公取委の不当表示警告への疑問
11月16日、公正取引委員会はNTTドコモとKDDI(AU)に対しまして、「料金割引サービスに関するチラシの表示方法が、景品表示法4条1項2号(有利誤認)に違反する」ものとして、厳重注意処分を下したそうであります。(公取委の公表内容はこちら。)本日(11月18日)、自宅近くのAUショップに出かけまして、現在通用中である「フルサポート割引チラシ」の現物を眺めてきましたが、やはり公取委の処分対象となっております「誰でも割」と同様、チラシの一番下のところに細かい文字で解約料の発生する場合に関する条件の記載がありました。(現実にこうやってチラシを見たところ、たしかにこれは説明を受けなければ誰も読む気にはなりませんね・・・)NTTもKDDIも、公取委に対して当初反論をされたようですが、最終的には厳重注意を真摯に受け止める、ということになり、おそらく業界の自主ルールも改訂されることになるんじゃないでしょうか。
今回の公取委の処分につきましては、一般消費者にとっては意味のあるところだとは思いますが、すこし気になりましたのが、そもそも公取委は上記2社に対して広告の訂正を求める排除勧告でのぞむはずでありましたが、(1)判読しづらいとはいえ、いちおう解約料発生条件に関する記述があること、(2)契約時において、口頭での条件説明がなされていることから、(排除勧告までは出さずに)厳重なる注意、という処分ということにした ようであります。(これは公取委の公式意見ではありませんが、こちらの西日本新聞ニュースの記事や、11月17日土曜日の日経新聞3面解説記事にも掲載されているところなので、ある程度たしかなものと思われます)
以前、金融機関における「金利表示」について、公取委が不当表示を問題にしたときにも疑問に感じたところでありますが、なぜチラシの表示自体の違法性(景表法違反)を問題としているにもかかわらず、「店頭における口頭説明の良し悪し」を持ち出すのでしょうか?そもそも景表法違反はチラシの表示自体から悪性判断をすべきであり、説明義務を尽くしたかどうかは、なんら公取委が問題とすべき判断基準にはなりえないはずだと思われます。こういった他事考慮(チラシの違法性を判断するにあたり、販売方法の是非を考慮すること)につきましては、行政処分の恣意性を高めることになってしまって、業界の自主ルールを改訂したり、社内における行動基準を定めるにあたって、違反行為の予測可能性を低減させることになるのではないかと思います。また、説明義務を尽くしたかどうかは、契約法の法理に関わる問題であって(たとえば金融商品の場合であれば、金融商品販売法の問題)、これに公取委が軽々に踏み込むことにつきましては民々の紛争解決にも影響を与えてしまうおそれがあり、妥当な対応とはいえないものと思われます。逆にいえば、公取委が不当表示について排除勧告を出そうとしているときに、対象企業側としては、各店舗において有利誤認を防止するための説明義務を尽くしていることや、別のチラシ等において、誤認防止のための表示をしていることなどを持ち出して、排除勧告を免れることは検討されてもいいのでしょうかね?こうなりますと、もはや「不当表示」と「説明義務違反」との区別が曖昧になってしまうような気がいたします。
商品表示の適正を求めるといいましても、スーパー等の小売店で販売している商品のように、表示そのものしか問題にできない場合と、金融商品や携帯電話、不動産のように、商品表示はあくまでも購入のための誘引にすぎず、その先の商品説明によって購入されるような場合とでは、その意味が少し異なるのかもしれませんが、ただいずれにしましても、「表示」そのものが一般の人からどのように受け止められるか、といった観点から適正性は判断されるべきであり、商品販売方法の是非につきましては、これと峻別して検討すべきではないでしょうか。
(参考 不当景品類及び不当表示防止法 関連条文)
|
(お知らせ)ところで「アルファブロガー2007ノミネート」の件ですが、たくさんの応援メッセージを頂戴しております。(こちらでご覧になれます)また、初めて知りましたが、ノミネートされております60ブログのなかで、中間集計ではありますが、当ブログがベスト20に含まれている、とのこと。驚きです・・・・・・。これもひとえに皆様方のご支援の賜物以外にありません。本当にどうもありがとうございます。これを励みに、これからもマニアックなブログとして頑張ってまいります。
| 固定リンク
コメント
「違反」の場合は「排除命令」、「違反のおそれ」がある場合は「警告」、「違反につながるおそれ」がある場合は「注意」とされています(独禁法事案も同様かと思います)。本件は小さな文字等で読みにくいが一応書いてあるということで「違反」とはしにくかったのだろうと思います。しかしながら、他方で、”再犯”でもあるため、「厳重警告」としたのだろうと思います(因みに、昔は、「注意」にも「口頭注意」と「文書注意」の2段階があると聞いたことがありますが、最近はどうなんでしょう?)
「口頭説明」に関しては、「表示」の定義上、「口頭による広告」も含まれる(公取委告示*)ため、他事考慮という訳でもないんじゃないでしょうか。もっとも、「口頭」によるものはエビデンスの関係でなかなか正式には認定しにくいとは思いますが。本件では、申告(タレこみ)情報やモニター情報、更にはミステリー・ショッパーによる情報も収集のうえでの判断ではあろうかと思います。
*http://www.jftc.go.jp/keihyo/files/3/shiteikokuji.html
(なお、http://www.jftc.go.jp/keihyo/keihyogaiyo.htmlも併せてご参照)
そうはいうものの、「表示」と「説明(告知)義務」との区別が曖昧になってしまうのはご指摘のとおりかと思いますし、契約法の法理(民事)との兼合いも問題になるところかとは思います。ただ、これは、宅建業法とか消費者契約法などでも出てくる論点かと思います。
投稿: 監査役サポーター | 2007年11月19日 (月) 23時30分
問題点の整理ありがとうございました。
なるほど、口頭による広告というものも対象になるんですね。私は知りませんでした。(ただ、公取委の告知内容をみますと、やはり今回は文書自体のみを審査対象としておりますので、私はやはり問題は大きいのではないかと思っております。公取委の公式見解ではありませんが・・・)
説明義務と表示の区別は峻別すべきだと思いますし、もし相互に関連するというものでしたら、ガイドライン等で公取委の考え方を(一般論で結構ですので)示してほしいと思いますね。
投稿: toshi | 2007年11月20日 (火) 12時18分
竹村です。僕には、ワンクリック詐欺の別頁にある規定に小さく書いてある「クーリングオフはできません。」というアダルトサイトと同じにしか思われません。物を売る(また視聴率をとるため)なら、一般企業も詐欺も同じようになってきたとしか思えないし、世の中、信じられるものがなくなってきたということかと思われました。
投稿: 竹村 | 2007年11月20日 (火) 17時07分