金融商品取引法≠証券取引法
東証1部の名門企業であるIHI社の監理ポスト入りは驚きました。まだあまりブログなどでは詳しい解説はありませんが、一番問題となるのは、2007年3月度(過年度)の決算について訂正をするわけですから、結局虚偽報告がなされたままで今年1月に600億円もの公募増資が行われたあたりになるんでしょうかね?(いや、平成18年3月期まで遡る必要がある、ということですかね)とりあえず、この件もおそらく社内と社外の調査委員会報告が出ることで、だいぶ論点が明らかになってくるものと思いますが、今後の東証さんの対応等、注目しておきたいと思います。
さて、金融商品取引法も本格施行となりまして、金融商品取引業者に対する金融庁の集中検査なども行われておりますが、どうもこの金融商品取引法というものはわかりにくい法律であります。証券取引法の大部分が改正された法律である、ということはわかりますが、そもそも証券取引法自体、そんなに勉強したことない・・・といった方も多いのではないでしょうか。大きな書店などへ行きますと、たくさんの解説本が並んでおりまして、いったいどれを選んで勉強したらいいのかわからない、というのがホンネのところだと思います。
とくに解説本を推奨するわけではないのですが、12月10日に金融庁HPでは、西原監督局長の「最近の金融監督行政上の諸課題について」と題する講演録と、その資料が公開されておりまして、金融商品取引法に関する解説と、その解説資料が掲載されております。このなかに、ルールベースを中心とした法体系であった証券取引法とは少し異なり、金融商品取引法はプリンシプル・ベースの観点も加味されており、これで隙間を埋める横断的な体系へと、(証券取引法が)大幅に改善された旨の説明がなされております。たくさんの「金融商品取引法」の解説本が出版されておりますが、こういった「ルール・ベース」なる用語とか、「プリンシプル・ベースの観点が加味されている」といった説明はあまりされていないんじゃないでしょうか。(ひょっとしたら、私が不勉強なだけかもしれませんが・・・)おそらく、この西原氏の講演は、金融監督上の視点から述べていらっしゃるわけですから、金融機関向けにお話をされているのであって、あまり一般事業会社には関係ないのでは・・・といったことも考えられるのでありますが、それでも明確に金融商品取引法の法体系と、証券取引法のそれとでは、異なる観点があることを西原氏は解説されておりますので、金融商品取引法全般にわたる解説書にも、同様のことが記述されていてもいいように思います。
ところで、上記解説(およびそのための資料)は、私としましては、非常にわかりやすい説明ではないかと思っております。行政があらかじめ詳細かつ明確に規制をかける部分と、抽象的な目的だけを規定しておいて、具体化は金融商品取引業者や一般事業会社の自主的な判断にまかせ、そのかわり法目的に反するような行動に出ている場合には、そこに法令違反がなくても、行政目的に適合するような対応を企業に求めていく(改善命令)部分とを分けて規定している、というわけであります。つまり金融商品取引業者としては、情報管理のあり方や、顧客との利益相反問題など、「法はいったいどのような行動を期待しているのか」を探りながら、自主的に判断していかなければならない部分も存在するわけであります。そして、そういった企業の自主判断の是非を常時監視するために、行政への報告義務や株主への開示義務などによるモニタリングが必要になるわけであります。また、金融商品取引所(証券取引所)や、自主規制機関(証券業協会等)が、どのような自主規制ルールを定めるか、ということにつきましても、正当性を基礎付ける法根拠とは別に、ルールの中身につきましても、法が期待している自主ルールのあり方を実現しているかどうか、といったあたりも、このプリンシプル・ベースによって説明されることになろうかと思われます。
冒頭のIHI社の件につきまして、「虚偽記載」が認められて、投資家に与える影響が重大であれば上場廃止(注意銘柄市場?)となる可能性とも言われておりますが、その判断は基本的に東証の裁量によるものであります。ただ、上場廃止基準の解釈にしましても、やはり自主ルールであるところの上場廃止基準がいかに金融商品取引法の法目的に沿って運用されるべきか、といった方向性を持つ必要があるわけでして、日興コーディアルの上場維持決定の場合以上に、判断過程の理屈がわかりやすいものであることが必要ではないでしょうか。また、こういったルール・ベース、プリンシパル・ベースといった区別におきましては、いま最も関心の高いところである内部統制報告制度についてはどのように位置付けたらいいのでしょうかね。また次の課題として検討してみたいと思います。
| 固定リンク
コメント
IHIで金融商品取引法21条の2の損害賠償が初適用されるでしょうか?
その際、いわゆる「恐怖のフィードバック」は発生するでしょうか。
投稿: HIH | 2007年12月12日 (水) 13時25分
HIHさん、こんにちは。
どうなんでしょうね。。。(HIHさんはどう思われますか?)
なんだか、この件を十分配慮しながら、うまく開示されたような気もしているのですが、ちょっとブログでは(とくに管理人は)軽々しく発言できない内容ですね。
もうすこし、調査結果等がわかれば、私的な意見ぐらいは述べてみたいと思います。
「恐怖のフィードバック」というのは初めて聞いたフレーズです。
投稿: toshi | 2007年12月13日 (木) 16時45分
■金融庁公開の「金融規制の質的向上,-ルール準拠とプリンシプル準拠-」を読んで
http://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20070912.html#01
テーマは、「金融規制の質的向上」。
”技術屋の内部監査人”にはかなり難しそうである。
コンセプトは、「ベター・レギュレーション」とのことだ。
ザーッと目を通してみたが、実際難しくて、よくわからない。
ベター・レギュレーションは、下記の「四本の柱」で構成しているという。
①「ルール・ベースの監督とプリンシプル・ベースの監督の最適な組み合わせ」
②「優先課題の早期認識と効果的対応」
③「金融機関の自助努力尊重と金融機関へのインセンティブの重視」
④「行政対応の透明性・予測可能性の向上」
これらの目的を実現するための下記の「五つの取り組み」を公表。
①「金融機関等との対話の充実」
②「情報発信の強化」
③「海外当局との連携強化」
④「調査機能の強化による市場動向の的確な把握」
⑤「職員の資質向上」
|
(でも、一寸イタズラしてみると・・・・・)
↓
「四本の柱」と「五つの取り組み」の詳細な内容は下記の引用文に譲るとして
今回は下記のことを試みた。
まず、「四本の柱」の文言を一部換えてみると下記のようになる。
①「ルール・ベースの管理とプリンシプル・ベースの管理の最適な組み合わせ」
②「優先課題の早期認識と効果的対応」
③「現場や支店の自助努力尊重と現場や支店へのインセンティブの重視」
④「本店対応の透明性・予測可能性の向上」
次に、「五つの取り組み」の文言を一部換えてみると下記のようになる。
①「現場や支店との対話の充実」
②「情報発信の強化」
③「海外部門との連携強化」
④「本店の調査機能の強化による市場動向の的確な把握」
⑤「職員の資質向上」
ウーン、どこでも使えそうな言い回し、フレーズだ・・・・・・・・・・
これなら、”技術屋の内部監査人”でも分かる!!!
***<引用文>*********************************
◆「四本の柱」
一つめが「ルール・ベースの監督とプリンシプル・ベースの監督の最適な
組み合わせ」です。これが本日の主題ですので、この点については後ほど
詳しく話をしたいと思います。
二つめが「優先課題の早期認識と効果的対応」です。重要性の原則と
言ってもいいかもしれません。これは英国の金融監督当局(英国FSA)
では、例えばリスク・フォーカスないしフォワードルッキングなアプローチ
という言い方もされているもので、深刻な問題が潜んでいる分野、将来
大きなリスクが顕在化する可能性がある分野を、先を見越してできるだけ
早く認識し、行政資源を効果的に投入するといったコンセプトです。
三つめの柱が「金融機関の自助努力尊重と金融機関へのインセンティブ
の重視」です。各金融機関自身の創意工夫を尊重する、あるいはそのような
努力がなされるようにインセンティブを内包した制度的な枠組み・仕組みを
導入するといったことがここに含まれます。
四つめの柱は「行政対応の透明性・予測可能性の向上」です。これは規制
を受ける側から見て、規制が過大な負担にならないようにするという文脈でも
重要です。当局からの情報発信の強化などを通じて行政対応について金融
機関の側から見た予測可能性を向上させようということです。
◆「五つの取り組み」
一つめは「金融機関等との対話の充実」です。明確な問題意識に基づいた
対話の実践、新しい対話チャネルの構築等に努めていくことです。
二つめは「情報発信の強化」です。検査・監督の方針であるとか行政対応
事例集の積極的公表あるいはノー・アクションレター(法令適用事前確認
手続き)制度の活用、さらには内外の講演会、意見交換会、出版メディアなど
多様なチャネルを通じて情報発信に努めるということです。本日のこの機会も
私にとっては大変重要な情報発信の一つの機会であると思っています。
三つめは「海外当局との連携強化」です。国際的な規制・監督の整合性の
確保、またグローバルな動向についての情報共有や連携を促進するという
ことです。金融取引は極めてグローバル化していますし、クロスボーダーの
取引もごく一般的になってきていますので、規制が国ごとに極端に異なる
となると、金融取引そのものがゆがみを生じる、あるいはマーケット全体が
予期せざる動きに誘引されるという面もあります。
四つめは「調査機能の強化による市場動向の的確な把握」です。これは
ベター・レギュレーションの二つめの柱、リスク・フォーカス、あるいはフォワー
ドルッキングなアプローチを実現していくために不可欠な基礎的能力です。
金融庁内の調査機能を強化する、あるいは、市場関係者、日本銀行、外国
監督当局等との対話や連携を促進することによって、現にマーケットで
どういうことが起きているのか、どういうところにどのようなリスクが潜んでいる
のかをきちんと把握する能力を高める必要があるということです。
五つめが「職員の資質向上」です。今述べたようなことすべてを支えるのは
行政当局の職員の資質ですので、研修の充実などを通じてスキルや専門性
を向上させる、あるいは官民の人材交流等でトータルとしての行政能力を
高めていくことが不可欠です。
投稿: 技術屋の内部監査人 | 2007年12月21日 (金) 22時19分
技術屋の内部監査人さん、おひさしぶりです。いつもご覧いただき、ありがとうございます。
一昨日のご紹介した本「金融システムを考える」を読みまして、この「ルールベース」と「プリンシプルベース」というフレーズは、今度の金融庁長官の方が、たいへんお気に入りのフレーズであることを知りました。昨日公表された「金融競争力強化プラン」を読みましても、こういった金融庁の規制方法に関する議論が掲載されておりましたので、来年は今年以上にこれらのフレーズが活字として踊ることが予想されます。(まさか使いまわしのフレーズではないでしょうが・・)
投稿: toshi | 2007年12月23日 (日) 02時06分