金商法上の課徴金に加算・減免制度導入か?
(せっかくアワードにノミネートされているにもかかわらず、またマニアックなお話で恐縮です。。。)今年の6月に金融商品取引法上の課徴金引き上げに関するエントリー(課徴金引き上げにより法廷闘争勃発? )を記述しておりますが、8日深夜の日経ニュースによりますと、いよいよ金融庁が金商法上の課徴金制度について加算・減免制の導入を検討するようであります。(課徴金に加算・減免制 金融庁検討)
そもそも金融商品取引法上の課徴金制度とはどういうことかと申しますと、インサイダー取引や、相場操縦、有価証券虚偽記載などの不正な行為が個人もしくは法人に認められる場合、もちろん金商法には刑事罰も用意されているわけでありますが、刑事罰を課すよりも柔軟かつ迅速に行政処分で対応することで監督官庁の限りある資源を有効に活用し、「資本市場の安心、信頼」を確保していこう、といった制度であります。(ちなみに独占禁止法上の課徴金は昭和52年から適用されておりますので、金商法上のものよりも歴史はかなり古いですし、審判手続きによる救済の歴史もあります)ところでこの課徴金は、そもそも刑事罰ではありませんので、「制裁的な意味」で課してしまいますと憲法39条(二重起訴禁止)に反するおそれがある、ということで、①ペナルティというよりも不当な利得分の返還ということで対応する、②行政機関は、要件該当事例には、裁量の幅がない(つまり法で算定根拠を示して、その法律どおりの金額を徴収する)、③だからこそ、虚偽記載やインサイダーについては対象者の故意過失にこだわらない(うっかりミスでインサイダーやっちゃった、とか、まちがって有価証券報告書に虚偽の数字を書いちゃった、のような場合でも課徴金処分の対象となる)ということだったわけであります。平成16年の証券取引法改正によって課徴金制度が導入されて以来、先日のカッパクリエイト社の社員に対する課徴金納付命令勧告で27件目となりましたが、これまで一件も課徴金納付命令に対する反論の答弁書が提出されたことはなく、実質的な審判手続で納付命令が争われる事案というものは見当たりません。(著名なのは、あの日興コーディアルに対する5億円の課徴金納付命令ですよね)証券取引等監視委員会には、専門の部署(課徴金調査・開示課)がありますので、そちらで非常に多数の案件が調査の対象になっております。刑事手続きのように調査に厳格なデュープロセスが要求されませんし、独禁法上の課徴金制度のような実質的証拠法則も適用されませんので、金融庁としては争われても、自主規制機関や証券会社の協力をバンバン促して、証拠はそろえ放題・・・ということにもなりそうであります。
こういった運用がそろそろ見直しの時期に来ておりまして(衆参両議院における改正証券取引法附帯決議)、資本市場の信頼確保のためには課徴金をもっと制裁としての意味で使っていこう、という意見が多数を占めているようであります。したがいまして、こういった「加算・減免」制度の導入も時代の流れではあろうかと思います。(最近のニュースはこちらです。東大や明治大学の著名な刑事法学者の先生方も、憲法39条違反にはあたらない、行政比例原則さえきちんと適合していれば問題はない)とのお考えのようですので、おそらくこのまま加算・減免制度は導入されていくのではないかと思います。また、証券取引関連に詳しい著名な学者の先生方も、市場の公正性、透明性確保のためには、課徴金制度はドンドン使うべし・・・との意見が多いわけですから、こういったユルユルの運用への流れは止められないのが現実ではないかと思います。(そういえば、改正公認会計士法の31条の2におきましても、課徴金は会計士報酬相当額の1.5倍を徴収できるとされておりますので、すでに行政制裁的な発想は金融庁にはあるようです)
しかしこの加算・減免制度といったものが、これまでのように課徴金納付命令の勧告に文句も言わずにしたがうということになりますと、上で述べましたように「ユルユル」の手続きであるがゆえに、運用面において法の支配に背反するおそれを孕んでしまう可能性が出てくるのではないでしょうか。(世間ではあまり心配されていませんけど・・・)行政制裁的な適用がなされるにもかかわらず、対象者の故意過失も厳格に審査されないままにペナルティを課されてしまう・・・というのはいかがなものでしょうか。ましてや、裁判所の判断を仰ぐことなく、行政が情状を酌量して重くしたり、軽くしたり、といった運用は果たして妥当なものと言えるのかどうか、少なくとも加算・減免制導入にあたって、現行の課徴金制度の骨格部分を変えていかなければ不当な行政裁量行為がまかりとおるように思います。また一方におきましては、「減免制」も導入されるということは、審判手続きのなかで、対象者側から減免事由を主張することも可能になってきますので、いままで使われてこなかった審判制度が利用されるインセンティブになるのかもしれません。ホントいままでは、「利益の吐き出し」といった運用であり、かつ行政裁量が否定されるところでの課徴金処分ということでしたので、それほど問題が表面化しなかったわけですが、課徴金納付命令を金融庁に勧告されること自体が、上場企業の社会的評価に大きな影響をもたらすのが日本の現状であるだけに、今後は法律家、自主規制機関、証券会社を含めて、独禁法上の課徴金制度の改革なども検証しながら十分協議していく必要があると考えております。(なお、日本公認会計士協会が、改正公認会計士法で制度化された課徴金制度の算定基準について、その具体化を定めた会計士法施行令のパブコメでおもしろい法解釈を展開しております。財務諸表監査と内部統制監査の報酬金額の合算分を課徴金算定の基礎とすることはけしからん、とのことでありますが、また時間のあるときにでもエントリーのなかで検討してみたいと思います)
| 固定リンク
コメント
「日本公認会計士協会が・・・会計士法施行令のパブコメでおもしろい法解釈を展開・・・」とおっしゃるので、早速ちょっと覗いてみました。なるほど、これは面白い・・・。
①「納税者」の立場にたてば、「税率」はどうしようもないとすれば、「課税標準」を極力引き下げたくなる気持ちは理解できます。(「課徴金」を租税になぞらえることに意味はありません。単なる比喩です。)
②しかし、財務諸表監査と内部統制監査って、そんなに容易に区別できるものなんでしょうか?(作業や思考パターンが明確に区別できることが、課徴金算定基礎に含めないことの前提であると、無前提に考えています。)
i)内部統制監査は、同一の監査人(監査法人内の監査チームも同一)が財務諸表監査と一体と行われ、それぞれの監査の過程で得られた監査証拠が相互に利用されることが予定されているんではないでしょうか?(だからといって、厳密に区別できない訳でもないのかなぁ・・・?)
ii)パブコメ中で、内部統制監査の報酬をも算定基礎に含まれることとした場合の不都合として、「(内部統制監査において監査人が不適正意見を表明したり、経営者自身がその内部統制を不十分であるという評価をしているケースで、これを監査人が適切と意見表明している場合)」を例示していますが、財務諸表監査において虚偽証明をした(してしまった)場合にこういうこと(本当は「内部統制もNG、財務諸表もNG」であるところ、「前者のみ正直にNGといい、後者はOKと偽る」という事態)って事実としてあり得るんでしょうか?あるとすると、どういうインセンティブや動機でするんでしょうか?
③会社法(事業報告)でも金商法(有報)でも、(会計)監査人の報酬等の開示については、いわゆる監査業務(一項業務)と非監査業務(二項業務)の区分開示は求められていますが、更に進んで前者を財務諸表(計算関係書類)監査と内部統制監査とに区分して開示することまでは求められていません。課徴金算定基礎としてその分水嶺を設けようというのなら、開示の場面でもそうしないと不公正である(お上は納得しない)ような感じもするんですが、どうなんでしょうか。
④ここから先は、全く素っ頓狂な飛躍で恐縮なんですが・・・。
今回のJICPAのロジックを、会社法上の監査役の責任限定(報酬等2年分まで)に置き換えますと、その算定基礎の考え方として、例えば、会計監査の任務懈怠により生じた会社の損害については、監査役報酬等のうち会計監査に係る部分を、業務監査の任務懈怠により生じた会社の損害については、業務監査に係る報酬を、それぞれ基礎とせよ、という主張(物凄く荒唐無稽ですよね)にもなり得るような気がして・・・と言ったら、アホかと怒られるでしょうね。
投稿: 監査役サポーター | 2007年11月12日 (月) 23時24分