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2007年12月30日 (日)

みなさま、よいお年をお迎えください。(ご挨拶)

今年1年、当ブログをご愛顧いただき、誠にありがとうございました。本業的には、うれしかった裁判もあれば、人に言えないほど恥ずかしい裁判もあり、またコンサル業務も本格的に開始した年で、なかなか刺激的で楽しい1年でした。

ブログ関連で今年一年を総括しますと、まずなんと言いましても、特徴的だったのが「著名ブロガー」の方々と、本当にたくさんお会いできたことです。とりあえず、大阪でお会いした方々は以下のとおりです。

① まるちゃん こと 丸山満彦先生(いやぁ、予想以上に濃いーぃ方でしたけど、頭の回転が速くて楽しい方でした。オフ会にも、東京からお越しいただきました。)

② 行方先生(金商法関連で、10月以降はたいへんな状況だったにもかかわらず、解説本を執筆されましたよね。)

③ 葉玉匡美先生(どんな質問をしても、ポンポンと答えが帰ってきますし、「ここだけの話」をたくさん聞かせていただき、たいへん勉強になりました。サービス精神旺盛なところが、日経ビジネス弁護士第三位の大きな要因なんでしょうね)

④ 大杉謙一教授(学者の先生のなかには、こちらから世間話を持ち掛けないと、なかなか盛り上がらない方もいらっしゃいますが、大杉先生の場合、いろいろな「引き出し」があるようで、楽しかったですね。といいますか、実務に関してもとても勉強熱心でいらっしゃるのが印象的でした。ちなみに、このときはneon98さんもご一緒でしたね。)

以下は東京でお会いした方々です。

⑤ ろじゃあさん(ろじゃあさんのことは、どこまで書いてよいのかいつも悩むところでありますが・・・。また、来年もお世話になると思います。どうかよろしくお願いします)

⑥ 中山龍太郎先生(いわずと知れた47thさんです。私がブログを書き始めるにあたり、もっとも影響を受けた方です。いやいや、ぶっとびましたです。ホント、優秀このうえない。その理由は、またの機会に)

⑦ 磯崎哲也さん(「さん」付けのほうが似合っていらっしゃるようです。アルファブロガーの大先輩で、こちらもやっとお会いできました。私が実は「クウォーターの東京人」であることをご存知なかったようで、たいそう驚いていらっしゃいました。ちなみに、私は井草幼稚園、杉並区立井荻小学校の出身なんです)

また、ブログ関連では、神戸のligayaさん、大阪のgrandeさん、澤村八大先生、東京のひまわりてんびんさん、Deaconさん、埼玉のよっちゃんさんともお会いでき、「リアルの世界」でブロガーの皆様方と対面できたことは本当に楽しい出来事でした。来年はぜひ、リアルの世界で「信託大好きおばちゃん」さんと、お会いしたいです(笑)また、もうおひとり、私のブログの「お師匠さん」であるbunさんにもお会いしたいのですけど、こちらはちょっと無理っぽいですね(^^; お会いしないところが「大人の楽しみ方」だったりもするわけで。

また、「リアルの世界」といえば、関西オフ会が楽しい思い出です。あの20人のオフ会をきっかけに、お越しになられた方々がお知り合いになり、いまもいろんな活動をされているのをお聞きしますと、望外の幸せです。関西あたりでは、あのような会合を希望されていらっしゃる方も多いようです。来年はぜひ金融機関の方々を対象としたコンプライアンス研究会をやってみたいと思いますので、できる範囲でまた検討してみますので、どうかよろしくお願いします。

ブログ記事との関連では、あの京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授の講演会はすごいタイミングでした。あの二次会の翌日から、山中先生は「世界のヤマナカ」になってしまったわけで、私なんかが「山中さ~~ん」なんて、声をかけられなくなってしまいました。あまりにも日本全国の期待が大きいために、いまは逆に少し心配になってきました。

また、いつもコメントをいただく論客の皆様はじめ、「お気に入り」やRSS登録されておられる方々、今年一年、お世話になりました。本業につきましては、どうしても守秘義務がありますので、エントリー内容には制限があるのですが、また来年もマイペースで頑張りますので、「ビジネス法務の部屋」をどうぞよろしくお願いいたします。

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2007年12月29日 (土)

三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その4)

帰省ラッシュが始まっているようでありまして、私のブログもアクセス数が減少傾向にあります。しかしながら、三洋電機社(オグシオ人気でのバトミントン6連覇おめでとうございます)の不正決算の件、もうすこしまとめておきたいので、ご自宅やご実家でもPCをご覧の方々はどうかおつきあいください。

さて、前回の(その3)におきまして、平成13年3月期ころの金融商品に関する会計基準・実務指針につき、果たして「三洋減損ルール」は公正妥当な会計慣行に該当しなかったのかどうか、といった問題点を検討しておりました。日本のトップクラスの監査法人(中央青山監査法人)が、平成13年当時「適切」と判断していたルールですから、現時点から振り返って「不適切」と判断されるのであれば、それはなぜなのか、個人的には非常に興味があるところです。もちろん、この金融商品会計基準の今年までの運用や、最近の社会情勢を考慮して「不適切」と判断することは許されませんよね。当然のことながら、平成13年当時の社会情勢や、上場企業他社における実務慣行、平成13年ころまでの取扱いなどを(当時にもどって)判断する必要があるわけでして(つまり、三洋減損ルールはおかしい、ということが平成13年当時において誰もが感じることができたかどうか)、おそらく「過年度決算調査委員会」のメンバーの方々も、平成13年当時に触れることができた資料および平成13年当時に集めることができた情報、平成13年当時の会計士さんの一般的な認識などを十分認識されたうえで、「三洋減損ルールは当時の状況からしても不適切だった」と判断されたものと推測いたします___

実は、本業含め、いろいろと忙しかったために、これまで12月25日に三洋電機社HPで公表されておりました(適時開示情報)「過年度決算調査委員会調査報告書について」(42ページあります)を読めておりませんでした。今日、これを熟読しましたが、(その3)でいろいろと書いておりました疑問もかなり解消いたしました。この報告書は今年の「外部第三者委員会報告書」のなかでも貴重な逸品ではないでしょうか。今年のクリスマスは、人にプレゼントをあげるばかりで、何ももらえませんでしたが、ようやく自分ももらえたような気分であります。三洋電機社の元役員さんには失礼ですし、我々監査役にとりましてはたいへん耳の痛い内容を含んでおりますが、外部監査人と監査役が「どのように連携協調していくべきか」といった疑問への具体的な解決を示すものでもあり、私自身、たとえば社外取締役ネットワークの関西での勉強会などで、ひとつの教材としてご提案申し上げようかと思いました。とにかく「過年度の会計処理が適切だったかどうか」といったあたりを、会計専門家の方を中心として判断していく過程は今後の参考になろうかと思いますし、証券取引法監査、会社法監査において、会計士の意見には「セカンドオピニオンはあるか」といったあたりを考えるモノサシになるかもしれません。

この調査報告書(要旨)によりますと、まずは平成11年に策定された金融商品会計基準および平成12年に公表された実務指針を平成13年当時には(異論はあるかもしれないが)旧商法32条2項の「公正な会計慣行」に該当する、としています。(6ページ)そこでつぎに「三洋減損ルール」も、この公正な会計慣行に該当するかどうかを検討するわけでありますが、この金融商品会計基準(実務指針)の策定に関与された方への聞き取りなどをもとに、①導入時における三洋電機子会社の財務状況、②重要性判断に基づく子会社選択の余地はあるが、実際には選択のための作業をしていないこと、③将来収益回復可能性判断はあくまでも経営者の主観的判断、ということを尊重しつつも、その事業計画案作成のための客観的な資料等がみあたらないこと などから、見事に三洋減損ルールの「公正な会計慣行」性は否定されております。また、これらの判断過程において、元役員らの主張と、この外部委員会の結論とでは対立している構図もうかがわれます。やはり、この委員会報告によりますと、平成13年当時の状況に立ち返って考えても、この三洋減損ルールは「公正な会計慣行」たりえない、といった結論に至ったようであります。

このたび三洋電機社は、こういった委員会の報告内容を尊重して、決算短信等の訂正を行ったものでありますので、配当可能利益(旧商法適用下)が存在しないにもかかわらず、多額の配当を行ったこととなるわけで、その結果各紙報道されておりますように「違法配当を認めた」ことになろうかと思われます。(ただし、法定準備金の取り崩しによって配当は可能だった、という論点もありますが)

ところで違法配当が故意によるものか、過失によるものか、という点が問題提起されているニュースをみかけますが、旧商法上の違法配当につきましては、故意過失に関係なく、取締役の損失補填責任が発生する、というのが判例の立場であります。(旧商法266条1項の解釈問題であります)たとえば、東京地裁決定平成12年12月8日(金融法務事情1600号94ページ以下)は、違法配当にかかる旧商法266条1項1号の取締役の損害賠償責任は無過失責任を定めたものである、としつつも、かりに法が理想とするような勤勉かつ有能な取締役であったとしても、取締役会決議に反対することが期待できないような事情がある場合には、取締役が決議に反対しなかったことについての違法性は阻却され、旧商法266条1項1号の取締役の責任は免れるとして、実際に取締役には法的責任がないとしたものがあります。(なお、この事案では社長の権限が絶大で、取締役会で反対の意見が言えなかった等によるものではなく、取締役に就任してまもなくの決議であって、その議案の内容を熟知していなかった、といった点に違法性阻却の原因があったようです。また、監査法人による承認があったことは、そもそもこの違法性阻却事由には該当しないようであります)つまり、よほどの特殊事情でもない限りは、決算承認に関する取締役会で承認をした取締役の方々の違法性が阻却されることはないわけですので、「違法配当」を認めつつ、その法的責任を免れることは至難の業ではないかと思われます。たとえば財務担当役員の独断で三洋減損ルールが適用されようが、全社的に財務会計的知見に乏しかったとされようが、監査法人が適正意見を出して承認していようが、あまり関係ないようにも思われます。また、会社としては、取締役の責任を追及することによって得られる利益と、訴訟提起に要する費用との「費用対効果」を考慮することで、損害賠償責任を追及しない、といった理屈についてもあまり説得的でないように思います。むしろ、(一般投資家保護のための)証券取引法上の「虚偽記載」を認めて減損ルールの修正をはかったことと、(会社債権者保護のための)会社法上の違法配当の基準となる会計基準の取扱いとを区別して考えるなどによって責任回避の理屈を考えるほうが妥当ではないかと思いますが、これは単なる思いつきにすぎませんので、また改めて検討してみたいと思います。

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2007年12月27日 (木)

三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その3)

朝日新聞ニュースの深夜版(12月26日深夜)「三洋不正決算 議事録『先送り』言及 意図的の可能性も」は、けっこう衝撃的な内容を含んでいるようであります。この三洋電機不正決算問題につきましては、今年2月ころの発覚当初報道の時点から、内部告発によって発覚したものとされておりましたが、私は三洋の関係者から証券取引等監視委員会へ告発があって、その事情を朝日が報道しているものと思っておりました。しかしこの朝日新聞の自信ありげな報道内容からしますと、実際に内部資料とともに、朝日新聞社に告発がなされていたようであります。

しかし、grandeさんもコメント欄でおっしゃるとおり、この不正決算は配当の違法性(違法配当か否か)が問題となっているだけに、2002年ころからの会計処理の違法性が論点となるはずでありまして、当時の三洋電機社における会計処理が公正妥当な会計慣行に従って処理されていたのかどうか、という点が今後大きな争点になってくるのではないでしょうか。(もちろん、朝日新聞ニュースのように意図的な先送りをはかった、ということについて、「違法と知りつつ、先延ばししてしまった」と当事者が認めるのであれば別でありますが、第三者委員会含め、故意による不正決算は認められないとされておりますので、事はそう簡単なものではないと思われます)つまり、02年当時に、公正妥当な会計慣行がいくつかあったのか、それとも当時の社会情勢などからみて、唯一のものだけがあって、三洋電機社がそれに従わなかったのか、そのあたりが問題になってくるのではないかと思われます。たとえ三洋電機社が、意図的に損失を先送りしたとしましても、損失引当金をすぐに積まなかったり、将来見通しとの関係で評価損をすぐには計上しなかったとしましても、そういった慣行が当時、実際に通用していたのであれば、「唯一の公正妥当な会計慣行」は存在しなかったわけでありますので、三洋電機社も、当時の会計監査人も会計慣行に従ったまでであり、セーフと判定される可能性もあります。(このあたりは、上記朝日新聞ニュースによりますと、三洋電機側と会計監査人側との長年にわたる協議議事録が残っているようでありますので、かなり詳細に事実認定が可能なのではないかと思われます。)

つまり、当時の事実関係からみて、会計基準の適用を誤っていたことが判明し、「虚偽記載であった」と認めることと、その会計基準を適用することが、社会の慣行として定着していて、それ以外の適用はおよそ間違いであることが当然とされており、今回修正適用した会計基準が「唯一」の処理方針であったと一般に周知されていたこと(つまり違法性を基礎付ける事実が認められること)とは別個の問題と解されます。このあたりは、私の過去のエントリーのうち「公正妥当な会計慣行」と長銀事件(その1)から(その5)あたりが参考になろうかと思われますので、お時間がありましたら、ご一読ください。このあたりは、法と会計の狭間の問題であり、私自身とても関心のあるところです。また「現場を知る」会計士の方や、経理担当者の方のご意見、反論等もいただけましたら幸いです。

そして、このように考えていきますと、「監査意見の相対性」なる概念を認めるのか、認めないのか、監査意見のセカンドオピニオンは存在するのか、しないのか、そのあたりの結論が、違法配当などにおける取締役、監査役の法的責任を論じるにあたって、きわめて大きな問題を提起することになるものと思われます。(詳細はまた続編のなかで検討してみたいと思います。)

PS 12月26日に金融庁のHPにおきまして、 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」(監査報酬の開示・監査人交代時の開示に係る部分)が公表されております。たとえば監査人の異動がある場合、会社側、監査人側いずれも、異動の理由を開示することになろうかと思われますが、会計処理についての意見が対立するような場合、またいろいろと問題が発生するケースも出てくるかもしれませんね。

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2007年12月26日 (水)

三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その2)

三洋電機株式会社の過年度粉飾疑惑につきまして、昨日(12月25日)過年度決算調査委員会より報告書が提出されたようでありまして、報告書を受領した三洋電機社が「過年度決算訂正に関する報告」を公表しております。過年度決算調査委員会報告では、監査役や会計監査人に対して、「有効かつ適切な監査をしたとは認められない」として、かなり厳しい回答をされているようであります。

代表者や財務担当取締役、監査役、会計監査人らの法的責任があるのかどうか、といった個別事例に関する意見は控えますが、とりあえず法的責任の有無について検討すべき視点をここに提供させていただこうかと思います。私が過去にエントリーいたしました「三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(1)」と「金融庁が三洋電機に課徴金納付命令見送り?」にそれぞれコメントをいただいた方々の意見であります。(いずれも、今年の3月ころに書いたエントリーでありますが、いま読み返してみますと、ずいぶんと恥ずかしいことを平気で書いています(^^;;このように恥ずかしいことを書いているにもかかわらず、非常に貴重なコメントをいただいているところに、改めて感謝いたします )

まず、元会計士さんのコメントでありますが、今回の三洋電機社の過年度決算訂正問題のどこが核心か、という点については、私もこの元会計士さんのコメント内容にほぼ同意見であります。(以下引用)

本件の争点は子会社株式の評価と言うことだと認識しています。子会社株式の評価は原則として、当該子会社の財政状態(純資産)及び今後の事業計画により判断します。通常はこの純資産から算出される実質価額が取得価額の50%程度を下回った場合には、財政状態が著しく悪化していると考えられます。

しかし、著しく悪化している場合でも、事業計画等で回復可能性が十分な証拠によって裏づけされる場合には、減損処理を行なわないことが認められています。本件は、おそらく財政状態の著しい悪化は明確になっていたが、事業計画等の評価の判断の問題であったと思われます。事業計画の評価は毎期行なわれるので、時点が異なれば当然評価が変わり、ある時点で減損処理を行うという判断になります。
問題は事業計画の評価を監査法人が適切に行なえるか?と言うことだと思います。一般的には、会社が公式に作成した事業計画を監査法人が否定することは、非常に難しいです(否定できる根拠が無い)。

1~2年経過した時点で、当該事業計画が達成できていないなどの明確な根拠が無ければ、事業計画を受け入れて減損処理を見合わせるのは、監査人として止むを得ない判断だと思います。すなわち『監査法人が主体的に立証』というのは、不可能であり、仮に投資家がこの立証を求めるのであれば、すなわち投資家が監査の限界や性質を理解していないのだとも言えます。保守主義の原則については、企業会計原則に記載されていますが、一方で過度な保守主義にならないようにということも明示されています。『過度』の定義は無く、その境界は曖昧であるため、保守主義の原則で論じることはなじまない気がします。しかし監査法人の対応策としては、子会社への投資損失引当金の計上が適切な処理として考えられます。この処理を行なっていれば、減損処理をしたことと実質的には同じ効果が得られるため、監査人はこの措置を要求することは可能であったと思われます。この点において監査法人としての判断に疑問はあります。監査法人自身のリスクに対する感覚が鈍っていたと言われても仕方ない気がします。(後からの意見ではなく)。直接本件監査に携わっていたわけではないので、近いところにいた一会計士の私見として書かせていただきました。おそらく他の方は、また別の意見をお持ちだと思います。それが監査というものだと思っています。

(引用おわり)

つぎに、課徴金を三洋電機社に課すべきかどうか、に関する以下のAYさんのコメントにも参考となる点があると思います。(現実には、証券取引法における課徴金制度につきましては、いまのところは行政に裁量権が付与されておりませんので、自主的な決算数値の訂正がある以上は「虚偽記載があった」ものとして課徴金命令は出すことになりますよね。今年3月ころの読売ニュースでは「悪質とはいえない」として、課徴金賦課が見送られるのでは、といった記事が出ましたが、よく考えてみますと、虚偽記載について課徴金を課すのは、故意過失の存在は不要なわけでありますので、現状では見送りはないですね。  以下引用)

証券取引等監視員会が理由を明示しなければわかりませんが、三洋を行政処分するには以下の理由で酷です。
①子会社および関連会社のいわゆる関係会社株式は、国際基準では、関係会社の持分を反映する「持分法」を適用することで連結純利益と一致するが、日本の会計基準「金融商品に係る会計基準」では、原則、取得原価で表示し、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない。 日本の会計基準は、実務上、会社にとっても監査人にとっても、非常にあいまいな基準であること。国際基準では、三洋のケースは起きない。
②上場会社の投資家に対する情報開示では、個別財務諸表を開示するのは日本だけ。海外では、通常、連結財務諸表のみを開示する。海外では、個別財務諸表を開示しないので三洋のようなケースは起きない。

(引用おわり)

いずれにしましても、法的責任を問題にする場合、平成12年、13年当時の状況に戻って、果たして「関係会社株式減損(未公開会社の株式)」の処理については、会計基準によって一義的な判断が可能だったのかどうか、いくつかの選択肢があったのかどうか、経営者や監査人(監査法人)が子会社の業績に関する「見積もり」を行う場合、その根拠となる資料(収益事業計画等)は合理的な見積もりを行うに足りるものであったのかどうか、配当政策を決定するほどの「赤字か黒字か」を分ける会計処理であるにもかかわらず、経営トップなどがまったく知らなかったということが普通にありえたのかどうか、などいろいろと検討すべきところが多いと思います。時間がありましたら、もう少しゆっくりと検討したいところであります。

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2007年12月25日 (火)

(総合解説)内部統制報告制度(その2)

3年前のクリスマス・イヴの日(平成16年12月24日)、金融庁からディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応(第二弾)なるリリースが出され、内部統制報告制度なる基準作成の必要性と、そのための具体的な制度作りが開始されました。ちょうど3年前でありますが、果たしてその当時、金融庁の立案者の方々は、このような内部統制ブームが到来することは予期しておられたでしょうか?また、先日ご紹介したような「(総合解説)内部統制報告制度」なる書物を著して、誤解されないための内部統制報告制度を声を大にして解説しなければならないような事態に至ることを少しでも想像されていたでしょうか?そもそも「経営管理手法」であったり、試査範囲決定のための監査論の世界のものであった「内部統制」なる概念が、突然、証券取引法の世界で議論されることとなり、内部統制に関する様々な意見や憶測が様々な業界において飛び交うこととなりました。そしていよいよ法施行の年を迎えようとしております。すべての上場企業におきまして、文書化(業務プロセスの「見える化」作業と、プロセス評価、監査のための記録保存方法策定作業の両方を含みます)や、具体的な運用方法、検証方法などの確定に忙しい毎日かとは思います。しかし今一度、この3年前の内部統制報告制度導入の契機となりましたリリースを読み返してみて、法としての「内部統制報告制度」が何を目的としているのか(あるいは、もっと高度な目的のための手段として位置付けられているのか)を改めて検討してみることも意味があるのではないでしょうか。

12月4日のエントリーにおきまして、金融庁立案担当者の方々によります上記解説書をご紹介いたしましたが、この本を読みますと、やはり①確認書制度との関係、②四半期制度との関係、③会計基準の整備との関係、④会計監査の充実・強化との関係、⑤連結決算重視の流れ、⑥コーポレートガバナンスとの関係など、それぞれの関係を考えるなかで、経営者評価、監査人監査の基準をどのように解釈すべきか・・・といったことを考えるヒントがいろいろと詰まっているように思います。「金融商品取引法における内部統制報告制度の導入は、開示・会計・監査に加えて、ガバナンスということが、適正なディスクロージャーを支える第四の要素として確立しつつあることを如実に示しているのではないか」なるフレーズが、非常に印象的であります。

ただ、いろいろと読んでおりますと、また疑問も湧いてくるところでありまして、内部統制報告制度とともに、義務化される確認書制度(金商法24条の4の2第1項)の運用について、少しばかりわからないところがございます。この代表者(および財務最高責任者)による確認書というものは、もし内部統制に「重要な欠陥」があり、有価証券報告書提出時点において欠陥が存在する場合でも、「有価証券報告書(または四半期報告書)の記載は正しいものである」として提出することはできるのでしょうか?それとも提出できないのでしょうか?もしくは、有価証券報告書等の記載内容について十分な確認を行うことができず、確認を行った記載内容の範囲が限定されているとして、その旨及び理由を付記することで対処すべきなのでしょうか?そもそも、財務諸表を含めた、有価証券報告書のすべての開示事項について、その真正を担保するために、確認書と内部統制報告書が並列的にその実効性が期待されているものと(私は)理解しているのでありますが、やはり確認書が有価証券報告書自体の信頼性を確保するためのものである以上は、内部統制報告制度との関係につきましても、統一的な理解が必要かと思われます。たしかに「確認書」なるものは、虚偽記載であることを隠して、真正なものとして報告しているものではない・・・ということを代表者が宣誓する ところに意味があることは承知しておりますが、もし内部統制評価において、重要な欠陥が修復されないままである、ということになりますと、虚偽記載があるとまでは確定的にはいえませんが、「有価証券報告書の内容において虚偽記載が存在する可能性がある」ことまでは認識しているはずであります。そういった状況のなかで、果たして「確認書」は提出できるのでしょうか。経営者が確認書を提出するにあたりましては、財務諸表の確定作業のプロセスや内部統制評価、そして開示統制などに関する確認作業が前提となっているのではないかと思いますので、内部統制評価に関するところも重要な内容になってくるのではないかと考えられます。したがいまして「内部統制評価においては重要な欠陥はあるが、それ以外の部分から判断して有価証券報告書に虚偽はないものと認め、確認した」と果たして言えるのかどうか、このあたりの整理につきまして、ご存知の方がいらっしゃいましたら、またご教示いただけましたら幸いです。(ひょっとするとパブコメ回答集のなかに、金融庁の考え方のようなものが記載されていたかもしれませんが、私自身は記憶がありません。また、日本の制度の場合、内部統制報告書自体に対する確認書制度はありませんので、今回の確認書制度は、「確認に至った理由のひとつ」として、経営者が内部統制を有効と評価した経緯についてもとりあげざるをえないのではないかと思っております。したがいまして、これまでの任意に提出する確認書の作成過程はそれほど参考にはならず、まさに「内部統制報告制度と確認書制度との関係」をどう理解するか、にかかっているのではないかと思います)

おそらく確認書も提出をしない場合には、30万円以下の過料(四半期報告書に係る確認書の不提出については10万円以下の過料)に処せられることとなりますので、どんなことがあっても「確認書」は提出しなければならないと思います。また、一般的には、内部統制報告制度におきまして、「有効ではない」と経営者が評価した場合であっても、その欠陥が虚偽表示リスクを及ぼす項目について、試査の範囲を拡大する、サンプル数を増やす等によって、財務諸表監査では適正意見をもらうことができる、とされておりますので、ひょっとすると経営者自身が「確認した」と宣言することもできるのかもしれません。このあたり、上記(総合解説)を読みましても、よくわかりませんでしたが、けっこう重要な点ではないかと思い、ここに疑問を付した次第です。

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2007年12月24日 (月)

労働者派遣業のコンプライアンスはむずかしい

通りすがりさんからご質問を受けたグッドウイルグループ子会社の行政処分問題でありますが、個別企業(もしくは役員個人)の法的責任に関するご質問につきましては、また別の機会に検討させていただくとしまして、すこしばかり「労働派遣事業における法令遵守体制」に関する感想を述べさせていただきます。

大手労働派遣業社としましては、フルキャスト社に続き、グッドウィル社が年明けにも事業停止命令を受けることとなりそうであります(ニュースはこちら)。本日(23日)のグッドウィル・グループ社の適時開示情報によりますと、行政手続法に基づく弁明において、GW社は行政の指摘内容については認める方向のようでありまして、(ただし違法性の認識については概ね否定されているようです)今後の社内体制の強化策についてもリリースされております。そもそも派遣労働者の安全を十分に確保できるだけの体制が整っていない以上は、親会社の取締役に関する法的責任の有無にかかわらず、派遣事業者(派遣元企業)が行政処分を受けることは当然のことでありまして、そこに労働関連法に対する「違法状態」が認められる以上は当分の間、事業停止の措置を受けることにつきましてもやむをえないものと思われます。

ただ、労働派遣における「法令遵守体制」の構築は、たいへん困難な作業を伴うものであり、果たして一企業の内部統制システムの構築によってどこまで防止できるのかは未知数ではないか と感じております。たとえば、ヘルパーさんを派遣する、いわゆる介護事業につきましては、ヘルパーさんが(要介護者やその親族のために)好意でお世話しているとしましても、介護士の職務内容として行政に届けている職務内規に反している行動であれば、その所属している介護事業者が処分対象になってしまうおそれがあります。そうしますと、手の届くところで要介護者が困っていることでも、「留守番は『モノがなくなった』といったトラブルに巻き込まれるのでダメ」など、いろんな制約が出てきて、行政に正直に報告をすればするほど処分の対象になってしまうような事業性を本質的にもっています。同様に、地域や親族とヘルパーさんとの交流のための懇親会などにもヘルパーの方々が参加することは控えることとなりますし、利用者側からしますと「あのヘルパーさんは冷たい」「あそこの事業所は何もしてくれない」といった評価になってしまいます。もちろん、親族への説明責任を尽くすことで理解が得られるケースもあるかとは思いますが、介護事業者からすれば「法令遵守体制」を強化することで、利用者側からは「冷たい業者」と言われ、利用者からは「もっと心のこもった介護をしてくれる事業者を探そう」といったことにもなりかねません。

ましてや、今回問題となっております「港湾作業」ともなりますと、なおさら法令遵守体制の構築には困難が伴います。たとえば、「港湾倉庫」(埠頭から幅500メートル以内に存在する到着荷物の保管倉庫)内におきまして、輸入業者が検品作業をするために派遣労働者を使いたいと思いましても、荷物の「はい替え」(ダンボール箱を下ろしたり、また積みなおす作業)は「港湾作業」に該当するために、別途「港湾作業員」を雇用する必要があるようで、十分な検品作業にも支障が生じる可能性があります。「検品だけのために荷物を上げ下げするだけでも、正社員や派遣労働者に頼むことはできないのか」とも思えますが、こればっかりは法律で定められているので、「法令遵守体制」を構築するためには、派遣先に重々説明をする必要があります。もちろん、派遣先にはそういった費用を負担してもらうことにもなりますが、派遣先としましては、そのような費用負担を要求されるのであれば、経営問題にかかわりますので、もうすこし融通のきく派遣元を探すことになるかもしれません。

こういったことを考えますと、労働派遣業者に法令遵守体制の確保を求めてみましても、その一事業者だけでやれることには限界があるように思えますし、業績向上のための活動と、法令遵守体制の確保との調和点を求めることは非常にむずかしいところだ、というのが個人的な感想であります。(ただし、誤解のないよう申し添えますと、だからといって派遣事業者の法令遵守体制の構築は放置していてよい、といったことを申し上げているわけではありません。「法令遵守体制」というのは、言葉で語るには容易でありますが、リスク管理という面からとらえますと、そのPDCAはかなりムズカシイ問題を含んでいることに留意すべき・・・というのが主題であります。)結局、業界団体において自主ルールを制定して、説明責任を尽くすためのルールの策定や、派遣先のコンプライアンス向上策の共有、ルール違反業者への厳格な罰則適用等、ひとつの企業の社内管理体制の枠を超えて、業界全体としての取り組みが必要ではないかと考えております。

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2007年12月23日 (日)

「金融サービス士」と「リスク対応参事官」

皆様、楽しいクリスマスをおすごしでしょうか?この連休が終わりますと、一気に「年の瀬モード」突入の雰囲気でありますが、私はやっと父の一周忌も無事済ませまして、ホッと一息ついているところです。

昨日、金融庁から公表されました「市場競争力強化プラン」は、金融ビッグバン以来の10年ぶりの大改革プランだそうでありまして、今後の法改正の動きなどを探るためにもまた、ゆっくりと検討したいと思います。しかし、一昨日ご紹介いたしました、大森氏の著書を読みますと、1997年の時点では、先の金融ビッグバンによって、2003年ころには「貯蓄から投資へ」国民の意識が変わり、国民の資産がリスクマネーに移行していることを信じていた・・・ということだそうですから、今後の強化プランにしましても、本当に「貯蓄から投資へ」と資産が移行することにどれだけ寄与するのか、本当のところは未知数だと思います。

ところで、今年3月に出版されました渡辺金融担当大臣の著書「金融商品取引法」のなかで「これからは『金融サービス士』を創設すべきだ」とのご主張、「そんなもん、できるかいな」と思っておりましたところ、昨日の「強化プラン」によりますと、「金融専門人材」の育成として現実味を帯びておりますね。(来年春頃にもパブコメ案が出されるような書きぶりであります)当局側、金融商品取引業者側、どちらにもこういった専門人材がコンプライアンス経営の維持のために必要とされているようですので、ずいぶんとたくさんの専門家が養成されるのかもしれません。今後、楽しみな資格ですね。

それともうひとつは、金融庁の職員の大幅増員が決定されたなかで、「リスク対応参事官」なるポストができるそうであります(日経朝刊3面の記事に掲載されております)市場や金融機関経営者のリスクが顕在化する前に不安の芽を摘む業務を行う、とのことでありますが、「リスクが顕在化する前の不安の芽を摘む」とうのは、いったいどのような業務なんでしょうか。これまでの金融検査の結果、もうすこしプロセスをきちんと調査する、という意味なんでしょうかね?(非常に興味があります。)

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2007年12月20日 (木)

課徴金制度のあり方と内部統制整備の要点

Oomori001 いろいろと記者会見のことをとりあげたエントリーが続きましたが、次第に「外部第三者報告書」の件まで話題が広がってきましたので、一度「報告書」についても議論してみたいですね。TETUさんが指摘されているIHI社の件とか、不二家の再生委員会の件、また「あるある大事典」の関西テレビの件など、今年はたくさんの特徴ある外部委員報告書が作成されております。また、商事法務では東京の著名な弁護士の方が、外部報告書に関する論文も発表されています。事実の確定といいましても、何の目的で事実を確定するのか、そのあたりも報告書作成の段階では明確にしておく必要もありそうです。

ところで昨日はエントリーをスキップしましたが、忘年会疲れではなく、ブログを書くのも忘れるほどに、この本を夢中で読んでおりました。

金融システムを考える(ひとつの行政現場から) 大森泰人著 金融財政事情研究会 2,800円税別 

今朝(12月19日)の日経朝刊の一面でも広告が掲載されておりましたが、いやいや、最高におもしろい本です。金融ビッグバンから今年までの金融行政の歴史や、頭脳明晰な金融行政官の考え方に触れることができる貴重な一品です。行為規制、開示規制、銀証分離、証券化問題など、「一本の線」で結びつくことが実感できる本は、私にとりましては初めてでした。このブログで疑問に感じていたことなど、いろいろとナットクできたように思います。「ここまで書いてええんかいな」と思われる部分も散見され、思わず笑ってしまいますが、「そもそも内部統制報告制度なんて解説本など不要なんじゃないの?」とか「(総体としてみれば)会社法は弁護士よりも公認会計士のほうがよほど勉強しなければならないし、現に会計士のほうが学んでいると思います。」といったあたりのお話はたいへん共感するところであります。お勧めする一冊かどうかは判断しかねますが、おそらく「特捜検察・・・」同様、きっとこの本は今後話題になると思います。

さて、この本を読まれたら(おそらく)ご立腹されるであろう(?)方が部会長をされていらっしゃる金融審議会金融分科会第一部会より、本日「第一部会報告」がリリースされ、とりわけ課徴金制度のあり方につきましてWG報告書も同時にリリースされております。(先の本などを読んで、これまでの「歩み」などを頭に入れておきますと、こういった報告書も、非常にわかりやすく感じられます)なお、事前の報道のとおり、現行課徴金の金額水準が引き上げられ、相場操縦行為や開示義務違反などへの拡大適用がなされ、そして課徴金の加算・減算制度が導入される見込みとなりました。(詳しくは直接、報告書をご覧ください)ちなみに、この課徴金の加算・減算制度に関する報告内容のみを抜粋しますと、

違反行為を的確に抑止する観点からは、たとえば繰り返し違反行為を行う者について、課徴金の額を加算する枠組みを導入すべきである。また、企業による違反行為に対する課徴金について、違反行為を企業自身が自律的に防止・発見する体制の構築を促すとともに、将来に向けて再発を防止することが重要と考えられる。例えば、自社株売買等に係るインサイダー取引や発行開示書類・継続開示書類等の虚偽記載など、違反行為が繰り返される可能性のあるものについては、自ら早期に発見し、当局に申告した場合などに限定して、減算措置を導入すべきである。

「うっかりインサイダー」や「うっかり虚偽記載」など、悪質でない対象行為、というだけでは減算対象にはならないようですし、違反行為を企業自身が自律的に防止・発見する体制を整えていただけでも減算対象にはならないようです。つまり内部統制システムを整備して、その結果をともなった場合にだけ減算対象になる、ということなんでしょうか。そうしますと、軽微基準に該当するかどうか等細かな法令解釈問題は別としても、自社において法令遵守体制を整えて、(内部告発によって外部に公表されるよりも先に)内部通報制度や内部監査制度を実効性のあるものとしておくことが必要になりそうであります。「課徴金納付命令を受けること」それ自体が、そもそも「反社会的、反道義的」であるとは一般的にみなされないのであれば別ですが、現状では「なにやらルール違反の悪いことを会社ぐるみで行った」とするイメージがつきまとうことを認めざるをえないわけでして、そうであるならば、コンプライアンス体制の構築の一環として、この「加算・減算制度の導入」は無視できないところであります。

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2007年12月18日 (火)

(続)船場吉兆記者会見から何を学ぶべきか

(本業中ですので、追記とさせていただきます。本エントリーに関しましては、こういったご事情をブログに書かせていただくことを了承いただけた調査委員会の方に感謝いたします。おそらく、独立第三者という立場上、かなりトーンを落として述べておられたものと推測いたしますし、私自身も伝聞という形で、かなりソフトにお伝えしていることを付言させていただきます。また朝から多くの有益なご意見を頂戴している方にも厚くお礼申し上げます。しかしいろいろな見方、見解があるものですね。私自身たいへん勉強になります。ぜひ、コメント欄のご意見をご覧いただければと。また、このような立派な意見でなくても結構ですので、こういったギリギリの場面において、企業やマスコミ等がどうあるべきか、感想をお持ちでしたら気軽にコメントをいただければ幸いです。仕事の関係でアップ時間が遅れますが、どうかよろしくお願いいたします)

17日深夜になりまして、立て続けに架空取引や不正請求など、「財務報告に係る内部統制制度の制度趣旨や、その限界論」と結びつきそうな事件の開示情報が流れておりますが、お約束のとおり、船場吉兆社の記者会見に関する続報をアップしておきたいと思います。とりわけ、企業コンプライアンス、クライシスマネジメントに関心のある方にとりましては、参考事例としてご検討いただければ幸いです。

以下は、私が船場吉兆社の外部第三者委員会の委員である弁護士の方より(第二弾として)お聞きしたところを要約したものであります。(伝聞ですので、文責はすべて私にありますので、内容の真偽に関しますご批判は私自身がお受けいたします。なお、下線は私の判断で付しております)

今回の後追い報道で、マスコミの記事の間違いがあまりに多いのに、正直驚いている。数え上げればきりがないのだが、攻撃されている側には、反論することもできない現実、(反論することそのものが反省していないと断罪されかねない現実)がそこにはある、いずれにせよ、これが現実だということであろう

いくつか具体例を上げると、

①「マニュアル」報道

新聞等で、会見にて「消費期限表示貼り替えマニュアルがあった」と認めたという報道がなされているが、そのような会見回答事実は一切ない。少なくとも、調査委員会による従業員調査でも、マニュアルなどの存在は認定されていない。 思い当たるのは、会見で、ある記者が、しつこく何回も「マニュアルがあっただろう」と重ねて聞いてきて、役員から何回も「マニュアルなどはない」と答えていたのに、最後に、「期限表示ラベルの張り方を従業員が自ら書いた簡単なメモみたいなものは、店にあったかも」と答えたのが、たぶん、「マニュアル」存在報道になってしまったのかと推測される。これなどは、思いこみ取材の典型である。

②全体のトーン

報告書でも触れており、会見でも強調していたと思うが、期限表示の張り替えを行った商品数は、全体からしたらごく一部であるのに、報道のトーンや、有識者のコメント、町中の批判でのイメージは、「全ての販売商品において、期限経過のものを、貼り替えて売っていた」かのような印象である。100個のうちの1個の行為に対して、100個とも偽装だったかのような、大げさな表現となって流布されている。もちろん、1個でも行ってはならないことは言うまでもないのだが、ここで言いたいのは、100個全部が偽装であったかのような報道こそ、読者に対する誤誘導報道だと思うのだが、いかがなものか。(ここでの個数表現は、わかりやすくするための工夫で、正確ではない、念のため)

③偽装商品数

局によってまちまちで、一番多い数41とか、45とかいう数字がどこから出たのか、分からなかったので、調べてみたら、どうも、あの混乱の中で出たデマ的なものが一人歩きしたようだ。そもそも、商品の原材料表示の表示順ミスという極めて微細なミス(微細とは言え法令違反だが)と、期限表示貼り替えというケースの数など、種類の異なる問題を、単純に合計数で表記して報道しようとする発想にはついて行けない。読む人は、その全部が極めて悪質な行為という印象を持つであろう。実は、ほとんどが、ミリグラム単位での重量違いで内容表示の順序が変わってしまうなどの極めて微細なミスや、行政側でも法令解釈で意見が分かれて、結局、調査委員会側で厳しく判断してミスとしたものまで含めたものまで、期限表示貼り替え事案と同じレベルのものとして、全てが「悪質偽装」と言われているのは、とうてい疑問である。

④一部のテレビ報道について

お女将が「父に申し訳ない」と答えた内容について、有識者たるコメンテーターが、「父にだけ謝っているが、誤るべき対象は父だけではないだろう、誤る相手を間違っている」と述べていたのには、気の毒を超えて腹が立った。実は、この答えの前に質問者たる記者からの質問内容は、「父たる湯木貞一さんへの気持ち」を聞いたものである。ところが、テレビ放映では、その質問部分を切り取って、答えの部分だけを流して、コメンテーターに意見を言わせていたものである。これなど、報道のミスリード以外、なにもない。

お読みになる方にとりましては、少し船場吉兆寄りの意見ではないか・・・と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、私がお聞きした弁護士の方は、あくまでも外部の第三者委員であります。もちろん船場吉兆社の顧問弁護士でもありません。ただ、こういったマスコミ報道は、今後も企業不祥事発生直後の記者会見では「普通に」行われるでしょうし、新聞テレビ等においては、有識者のコメンテーターの方々の批判にさらされる「きっかけ」になってしまうわけであります。私自身、こういった批判を最小限度に抑えるためには、たとえば外部第三者委員会は、船場吉兆社のHP等を利用して、報告書の全文もしくは要約文を掲載したほうがよかったのではないか・・・とも思っておりますが、まぁいかんせん(DMORIさんのコメントにも代表されますように)「何を答えたか」ということよりも、「どのように答えたか」のほうに世間の関心が向かってしまいましたので、今となっては、なんとも(最小限度に抑える効果的な方策があったかどうかは)いえないところではありますが。

また、赤福や石屋製菓社のように、一般消費者が口にするものと、船場吉兆社のように「ある程度の富裕層のみ」が口にするものとでは、後者の場合、こういった不祥事発覚の際にも、立ち直りのための「後押し」が期待できないところもムズカシイ点かもしれません。

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2007年12月17日 (月)

社外監査役の任期は2年とすべきではないか

昨日は日曜日であるにもかかわらず、多数の方よりコメントをいただき、ありがとうございました。先日のtomさんにつづき、またtatuoさんからも非常に熱いコメントを頂戴いたしました。企業不祥事とマスコミ報道のあり方につきましては、私も「企業不祥事におけるクライシスマネジメント」の大きな問題点であると考えております。赤福問題と船場吉兆問題など、それぞれのエントリーに同種のご意見を頂戴しておりますので、船場吉兆事件に関する実例などをもうすこし掘り下げながら、続編のエントリーをアップする予定であります。また、内部統制報告制度につきましても、通りすがりさんより教えていただいた新刊書「Q&A監査のための統計的サンプリング入門」もかなり気になるのですが、けっこう「いいお値段」ですので(^^;、会計士の方々のブログでの書評などを拝読したうえで、購入を検討しようかなぁ・・と思っております。(まだ「定量分析」を読み終えておりませんし・・・・・)

さて、私は現在ふたつの会社の社外監査役に就任しておりますが、そのうちひとつの会社では、2008年の定時総会終結時に任期が満了いたします。社外監査役としての役割に関する感想や、実際に4年近く、社外監査役の実務経験からみて、会社法336条が定める(公開会社の)監査役の任期については、「4年は長過ぎるのではないか」「少なくとも選択制で2年というのも可能にすべきではないか」と考えております。(あらかじめ申し上げますが、これは立法論でありまして、現行では採りえません。なお、ここでいう社外監査役は、原則として非常勤社外監査役を念頭においております)

理由のひとつめは、4年ということになりますと、就任の依頼を受けるときに躊躇を感じます。最近の監査役制度に期待されている業務からしますと、財務報告内部統制への監査役監査の充実が要求され、会計監査人との連携や、内部監査人との協議、監査役会における監査役間の役割分担など、月1回の役員会に出席していればいい、といった風潮は次第になくなっていくものと思われます。(とくに中小の公開会社においては、そういった傾向が強まるものと予想いたします)そうしますと、どうしても本社に近いところで活動できる体制が望ましいわけでありまして、4年といった任期は、本社近くの安定した職場を持った人材が優先されることになります。また、就任するほうも、人材流動化の激しいなか、途中で職務を全うできない不安があれば、会社に迷惑をかけてはいけない、ということで、就任を固辞せざるをえないわけでして、そうなりますと、有用な人材が監査役という役割を敬遠する傾向があるのではないかと思われます。また、そもそも「諸事情により、途中でやめる」というのは(とりわけ公開企業の場合)、「監査役が解任された?監査役が辞任した?いったい何があったのだろうか」と風評が飛び交うような事態になるかもしれず、現実論としては回避されがちではないでしょうか。会社にとりましても、「やめてください」とは言いにくいですし、また監査役にとりましても、「どうもこの会社はマズイのではないか」と思ったときに辞任しづらいところであります。2年ということであれば、双方とも、別の社外監査役を迎え入れてスタートを切りやすいですし、たとえ「あの会社は2年でコロコロと監査役が替わる」といった事実が開示されましても、それを(プラス評価であれ、マイナス評価であれ)株主の評価に任せればいいのではないかと思います。

理由のふたつめは、社外監査役の任期につきましては、ガバナンスのあり方を法で強制することよりも、株主に評価してもらうことを重視すべきではないか、ということであります。ご承知のとおり、会社法上の内部統制体制の構築(体制整備事項の決定)につきましては、会社法によってはじめて、取締役の内部統制システムの整備義務が規定されたものではなく、体制整備に関する基本方針についての決議を義務化(大会社の場合)しているにすぎません。つまり会社法は、相当程度の規模の企業につきましては、内部統制システムの整備構築を期待しているわけでありますが、その内容については、一定のレベルを示すものではなくて、事業報告のなかで整備運用に関する基本方針を開示させることによって、株主の評価の対象とさせることで、個々の企業に合ったシステムを構築することを間接的に強制しようとしております。この手法は、社外監査役に「財務会計的知見」を要求しようとする会社法施行規則にも通ずるところがあり、社外監査役の任期につきましても、4年の任期を法定化するのではなく、2年以上の選択制として、4年とするのであればその理由を事業報告等で開示させる手法を採用したほうが得策であると思います。

そして理由の三つめは、監査委員会における社外取締役は1年の任期であり、そこには社外取締役が過半数を占めているわけでありますので、人材の互換性という意味でも、社外監査役のあり方は接近させるべきではないかということこであります。これもご承知のとおり、日本の企業には社外取締役の導入について、かなり抵抗感があるようでして、あまり委員会設置会社に移行する企業が増えていないのが現状であります。最近、りそな銀行の監査委員会委員でいらっしゃる箭内氏の著書を拝読いたしましたが、やはり監査委員会の委員というのは、かなりシビアな仕事であり、そもそも委員会設置会社に移行したい企業にとりましても、監査委員会を構成できるような社外取締役の適任の方をみつけることができないことも、やはり移行企業が増えない要因だと感じております。そこで、まずは日本独特の制度ではありますが、「社外監査役」という役職に、できるだけ多方面の方々に就任していただいて、委員会設置会社における監査委員会委員の候補者育成を図り、委員会設置会社制度を開始した頃の、本当の制度趣旨である「ガバナンス選択における競争促進」を実現する基礎を築く必要があろうかと思われます。

たしかに独任制で活動する監査役の職責については、社外、社内を問わず、その独立性は十分確保されなければならず、4年という任期は社外、社内で区別すべきではない、といった制度趣旨も理解できないものではありませんが、4年も社外監査役をやっておりますと、本当に会社から独立した立場で意見が言えるのかどうか、むしろ本当に独立性を重視するのであれば、原則的には2年で改選期を迎えるべきではないか、とも思えます。また、社外監査役のあり方が、経営者のお目付け役(ご意見番)なのか、株主への説明責任を果たすための要職なのか、株主の代理人たる地位にある者なのか、現状では一義的には決めかねるところではありますが、株主と監査役との間における委任契約の意思解釈として、少なくとも非常勤の社外監査役につきましては、不祥事防止、ガバナンスの充実(統制環境の充実)、事業効率化のための支援などのために、たとえ任期は短くしても、その企業にとって有効な社外役員を迎え入れることへの合意については、合理的なものと認めてもよろしいのではないでしょうか。

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2007年12月16日 (日)

見えてきた「赤福再生への道」とその教訓

300年の歴史上、未曾有の危機に直面していた赤福社が、なんとか創業者社長を残したままで、再生を果たす道が開かれたようであります。不二家、石屋製菓は、赤福社同様「消費者に愛されてきた銘菓」を作り続けてきた企業であるにもかかわらず、経営者トップが変わらなければ、その看板を掲げ続けることは困難でありました。しかしながら、赤福社は(同族色が薄められたとはいえ)、「組織ぐるみ」「経営トップの不正関与」をあいまいにしたままで、なおかつ経営トップは変わらることなく、見事再生への道を選択することを可能としたようであります。(12月14日に三重県に改善報告書を提出した段階で、突然マスコミのトーンも「赤福への期待」などと、少し前までとは180度変わっております)「組織ぐるみ」であることを曖昧にしたままでの再生といえば、日興コーディアル社による不正会計事件が記憶に新しいところでありますが、あのときも、経営トップはすべて入れ替わることで、「統制環境の変化による再発防止」を印象づけたわけでありまして、日興コーデ社の件と比較しましても、このたびの赤福社の再生への道は、見事というほかはありません。石屋製菓の元経営者の方も、この赤福社の復活への兆しや、「白い恋人」の売り切れ続出のニュースをみながら、「あぁ、俺も銀行から会長さんを迎え入れて、自分は社長にとどまっていればよかったのかも・・・」などと後悔をされているのかもしれません。

もちろん、今後の改善計画の実践には、まだまだ赤福社による必死の努力を要するものと推察いたします。しかしながら、このたびの赤福社の経過をみて、今後同じような「食品偽装事件」を起こしてしまった企業にとりましては、「あぁ、赤福のように振舞えば、なにも経営トップが辞任しなくてもだいじょうぶなんだ。要は行政から『組織ぐるみ』と断定されても、最後まで粘って否定していれば、世の中はなんとか許してくれるんだ」と認識された方も多いと思います。こういった前例を赤福社が築いたことは今後の食品偽装を含めた不正行為への対応としては大きな意義があると思います。誤解のないように申し上げますが、「不正は最後まで認めるな」というような短絡的な教訓を、私が強調しているわけではございません。要するに今回の事件の意義につきましては、「不正の程度と企業の対応とのバランス」を冷静に考えること、および不正への疑惑が報道され、社会的信用が毀損されてしまうリスクが大きくなったとしても、「最後まで、あきらめずに事実は事実として企業の主張をまげない」ことの重要性を世間に知らしめた点であります。

消費者を騙す(消費期限表示の偽装)ことが(現場での行動なのか、経営トップの指示によるものかはわかりませんが)長年行われてきたとしましても、「マスコミによる非難」という社会的制裁によって、とりあえず「すでに制裁を受けたもの」といった感覚がわれわれの意識に根付いてきたこともあるのかもしれません。「不正行為があったとしても、とくに国民に実質的な被害が発生していないのだから、無期限営業禁止とマスコミによる相当程度の非難の嵐でバランスがとれているのではないか」といった一般消費者の意見がここのところ、多くなってきていたように感じます。つまり、国民を騙すような不正があったとしても、健康被害を出すほどではないのだから、今後再発防止策を徹底することを誓約すれば、経営者が辞めるほどではない・・・といったあたりが「罪と罰」のバランスだといったところでしょうか。また、赤福社の場合はどうだったのかは最後までわかりませんが、少なくとも今後、食品偽装事件が発覚した企業において、「組織ぐるみ」でない場合には、マスコミの非難を過度におそれることなく「組織ぐるみではなかった」と粘ることの成功例と認識すべきであります。この意義は非常に大きいと思います。なんといいましても、今後、内部通報や内部告発によって、不祥事を社内で発見した場合に、「こんなことが発覚したら、俺はやめなければならなくなる」といった間違った隠匿への誘惑を断ち切る動機となるからであります。

「辞めなくてもだいじょうぶ・・・」

赤福餅の消費期限切れ製品の販売が発覚した当初、記者会見のたびに、新しい問題点が発覚し、その都度、マスコミの非難を浴びておりましたが、あれはいったいなんだったのでしょうか。それでも社長は交代しなくてもいいわけで、このことが、企業の不祥事の早期公表を促進し、いわゆる二次不祥事を防止することへとつながることになれば幸いです。そして、もうひとつ忘れてはならないのが元住友銀行副頭取の方の会長就任であります。これはビックリでした。あの阪神電鉄・村上ファンド株式買取事件のときに、話題の中心におられた方です。メインバンクか、近鉄さんか、そのあたりのつながりなんでしょうか。最後に300年の歴史の重みを見せつけられたようであります。このような方を赤福会長に迎え入れることができた「赤福の人脈」。やはり最後は「人と人とのつががり」こそ、企業防衛の「キモ」のような気がしてまいりました。

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2007年12月14日 (金)

IHI社の調査報告書

12月12日付けで公表されましたIHI(旧 石川島播磨重工業)社の

業績予想の修正および過年度決算の訂正に関する調査結果ならびに当社の対応方針のご報告

社内調査委員会の調査報告書について

社外調査委員会の調査報告書について

の3本を読むのにとても時間を要したため、本日はまともなエントリーを書く時間がなくなってしまいました。(^^; なお、社外調査委員会が報告書を提出する目的は、IHI社もしくはその役員の法的責任を議論するためのものではなく、あくまでも社内調査委員会報告が適正に作成されたかどうかを主眼として精査するためであります。

すでに「証券取引等監視委員会は、10億円以上の課徴金を課す(ための処分勧告を行う)方向で検討に入っている」などといった中日新聞さんのニュースなどもございますが、市場関係者の方々の見方は「プラント業界全般に影響が出るものではなく、今回はIHI社の独自要因に基づくもの」とされているようであります。これだけ巨額の修正がなされるものであり、なおかつある特定企業の独自要因に基づくものであるということになりますと、まさに「財務報告に係る内部統制」がいったいどうなっていたのか、というJ-SOX関連の論点が浮かび上がってくるものでありまして、今後注目していきたいと考えております。

とりわけ、平成18年9月期決算の訂正は、その後の公募増資との関係では問題を含んでいる(ただし、上記社内報告書では、意図的ではないことの理由が詳細に記載されておりますが)わけですし、また今年9月末以降、2回に分けた決算修正可能性に関する開示のうち、最初の開示にあたっては、この平成18年9月期決算修正の可能性には触れておりませんでしたので、(コメントでHIHさんが指摘しておられる)金融商品取引法21条の2(有価証券報告書等に虚偽記載ある場合の損害賠償範囲)の問題点も、ひょっとすると今後議論の対象になるかもしれません。(こういった開示方法がとられますと、結局、21条の2の規定が機能しなくなるのではないかと。)

とりいそぎ、備忘録程度にて失礼します。

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2007年12月13日 (木)

「船場吉兆記者会見」から何を学ぶべきか

会計専門職であるtomさんより、金融商品取引法193条の3と粉飾発見義務に関する渾身のコメントを頂戴いたしました。まだ私もすべてをきちんと読めておりませんが、またご意見のある方は、ご遠慮なくコメントいただければ・・・と思います(tomさん、ありがとうございました。)

さて、日本漢字検定協会によります「今年の漢字」大賞として、一位には「偽」が選ばれたそうであります。12月11日、同12日と、日経新聞朝刊でも偽装問題の発端となりました「内部告発」の現状を取材した特集記事が掲載されておりました。私自身、「外部窓口」の仕事や、内部通報制度(ヘルプライン)の導入指導、および内部告発者の代理人などをさせていただいた経験からしまして、この連日の日経の特集記事は、かなり客観的に内部告発の現状や内部通報制度が機能していない状況等を伝えており、ほぼ正確な実態が浮き彫りにされているものと思いました。「こうすれば内部通報制度は実効性が上がる」といった意見は私自身、いくつか持ち合わせてはおりますが、本日はその点については触れるつもりはございません。ただ、法律事務所やコンプライアンスコンサル企業を外部窓口として備え、むしろ立派な「内部通報制度」を整備しながら、なぜ機能しないのか?社内不正の兆候がまったくないから、ということはおよそありえないわけでして、その原因は、やはり「形だけのコンプライアンス」にある、と言われても仕方がないのが現実のところのように思います。

ここ数日の船場吉兆社の記者会見に関するマスコミの報道などをみて、経営者の皆様はどう思われたでしょうか。「あの女将さんの手控えノートはなんやねん」とか「女将さんからヒソヒソと模範答弁を耳打ちされるマザコン社長」といった印象を受けて、「あぁ、あれじゃ仕方ないわなぁ。俺だったら、あんな答弁はしないわなぁ」といった、ある意味、自信をもってホッとされた方が多いのではないでしょうか。ただ、私はもうすこし、「当社でも起こりうる社会的信用毀損の事態」として、危機意識をおもちいただいたほうがよろしいかと思います。危機意識という言葉が、不用意に「あおるような」言葉であって不適切でありましたら、「リスク管理」と言い換えてもいいかもしれません。たとえば、下記内容は、船場吉兆社の外部調査委員会(7名の弁護士によって構成されております)の委員を務める弁護士の方より、本日いただいたメールの一部であります。ご本人の了解のもとで、ここに転記させていただきます。(誤字は若干修正をしております。また下線は私が付したものです)

このたび、船場吉兆の外部調査委員を務め、報道対応のこわさ、大変さ、難しさを身にしみて体験しました。報告書を出す直前の取材合戦は過激で、直前の土・日は、休日の事務所の電話は鳴りっぱなし、さらに驚いたのは、どこで調べるのか、 自宅の電話も鳴りっぱなしで、朝ズバ等のテレビ局からはFAXまで入っていました。  実際に自宅に数社が来ました。ここで、マスコミの怖い点は、たくさん学びました。調査委員会の弁護士7名で従業員からも聞いて判断した事実関係、特に、本店役員の違法性認識の部分は、委員会が公表した内容が「認定事実」なのに、「違法性の明確な認識を持って行った悪意性のある偽装であったはずという絶対的真実」という大前提での取材や、結論押しつけには、本当に閉口しました。弁護士として、調査して判断した事実をねじ曲げてまで、マスコミの「希望事実」に合わせないと、本人等が結局たたかれるのは、不合理に思いました。愚痴です。山口さん、ブログでは遠慮なく、意見を述べてください。

私は外部委員会の弁護士でもありませんし、事実関係も調査した立場ではございませんので、とくに船場吉兆社を擁護するわけでもなく、またマスコミの対応を非難するつもりもございません。(このブログで何度か申し上げておりますとおり、マスコミも短時間のうちに記事としてまとめなければならないわけでして、聞き取り以前の段階で、ある程度の記事のストーリーを予想されているのもいたしかたないものと思われます)ただ、上記の弁護士の方は、いわゆる「外部調査委員会」の委員であり、おそらく会社側、従業員側、取引先側など、かなり独立公正な立場から、事実認定を試みたものと思います。(経営者ら自身の、あのような会見における失態を事前に止められなかったのも、「指導する立場にはない」独立公正といった立場からだと思われます)船場吉兆社の顧問弁護士という立場であれば、「弁明」への非難や疑惑といったものが飛んでくるのも当然かとは思いますが、独立第三者である立場でありましても、上記のような感想を抱かれるわけです。独立調査委員会が、時間をかけて、結論を出してきたにもかかわらず、その直後に、その認定事実とは異なる結論を(経営者から直接)引き出すために、多くの質問が投げかけられ、あのような失態に至ったとなりますと、委員の方々が無力感を抱かれることにも、私は素直に納得できるところであります。しかしこれが現実であります。おそらく、こういった記者会見に臨む経営トップの方々は、もはや孤立無援の状態で、針のむしろに座らなければならないわけでして、「何を言っても、マスコミのストーリーに反する内容の事実であれば報道されないこと」への覚悟が必要であります。

すべての内部告発を抑止できるものではありませんが、内部通報制度に実効性があれば、不祥事が「進んで公表できる程度」に小さな段階で情報として把握することが可能となりますし、「取引先に迷惑をかけない程度」に自社のみの判断で公表できますし、また、なによりも二次不祥事に発展することなく、一次不祥事のみで会社の信用毀損を最小限度に抑えることが可能となります。孤立無援の状態で、頭が真っ白になってしまう事態は、誰にも想定されるところであります。平時にこそ、先のようなリスクを想定していただき、せっかくの立派なシステムに「魂を入れて」いただければ・・・と思います。

PS アルファブロガー2007を受賞して以来、いろいろなご意見、ご質問をメールにて頂戴しておりますが、なかなか回答する時間がありませんので、お返事もできずに申し訳ございません。本業の時間にブログを書くわけにもいかず、忘年会が終わってから、とりあえずエントリーを仕上げるのに精一杯の状態です。もうすこし時間的に余裕ができましたら、じっくりと拝見させていただきます。

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2007年12月12日 (水)

金融商品取引法≠証券取引法

東証1部の名門企業であるIHI社の監理ポスト入りは驚きました。まだあまりブログなどでは詳しい解説はありませんが、一番問題となるのは、2007年3月度(過年度)の決算について訂正をするわけですから、結局虚偽報告がなされたままで今年1月に600億円もの公募増資が行われたあたりになるんでしょうかね?(いや、平成18年3月期まで遡る必要がある、ということですかね)とりあえず、この件もおそらく社内と社外の調査委員会報告が出ることで、だいぶ論点が明らかになってくるものと思いますが、今後の東証さんの対応等、注目しておきたいと思います。

さて、金融商品取引法も本格施行となりまして、金融商品取引業者に対する金融庁の集中検査なども行われておりますが、どうもこの金融商品取引法というものはわかりにくい法律であります。証券取引法の大部分が改正された法律である、ということはわかりますが、そもそも証券取引法自体、そんなに勉強したことない・・・といった方も多いのではないでしょうか。大きな書店などへ行きますと、たくさんの解説本が並んでおりまして、いったいどれを選んで勉強したらいいのかわからない、というのがホンネのところだと思います。

とくに解説本を推奨するわけではないのですが、12月10日に金融庁HPでは、西原監督局長の「最近の金融監督行政上の諸課題について」と題する講演録と、その資料が公開されておりまして、金融商品取引法に関する解説と、その解説資料が掲載されております。このなかに、ルールベースを中心とした法体系であった証券取引法とは少し異なり、金融商品取引法はプリンシプル・ベースの観点も加味されており、これで隙間を埋める横断的な体系へと、(証券取引法が)大幅に改善された旨の説明がなされております。たくさんの「金融商品取引法」の解説本が出版されておりますが、こういった「ルール・ベース」なる用語とか、「プリンシプル・ベースの観点が加味されている」といった説明はあまりされていないんじゃないでしょうか。(ひょっとしたら、私が不勉強なだけかもしれませんが・・・)おそらく、この西原氏の講演は、金融監督上の視点から述べていらっしゃるわけですから、金融機関向けにお話をされているのであって、あまり一般事業会社には関係ないのでは・・・といったことも考えられるのでありますが、それでも明確に金融商品取引法の法体系と、証券取引法のそれとでは、異なる観点があることを西原氏は解説されておりますので、金融商品取引法全般にわたる解説書にも、同様のことが記述されていてもいいように思います。

ところで、上記解説(およびそのための資料)は、私としましては、非常にわかりやすい説明ではないかと思っております。行政があらかじめ詳細かつ明確に規制をかける部分と、抽象的な目的だけを規定しておいて、具体化は金融商品取引業者や一般事業会社の自主的な判断にまかせ、そのかわり法目的に反するような行動に出ている場合には、そこに法令違反がなくても、行政目的に適合するような対応を企業に求めていく(改善命令)部分とを分けて規定している、というわけであります。つまり金融商品取引業者としては、情報管理のあり方や、顧客との利益相反問題など、「法はいったいどのような行動を期待しているのか」を探りながら、自主的に判断していかなければならない部分も存在するわけであります。そして、そういった企業の自主判断の是非を常時監視するために、行政への報告義務や株主への開示義務などによるモニタリングが必要になるわけであります。また、金融商品取引所(証券取引所)や、自主規制機関(証券業協会等)が、どのような自主規制ルールを定めるか、ということにつきましても、正当性を基礎付ける法根拠とは別に、ルールの中身につきましても、法が期待している自主ルールのあり方を実現しているかどうか、といったあたりも、このプリンシプル・ベースによって説明されることになろうかと思われます。

冒頭のIHI社の件につきまして、「虚偽記載」が認められて、投資家に与える影響が重大であれば上場廃止(注意銘柄市場?)となる可能性とも言われておりますが、その判断は基本的に東証の裁量によるものであります。ただ、上場廃止基準の解釈にしましても、やはり自主ルールであるところの上場廃止基準がいかに金融商品取引法の法目的に沿って運用されるべきか、といった方向性を持つ必要があるわけでして、日興コーディアルの上場維持決定の場合以上に、判断過程の理屈がわかりやすいものであることが必要ではないでしょうか。また、こういったルール・ベース、プリンシパル・ベースといった区別におきましては、いま最も関心の高いところである内部統制報告制度についてはどのように位置付けたらいいのでしょうかね。また次の課題として検討してみたいと思います。

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2007年12月11日 (火)

食品会社の「二次不祥事」を考える

ひさしぶりの企業コンプライアンスネタであります。11月29日に「GODIVAのアマい危機管理」と題するエントリーをアップしておりまして、そこでGODIVA社の被害拡大防止に向けての広報の甘さについて「少々不誠実ではないか」と意見を述べておりました。ところで、同社は12月3日付けにて追加告知をされ、混入金属片の種類が特定されたこと、同金属片を専門家によって分析し、健康被害が出にくいものであること、発見された場合には食することなく、ただちに返送願いたいことを広報することにより、ほぼ当ブログにて問題としていた箇所に関する対処をされたようであります。(まさか、このブログをご覧になられたのか、それとも同様の苦情が寄せられたのかは不明でありますが)わずか5日後のことではありますが、この告知が当初より同社のHPにて開示されていれば、有事における対応としてはある程度誠意あるものと受け止めていただけたのではないかと思います。しかしながら、昨日pussさんよりいただいたコメントを拝見いたしますと、現実に被害に遭われた方への同社の対応には、やはり混乱がみられるようですし(pussさん、ご報告ありがとうございました)、当初の「フランス工場の責任による不祥事」を原因としまして、GODIVAジャパン独自の「二次不祥事」を発生させかねないリスクに直面することとなったわけであります。

最近の食品不祥事をみておりまして、この「一次不祥事(消費期限偽装、消費期限切れ原材料の使用等)」への対応がまずかったために、「説明虚偽、書類隠蔽」などが発覚する「二次不祥事」や、マスコミの追い討ちや行政の周辺調査のために、「一次不祥事さえなければ、なんら問題にもならず放置されていた不祥事(やぶへびコンプライアンス)」が大きくとりあげられ、むしろそちらの副次的な不祥事のほうが企業の社会的信用を毀損するケースが目立ちます。船場吉兆社のように、岩田屋さんと一緒に謝罪したときに、「偽装マニュアルの存在」まで含めて、全容を開示していれば、取引先や従業員、家主の方々を敵に回すことなく、まだ再生への道を模索することができたかもしれません。マスコミによって長期間にわたり報道されるに至った原因は、そのほとんどが「二次不祥事」に起因するものであります。本日の改善報告書提出の際における記者会見をみましても、おそらく社会的信用は回復どころかますます毀損される原因になってしまったような印象を受けます。(ここまで来ますと、今後は別の吉兆グループの対応に注目が集まってきそうですよね)

また、一昨日「無期休園」となってしまいましたエキスポランドにつきましても、あの凄惨な事故の後、①営業再開の翌日にも事故があった、②再開1ヵ月後には、別のコースターが停止してしまった、という事故が重なっていたにもかかわらず、大阪市当局へなんらの報告もしていなかったことが判明し、そこに至り、周辺住民からの「再開への期待」は完全に途絶えてしまいました。もしあの凄惨な事故さえ起こっていなかったら、それほど問題にもならなかった故障だったかもしれませんが、これが「やぶへびコンプライアンス」の重要性であり、社内の常識と社外の常識がくいちがってしまったケースであります。

こういった事例を見るにつけ、食品会社にかぎらず、経営トップの方々としては、この「二次不祥事」への対処方法を平時よりリスクマネジメントの一環として検討しておくことが近時の不祥事対策としては不可欠だと考えております。先のGODIVA社の件につきましても、海外親会社の不祥事までは防ぐことはできないとしても、日本における販売会社独自の不祥事は防止することができるわけでして、平時からの対応ができていれば、こういった告知自体が信用を毀損することは防げるはずであります。

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一次不祥事は回避不可と書きましたが、これは企業につきまとうリスクであり、完全になくすことはできません。何度も申し上げておりますように、①発生頻度を下げる、②早期発見システムを構築する、③発見した後に被害が最小限度に抑えられるシステムを構築する、といったリスク管理手法でリスクを低減化する以外にはないと思います。(これは経営トップの関与する場合にも適合します。たとえば社外取締役や、監査役システムにおける統制環境の問題であります。昨日ご紹介した「公認会計士VS特捜検察」におきましても、キャッツ社内におけるインサイダー取引蔓延の危機をいったん沈静化したシステムは、「顧問会」なる公認会計士、弁護士による組織の存在にありました)

一次不祥事の発生で頭が混乱している経営トップにとりまして、こういった二次不祥事への対応や、やぶへびコンプライアンスへの対応を冷静に検討することを要求することはかなり酷であります。だからこそ、平時からの対応が必要となるわけでありまして、その具体的な対応方法は、もはや当ブログで再三、申し上げているところでありますし、今後も具体的な不祥事が発生しましたら、折々に検討していきたいと思います。

さて、いよいよ14日は赤福社が三重県に「改善報告書」を提出する期限であります。すでに農水省には報告書は提出されておりますが、三重県のほうは明確に「赤福社は組織ぐるみだった」と断言しておりまして、赤福社は今度こそ、これに回答する必要が出てまいります。(三重県側は、過去に「検査で見逃してしまった」ことがあり、そのことに対する批判もありますので、「赤福社が組織ぐるみで隠蔽した」と認定できればなんとか県の面目も立つのでありましょうが、「現場での慣行だった」とされてしまえば、今度は三重県側の検査自体の問題が浮上するおそれもあるかもしれません)どういった改善報告書の中身となるのか、組織ぐるみ、トップの関与はないとされるのであれば、どのような具体的な説明によって証明されるのか、大きな関心をもって見守りたいと思っております。

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2007年12月10日 (月)

金商法193条の3と会計士の粉飾発見義務

金融商品取引法改正案(193条の3)に関するパブコメ(パブリックコメント)の結果が12月7日付けにて金融庁HPで公表されております。公認会計士、監査法人の独立性強化、責任の厳格化の一環として、公認会計士法(およびその周辺政省令)の改正とともに施行が予定されておりますが、会計士さん方のお仕事、とりわけ監査に携わる先生方にはかなり重要な法改正ではないかと思っております。

この金商法193条の3といいますのは、以下のような規定であります。

(法令違反等事実発見への対応)第193条の3 

公認会計士又は監査法人が、前条第1項の監査証明を行うに当たつて、特定発行者における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実(次項第1号において「法令違反等事実」という。)を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、内閣府令で定めるところにより、当該特定発行者に書面で通知しなければならない。

2前項の規定による通知を行つた公認会計士又は監査法人は、当該通知を行つた日から政令で定める期間が経過した日後なお次に掲げる事項のすべてがあると認める場合において、第1号に規定する重大な影響を防止するために必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事項に関する意見を内閣総理大臣に申し出なければならない。この場合において、当該公認会計士又は監査法人は、あらかじめ、内閣総理大臣に申出をする旨を当該特定発行者に書面で通知しなければならない。
1.法令違反等事実が、特定発行者の財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること。
2.前項の規定による通知を受けた特定発行者が、同項に規定する適切な措置をとらないこと。前項の規定による申出を行つた公認会計士又は監査法人は、当該特定発行者に対して当該申出を行つた旨及びその内容を書面で通知しなければならない。

そして、この規定に違反したような場合には、30万円以下の過料に処せられるようです。

第208条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の過料に処する。
1.第79条の23第2項の規定に違反した者
2.第162条第1項(同条第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
3.第162条の2の規定による内閣府令に違反した者
4.第193条の3第1項の規定に違反した者
5.第193条の3第2項の規定に違反して、申出をせず、又は虚偽の申出をした者
6.第193条の3第3項の規定に違反して、通知をせず、又は虚偽の通知をした者

これらの改正条項が、「粉飾決算の防止と公認会計士の役割」にとって、どのような影響を及ぼす可能性があるのか、という点につきましては、これを考えるための道標としまして、先のパブコメでも話題になっておりますように、旬刊商事法務1812号44頁以下におきまして、岸田雅雄早大教授の貴重な論文がございます。私自身、会計士さん方の「法令違反等事実発見への対応」が規定されたとしましても、それは「たまたま発見ときの対応(通知義務)」を定めたものであって、そもそも法令違反等発見義務そのものを規定したものではない、したがって、これまでの監査人による監査の本質とはなんら矛盾するものではないと考えておりました。しかしながら、以下の著書を読みまして、「本当に関係ないのだろうか?」と少し考えが変わりつつあります。

Kensazu_kaikei001 「公認会計士VS特捜検察」(細野祐二著 日経BP社1800円税別)

会計士の方々はご承知のことと思いますが、キャッツ事件で一審、二審とも有価証券報告書虚偽記載罪の「共同正犯」として有罪の判決を受けて、現在上告中の公認会計士の方の手記をとりまとめたものであります。読了して、かなり重い気持ちになりましたが、この本はぜひとも弁護士の方々にもお読みいただくことをお勧めいたします。(また、将来的には裁判員に選ばれた方にも、審理に臨む前には、ぜひお読みいただきたい・・・・と個人的には思います)この本の内容を論評することは、とてもブログという媒体では(執筆者に失礼にあたると思いますので)差し控えますし、私個人の感情としては、ぜひ細野さんには最高裁で無罪を勝ち取ってほしいと願うばかりでありますが、個人の感情を抜きにして、冷静かつ客観的にこの本から考えたことは、法律家と会計士とでは、「事実」の捉え方も、法や会計原則への「解釈」の仕方もまったく違うのではないか・・・というところであります。会計士協会さんのほうは、この判決を受けて、「あくまでも一会計士の個人的事情によるものである」と冷静にコメントをされたそうでありますが、この金商法193条の3との関係でみると、果たして「個人的事情による」ものといった観点から捉えるだけでいいものだろうか・・・と少し疑問を抱いております。とりわけ控訴審では、原審での関係者の証言が覆り、「共謀」に関するアリバイなどが成立し、会計専門家(大学教授)の意見書まで提出されたにもかかわらず、著者である監査人の有罪判決は覆らなかったわけであります。つまり会計士さん方の常識が、法律の世界ではそのままでは通用しないわけでありまして、金商法193条の3にいうところの「法令違反等事実」の解釈にもご留意いただいたほうがよろしいのではないか・・・というところであります。著者である細野さんは、「もっと司法制度の制度疲労について、目を向けてほしい」と述べておられますが、私はミクロ的には、刑事事件として粉飾決算が問題となる場合の、双方の認識の違いのような点が、とても気になったような次第であります。そして今後、公認会計士法が改正され、懲罰的な課徴金制度が導入されるなか、この傾向はますます強まるのではないかと懸念するところであります。(もちろん、課徴金制度の場合は、直接的には行政と会計士さんとの関係でありますが)

たとえばひとつの例としましては、「たまたま監査の時点で、粉飾の事実を発見したら、監査人は監査役に通知すべし」と言うことは簡単なことであります。しかし、法律家と会計士との間で「事実」と「解釈」において、認識が共有されているとは思えません。「事実」とはどこまでの証拠があれば「事実」と言えるのでしょうか?また、法令違反というのは、会計原則や金商法等の解釈抜きに一義的に決まるのでしょうか?「これって、違反事実が認定できるじゃないか?なぜ報告しなかったんだ?」「いや、まだそれだけでは事実が確定しているとはいえないと思っていました」とか「これって法令違反にあたるだろう。なぜ通報しなかったのだ?」「いえ、会計原則からみれば、法令違反とまではいえないと思いましたので」といった会話がなされるおそれはありませんでしょうか?もし、こういった会話が成り立ってしまうのであれば、「たまたま発見したら通報する義務」を超えてしまって、かぎりなく「会計士さんの不正発見義務」が認められたことに近づいてしまうおそれがあります。上記の著書のなかで、細野さんもおっしゃっていますが、「監査とは、たとえそこで不正行為が行われていたとしても、その不正行為による損得も、すべて正確に反映している財務諸表であれば、適正意見を書くものであって、不正行為を非難するのが監査の役目ではない」はずであります。そして、かろうじて、会社法にも規定がありますが、不正を発見した場合には、別途会社に対する通知報告義務を課すことで、本来の使命との両立がとれることとなります。しかしながら、不正発見義務となりますと、もはや本来の使命自体に変革が生じたこととなりますので、193条の3の運用次第では、本来的使命の変革にもつながりかねないのではないでしょうか。

「違反したとしても、たかだか30万円の過料ではないか・・・」といった楽観論は否定すべきだと思います。たしかに行政罰としての30万円はたいしたことではないかもしれません。しかしながら、法令違反等事実の報告義務違反の疑いをもって、広範な行政調査権を行使できる根拠が増えたことで、「その奥にある刑事罰への足がかり」が作れますし、またなんといいましても、会計士さん方の崇高なる「守秘義務」の壁を突き崩すことができるわけであります。(法令違反等事実の通知報告義務を根拠に、検察やSECさんは、会計士さんの守秘義務による証言拒絶を懐柔することが可能になるはずです)そういったところも、今後の193条の3の運用において見逃すことができないところであります。

さらにまた別の例としましては、「法令違反等事実」というのは、いったいどのような事実を指しているのか、(岸田教授が指摘されているように)談合とか、耐震偽装とか、食品表示の不正など、ダイレクトには財務報告の信頼性に影響を与えるとは言えないような「不正」を発見したときまで、通知報告義務を認めるべきなのか・・・といった論点も出てくるわけでありますが、先のパブコメ結果公表における金融庁の回答では、このあたりが曖昧なままでありまして、これはまた別の機会に検討してみたいと思います。(不定期にてつづく)

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2007年12月 9日 (日)

日本内部統制研究学会創立総会

今朝(12月8日)の日経朝刊金融面でも報道されておりました「日本内部統制研究学会」の創立総会に参加してまいりました。組織自体は永田町所在の社団法人に帰属するものでありますが、総会は(やっぱり?)「日本の内部統制の聖地」とも言われる(言われてない?)表参道にあります某大学で開催されました。(ということで、2週続けて最終の新幹線で帰阪しております。しかしメインストリートに大きなクリスマスツリーが飾られ、イリュミネーションのなか、クリスマスコンサートも開催されていて、この時期のこの大学はなんとも美しいですね。)

「産・学・士」連携により、これからの内部統制のあり方を研究していこうというものでして、プレス関係の方もたくさんお越しになっていらっしゃいました。(詳しくはプレスリリースが出ると思いますので、そちらをご参照ください)私は設立発起人ということだったのですが、まぁ遠方からの参加ということなんで、気楽に川北博議長によります議事進行を見守っておりましたが、どういうわけか理事に就任することとなりまして、昨夜に続くサプライズとなりました。

H先生とは久しぶりにお目にかかりましたが、開口一番

「いやいや、アルファブロガーおめでとう♪」

T先生(弁護士)には、

「東の横綱って書いてくれたみたいで(「豊潤なる企業」の件です)ありがとう」

ということで、みなさまブログをお読みいただいているようでしたので感激もひとしおでございました。M先生(弁護士)とも初めてお会いしましたが、あの「包み込む」ようなお人柄に接しまして、いきなりファンになってしまいました(笑)

法曹界からは6人の設立発起人の方が参加していらっしゃいますが、私以外の弁護士の方はみなさま「○○弁護士ランキング」の常連の方々ですし「存在することだけでも意味がある」わけですが、とくに何も肩書きのない私の場合は「そこにいる」だけでは、この学会にとって何の意味もありませんので、さっそくH先生へ直々に意見を述べさせていただきました。ひとつは、H先生が繰り返し説明しておられる「海外不正支払防止法」(1977年)から「COSO」(1992年)までの15年の米国の歴史をもう少し日本版SOX法実務に携わる者に、明らかにすべきことであります。海外不正支払防止法制定の際、アメリカで直接的に経営者の財務報告に係る内部統制構築義務を規定したにもかかわらず、どうもうまくいかなかった、そこでCOSOの時代に「報告制度」を採用するようになって、内部統制の議論が発展していった。なぜ「経営者の義務」を法定しただけではうまくいかず、「報告制度」としたために議論が発展していったのか、そこがまだ一般的にはブラックボックス化していると思われます。COSOの時代からSOX法の時代までの変遷につきましては、そこそこ理解しているつもりでありますが、COSOまでの時代について、もう少し検証しておく必要があるのではないか、このあたりを正確に把握できそうな文献にあたってみるべきだと思います。ここには会社法上の内部統制と金商法上の内部統制報告制度との関係をどう捉えるべきか、といった論点を探るヒントが隠されているような気もいたしますし、またこういった内部統制実務における法曹と会計職業人との効率的な連携体制構築のためのカギがあるようにも思っております。なぜ私がそのように考えるかといいますと、以前当ブログでも少し触れましたが、来年から施行されます日本版SOX法は、どんなに理想が高いものであったとしましても、どこかでうまく機能しないところが出てきて、数年後にはかなりの修正が余儀なくされると(少なくとも私は)予想しております。日本版SOX法自体を修正する際に、どのように修正すればいいのか、おそらく現場からの要望はさまざまだと思いますが、その際に明確な修正基準のようなものが必要だと思います。その修正のための基準を作るためには、私はアメリカの失敗例や成功例などを情緒的にではなく客観的かつ冷静に分析して、これを日本版修正の際にも生かすべきだと思います。

もうひとつの意見は、数日前に金融庁から公表されました公認会計士法と金融商品取引法の改正案に関するものでありますが、この改正案につきましては、(どなたか、コメントでも述べておられましたように)今後の会計士さん方の監査実務にきわめて大きな影響を与えるのではないかと思いますし、内部統制監査の立場からも、十分検討されるべきであります。内容につきましては、直接この「日本内部統制研究学会」とは関係ないかもしれませんので、また考えを整理しまして、別エントリーにて書かせていただこうかと思っております。

懇親会では、どこを見回しても、会計系雑誌の座談会記事の写真でお見受けしたことのある方ばかりでありまして、ほとんどアウェーの気分でしたが、だいぶこういった雰囲気にも慣れてきましたです。(笑)気を遣って、お声をかけていただいた方々に感謝しております(笑)

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2007年12月 8日 (土)

アルファブロガー2007受賞しました(感謝!)

(8日午前 追記あります)

まだアルファブロガー主催者側より正式な発表はございませんが、アワードに参加されたyoshiさんのコメントや、毎日新聞ニュースで発表されておりますので、短めながら、ご挨拶申し上げます。

なんと当ブログ(を運営する管理人である私)が2007アルファブロガーに選出されました!

このサプライズは、なんといいましても当ブログに一票を投じていただいた方々のおかげです

また、閲覧されていらっしゃる方はご承知のとおり、この受賞は私とともに、コメントされていらっしゃる常連さん方とのコラボによって獲得できたものであります!常連のみなさまと一緒に、この受賞の喜びを味わいたいと思います。本当にどうもありがとうございました!

しかし先の毎日新聞ニュースの写真をよく見ると、今年8月に大阪で夕食をご一緒したあの方が壇上でなにやらしゃべっておられるご様子。 動画があれば見たいです。

まだアルファブロガーの実感が湧きません。ともかく、いまはご投票いただいた方々へのお礼の気持ちと、これからも気分は「場末のブログ」のままで、自分の関心分野にしぼってエントリーを重ねていきたいといった気持ちでいっぱいです。どうか、今後とも当ブログをよろしくお願いいたします。

山口利昭 拝

(追記)昨夜は忘年会帰りで頭がモウロウとしておりましたので、不正確な記述がありました。若干訂正をしております。

また、正式にアルファブロガーアワードのHPでも結果発表がされております。

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2007年12月 7日 (金)

モリテックス社の総会決議取消判決(東京地裁)

そういえばキリンHDによる協和発酵社へのTOBの結果はどうなったんだろうか?などと気になる週末でありますが、また企業法務関連の重要な裁判が出ましたので、社外監査役の視点からすこしだけコメントしたいと思います。

ここのところ重要な裁判が続いておりますが、本日(12月6日)東京地裁で本年6月27日に開催されましたモリテックス社の株主総会決議(の一部)を取消す旨の判決が出たそうであります。原告は、総会において委任状獲得競争を会社側と演じた大株主であるIDEC社です。日経ニュース読売ニュースなどを読んでも、なんのこっちゃ?とわからなかったのでありますが、読売新聞夕刊の一面ニュースを喫茶店で読みまして、おぼろげながら問題点がわかったような次第であります。(ということで、まだ判決文を読んでおりませんので、問題点の整理のみということで失礼します)

問題点としましては、ひとつは朝日や読売ニュースで見出しになっておりますように、会社側が議決権を行使する株主に対して「500円の商品券(クオカード)」を交付する行為が会社法120条で禁止されている「株主への利益供与」に該当する、と判断されたことであります。なお、この問題につきましては、今年8月初めに当ブログにおきましても(仮に・・・という話ではありましたが) 「株主への利益供与禁止規定の応用度(その1)」  「(その2)」において検討していたところでして、私は「500円程度の商品券だったら社会的儀礼の範囲内であって、利益供与にはあたらない」と論じておりましたが、コメント欄でkazuさんが「プロキシーファイトの場面においては500円の商品券でも問題があるのでは?」とされており、まさに鹿子木裁判官の意見と、kazuさんのご意見とは近いものがあったようです。(さすが、いいセンスされています>kazuさん。)東京地裁判決でも、「500円の商品券は、社会的儀礼の範囲ではあるけれども、こういった時期に、議決権の行使を勧誘することと合わせて交付をすることは、会社提案への賛同を株主に求めていることを疑わせるものである」とされている(あくまでも報道内容からの推測)ようで、単に何を株主に交付したか、ということだけでなく、他の事情も考慮することで適用範囲を限定しようとしているものと推測されます。ただ、株主へ利益供与の事実が、どういった理由で株主総会の決議取消の要件と結びつくのか、そのあたりの流れが報道だけではわかりません。(なお、この点につきましては、判決文を読めるようになってから、もうすこし具体的に検討してみたいと思います)しかし、会社側が500円の商品券で問題になるんでしたら、株主側のヒルトンホテルでのディナー付き株主提案説明会は(利益供与の要件には該当しないから)オッケーになるのも、なんか少しへんな感じもしますが・・・・

そしてもうひとつの問題点は、委任状の取扱いに関する論点であります。これはなかなか法律家好みの面白い論点だと思います。たとえば、委任状を勧誘する場合に、その委任状の記載に瑕疵があったら、その委任状の効力をどうみるか・・・というあたりの論点ではないかと思われます。議決権行使に関する委任状を交付する際の、当事者の合理的な意思解釈とはどういったものか、(もし瑕疵ある場合に)その委任状自体を無効とみるのか、委任状は有効だとしても、瑕疵は決議取消原因になるのか、それとも瑕疵ある委任状を利用した人(もしくは会社)自体に民事上、行政上、刑事上のペナルティを課すことによって対処すれば足りるのか等、私法、公法、会社法、金商法(上場企業の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令)あたりが交錯するなかで、もっとも妥当を思われる結論を導くことになろうかと思われます。報道では結論しかわかりませんが、おそらく株主(IDEC社)側が集めてきた委任状には株主提案にかかる議案(モリテックス社の招集通知によれば4号、5号議案)への株主の賛否記入欄だけが記載されており、会社側提案議案(同、2号、3号議案)への株主の賛否記入欄は記載されていなかったのではないかと推測されます。そもそも、上場企業の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令(いわゆる委任状勧誘規則)の43条は、以下のとおり規程されております。

上場企業の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令

(委任状の用紙の様式)
第43条  令第36条の2第5項 に規定する委任状の用紙には、議案ごとに被勧誘者が賛否を記載する欄を設けなければならない。ただし、別に棄権の欄を設けることを妨げない。

ちなみに、「令第36条の2第5項」といいますのは、以下の金融商品取引法施行令であります。(ご参考まで)

金融商品取引法施行令(昭和四十年九月三十日政令第三百二十一号)

(議決権の代理行使の勧誘)
第36条の2

1 議決権の代理行使の勧誘(法第百九十四条に規定する金融商品取引 所に上場されている株式の発行会社の株式につき、自己又は第三者にその議決権の行使を代理させることの勧誘をいう。第三十六条の四から第三十六条の六までにおいて同じ。)を行おうとする者(以下この条から第三十六条の四までにおいて「勧誘者」という。)は、当該勧誘に際し、その相手方(以下この条及び第三十六条の六において「被勧誘者」という。)に対し、委任状の用紙及び代理権の授与に関し参考となるべき事項として内閣府令で定めるものを記載した書類(以下この条から第三十六条の五までにおいて「参考書類」という。)を交付しなければならない。
2  勧誘者は、前項の規定による委任状の用紙又は参考書類の交付に代えて、当該被勧誘者の承諾を得て、当該委任状の用紙又は参考書類に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて内閣府令で定めるもの(以下この条において「電磁的方法」という。)により提供することができる。この場合において、当該勧誘者は、当該委任状の用紙又は参考書類を交付したものとみなす。
3  勧誘者は、前項前段の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは、内閣府令で定めるところにより、あらかじめ、当該被勧誘者に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない。
4  前項の規定による承諾を得た勧誘者は、当該被勧誘者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があつたときは、当該被勧誘者に対し、第二項に規定する事項の提供を電磁的方法によつてしてはならない。ただし、当該被勧誘者が再び前項の規定による承諾をした場合は、この限りでない。
5  第一項の委任状の用紙の様式は、内閣府令で定める。

さて、以上の「委任状勧誘規則」43条によりますと、「取締役、監査役を選任する議案」への株主の賛否を問う場合、会社提案と株主提案のすべて、つまり2号から5号議案までについて株主は賛否を明らかにすべきではないかとも思われます。したがいまして、もし2号議案、3号議案(会社側提案)に関する賛否記入欄が、株主側作成の委任状に記載されていないとすると、(本来、選任すべき候補者をすべて知ったうえで、議決権を行使すべきであるにもかかわらず、株主側の候補者しか知らないままで委任状を提出するわけですから)株主側が提出した委任状は委任状勧誘規則43条違反となり、形式的要件が欠けていることになりそうであります。この点を重視するのであれば、IDEC社側に賛同する株主の委任状には瑕疵があることになり、出席株主数に参入しなかったモリテックス社側の対応に合理性があることになります。しかし、そもそも2号3号議案と4号5号議案とは、対立する内容であって、株主が4号、5号に賛同している場合には、その意思解釈として2号、3号議案には反対しているものである・・・とみるのが合理的であって、とくに2号、3号への賛否欄を設ける必要はないものと考えれば、なんら本件委任状には瑕疵はないという結論になります。おそらく、東京地裁の判決は、こちらの考え方ではないかと推測されます。

もし、株主側の委任状に、会社側提案議案のすべてについて賛否記入欄を掲載しなければ委任状勧誘規則43条違反になるとしますと、招集通知発送時期まで、つまり総会直前まで株主側は委任状勧誘が困難な状況におかれますので、委任状勧誘競争の実質的な公平を期すためには、委任状の作成過程における合理的な意思解釈によって、判決のような結論に至るのが妥当ではないかとも思います。ただ、そもそも金融商品取引法194条は、議決権の代理行使については原則禁止であり、政令で規定している場合にかぎり禁止を解除するというものでありますので、委任状勧誘規則の解釈にあたっても、厳格に解釈すべきであることや、反社会勢力などによるフロント企業が会社乗っ取りをはかろうとする場合において、かなりグレーな委任状勧誘が行われる恐れがあり、そういった場合に議決権行使を制限できなくなるのではないかといった政策的な理由などから、判決の結論に反対する立場もあろうかと思います。いずれにしましても、ここでは結論に影響を与えそうな諸事情をさまざま組み合わせて、いろんな議論ができそうですので、また判決内容を精査したうえで、検討してみたいと思っております。

参考(金融商品取引法194条)

(議決権の代理行使の勧誘の禁止)第194条 何人も、政令で定めるところに違反して、金融商品取引所に上場されている株式の発行会社の株式につき、自己又は第三者に議決権の行使を代理させることを勧誘してはならない。

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2007年12月 6日 (木)

証券会社の自己売買取引と価格安定操作(2)

10月2日に証券会社の自己売買取引と価格安定操作なるエントリーをアップして、丸八証券社の問題をとりあげましたが、本日、丸八証券に対して強制調査手続がとられたようで、証券取引等監視委員会は、刑事告発へ向けた準備に入るようであります。(なお、すでに特別第三者委員会報告書により、事実調査および原因究明、再発防止策の提案などがなされておりまして、私的には今後の参考にしたく、すでに読了しております。役職員とも、リーガルリスクへの配慮が足りなかった点に関する記述はなかなか興味深いところであります)

証券会社による違法行為のうち、近時、証券取引等監視委員会がもっとも厳格な態度でのぞむものは、金融商品取引業者間における競争激化のなかでの不公正取引だそうであります。今回のように「引受証券会社としての実績をあげたいため」といった目的は、まさに監視委員会が最も厳しい姿勢でのぞむものであり、投資一任勘定に関するものであったとしましても、近時2度にわたって行政処分を受けていることからみて、法令遵守態勢が、社内にまったく機能していないものと評価されてもいたしかたないのかもしれません。課徴金調査→犯則調査という流れとなっておりますが、こういった流れは今後も証券取引等監視委員会の調査手続としては常態化していくのではないかと思います。

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2007年12月 5日 (水)

文書提出命令最高裁決定とJ-SOXへの影響度

(12月5日午後 エントリー内容に不正確な記述がありましたので、若干訂正および追記しております。なお、本エントリーはかなり重たい内容を含んでおり、昨夜、脊髄反射的に書いてはみたものの、修正すべき箇所が多々ありそうですので、いまだ「書きかけ」としてお読みいただければ幸いです。)

今朝(12月4日)の日経新聞社会面でも採り上げられておりましたように、融資先の経営状況を調査した自己査定資料について、銀行が裁判において当該資料の開示を拒否できるかどうかが争われた許可抗告審におきまして、この11月30日、最高裁(小法廷)は、 「融資先の債務者区分などを記した自己査定資料については、もっぱら銀行が自己使用の目的で作成された文書とはいえず、開示を拒否できない」として、破棄差戻しの決定を出しております。(日経ニュースはこちら です。新聞記事のほうがかなり詳細な解説がなされております)東京高裁では「自己査定資料の内部文書性 自己使用文書性」が認められ、銀行側が開示を拒否できる・・・とされておりましたので、最高裁におけるこの逆転決定は、金融実務にとりましては、かなり重大な決定であります。おそらく来年早々の金融法務に関する雑誌等におきましても、著名な学者、実務家の先生方による解説論稿が出されるものと予想されます。(なお、この最高裁決定はすでにネット上にも公開されておりますし、A4で6枚程度の決定文ですので、ご興味のある方は、こちらで全文をお読みいただきますと、理解が進むものと思います。さすがに重要な最高裁決定は公開時期が早いですね)

この文書提出命令最高裁決定に関する詳細で正確な論稿は、金融法務に詳しい著名な先生方に期待をしておりますが、私的に、この最高裁決定において最も関心がありますのが、内部統制報告制度が導入される一般事業会社にも、この最高裁決定の影響があるかどうかという点であります。私のブログでも、2年半ほど前から、内部統制システムと文書提出命令の関係ということを、ひとつの検討課題としているところであります。(内部統制監査と文書提出命令制度 内部統制システムと文書提出命令(2)などご参照ください)私がコンプライアンス委員を務めております企業におきましても、この「自己使用文書性」(民訴法220条4号二に該当する文書か否か)につきましては、非常に気を遣うところであります。痛い目にあった後でないと、なかなか気がつきにくいリーガルリスクの一種だと認識しております。

1 文書提出命令とJ-SOX実務の関係(決定理由の検証)

ここでの問題点は、企業情報の開示のための「財務報告に係る内部統制報告制度」の一環として上場企業内部で作成される文書は、企業責任が問われるような裁判において(もしくは裁判の準備段階において)、相手方からの要求があれば、これを相手方の閲覧に供しなければならないか?というものであります。いわゆる文書化の3点セットと言われるものや、日々の自己監査の記録、内部監査人による監査記録、その他およそ監査法人さんによる内部統制監査のチェックを受ける書類一切が対象であります。私は銀行稟議書の自己文書性を否定した平成10年の高裁判断をもとに、こういった内部統制報告制度の運用に必要な文書等がいわゆる「法律関係文書」に該当するかどうか・・・といった視点で検討する必要があると思っておりましたが、今回の最高裁決定が、自己使用文書性を否定した理由を読みますと、どうもそういった観点からではなさそうであります。

(以下は追記です)

文書提出命令と自己使用文書(社内文書)との関係につきましては、平成11年11月12日最高裁決定(銀行の稟議書に関するもの)が代表的なものでありまして(金融法務事情1567号23頁以下参照)、本決定も、民訴法220条における「自己利用文書」性に関する判断基準について、その決定を踏襲しているようであります。また、平成18年2月17日最高裁決定では、銀行本部の担当部署から各営業店長あてに発出された社内通達文書であり、一般的な業務遂行上の指針等が記載されたものが、「自己利用文書(単なる内部文書) 」には当たらないとして開示を拒絶できないとされた決定もあります(金融法務事情1773号43頁以下参照)ので、本決定の射程範囲を検討するにあたっては、こういった代表的な最高裁決定につきましても、十分検討しなければならないと思われます。

後日、きちんと整理したいと思いますが、まず最高裁平成11年決定が定立した「自己使用文書」(つまり開示を拒否できる文書)とされる三要件はそのまま今回も残したうえで、第一の要件である「専ら内部の者の利用に供する目的で作成された文書」であることの解釈が焦点とされているようです。もし、一般事業会社の内部統制報告制度との関係で議論をするのであれば、この第一要件の解釈の射程距離も重要でありますが、第二要件「個人のプライバシーの侵害や個人ないし団体の自由な意思形成の阻害など、開示によって文書の所持者の側に看過しがたい不利益が生ずるおそれがあるかどうか」といった論点についても検討が必要かと思われます。なお、この第二要件との関係でいえば、先の平成18年2月17日決定が参考になりそうです。いずれにしましても、まず民事訴訟法220条4号二の解釈問題として、きちんと問題の整理をすることが大前提ですね。

なお、本決定におきましては、銀行の自己査定文書と金融検査マニュアルとの関係から、単なる自己使用文書ではない、といった結論に至っております。関連部分を最高裁決定より引用しますと、

「これを本件についてみると、前記のとおり、相手方(ここでは金融機関 筆者注)は、法令により資産査定が義務付けられているところ、本件文書は、相手方が融資先であるAについて、前記検査マニュアルに沿って、同社に対して有する債権の資産査定を行う前提となる債務者区分を行うために作成し、事後的検証に備える目的もあって保存した資料であり、このことからすると、本件文書は、前記資産査定のために必要な資料であり、監督官庁による資産査定に関する前記検査において、資産査定の正確性を裏付ける資料として必要とされているものであるから、相手方自身による利用にとどまらず、相手方以外の者による利用が予定されているものということができる。そうすると、本件文書は専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であるということはできず、民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらないというべきである。

財務報告に係る内部統制報告制度におきましては、金商法が直接的に、上場企業の取締役らに対して内部統制システムの構築義務を課したものではないことはすでに述べているとおりであります。(ただし、ここは私の個人的意見かもしれませんので、ご注意ください。)しかしながら、経営者による評価義務、監査人による監査義務といったものは金融商品取引法(および関連政令、府令)より導かれるところでありますので、金融検査マニュアル(金融庁から金融検査官への通達)と検査対象たる金融機関との関係に近いものがあるのではないでしょうか。たとえば先に引用した部分で検討してみますと、

①「法令により資産査定が義務付けられているところ」→「法令により経営者による評価が義務付けられているところ」

②「前記検査マニュアルに沿って・・・債務者区分を行うために作成し」→「内部統制実施基準に沿って・・・内部統制の有効性を評価するために作成し」

③「資産査定の正確性を裏付ける資料として必要とされるものであるから」→「財務報告の信頼性を裏付ける資料として必要とされるものであるから」

といったところで近接しておりまして、結論としましても、内部統制報告制度における「文書化」の対象は、外部への報告の基礎となり、かつ内部統制監査人(つまり監査法人)による監査に必要な記録でありますので、「専ら内部の者の利用に供する目的で作成される」ものではなく、外部の者へ開示することが予定されていない文書ということはできないことになるように思われます。つまり、内部統制報告制度においては、(基本的には)先の最高裁決定の射程範囲に含まれるのではないか・・・というのが私の意見であります。

2 更なる検討課題(コンプライアンスの視点)

なお、ここでは金商法上の内部統制システムとの関係のみを考察しておりますが、取締役の善管注意義務と密接に結びつく会社法上の内部統制システムの一環として作成される文書につきましては、また別個の考え方も成り立つように思います。(「法律関係文書」に該当する場合があるのではないか、等)また、上記最高裁決定は、「自己査定資料の内部文書性」を否定したにとどまり、さらに「職業上の秘密」が対象文書に含まれていないかどうか、審理を尽くすように高裁へ差し戻しておりますので、こういった内部統制システムによって文書化されたものにつきましても、自社の営業秘密や、他社の保護法益の侵害とはならないかどうか、といった判断(つまり、開示を拒絶できる正当な理由)についても別途考慮を要するところだと思われます。(また、これらの実質的な議論とは別に、財務報告に係る内部統制の一環として作成された文書は、どうやって特定していけばいいのか、開示された文書について、どのように書証化すればいいのか等、民事訴訟法特有の問題点も別個存在するはずであります。)いずれにしましても、社内文書を隠したり、徒に文書化を省略したりすることは、むしろ法令遵守の観点からみて妥当とはいえないわけですので、文書作成(記録化)の工夫が必要ではないかと思います。

(民事訴訟法220条 参照)

(文書提出義務)第220条 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。
1.当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。
2.挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。
3.文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。
4.前3号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。
イ 文書の所持者又は文書の所持者と第196条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書
ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの
ハ 第197条第1項第2号に規定する事実又は同項第3号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書
ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)
ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

(追記)私がエントリーするより先に、行方先生のブログでも(速報版)としてとりあげていらっしゃったようで、金融法務に少なからぬ影響が出るのではないか、ということです。なお、金融検査マニュアル、金融商品取引業者等検査マニュアルの検査対象となります金融機関への実務的影響につきましては、ろじゃあさんがコメントで述べておられるように、今後の(雑誌等による正式な)解説等にご留意いただいたほうがよろしいかと思います。また、私自身も、この最高裁決定の射程範囲について、もう少し正確に理解したいところですので、(文書提出命令申立事件の)元になっている損害賠償請求訴訟の事案そのものを分析してみる予定であります。射程距離を検討するにあたっては、個別事案との関連性などもけっこう重要かもしれませんので。

(追記2)

金融法務事情1818号(平成19年11月5日、15日合併号)50頁以下におきまして、先に掲げております平成18年2月17日決定に関与された滝井繁男先生(元最高裁判事)が、一連の最高裁における「文書提出命令に関する決定」について問題点を整理されておられます。そのなかで、平成18年決定について「この決定は金融機関にとどまらず、すべての企業の文書に及ぶと解されます。・・・」とされておりまして、最近の文書提出命令に関する一連の最高裁決定につきましては、(今回の最高裁決定を含め)やはり一般事業会社における文書管理への影響が大きいものと思われます。とりわけ内部統制報告制度と「文書化」の問題につきましては、先日ご紹介した八田先生の著書でも指摘されているとおり、多くの誤解はあるものの、「記録化」という点では避けて通ることができない問題であります。企業側が開示の不利益をおそれて、文書の隠蔽や偽造など、後で大きな不祥事となるような事態を未然に回避するためにも、企業における文書化のルールを明確に規程しておくことが必要ではないかと思いますし、あるべきリスクマネジメントのひとつではないかと考えます。

今後の問題整理の手法としましては、①会社訴訟における文書提出命令の位置付け(誰から誰に対して求めるのか、いつ求めるのか、具体的な文書の特定や書証化の手続について等)、②最高裁平成11年決定における「自己利用文書性」の要件の判断基準について、現行民事訴訟法のもとでも維持されていることの確認、③各要件の解釈にあたって、これまでの文書提出命令について下された各最高裁決定の射程範囲の明確化、④そのうえで今回の平成19年最高裁決定の射程範囲の明確化(とくに平成18年最高裁決定との関係)⑤一般事業会社における内部統制システムの構築と文書化(記録化)の位置付け、⑥ ⑤によって整理された文書と「自己利用文書性」の三要件との関係性、とりわけ意思形成過程の記載された文書、営業秘密の記載された文書、プロセス特許等法的保護に値する内容が記述された文書等の保護と開示の必要性の利益考量 ⑦以上の考察に基づき、内部統制報告制度が適用される一般上場会社における取組み、およびルール化、などが考えられるところであり、おそらくこれでひとつの論文が書けるかもしれませんね。なお、以上はJ-SOXとの関係で捉えたものですから、ここに会社法上の内部統制システムの問題も加えることになりますと、もっと論点が増えることになりそうです。

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2007年12月 4日 (火)

(総合解説)内部統制報告制度

Photo 「法令・基準等の要点とQ&A」なる副題が付いているほどですので、こちらは、(どちらかといえば)金融商品取引法上における内部統制報告制度を「法律家」や「財務報告内部統制を監査する監査役」の視点から検討されたい方に向いている本ではないかと思います。

総合解説・内部統制報告制度~法令・基準等の要点とQ&A(池田唯一 編著 税務研究会出版局 3000円税別 平成19年12月発売)

実施基準と金商法、内閣府令の条文を、かなり有機的、体系的に整理されておりますし、内部統制報告制度の制定経緯も丁寧に解説されておりますので、現場で悪戦苦闘されておられる担当者、監査法人の方々がどのように評価されるのかはわかりませんが、少なくとも私には「好みのタイプ」の本です。また、この編著者の方々には珍しく(といっては失礼ですが)、第一章(報告制度の概要)におきましては、編著者の方々の個人的意見もかなり盛り込まれておりますので、興味深く読めるところであります。(「日本版SOX法」「J-SOX法」なる用語を使用するのであれば、それは金商法、会社法、公認会計士法にまたがる制度内容と理解する必要があるんですね。こういった仕訳は私的には大好きです。詳細は解説がございます。)

なお、この本を拝読しましても、やはり金融商品取引法上の内部統制報告制度といったものが、会社法上の内部統制システム構築義務(事業報告の対象とされる基本方針の決議内容)となるのか、未だにちょっと私には理解できないところであります。金商法上の内部統制報告制度は、経営者確認書制度、四半期開示法制化と同じく「開示」に関する制度でありまして、どこからも財務報告に係る内部統制システムの構築義務は導かれません。会社法上の取締役の善管注意義務として導かれるのは、「法令違反をしない義務」つまり経営者として一般に公正妥当と認められる評価の基準に従って「有効性を評価する義務」と、監査人によって、一般に公正妥当と認められる内部統制監査の基準にしたがって「監査を受ける義務」、そして「内部統制報告書を提出する義務」であります。それ以外に、一定水準の内部統制システムの整備運用義務といった実質的な法的義務は発生しないはずであります。もし仮に、財務報告に係る内部統制システムの構築義務が、取締役の法的責任と関連するものであり、また事業報告の内容となりうる、ということであれば、それは金商法上の内部統制報告制度とは無関係に、有価証券報告書の虚偽記載を防止する責任が本来的に取締役には認められるのであったり、もしくは経営者確認制度や四半期制度が有効に機能するためには、すくなくとも一定レベルの内部統制システムの構築義務が(そういった制度に由来することによって)取締役に認められるからである、と解釈されるべきであります。

そういった疑問とは別に、この本を読みながらふと考えましたのは、内部統制報告制度が実施された場合、内部統制監査人(つまり監査法人、会計士さん)には「重要な欠陥」についての発見義務というのは、法的責任として認められるのでしょうかね?「不備」であれば、経営者評価に関する監査の内容として、発見義務を認める必要はないと思いますが、「重要な欠陥」があったにもかかわらず、経営者による「財務報告に係る内部統制は有効」との評価に適正意見を出した場合、監査報告書の提出責任者もしくは、その監査報告書の品質管理を行う責任者に故意過失が認められると民事責任を追及されるおそれはあるのでしょうか?もちろん財務諸表監査において「不正発見義務」は一般的には認められていない、といった前提でのお話でありますが、「不正」は多分に法律的要素を含んだ概念でありますので、そもそも監査人に「不正」か否かを区別せよ、といった要求は酷でありますし、また監査人の職責が「監査」でありますので、不正発見はそこから逸脱していると捉えるのが通説的だと思われます。しかし「重要な欠陥」はそもそも監査基準、経営者評価基準によって判断可能な概念ですから、そこに評価概念を含んだものであったとしましても、専門家責任を問われる可能性があるように思うのでありますが、いかがでしょうか。財務報告に係る内部統制システムの整備運用テストの現場におきまして、企業担当者の方々に対して、監査人の方々が厳格なシステムを要求される背景には、こういった「重要な欠陥」を見落としますと、自分たちの法的責任が発生するから・・・ということだからでしょうか、それとも重要な欠陥の発見義務(つまり法的責任)とは無関係に、「内部統制監査の基準に基づいて適正意見を出せるレベル」のようなものが、監査人には客観的に認識できるからなのでしょうか。

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2007年12月 3日 (月)

反社会勢力対策の企業実務的進化(その1)

企業の内部統制システムに関心を持つ弁護士ということで、最近ときどき「企業防衛協議会」の方より講演依頼を受けるようになりました。(先々週も、大阪のある地区の協議会で講師をさせていただきました)ふつう、弁護士が「反社会勢力対策」(以前は「反社会的勢力」といわれておりましたが、最近は「的」がつかない場合が多いようですね)について講演をする、ということですと、頭に思い浮かびますのは、弁護士会の民暴対策委員会の先生方が、クレーマーとの交渉方法とか、街宣車による周回禁止の仮処分のお話をすることなどが連想されるところだと思います。もちろん、そういった対策(従来型議論)もたいへんに重要なのでありますが、今年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が政府から公表され、反社会勢力と断絶するための企業の仕組みが内部統制システムの一環として捉えられるようになったことや、上場企業にとりましては、証券取引所の自主ルールとして、反社会勢力排除のための仕組みがあることが審査対象となりつつあることなどから、会社法ルール、金融商品取引法ルール、そして個人情報保護法ルールとしての仕組み作りに注目が集まりつつあるようです。(書店でも、企業法務関連の書籍として、次々と新刊書が発売されているようですね)思いつくままに、図式化してみますと、以下のとおりに整理されるのではないでしょうか。

Hansya003

(なお、種類株式の活用につきましては、現時点では非公開会社対応が中心になろうかと思います)

先日の協議会は上場企業40社程度で構成されておりまして、出席されていらっしゃった方々は、総務部の方がほとんど、そして半数近くがいわゆる「警察OB」の方でした。やはり、企業にとりましては、反社会勢力に関する情報収集、ということに関心が高いようですが、これを自助努力によって収集することは容易なことではないようです。そこで、「協議会」のような「共助」組織を利用したり、自主規制団体や業界団体等によって最近設立されつつある「情報管理センター」などを利用して情報を相互に利用するシステムも活用されはじめているようであります。しかし、これだけ「反社会勢力排除対応」の議論が実務的に進化してきますと、上場企業にとりましても、これまでと同じような対応策でいいのかどうか、これからは総務部のみならず、法務部、コンプライアンス委員会、財務部など、管理部門挙げて取り組むべき問題とされる必要があるのではないかと思いますし(もちろん、大きな企業さんでは、すでに取り組んでいらっしゃるところも多いとは思いますが)、このブログでも会社法上の内部統制システム構築との関連で、ときどき採り上げていきたいと思っております。上場企業にとりましては、上記「排除指針」が出るまでは、経団連「実行の手引き」に基づいた「企業行動規範」としての問題でありましたが、上記排除指針により、もはや「法的責任論」とも密接に結びつく問題になりつつあることについて、認識を共有していきたいと思っております。

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