東証自主ルールによる第三者割当増資規制の本気度
読売新聞ニュースだけが報じていた「東証 第三者割当増資を規制~個人株主保護へ~」といった記事でありますが、東京証券取引所は、上場企業が一定割合以上の新株(おそらく新株予約権付き社債なども含むものと思われますが)を第三者割当により発行して増資を図る場合には、株主総会による事前の決議を義務化する、といった自主ルールを策定するための検討に入った、とのことであります。2008年中にも策定予定とのこと。
会社法で発行が認められている種類株式について、上場会社では(株主保護のために)発行を制限するような規則はいままでにもありますが、第三者割当増資への総会同意となりますと、定款の変更が必要になりますよね。(宣言的決議、ということはないですよね 注→なお、大杉先生は定款変更の必要はなく、自主ルールとして要求される総会決議であればそのまま可能である、とのことであります。)ということは、一回の株主総会で済ませるとしても、特別決議が必要になるということなんでしょうか。資金繰りに窮しているような新興上場企業にとりましては、かなり大きな影響を与えられることになりそうであります。東証の上場制度総合整備プログラム2007のなかでも、この新株発行のあり方の検討といいますのは、いちおう「企業行動に関する制度の整備、企業行動規範の制定」のなかで課題として上がってはおりますが、
株式の発行について株主の同意を必要とするなどの規範やコーポレート・ガバナンス全般のあり方を中心に、有識者による検討を実施する。
とされているだけでして、あまり緊急課題とはされておりませんでした。そういったことで、私には少し意外でした。むしろ、こういった施策は第三者割当に関する開示を充実させる方向で検討するとか、いっそのこと「公開会社法」の制定によって総会の同意決議を要求する、といったあたりが予想されるところであります。ちなみに時価総額が上場基準に満たなくなってしまったケースとかでも、やはり総会同意を必要とするのだろうか、とか、「一定の割合以上の新株発行」の「一定割合」次第では、最近流行の30パーセント程度をTOBで取得して、あとは増資で子会社化する・・・といった手法にも影響が出るのではないか、などいろいろと疑問が湧いてくる記事であります。
ただ、昨年の1月初めにも、上場ルールの検討に関する記事(上場企業への制裁金導入の件)が朝日新聞、西日本新聞などに掲載されておりましたので(たしか一年前にも、まったく根拠規定のない「制裁金」など、本当に東証が賦課することができるのだろうか・・・と思っておりましたが)、ひょっとすると今回も策定されることなく、単に検討だけで終わってしまう可能性もあったりするかもしれません。今後注目しておきたいと思います。
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コメント
銘柄を正確に覚えていませんが、モックとか特に私がこだわった何とかバックスとか、はたまた、北越製紙とかベスト電器とか直接・間接的な第三者割当増資は「資金使途の正当性」があれば、パンドラの箱だった感があるので、NYSE並みに20%以上の増資は総会決議、見たいなルールもありかな、という気もしないでもありません。
特に正体不明のカリブ海の投資家に割り当てるなんてのが流行ると余計に個人投資家でなくとも戸惑っちゃいます。
個人的にはライツプランを導入している会社は20%以上の増資は総会決議とかにしてほしいな。経営陣の「信頼できない」株主が大量に株を買おうとするときは1年近く掛けて「書類審査」をするくせに、自分が第三者割り当てを例えば、転換社債のような形で導入するときは2週間前程度の「サクッ」とした開示だけでOKなんてのがまかり通ると、既存株主からみて「信頼できない」第三者にいきなり割り当てられるのはアンフェアな気がします。
コンプライアンス経営、というより、ステークホルダーへのフレンドリー経営とでも言いましょうか? お客さん対応だとどの企業も、法令なんかより「相手がどう思うか」を真っ先に考えるのに、こういうことは法律さえ守ればいい、と考える風潮があるとすれば、本気で導入してほしいと思っちゃいます。
しかし、最近こうした突込みを入れると、余計「持ち合い」を助長するのかな、と感じ、だんだん嫌気も差してきます。
なんだか、読売にだけ「ささやいて」世論を見て、議論を進めるか否か様子見じゃないでしょうか?
投稿: katsu | 2008年1月 8日 (火) 02時33分
grande
あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。
ブログのほうでは新年最初のコメントになりますので、ご挨拶を最初に。
この新聞記事を眺めながら、上場すると資金調達の機動性が損なわれるというのも、なにか違和感があるなぁと感じておりました。
「上場時の公募増資により資金調達ができる」が「上場後は既存株主保護のために資金調達の機動性が制限される」という意味なのかなと漠然と考えております。
悪質な資金調達により既存株主が不利益を蒙っている事例がないこともない(曖昧)と思いますので、なにがしかの対策はあったほうがよいと思います。
「悪質な資金調達を繰り返す会社は上場廃止」と上場廃止基準に織り込めば自粛するのかな(やったもん勝ち?)とも考えましたが、真面目な会社の資金調達が阻害されないような「一定割合」の基準を定めることで対応するのが妥当な線なんでしょうね。
ところで、記事にあるような「既存株主の利益を損なった企業への罰金」ですと、罰金を介して会社財産が外部流出しますから、既存株主はダブルパンチのような印象を受けたのですがどうなんでしょう。
投稿: grande | 2008年1月 8日 (火) 03時09分
>katsuさん
コメントありがとうございます。読売新聞の記事では、この第三者割当て増資規制だけでなく、反社会勢力排除ルールだとか、別の少数株主保護に関するルールなども検討される、とありましたので、ひょっとすると、いろいろと提案が出されているうちのひとつにすぎないのかもしれません。(罰金のような制度もあったような。)ただ、株主総会にかける意味があるとしましても、株主への説明責任を尽くすことが議論の前提となるはずですから、取引所としましても、まずは開示制度の充実とか、特設市場へ移して注意喚起するとか、そっちのほうでも市場参加者を啓蒙するような方法をまず第一に考えていただきたいと思います。株主を育てる方法とでもいったらいいのでしょうかね。
>grandeさん
記事では「罰金」とありましたが、昨年の記事では「過怠金」とか「制裁金」といった名称も使われていましたね。(なお、証券業協会が金融機関に対して課す「過怠金」は、すでに利用されているものですから、これとは別であります)取引所が上場会社に金銭的ペナルティを課す、というのは少し違和感がありますし、自主ルールの適用方法としてそこまでできるのだろうか、といまでも少し疑問を持っておりますので、これもまだどうなるのか見当がつかないところです。ただ、金融庁は自主規制機関による自主ルールの積極的活用を推奨しておりますので、昨年とは少し違った流れが出てくるかもしれません。たとえばペナルティとは異なりますが、自主規制機関による事後調査の強化といったことも証券取引等監視委員会との関係で出てくるかもしれませんので、要注意だと思います。
投稿: toshi | 2008年1月 9日 (水) 02時25分
これについては、証券取引所自身が上場ルールとして確立しておくのが良いように感じます。
私として、思い出すのは日興(NPI)によるベルシステム24の第三者割当による株式引き受けです。ベル24のプレスリリースは次ですが、純資産額431億円のベル24が1042億円のNPIに対する第三者増資を行い、発行済株式数を倍以上にしました。
http://www.bell24.co.jp/company/pdf/rls_040720_2.pdf
上場会社でなくっても、株主には事前相談すると思うのです。一方、上場会社は、有利発効でなければ既存株主に不利益を与えないとして扱って良いのかと疑問を持ちます。何故なら、もの言わぬ消極的株主の側面があると思うからです。絶対NOではなく、上場の前提として株主の賛成を取り付けるべきであるとするのは、合理的と感じます。株式取引所は、一般投資家に対して安心して投資ができる市場を提供する義務があると思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年1月 9日 (水) 15時29分
初めて投稿します。山口先生のブログは私の関心ある分野の記事が盛り沢山でいつも勉強させていただいております。
ところで、東証のHPを見ますと、この件については東証の上場制度整備懇談会の会合(昨年11月16日)の席上、ある委員の方が「第三者割当で大量に株式を発行するときはコーポレート・ガバナンスという観点からの問題を整理すべき」という主旨の問題提起を行っているようで、総会の事前承認を要するかどうかは別としてもまったくありえない話ではないのではと思います。
また、上場会社に対する制裁金についても金融庁が12月21日に公表した「金融・資本市場競争力強化プラン」において取引所の自主規制機能の強化策の例として挙げられていました。
今春にも予想される議決権種類株式の上場制度の整備なども含めて取引所のルールはまだまだ大きく変わりそうですね。
投稿: 法務太郎 | 2008年1月 9日 (水) 21時07分
純資産額が上場基準に満たないというのは廃止基準の債務超過のことですか?
投稿: あじわい | 2008年1月11日 (金) 11時41分
>あじわいさん
ご指摘ありがとうございました。
「純資産額」→「時価総額」の誤りです。
夜中に更新しているものですから、ときどきこそっと修正したりしております。またお気づきの点ありましたらご指摘おねがいいたします。
投稿: toshi | 2008年1月11日 (金) 20時23分
>経営コンサルタントさん 法務太郎さん
コメントありがとうございました。パソコンを覗く時間が極端に少ないために、お返事がおくれました。
上場整備プログラムや懇談会中間報告書を復習して、今後の取引所自主ルールの方向性のようなものを考えてみました。おおよその見当はつくのですが、やはり「第三者割当への制限」となりますと、すこし違和感を覚えます。会社法が資金調達手段として「割当て自由原則」のもとに取締役の権限としているものを、公開会社全般に対して大きな制限をかけることができるのでしょうかね?会社法で認められている種類株式の制限とは、すこし制限の程度が違うように感じられまして、もしこういった自主ルールが認められるのであれば、ある意味「自主ルールの大きな一歩」になるような気がします。
投稿: toshi | 2008年1月12日 (土) 02時01分
はじめまして私は素人それもビギナーですが、 ここに東証が規制に乗り出したで有ろうと思われる企業の
ここ3年間の第三者割当増資推移をかいてみたいとおもいます、
平成18年3月29日64790株
発行価格 1株に付き68000円
平成18年10月5日9800株
発行価格平均61500円
平成19年5月10日60000株
発行価格13500円
それに今年1月15日12000株
発行価格2000円
それも大納会が終った後に業績下方修正の予告と同時にIRが出ました此れでは現株主も手の施しようがない
大発会から売り気配 これを黙視していては困ります
安心して株を持ていられません 配当も無配株は上場取りやめぐらいの強い規制が欲しいと思います、
投稿: 名無し | 2008年1月13日 (日) 02時44分
TOBの後、増資で子会社化する手法にも影響があるとのことですが、TOB後の増資は一定割合以下になるケースが多そうです。直感的には影響はないような気がします。
投稿: あじわい | 2008年1月20日 (日) 14時41分