三洋電機粉飾疑惑と会計士の判断(その4)
帰省ラッシュが始まっているようでありまして、私のブログもアクセス数が減少傾向にあります。しかしながら、三洋電機社(オグシオ人気でのバトミントン6連覇おめでとうございます)の不正決算の件、もうすこしまとめておきたいので、ご自宅やご実家でもPCをご覧の方々はどうかおつきあいください。
さて、前回の(その3)におきまして、平成13年3月期ころの金融商品に関する会計基準・実務指針につき、果たして「三洋減損ルール」は公正妥当な会計慣行に該当しなかったのかどうか、といった問題点を検討しておりました。日本のトップクラスの監査法人(中央青山監査法人)が、平成13年当時「適切」と判断していたルールですから、現時点から振り返って「不適切」と判断されるのであれば、それはなぜなのか、個人的には非常に興味があるところです。もちろん、この金融商品会計基準の今年までの運用や、最近の社会情勢を考慮して「不適切」と判断することは許されませんよね。当然のことながら、平成13年当時の社会情勢や、上場企業他社における実務慣行、平成13年ころまでの取扱いなどを(当時にもどって)判断する必要があるわけでして(つまり、三洋減損ルールはおかしい、ということが平成13年当時において誰もが感じることができたかどうか)、おそらく「過年度決算調査委員会」のメンバーの方々も、平成13年当時に触れることができた資料および平成13年当時に集めることができた情報、平成13年当時の会計士さんの一般的な認識などを十分認識されたうえで、「三洋減損ルールは当時の状況からしても不適切だった」と判断されたものと推測いたします___
実は、本業含め、いろいろと忙しかったために、これまで12月25日に三洋電機社HPで公表されておりました(適時開示情報)「過年度決算調査委員会調査報告書について」(42ページあります)を読めておりませんでした。今日、これを熟読しましたが、(その3)でいろいろと書いておりました疑問もかなり解消いたしました。この報告書は今年の「外部第三者委員会報告書」のなかでも貴重な逸品ではないでしょうか。今年のクリスマスは、人にプレゼントをあげるばかりで、何ももらえませんでしたが、ようやく自分ももらえたような気分であります。三洋電機社の元役員さんには失礼ですし、我々監査役にとりましてはたいへん耳の痛い内容を含んでおりますが、外部監査人と監査役が「どのように連携協調していくべきか」といった疑問への具体的な解決を示すものでもあり、私自身、たとえば社外取締役ネットワークの関西での勉強会などで、ひとつの教材としてご提案申し上げようかと思いました。とにかく「過年度の会計処理が適切だったかどうか」といったあたりを、会計専門家の方を中心として判断していく過程は今後の参考になろうかと思いますし、証券取引法監査、会社法監査において、会計士の意見には「セカンドオピニオンはあるか」といったあたりを考えるモノサシになるかもしれません。
この調査報告書(要旨)によりますと、まずは平成11年に策定された金融商品会計基準および平成12年に公表された実務指針を平成13年当時には(異論はあるかもしれないが)旧商法32条2項の「公正な会計慣行」に該当する、としています。(6ページ)そこでつぎに「三洋減損ルール」も、この公正な会計慣行に該当するかどうかを検討するわけでありますが、この金融商品会計基準(実務指針)の策定に関与された方への聞き取りなどをもとに、①導入時における三洋電機子会社の財務状況、②重要性判断に基づく子会社選択の余地はあるが、実際には選択のための作業をしていないこと、③将来収益回復可能性判断はあくまでも経営者の主観的判断、ということを尊重しつつも、その事業計画案作成のための客観的な資料等がみあたらないこと などから、見事に三洋減損ルールの「公正な会計慣行」性は否定されております。また、これらの判断過程において、元役員らの主張と、この外部委員会の結論とでは対立している構図もうかがわれます。やはり、この委員会報告によりますと、平成13年当時の状況に立ち返って考えても、この三洋減損ルールは「公正な会計慣行」たりえない、といった結論に至ったようであります。
このたび三洋電機社は、こういった委員会の報告内容を尊重して、決算短信等の訂正を行ったものでありますので、配当可能利益(旧商法適用下)が存在しないにもかかわらず、多額の配当を行ったこととなるわけで、その結果各紙報道されておりますように「違法配当を認めた」ことになろうかと思われます。(ただし、法定準備金の取り崩しによって配当は可能だった、という論点もありますが)
ところで違法配当が故意によるものか、過失によるものか、という点が問題提起されているニュースをみかけますが、旧商法上の違法配当につきましては、故意過失に関係なく、取締役の損失補填責任が発生する、というのが判例の立場であります。(旧商法266条1項の解釈問題であります)たとえば、東京地裁決定平成12年12月8日(金融法務事情1600号94ページ以下)は、違法配当にかかる旧商法266条1項1号の取締役の損害賠償責任は無過失責任を定めたものである、としつつも、かりに法が理想とするような勤勉かつ有能な取締役であったとしても、取締役会決議に反対することが期待できないような事情がある場合には、取締役が決議に反対しなかったことについての違法性は阻却され、旧商法266条1項1号の取締役の責任は免れるとして、実際に取締役には法的責任がないとしたものがあります。(なお、この事案では社長の権限が絶大で、取締役会で反対の意見が言えなかった等によるものではなく、取締役に就任してまもなくの決議であって、その議案の内容を熟知していなかった、といった点に違法性阻却の原因があったようです。また、監査法人による承認があったことは、そもそもこの違法性阻却事由には該当しないようであります)つまり、よほどの特殊事情でもない限りは、決算承認に関する取締役会で承認をした取締役の方々の違法性が阻却されることはないわけですので、「違法配当」を認めつつ、その法的責任を免れることは至難の業ではないかと思われます。たとえば財務担当役員の独断で三洋減損ルールが適用されようが、全社的に財務会計的知見に乏しかったとされようが、監査法人が適正意見を出して承認していようが、あまり関係ないようにも思われます。また、会社としては、取締役の責任を追及することによって得られる利益と、訴訟提起に要する費用との「費用対効果」を考慮することで、損害賠償責任を追及しない、といった理屈についてもあまり説得的でないように思います。むしろ、(一般投資家保護のための)証券取引法上の「虚偽記載」を認めて減損ルールの修正をはかったことと、(会社債権者保護のための)会社法上の違法配当の基準となる会計基準の取扱いとを区別して考えるなどによって責任回避の理屈を考えるほうが妥当ではないかと思いますが、これは単なる思いつきにすぎませんので、また改めて検討してみたいと思います。
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