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2007年12月27日 (木)

三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その3)

朝日新聞ニュースの深夜版(12月26日深夜)「三洋不正決算 議事録『先送り』言及 意図的の可能性も」は、けっこう衝撃的な内容を含んでいるようであります。この三洋電機不正決算問題につきましては、今年2月ころの発覚当初報道の時点から、内部告発によって発覚したものとされておりましたが、私は三洋の関係者から証券取引等監視委員会へ告発があって、その事情を朝日が報道しているものと思っておりました。しかしこの朝日新聞の自信ありげな報道内容からしますと、実際に内部資料とともに、朝日新聞社に告発がなされていたようであります。

しかし、grandeさんもコメント欄でおっしゃるとおり、この不正決算は配当の違法性(違法配当か否か)が問題となっているだけに、2002年ころからの会計処理の違法性が論点となるはずでありまして、当時の三洋電機社における会計処理が公正妥当な会計慣行に従って処理されていたのかどうか、という点が今後大きな争点になってくるのではないでしょうか。(もちろん、朝日新聞ニュースのように意図的な先送りをはかった、ということについて、「違法と知りつつ、先延ばししてしまった」と当事者が認めるのであれば別でありますが、第三者委員会含め、故意による不正決算は認められないとされておりますので、事はそう簡単なものではないと思われます)つまり、02年当時に、公正妥当な会計慣行がいくつかあったのか、それとも当時の社会情勢などからみて、唯一のものだけがあって、三洋電機社がそれに従わなかったのか、そのあたりが問題になってくるのではないかと思われます。たとえ三洋電機社が、意図的に損失を先送りしたとしましても、損失引当金をすぐに積まなかったり、将来見通しとの関係で評価損をすぐには計上しなかったとしましても、そういった慣行が当時、実際に通用していたのであれば、「唯一の公正妥当な会計慣行」は存在しなかったわけでありますので、三洋電機社も、当時の会計監査人も会計慣行に従ったまでであり、セーフと判定される可能性もあります。(このあたりは、上記朝日新聞ニュースによりますと、三洋電機側と会計監査人側との長年にわたる協議議事録が残っているようでありますので、かなり詳細に事実認定が可能なのではないかと思われます。)

つまり、当時の事実関係からみて、会計基準の適用を誤っていたことが判明し、「虚偽記載であった」と認めることと、その会計基準を適用することが、社会の慣行として定着していて、それ以外の適用はおよそ間違いであることが当然とされており、今回修正適用した会計基準が「唯一」の処理方針であったと一般に周知されていたこと(つまり違法性を基礎付ける事実が認められること)とは別個の問題と解されます。このあたりは、私の過去のエントリーのうち「公正妥当な会計慣行」と長銀事件(その1)から(その5)あたりが参考になろうかと思われますので、お時間がありましたら、ご一読ください。このあたりは、法と会計の狭間の問題であり、私自身とても関心のあるところです。また「現場を知る」会計士の方や、経理担当者の方のご意見、反論等もいただけましたら幸いです。

そして、このように考えていきますと、「監査意見の相対性」なる概念を認めるのか、認めないのか、監査意見のセカンドオピニオンは存在するのか、しないのか、そのあたりの結論が、違法配当などにおける取締役、監査役の法的責任を論じるにあたって、きわめて大きな問題を提起することになるものと思われます。(詳細はまた続編のなかで検討してみたいと思います。)

PS 12月26日に金融庁のHPにおきまして、 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」(監査報酬の開示・監査人交代時の開示に係る部分)が公表されております。たとえば監査人の異動がある場合、会社側、監査人側いずれも、異動の理由を開示することになろうかと思われますが、会計処理についての意見が対立するような場合、またいろいろと問題が発生するケースも出てくるかもしれませんね。

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コメント

toshi先生

こんばんは。連夜の登場すいません。
「「公正妥当な会計慣行」と長銀事件(その1)から(その5)」のエントリー懐かしく拝見させていただきました。
今でこそ表向き内部統制コンサルしておりますが、会計関連裁判の補助などという仕事もしていたりするものですから、先生のこのエントリーはリアルタイムで興味深く拝見していたんですよね。

今回の事案であれば「金融商品会計基準」(連鎖的に税効果会計が関連)の規範性が問われることになるんでしょうね。

・当時の監査人が適正意見を付しているのだから「公正妥当な会計慣行」に当たる
・よって当時の配当は違法なものではなかった

というロジックが成立するのかどうか、自分の仕事との関連で興味津々です。

(ただこのロジックのためには、「監査意見の時間的相対性」「例の議事録に関する事実認定」をクリアする必要があるのでしょうから、立証する側は大変ですね。。。)

投稿: grande | 2007年12月27日 (木) 03時53分

メディアの人間の多くが企業会計は苦手です。私は素人以下です。本当はお邪魔するべきではないのでしょうが、目下勉強中なので、押しかけてしまいました。
ただ、三洋のケースがもし食品不祥事のように分かりやすかったら、違った展開になっていたと思います。今回は産業担当の経済記者か経済事件担当以外には手を出しにくい話です。理解し、背景を掘り起こそうとする時には今の会計知識が必須になるからです。
ですから、私には無理かもしれませんが、危機管理の側面から考えてみます。違法配当は確定した、というか訂正することを決めた時点で確定させたわけですね。その場合、責任をどう線引きするかになると思います。再発防止策はそう難しくないと思いますが、問題は責任だと思います。“会社犯罪”では、ここの防衛線が極めて重要になるのではないかと思います。違法行為は《みんなの責任》とできれば万万歳のクライシス管理となるのでしょう。
その線で第三者委員会の報告書は書かれたように読めます。肝心の三洋方式の減損処理手法がどういう経緯で誰が作り、毎年どうして適用されてきたのか。監査人側はこれに対してどう判断し、どういうやり取りがなされたのか。こうしたポイントになるであろう事実関係が詳細には示されないまま、結論の「故意性はなく、いろんな不備が重なった過失」が導かれているように感じました。
今後第三者委員会を活用するケースが定着してくると思うのですが、任意の組織だけに信用性をどう担保し、それをどう証明するのかの手法が大事になるような気がします。
第三者委員会方式の戦術もいつかは、批判を浴びるケースが出てくるのではないかと考えますが、しばらくは有効な手段ではあるでしょう。その際、すべての資料や調査権限が付与されていることが理想ですが、強制権限もない以上、一切隠し事はないかどうかを知るすべはないのではないでしょうか。また、この過程で経営側の意図するものとは異なった事実や違法行為を発見した場合には、どうされるのでしょう。事件の受任契約はないと思いますし、弁護士以外の人も入っているケースも多いので気になっていました。
TOSHI先生は、このあたりどんな風に考えておられるかお聞きしてみたいと思っています。

投稿: tetu | 2007年12月27日 (木) 21時46分

連投ですみません。
「公正なる会計慣行」の法的位置付けは、非常に興味深い論点ですね。

私自身はこの問題は「将来の見積りと実績との乖離との関係で、年度を追うごとにどのように会社の実施将来見積りが変化していって、その経済合理性と実行可能性を監査人がどう評価したのかを調書と経営者との協議過程から調査すれば結論が見えてきそう」と短絡的に思っていましたが、そううまくいくものではなさそうと認識できただけで十分勉強になりました。

見積の監査は、毎回実務家としては頭の痛い問題です。先ほども別のコメントで書きましたが、監査人は「魔法使い」でも「預言者」でもないので、はっきりいって「そんなのわかるか!」という思いはあります。

「どう考えても減損」というのであれば簡単ですが、まずそんな事案はないわけで(当然会社も見込みがあって意思決定するのが普通ですし)、経営者が「これはいける!」と取締役会決議までして決定した投資先の計画を否定するのは、それこそ魔法使いでもない限り難しいと思います。

で、予測があれば当然時がたてば実績に変わるわけですが、その時の乖離状況を如何に見定めるか、というのが現代監査のポイントなんではないかと思います。ここで、会社の「まだまだこれからです!」という主張をロクに検討しないで受け入れてしまうと、問題に発展していくのかなぁと感じます。

会計慣行があれば、当然監査慣行というのも私はあると思うのですが、前例のない(少ない)ものについては事故率が通常高くならざるを得ないでしょうから、この事情も考慮してほしいものだ、と思うこともあります。

会計士の監査技法は様々なので一概には言えませんが、最近の減損に関する監査技法としては「将来予測の変更は基本的に認めない」ことが広がっているように感じます。まぁ書いてしまうとミもフタもないんですが。過度に保守的との批判は当然にあるでしょうが、単純に予測と実績の乖離に基づいて減損を判断する手法は、社会一般が期待するタイミングよりはなお遅いのかもしれませんが、それでもかなり客観的な判断が可能であり、かつ比較的早い処理が実現可能になります。

投資損失引当金という考えもありますが、損失が出ることに違いはないので、減損で抵抗する会社は通常投資損失引当金でも同じように抵抗しますから、効果は薄いように思います。私は、そもそも投資損失引当金自体の理論的根拠が薄いように思いますし(端的に言って引当金の要件をきちんと満たすケースがあるとはあまり思えません)、監査委員会報告で妥当な監査判断と認めていたとしても、減損ではなく引当金とした根拠、引当金の計上額の根拠など、かなり「よくわからない」なりの判断を求められることになるので、監査調書の説得力はかなり弱いものになってしまい、争いになったときに耐えられる自信はありません(汗)

また、内部統制との関連を考えても、経営者の見積りを適切に行う内部統制など、仮にあったとしてもそれほど効果が上がるものとはとても思えないので、内部統制報告制度が導入されても、悩み(「アウト」とするか「セーフ」とするかの判断)はほとんどといっていいほど解決しないだろうな、と考えてます。

話がずれてしまいました・・・。

先生が会計慣行の講義を東京でされる機会があれば、是非ご教授いただきたいです。

投稿: tom | 2007年12月28日 (金) 21時58分

grandeさん、tetuさん、tomさん、いずれ劣らぬハイレベルなご意見、ありがたく拝読させていただきました。
実は、(その4)を書こうと思って、12月25日付け「過年度決算調査委員会調査委員会について」(42ページある長いほうのものです)を読みましたが、これはなかなか面白いです。といいますか、一般上場企業の監査役や取締役が監査人といかにお付き合いするか、といったための教本として使えるのではないかと感動しております。
すこしマニアックになるかもしれませんが、私の感想を(その4)のなかで記述しておこうかと思います。tetuさんへの回答にもなるかもしれません。

投稿: toshi | 2007年12月28日 (金) 22時24分

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