« (総合解説)内部統制報告制度(その2) | トップページ | 三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その3) »

2007年12月26日 (水)

三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その2)

三洋電機株式会社の過年度粉飾疑惑につきまして、昨日(12月25日)過年度決算調査委員会より報告書が提出されたようでありまして、報告書を受領した三洋電機社が「過年度決算訂正に関する報告」を公表しております。過年度決算調査委員会報告では、監査役や会計監査人に対して、「有効かつ適切な監査をしたとは認められない」として、かなり厳しい回答をされているようであります。

代表者や財務担当取締役、監査役、会計監査人らの法的責任があるのかどうか、といった個別事例に関する意見は控えますが、とりあえず法的責任の有無について検討すべき視点をここに提供させていただこうかと思います。私が過去にエントリーいたしました「三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(1)」と「金融庁が三洋電機に課徴金納付命令見送り?」にそれぞれコメントをいただいた方々の意見であります。(いずれも、今年の3月ころに書いたエントリーでありますが、いま読み返してみますと、ずいぶんと恥ずかしいことを平気で書いています(^^;;このように恥ずかしいことを書いているにもかかわらず、非常に貴重なコメントをいただいているところに、改めて感謝いたします )

まず、元会計士さんのコメントでありますが、今回の三洋電機社の過年度決算訂正問題のどこが核心か、という点については、私もこの元会計士さんのコメント内容にほぼ同意見であります。(以下引用)

本件の争点は子会社株式の評価と言うことだと認識しています。子会社株式の評価は原則として、当該子会社の財政状態(純資産)及び今後の事業計画により判断します。通常はこの純資産から算出される実質価額が取得価額の50%程度を下回った場合には、財政状態が著しく悪化していると考えられます。

しかし、著しく悪化している場合でも、事業計画等で回復可能性が十分な証拠によって裏づけされる場合には、減損処理を行なわないことが認められています。本件は、おそらく財政状態の著しい悪化は明確になっていたが、事業計画等の評価の判断の問題であったと思われます。事業計画の評価は毎期行なわれるので、時点が異なれば当然評価が変わり、ある時点で減損処理を行うという判断になります。
問題は事業計画の評価を監査法人が適切に行なえるか?と言うことだと思います。一般的には、会社が公式に作成した事業計画を監査法人が否定することは、非常に難しいです(否定できる根拠が無い)。

1~2年経過した時点で、当該事業計画が達成できていないなどの明確な根拠が無ければ、事業計画を受け入れて減損処理を見合わせるのは、監査人として止むを得ない判断だと思います。すなわち『監査法人が主体的に立証』というのは、不可能であり、仮に投資家がこの立証を求めるのであれば、すなわち投資家が監査の限界や性質を理解していないのだとも言えます。保守主義の原則については、企業会計原則に記載されていますが、一方で過度な保守主義にならないようにということも明示されています。『過度』の定義は無く、その境界は曖昧であるため、保守主義の原則で論じることはなじまない気がします。しかし監査法人の対応策としては、子会社への投資損失引当金の計上が適切な処理として考えられます。この処理を行なっていれば、減損処理をしたことと実質的には同じ効果が得られるため、監査人はこの措置を要求することは可能であったと思われます。この点において監査法人としての判断に疑問はあります。監査法人自身のリスクに対する感覚が鈍っていたと言われても仕方ない気がします。(後からの意見ではなく)。直接本件監査に携わっていたわけではないので、近いところにいた一会計士の私見として書かせていただきました。おそらく他の方は、また別の意見をお持ちだと思います。それが監査というものだと思っています。

(引用おわり)

つぎに、課徴金を三洋電機社に課すべきかどうか、に関する以下のAYさんのコメントにも参考となる点があると思います。(現実には、証券取引法における課徴金制度につきましては、いまのところは行政に裁量権が付与されておりませんので、自主的な決算数値の訂正がある以上は「虚偽記載があった」ものとして課徴金命令は出すことになりますよね。今年3月ころの読売ニュースでは「悪質とはいえない」として、課徴金賦課が見送られるのでは、といった記事が出ましたが、よく考えてみますと、虚偽記載について課徴金を課すのは、故意過失の存在は不要なわけでありますので、現状では見送りはないですね。  以下引用)

証券取引等監視員会が理由を明示しなければわかりませんが、三洋を行政処分するには以下の理由で酷です。
①子会社および関連会社のいわゆる関係会社株式は、国際基準では、関係会社の持分を反映する「持分法」を適用することで連結純利益と一致するが、日本の会計基準「金融商品に係る会計基準」では、原則、取得原価で表示し、発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額をなし、評価差額は当期の損失として処理しなければならない。 日本の会計基準は、実務上、会社にとっても監査人にとっても、非常にあいまいな基準であること。国際基準では、三洋のケースは起きない。
②上場会社の投資家に対する情報開示では、個別財務諸表を開示するのは日本だけ。海外では、通常、連結財務諸表のみを開示する。海外では、個別財務諸表を開示しないので三洋のようなケースは起きない。

(引用おわり)

いずれにしましても、法的責任を問題にする場合、平成12年、13年当時の状況に戻って、果たして「関係会社株式減損(未公開会社の株式)」の処理については、会計基準によって一義的な判断が可能だったのかどうか、いくつかの選択肢があったのかどうか、経営者や監査人(監査法人)が子会社の業績に関する「見積もり」を行う場合、その根拠となる資料(収益事業計画等)は合理的な見積もりを行うに足りるものであったのかどうか、配当政策を決定するほどの「赤字か黒字か」を分ける会計処理であるにもかかわらず、経営トップなどがまったく知らなかったということが普通にありえたのかどうか、などいろいろと検討すべきところが多いと思います。時間がありましたら、もう少しゆっくりと検討したいところであります。

|

« (総合解説)内部統制報告制度(その2) | トップページ | 三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その3) »

コメント

toshi先生

こんばんは。この件を興味深く見ている者として、エントリーのほう拝見させていただきました。
事務所のほうで遅くまで知り合いの会計士と話していたのですが、論点的にはいろいろあるんだろうなぁと思ってみております。

「会計上の見積もりの妥当性」については、今となっては「結果論」でどうとでも言うことができるのでしょうが、旧会計監査人としては「やれるだけのことはやった」という気持ちはあるのではないかと思います。(エントリーにあるように投資損失引当金という方法はありえるとは思いますが)
見積もりについては将来の不確実性がある以上、どう転ぶかはわからない部分があるのでやむを得ないのですけれども。
つい数年前までの金融機関における「不良債権処理」を思い出していただければ、あのときの貸倒引当金が最終的には巨額の利益に化けたこともあったと思います。
正直なところその時点での最善手を打っているのであれば、過年度の判断についてはそれはそれで妥当なのではないかと考えている自分がおります。

それはさておき、今回の事案については現会計監査人により過年度修正を行った決算書に監査意見が付されてしまいました。
私見ではありますが、こいつはセカンドオピニオンの匂いがプンプンしておりまして、旧会計監査人の監査意見と真っ向対立するような位置づけになるのではないかと考えると怖いのです。
過年度修正まで行ったということは「当時の見積り自体の妥当性」を現会計監査人はアウトと判断しているわけですから。
虚偽記載を看過しての意見表明だけならいざしらず、違法配当が関係してきているために話は厄介になると思われます。
旧会計監査人・現会計監査人のどちらの意見も両立するのであれば丸く収まるのでしょうが、そうはいかないでしょうし。(同一事象に対する監査意見は、会計士によって複数ありえるのか、時点の違いにより複数ありえるのか?)

現経営陣が旧経営陣を不問に付すと言っていますが、そう簡単には収まらないだろうなと。
・違法配当がどのように治癒されるのか(されないのか)
・旧会計監査人と現会計監査人の意見の違いは、監査証明の責任にどう影響を与えるのか
・違法配当に関して会計監査人が責任を追及されるのか
などなど、気にはなっているのですが、引き続き今後のエントリーを拝読させていただこうと思っております。
よろしくおねがいします。

投稿: grande | 2007年12月26日 (水) 03時45分

過年度決算訂正に関する報告を読みましたが、違法配当の原因事実とその対策がまったく対応していないのではないでしょうか。ただ最近流行している言葉を並べただけというか・・・・

財務担当役員の判断で誤った会計処理をしていた、ということであれば、内部統制をどんなに構築してもまた再度の虚偽記載は防ぐことはできないのではないですか?経営トップの関与は変わらないだろうし、監査役制度の修正についても触れられていないし。期待できるのは監査法人の品質管理ぐらいでしょうが、そういったことは三洋自体ではどうしようもないことで。
これを株主や一般投資家がみて、「ああ、これで三洋は変わる」とはとうてい思えません。石屋製菓や赤福のリリースに比べて、ずいぶんと見劣りがします。やっぱり上場企業だから、株主からの責任追及に備えて、十分な開示を控えているんでしょうね。

投稿: unknown | 2007年12月26日 (水) 12時15分

unknownさんへ

管理人です。コメントありがとうございます。
若干、不適切な発言箇所があると判断しましたので、こちらで勝手ながら修正をさせていただきましたので、どうかご了承ください。

投稿: toshi | 2007年12月26日 (水) 12時21分

もう監査法人一社の監査報告では信憑性を得られないのでしょうか。この数年の事件を見てそう思わざるを得ません。
二社目の監査法人の意見を取る、あるいはレビューを取って比較検討した結果を開示する──そうなれば監査における経済性の問題が取り沙汰されます。決算から提出期限までの時間の問題もクリアしなければなりません。
で──思い付きの発想ですが国やら行政機関やらがこのようなセカオピ機能を担っていけないのかとしばしば思います。財務報告の信頼性を担保するなら内部統制はもちろん基礎の基礎なのですが、外部監査結果の二社比較を制度化すればかなり実効性が確保出来ると思う次第です。
しかしまあ、このような思いつきは誰でも浮かぶので未だ実現に至らないのは相応の障害が横たわっているのだろうと推察出来ますが…

投稿: 日下 雅貴 | 2007年12月26日 (水) 15時19分

会社法務A to Zでご尊顔を拝見しました。
いつも、数々の事象に関する貴重なお話を賜りありがとうございます。素人ながら、自分の視野が広くなり、また勉強を重ねる意欲がわきました。
今後とも期待しています。。

投稿: 吉祥寺 | 2007年12月26日 (水) 18時53分

トラックバックをされている会計士の先生方のブログも拝見しましたが、実に興味深い論点を含んでいます。また続編が必要ですね。

金融庁から公認会計士と企業との「報酬」および「異動」に関する開示ルール(パブコメ案)が公表されておりますが、先日の「特捜検事・・」の問題なども含めて、来年はますます会計士さんの業界は激動の一年になりそうです。たしか「ライブドア監査人の告白」のなかで、会計士さんの取調べをした検事さんは公認会計士資格を保有しておられたそうですが、「現場を知る」会計士の強み、のようなものがなければ、いくら検事でもあまり偉そうにできないのではないでしょうか。そのことをもっと会計士さんは訴えていただきたいと思います。

>吉祥寺さん
はじめまして。応援ありがとうございます。私自身も、このブログを通じて、いろいろな方に勉強させていただいております。会社法務A2Zの表紙をめくりますと、年末年始、むさくるしい顔が飛び出しますが、どうかご容赦を(笑)

投稿: toshi | 2007年12月26日 (水) 22時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その2):

» 三洋電機 違法配当はどうなるのか? 会計監査人の責任は? [Grande's Journal]
三洋電機 2007/12/25 A 「過年度決算訂正の概要について」 B 「有価証券報告書及び半期報告書の訂正報告書の提出並びに過年度決算短信等及び中間決算短信等の一部訂正について」... [続きを読む]

受信: 2007年12月26日 (水) 03時19分

» 監査意見の相対性 [natoiuk|ノオト]
三洋電機の「過年度決算調査委員会調査報告書」が公表されている。 すでにいろいろなところで言及されているし,ビジネス法務の部屋さんにもエントリーがある。 ビジネス法務の部屋:... [続きを読む]

受信: 2007年12月26日 (水) 12時18分

« (総合解説)内部統制報告制度(その2) | トップページ | 三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その3) »