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2008年1月31日 (木)

ギョーザ食中毒事件と消費者行政新組織

このたびの中国産餃子の食中毒事件では、11人もの方が被害に逢われ、とりわけ兵庫県の方は未だに入院中とのことで、謹んでお見舞い申し上げます。今夜(30日)3時間半に及ぶJT社、生協さんの記者会見の要旨につきましては、産経新聞WEBにたいへん詳細な記録がアップされておりまして、(1)から(11)までとりあえず、全部読んでみました。記者の方々は、JT(もしくは子会社のジェイティフーズ社)が食中毒の事実を知りながら、なぜもっと早く公表しなかったのか、またJT側においては、中国製品の検査体制に問題はなかったのか、といった点を鋭く質問されておりまして、回答内容などからみますと、JT側も反省すべき点が多いように感じました。

ただ、記者会見におきまして、私のような素人がとても知りたい事実があるにもかかわらず、その点には(質問も回答も)触れられていないのは残念です。といいますのは、普段、生協さんなどを通じて、食中毒の疑いがJTさんに報告されてきた場合、もしくは保健所への被害者の申告があって、保健所からJTさんに問い合わせがあったような場合、JTさんはどのように対応しているのか、といった日常の(食中毒疑惑や商品クレームへの)対応であります。この産経WEBの記者会見要旨を読みますと、問題の天洋食品社(中国)の製品については、今回初めての食中毒事例であった、とのことでありますが、JTフーズ社は、業務として多くの加工食品を扱っているわけですから、大手スーパーや保健所等から、販売食品に関する食中毒事例の疑いは頻繁に報告されるものと思われます。そういった「日常の事件(クレーム?)への対応」と、今回の3件の被害事例への対応とでは、どこがどう違っていたのか、そのあたりがたいへん重要なところではないかと考えております。

冷静に考えてみますと、まず餃子を食べた人から、販売店もしくは保健所に報告があったとします。餃子を製造した会社としましては、まずその方の食中毒(らしき)症状が、餃子によるものなのか、それともほかにその方が食したものによるものか、わかりませんので、ともかく保健所もしくは自社で調査結果が出るまでは公表は差し控えるのが通常ではないかと思われます。その次に、同じ工場で製造された別商品ではありますが、これを食したとされる方の食中毒事件が保健所より伝えられたとします。さて、ここからが問題でありますが、一応、前者の結果が判明していない段階、つまり自社製品による食中毒かどうか判明していない段階で、後発の食中毒疑惑の事実発覚をもって、公表に踏み切るべきか、それとも、いずれの食中毒疑惑についても、詳細な原因は不明だが、消費者が餃子を食べたことによるものといった結果が二つそろってから公表すべきか、というところであります。無用な混乱を引き起こしてはいけない、との判断から、通常は後者を選択するのではないかと思われます。むしろ、この段階では、自社においても、その原因究明のための調査を積極的に行うことが重要でしょうから、今回の件が、普通の対応の場合以上に「公表しなければならなかった」要因はどこにあったのか、分析する必要があるのではないでしょうか。そもそも、千葉も兵庫もそれぞれ警察が動いていたわけですから、「事の重大性」の認識という意味では、JT社のリスク管理に問題があったようにも思えるのですが、そのあたりは実際のところ、どうだったんでしょうね。普通は保健所が動くところ、警察が動くというのはやはり今回の事件の特異性のような気もするのですが。

食の安全に関する信頼違背の事例は、内部告発によって発覚するのが最近の傾向でありますが、今回は本当に「偶然」だったようであります。千葉、兵庫それぞれの警察が、餃子の成分鑑定の結果について、たまたま同じ化学薬品工場に照会をかけたことによって、ふたつの事件がつながった、とのことであります。(朝日ニュース)もしこれが別々の工場に照会を出していたら、JT社や生協さんが自主的に公表に踏み切るまで被害が拡大していた可能性がありそうです。食品に限らず、消費者の生命、身体、財産に損害を及ぼしうる製品の安全確保のための企業の取り組みには残念ながら限界があると思いますし、今回のように、あるところに「情報が集約されること」で、はじめて迅速な対応が可能になる、ということを考えますと、最近福田首相が提唱されておられる「消費者行政新組織」の創設も、真剣に導入を検討したほうがよろしいのではないでしょうか。たしかに、経産省や農林省など、それぞれの省庁でも情報集約の組織体制は向上しているようでありますが、消費者にとって使いやすい制度を作るのであれば、やはり消費者行政は一本化して、そのノウハウを蓄積すべきではないでしょうか。

前記記者会見によれば、天洋食品社の製品は、餃子にかぎらず、たくさんの日本の企業が輸入しておられる、とのことですから、他の食品輸入業者や、販売業者自身のコンプライアンス経営の手腕が問われるところだと思います。

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コメント

現段階では原因不明の不可解な事件だと報道されているようです。たしかに食品加工工場の衛生管理を考えれば、いろいろ取り沙汰される中国製品と言えども故意でもなければ何故このような事にと思わざるを得ません。

ある企業の監査部門の責任者の方が不正・捏造を想定したモニタリングについて、「そこまでやるのか?!」と言う発言をされたのを聞いた事があります。これにはいささか驚きました。
実務を行なう方たちがそのような事をあまり念頭に置かずに執務しているのは普通だとしても、監査・監督を行ない、逸脱の発見・防止の任にある立場が「めったに起きない」をよりどころに高を括っている見識不足──失望しました。

「衛生管理されているはずの加工食品が実は何らかの不具合から安全ではない」と言うリスクを食品製造で考えていないはずはないと思いますが、どこかで高を括っていたのではないか──JTやそのグループ企業が輸入加工食品の安全基準をどのように考えていたのか──。
今後の報道により明らかになるのでしょうが、耐震偽装あたりから始まった一連の事故・事件を見ていると、監視監督側の「そこまで?!」と言う考え方が見え隠れしている気がします。
これまでの平穏・安全の実績から危機感が鈍る事はあると思いますが、安全を監視する立場までがリスクを「めったに起こらない」と言う理由で甘く見ているように思われてなりません。これは軽視、責任不自覚以外の何者でもないと思います。

ものすごく個人的、かつ卑近な事例を書きますが、先日免許の更新で安全講習のビデオを見ました。そこでは夜道の黒っぽい服の危険性を実験により実証していました。なるほどと思い、ビデオにあった対策の反射材を買って身につけるようにしました。実は私の場合、主に夜にウォーキングをしており、毎日5キロ以上歩くのが日課なのです。そんな私の感覚からすると、めったに起こらないから大丈夫と言うイロジカルは想定出来ません。
平和ボケの日本と言われたのはしばらく前ですが、今はリスク知らずの日本なのでしょうか。

投稿: 日下 雅貴 | 2008年1月31日 (木) 12時38分

日下さん、コメントありがとうございます。「絶対起こってはいけない」ことを条件とするリスク管理って、「発生確率を許容範囲にまで低減するための」リスク管理と違ってむずかしいですよね。金商法の内部統制と、企業不祥事における内部統制の差を感じる場面です。

私も個人的な話になりますが、私が社外監査役を務める外食企業も、天洋から輸入していた19社の公表と同時に、問題となりそうな製品を割り出して、即時店舗での使用禁止、取引先からの自主回収への全面協力を決定しております。この19社の顔ぶれからしますと、おそらく全国に天洋食品製の加工品が出回っていることは間違いないようですね。

投稿: toshi | 2008年1月31日 (木) 15時15分

■ESがあってこそのコンプライアンスだ
DMORIです。
毒入りギョーザについて、報道各社は予断による批判に気を遣いながらも、ほぼ内部「犯行」をゴールに仮説しての報道になっています。

労働時間の長さ、不満を持つ従業員の多さ、数年前にも同様の事件が発生していたことなど。
事実は、今後の当局の捜査を待たなければいけませんが、この事件に限らず、コンプライアンスは従業員満足(ES)があってこそ、初めて企業文化として定着するものである、ということです。

顧客満足(CS)だの、品質管理のISOだの、すべては働く人の意識の高さがなければ実現できない。経営陣がどれだけESに力を入れているかが大切です。

投稿: DMORI | 2008年2月 1日 (金) 08時56分

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