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2007年11月15日 (木)

「うっかり表示」と「悪意の表示」

定量分析実践講座につきましては、続々とコメントをいただき、またそのコメントがけっこう「熱いもの」なんで、ぜひ続編を書かせていただきます。私も、もうすこし先まで読み進めてみたいと思います。(リスク、という言葉ひとつとりましても、この本を読んでいろいろな発見があって、ホントおもしろいですよね。)そして、もうひとつの話題であります「赤福再生」につきましても話題が尽きまないところですが、監査役サポーターさんがおっしゃるように、あまりにも「船場吉兆」さんの対応がフォローできないほどに支離滅裂なため、マスコミの矛先がそっちに向いてしまいましたね。不当表示発覚当初、一緒に謝罪会見を行っていた岩田屋さんにまで「もう、あんたとはやってられまへんわ」とそっぽを向かれてしまったようで、どうにもフォローできない状況になってまいりました。(しかし、資本関係にない、別の吉兆グループの会社も相当のダメージを受けているんではないでしょうか)船場吉兆さんの「沈み具合」を見ておりまして、ますます「組織ぐるみ」であることの印象が強くなるのでありますが、それに引き換え、いろいろと不当表示の事例が明るみになるわりには赤福さんの「組織ぐるみ」といった印象を強くする報道は出てこなくなりましたよね。これ、皆様は、どこに違いがある・・・とお思いになるでしょうか?

不二家に始まる今年一年の偽装(不当)表示問題でありますが、赤福再生プログラムに関するエントリーを書き、また皆様方からのコメントを拝見しておりまして、インサイダー取引と同様、不当表示問題にも「うっかり不当表示」と「悪意に満ちた不当表示(偽装表示)」があるように思いますし、区別して考えることに、それなりの意義がありそうです。「うっかり不当表示」というのは、たとえば現場担当者のミスもしくは現場担当者の故意による不当表示事案であり、偽装表示といいますのは、ミートホープ社に代表されるような、いわゆる「組織ぐるみ」の不当表示と区別するものであります。現時点では違法とは評価されませんが、消費期限切れの加工原材料を(それと知らずに)使用して食品を製造した場合も、この「うっかり不当表示」に含まれるかもしれません。悪意の不当表示ということであれば、まさに経営トップが積極的に関与しているようなケースであり、その修正はガバナンスの問題に発展するであろうと容易に想像がつきます。皆様ご指摘のとおり、ここまでくると、もはや内部監査あたりでは有効に機能しないのかもしれません。しかし、うっかり不当表示というものが(もし一般的に)区別できるものであるならば、やはりガバナンスの問題というよりも、内部統制の問題として検討されてしかるべきではないでしょうか。

最近の読売ニュースによりますと、競争法分野(景表法)におきましても、不当表示(他社製品よりも性能、品質等において優っていると誤信させるような)には課徴金が課されることになるようでして、売上の3~5%(!)という高額なものとなるそうであります。これは経営トップの関与には関係なく当該企業に課されることになるでしょうから、現場担当者の判断に基づくような場面でも大きな損失を企業が負担することになりそうであります。こういったことから考えられることは、今後は「表示」だけでなく、企業情報の開示などの全てを含めて「不当表示防止」のプログラムを社内で検討すべき時期に来ていると思いますね。景表法、不正競争防止法、JAS法、その他諸々の行政取締法規など、企業が開示する情報の正確性を担保することが、企業の社会的信用を維持するために重要な施策になってきたことは否めないところであります。ひとつの基準としましては、社内における事実認定→情報管理→開示、非開示判定作業→開示手続き、といった一連の開示統制システムの整備が、コンプライアンス経営のきわめて有力な手法であると考えております。

ひとつの考え方としては、不当表示を防止するために、食品の安全を保証する民間機関を設けまして、「JASマーク」の付いていない食品はスーパーには置かない・・・といった手法も考えられるところではあります。しかし昨今の改正建築基準法に由来するところの建築業界の不況問題のように、消費者の安全に大きく重心が置かれますと、過度の経済萎縮効果を生み出すことにもなりかねませんので、消費者の安全を確保しつつ、消費者の選択の期待に沿うように、機動的に経済活動が活性化していくこととの間での調和を求めるためには、やはり現状のように企業自身による表示の適正確保に期待をかけるしか方法がないと思います。そして、企業自身における「品質表示システム」のようなものを企業自身がPRすることで、はじめて消費者の自己責任に頼ることができるのではないかな・・・と思います。ということで、赤福再生プログラムではありますが、私は元従業員や取引先の証言のように、赤福社が「組織ぐるみ」「トップ関与」といった明らかな認定材料でも飛び出してこない限り、たとえ長年にわたる「まき直し」「先付け」が存在しましても、なんとか内部統制問題で検討してみたいと思っているところであります。(こんなこと言っているうちに、「経営トップ関与」が判明するような証言が飛び出してきたりして・・・(^^;  )

※ 今日は(今年の株主総会のなかで一番盛り上がったと思えます)パトライト社の創業者TOBや、夜になってオートバックスセブン社の新株予約権発行の中止など、きわめて興味深い開示情報が出ておりまして、そっちの話題にも触れたかったのでありますが、時間切れとなってしまいました。。。しかしこういった興味ある情報が開示されるのは、早朝か深夜が多いですね。

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コメント

今日の報道で「みかんの缶詰」の中身が「ビワの缶詰」だったというのが出てきていましたが、コレなどはまさに「うっかり」の代表例ではないかと思います。

「うっかり」と「悪意」はいわゆる過失か故意かという話による部分が大きいと思いますが、この中間的なところでは「恒常的に発生する過失を仕組みとして防げなかった部分」であるとか「確かにわざとではあるが、現場での様々なプレッシャーの中から、つい出来心でやってしまった」というものも存在すると感じています。これらの中間的な部分をどのように評価するかが非常に難しい問題ではないかと感じます。

また、今回の一連の表示の問題は「誤りを認め、改めれば治る」話であり、あとは必要があれば個別に商品を購入した人に対する民事的な対応(謝罪+告知広告、商品交換やお詫びの金品の交付など)で十分ではないかと思います。“規制法令に違反することが問題”だとしてしまうと、かえって物事の本質が隠れてしまうのではないかと少し危惧しているところです(この点は、toshi先生のお感じになっている経済萎縮の点にも通じてくる部分ではないかと感じます。)。

投稿: Swind@立石智工 | 2007年11月15日 (木) 10時31分

立石さん、お久しぶりです。

私のように「不祥事は避けられない」との発想からしますと、「うっかり不当表示」の事例については、短時間に完全な調査をして、速やかにすべてを公表することの重要性を強調したいです。
問題は「悪意の不当表示(組織ぐるみの不当表示)」ですね。事の重大性からすると、経営者は公表したがらないですし、これが新たな不祥事を生むことになりますし、負のスパイラルに陥ってしまうわけでして、非常に対応がむずかしいところです。「不祥事は避けられない」といった発想は通用しませんので、内部統制で防ぎきれるものではありません。
結局、こうなりますと有事にはどうしようもないわけでして、最終的にはガバナンスの問題として捉えざるをえないですね。

投稿: toshi | 2007年11月15日 (木) 14時00分

のらねこです。

トップの関与の有無、すなわちトップの責任の有無と考えるのではなく、内部統制の問題の深さで、企業は認識する必要があります。

消費者はトップが有罪が無罪かではなく、商品の品質を求めています。

企業の公式発表がトップの関与がないことで、問題を過小にとらまえるのではなく、トップが関与していないからこそ問題が大きいと考えた方が良いと思います。

トップが関与することは、問題を会社全体の問題として扱うことであり、部門内の工程改善などではトップが全社的に関与して改善しているイメージが伝わりません。

そういった意味で、赤福の改善報告書は全社的な対応より、「まき直し」「先付け」の再発防止策の方が項目として先に記述されており、トップの積極的な対応が伝わりにくくなっていると感じました。

投稿: のらねこ | 2007年11月15日 (木) 23時28分

「トップが関与することは、問題を会社全体の問題として扱うことであり、部門内の工程改善などではトップが全社的に関与して改善しているイメージが伝わりません。」

のらねこさん、どうもです。
再生プログラムとして、トップが先導していることを具体的に示す必要があるでしょうね。私も、どうもそのあたりが伝わってこなかったんですね。(これが概要のみが記載されておりますので、改善報告書全てを読むと、何か出てくるのかもしれませんが)百五銀行が相当大きな引当金を積んだ、とのニュースがありましたので、経営トップはいまごろ、関連会社の存亡のことのほうで精一杯なのかもしれませんが。


投稿: toshi | 2007年11月16日 (金) 01時10分

 お久しぶりです。水曜日にCIA(公認内部監査人)の試験を受けたのですが、125問は、3時間半でも短く感じるくらいの量で、今回は、パートⅠ・Ⅱのみにしたのですが、できれば1パートごとに受験したいと思いました。これといって急いで取得しようと思っていなければ、来年からは、年4回になるので、1パートごとにしても良いと思います。朝9時から2パートで7時間は、通常の仕事時間と同じくらいですが、確実に頭を使う集中部分が大きいので、翌日の仕事に響きます。というか、翌々日の今日が、とても、しんどいです。
 最近は、CIAの試験や内部統制の社内整備も架橋に迫り、書き込みまでは、出来なかったのですが、どうしても話題にして欲しいことがあり、書き込みました。不正発覚が続くこともあり、内部統制担当者としては、戦々恐々といった感じもあるのですが、こうした会社には、規定、業務マニュアルってあるのでしょうか?現在、規程整備が難解なところで、担当部署に任せるところであっても、金商法に合わせなければならないということで、その部署の言い分と統制のすり合わせがしんどいところです。もう一つが、内部統制の監査に関する規定であって、これはかなり重要規定なのですが、良い雛形がなかなか見つからず、困っています。内部統制自体の規定を新たに作るのか、監査にまとめるのか、これって大きな問題ですよね?先生の考え方、また参考になるものがあればご紹介下さい。
 

投稿: 竹村 | 2007年11月16日 (金) 10時25分

ずいぶんとタイムリーなコラムですね。先生は警察が動くことはキャッチしていたのですか?それとも経験からですか?

やはり警察は組織ぐるみと判断していたんですね。でも、最近の従業員や取引先の証言からみたら「知らなかった」は通りませんよね

ひとつ質問ですが、これは赤福のような消費期限偽装の場合にも、同様に警察は動くのでしょうか?

投稿: unknown | 2007年11月16日 (金) 13時11分

そうこうするうちに、こんなのも、またぞろ出てきました。

「株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ及びKDDI株式会社に対する警告について」
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.november/071116.pdf

それにしても懲りない業界、諦めずネチネチとおっかけるご当局・・・。
ですが、何よりも一番の問題は、偽装(不当表示)といえば「食品業界」という(誰が作ったか知らぬが)波に飲み込まれてしまって、それ以外の偽装(不当表示)には鈍感になってしまっている私達消費者・・・。

山口先生のお言葉、そのままリフレインさせて頂きます:
「これ、皆様は、どこに違いがある・・・とお思いになるでしょうか?」

投稿: 監査役サポーター | 2007年11月16日 (金) 22時47分

「どこに違いが?」の点ですが、こんな記事(朝日)があります:

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200711160112.html

該当部分を引用しますと、

「同省(=農水省)は今月9日に手渡した改善指示書とともに疑問点を質問状にして船場吉兆に回答を求めた。納得のいく説明はまだないという。赤福の改ざん問題では、売れ残り商品の再使用を否定していた赤福側に質問状を送ると、6日後に全面的に不正を認める回答があった。

 同省幹部は船場吉兆と赤福を比較して言う。『赤福には、一度裸になって出直そうという潔さがまだあった。船場吉兆には全くそれが感じられない』」

うーん、にわかには納得しがたいなぁ。そんなに潔かったですか?まぁ、こういう記事を流したということは、農水省(あるいは朝日)は、赤福については完全に幕引きとする方向なんでしょう。

投稿: 監査役サポーター | 2007年11月16日 (金) 23時25分

金融商品の販売や、携帯電話の契約内容の選択問題などは、たとえ不当表示と疑われるものがありましても、社員による説明義務を尽くすことで、なんとか救われるところがあるかもしれませんが、食品の場合には、この「説明」というものが介在しませんので、不当表示への風当たりは強いのかもしれません。(もちろん、正確には販売そのものと、販売の誘因行為とでは違うかもしれませんが)
うーん、その朝日の記事のように、明確な仕訳はできないように思います。私もそれほど潔かったとは思いませんし、まだ「組織ぐるみ」ではなかったと断言できる時期でもないように思いますし。30年を超える偽装と3年の偽装とでは、どちらが構造的に根深いものかと言われると・・・

投稿: toshi | 2007年11月17日 (土) 22時04分

いま、ドコモとKDDIに対する不当表示に関するニュースを読みましたが、やはり「表示」と「説明」というのはけっこう関連していますね。
排除勧告ではなく、なぜ警告になったか、というところで、公正取引委員会の見解は(1)いちおう小さな字ではあるが条件に関する記述があること(2)現場で口頭では説明がなされていること、だそうです。
ということは、広告そのものだけで判断しているわけではなさそうですね。(やっぱり)

投稿: toshi | 2007年11月18日 (日) 02時01分

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船場吉兆の福岡市の百貨店岩田屋に出していた店舗で販売していた商品の製造日偽装の問題ですが、やはりパートの授業員は会社に指示されてラベルの偽装を行っていたようですね。報道によると、くだんのパート従業員が吉兆で働き始めたときはすでに偽装は仕事として恒常的に行われていたということです。それもこの会社の取締役が指示していたということ。そりゃあ、一パート授業員の女性が、吉兆のためを思って偽装する、なんてことはど�... [続きを読む]

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