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2007年12月 4日 (火)

(総合解説)内部統制報告制度

Photo 「法令・基準等の要点とQ&A」なる副題が付いているほどですので、こちらは、(どちらかといえば)金融商品取引法上における内部統制報告制度を「法律家」や「財務報告内部統制を監査する監査役」の視点から検討されたい方に向いている本ではないかと思います。

総合解説・内部統制報告制度~法令・基準等の要点とQ&A(池田唯一 編著 税務研究会出版局 3000円税別 平成19年12月発売)

実施基準と金商法、内閣府令の条文を、かなり有機的、体系的に整理されておりますし、内部統制報告制度の制定経緯も丁寧に解説されておりますので、現場で悪戦苦闘されておられる担当者、監査法人の方々がどのように評価されるのかはわかりませんが、少なくとも私には「好みのタイプ」の本です。また、この編著者の方々には珍しく(といっては失礼ですが)、第一章(報告制度の概要)におきましては、編著者の方々の個人的意見もかなり盛り込まれておりますので、興味深く読めるところであります。(「日本版SOX法」「J-SOX法」なる用語を使用するのであれば、それは金商法、会社法、公認会計士法にまたがる制度内容と理解する必要があるんですね。こういった仕訳は私的には大好きです。詳細は解説がございます。)

なお、この本を拝読しましても、やはり金融商品取引法上の内部統制報告制度といったものが、会社法上の内部統制システム構築義務(事業報告の対象とされる基本方針の決議内容)となるのか、未だにちょっと私には理解できないところであります。金商法上の内部統制報告制度は、経営者確認書制度、四半期開示法制化と同じく「開示」に関する制度でありまして、どこからも財務報告に係る内部統制システムの構築義務は導かれません。会社法上の取締役の善管注意義務として導かれるのは、「法令違反をしない義務」つまり経営者として一般に公正妥当と認められる評価の基準に従って「有効性を評価する義務」と、監査人によって、一般に公正妥当と認められる内部統制監査の基準にしたがって「監査を受ける義務」、そして「内部統制報告書を提出する義務」であります。それ以外に、一定水準の内部統制システムの整備運用義務といった実質的な法的義務は発生しないはずであります。もし仮に、財務報告に係る内部統制システムの構築義務が、取締役の法的責任と関連するものであり、また事業報告の内容となりうる、ということであれば、それは金商法上の内部統制報告制度とは無関係に、有価証券報告書の虚偽記載を防止する責任が本来的に取締役には認められるのであったり、もしくは経営者確認制度や四半期制度が有効に機能するためには、すくなくとも一定レベルの内部統制システムの構築義務が(そういった制度に由来することによって)取締役に認められるからである、と解釈されるべきであります。

そういった疑問とは別に、この本を読みながらふと考えましたのは、内部統制報告制度が実施された場合、内部統制監査人(つまり監査法人、会計士さん)には「重要な欠陥」についての発見義務というのは、法的責任として認められるのでしょうかね?「不備」であれば、経営者評価に関する監査の内容として、発見義務を認める必要はないと思いますが、「重要な欠陥」があったにもかかわらず、経営者による「財務報告に係る内部統制は有効」との評価に適正意見を出した場合、監査報告書の提出責任者もしくは、その監査報告書の品質管理を行う責任者に故意過失が認められると民事責任を追及されるおそれはあるのでしょうか?もちろん財務諸表監査において「不正発見義務」は一般的には認められていない、といった前提でのお話でありますが、「不正」は多分に法律的要素を含んだ概念でありますので、そもそも監査人に「不正」か否かを区別せよ、といった要求は酷でありますし、また監査人の職責が「監査」でありますので、不正発見はそこから逸脱していると捉えるのが通説的だと思われます。しかし「重要な欠陥」はそもそも監査基準、経営者評価基準によって判断可能な概念ですから、そこに評価概念を含んだものであったとしましても、専門家責任を問われる可能性があるように思うのでありますが、いかがでしょうか。財務報告に係る内部統制システムの整備運用テストの現場におきまして、企業担当者の方々に対して、監査人の方々が厳格なシステムを要求される背景には、こういった「重要な欠陥」を見落としますと、自分たちの法的責任が発生するから・・・ということだからでしょうか、それとも重要な欠陥の発見義務(つまり法的責任)とは無関係に、「内部統制監査の基準に基づいて適正意見を出せるレベル」のようなものが、監査人には客観的に認識できるからなのでしょうか。

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コメント

以前のコメントにも記載しましたが「不備」から「重要な欠陥」に発展するものがあります。
直ちに「重要な欠陥」とされる場合、例えば経営者が内部統制の整備を放置するとか、是正すべき問題を改善しないとか、モニタリングの体制を整えないとかありますが、モニタリング上の不備がその全体評価の中で「重要な欠陥」と評価される場合がありますので、不備と重要な欠陥を弁別して考えるのは本来的ではありません。
US-SOXでもモニタリング(あちらでは主にテスティングと言いますが)においてまずは「Fail」とし、それを評価した所で「Seginificant Deficiency」や「Material Weakness」などに分類されます。

投稿: 日下 雅貴 | 2007年12月 4日 (火) 13時12分

追補で恐れ入ります──。

昨今の内部統制論は金融庁に主たる源泉があると思います。
法制度に対して企業が取るべき道を探るとなれば当然の流れではありますが。
ただ私の場合は「内部統制」と言うと会計監査論に結びついてしまいます。
記憶ですが会計監査論で内部統制が主張され始めたのは五十年位前だと思います。
以来、会計監査論の中で発展・検討されたものと理解しています。
端的には近代監査論は内部統制を抜きにしては語れません(はずです)。

昨今の金融庁源泉のものは私にはいまだにしっくり来ません。
理由は前者とは異なるものに読み取れるからです。
もちろん、法制度として行政官庁が指導監督する点ではこの源泉に如かずです。
理論と制度の差と言えばそれまでですが監査基準等は通じるものが多いと思います。
外部監査人の方たちも会計監査論の内部統制を叩き込んでいるはずです。

言葉から「内部統制=企業の規律・管理・制度全般」とするとまたややこしくなります。
個人的にはこれは「企業統治」と言ってもらうと意識も違う所を見る事が出来ます。

投稿: 日下 雅貴 | 2007年12月 4日 (火) 15時08分

はじめて投稿させていただきます。
9月の「企業の不祥事体質と取締役の責任」というセミナーにも出席させていただきましたが、先生のお話や記事は骨身にズシンと響くことばかりです。
本日の記事に直接関係するのかどうか、公認会計士法が改正されて、金商法193条の3で、違法行為の防止措置の義務付けのような規定があります。
まあ、この位あれでもかこれでもか、となりますと、監査法人もリスクをどこかに(=会社に)振らないと仕方がなさそうですね。

投稿: 総務部長見習 | 2007年12月 4日 (火) 15時44分

>日下さん
確かに「内部統制」という用語が、法の世界で使われだした歴史はそれほど長くはないと思います。昭和48年ころに先日亡くなられた神崎教授が「内部管理体制」なる用語で「監視義務の範囲の明確化」を図ったあたりから使われてきたと思うのですが、会計監査論とはまったく違った道を歩んできたように理解しています。
この言葉の定義の多様性は、ずっとついてまわっている問題ですよね。
ちなみに、
内部統制とガバナンスの整理については、上記にご紹介した「総合解説」でもすこし取り上げられております。

>総務部長見習さん
はじめまして。9月のセミナーですか?あのときも、長時間であるにもかかわらず、最後のほうで時間が足りなかったと記憶しております。(反省しております)
会社法における監査役への不正報告義務と同様、来年4月に施行されます公認会計士法の183条の3では、不正報告義務が規定されておりますよね。これを違法行為の発見義務とみるべきかどうかは問題があるように思います。不正を発見する義務と、(たまたま発見した不正を)報告する義務とでは、会計士さんに課される法的義務の大きさはかなり違うと思います。
もし、不正発見義務が認められるとするならば、たとえば先日のライブドア監査人の告白の著者の方への懲戒処分の内容も若干変更されるのではないでしょうか?
なお、この183条の3では「その他財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれのある事実」も、報告義務の対象になっておりますので、ここにいう「適正性の確保に影響を及ぼす」との関係については別途考慮を要するところかと思います。(また、これは別エントリーにて検討したいと思います)

投稿: toshi | 2007年12月 4日 (火) 16時21分

法学分野での「内部統制」は知りませんでした。
これまで耳にもしませんでしたが良い事を覚えました。
適時適宜探求したいと思います。

投稿: 日下 雅貴 | 2007年12月 4日 (火) 16時55分

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