます。

私自身、会計に関する専門的知見に乏しいところでありますが、会計理論の考え方により、一般的な引当金の設定要件とされるところあたりにつきましては、私も理解できるところであります。

これを株主優待引当金にあてはめて考えると、 ①株主優待はそれが将来利用されることによって値引き等を通じて費用になるものであり ②当期の権利確定日に株主であったものに発行される ③費用発生が確実なものであるここまでは間違いなくあてはまることになります。 そこで、ポイントは④の金額を合理的に見積もることが可能か、という点に集約されます。ブログでもご指摘のように「使われ方」要は「将来の利用を見積もることが可能か」ということが問題になります。

ご指摘のとおりであります。将来の利用を見積もることが可能かどうか、といったところに素人的疑問がありまして、これがどの程度の確からしさをもっていれば会計上の引当金として計上してよいのか・・・といったところが疑問であります。

優待券発行から数年が経過している場合は、これまでの利用実績を何らかの方法で集計することが可能だと思われますので(従来利用時に費用計上していたならば、会計記録が残っているはずですので)、事業年度ごとの実績率の平均値を用いるなどして、将来の合理的な利用見込率が算定でき、値引きの場合はその商品の売上原価と利用見込率を掛け合わせるなどして、金額の合理的な見積もりが可能になります。 仮に何らかの理由でこれまでの利用実績を把握できない場合は、その時点では合理的な金額の見積もりが不可能であるとして引当金計上はできないことになりますが、今後利用実績をデータとして収集して、見積もりが可能になった段階で引当金計上することが必要になります。今後の監査実務の流れとして、引当金計上する方向であることは間違いないと私は考えています。

なるほど、たとえば株主優待券として、「当社直営レストランにおけるお食事券2万円分」ということでしたら、有効期間中にどの程度使われたかを、数年分ほど調査をして、そこから出てくる合理的な見込み率を算定することで将来的な債務は見積もることができる、ということになるのですね。

ブログでご指摘のあった、「個人株主の変動が大きい」というのは確かにそうかもしれませんが、権利確定日に優待券を渡す株主が決定する以上、引当金を計上しない理由にはならないと思います。また優待券の内容が変わったとしても、その変更後の優待券の内容に基づいて計上する必要があると考えられます。ただこの場合は利用率がそれまでとは変動する可能性がありますので、その点については議論の余地があるところです。

株主優待券の内容が、「お食事券2万円分」などといったものであれば、比較的過去の実績などから合理的な引当金の金額については見積もりやすいのかもしれませんね。しかし、サービス(役務)の提供が優待内容である場合などは、それを引当金計上する場合には、すこし問題がありそうな気もしますが、どうなんでしょうかね?この場合、サービス提供自体の価格を考えるのでしょうか。それとも原価部分だけが価格となるのでしょうか。

そういえば今年の夏に、少しだけ話題になっておりましたが、企業が発行するポイントカードやお買い物カードの「ポイント」については、発行時に売上に計上せずに負債として計上する方向とされているようでありますが、株主優待券の会計処理につきましても、この「ポイント」の会計処理と同様に考えてよいのでしょうか?このあたりも素人的疑問なのですが、ポイントを顧客に取得させるというのは、売上とそのための販売促進に向けてのものであって、なんとなく収益と費用との対応が認識できるのでありますが、この株式優待制度を「株主優待引当金」として計上する場合、企業が取得すべき収益という概念は登場してくるのでしょうか?このあたりが少し疑問を感じております。

(追記)「あかつき財務戦略研究所」ブログより、たいへん詳細かつわかりやすい内容の関連エントリーを立てていただいております。(右のTBをご活用ください)

たとえば「株主優待制度」「株主優待券」なる検索をかけましても、なかなか「引当金」に関連するWEBページに出会うことはありません。(私の過去ログが最初に出てきたりします・・・・(^^; )こういった解説がWEB上で検討させていただけるのがホント、ブログの長所ではないかと思います。日下さんのコメントや、あかつきさんのエントリーを拝読しまして、またまた更なる疑問点とか論点について頭に思い浮かんできましたので、また続編を書かせていただこうかと思っております。(とりいそぎ御礼まで)

11月 28, 2007 商事系 |

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受信: 2008年6月11日 (水) 00時42分

コメント

最後の段落ですが──

簿記会計の丸写しですが、引当金は「評価性引当金」と「負債性引当金」に分類されます。
評価性引当金は資産評価に係わるもので売掛金への貸倒引当金(この場合は回収不能リスク評価)が典型でありますが、当該処理にこの資産の評価を持ち出すのは違和感があります。むしろ、他方の負債として認識する方が自然かと思われます。
仕訳ですが、この引当金(債務勘定)の相手勘定は何らかの費用勘定と認識され、費用収益対応の原則から期間対応が(本件においても是とすれば──多分そうでしょう)当期の費用で認識・計上されます。

近似なものに売上割戻引当金があります。たくさん買ってくれた取引先に期間の合計額に対応して割戻(現金還付等)を行なうものです。ちなみに税法上では損金に計上出来る場合と出来ない場合があります。
例えばつぎのように計上され、当期の費用として処理される事になります。

(借方)売上割戻引当金繰入(費用)
   (貸方)売上割戻引当金(負債)

なお、この引当金が認められるのは、①取引先と割戻の約定がある、②割戻額が合理的に求められる、が条件です。該取引先への実績が分かっている以上、金額は比較的明確に算定可能です(例外もありますが)。
いずれもぶれる実績を見積もるところの論点をどのように扱うかが焦点かと思われます。
また、景品費引当金も近似の概念です。ですので本件も、当期収益に対応する費用と認識しても合理性を欠く事はないのだろうと思われます。

これまでは金額的な重要性に乏しかったので見逃されてきたテーマですが、企業にとっては業績が悪くなる要素であって、税法での優遇も利かないのであればあえて手間隙かけない──なのかと。
こういう優遇・優待戦略も業績に正面から反映してくるとなると、どのみち求められれば無償提供や値引をするのですが、制度の見直しもあるのでしょうか。

投稿: 日下 雅貴 | 2007年11月28日 (水) 14時03分

かなりマニアックなエントリーにおつきあいいただきまして、ありがとうございます。
コメントやTBをいただいた方、さらにメールをいただいた方などのご意見に基づきまして、(その3)を書きたい衝動にかられておりますので、また続編につきまして、ご意見いただけましたら幸いです。しだいに会計学の基本のところに戻っていくようなところですが・・・

投稿: toshi | 2007年11月30日 (金) 03時08分

こんにちは。大学院で会計研究しているものです。
株主優待が費用なのか、配当の一種なのかという切り口から考えられないでしょうか。

販売促進手段としての株主優待であれば、費用と考えられ、引当金は負債計上することが適切であると考えられます。
これは他の方が述べている通りです。

しかし、「配当に該当するのではといった法的観点からは検討したことがありましたが・・・」とあるように配当一種と考えることもできないでしょうか。この場合資本取引と考え、負債計上は難しくなると思います。資本のマイナス項目、行き着くところはその他資本剰余金のマイナス調整というところでしょうか。しかし、理論的にマイナスのその他資本剰余金はないと考えられています。

投稿: KK | 2007年12月 5日 (水) 00時36分

振り返るときちんとタイトルを読み取っていなかったかもしれません。
「株主優待券 等 の会計処理」と理解して他のポイントサービスとか会員優待サービスとかも含めての会計処理と考えました。
昨今、新聞等でもこのキャッシュバックやらポイント割引やらが形成する経済的規模・制度普及の点が次第に著しさを見せており、優遇等の企業負担も年々かさんできているので、企業収益に与える影響を鑑み、会計処理としての扱いを検討すべきであると言う流れを想定していました。

しかし殊、株主優待と言う点に限定して考えれば、KKさんの御指摘の論点があるのは、なるほど理にかなう所と考えます。金員によらざる配当支払とするには優遇享受権(とか)の資産性を考えなければならないのでしょうが、法律は金銭以外による配当に関して規定があるようですので、これに従がった場合での会計取引(仕訳)の計上になるのでしょうか。

投稿: 日下 雅貴 | 2007年12月 5日 (水) 11時39分

ご返答感謝いたします。

株主優待は今回別の論点として考えることもできそうですね。、米国基準やIFRSを読み解いてはいないのですが、海外では株主優待は販促費用と当然に解釈されているのかもしれません。

ポイント引当金等の問題については、おっしゃる通り会計の基礎から考えていくことになるかもしれません。
また、現在会計の基礎は大きく動いているところです。「企業会計原則」は一部を除き既に過去のものとなり、現在は「概念フレームワーク」を中心に基準作成が行われています。

「概念フレームワーク」は本場IFRS版と日本版があり、現在改訂中(しかも負債の部を)であるために、改訂待ちとなる部分があるので、現状の概念フレームワークを中心に考えてみます。

「概念フレームワーク」は資産負債アプローチの考え方をとっています。これは資産と負債を定義し、その差額から資本を計算するということです。
つまり、ポイントなどをBS計上するべきかどうかは、資産/負債の定義にポイント等が当てはまるかどうかで判断します。

『負債とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源を放棄もしくは引き渡す義務、またはその同等物」と明確にされています。

さらに、「負債の測定」という項目では次の測定が説明されています。「支払い予定額」「現金受け入れ価額」「割引価値」「市場価格」。

ポイント等の実態をあてはめると、まず、負債計上することは問題なさそうです。
次にいくらで計上するかが問題となりますが、これはそれぞれの計上、契約によって適時判断が変わるところだと思います。


蛇足ですが、現在の概念フレームワークの改訂作業は負債と資本の区別についてらしいです。負債も資本も資金調達厳源泉であるところに変わりはなく、区別する必要はあるのか。BS貸方項目はいわば調達源泉の部などよれば・・・などと話し合われているみたいです。決着ついたのでしょうか。

これは、近年の資金調達手法が新株予約権や社債などを複雑に複合したものが増えてきたからのようです。

この話を出したのは、もし、負債と資本の区別がなくなった場合に、金銭によらない配当と判断される株主優待もBS貸方項目として引当金計上することができる余地があると考えられるからです。

後半は現状出ている理論の中で積み重ねたものを個人的判断も含めて考えてみたものです。

投稿: KK | 2007年12月 5日 (水) 18時12分

KKさん、はじめまして。コメントどうもありがとうございます。

株主優待は費用か配当か、といった問題、会計と法務にまたがる問題だと認識しております。私は「卵が先か、鶏が先か」といった問題が横たわっているように思います。

現実には利益が計上されないような企業でも、株主優待制度はあるわけですから、剰余金分配とは関係ないとして、「費用」として捉えられるのが一般的かと思います。(財産評価通達も同様の見解かと思います)しかし、「株主優待制度」そのものの実態から捉えますと、配当とみても差し支えないものもあるわけでして、そうなりますと、そもそも利益が出ていない企業が、優待制度を利用すること自体、違法な剰余金配当とみることも可能ではないか(つまり現状を肯定できない事態もあるのでは)と思えるわけですよね。まぁ、個々に株主優待制度の中身をみるしかないのかなと。
また、ポイント引当金につきましては、ご教示いただき、ありがとうございます。少しずつではありますが、理解が深まってきましたので、会計と法務の狭間に横たわる論点について、引き続き検討していきたいと思います。今後ともどうかよろしくお願いいたします。


投稿: toshi | 2007年12月 5日 (水) 22時38分

(toshi先生、横レス失礼します)

>KKさん

IFRSによる「概念フレームワーク」検討、そもそも論のたな卸しについて大変興味深く拝見しました。
思えば会計に最初に接した時は、決まりどおりにやるだけのなんとも面白みにない世界と思っておりましたが、当時の管理会計を皮切りに会計そもそも論の世界の面白さに触れました。

個人的に思い入れのある書ですが、慶応を先頃退官された笠井昭次先生の「会計の論理」を読み、感動と驚きを強く感じたのを覚えています。その数年後、その笠井先生のゼミの学生だった男と一緒に仕事をしたとき、「あんなマニアックな本を買う人が目の前に居たとは──」と驚かれた事がありました。

ぜひとも、概念フレームワークと言うのか、そもそも論と言うのか、会計本質を研究されて、ともすれば固定化した伝統・風習の多い日本の会計世界を大いに若返らせて欲しいと思います。
ずいぶん偉そうに書きました……

蛇足:ある仕事がきっかけで複式簿記の1:1の単純取引とN:Mの複合取引をデータベースによる会計情報とした場合の本質的違いは何か、会計管理全般で考えるとどのような優劣があるのかをひたすら考えた事があります。

投稿: 日下 雅貴 | 2007年12月 6日 (木) 13時02分

会計と法律の狭間問題について、私もいくつかテーマとして持っておりました。

今回、株主優待については負債/資本について改めて考える良い機会になりました。資本の部の新たな可能性を少し見た気がします。

会計と法律、主に会社法会社計算規則については現在も一つ取り組んでいるテーマがあります。
もしよろしければ法律専門家としてご意見頂けたらと思います。

企業結合(事業分離)に関する会計基準・それらの適用指針の会計側の企業結合に関する考え方と、
会社法の組織再編に関する規定の関係です。

会社法は会計基準等を「会計慣行に従う 会社法431条」としながら、会社計算規則に規定を設けています。
これは会社債券者保護を目的とした剰余金分配規制に関する部分を主に取り上げ、それ以外を会計側にパスしたものではないかと思っております。

また、会計側は経済実態をより適切に表す会計処理をと言った観点で規定を作っていると思っております。つまり時価評価するべきか簿価据え置きなのかと言ったことです。

両者は相反するものではないと考えられますが、企業結合(組織再編)する場合、会計処理をどのように行うかの体系がまだ存在しないのです。会社法と会計基準の両者をあわせて企業結合等の会計処理を考えていった場合の体系を作りたいと考えているのです。

一般論として法律側は会計をどのようにとらえているのでしょうか。

蛇足テーマとして、もう一つは典型論点である「設立時見せ金」の会計処理です。全体として仮想払込とした場合、払込は無効になる訳ですが、これを会計処理として考えた場合、
払込時;(借)現金 (貸)資本金
代取へ貸付;(借)貸付金(貸)現金
この時点でBSは 貸付金|資本金 となります。
払込無効;(借)??(貸)??
会計的な思考では(借)資本金(貸)貸付金となりますが、商法教授に聞いたところ会社は解散する訳ではなく払込が無効になるにすぎないため、資本金の取り崩しはないそうです。
すると、(借)??(貸)貸付金 
??はどのような勘定が適切なのでしょう。
ここで資本の部とは何なのか問いかけられることになります。

toshi先生、日下さん、また機会がありましたらご意見聞かせて頂きたいところでございます。
会計と法律には面白い論点がいろいろと転がっている様です。

投稿: KK | 2007年12月 7日 (金) 00時24分

日下さん、KKさん、ご教示ありがとうございます。

KKさんの指摘された「法律と会計の狭間の問題」
うーーん、個別の問題となりますと、KKさんの指摘された点はかなり難しいなぁ・・・・(^^;
とりあえず、まず問題点を共有できるように努力します(^^;
一般論としての回答でよろしければ、問題点を共有できた時点で、ひとつ書いてみたいと思います。そういったところから、また議論が発展するといいですね。

投稿: toshi | 2007年12月 7日 (金) 12時44分

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