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2007年11月24日 (土)

情報管理と内部者取引(インサイダー)リスク

JTと日清食品、加ト吉との事業再編は、来年のMAを予想させるようなニュースであります。11月23日、24日の日経特集記事「食・再編(加ト吉買収の衝撃)」を非常に興味深く読みました。この両日の記事を読んだ後で、22日の三社(JT、日清、加ト吉)の公式発表の前に報道されました11月20日の日経1面の記事を読み返しますと、日経新聞による憶測記事というものではなく、再編内容の骨子につきましては、ほぼ間違いのない(取材に基づく)報道が20日の時点でなされていることが理解できます。(ただ、最初は何ゆえに日清食品さんが49%なんだろうか?と疑問に思いましたが、やはり日清さんも過半数取得にはこだわっておられたことを、後の報道で知りました。)こういった報道が日経記者さん方の熱意によるものであることは当然とは思いますが、しかしこういった関係当事会社にとって「トップシークレット」に属するような情報が、なぜかくも(詳細に)事前に漏れてしまうのでしょうか?私自身、昨年末から今年初めにかけて、(社外役員として)こういったトップシークレット事項を抱えていた当事者としましては、どうも理解不能であります。

11月20日の時点でスキームの詳細や今後の日程など知りえる立場にあるのは、三社の経営トップ(おそらく取締役でも知らない方はいらっしゃるはず)、関係部署責任者、財務、法務アドバイザー、そして公正取引委員会や経済産業省など、事前相談が必要な場合には、関係官庁の担当者くらいではないでしょうか。おそらく、こういった当事者のなかで、漏れる可能性というものはほとんどないですよね(と、信じたいです)。日経の20日の報道では、公表時期は11月末ころ、とされておりましたので、三社ともこの20日の報道を受けて、慌てて前倒しで22日に合同記者会見を行うことになったのでしょうね。(あくまでも私の推測でありますが)

厳格な情報管理のもとで、ごく少数の関係者のなかで再編計画を進めていても、やはり情報は漏れる・・・・・。たとえば今回の事例で申しますと、日清の冷凍食品部門に従事されていらっしゃる社員の方々にとってみれば、まさに「青天の霹靂」であり、経営者側への不信感というものは事後説明で払拭されるのでしょうか?おそらく経営者側にとりましては、関係部門への説明の「段取り」があったと思いますので、そういった段取りが狂ったことによる信頼関係の破壊が心配されます。そして、なによりも、どんなに厳格な情報管理を行っていたとしましても、社内に犯罪者を作ってしまう可能性(インサイダーリスク)は残っている、ということを改めて認識せざるをえないように思います。

Kigyou_ikinokori りそなホールディングスの社外取締役、箭内昇(やない のぼる)氏がお書きになっている「企業生き残りの条件(りそな社外役員の現場報告)」(ビジネス社 税別1600円)のなかに、コラムとして「りそな対マスコミ」といったテーマのものが挿入されておりまして、過去の苦い経験から、厳格な情報管理体制を敷いていたにもかかわらず、「経営健全化計画」の中身が発表前に報道されてしまった事実が紹介されております。この情報の漏れによって、(嫌な意味での)社内での文書取扱い方法に変更が生じ、行内に不信感が広がってしまった様子が描かれており、情報管理の難しさは公的資金を投入したような厳格な金融機関においてさえ直面するようです。(なお、この新刊書は内部統制、コンプライアンスに関心のある方にはお勧めです。委員会設置会社ではありますが、りそなの社外取締役兼監査委員会委員長として、りそな銀行のガバナンス改革にどう立ち向かっていかれたのか、実行と思考においてたいへん参考になります。とりわけ連載されたものを時系列的にまとめた本でありますので、後に実際に発生した事実を、それ以前にどう考えていらっしゃったのか、そのあたりが非常におもしろいところです。内部統制やガバナンスに関するご見解など、また別の機会に改めてご紹介したいと思います)

三連休の谷間である本日も、三洋電機社の配当金原資不足の件につき報道がなされ、さきほど、(午後1時前)三洋電機社から適時開示情報が出ておりましたが、これもなかなか関心のある話題であります。旧商法→会社法、証券取引法→金融商品取引法、会計基準の変更など、多岐にわたる論点が問題になりそうなところであり、これもまた別の機会に改めて検討したいと思っております。

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コメント

経済記事に関するマスコミ(特に日経)への情報提供については、つねづね怪しいと考えております。
大企業もさることながら、上場中堅企業においては、情報共有者は限定されているにもかかわらず、情報が漏れる。
誤解を恐れずに言えば、漏らしているのではないでしょうか?
インサイダーではなく、情報のインパクトを上げるために、日経だけに教える。日経も開示情報では情報の価値がないので、いかにして未公開情報を手にいれるか考える。
そして、経営者サイドとバーターする。
このようなことが日常茶飯事では?
そうでければ、日経1面の当日にプレスやら膨大な投資家説明資料を準備することは不可能であり、株価経営を意識するあまり、情報管理がなおざりとなっている一部企業があることは、推測ながら確度が高いと考えます。
真に開かれた市場を作る努力が必要であり、市場関係者は見て見ぬフリせずに、ささいなことも摘発も視野に入れずべきです。1罰百戒です

投稿: 無知なJ | 2007年11月24日 (土) 16時52分

>無知なJさん

さっそくのコメント、ありがとうございます。
なるほど、無知なJさんのご意見であれば、「情報を流している」のであるから、インサイダーのリスクとは一線を画すわけですね。いちおう情報管理はしっかりしているのだが、情報を流すことの功罪はまた別個、考慮を要するということでしょうか。
このあたりはかなりデリケートな問題であり、本来開けてはいけない「パンドラの箱」(笑)のようなところかもしれませんが、エントリーにもありましたように、箭内さんが堂々とお書きになっておられましたので、私もエントリーにしてみました。

しかし、ホント、報道先行の影響は大きいです。

投稿: toshi | 2007年11月24日 (土) 17時12分

私も通常は情報提供の方がケースとしては多いと思います。かつ、これをなくすのも至難の業でしょうね。

私が関与した国民的破綻・再生案件でも、デューデリジェンス資料がそのままマスコミに渡ったとしか思えない極秘情報がすっぱ抜かれます。

しゃべったの類ではなく、「解読した」レベルです。

おかげでアドバイザーとしての我々は本来顧客であるはずの売却先企業を心の中では不信になってしまうなんて経験をしました。入札価格がもれるんですから。

最近は、情報が漏れてもアドバイザーが悪くないようなもって行きかたなんて保身術ばかり考えてしまいます。

関与当事者はサスペンスドラマのような推理で、どこから漏れそうかを察知する術を身に着けたりします。

投資家的観点に立つと、こういったことはけしからん話でしょう。欧米でも、統合観測はとてもよく出ますが、ターゲット株価が必ず出るところが違う点でしょうか。難しいですね。完璧な情報統制は。

投稿: katsu | 2007年11月24日 (土) 18時02分

「関与当事者はサスペンスドラマのような推理で、どこから漏れそうかを察知する術を身に着けたりします。」

いや、ホント、そういったことを私も考えてしまいますね。
もうこうなりますと、内部統制としての「情報管理規程」どころの話ではなく、人間の信頼関係の話だと思います。

エントリーをアップしてから考えたのですが、マスコミによる報道は、インサイダー取引における「公表」には該当しないでしょうから、会社からの正式発表までは「公表」はないわけですね。ということは、会社関係者は報道後も株式取引に慎重でなければならないですね。いちおう「職務に関し知ったとき」には含まれない場合が多いとは思いますので、構成要件には該当しないケースがほとんどだとは思いますが。

投稿: toshi | 2007年11月24日 (土) 19時52分

銀行がらみのリークは、いままで常に金融庁(昔は大蔵省)が出所でしたよ。

投稿: 金融 | 2007年11月26日 (月) 10時05分

かつて銀行で広報業務に長年従事した経験からしますと、金融さんのご意見は、乱暴すぎます。常に金融庁が出所ということはありません。記者も、1箇所の情報だけで記事を書くという危険なことはしません。必ず裏を取りますので、金融庁がそのひとつに入ることはありますが、原始的な取材源は、私の経験では、銀行トップのケースが多いと感じます。

トップは情報戦略のために、記者とは、持ちつ持たれつの関係にあります。トップはPR効果を求め、記者は特ダネを求めます。情報漏えいという違法性を防いでいるのは、取材源秘匿という判例の賜物です。トップは、自らの意のままに情報戦略を駆使し、そこにトップの器量が現れます。それが実態です。

トップの情報戦略の駆使を情報管理に反していると非難できるのでしょうか。情報管理とは、あくまでもトップ以外の人間が情報を漏洩してはならないということであり、情報戦略とは全く異質の世界です。

TOSHIさんは、日経の20日の報道について、公表時期は11月末ころ、とされておりましたので、三社ともこの20日の報道を受けて、慌てて前倒しで22日に合同記者会見を行うことになったのでしょうね。(あくまでも私の推測でありますが)・・・とされています。確かに、日経発表のために他社が押しかけ、発表の前倒しを余儀なくされたと見ることも可能です。しかし、別の見方として、末頃としたのは、日経が他社をかく乱させようとした思惑だったのではないでしょうか。日経が20日にスクープした時点で、22日の発表は決まっていた。そうでないと、20日の記事が正確すぎるのではないかとの疑問が出てきます。また、特ダネは、他社がすぐに追随してこそ値打ちが認められるという記者特有の価値観があります。

いずれにせよ、情報戦略は、治外法権におけるトップとマスコミとの空中戦です。内部統制システムの領域外の話であり、こうした世界が存在することも、夢があっていいのではないでしょうか。企業経営は、もう少し大きく捉えるべきだと思います。

投稿: 酔狂 | 2007年11月26日 (月) 19時54分

ご意見どうもありがとうございます。
「夢がある」のかどうかはわかりませんが、情報戦略というものがあること自体、驚きです。
こういったことは実際に経験した人しかわからないですよね。
「公表」や「会社関係者」の要件の通説的解釈からみて、こういった情報戦略が実際にインサイダー犯罪者を社内に作ってしまう可能性はそれほど大きいものとは思えませんが、記者さんや開示情報取扱い業者の方がインサイダー取引に関与するような事件もありますので、できるだけ調査対象とならないような仕組みというのも考えたほうがいいのではないか・・・といった問題意識を持っております。

投稿: toshi | 2007年11月28日 (水) 11時35分

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