労働者派遣業のコンプライアンスはむずかしい
通りすがりさんからご質問を受けたグッドウイルグループ子会社の行政処分問題でありますが、個別企業(もしくは役員個人)の法的責任に関するご質問につきましては、また別の機会に検討させていただくとしまして、すこしばかり「労働派遣事業における法令遵守体制」に関する感想を述べさせていただきます。
大手労働派遣業社としましては、フルキャスト社に続き、グッドウィル社が年明けにも事業停止命令を受けることとなりそうであります(ニュースはこちら)。本日(23日)のグッドウィル・グループ社の適時開示情報によりますと、行政手続法に基づく弁明において、GW社は行政の指摘内容については認める方向のようでありまして、(ただし違法性の認識については概ね否定されているようです)今後の社内体制の強化策についてもリリースされております。そもそも派遣労働者の安全を十分に確保できるだけの体制が整っていない以上は、親会社の取締役に関する法的責任の有無にかかわらず、派遣事業者(派遣元企業)が行政処分を受けることは当然のことでありまして、そこに労働関連法に対する「違法状態」が認められる以上は当分の間、事業停止の措置を受けることにつきましてもやむをえないものと思われます。
ただ、労働派遣における「法令遵守体制」の構築は、たいへん困難な作業を伴うものであり、果たして一企業の内部統制システムの構築によってどこまで防止できるのかは未知数ではないか と感じております。たとえば、ヘルパーさんを派遣する、いわゆる介護事業につきましては、ヘルパーさんが(要介護者やその親族のために)好意でお世話しているとしましても、介護士の職務内容として行政に届けている職務内規に反している行動であれば、その所属している介護事業者が処分対象になってしまうおそれがあります。そうしますと、手の届くところで要介護者が困っていることでも、「留守番は『モノがなくなった』といったトラブルに巻き込まれるのでダメ」など、いろんな制約が出てきて、行政に正直に報告をすればするほど処分の対象になってしまうような事業性を本質的にもっています。同様に、地域や親族とヘルパーさんとの交流のための懇親会などにもヘルパーの方々が参加することは控えることとなりますし、利用者側からしますと「あのヘルパーさんは冷たい」「あそこの事業所は何もしてくれない」といった評価になってしまいます。もちろん、親族への説明責任を尽くすことで理解が得られるケースもあるかとは思いますが、介護事業者からすれば「法令遵守体制」を強化することで、利用者側からは「冷たい業者」と言われ、利用者からは「もっと心のこもった介護をしてくれる事業者を探そう」といったことにもなりかねません。
ましてや、今回問題となっております「港湾作業」ともなりますと、なおさら法令遵守体制の構築には困難が伴います。たとえば、「港湾倉庫」(埠頭から幅500メートル以内に存在する到着荷物の保管倉庫)内におきまして、輸入業者が検品作業をするために派遣労働者を使いたいと思いましても、荷物の「はい替え」(ダンボール箱を下ろしたり、また積みなおす作業)は「港湾作業」に該当するために、別途「港湾作業員」を雇用する必要があるようで、十分な検品作業にも支障が生じる可能性があります。「検品だけのために荷物を上げ下げするだけでも、正社員や派遣労働者に頼むことはできないのか」とも思えますが、こればっかりは法律で定められているので、「法令遵守体制」を構築するためには、派遣先に重々説明をする必要があります。もちろん、派遣先にはそういった費用を負担してもらうことにもなりますが、派遣先としましては、そのような費用負担を要求されるのであれば、経営問題にかかわりますので、もうすこし融通のきく派遣元を探すことになるかもしれません。
こういったことを考えますと、労働派遣業者に法令遵守体制の確保を求めてみましても、その一事業者だけでやれることには限界があるように思えますし、業績向上のための活動と、法令遵守体制の確保との調和点を求めることは非常にむずかしいところだ、というのが個人的な感想であります。(ただし、誤解のないよう申し添えますと、だからといって派遣事業者の法令遵守体制の構築は放置していてよい、といったことを申し上げているわけではありません。「法令遵守体制」というのは、言葉で語るには容易でありますが、リスク管理という面からとらえますと、そのPDCAはかなりムズカシイ問題を含んでいることに留意すべき・・・というのが主題であります。)結局、業界団体において自主ルールを制定して、説明責任を尽くすためのルールの策定や、派遣先のコンプライアンス向上策の共有、ルール違反業者への厳格な罰則適用等、ひとつの企業の社内管理体制の枠を超えて、業界全体としての取り組みが必要ではないかと考えております。
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