« 2007年12月 | トップページ | 2008年2月 »

2008年1月31日 (木)

ギョーザ食中毒事件と消費者行政新組織

このたびの中国産餃子の食中毒事件では、11人もの方が被害に逢われ、とりわけ兵庫県の方は未だに入院中とのことで、謹んでお見舞い申し上げます。今夜(30日)3時間半に及ぶJT社、生協さんの記者会見の要旨につきましては、産経新聞WEBにたいへん詳細な記録がアップされておりまして、(1)から(11)までとりあえず、全部読んでみました。記者の方々は、JT(もしくは子会社のジェイティフーズ社)が食中毒の事実を知りながら、なぜもっと早く公表しなかったのか、またJT側においては、中国製品の検査体制に問題はなかったのか、といった点を鋭く質問されておりまして、回答内容などからみますと、JT側も反省すべき点が多いように感じました。

ただ、記者会見におきまして、私のような素人がとても知りたい事実があるにもかかわらず、その点には(質問も回答も)触れられていないのは残念です。といいますのは、普段、生協さんなどを通じて、食中毒の疑いがJTさんに報告されてきた場合、もしくは保健所への被害者の申告があって、保健所からJTさんに問い合わせがあったような場合、JTさんはどのように対応しているのか、といった日常の(食中毒疑惑や商品クレームへの)対応であります。この産経WEBの記者会見要旨を読みますと、問題の天洋食品社(中国)の製品については、今回初めての食中毒事例であった、とのことでありますが、JTフーズ社は、業務として多くの加工食品を扱っているわけですから、大手スーパーや保健所等から、販売食品に関する食中毒事例の疑いは頻繁に報告されるものと思われます。そういった「日常の事件(クレーム?)への対応」と、今回の3件の被害事例への対応とでは、どこがどう違っていたのか、そのあたりがたいへん重要なところではないかと考えております。

冷静に考えてみますと、まず餃子を食べた人から、販売店もしくは保健所に報告があったとします。餃子を製造した会社としましては、まずその方の食中毒(らしき)症状が、餃子によるものなのか、それともほかにその方が食したものによるものか、わかりませんので、ともかく保健所もしくは自社で調査結果が出るまでは公表は差し控えるのが通常ではないかと思われます。その次に、同じ工場で製造された別商品ではありますが、これを食したとされる方の食中毒事件が保健所より伝えられたとします。さて、ここからが問題でありますが、一応、前者の結果が判明していない段階、つまり自社製品による食中毒かどうか判明していない段階で、後発の食中毒疑惑の事実発覚をもって、公表に踏み切るべきか、それとも、いずれの食中毒疑惑についても、詳細な原因は不明だが、消費者が餃子を食べたことによるものといった結果が二つそろってから公表すべきか、というところであります。無用な混乱を引き起こしてはいけない、との判断から、通常は後者を選択するのではないかと思われます。むしろ、この段階では、自社においても、その原因究明のための調査を積極的に行うことが重要でしょうから、今回の件が、普通の対応の場合以上に「公表しなければならなかった」要因はどこにあったのか、分析する必要があるのではないでしょうか。そもそも、千葉も兵庫もそれぞれ警察が動いていたわけですから、「事の重大性」の認識という意味では、JT社のリスク管理に問題があったようにも思えるのですが、そのあたりは実際のところ、どうだったんでしょうね。普通は保健所が動くところ、警察が動くというのはやはり今回の事件の特異性のような気もするのですが。

食の安全に関する信頼違背の事例は、内部告発によって発覚するのが最近の傾向でありますが、今回は本当に「偶然」だったようであります。千葉、兵庫それぞれの警察が、餃子の成分鑑定の結果について、たまたま同じ化学薬品工場に照会をかけたことによって、ふたつの事件がつながった、とのことであります。(朝日ニュース)もしこれが別々の工場に照会を出していたら、JT社や生協さんが自主的に公表に踏み切るまで被害が拡大していた可能性がありそうです。食品に限らず、消費者の生命、身体、財産に損害を及ぼしうる製品の安全確保のための企業の取り組みには残念ながら限界があると思いますし、今回のように、あるところに「情報が集約されること」で、はじめて迅速な対応が可能になる、ということを考えますと、最近福田首相が提唱されておられる「消費者行政新組織」の創設も、真剣に導入を検討したほうがよろしいのではないでしょうか。たしかに、経産省や農林省など、それぞれの省庁でも情報集約の組織体制は向上しているようでありますが、消費者にとって使いやすい制度を作るのであれば、やはり消費者行政は一本化して、そのノウハウを蓄積すべきではないでしょうか。

前記記者会見によれば、天洋食品社の製品は、餃子にかぎらず、たくさんの日本の企業が輸入しておられる、とのことですから、他の食品輸入業者や、販売業者自身のコンプライアンス経営の手腕が問われるところだと思います。

| | コメント (3) | トラックバック (3)

2008年1月30日 (水)

大森課長の「市場行政のいま」を読む

昨年12月20日のエントリー「課徴金制度のあり方と内部統制整備の要点」にてご紹介いたしました「金融システムを考える」の著者、大森泰人氏(金融庁企画課長)の講演録(証券レビュー第48巻第1号)が、財団法人日本証券経済研究所のHPでご覧になれます。前記「金融システムを考える」はいまでも時々参考にさせていただいている本でありますが、この講演録はまったく内容的にこの本とは重複しておらず、今後の金融行政のあり方をあらためて鳥瞰するには最適ではないかと思います。大森課長のサブプライム問題への意見につきましても最後の「金融テクノロジーと常識」のなかでしっかり楽しめますし、このブログをごひいきにしてくださる方にとりましても、「銀証ファイアーウォールの見直し」「課徴金制度の拡充」「金融専門人材の育成と交流」「ルールとプリンシプル(最近流行の議論だそうであります)」あたりはかなり興味を惹く内容であります。

関連エントリーのなかで、また折に触れて大森氏のご意見につきましては参考にさせていただくつもりでありますが、私が一番おもしろかったのが「課徴金制度の拡充と規制に関するプリンシプルベースとの関係」についてであります。たとえばインサイダー取引の規制(事後規制)について、私のなかでは「課徴金制度の拡充=うっかりインサイダーの摘発」といったことが当然のことと考えておりましたが、どうもそんな単純な図式ではなく、このあたりは金融庁の方々でも、考え方が「一枚岩」ではないようであります。ルールベースを基準とする、といいますか、ルールベースを重視するということになりますと、たとえ企業が不正目的であろうと、「うっかり」であろうと、利益を獲得しているのであれば、それを吐き出させるために課徴金命令を発出するのが当然と考えられます。したがいまして昨年も何件かうっかりインサイダー(たとえば「重要事実」の要件該当性ありとされるもの)が摘発されてしまったわけですが、プリンシプルベースを基準としますと、そこで斟酌されるのは「常識」でありますので、「形式的にはルール違反であっても、プリンシプルに照らせば摘発するほどのことはない」という見解に至るケースが生じます。そして、上記インサイダーの件につきましては、大森課長さんによれば、ついうっかりと公表前に(違法性の意識なく)売ってしまうこともあるので、そういった場合には今後気をつけなさいと注意して済ますのが常識というものである、とされております。なるほど、同じ金融商品取引法の運用としましても、金融庁のなかにはいろいろな考え方の相違があることが理解できます。

しかし、この講演のなかで、大森さんも少しだけ触れておられますが、プリンシプルベースによる規制、つまり「常識を基本として、センスある運用を行う」ためには、そのセンスといいますか、規制における「常識」というものが、官、民において共有されていなければならないわけでして、そういった常識が共有されていない時期もしくは領域においては、やはり厳格なルールベースによる運用もやむをえない(つまり、事前規制によって細かく行為規範を設けざるをえない)のかもしれません。また、その中間として、自主規制機関による自主ルールによって「常識」の隙間を埋める必要も出てくるようにも思われます。(もしお時間がございましたら、上記論稿をご一読されてはいかがでしょうか。)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年1月28日 (月)

テラメント事件への初歩的な疑問ですが・・

(29日未明 追記あります)

品質偽装関連エントリーでブログが盛り上がっているにもかかわらず、管理人自ら水を差すようで申し訳ないのですが、この2日ほどの事件のなかで、少し気になっておりますのが、虚偽の大量保有報告書を1月25日付けで関東財務局に提出した(EDINET上に公開した、とされる)株式会社テラメントへの金融庁の対応であります。

金融商品取引法27条の29が引用する同法10条1項によりますと、金融庁は大量保有報告書を提出した者(法人、個人)に対して、訂正報告書の提出命令(27条の29の読み替えにより、効力停止命令はできません)を発令することができますが、その条件としては、行政手続法13条の手続区分にかかわらず、かならず対象者(ここではテラメント社ですよね)に対する「聴聞手続」をとらなければならないことになっております。この行政手続法13条によれば、聴聞を開始することは名宛人に文書で通知する必要があり、また実際に聴聞の期日をもうけるためには「相当な期間」をおく必要があります。もちろん、行政手続法の聴聞手続につきましては、名宛人(テラメント社)へ命令を発することにより、その課される義務の内容が著しく軽微な場合は(聴聞手続は)不要と規定されておりますが、今回のことがテラメント社にとっても「軽微」とはいえないように思います。(行政手続法施行令2条を読みましても、軽微な場合として「政令」が定めているのは、大量保有報告書の形式的要件が欠けている場合だけを指しているようでして、「虚偽かどうか」といった実質的な要件についてはかならず聴聞手続が必要ではないか、と思うのですが。--この点については追記参照)

発令された場合には、その処分と処分内容を名宛人に開示することになりますので、おそらくその内容は、すでに金融庁のHPやEDINETのインデックスページに出ているとおりかとは思いますが、そもそも「聴聞手続」は行政手続法15条以下の条文を参照しますと、ずいぶんと時間を要するものでありまして、EDINET公開後、わずか2日ほどの間に訂正報告書の提出命令を出した金融庁の対応は本当に「聴聞手続」を行ったのかどうか、もし聴聞が省略できるとすれば、それはどのような法的根拠によって省略できたのか、とても知りたいところであります。(おそらく、とても基本的なことだとは思うのですが、関連知識に乏しいため、恥ずかしながら・・・)

また赤恥をかいてしまったかもしれせんが、私のように疑問を抱いていらっしゃる方も多いかと思いましたので、勇気をだして(^^;;。どなたか行政法や金商法に詳しい方、このあたりの法的な説明をご教示いただければ幸いです。

(追記)blanknoteさんのご指摘ですが、テレビニュース番組で、テラメント社の社長さんに直撃インタビューをやっておりまして(って、これ自体スゴイ・・・汗)、顔にボカシのかかっている山口滋代表が「昨日金融庁が聴聞をやるというので、金融庁へいってきました。」としゃべっておられます。そんなに簡単に聴聞手続ができるのだろうか・・・という疑問もありますが、とりあえず聴聞手続は経ていたみたいですね。なお行政手続法13条2項1号の「公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、前項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないとき」なる要件につきましては、私も検討したのでありますが、デュープロセスは国民の基本的な権利を保障するものでありますので、その適用範囲はかなり限定的に解釈されるのではないかと思い、本件への適用について自信がありませんでした。

(追記2)金融庁が金融商品取引法に基づいてどのような対応をするか、といった点ばかりが報道されておりますが、こういった一般企業による開示情報は事前規制が困難なわけですから、発行企業側の対応もあっていいのではないでしょうか。たとえば偽計業務妨害罪で即時警察へ告訴するといった対応は、発行企業側にとりましても、有事のリスク管理の一環ではないかと。(すでに対応されているところもあるかもしれませんが)今回は、文面からみて虚偽内容であることが推測できるものでしたが、発行企業にとっては虚偽であることが明白でも、金融庁や一般投資家がわからないようなケースの場合、もちろん発行企業側も適時開示として「虚偽である」とリリースはするでしょうけど、それだけで市場の信用不安が解消されませんし、断固とした対応が必要な場面ではないかと思われます。

| | コメント (3) | トラックバック (2)

品質偽装事件への詐欺罪適用の課題

長距離界の人気ランナーである福士加代子さんは、「大阪マラソン挑戦」を思い立ち、わずか1ヶ月の調整期間で42.195キロに臨んだそうであります。その絶大なる人気と瞬発力をもって、大阪の街中をかけめぐり、拍手喝采のなか「御堂筋のヒロイン」となったのでありますが、それも束の間30キロ付近から失速し、最後は脱水症状で何度も転倒しながら長居競技場のゴールにたどりつきました。

さて、大阪ではこの日、「現職で最年少の知事」という、もうひとりのヒーロー候補が誕生しました。彼も「200%ありえない」との前言をひるがえし、突然「大阪府知事挑戦」を思い立ち、わずか1ヶ月ほどの調整期間で「任期4年」という長丁場の府知事の仕事へ走り出しました。文字通り、その絶大なる人気と瞬発力をもって大阪をかけめぐることになるのでしょう。しかし、失速して何度も転倒した福士さんには、最後まで大きな声援が送られましたが、知事の失速、転倒には(これまでの経験からみて)大阪府民はきわめて冷酷であります。とりわけ府民の7割が居住する大阪市、堺市(いわゆる政令指定都市)と大阪府の関係は、失速、転倒のリスクが大きい問題が山積しておりますので、とりあえず私は冷静に今後の市と府の関係がどうなるのか、見守っていきたいと思っております。

>>>>>>>(以下、本題)

このたびの再生紙配合率偽装問題につきましては、このブログのコメント欄は、企業がコンプライアンス問題にどう立ち向かうか、といったご意見の「宝庫」となっております。(どうもありがとうございます)最初はこういった議論をどうまとめようか、と模索いたしましたが、閲覧されていらっしゃる方々の感想に任せるほうがよろしいのではないかと思い、あまり議論を集約する方向での私見は述べておりません。ただ、私と同業者の方々(たとえばkawailawさん、ともさん、辰のお年ごさんなど)は、みなさんマスコミが採り上げること以上に、「道義的に問題だとおっしゃるだけでなく、詐欺罪についても検討されるべきでは」といった法的責任論にも踏み込んだ見解を述べられております。また、小僧さんご自身も、このたびの問題に法的責任がどう課される可能性があるのだろうか、といったご関心をもっておられるようであります。そこで、品質偽装事件への詐欺罪適用といった論点につきまして、とりあえずその前にクリアにしておくべき問題に、すこしだけ触れておきたいと思います。

再生紙配合率偽装問題について、果たして刑事事件として問えるのかどうか、財産罪、不正競争防止法違反、独禁法関連等、いろいろ考えられるところでありますが、たとえば詐欺罪による立件(刑事事件として)といった可能性も(私も)検討の余地はあろうかと思います。契約によって決められた配合率に達していないにもかかわらず、さも達しているかのように「再生紙」なる表示をもって日本郵政公社や官公庁、民間会社に販売していた、といった場合、欺罔行為者(取引の相手方を直接欺いた人)が誰なのか、といった問題もあるかとは思いますが、最大の問題は、欺罔行為の相手方が本当に「騙されていたのか」というあたりではないでしょうか。薄々知りながら(つまり、配合率に問題があることに気づきながら)購入していた、ということになりますと、詐欺罪は成立しませんし、そのあたりを突っ込んだ場合、本当に相手方は今回の事情を知らなかったといえるのかどうか、そのあたりが新たな問題になってくるのではないか、と予想されます。(未遂ならともかく、既遂であれば「騙されながら金員を交付した」ことが必要になってきます)

もちろん、小僧さんのコメントによりますと、行政機関は知らなかった、ということでありまして、私もそのあたりを深くツッコミを入れるだけの情報もございません。しかしながら、この偽装は10年以上も続いているものであって、製紙業界の方々も、その間にいろんなところへ転職、転籍されているはずであります。派遣従業員や下請事業者も多数存在すると思われます。また「業界の定説」のようなものであった以上は、製紙業界だけで情報が管理されていたと考えるには少し疑義がありそうです。そうなりますと、この偽装問題に刑事手続を持ち込みますと、消費者と直接対面している取引先自身のコンプライアンス問題にも飛び火する可能性があるのではないでしょうか。以前、コンプライアンス経営はむずかしいシリーズにおきまして、取引先をかばうのも「隠蔽」の要因ではないかと書きました。マスコミで騒がれている範囲におきましては、kawailawさんがおっしゃるとおり、騒がれるだけで済めば御の字かもしれませんが、いざ詐欺罪の適否にまで発展するとなりますと、また違う側面での不祥事(隠蔽など)の問題が出てくるかもしれません。

たしかミートホープ社の刑事事件につきましても、当初は不正競争防止法違反と詐欺罪で立件する予定だったのですが、ミートホープ社の相手方が、異常に安い値段で購入していたことから、「表示に誤りがあることを知ってて購入したのではないか」といった疑念が出てきましたよね。そうしますと、今度は取引の相手方自身もまた消費者を裏切っていたことになってしまいますので、結局詐欺罪での立件をしないものと報道されておりました。(ただし、1月27日のニュースによりますと、ミートホープ社長は詐欺罪での立件もされた、とのことであります。)今回の再生紙問題も、これだけ製紙業界においては「常識」のように多くの社員の方々が配合率偽装を知っておられたわけですから、その取引先の(少なくとも)従業員レベルにおきましても、「それと知りつつ」購入していたような事情はなかったんでしょうか。もし刑事事件に発展するならば、製紙業界側の弁護士さん方も黙ってはいないはずでして、相手方直接担当者の認識を徹底的に立証することになるでしょう。そうなりますと、もし相手方が「古紙が少ないことを知りながら」購入していたとするならば、今度はその相手方が直接的に「消費者を騙していた」ことにつながるように思います。このあたりが詐欺罪立件のむずかしさであり、この再生紙問題だけでなく、品質偽装事件全般にわたって、詐欺罪を適用する際の前提として、「少しひっかかる」ところではないかと考えております。

今回の再生紙配合率偽装の事件が、今後どのような方向に向かうのか(収束するのか、新たな展開をみせるのか)は私にも不透明でありますが、こういった偽装事例に関しまして、実務として関与すべき「弁護士の姿勢」につきましては、ともさんはじめ、多くの方のご意見にたいへん感銘を受けた次第であります。(やはり「胆力」が必要ですね)

| | コメント (19) | トラックバック (1)

2008年1月26日 (土)

耐火性能偽装問題も耐火困難で再燃

みなさま方からの再生紙配合率偽装事件への熱いコメント、どうもありがとうございます。あまりにもコメント数が多く、また内容も非常に濃いために、ひとつひとつお返事できずに申し訳ございません。(参考となる法令をお調べいただき、たいへん感謝いたします)とりわけ製紙業界の小僧さんの非常にわかりやすい内部事情、同じく末端社員さんの「品質優先」魂に関する内部事情等、「コンプライアンスを語ることのむずかしさ」を再認識させられるものでありまして、またそこに常連の皆様方のコメントを拝読しまして、(TETUさんと同じく)ありきたりな問題の整理では収まらないことを痛感しております。また、いままでコメントされていない方も、よろしければご遠慮なく、意見を述べていただければ、と思います。

さて、昨年11月8日のエントリー「断熱材性能偽装で怯える企業」のなかで、この断熱材偽装に至る社内の事情を推察することから、ニチアス社、東洋ゴム社以外にも、この耐火性能偽装で問題が発覚する企業は他にもたくさん出てくるのでは、と書きましたが、やはり26日未明の速報ニュース(読売)によりますと、(すべてが試験用商品の性能偽装ではありませんが)日軽金社、YKKAP社などの大手を含む計45社に耐火性能偽装による試験通過もしくは商品販売等の不正事実が判明したようであります。(私が他社でも偽装が行われているのではないか、と推察した事情は、前記エントリーをお読みいただくとおわかりになるかと存じます)この断熱材偽装の際にも、このたびの小僧さんと同様、社内事情や性能試験事情などの内部事情を(コソっとではありますが)お教えいただいた方がいらっしゃったのでありますが、私の感覚からしますと、この耐火性能偽装の事例は、このたびの再生紙配合率偽装と比較しても、もっと「根の深い」ものだと認識しておりまして、またそのあたりは、どなたにもご迷惑をおかけしない範囲で、追って私の意見として述べてみたいと思います。なお、念のため申し上げますが、このブログは企業不正事件をおもしろおかしく採り上げるものではなく、企業不祥事を「リスク管理」の一環として捉えたうえでの損失の危険の管理のあり方を検討することを主題としております。

しかし「内部告発」なるものは、他のいろいろな要素とタイミングよく結びつきますと、ある特定企業を震撼させるだけではなく、ある業界すべてに激震を及ぼすほどの力があると言わざるをえないようであります。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2008年1月24日 (木)

再生紙偽装・発覚遅延の原因を考える

私が司法修習生だったころ、つまり20年ほど前になりますが、大阪の実務修習(社会実習)の一環として、「近鉄電車の運転実習」というものがございました。いくつかの班に分かれまして、修習生が運転席で実際に近鉄電車を一区間ずつ運転します。もちろん、乗客を乗せたものではなく、いわゆる「臨時列車」ですが、お昼のダイヤに合わせて、運転いたします。隣に近鉄電車の運転手の方が付き添っているのですが、実際に修習生が運転をするというもので、いまなら「電車でGO」で予習もできるかもしれませんが、当時は「ぶっつけ本番」のとてもスリリングで楽しい修習でした。

弁護士になって数年後、新聞に「司法修習生、無資格で電車運転」なる大きな見出しとともに弁護士会の不祥事問題として公表され、当時の大阪弁護士会のM副会長が謝罪会見を開く、という事態となりました。今から考えますと、臨時電車とはいえ、無資格の人間が白昼堂々と電車を運転をしているわけですから、「往来の危険を生ぜしめている」ということでゾっといたしますが、当時は特別に危険だという認識もなく、「え!なくなっちゃうの?修習生かわいそう」くらいにしか考えておりませんでした。翌年から、近鉄電車運転実習が廃止されたことは当然のことであります。

このようなお話を書きましたのは、昨日の「再生紙偽装に関するいくつかの疑問」への小僧さんの回答を読ませていただき、「なぜ十数年にもわたって、内部告発等によって問題が発覚しなかったのか」ということへの原因が、おぼろげながら理解できたような気がしたからであります。たくさんの製紙会社の社員の方々は、再生紙の古紙配合率に虚偽がある、といった事実を知っておられたようでありますが(ここでツッコミが入るかもしれませんけど・・・)、そもそも(少しオーバーな言い方かもしれませんが)「酒の席でも、平気でしゃべってしまう」ほどのことであり、それが「内部告発をする」だけの価値があるのか、言い換えれば、その事実が社外で大騒動になる、といった認識が製紙業界のみなさんに欠けておられたのではないでしょうか。少なくとも数年前までは、そういった感覚だったのではないかと推測されます。ところが、ここ数年、エコ商品への社会的な関心が高まってきたことと、品質偽装といったことへのコンプライアンスの議論が高まってきたことが相まって、「このままだとヤバイのではないか」といった風潮が次第に製紙業界にも芽生え始め、業界団体等においても、「古紙100%は本当に環境によいのか」なるキャンペーンなどと銘打って、古紙の偽装の程度を低減させていこう・・・といった業界の流れになってきていた矢先の「問題発覚」だったのではないかと推測いたします。(もちろん、そのような姑息な目的だけのためにキャンペーンを打ったものでないことは小僧さんのコメントのとおりであると思いますが、まぁそのような流れのなかで、といいましょうか)きっと「こんなの昔からやってたし、なんでいまごろ騒ぐの?」と思っていらっしゃる社員の方もおられるのではないでしょうか。

こういった社内慣行への意識と、社外の意識とのギャップから生ずる「不祥事問題」は、たいへんおそろしいものだと感じます。たまたま今回は製紙業界の問題でありますが、同様の「ギャップから生じる問題」はどこの業界でも三つ、四つくらいは抱えているはずですよね。倫理的に問題がある業界慣行ではあっても、それが社会的に許容(許容が語弊があるとすれば、発覚してもニュースソースたる価値がないこと)されるものと、大騒ぎになってしまうものがあって、時代の流れの中で、社会的に許容されない悪事である、と評価され、過去にさかのぼって偽装していた、とか、隠蔽していた、と言われてしまうわけであります。世の中が騒ぐ不祥事と騒がない不祥事(つまり、内部告発する人もいないだろうし、また告発を受けたマスコミも本気でとりあわない不祥事)の境目というものは、そう簡単には識別することは困難ではないか、と思う次第であります。

「社外の常識を、社内に取り入れる」というフレーズは、宣言することは簡単でありますが、実行に移すことはむずかしそうであります。しかし、ひとつ「経営の透明性、公正性をはかる」ということで、社外取締役や、社外監査役の役割が期待されるところでありまして、たとえばこのたびの再生紙偽装の一件など、各製紙会社の社外役員の方々は、どう思っていらっしゃたんでしょうかね。こういったケース、たとえば社外役員であれば、「そのような慣行はまずいのではないか」と疑問を呈していただけたのではないか、と。王子製紙、日本製紙はじめ、この業界には名門企業が多いようですので、もちろん社外役員さん方も、立派な方々が多いものと思われます。そういった方々は、情報伝達の限界として、そもそも再生紙偽装なる事実は耳に入っておられなかったのか、それとも当然のごとく、知悉されていたのだけれども、社内の役員さん方と同様、「そんなに憤って文句を言う必要があるの?この競争激化のなかで、そんなことに文句を言ってたらKY(空気が読めない)って言われてしまいますよ」くらいの感覚だったのでしょうか。

なお、私はどなたかの法的責任を追及する目的で申し上げているわけではなく、あくまでも「企業の不祥事体質」というものがあるのであれば、その原因はどこにあるのか、を究明したい、との気持ちからのエントリーであります。このたびの再生紙偽装が、業界あげての不祥事である、とお認めになるのであれば、それでは今後どうやって不祥事再発のない企業体質にできるのか、その処方箋を検討することが、私は責任追及よりも優先すべきであると考えております。(弁護士会の選挙のこととか、本業の書面作成に追われて、きちんと文章を整理する時間がありませんので、ダラダラとした文章、お許しください)

| | コメント (15) | トラックバック (0)

2008年1月23日 (水)

再生紙偽装問題へのいくつかの疑問

製紙業界の業界団体には38社が加盟されているそうでありますが、そのうち23日未明までに公表されているだけで、13社が、いわゆるグリーン購入法に反する「再生紙偽装」を認めておられるようであります。なお、この13社というのも、ほぼ「売上高の多い順番に」というものでありますので、ひょっとすると、まだまだ中堅クラスの製紙会社からリリースが続くのかもしれません。

DMORIさんのご意見に、小僧さんが回答されておられるコメントが実に興味深いので、少しご紹介させていただくと同時に、私なりの疑問(もちろん、関連当事者企業の法的責任を追及するようなつもりではなく、企業における不祥事隠蔽体質への関心に基づく一般的な疑問)を書かせていただきます。

1 なぜ10数年もの間、配合率偽装の事実が発覚せずに、TBSに寄せられた告発文書による質問に至るまで隠蔽できたのか?

小僧さん曰く、

これがかくも長く続いたのは、この不正が一度やってしまったら後戻りが非常に困難だったという特殊事情があります。パルプ配合を変えると、紙の品質は大きく変わります。(古紙パルプとバージンでは、特性が小麦粉と蕎麦粉ほど違います) 途中で正常な配合に戻したくても、今まで偽装していたものを正規配合にすればお客様から品質低下でお叱りを受ける。正当な理由なしに来月から供給を止めますというのも言えない。となれば不正を告白する以外に辻褄が合わない。だがそんなことは出来ないという袋小路でした。

10数年もの長い間、多くの関係者が不正を知っているのに何故か表沙汰にならず、同業他社の出方を探りながらのチキンレースを続けていたのです。

たしかに小僧さんの言われるとおり、一度不正をやってしまったら後戻りができない状況であったことはなんとなく理解できそうなのですが、それでも、これだけ業界あげて偽装が行われていた、となりますと、誰かが(たとえば製紙業界から退職するさいに)良心の呵責に耐えかねて、業界の外へ告発するのが普通ではないでしょうか。私の感覚では1998年ころからは、取引先の大手企業さんは、どこもHPなどで「うちの会社は環境保護に熱心です」といわんばかりに「古紙100%使用の再生紙を利用しています」と書いておられたものと記憶しております。そんなHPを読みながら、製紙業界の方々は、「あぁ、あれって本当はそんなに古紙が使われているわけはないんだよね」といったあたりの意識をお持ちの方が多かったのではないかと推測されるわけでして、そんな状況で約10年もの間、複数の製紙業者からはなんら内部告発のようなものがなかった、ということですと、なんとなく不自然な感じもいたします。それとも、こういった配合率の偽装といった問題は、昨年末の建材性能偽装事件のときと同様に、社内のごく一部のセクションだけが知っているものであって、社内でもそれほど多くの社員が知っているような問題ではない、ということなのでしょうか。(このあたり、あんまりツッコミをいれてしまいますと、「小僧さん」も答えられなくなってしまうかもしれませんが・・・・・・)いずれにしましても、このあたりは不祥事再発防止のためのキモとなる「不祥事構造」の核心だと思いますし、もう少しどなたでも結構ですので、ご意見をいただければと思います。

2 行政は本当に知らなかったのか?

ここまで不祥事が大きくなってしまいますと、私もDMORIさんの同じような意見を持っておりまして、十数年も偽装が慣行化していた、ということであれば、行政も薄々知っていたのではないか、と素直に推測しておりましたところ、小僧さんのお答えは私にも意外なものでありました。

小僧さん曰く、

この件に関して行政には非はありません。

まず第一に、グリーン購入法は制限速度のような義務的な法律ではありませんから、守れないなら官庁向けの商売から手を引けばいいだけなんです。本来は技術的なハードルを越えたものだけが得られる果実を、下をくぐって盗み食いしたというのが真相です。行政あるいは立法府を恨むのはお門違いですよね。

第二に、グリーン購入法を決めたときに、製紙業界側からも意見を言ってますし、それに則って品質の上限規定があったりもします。弁解の余地はありません。

第三に、環境省や経産省は、今までかなり製紙業界にフレンドリーでした。古紙偽装と時を同じくして輸入紙が急増したのですが、それらの紙は不法伐採の森林資源を使っているから、環境にやさしい国産品を使いましょうという方向に世論を導いてくれていたのです。グリーン購入法を始めとする環境政策は、非関税障壁として有効に働いていて、製紙業界はその恩恵に預かっていたのです。

といったような事情ですから、報道されるように行政サイドは今回の事件に怒り心頭なわけで、私は大変申し訳なく思っています。勝手なことを言わせて頂ければ、これ以上彼らの神経を逆撫でる批評は止めてあげて欲しい。いままで我々を応援してくれた人たちが、さらに窮地に陥るのは忍びないですから。

なるほど。(おそらく、このブログを環境省の方が読んでいらっしゃったら、拍手喝采かもしれません)小僧さんの解説はなかなか具体的であり、説得力のあるものといわざるをえないようであります。また、ご自身の業界を擁護するような内容でもありませんので、その信頼性は高いものと拝察いたします。ただ、私の素朴な疑問でありますが、小僧さんがkatsuさんのご質問へお答えされているなかにおきまして、以下のように述べれおられます。

小僧さん曰く、

「業界の常識」というのは、談合的なことではありません。TBSがやったように、古紙配合率は簡単な分析で大まかな推定ができます。お互いに、他社品を分析した上で、「あー、こりゃバージン使ってるな」という推定をして、自社の配合を決めていたのです。みんなで赤信号を渡るときに打ち合わせはしないのと同じですかね。
はがきは、郵政が印刷会社に対して発注するものでして、用紙は印刷会社がそれぞれ手配します。この取引は民間同士の随意契約だと思います。

TBSがどのような分析によって配合率の推定をされたのかは、私も存じ上げませんが、いずれにしましても、それほど高度な分析の技術や経験も不要なままで、とりあえず推定作業は可能なわけですね。そうしますと、たとえばグリーン購入法による古紙配合率が守られているかどうか、といった点につきましては、行政のほうでも、簡単にチェックはできていたのではないか・・・なる疑問が湧いてくるわけであります。「今回の事件に怒り心頭」という行政側の態度が真摯なものであるとするならば、どうしていままで、こういった「素人でもできそうな」分析を行政がやってこなかったんだろうか、という(私の素人考えでありますが)あたりに、少しひっかかるところがございます。新聞報道などによりますと、2006年には「古紙100%」が真実であることを前提として、環境省がCO2削減量実績を公表しているわけですから、「怒り心頭」というのも十分理解できるのではありますが。

3 CSR調達に熱心な取引先は今後どのような対応をとるのか?

最初、日本製紙さんの偽装問題が発覚したときには、大手の取引先の方々も、「環境保護」を重視するスタイルを貫こうとの意思で、日本製紙さんとは一定期間の取引を中止させていただく・・・みたいなことを考えておられたのではないかと思われます。しかしながら、上位から10社くらいまでの、ほとんどの製紙会社が、国民の信頼を裏切るような偽装を長年継続して行っていたということになりましたので、「取引中止」なる決定を下すとなりますと、自社の営業にも大きな影響が出てしまう事態となってしまっております。行政機関であれば、グリーン購入法の基準を変える、ということで対処できるかもしれませんが、一般民間企業の場合であれば、そもそも、コンプライアンス違反の企業から製品を購入する企業の姿勢自体が、国内や海外の消費者からどう映るのか、とても重大な決断を迫られるような気もいたします。このあたり、「背に腹はかえられない」としても、どういった理由をもって各製紙会社さんとの取引を継続されるのか、このあたりはCSR調達があたりまえの時代に、各企業の対応が今後の同種事例への貴重な先例になるのではないでしょうか。(小僧さんだけでなく、またお気づきの点がありましたら、どなたでも、ご意見をいただければ幸いです。まだまだ疑問が尽きませんが、本日はこのあたりで)

| | コメント (25) | トラックバック (2)

2008年1月22日 (火)

日本内部統制研究学会設立記念シンポ

1年半ぶりに小僧さんよりコメントをいただきました。王子・北越事件のころは、小僧さんのご登場で、当ブログも記録的なアクセスとなりましたので、ご記憶の方も多いかと存じます。あのときは、どちらの社長さんも画面いっぱいの「勇姿」でありましたが、現在はどちらも「低姿勢」を貫いていらっしゃるようでして、おまけに今日の中越パルプの社長さんのご発言で、業界全体の問題に発展しそうになっております。この事件の報道を最初に聞いたとき、かなりヤバイ事件ではないかと想像いたしましたが、私の予想以上に問題が深刻になってきそうな気配であります。また、続編アップいたしますので、よろしくお願いいたします。(以下、本論)

都心に3センチも雪が積もる・・・・・との天気予報でしたので、大阪から重装備で東京に出てきましたが・・・・・・ヘ('◇'、)/~フッテナイジャン♪

ということで、21日は午前中、東京九段会館にて日本内部統制研究学会の理事会に出席し、午後からは大ホールにて第一回公開シンポジウム「内部統制と企業不正」に参加させていただきました。10日間で申し込みを締め切らざるをえなかった、ということでしたが、本当に3階席まで満員の状況でありまして、(東京における)内部統制報告制度への関心の高さに改めて驚きました。終了後の理事による懇親会では、研究学会会長の川北先生や八田先生は、「1000人集まったことよりも、その1000人の方々が、シンポジウム終了まで、ほとんど途中でお帰りにならなかったことのほうがビックリした」とのことでした。私もそうでしたけど、法施行を目前に控えて、実務に影響力を持つパネリストの方々が何をおっしゃるのか、最後まで来場者みなさん必死でメモされていましたので、「途中で帰るに帰れない」(笑)のが実際のところだったと思います。金融庁の意見書(実施基準)、関係政省令、Q&A、会計士協会の監査実務指針、監査役協会の内部統制監査基準などが出揃いましたが、金融庁のメッセージと実務現場の状況とでは、温度差はかなり大きいはずであります。「経営者主体の内部統制システムの整備と運用」と、いままで抽象的には繰り返し言われてきたところでありますが、こういったシンポジウムがもうすこし具体的にその中身を考えるきっかけになればいいですね。

★ちなみに、「山口先生はどこにおられたのですか?」とメールをいただいておりますが、私は2階の「関係者席」(ずいぶん偉そうで恐縮ですが・・・)におりましたので、せっかく探していただいたにもかかわらず、たぶんわからなかったと思います。私の前に、よく会計や法律雑誌でお見かけする金融庁の方が座っておられました。終了後、懇親会のほうへ出席しておりましたので、あまりウロウロしておりませんでした。★

なお、シンポジウムの詳細につきましては、会計雑誌等でお読みいただくとしまして、とりあえず感想だけ申し上げますが、昨日のエントリーで私が述べていたところはけっして(現状の把握において)的外れではなかったようです。やはり日本における内部統制報告制度の施行にあたり、中小の上場企業と規模の大きな上場企業とで、内部統制システムの整備のレベル、有効性評価の範囲や手法、もしくは監査のレベルにおいて、差を設けるべきかどうか、という点は議論の対象になっておりました。私などは、単純に70%もの米国企業がSOX法の適用猶予を受けているわけであるので、日本でも同様の猶予措置があってしかるべきではないかと考えているのですが、三井秀範課長のお話では、アメリカと日本では、そもそもマーケットの入り口が違う、とのこと。アメリカは資本市場に依拠する中小企業の数が日本と比べて圧倒的に多く、間接金融に依拠する割合の多い日本とは、およそ土壌が異なるので、一概に比較はできないそうであります。そういったこともあり、日本の場合は、とりわけ厳しい上場審査に耐えて上場しているわけであるから、新興市場の中小規模の上場企業といえども、一般投資家の信頼にこたえるだけのガバナンス開示を要求することも可能である、そもそも投資家の信頼にこたえる必要があるという意味においては、大企業も中小の上場企業も同じである、とのことでありました。たしかに金融庁の課長さんのご意見としては説得的であり、限界もあろうかとは思いますが、金融庁Q&Aでは、いちおうそのあたりにも触れておられるのですから、もう少し突っ込んだところまで議論できないものでしょうか。いまのままでは、中小の上場企業の社長さんは、内部統制報告制度における経営者の役割を理解することなく、会計監査人に「非監査業務」までお願いすることになったり、よくわからないから外部委託に丸投げしようとされたり、すべてJ-SOX担当者まかせにするばかりであります。「なんだ、その程度だったら、俺にもできるやないか」といった気持ちを新興市場の経営者にもっていただけるような制度、言わば「経営者をその気にさせる制度作り」のためには、中小上場企業における構築レベルの緩和はぜひとも必要ではないでしょうか。「構築レベルの緩和」という言い方に語弊(もしくは誤り)があるのでしたら、簡易評価方法とか、簡易監査指針のようなものが作れないものか、と思っております。(ひょっとすると、今後監査法人レベルでの「申し合わせ」のようなものが、このあたりの基準について示されるかもしれませんね。あと、補完統制に関しても、同様のことが考えられます)
もし、仮に評価や監査において簡素化のレベルというものが指針として示すことができないとすれば、内部統制報告制度の「メリハリ」について、もうすこしわかりやすいように広報すべきではないかと思います。経営者、自己監査部門、モニタリング部門相互の役割分担のようなところであります。リスク評価、対象を絞った範囲での深度ある業務プロセスの評価をきちんとわけて、重要な虚偽表示につながる不正リスクを評価することは、とりあえず経営者でないと意味がない、といったあたりを強調していただければ、かなり金融庁の制度趣旨に合致するところまでは制度の枠組みが築かれるのではないでしょうか。

この内部統制研究学会のあり方について

立場上、詳細には触れませんが、内部統制報告制度につきましては、おそらく4月以降、予想もしていないような、いろんな問題が出てくるかもしれません。この研究学会としては実務をリードするための指針のようなものを迅速に適宜出していこうということが理事会で合意されました。また初夏のころに年次大会が予定されているようですので、制度がスタートして、少し経過したころに、タイムリーに提言を出せればいいかもしれません。どうしてもそれぞれの組織の立場上、意見がだせないところに機動的に動けるような団体になっていただければ、と思います。(また、個人的に少しだけ懸案事項でありましたが、日本監査役協会のお出しになっておられる財務報告内部統制に関する実施基準との整合性、といったことも、かなり研究学会としては配慮されているようですので、安心をいしました。)

| | コメント (7) | トラックバック (0)

2008年1月21日 (月)

内部統制報告制度・新春座談会記事

☆日曜日にもかかわらず、たくさんコメントを頂戴しておりまして、お返事をなかなかできずに申し訳ございません。かなり長文の熱いものが多いので、ひとつひとつ拝読させていただいております。また適宜お返事を書いたり、次のエントリー続編でご紹介させていただきますので、なにとぞご容赦ください。☆(以下、本論)

「会計・監査ジャーナル」2月号と「旬刊商事法務」新春合併号では、それぞれ内部統制報告制度に関する実務上の諸問題を中心とした座談会記事が特集とされております。会計・監査ジャーナルでは内部統制監査実務指針(確定版、監査・保証実務委員会報告第82号)の要点解説を中心として、また商事法務では「会社法と金融商品取引法の交錯と今後の課題(上)」として、財務報告に係る内部統制制度への対応なる副題が付いております。なお、「ジャーナル」2月号は「内部統制特集号」なる別冊仕立てとなっておりまして、これまでの内部統制監査実務指針(第82号)確定までの過去の座談会記事も再録されていたり、関連基準なども資料として掲示されておりますのでたいへん便利です。内容的には、どちらも内部統制報告制度に携わる方々にはたいへん参考になるところが多いと思いますが、私が弁護士という立場だからでしょうか、やはり商事法務の座談会の論点整理が、これまでこのブログでも何度か議論されてきたところを含んでおりますので、理解しやすかったように思います。とりわけ内部統制審議会の作業部会員でいらっしゃった方の発言内容は、これまであまり採り上げられなかった論点にもかなり踏み込んだものであり、企業担当者の方々にはとても参考になるのではないかと思います。また東証の執行役員の方の発言部分(少ないですが)には、内部統制報告制度における有効性評価と適時開示の関係にも言及されており、内部統制の不備(有効性判断?)と開示に関する新たな話題になりそうであります。

両座談会記事とも、あまりに関心の高い論点が「てんこもり」でありますので、また追って関連エントリーのなかで触れさせていただきます。なお、社外監査役という立場から一言感想を述べますと、いずれの座談会におきましても、監査役制度と内部統制報告制度との関係について、踏み込んだ議論がされればよかったかなと思いました。(商事法務さんの座談会では、「内部統制報告制度と監査役監査」に関する議論に及んでおられますが、読まれた方はおわかりのとおり、某教授の爆笑ツッコミで終わっているような気もいたしますが。こういったツッコミは個人的には大好きです。(^^; 紙面の都合上やむをえなかったのでしょうかね・・・)現時点で細かい理屈を議論するよりも、制度が動き出せば当然にまたいろんな問題が発生するのですから、そういった問題への対処を積み重ねるなかでまた全体の整理をしていくべきなのかもしれません。ともかく金融商品取引法の企業情報開示制度の一貫として規定されている趣旨だけは常に見失わないようにしたいものです。

また、中小の上場企業と経営者評価、監査人内部統制監査の関係について、なんらかの言及があるかな・・・と予想しておりましたが、いずれの座談会でも言及されておりませんでした。ここは平成19年2月15日意見書前文でも触れられており、また金融庁Q&Aの第20問でも金融庁回答が付せられているところでありまして、たとえ抽象的な指針でもいいので、なんらかの監査実務指針のようなものがあるといいのですが。(もし、私の見落とし等ありましたら、またお教えいただければ幸いです)米国SOXの実務(上場企業の70%の企業が免除措置を受けていること)からしましても、中小規模の上場企業には、それなりの代替基準の目安のようなものがあってもいいように思います。さらに、「重要な欠陥」の評価方法等は、いずれの座談会でも議論になっておりますが、トップダウンのリスクアプローチを基本とする経営者評価の基準など、それこそ世界ではじめてであり、経営者サイドも、監査人サイドも「いままで経験のない業務」(上記商事法務で「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」の論稿を著されている持永先生のお言葉)でありますので、今後さらに突っ込んだ議論を期待したいと思うところであります。たとえば、「不備かどうか」とか「重要な欠陥かどうか」とか、「不備がいくつ併合されると重要な欠陥となるのか」など、もし監査人と経営者で意見が分かれた場合には、どうしたらいいのでしょうか。3800社の上場企業のほとんどが「有効と評価される」ような運用であればいいでしょうけど、この座談会でも話題になっておりましたように、ある程度の企業が「重要な欠陥がある」とされるのが健全な運用だとするならば、やはりこのあたりの論点を議論しておく実益はあるのではないでしょうか。(監査人が四半期報告内容の修正などの「結果」からみて「不備」を判断するのであれば、期末に近いところで「不備」や「重要な欠陥」などが問題になってくる場面も想定されるでしょうし、単に日ごろから監査人と経営者で内部統制に関する協議を重ねていればいい、という単純な問題ではないように思われます)

以前、ルールベースとプリンシプルベースによる規制の使い分けについて、別エントリーで触れましたが、金商法上の制度である以上、内部統制報告制度においても、これを検討する必要があるのでしょうね。法律家と会計専門家、経営者の間におきまして、金商法上の内部統制報告制度のあり方をどうみるべきか、金商法で内部統制評価監査制度が採用された趣旨をどう考え、それを具体的な仕組みにどう生かすべきか、それを企業の経営者やモニタリング担当者がどのようにわかりやすく運用していくのか、といったところを今後も検討していかなければいけないのかもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年1月20日 (日)

中山万里さんのブログに出会えてよかった。

(本日はビジネス法務とはまったく関係のないエントリーで失礼いたします)

1990年より、私は森高千里さんのファンでありますが、森高さんのCDジャケット撮影でも有名な写真家の中山万里さんが、読売新聞等で報道されているとおり、17日永眠されました。中山さんのブログ「アイラブサンキュー」は、(乳がんで療養中の)昨年1月より「ちょうど1年」続きました。私もつい先日、同志社のロースクールの帰りに、コソっと個展にも足を運びました。

ブログがこれほど、人の生命(いのち)を感じさせてくれるものとは、(万里さんのブログを読むようになるまでは)理解しておりませんでした。夕方から一年間の万里さんのエントリーとそのコメントを全部読み返して、涙がとまりませんでした。私がブログを存じ上げるようになったのは、この4ヶ月ほど前ですが、たくさんの勇気を頂戴しました。

20日が告別式とのこと。ご冥福をお祈りいたします。そして、ひとりでも多くの方に、中山さんのブログを読んでいただければ、と思います。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年1月19日 (土)

東京、大阪の内部統制実務担当者の方へ(セミナーのお知らせ)

金商法上の内部統制報告制度の施行を目前に控えておりますが、私にとりましても、この時期に現場で監査法人さんと悪戦苦闘されていらっしゃる担当者の方々とあれこれと議論をするのはたいへん貴重な経験であります。そこで本日は「現場を知っている」方々のセミナーにつきまして、私のほうから広報させていただきます。

1 東京の皆様へ

2月19日(火曜日)、法政大学市ヶ谷キャンパスにおきまして、東証二部上場企業であるニイタカ(株)の雑賀努(さいが つとむ)氏が中堅上場企業向けのJ-SOX対応メソッドに関する講演をされます。某金融機関のご出身で、関西の内部統制研究会で、いつもご一緒している方ですが、IT統制を中心に、少数精鋭チームで中堅上場企業の内部統制システム(J-SOX対応)を文字通り「一から」構築されていらっしゃいます。その手法には「なるほど・・・・」と思わず唸って賞賛するときもあれば、「ちょっと、これはおかしいのとちゃう?」と私や他の研究会員がツッコミを入れたりするときもあります。(^^;; しかしながら、お世辞抜きに、これほどJ-SOXのシステム構築に真剣に取り組んでおられる方は見たことがありません。ひとつひとつのシステムを、常に監査法人さんと議論をしながら構築しておられますので、かなり内部統制監査への対応度も高いものと思います。中堅上場企業の内部統制対応へ向けて試行錯誤する現場の様子を、ホンネで語る実務担当者のお話は、たいへん価値があるのではないかと思います。くわしくはこちらをどうぞ・・・

日本版SOX法直前対策「中堅企業のための内部統制」(1)

2 関西の皆様へ

2月13日(水曜日)、天満橋OMMビルにおきまして、私と中川勘太弁護士によります「コンプライアンス経営のための内部統制とJ-SOXの実務上の諸問題」なる講演を開催いたします。(第一法規、IPO企業統治システム研究会の共催)

中川弁護士は昨年3月まで、近畿財務局にて金融検査官をされていて、IPO研究会では金融商品取引業者の法令遵守態勢、リスク管理態勢構築の仕事をご一緒させていただいておりました。やはり金融検査の現場で真剣勝負をされていた方の事業リスクの捉え方やヒヤリングの手法など、非常に参考になるところが多いです。こちらも東京の雑賀さんの講演と同じく、主として「中堅上場企業の内部統制」を念頭に置いておりますが、中川弁護士の「プロセスチェックの視点」を会社法上の内部統制構築(整備と運用)に採り入れ、財務報告に係る内部統制の体制作りにも最大限生かして行こう・・・というのがメインテーマであります。もちろん、金融機関だけでなく、一般事業会社にも参考となるセミナーです。(監査人による「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」や、監査役協会の「内部統制システムに係る監査の実施基準」への対応にも配慮した内容にする予定であります)ご興味がありましたら、ご参加のほど、よろしくお願いいたします。くわしくはこちらをどうぞ・・・・

コンプライアンス経営のための内部統制とJ-SOXの実務上の諸問題

こういった講演が、内部統制構築実務に行き詰まっていらっしゃる方々へ、なにかのヒントになれば幸いです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年1月18日 (金)

インサイダー取引に対する「課徴金制度」の効用

(18日午前 追記 辰のお年ごさんより、2点ほどご指摘いただいております。また、igi先生からも適用条文に関するご意見をいただいております。貴重なご意見ですので、併せてお読みください。)

インサイダー取引に関するニュースは最近ひんぱんに飛び交っておりますが、やはり「NHK報道局の記者・ディレクターの方々による取引疑惑」となりますと、どこも一面トップで取り扱うニュースとなってしまいます。(たとえば日経ニュースなど。)以前、家族を不幸にするインサイダー取引なるエントリーをアップいたしましたが、家族だけでなく、会社も不幸にするのがインサイダー取引でありまして、先のエントリーでも申し上げましたとおり、コンプライアンス経営のために役員さんだけでなく、役職員でのセミナー受講をお勧めしたいのが、このインサイダー防止体制の整備であります。(東京や大阪の大手法律事務所は、どこも詳しい専門家の先生方がいらっしゃると思います)

磯崎さん(isologue)も、このたびのNHK記者さんの疑惑に関する要件該当性について疑問を呈しておられますし、また、葉玉先生(会社法であそぼ)も年初のエントリーにおきまして、今年の企業法務トレンドのひとつとして「金商法における課徴金制度の強化」(あとの二つは株券電子化とアクティビスト対策における敵対的買収防衛策、とのこと。)を掲げておられますので、おそらく内部者取引への対応は上場企業における喫緊の課題であることは間違いないと思われます。今回のNHK記者さん方のインサイダー取引で問題となりそうなのが、磯崎さんもご指摘のとおり「会社関係者がその職務に関して知ったとき」に該当するかどうか、といった要件該当性の問題(追記 ただしここでは重要事実に関する情報を入手した報道関係者が問題とされておりますので、正確には「情報受領者による不正な取引」として166条3項の前段もしくは後段の要件該当性が問題となりそうです。辰のお年ごさんと、igi先生のご指摘です。ただ当該情報取得者が「職務に関して知った」かどうか、という論点は166条1項の事案とほぼ同じだと思料されます。)と、もうひとつ、行政処分たる「課徴金制度」の対象事案であることと思われます。ちょっとややこしいのですが、金融商品取引法175条(会社関係者に対する禁止行為等に違反した者に対する課徴金納付命令)の第1項が、同法166条1項または3項を引用しておりますので、要するに「刑事罰たるインサイダー取引の違反行為と同じ要件によって、金融庁は課徴金納付命令を出すことができる」というものであります。

(会社関係者に対する禁止行為等に違反した者に対する課徴金納付命令
第175条  

第166条第1項又は第3項の規定に違反して、自己の計算において同条第1項に規定する売買等をした者があるときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、その者に対し、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。
一  第166条第1項又は第3項の規定に違反して、自己の計算において有価証券の売付け等(同条第一項に規定する業務等に関する重要事実の公表がされた日前6月以内に行われたものに限る。以下この号において同じ。)をした場合 次のイに掲げる額から次のロに掲げる額を控除した額
イ 当該有価証券の売付け等について当該有価証券の売付け等をした価格にその数量を乗じて得た額
ロ 当該有価証券の売付け等について業務等に関する重要事実の公表がされた後における価格に当該有価証券の売付け等の数量を乗じて得た額

ちなみに、166条1項は、以下のとおりです。

(会社関係者の禁止行為)
第166条  次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第五号から第八号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引(以下この条において「売買等」という。)をしてはならない。当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする。
一  当該上場会社等(当該上場会社等の親会社及び子会社を含む。以下この項において同じ。)の役員(会計参与が法人であるときは、その社員)、代理人、使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。) その者の職務に関し知つたとき。

また、166条3項は以下のとおりであります。(辰のお年ごさん、igi先生のご意見などからみて、この3項後段が適用されるようですね。 記者は「情報受領者」ですので。ただ前段がストレートに適用されるかどうか、となりますと情報伝達の相手方をかなり広く解釈することとなり、たとえ放送局であっても、インサイダー取引とそうでない取引の境界線を引きにくくなるために妥当とはいえないように思います。たいへん勉強になりました。)

3 会社関係者(第1項後段に規定する者を含む。以下この項において同じ。)から当該会社関係者が第1項各号に定めるところにより知つた同項に規定する業務等に関する重要事実の伝達を受けた者(同項各号に掲げる者であつて、当該各号に定めるところにより当該業務等に関する重要事実を知つたものを除く。)又は職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をしてはならない。

刑事罰は「インサイダー取引は悪いことだ。悪いことをやった奴は道義的非難は当然だし、制裁を加える必要がある」というものですが、課徴金納付命令は刑事処分ではなく、行政処分ですから、行政目的達成のために課されるわけであります。つまり、「ズルをして儲けた奴のやり得は認められないから、その利益は返してもらう」という制度であります。(そのために、不当な利得をいくらと認定するのか、といった規則が定められております)したがいまして、原則として、そこには道義的非難とか、制裁という意味は基本的にはございません。(いまのところ。ただし、今年あたり「制裁的意味合い」のある課徴金制度を認めた金融商品取引法の改正案が国会で成立する予定であることは、前に述べたとおりであります。またすでに制裁的な意味合いのある課徴金制度は、金融庁管轄でも「改正公認会計士法」によって導入されております。)もちろん、インサイダー取引の刑事罰に関する構成要件(金商法166条)をそのまま課徴金制度(同法175条)でも引用しているわけですので、証券取引等監視委員会のほうで「この記者さんたちは、何度も繰り返してやっている」とか「そもそも報道機関という、もっとも規律を守るべき人たちがやっている」ということを重くみて「社会的に大きな非難に値するので、制裁を加えるべきである」との判断に至った場合には、金融庁への課徴金納付の勧告を飛び越えて、「しかるべき措置」を促すことになるわけであります。(刑事罰適用のための厳格な証拠が必要となることは言うまでもありません)

いずれにしましても、この記者さん方は、ご自身が閲覧できる「ニュース原稿専用端末」から、重要事実の公表直前に、インサイダー情報を入手したわけでありますので、刑事罰であっても、課徴金納付命令であっても、この方々が適用要件たる「(重要事実を)その者の職務に関して知った会社関係者」に該当するのかどうか、といったあたりが問題となるところであります。自分たちが取材してきた未公表のニュースの内容から自己の計算において株取引を行った、ということでしたら、当然言語道断のインサイダー取引でありますが、今回はどうもそうではないようでして、いわば報道部のなかで飛び交っているニュースの原稿に触れてしまった方々が、この会社関係者が「その職務に関して知った」のかどうか、という論点であります。実はこの「その者の職務に関し知ったとき」なる条文の解釈は、「職務行為自体により知った場合のほか、職務と密接に関連する行為により知った場合を含むが、その者の職務が、当該重要事実を知りうるようなものでなければならない」と狭く捉える見解から、「その職務の実行に関して知る必要のある情報または知る立場にある情報を知った場合」と、比較的広く捉える見解まで、いくつかの諸説があるようでして、私の知るかぎりではまだリーディングケースとなるような判例はないものと思われます。したがいまして、誰かがしゃべっているのを、たまたま聞いてしまった職員の人であれば、いずれの見解でもインサイダー取引の要件には該当しないでしょうが、今回のNHK報道局の記者さん方においては、ニュース原稿を専用端末から入手できる立場にあったということですから、「職務に関して知った」というのを広く解釈する立場からすれば、かなり微妙ではないかと思われます。

そして、この「かなり微妙ではないか」というのが、課徴金制度のミソであります。課徴金は行政処分ですから、刑事罰における「罪刑法定主義」が厳密には採用されないわけで、証券取引等監視委員会も、機動的、迅速的に対応することが可能であります。不服申立制度として規定されている「課徴金納付に関する審判制度」におきましても、厳格な証拠ルールは適用されません。また、課徴金納付命令を受ける側も、両罰規定の対象となる企業とは異なり(注1)、あくまでも個人本人の不当な利得を返還するだけですから、数万円から数十万円の世界であります。(ただし有価証券虚偽記載に対する課徴金等は別です)そんな数十万円のために、弁護士を頼んで行政救済制度で争う、取消訴訟で争う、ということはおそらくされないんじゃないでしょうか。しかも課徴金納付命令に対して争うつもりでいたとすれば「あれ?争うの?だったらこっちだって刑事処分でやっちゃうかもよ?」みたいな威嚇効果もあるわけです。実際、これまでに平成17年改正の施行以来、課徴金納付命令が発出された件数は30件を超えておりますが、いままで一度も課徴金納付命令は違法だ、と争ったものはなく、違反事実を認める答弁書を提出して、頭をさげて金融庁から処分を受けているのが現状であります。。誰も課徴金納付命令を争う気配がないわけですから、証券取引等監視委員会としては、「これ幸い」と今後も「微妙な解釈問題」が存在するケースでは、とりあえず課徴金制度を活用して、前例を作っていって、きたるべき刑事事件(こちらは弁護士がつくケースで解釈問題は争われることになります)での有罪率を高める礎を築いているところではないかと推測いたします。昨年、コマツ社や大塚家具社において問題となりました「うっかりインサイダー」につきましても、本当に争う気持ちがあれば、いくつか法律上の問題点はあると思いますが、結局は違反事実を認める答弁で終了しております。

(注1)ここにいう「両罰規定」とは、刑事罰が個人に課される場合のことを述べております。課徴金制度につきましては両罰規定はありません。法人の役員が会社の計算において売買を行った場合には、その会社自身が課徴金納付命令の対象となります。(金融商品取引法第175条7項参照)

そもそも法律の趣旨では、インサイダー取引といいましても、課徴金納付命令だけであれば、制裁的意味はないということですが、それでも世間では「とんでもない悪いことをした」「会社も悪い」「インサイダー=刑務所」みたいなイメージが定着してしまっており、個人的な利得目的によるインサイダー取引が社内で発覚した場合でも、本日のNHKのように謝罪会見となってしまうわけであります。そこで、企業コンプライアンス的な発想からしますと、そもそもインサイダー取引によって社員に対して課徴金の調査が始まってしまうような事態そのものから隔絶できるシステムを社内に作るべきではないかと思います。(なお、証券取引等監視委員会による調査に対しては、証券会社も証券取引所も、みんな協力する体制であることを、認識されていたほうがよろしいかと思います)なお、今回のNHKの事例では、3人のうちおひとりが違反事実を否定されているとのことであります。まだ今回の件が課徴金調査で終わるのか、刑事問題に発展するのかは不明でありますが、とりあえず今後の対応に注目しております。

(18日午前 追記)

今朝の新聞報道によりますと、このNHKの記者(ディレクター)さん方は、全国の別々の部署から、約5000人の社員が閲覧できるニュース原稿にアクセスしていた、とのこと。このシステムの運営につきましては、正確迅速な報道のために不可欠なもののようでして、今後も運営を変更できるようなものではないようであります。ということは、社内で容易に防止システムを策定することは困難なのかもしれませんね。また、同じ会社の3人が全国から、何の意思の連絡もなくアクセスしていた、ということですから、これが事実だとすれば「まだほかにも何人も同じことをしていたのでは?」と疑われてもしかたないかもしれません。

| | コメント (9) | トラックバック (1)

2008年1月16日 (水)

「環境偽装」は激ヤバ(ご法度)ではないの?

(16日夜 追記あり)

昨年来、品質表示偽装問題に関するニュースが溢れておりましたので、私自身もかなり感覚がマヒしているところもあるかとは思いますが、さすがに今回の環境偽装は大きな問題に発展するのではないでしょうか。本日の新聞、ニュースを読んで、思わずゾッとしました。とりわけ日本製紙社の開示情報を読んで、古紙率乖離に及ぶ事実経過に「社内の常識と社外の常識」の大きなズレを感じたのは私だけでしょうか。。。もし「ズレ」がなかったとすれば悪意があったとしか言えないように思います。(注-ここにいう「悪意」とは、害意という意味ではなく、「後ろめたいことと知りつつ」という意味です)

重要な子会社(日本製紙株式会社)の製品に関する社内調査結果について

再生紙年賀状の古紙配合率、納入全社が偽る(日経ニュース)

日本製紙社の調査は今後も委員会を設けて徹底的に行うようでありますが、どこの大手製紙会社も、おそらく「構造型不祥事(経営トップが長年にわたって不正に関与していた不祥事)」に発展する可能性を孕んでいるのでは。私の感覚が間違っていなければ、日本製紙社も認めるとおり「環境偽装」として徹底的な原因究明と再発防止策の策定が不可欠だと思います。

今後、政府から「環境保護に協力して」と言われても、趣旨に賛同する国民に対しては、その気持ちを萎えさせてしまい、またあまり趣旨に賛同したくない国民に対しても、これを拒否する合理的な口実を与えてしまったわけでして、その罪は大きいと思います。(執務中のため、速報版ということで失礼いたします)

PS

当ブログは「ビジネス法務」ということでして、それ以外の話題のエントリーは(ブログが荒れるリスクもありますので(^^; )、極力控えるようにしているのですが、ひとつだけ。

裁判員制度導入で取材・報道指針公表(毎日新聞ニュース)

前から気になってはいたのですが、裁判員制度というのは、一般の方々が無作為抽出で選ばれるわけでして、このブログをご覧の皆様方も、おそらく選出される可能性があると思います。もし、先日の福岡の3人のお子さんが亡くなった交通事故刑事裁判で、裁判員に選ばれたらどうされますか?

ご承知のように、危険運転致死傷被告事件は裁判員制度の対象事件です。我々法律家は、世間からどのような非難を浴びようとも、刑事裁判に職業として関与しているわけですので、やむをえないものと心得ております。しかしこういった裁判の場合、国民の義務として関与されておられる一般の裁判員の方にはかなり厳しい現実が待ち構えているように思います。世間一般では「最低でも禁固20年」と言われているところに、「7年4月」(つまり実質的には5年で釈放)といった判決が出たとしますと、かなりヤバイんじゃないでしょうか。もし、裁判員が、個人的に「自分は危険運転致死罪が適用されると思う」とがんばってみても、職業裁判官が適用に反対して、結局合議で「7年4月」という結果に至った、とした場合、世間一般の見方は「なんで裁判員がたくさんついていながら7年4月なんだよ!」「いったい、誰が裁判員やったんや?!」みたいな非難が大量に浴びせられることは目に見えております。もちろん裁判員が誰であったかは秘密ですが、これだけの情報社会で、本当に秘密が守られるのかどうか、守秘義務を経験したことのない方々にとっては厳しい現実が待っているようにも思われます。

裁判員に対する予断排除のための取材ルールの確立も重要ではありますが、こういった重大事件(ましてや、世間の感覚と判決にズレが発生する場合)において裁判員をどう守るか、という視点も、できれば取材報道ルールのなかで検討していただきたいと思います。

(追記)

各社より適時開示情報が出され始めております。また、日本製紙社は早々と構造的不祥事であることをお認めになり、代表者退任にまで発展してしまったようです。しかし、読売ニュースにありますように、

「ものづくりメーカーとして品質を優先した結果、環境偽装と言われても仕方ない事態を招いた。」

なる答弁はおかしいのではないでしょうか。品質優先というのは「再生紙を利用したうえでの話」であって、再生紙を利用していないにもかかわらず、さも再生紙を利用して製造したかのようなものを作っても、なんら「品質優先」ではなく、むしろ「品質偽装」です。つまり品質偽装=環境偽装なる図式です。他の4社は今後どのような対応をされるのでしょうか。

公正取引委員会が景表法違反の疑いで調査を開始する方針だそうですが、どの部分でひっかかる可能性があるのか、また別の機会に検討してみたいと思います。

| | コメント (16) | トラックバック (1)

2008年1月15日 (火)

ディスクロージャー制度としての確認書制度の位置づけ(その1)

ISO審査の厳格化と内部統制報告制度のエントリーには、たくさんのコメントをいただきましてありがとうございます。私のエントリーよりも、分量の多いコメントが多いようでして、たいへん勉強になります。(なるほど、たしかに内部統制監査人によって、PDCAサイクルの有効性評価に関する検証も実際には行われるというのが実施基準なんですね。)ともさんや機野さんにもご異論をいただいておりますが、私の意見につきましては、2006年5月の「内部統制はなぜわかりにくいのか」あたりから疑問をもっているところでありまして、せっかく内部統制報告制度と確認書の法定化が同時に施行されるわけですから、もうひとつの開示制度の改正に関わる四半期報告制度も含めて、制度間の役割といいますか、位置づけをはっきりさせたほうがいいのではないか・・・といったところに由来しております。なお、ノリスケさん(失礼しました・・・)ノリタケさん(以前コメント頂戴したnoritakeさんとは別の方でしょうか?)は、内部統制システムを開示することは、経営者に本気になってもらうためには重要である・・・とのご意見のようでありますが、(企業実務において、そういった理由も大事かもしれませんが)それはむしろ「確認書制度」で担うべき問題ではないか、というのが私の意見でありまして、私の真意とも少し異なるものであります。

昨年12月4日にご紹介いたしました「総合解説 内部統制報告制度~法令・基準等の要点とQ&A」の立案担当官の方々の解説(もちろん、解説内容は金融庁の見解ではなく、執筆者の方の個人的意見ではありますが)のなかで、ディスクロージャー制度の四つ目の要素としてコーポレートガバナンスを掲げておられ(これまでの三つの要素は、ご承知のとおり開示、会計、監査であり、これらの制度が国際基準並みに充実してきたことから、ガバナンス報告書や事業リスクの注記など、新たな情報開示事由を増やしてきた、とのこと)、この4つめの要素と内部統制システムとの関係に関する解説が14ページ以降において、若干ではありますが整理されております。もちろん、株主が内部統制システム自体を評価する、というのが「到底無茶なこと」だと批判されたり、過度に企業へ負担を強いることになるのではないか、といったご意見ももっともではありますが、運用自体も内部統制システムの一環でありますから、せめて「PDCAの要点」くらいは情報として求めても大きな負担にはならないのではないか、と考えております。むしろ企業経営者が主体的に取り組んでいる姿勢くらいは見えたほうがいいのではないか、と。

このあたりは、おそらくディスクロージャー制度の要素とされるガバナンスと内部統制との関係、そして内部統制報告制度と有価証券報告書の非財務情報まで含めて確認書を提出する制度との関係などをどう考えるか、というあたりでも意見が変わってくるのかもしれません。このあたりの問題整理につきまして、どなたかまた持論がございましたら、どうかコメントをいただきたいと思いますし、私も次回にでも、このあたりを検討してみたいと思います。また、前回のエントリーでも少し書いておりますが、「内部統制と開示」の問題につきましては、金商法上の内部統制に限った話ではありませんので、会社法上の内部統制システムの開示、という問題についても併せて検討していきたいと思います。昨年あたりは、不祥事が発生した企業の「外部第三者委員会報告書」とか、決算開示が不適切だった企業に求められた「改善報告書」などにおいて、内部統制システムの改善策などがたくさん公表されましたので、参考にできるモデルもあるかもしれませんね。(ということで、つづく)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年1月13日 (日)

ISO審査厳格化と内部統制報告制度

Hendayo001 丸山満彦会計士のブログでも紹介されておりました記事ですが、日経新聞によりますと、IAF(国際認定機関フォーラム)は、統括しているISO認証の信頼性を高めるために、その審査を厳格化する方向で検討をしている、とのことであります。現状のISO認証制度だけでは「優良企業の目安にならない」と各国産業界より批判が出ているようで、形式審査だけでなく「顧客満足度」などの実効性を重視する審査内容にする予定、といった内容です。

私はISO審査自体については、あまり詳しくありませんが、ISO取得に関する数々の著書を世に出しておられる萩原睦幸氏の左記新刊書は、ISOコンサルを中心に200社ほどの企業経営支援をされてきた方からみた「日本の内部統制報告制度」の現状への印象を書き綴られたものでありまして、中身は平易な文章で、最後までおもしろく読めました。(「ここが変だよ 日本の内部統制」 萩原睦幸著日経BP社 1800円税別)

著者の言によりますと、現在の内部統制をめぐる状況は、PDCAを基本とするマネジメントシステムとして1990年代に国際規格であるISOがわが国の企業に初めて導入されたときと非常によく似ている、とのことであります。日本でも、だいたいISOが導入されて4~5年ほどは大ブームになったのでありますが、その後導入するだけで主体的に取り組む企業が少なく、ブームはあっという間に沈静化してしまった、とのこと。内部統制についても、そのうちISOと同じ道をたどるのでは・・・、と危惧しておられます。

ISO取得企業の優良性を十分評価できないような制度であるならば、その有効性を評価できる仕組みに変更していかねばならないわけでして、そのために「顧客満足度」など外部からの評価を実際に有効性評価のための判断基準として活用しよう、といった改正が検討されているわけですね。また、経済産業省も後押しする、とのことでありますが、企業不祥事が発生した場合には、審査機関がなんらかの対応策をとる、といったことも新聞記事には掲載されているようであります。

「顧客満足度」といいましても、おそらく客観的に判断できるような詳細なデータをもとに審査することになるものと思いますが、要するにISO取得にあたっては、外から見える判断基準を導入しようとするものでありまして、日本の内部統制(これは金商法だけでなく、会社法上のものも含む概念として)につきましても、やはり外からみて、第三者がなんらかの評価ができるような仕組みとすることが必要ではないでしょうか。もちろん、文書化やフローチャートなど、その内部統制システムの詳細の中身が「見える」というものではなく、ISO同様「PDCAを基本とするマネジメント」が中心となるわけですから、そのPDCAの流れが基本的にわかるような仕組みや運用があれば評価の対象となるように思います。昨日私が出席させていただきました、某雑誌の座談会におきましても、どなたかが「内部統制の整備といっても、自社で運用できなければ意味がない。したがって自社の現状(人的、物的資源)で運用することを前提として、システムの構築を考える必要がある」とのことでした。そうでないと、このPDCAプランに乗ってこないために、既存のシステムを活用したうえでの次年度のシステム改良点すらわからない、つまり企業が主体性をもって取り組むことができないわけであります。

私自身も、内部統制システムの構築の有効性については外部第三者が判断することを前提とするならば、どこかで組織ぐるみで構築に関与している、もしくは構築に努力していることを評価できる制度運営が必要ではないか、と考えておりますが、この程度の内容であれば、事業報告や有価証券報告書のなかで記載するにしましても、それほど大きな負担となるわけでもないように思いますが、いかがでしょうかね。

| | コメント (10) | トラックバック (0)

2008年1月10日 (木)

ビジネス法務の部屋からのインフォメーション

初めてコメントをいただきました法務太郎さんもおっしゃるとおり、連日の東証ルールについての話題でありますが、今度は無議決権株式の上場制度の整備だそうであります。非公開会社については、マザースと同様の審査基準により(株主構成など個別企業の実情に応じて)上場の可否を判断するとのこと。既上場会社についても、無議決権株式を追加上場できる制度を整えていく、とのことであります。一昨日のエントリーで触れました「上場企業への制裁金条項」の問題とか、この議決権種類株式の発行(上場)問題など、昨年3月に公表されました上場制度整備懇談会(東証)によります「上場制度整備懇談会中間報告」のなかで基本的な考え方が表明されておりますので、ご興味のあります方は、そちらをご参照ください。(今後のルール改定の方向性など、少し理解できるかもしれません)ちなみにIPO企業(新規株式公開準備企業)の経営に参加(社外監査役ですが)している関係から申しますと、エクイティファイナンスのあり方は、オーナー経営者が内部統制などまったく関係なしに、グイグイ会社を引っ張ってきて、そのまま大量に株式を保有している場合と、VCの資本参加、経営参加を繰り返しながらガバナンスを充実させて、やっとたどりついてきた場合などでまったく選択肢(利益状況)が異なってきるわけですから、こういった選択肢が増えることにつきましては賛成であります。ただ、社債についても社債権者集会の決議に裁判所の認可が必要だったり、社債権者のために財務上の特約(財務制限条項)の履行を管理する等、(本来、契約関係は存在しないけれども法律で定められた)特別な忠実義務を負っているような社債管理者が規定されているわけですから、こういった社債に近い株式の保有者(モノ言わぬ株主)の立場や利益をどうやって保護していくのか、そのあたりが気になるところであります。

(追記)1月10日、ロースクールの授業で、ちょうどこの「社債管理者」の法律関係について勉強しましたが、なかなかおもしろいです。発行者や社債権者との関係で社債管理者の利害相反状態が生じるケースをいろいろと検討してみると、信託法の考え方に近いものがあります。(追記おわり)

※※※※※※※

さて、当ブログからのインフォメーションをいくつか、させていただきます。まずひとつめは、コンピュータ屋さんや、まるちゃんこと丸山満彦先生も、ご自身のブログで触れていらっしゃいますように、日本内部統制研究学会のHPが公開されておりますので、お知らせいたします。とりわけ、1月21日月曜日に、研究学会発足記念のシンポジウムが開催されます。テーマは「内部統制と企業不正」ということでして、渡辺喜美大臣はじめ、著名な方々の講演、座談会がてんこ盛りですので、お時間がございましたら、上記研究学会のHPよりお申し込みください。ちなみに、私も東京九段会館に参る予定にしております。(シンポジウムの前に理事会が開催されます。)ので、ブログをご覧の皆様で、私がウロウロしているのを発見されましたら、どうかお気軽にお声をかけてやってください(笑)

そしてふたつめですが、すでにニュースでご存知の方もいらっしゃるかとは思いますが、本日、日弁連、大阪弁護士会とも、会長選挙の告示日でして、投票日(2月8日)に向けて選挙戦が開始されました。今年はいずれの選挙もたいへんな盛り上がりです。法曹人口3000人問題は大きなヤマ場を迎えることになりそうです。私自身も日弁選挙、大弁選挙とも、ちょっとですが重い立場にありますので、このブログの更新頻度が1ヶ月ほど、下がることをご了承ください。(なお、1月末には大阪府知事選挙もありますね。)

そして三つめですが、このブログを長きにわたり、盛り上げてくださいました「監査役サポーター」さんでありますが、(最近、お越しにならないので、どうしておられるのか、と思っておりましたところ)、このたびめでたくご栄転されたようでして、監査まわりの職場から旅立たれたようであります。ご登場のころは、「管理人の一人二役ではないか?」とまで噂されましたが、実在の人物でいらっしゃいます(笑)「監査役サポーター」なる名称は返上される、とのことでして、これまでの数々のコメントに感謝いたしますと同時に、今後の監査役サポーターさんのますますのご発展を大阪より祈念いたしております。またお会いできることを楽しみにしております。

| | コメント (9) | トラックバック (0)

2008年1月 8日 (火)

東証自主ルールによる第三者割当増資規制の本気度

読売新聞ニュースだけが報じていた「東証 第三者割当増資を規制~個人株主保護へ~」といった記事でありますが、東京証券取引所は、上場企業が一定割合以上の新株(おそらく新株予約権付き社債なども含むものと思われますが)を第三者割当により発行して増資を図る場合には、株主総会による事前の決議を義務化する、といった自主ルールを策定するための検討に入った、とのことであります。2008年中にも策定予定とのこと。

会社法で発行が認められている種類株式について、上場会社では(株主保護のために)発行を制限するような規則はいままでにもありますが、第三者割当増資への総会同意となりますと、定款の変更が必要になりますよね。(宣言的決議、ということはないですよね  注→なお、大杉先生は定款変更の必要はなく、自主ルールとして要求される総会決議であればそのまま可能である、とのことであります。)ということは、一回の株主総会で済ませるとしても、特別決議が必要になるということなんでしょうか。資金繰りに窮しているような新興上場企業にとりましては、かなり大きな影響を与えられることになりそうであります。東証の上場制度総合整備プログラム2007のなかでも、この新株発行のあり方の検討といいますのは、いちおう「企業行動に関する制度の整備、企業行動規範の制定」のなかで課題として上がってはおりますが、

株式の発行について株主の同意を必要とするなどの規範やコーポレート・ガバナンス全般のあり方を中心に、有識者による検討を実施する。

とされているだけでして、あまり緊急課題とはされておりませんでした。そういったことで、私には少し意外でした。むしろ、こういった施策は第三者割当に関する開示を充実させる方向で検討するとか、いっそのこと「公開会社法」の制定によって総会の同意決議を要求する、といったあたりが予想されるところであります。ちなみに時価総額が上場基準に満たなくなってしまったケースとかでも、やはり総会同意を必要とするのだろうか、とか、「一定の割合以上の新株発行」の「一定割合」次第では、最近流行の30パーセント程度をTOBで取得して、あとは増資で子会社化する・・・といった手法にも影響が出るのではないか、などいろいろと疑問が湧いてくる記事であります。

ただ、昨年の1月初めにも、上場ルールの検討に関する記事(上場企業への制裁金導入の件)が朝日新聞、西日本新聞などに掲載されておりましたので(たしか一年前にも、まったく根拠規定のない「制裁金」など、本当に東証が賦課することができるのだろうか・・・と思っておりましたが)、ひょっとすると今回も策定されることなく、単に検討だけで終わってしまう可能性もあったりするかもしれません。今後注目しておきたいと思います。

| | コメント (10) | トラックバック (0)

2008年1月 7日 (月)

法令遵守体制を担保するものとは?

新年のご挨拶のコメントのなかで、tetuさんより「コンプライアンス」の訳語統一に関するご要望がありました(tetuさん、今年もよろしくお願いいたします)tetuさん曰く、

・・(略)それと、お願いですが、コンプライアンスの訳語統一を図っていただきたいとずっと思っています。最近というか一部にコンプライアンスの定義をどんどん広げる考えが強まっています。理念的には同意できるところもあるのですが、理想論と現実のギャップ、それにコンプラの体制づくりの基礎となる“背骨”を考える上で混乱のもとのようにも感じています。

うーーん、これはたいへん「耳の痛い」ご要望です。たしかに「コンプライアンス」なる用語は、狭義においては「法令遵守(順守)」とされ、広義においては「CSR経営まで含めて、社会の要請に適合するような企業活動」とまで言われておりますし、私自身も、そのときどきに応じて狭義を指したり、もっと広い意味に使ったりしておりますね。たしか著名な商法学者の先生も、「使っている人たちによって定義が異なるので、まともな法律の議論ができないのではないか」と、ずいぶんと前からtetuさんと同様の意見をシンポジウムや講演で述べていらっしゃいますので、「コンプライアンス」なる言葉は、実際のところ「企業不祥事」を連想させる用語として、かなり情緒的に使われているところがあるようにも思います。(ちなみに、私のブログでも記事のタイトルに「コンプライアンス・・・」と付しますとアクセスが高くなる傾向が昔からあります。私の場合は、最近の傾向にしたがって、企業の社会的信用や評価を毀損するリスクを洗い出し、これを管理するための全社的対応という意味に使うケースが多いと思います。)

いずれにしましても、コンプライアンスを議論するのは「いかにして企業不祥事をなくすのか(少なくするのか)」といったところに目的があるわけですから、tetuさんのご指摘のとおり「理想論と現実のギャップ」を埋めるような、もっと具体的なレベルでの議論が必要であることは間違いないと思われます。法律を守っていれば企業の社会的評価が下がることはないのか、と言われれば、それは「法律さえ守っていれば何をしてもいい」といった企業行動が世間的な非難を浴びるケースをみても答えは一目瞭然であると思います。ですので、「シロかクロか」(合法か違法か)を専門家の立場から意見を述べるのは法律家の仕事かもしれませんが、「シロに近いグレーとかクロに近いグレー」の場合に、企業(もしくは企業グループ)は、どういった対応をとることが、もっとも企業価値を高めるかという点がコンプライアンス体制の要諦であり、これは法律専門家でけでなく、全社的なレベルでの意見の集約が必要だと思います。

一例にすぎませんが、議論の出発点になるのではないか、と思いますのが「取締役の法令遵守体制(態勢)は何によって担保されているのか?」といった問いに対する回答ではないでしょうか。企業によって体制の中身が異なることは当然でありますが、法令を遵守すべき体制を構築しなければならない、というのはどんなインセンティブによって取締役を動かすのでしょうか。もちろん究極的には取締役一人ひとりの「人格」や「道義的倫理観」によるものだとは思うのですが、株主からみて、そのような役員の内面的なところまで理解できるはずもなく、「形」を示していただかないと評価することは困難なわけです。わかりやすいところで言えば、会社法上の善管注意義務や忠実義務、利益供与禁止規定、その他法律による行為規範などの法律上の義務履行規定の存在でありますが、最近では改正消費生活用製品安全法(消安法)に代表されるような「報告制度」や「公表制度」、証券取引所ルールにあるような「開示の適正」、消費者や従業員による「内部告発」などなど、「法令を遵守しているかどうかはわからないけれども、企業として誠実な対応をとること自体が求められる」時代になりつつあるわけでして、こういった制度や世の中の動き自体も、やはり取締役を不祥事防止のために最善のリスク管理を図ることへ注意を向けさせる動機付けとなり、法令遵守体制を担保するものになってきたのではないかと思われます。したがいまして、行政庁への報告はどういった場合にすべきか、といったルールの策定、開示統制システムの策定、内部告発防止のための内部通報制度の実効性確保など、それぞれ内部統制システムを具体的に構築することが法令遵守体制の構築として意味を持つことになろうかと思われます。(あくまでも一例にすぎませんが)

そういえば、1月3日の日経朝刊トップ記事でイオンや森永乳業などが中心となって「食の安全のため」にバーコードで期限識別をはかるシステムを開発中である、とありましたし、また昨年12月9日の日経朝刊7面ではニチアス、東洋ゴム、栗本鉄工所など建材偽装3社のトップ辞任の原因がCSR調達による取引先からのクレームであることが報道されておりました。(しかも、建材偽装の場合、いずれも、主力製品ではなく、わずか売上割合でも数%しかないような製品に関する不祥事によって、主力製品の取引先から調達を拒絶されるおそれがある、とのことで、これは厳しい社会になったものだと思います。社内の常識と社外の常識とが食い違っている一例だと思います)こういった不祥事を防止するための「法令遵守体制」を担保するものとして、もはや取引先のCSR経営まで含まれることになってきているのが現状だと思います。なお、「コンプライアンス経営に関する理想と現実のギャップ」としましては、一昨年話題となりました電気製品安全法上のPSEマーク取得の問題とか、昨年の建築基準法改正に伴う建築確認の遅れへの企業の対応などをみておりまして、実際のところでは、ほとんど「法令遵守」への意識というものがないのではないか(どちらも法律が変わることのリスクが認識されなかったためか、「駆け込み申請」というものがほとんどなく、本当にヤバイ状況になってから社会的な騒動となったはずです)という問題もあろうかと思いますが、これはまた別の機会に検討してみたいと考えております。

| | コメント (6) | トラックバック (0)

2008年1月 5日 (土)

モリテックス社の総会決議取消判決(その2)

大発会でいきなり600円以上の下落相場となり、「本当に市場型間接金融への道は開けるのだろうか」と不安な気持ちになられた方も多かったのではないでしょうか。ともかく、金融・資本市場競争力強化プランは実行されるわけでして、今年はその具体的な施策が次々と打ち出されることは間違いなく、その結果として、少しずつでも貯蓄がリスクマネーへと動き出すことを期待しております。

金融商品取引法の世界におきましては、「株主の素人性」については「行為規制としてのプロ・アマ区分」とか「プロ向け市場の創設」「上場投資信託」など、市場の活性化と投資家保護を調和させるべき施策が現実化しつつありますが、会社法の世界ではこの「株主の素人性」をどう評価するのでしょうか。先月7日のエントリーにおきまして、「モリテックス社の総会決議取消判決」についての備忘録をアップしておりましたが、商事法務1820号(12月25日号)32ページ以下におきまして、その判決全文が掲載されており、やっと読むことができました。前のエントリーのなかで疑問に感じておりました「500円の商品券交付が利益供与禁止規定に反することと、それが決議取消という結果をもたらすこととの関係」につきましても、「利益供与に該当する」→「(利益供与によって議決権が行使されたことは)株主総会の決議にとってきわめて重大な影響」→「裁量棄却では済ますことはできない」→「決議自体が取り消される」といった流れとなるそうで、納得できた次第であります。

立派な判例評釈はまた、著名な法律学者や弁護士の方々によるもので勉強させていただくこととして、私が興味を持ちましたのは、「委任状を提出する際の株主の『合理的な意思解釈』の問題」であります。金融商品取引法の世界におきましては、「株主が素人であること」は有価証券を市場で発行する企業の「開示のあり方」や、取引の際の商品説明、そして投資ファンド自体の開示のあり方など、いわば「開示制度」を中心とした投資家保護政策のなかで意識しておりました。しかし、会社法規範のなかにおきましては、委任状獲得競争といった特殊な場面ではありますが、「素人株主がどういった意思で委任状の中身を認識し、提出するか」といったことを推察することで、総会で議決権を行使する一般株主を保護する必要性が出てくるわけですね。

(注)ただし、本判例は会社側提案の内容が未定、つまり議決権行使書面が一般株主の手元に届いていない時期に、株主側提案の委任状が集められた事例であることに留意する必要があります。議決権行使書面が招集通知とともに送付された後に委任状が集められた場合には、たとえ委任状勧誘規則どおりに賛否欄が記載されれいない場合でも、株主には議決権行使書面が手元にあるわけですから、そこから情報を入手することが可能であり、株主の合理的意思解釈においても本件とは異なる判断過程をたどることになりそうです。(参考 平成17年7月7日東京地裁判決 判例時報1915号150ページ、および江頭「株式会社法」315ページの注11。なお、この東京地裁平成17年判決と、今回の判決内容において、株主の合理的な意思を解釈するにあたり矛盾がないかどうか、検討を要するところではないかと思われます)

もちろん、500円の商品券(クオカード)を議決権行使株主に配布することが、会社法120条1項の禁止する「利益供与」に該当するかどうか、といった論点につきまして、判例が三つの判断基準を定立しているあたりも非常に興味深いのでありますが、やはり一番おもしろい論点は、この「株主提案権を行使する株主へ(株主提案に賛同する、もしくは白紙委任する旨の)委任状を提出する一般株主の合理的な意思を解釈する」という点ではないかと思います。実際に、上記判決理由のうちの多くは、この論点への判断に費やされております。そして、この判決を読めば読むほど、判決内容への疑問が湧いてくるわけでありまして、「今後同様の事案においても、同様の結論になるのだろうか」と、少し考えさせられるところであります。たとえば前回のエントリーにおきまして、定款で人数枠が制限されている取締役の選任議案につき、会社提案と株主提案が、それぞれ枠一杯に近い人数の候補者を挙げていれば、「一方に賛同することを明記した委任状は、他の一方の取締役選任を否決する、といった両立しない関係」に立つために、特別に相手方議案の賛否記載欄を設けなくても株主の意思を合理的に解釈できるのであるから、委任状としては無効とはならないと記載しましたが、(まだ取締役候補者についての会社側提案が出されないうちに集められた株主側提案賛同の委任状について)本当にそこまで一般株主の意思を合理的に解釈できるのかどうかは、少し疑問が残るのではないでしょうか。要するに、株主側提案に賛同する株主は、現経営陣による経営に不満を持っているのであって、たとえば現経営陣が一般株主の意向を代弁してくれるような社外取締役を数名候補者として挙げてくるのであれば、それにも明確に反対する意思が合理的に推察されるのでしょうか?これは現経営陣と大株主とが、プロキシーファイトにまで発展することが予想される場面でも、現経営陣が株主提案権を行使していない他の大株主(たとえば外国人機関投資家)の賛同を得やすくするためにも「ありえる話」ではないでしょうか。そういった状況のなかで、未だ会社側提案が出されていない段階での株主側へ役員選任議案賛同の委任状を提出することに、どれだけの(委任状を提出する一般株主の)合理的な意思解釈ができるか・・・というあたりは、かなり微妙な問題を含んでいるように思えます。

また、判決理由では、「たしかに委任状を提出する段階で、会社側提案内容が具体的に明らかにされていない点はあるにせよ、もし会社側が提案内容を明らかにした段階で、そちらの方に賛同するのであれば、株主はいつでも株主提案への賛同の意思を撤回することができるのであるから、一般株主に特別な不利益はない」とされています。しかし、これもすんなりと納得できる理由ではないように思われますが、いかがでしょうか。「株主の素人性」からすると、「会社側が提案をした時点で、そちらの提案に賛同したいと思ったら撤回することができる」と、理解している人はどれだけいるのでしょうか。むしろ無償で撤回することは委任契約違反になると考える人が多いのではないでしょうか。ましてや、提案権を行使する大株主からヒルトンホテルでディナーをごちそうになって、「やっぱり会社側の提案のほうがいいみたいだから撤回します」と言えば、後で委任契約違反として損害賠償を請求されるのでは?と考えるほうが「素人的発想」のような気もいたします。

会社側提案を待ってから、委任状勧誘を開始することの「不公平性」については、提案株主側の主張も当然のことだと思いますし、判決もその点について言及しておりますが、この「株主の合理的意思解釈」と「株主の素人性」をどう結びつけるのか、といった問題は、会社法の世界ではとても新鮮に映りました。たとえば「純粋な理性をもった株主像」が一般株主であると捉えれば、TOBの場面でも「純粋理性人」として振舞えることが期待できるのでありまして、だとすれば敵対的買収時においてTOBとは別に株主総会で一般株主の意思を問う必要はないはずであります。そこに「TOBによる二段階買収の心理的不安に怯える一般株主」を想定するからこそ、買収防衛策としての総会決議の意味を見出すことができるのではないでしょうか。同様に、今回の判決におきましても、委任状を提出する株主を「どのような属性をもった株主なのか」を想定するところで、判決理由も異なってくるのではないか・・・と、少し疑問を抱いた次第であります。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2008年1月 2日 (水)

謹賀新年

皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

Cimg0395_320_2 どういうわけか、2008年、私は「年男」ということになってしまいました。その記念ということで、年末年始を家族と一緒に京都高雄にあります旅館で過ごしてまいりました。写真のとおり、旅館の女将さんのご厚意で、近くにあります高雄西明寺で除夜の鐘をつかせていただきましたが、ずらっと近所の方々が後ろに並んでいらっしゃったので、かなり緊張していたかもしれません。(それにしても京都の山中は寒かったです。。。)「行く年くる年」は毎年テレビで見ておりましたが、自分が除夜の鐘をつく、というのは、まったく初めての経験でして、また新たな気持ちで新年を迎えるいい機会となりました。

元日は、朝から世界文化遺産である仁和寺(にんなじ)の広々とした中庭(下写真)を眺めながら、清清しい気持ちでお参りをしてきました。桜の名所ですから、4月ころには、こんなにのんびりと写真撮影などできないくらいの混雑なんでしょうね。寒いのさえ我慢すれば、「冬の京都」もまた、いいものです。諸事情ありまして、3日から仕事となりますが、わずかばかりの正月休みを堪能してまいりました。Cimg0418_320_2

| | コメント (7) | トラックバック (0)

« 2007年12月 | トップページ | 2008年2月 »