赤福再生プログラム(私案)
昨日(11月12日)、赤福社より農水省に対して改善報告書が提出されたようでありまして、赤福社HPにはその概要(改善報告書概要)がリリースされております。(なお、ニュース写真を見ますと、ずいぶんと分厚い「改善報告書」のようでありますが、おそらく概要のなかで紹介されております「コンプライアンス・プログラム」「衛生マニュアル」「生産マニュアル」等の添付書類が多くを占めるのではないかと推察されます)最初はJAS法関連だけの改善内容かと思っておりましたが、中身は再生プログラムといっていいような内容と理解できそうですので、すこしとり上げてみたいと思います。
もちろん改善報告書の概要からの印象(つまり報告書そのものは読んでおりません)でありますが、原因究明におきましても、また改善策の概要におきましてもたいへん寂しい内容であり、これで本当に農水省は「改善策としては満足」と判断できるかは疑わしいように思います。もしこの内容で農水省が了解する、ということですと、今後同じようにJAS法違反を問われる企業はずいぶんと楽になるなぁと思いますね。といいますか、健康被害が出ていない場面における「食の安全、安心」を守ること(もしくは消費者の信頼を裏切ること)は、こういった内容でいちおう急場はしのげる・・・と考えてよいものなんでしょうか。(一時期は経営者トップの交代もあるのでは・・・と囁かれておりましたが)
この改善報告書から読み取れる「改善策」といったものは、事業規模の縮小を赤福社は本気で考えている、といったことぐらいであり、そのほかは単に「今回の事件への反省」に過ぎないと思います。もし現経営トップの方が、そのまま代表者として残ることを前提とするのであれば、本当に不祥事の再犯を防止するための施策を織り交ぜる必要があると思いますし、それではじめて行政も一般市民も納得するのではないでしょうか。本日提出されました「改善報告書」はどちらかといいますと、「今後二度と不祥事は発生させない」といった観点からの法令遵守態勢確保のための施策であります。しかし金融機関ならともかく、一般事業会社である赤福社が「二度と不祥事を起こさない」ことはありえないわけでして、「不祥事はかならず起こしてしまいます」といったリスク管理態勢構築の視点から出発すべきであります。そうでなければ、現実の再発防止策検討など、本当に不祥事を防止するための思考が「美辞麗句」を前にして停止してしまいます。
ということで、赤福社の不祥事再生プログラムというものを私案として検討してみましたが、私は最低でも以下の点について明確な宣誓が必要だと認識をしております。つまり、これからも不祥事を起こしてしまう可能性はあるけれども、その発生頻度を下げて、早期に発見して、不祥事による損害をできるだけ縮小するために努力します・・・といった観点からの誓約であります。
1 赤福製造過程を「見える化」する(工場見学のススメ)
先日、(日弁連人権大会の折)浜松にて、うなぎパイの工場見学をしてきましたが、見事なほど、2階から製造、包装、検品作業まで見学できます。(ただし従業員の方々の人格権保護のため、工場内の撮影は禁止)予約をすれば係員の方の説明までお願いできます。そして、見学ができない製造工程の特定、なぜ見学ができないのか、という点についても説明があります。とりわけ(映像ビデオにて)ロボットと人間の共同作業による製造工程は、たいへん美しいものでありました。もちろん、見学ができるからといいましても、素人をごまかすような不正をはたらくことは容易かもしれません。しかしながら、「誰でも工場を見てください」といった会社の姿勢自体がとても重要なことだと思いますし、こういった不祥事で信用を毀損してしまった赤福社こそ、こういったパフォーマンスが必要ではないかと思います。(観光バスを誘致するなど)そこに商業的な意味が含まれていてもかまわないと思います。「説明義務を尽くすこと」を体現するには、もっともいい方法ではないでしょうか。
2 内部通報制度の実施、外部からの「内部監査人」の登用
(不祥事発生頻度を下げるための)「ヒヤリ、ハット」事例の集積、(不祥事早期発見目的のための)内部通報制度の充実、そして(不祥事による発生損害の極力低減化のための)クライシスマネジメント態勢の構築など、いわゆるリスク管理としての不祥事防止策は赤福社には不可欠だと思います。そういった内部統制システムの構築(整備運用)は、圧倒的な力を持つ創業者トップの前では機能しないことも考えられますので、運用の客観的な検証と、その検証結果に基づく適切な提案が可能な内部監査人を外部から登用するべきだと思います。(こういった事態のために、公認内部監査人の方などに活躍の場が付与されるべきであります)なお、「改善案の概要」のなかにも、「内部監査室の設置」というものがありますので、ひょっとしますと、実際の改善報告書には、このあたりのことが詳細に記述されているのかもしれません。
3 社長の専心義務の明記、もしくは社外取締役の招聘
先の改善報告書を読む限り、今回のJAS法違反は現場担当者に責任があり、経営トップは何も悪いことはしていない・・・といった趣旨に読み取れるのですが、いかがでしょうか。つまり、改善にあたって、経営トップが何をすべきか・・・という点がまったく見えてこないのであります。(たとえば「不適切な表示の禁止」を改善策として掲げるのであれば、改めて表示に関する責任者はトップにあって、そのことを明記するのが当然であると思いますが、そういった責任者の選定等についてはなんら触れられておりません)たとえこのたびの件について、経営トップが知らないところで発生していたにせよ、(本当にそうだったのかどうかは疑問がありそうですが)長年放置されていたことへの最終責任は経営トップにあるわけですから、社風をどのように変えていくべきなのか、経営トップがどう考えているのか、わかりやすい施策が必要であります。そのためには、地元の名士として忙しい赤福社の社長さんが、一定期間は赤福社の仕事だけに没頭することを宣誓したり、それが無理であるならばせめて社外から取締役を登用して、「会社は変わった」というイメージを社内にも、社外にも宣誓する必要があるのではないでしょうか。
2,3日前にコメントをいただいた「地元」さんがおっしゃるように、とてつもなく力をお持ちの創業者一族の方々のようですので、いろいろと再生にあたりましては障碍も多いかもしれません。また、すいぶんと偉そうに勝手なことを書き連ねましたが、私の周囲にはそろそろ赤福再開を希望する声も聞かれるところも事実であります。しかしながら、先にあげたような施策について、経営トップが受け入れ困難である・・・といった状況であるならば、それはもう「何も変わらない」ことの証左でありまして、今後の信用回復も覚束ないものだと思います。
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コメント
コンピュータ屋です。
おはようございます。
厳しい再生案のご指摘ですが、本気の対応とはこれぐらいのレベルのことを言うのかと思います。
「見える化」や「内部統制システム」および「公認内部監査人」のご提案、まさに私の今勉強中の「統合的」、「本来の」内部統制システムの構築につながると勝手に解釈しています。
「オペレーション」「レポート」「コンプライアンス」
これらの目的のために内部統制を回していくべきと理解しています。
また、赤福の社長として、言いっぱなしではなく、「改善策」の実施経緯を継続的に公表していかれるべきとも思います。
投稿: コンピュータ屋 | 2007年11月13日 (火) 09時40分
えー、このたびの「改善報告書」なるものを読んでおりませんので
その件はさておき、管理人さまのご提案に関しひとことだけ申し上げます。
>そういった内部統制システムの構築(整備運用)は、圧倒的な力を持つ
>創業者トップの前では機能しないことも考えられますので、運用の客観
>的な検証と、その検証結果に基づく適切な提案が可能な内部監査人を外
>部から登用するべきだと思います。(こういった事態のために、公認内
>部監査人の方などに活躍の場が付与されるべきであります)
お分かりのうえご提案されておられると存じますが、
監査役設置会社(つまり日本特有)の場合、内部監査人は経営者・社長の
直属的組織であることがほとんどであります。
つまり、たとえCIA資格や弁護士資格を持つようなひとを登用しても
「内部監査」という形式のなかでは経営者自ら抜本的改革に積極的に
ならない限り、具申に対し耳を傾けられず無視されてしまう恐れが
高いと思われます。
これは、委員会等設置会社に於いて監査委員会が内部監査人を事実上
指揮下に置く、というような形式に移行しなければ解消しませんし、
監査委員会のメンバー(外部取締役)が経営者から権限的にも精神的にも
独立した存在である必要があり、株式非公開のオーナー企業の場合
実際にはかなり困難であると存じます。
当たり前の話ですが、そして内部統制の話もコンプライアンスの話も
どんなに議論を尽くしても全部最終的にはここに戻ってきてしまうの
ですが、「経営者の自覚」、もうこれが全てであり、自覚なき企業は
潰れるという認識をいかに持ってもらうか、これが最大のテーマ
だということなのだと思います。
投稿: 機野 | 2007年11月13日 (火) 09時43分
コンピューター屋さんの「運用状況の公表」については、たしかに視点が欠落しておりました。上場企業ではないので、公表はどうかな、とも思ったのですが、やはり一般市民とか地域経済との関係からすれば、経緯を公表することも大切ですね。費用対効果の問題や、一般の従業員の方への浸透度(わかりやすさ)という視点にこだわっておりました。
機野さんのご指摘は難問です。関係者の方々には失礼な言い方かもしれませんが、今回の件がどれだけ「こたえたか」にもよるのではないでしょうか?本当に事業再編等、切羽詰った状況にあるならば、たとえ経営者直轄の部署だとしましても、経営者にもモノが言えるような内部監査人というものを置くことはできないでしょうか?ご指摘の点は永遠の悩みといいますか、「形だけ整えればいいんでしょ」みたいなところでみんなが納得してしまうことで形骸化するおそれといいますか、そういったところがどれほど効果的なんだろうかといわれると反論もむずかしいのですが。
たしかCIAの資格保有者も倍増しているとお聞きしておりまして、そういった方々の活躍の場面が増えると、内部監査自体の発展にもつながるのではないか、と思いますが。(甘いですかね? 笑)
投稿: toshi | 2007年11月13日 (火) 11時31分
内部監査人が経営者によって選任され給与を支払われている以上、
経営者に対して「社長、これは間違ってます」と、ものを言うということは
首を覚悟してということになります(極論ですが)。
どういう場合であれ、絶対にそこまでしなければいけないということなら
私は異動を願い出します(笑)。
ここでよく言われるのが
やはり(外部)監査役や外部監査人との連携ということです。
明らかに違法の場合はともかく(それは外部告発という方策があります)
そこまでは至らないような場合は、監査役や公認会計士らと相談して
経営者を説得するということが求められるのだと思います。
ここでふと思ったのですが、現在問題になっている弁護士の雇用問題とも
関係してくると思うのですが、
この際、「株式公開会社は法務担当者として弁護士資格のあるものを
1名以上雇用すること」というルールは如何でしょうか?
むろん、今朝の報道にもありますように、法曹関係者といっても
さまざまな方々がいらっしゃるわけですが(笑)、
法務というものを企業の中で、より義務付けていくことは
「あり」だと思うのですが(ジャストアイディアです、すみません)。
企業にとってこれは存在するだけで物凄いプレッシャーになると思います。
株式を公開していない企業にあっても、弁護士を雇用しているということは
それだけで社内外への効果は大きいでしょう。名前だけでは困りますが。
投稿: 機野 | 2007年11月13日 (火) 12時43分
toshiさんに、クレームを申し上げるつもりはありませんが、物事を考えるときに、どうして原理原則に即してシンプルに考えられないのか、疑問を感じます。
ご指摘の通り、「先の改善報告書を読む限り、今回のJAS法違反は現場担当者に責任があり、経営トップは何も悪いことはしていない・・・といった趣旨に読み取れる。つまり、改善にあたって、経営トップが何をすべきか・・・という点がまったく見えてこない」という点には、私も同感です。であれば、この問題の根幹は、この会社の統治体制にあるのではないでしょうか。
言うまでもありませんが、日本の企業の統治体制は執行部と監査役の二本立てになっています。なぜ二本立てになっているかというと、執行部の行う業務が常に正しいとは限らないからです。そうしたときに企業内にチェックをする役割が必要であり、それを監査役は担っています。
こうした統治体制のあり方からすると、赤福社において統治体制が十分に機能しているとはとても思えません。執行部は間違った判断をしているわけですから、監査役がその問題点を指摘し、是正を進言しなければなりません。30年続いてきたこと、しかも執行部が一致団結して行っていることに異議を唱えるには相当な勇気が必要です。しかし監査役がその任を果たさなければ、内部告発を誘発し、経営の危機を招きます。
今回の事例はその典型例ですので、解決策はまずは統治体制の整備を図ることに尽きるのではないでしょうか。具体的には、監査役の機能の果たせる監査役を選任することです。社内でも社外でも機能さえ果たせれば、どちらでもいいと思います。この点をスキップして、いきなり内部監査人が出てきたりするところに、議論の混乱を招く源があるのではないでしょうか。枝葉末節にとらわれず、骨太に原理原則に即して考えることの重要性を痛感します。
投稿: 酔狂 | 2007年11月13日 (火) 14時18分
>酔狂さん
すいません。ご指摘ごもっともです。
ただ、原理原則にしたがってシンプルに・・・というんはそのとおりでありますが、これまでの報道経緯からみて、既存の監査役制度に期待できるものだろうか・・・と思いました。
社外監査役に過度の期待をかけることは(酔狂さんは)あまり期待されないところでしょうし、常勤さんの監査役としての活躍に期待をされるということですよね?そこで「どうだかなぁ」と逡巡してしまいました。それに代替できるものとして、検討してみたつもりです。
なお、私なりに申し上げますと、内部監査人というのもかなりシンプルなガバナンスに属する問題であると思うのですが。いかがなもんでしょうか。
投稿: toshi | 2007年11月13日 (火) 19時30分
内部監査人は、組織上、トップの指揮下にありますので、どうしてもトップに対する意見具申には限界が出てきます。もし外部にいい人がおられれば、内部監査人ではなく、監査役としてお迎えしたほうがいいのではないでしょうか。
社外監査役に私は余り期待していませんが、それは平時という前提です。現在のような危機管理下においては、適切な方がおられれば、積極的にお迎えすべきではないかと思います。私が社長の座にあれば、今回のような不祥事の絶無化を期して、食品行政の専門家を社外監査役として招聘することに尽力します。改善報告書に記載されているような対策では、早晩、ボロを出し再発する公算が大きいと睨んでいます。そのときに食品行政のプロがいれば、絶大なチェック機能が期待できるのではないかと期待します。
それだけに、改善報告書が監査役には全く手をつけず、内部監査室の新設でお茶を濁そうとする内容に、現在の赤福社の限界を感じてしまいます。
投稿: 酔狂 | 2007年11月14日 (水) 13時26分
酔狂さまに同意いたします。
こういう場合、オーナー家と経営との分離を事実上強制する方法は
ないものでしょうかねえ。
投稿: 機野 | 2007年11月14日 (水) 17時05分
船場吉兆の方が俄然激しく動き出しましたので、メディア的には本件はもう幕引きなんでしょうか。随分寂しい内容の割には、メディアも静かですねぇ(農水省も?)。私は、その余りの無味乾燥さに、思わず昨年5月以降世を席捲した「内部統制の基本方針」なるものを想起してしまいました。
「概要」しか公表されていませんので、あくまでもそこからの印象ですが、まず気になるのが「原因追及」の甘さです。通常、原因追及という作業は、「なぜ、なぜ?」を繰返すことによって真の原因にたどり着くことができるものです。「なぜ法令遵守/コンプライアンスの意識が欠如していたか?」「何故品質が疎かになったか?」・・・等々。
次に、「改善(対策)内容」も、やれ「組織をつくる」だの「マニュアルを策定する」だの、ステレオタイプですね。というか「内部統制の基本方針」の真骨頂です。原因追及の甘さと対策の表層さは相関関係がありますから、仕方ないのでしょうが、「法令遵守の意識が欠如した人が作ったマニュアルって、なんだかなぁ・・・」と突っ込みを入れたくなってしまいます。また、従業員数の多くないこの規模の会社で、こんなに組織を沢山作っちゃって大丈夫なんでしょうか。あるいは、殆ど1人だけとか全部兼任とかだったりして・・・。「コンプライアンス諮問委員会」(因みに、なんで7人なんでしょう?「七人の侍」?「七賢人」?)も結構なんですが、東京や大阪の先生方がそうそうきめ細かく面倒を見てくれるとも考えにくいのですが(もう一つ因みに、「コンプライアンス」と「諮問」というのは、結構結びつきにくいコトバのような気がして、この委員会のネーミングってなんかヘンな印象を受けます。この二語の間に隠されている助詞や接続詞がミソかなぁ)。
縮小路線に転換するようですので、もしこれが真意ならば、ひょっとしたら”一歩”を踏み出しているのかもしれません。しかし、これは必然的に「リストラ」に向かう筈ですから、これに触れていない以上は、真意とはちょっと受け止めにくい、というのが素直な理解じゃないでしょうか。あるいは、「触れていない」のではなく「現段階では触れられない」というのが真相だとすれば、事態はもっと深刻かもしれません。
結局のところ、(「内部統制」ではなく)「ガバナンス」の問題に踏み込めなかったことが全てを物語っているような気がしますし、「諮問委員会」の先生方の限界も示しているように思います。
ともあれ、初詣客で賑わう頃には、また首相一行が参拝に訪れる頃には、完全復活を遂げられているといいなぁと思いますし、伊勢市のサッカー少年達の夢を頓挫させないことを願うばかりです。
投稿: 監査役サポーター | 2007年11月15日 (木) 00時10分