反社会勢力対策の企業実務的進化(その1)
企業の内部統制システムに関心を持つ弁護士ということで、最近ときどき「企業防衛協議会」の方より講演依頼を受けるようになりました。(先々週も、大阪のある地区の協議会で講師をさせていただきました)ふつう、弁護士が「反社会勢力対策」(以前は「反社会的勢力」といわれておりましたが、最近は「的」がつかない場合が多いようですね)について講演をする、ということですと、頭に思い浮かびますのは、弁護士会の民暴対策委員会の先生方が、クレーマーとの交渉方法とか、街宣車による周回禁止の仮処分のお話をすることなどが連想されるところだと思います。もちろん、そういった対策(従来型議論)もたいへんに重要なのでありますが、今年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」が政府から公表され、反社会勢力と断絶するための企業の仕組みが内部統制システムの一環として捉えられるようになったことや、上場企業にとりましては、証券取引所の自主ルールとして、反社会勢力排除のための仕組みがあることが審査対象となりつつあることなどから、会社法ルール、金融商品取引法ルール、そして個人情報保護法ルールとしての仕組み作りに注目が集まりつつあるようです。(書店でも、企業法務関連の書籍として、次々と新刊書が発売されているようですね)思いつくままに、図式化してみますと、以下のとおりに整理されるのではないでしょうか。
(なお、種類株式の活用につきましては、現時点では非公開会社対応が中心になろうかと思います)
先日の協議会は上場企業40社程度で構成されておりまして、出席されていらっしゃった方々は、総務部の方がほとんど、そして半数近くがいわゆる「警察OB」の方でした。やはり、企業にとりましては、反社会勢力に関する情報収集、ということに関心が高いようですが、これを自助努力によって収集することは容易なことではないようです。そこで、「協議会」のような「共助」組織を利用したり、自主規制団体や業界団体等によって最近設立されつつある「情報管理センター」などを利用して情報を相互に利用するシステムも活用されはじめているようであります。しかし、これだけ「反社会勢力排除対応」の議論が実務的に進化してきますと、上場企業にとりましても、これまでと同じような対応策でいいのかどうか、これからは総務部のみならず、法務部、コンプライアンス委員会、財務部など、管理部門挙げて取り組むべき問題とされる必要があるのではないかと思いますし(もちろん、大きな企業さんでは、すでに取り組んでいらっしゃるところも多いとは思いますが)、このブログでも会社法上の内部統制システム構築との関連で、ときどき採り上げていきたいと思っております。上場企業にとりましては、上記「排除指針」が出るまでは、経団連「実行の手引き」に基づいた「企業行動規範」としての問題でありましたが、上記排除指針により、もはや「法的責任論」とも密接に結びつく問題になりつつあることについて、認識を共有していきたいと思っております。
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コメント
山口先生、先日は企防協での講義ありがとうございました。
素人的なことをお訊ねして恐縮ですが、
知らないうちに反社会勢力の息のかかった企業と取引してしまっていた場合に、数年経って何らかの理由で、反社会勢力であったことが判明し、当社が長年取引があった企業のリストに挙げられるようなことがマスコミ等により報道された場合、信用問題になるかもしれないと感じるのですが、どのような対策を取るべきでしょうか?
正常な取引の範囲内である限りは、問題ないようにも思うのですが、弁明しなければ誤解を招きそうですし、弁明しても言い訳と取られそうです。マスコミの影響力が悪い方向に進んだ例もあるでしょうから、少し心配なところです。
投稿: kawai | 2007年12月 3日 (月) 22時14分
猪狩弁護士の書物にもありますが、警察からの情報収集は公務員法の問題もあり、現実的には難しく、また、暴追センター等は、不当要求行為などが前提となるため、実際に政府指針等で求められている取引先対策としては、公的機関からどこまで情報が取れるかは疑問を感じます。
また、暴力団等の反社会「的」勢力(私は、反社会「的」勢力という言葉を使うべきだと思います。政府の指針にもあるように、現実的には暴力団というような属性要件だけではなく、行為要件も加味して判断していくことになるため、反社会勢力だと行為要件でカバーすべき対象が蚊帳の外に置かれかねません)の資金獲得活動は、ご存知のように不透明化しており、直接の取引先がフロント企業であるというケースばかりではありません。2重3重に迂回しておりますので、取引先を基点にどこまでを追いかけるかで、反社会的勢力勢力排除に向けた内部統制システムの実効性が左右されてくると思います。
情報収集一つとっても、公的機関からの情報収集が、少なくとも現時点では制約があるため、民間のデータベースも含め、またデータベース等の活用だけではない、多角的な分析が必要になってくるのが現実の姿であり、多くの企業においては、調査等に費やす費用(しっかりと調査するなら少なくとも登記簿謄本の取得等は必須で、その費用だけでも負担になりかねない)等を考えると、大きな悩みどころになります(現実になった企業がいくつかございます)。
内部統制システムというとまた便乗だの、内部統制商法だのと横槍が入る可能性がありますが、現実的な問題として、反社会的勢力の資金源を断つことは、犯罪収益移転防止法等の制定等も含めて、国を挙げての一大テーマですので、企業実務においては避けられないテーマになってくるのではないでしょうか。簡単に考えるべき問題ではないですし、形式的な仕組みを作って予防できるものではありませんが、今後の議論の進捗を見守りたいと思います。
ベンチャーキャピタルや、ファンド、匿名組合等を使って企業に出資して、企業の経営権を握ったり、株を売り抜けたりという手口が最近は多いですが、匿名組合やSPCを使われると実態の把握が難しく、調査に限界があるのも事実かと思います。特にケイマン諸島等の海外経由のファンドはなかなか情報も取りにくく、反社会的勢力からのお金がかなり入っていると思われますが、企業としての対応には現時点では一定の限界を認めざるを得ないと思います。金融商品取引法は、ファンドについて、登録制や届出制を採用しましたが、全てのファンドに出資者名簿を公開させるぐらいの内容にしないと一定のけん制は認めにくいにと思います。
投稿: コンプライアンス・プロフェショナル | 2007年12月 4日 (火) 00時12分
>kawaiさん
質問の趣旨に正確に回答しているのかどうか、不安でありますが、数年経過して、反社会勢力であることが判明した、とありますので、①まず立証準備手続、②排除条項による契約関係の断絶、③従前からの内部統制システムの整備確立、といったところが問題となりそうですね。
たしかに、何も対策を打っていなければ、マスコミによる信用失墜の可能性が高いと思いますが、有事におけるマスコミへの説明で、一番大事なのは、先の③の事実説明だと思います。けっして望んでそういった関係を継続してきたわけではないことを説明する資料となります。また、有事においては、断絶したことを明確に説明したいところでありますが、そのためには①および②あたりが確実に対処できるかどうかが鍵となります。
コンプライアンス・プロフェッショナルさんがおっしゃるとおりで、有事になって、そう簡単に情報を収集して排除条項を行使できるとは限りませんので、(途中から)疑われた時点にて、属性および行動両面における調査結果を確保しておく必要があると思います。
投稿: toshi | 2007年12月 4日 (火) 16時32分
コンプライアンス・プロフェッショナルさん
山口先生
成果を重視しがちな営業や購買のそれぞれの現場に対し、難しいことよりも、まずは基本的な統制システムが浸透するよう地道な対応をしていくようにしたいと思います。今後も、機会がありましたらテーマに取り上げていただけましたら幸いです。コメントをいただきありがとうございました。
投稿: kawai | 2007年12月 4日 (火) 20時56分