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2008年1月 7日 (月)

法令遵守体制を担保するものとは?

新年のご挨拶のコメントのなかで、tetuさんより「コンプライアンス」の訳語統一に関するご要望がありました(tetuさん、今年もよろしくお願いいたします)tetuさん曰く、

・・(略)それと、お願いですが、コンプライアンスの訳語統一を図っていただきたいとずっと思っています。最近というか一部にコンプライアンスの定義をどんどん広げる考えが強まっています。理念的には同意できるところもあるのですが、理想論と現実のギャップ、それにコンプラの体制づくりの基礎となる“背骨”を考える上で混乱のもとのようにも感じています。

うーーん、これはたいへん「耳の痛い」ご要望です。たしかに「コンプライアンス」なる用語は、狭義においては「法令遵守(順守)」とされ、広義においては「CSR経営まで含めて、社会の要請に適合するような企業活動」とまで言われておりますし、私自身も、そのときどきに応じて狭義を指したり、もっと広い意味に使ったりしておりますね。たしか著名な商法学者の先生も、「使っている人たちによって定義が異なるので、まともな法律の議論ができないのではないか」と、ずいぶんと前からtetuさんと同様の意見をシンポジウムや講演で述べていらっしゃいますので、「コンプライアンス」なる言葉は、実際のところ「企業不祥事」を連想させる用語として、かなり情緒的に使われているところがあるようにも思います。(ちなみに、私のブログでも記事のタイトルに「コンプライアンス・・・」と付しますとアクセスが高くなる傾向が昔からあります。私の場合は、最近の傾向にしたがって、企業の社会的信用や評価を毀損するリスクを洗い出し、これを管理するための全社的対応という意味に使うケースが多いと思います。)

いずれにしましても、コンプライアンスを議論するのは「いかにして企業不祥事をなくすのか(少なくするのか)」といったところに目的があるわけですから、tetuさんのご指摘のとおり「理想論と現実のギャップ」を埋めるような、もっと具体的なレベルでの議論が必要であることは間違いないと思われます。法律を守っていれば企業の社会的評価が下がることはないのか、と言われれば、それは「法律さえ守っていれば何をしてもいい」といった企業行動が世間的な非難を浴びるケースをみても答えは一目瞭然であると思います。ですので、「シロかクロか」(合法か違法か)を専門家の立場から意見を述べるのは法律家の仕事かもしれませんが、「シロに近いグレーとかクロに近いグレー」の場合に、企業(もしくは企業グループ)は、どういった対応をとることが、もっとも企業価値を高めるかという点がコンプライアンス体制の要諦であり、これは法律専門家でけでなく、全社的なレベルでの意見の集約が必要だと思います。

一例にすぎませんが、議論の出発点になるのではないか、と思いますのが「取締役の法令遵守体制(態勢)は何によって担保されているのか?」といった問いに対する回答ではないでしょうか。企業によって体制の中身が異なることは当然でありますが、法令を遵守すべき体制を構築しなければならない、というのはどんなインセンティブによって取締役を動かすのでしょうか。もちろん究極的には取締役一人ひとりの「人格」や「道義的倫理観」によるものだとは思うのですが、株主からみて、そのような役員の内面的なところまで理解できるはずもなく、「形」を示していただかないと評価することは困難なわけです。わかりやすいところで言えば、会社法上の善管注意義務や忠実義務、利益供与禁止規定、その他法律による行為規範などの法律上の義務履行規定の存在でありますが、最近では改正消費生活用製品安全法(消安法)に代表されるような「報告制度」や「公表制度」、証券取引所ルールにあるような「開示の適正」、消費者や従業員による「内部告発」などなど、「法令を遵守しているかどうかはわからないけれども、企業として誠実な対応をとること自体が求められる」時代になりつつあるわけでして、こういった制度や世の中の動き自体も、やはり取締役を不祥事防止のために最善のリスク管理を図ることへ注意を向けさせる動機付けとなり、法令遵守体制を担保するものになってきたのではないかと思われます。したがいまして、行政庁への報告はどういった場合にすべきか、といったルールの策定、開示統制システムの策定、内部告発防止のための内部通報制度の実効性確保など、それぞれ内部統制システムを具体的に構築することが法令遵守体制の構築として意味を持つことになろうかと思われます。(あくまでも一例にすぎませんが)

そういえば、1月3日の日経朝刊トップ記事でイオンや森永乳業などが中心となって「食の安全のため」にバーコードで期限識別をはかるシステムを開発中である、とありましたし、また昨年12月9日の日経朝刊7面ではニチアス、東洋ゴム、栗本鉄工所など建材偽装3社のトップ辞任の原因がCSR調達による取引先からのクレームであることが報道されておりました。(しかも、建材偽装の場合、いずれも、主力製品ではなく、わずか売上割合でも数%しかないような製品に関する不祥事によって、主力製品の取引先から調達を拒絶されるおそれがある、とのことで、これは厳しい社会になったものだと思います。社内の常識と社外の常識とが食い違っている一例だと思います)こういった不祥事を防止するための「法令遵守体制」を担保するものとして、もはや取引先のCSR経営まで含まれることになってきているのが現状だと思います。なお、「コンプライアンス経営に関する理想と現実のギャップ」としましては、一昨年話題となりました電気製品安全法上のPSEマーク取得の問題とか、昨年の建築基準法改正に伴う建築確認の遅れへの企業の対応などをみておりまして、実際のところでは、ほとんど「法令遵守」への意識というものがないのではないか(どちらも法律が変わることのリスクが認識されなかったためか、「駆け込み申請」というものがほとんどなく、本当にヤバイ状況になってから社会的な騒動となったはずです)という問題もあろうかと思いますが、これはまた別の機会に検討してみたいと考えております。

1月 7, 2008 コンプライアンス経営はむずかしい |

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コメント

コンピュータ屋です。
新年おめでとうございます。

コンプライアンスの話、内部統制の目的のひとつとして関心は持っていました。そんな時、山口先生のブログで「認定コンプライアンス・オフィサー」の紹介をいただき、勉強も少しやりました。(おかげさまで、今回試験にも受かりました。)
コンプライアンスへの関心、どんどん拡大していっています。
コンプライアンス→CSR→サステナビリティー(継続可能性)へと。

「コンプライアンス」と言う言葉は、おっしゃられるようにいろんなところでいろんな意味合いで使われています。

私のような現場人間からしたら、
金融庁が言っている「法令等遵守態勢の確認・・・」
http://www.fsa.go.jp/news/18/ginkou/20061226-5/04.pdf
がわかりやすいですね。

どちらにしても今年一番の関心テーマです。
今後ともご教授願います。

予断ですが、紹介いただいていた内部統制研究学会の1/21のセミナー申し込むことができました。ご出席されておられればお顔を拝見できると期待しています。

投稿: コンピュータ屋 | 2008年1月 7日 (月) 10時21分

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い申し上げます。

「コンプライアンス」の定義ですが、コンピュータ屋さまが紹介されて
おられる「法令等遵守態勢」の、この「等」こそが問題なのです(笑)。

諸外国ではどうなっているのか知りませんが、
この国の役人はこの「等」を縦横無尽に使ってきてますから
(運用に柔軟性を持たせるという意味では一概にいけないとも
 いえないのですが)。
「等」にいわゆる「ソフトロー」がどこまで入るのかどうか、
それは解釈するひと、立場立場で変わってよいのかいけないのか…。

「法に反しなければ問題ない」てなことは法を作っている政治家自身が
言ってますからねえ。実業の世界の人間だけに「法を守っているだけで
いいのかお前ら」と云われても、いささか釈然としません。

もちろんここでの模範解答は「企業の危機を未然に防ぐための手立てと
して、コンプライアンス体制を整備し、社会規範、道徳を守る」
ということになるのでしょうが。


投稿: 機野 | 2008年1月 7日 (月) 15時43分

TOSHI先生始めコンピュータ屋様、機野様ありがとうございました。
疑問に感じましたのは、ビジネストレンドというだけなら、いかようにバラバラでも構わないと思いますが、法律に絡む拘束性を持つ概念だからです。皆様の回答で頭の中が整理されました。
ただ、法律を本当に遵守している企業がどのくらいあるのだろうか、という疑念は消えません。またメディアの人間は…といわれそうですが、厳格に法律を守ることはなかなか難しいと思うからです。私は守ってこなかったです。公私混同も着服も昔しました。遵法精神を身に染み付かせることですらエライことだと感じています。その一方でもしギシギシに守ったらこれは息が詰まるとも思います。ITがなければ良かったのですが、コンピューターは真面目ですからおかげでギシギシしかなくなってしまったように感じています。そんな気がする中で、多分に道徳律的な規律まで組織全体に浸透させることが本当にできるのだろうか、と思っています。また、景気が後退局面に入る中で、そんな余裕を持ち続けられるのだろうか、とも思います。
ここ半年ほど続いている現在進行形のケースを興味深く見ています。適格消費者団体・特定非営利活動法人 消費者支援機構関西とオリエントコーポレーションのやり取りです。コンプラとは何か、そこでの法律家の役割は何だろうか、法律家にコンプラはあるのだろうか、など当事者には申し訳ありませんが、気になることばかりです。これはネット上での公開を宣言したやり取りです。
フィナンシャル・タイムズの「2008年予測」で、「企業の社会的責任にさようなら?」という項目があります。「冷笑的なシニシズムの高波が今、企業重役たちに押し寄せている。企業は自分たちの『社会的責任』の課題を掲げているが、その基本姿勢はあまりにシニカルで、これがこのまま続けば2008年には企業生命の危機にもなりかねない。経営手法のブームにははやり廃れがあって、『企業の社会的責任(CSR)』は廃れつつある。CSR、CSRとどれだけ騒いでも、消費者は信用しなかったし、『社会的責任』というコンセプト自体、ビジネスリーダーを真剣にさせるだけの力のない薄っぺらいものだった。ということは、経営の世界の次のブームは何か。それはつまり、『持続可能性』だ。『CSR』と違って『持続可能性』には中身がある程度あって、商売上のポテンシャルもある。たとえば、炭素ガス排出量を抑えつつも金もうけにつながる技術革新は、追及する価値がある。そこで2008年の予言をひとつ。CSRコンサルタント会社はこぞって、『CSR』という表現を止めて、『持続可能性』という呼び名を使い始めるだろう」と書いています。
毎年、けっこう評判の記事なのですが、これはイギリスだけの話なんでしょうか。それともEUに広がっているのでしょうか。興味があります。
また、長くなり申し訳ありません。

投稿: tetu | 2008年1月 8日 (火) 01時02分

>コンピュータ屋さん
本年もよろしくお願いいたします。
(そうでした、そうでした。)
1月21日のシンポのご案内をエントリーでもさせていただこうかと思っておりました。私も参加いたしますので、ぜひお声をかけてください。

>機野さん
本年もよろしくお願いいたします。
「法令等」の「等」については、定款を指す場合もあれば、広くソフトローを含む場合もありますね。このあたりの曖昧さがあるので、概念としては広い意味での「リスク管理」の一種であると捉えざるをえないと思っております。

>tetuさん
ご意見ありがとうございます。
CSRについては米国型と欧州型とあって、欧州型の考え方はもともと本業主義だと認識しています。たぶん「持続的成長のためのCSR」と理解されていると思うのですが(すくなくとも、私はそう考えております)
年末に公開された資産除去債務の取扱いなど、環境思想をとりいれた会計コンバージェンスを日本が受け入れざるをえない現実などをみますと、私はまだまだCSRの考え方が日本では浸透すると思いますし、好き嫌いに関係なく、対応していかねばならないと考えております。
消費者関西とオリコですか・・・
あまりにも近いところでのお話ですが、さっそく勉強させていただきます。情報ありがとうございます。

投稿: toshi | 2008年1月 8日 (火) 11時49分

本年も先生のブログを教科書にさせていただこうと思っております。よろしくお願いいたします。
会社法、証券取引法その他法令の規制が非常に強くなって、これだけ重たいペナルティのリスクを背負って、意図的に法令違反を犯し家族を路頭に迷わすなんてことができる人は、正直相当に根性がある、だから、屋上屋を重ねるというか、チェックのチェックを重ねる、きりがない制度が作られるというようなことを考えながら、内部統制の限界として当初から認識されているように、結局は人の問題であって、トップや業務に携わる人間への信頼が全ての拠り所だし、本来最も防ぐべき故意や隠蔽などは組織の外観とは全く無関係のような気がします。また外観を整えても、その外観が本来の機能を果たしているかなど、外部からは全く窺う事はできません。
かく言う私は、社長の尻を叩いて整備にいそしんでおるわけですが、色々な意味で準備が遅々としてして進まず、正月早々愚痴っぽくなりました。
コンプラの定義は、実務では幅広にせざるを得ません。法令に違反していなくても(法令に違反しているつもりはなくても)、責められるときは責められますから。こんなことを言っているからすることが増えて仕方がありません。

投稿: 総務部長見習 | 2008年1月 8日 (火) 15時55分

>総務部長見習さん

今年もよろしくお願いします。私のブログは「問題提起型」なので、教科書になるかどうかはあまり自信がないのですが、論客の方々が優秀でいらっしゃるので、「落ち着きドコロ」を探るには役に立つのかもしれません。(笑)外観を整えても、その外観が本来の機能を果たしているかどうかなど、確かに外部からはなかなか評価できないところであります。実際、昨日発表されましたニチアスの報告書や、東洋ゴムの外部第三者報告書を読みましても、不祥事発生の経過も、その原因事実もはっきりとはわかっていないようです。そろそろひとつの方法として、不祥事調査の段階で内部通報(匿名通報)制度を機能させてみてはどうか、と思ったりしております。(おそらく会社側は嫌がると思いますが)本当に外部者が事実確認をするのであれば、会社側から提供される資料だけでなく、みずから積極的に不利益事実を推認できるような資料を求める姿勢というのもあってしかるべき、のように思います。公認不正検査士も、会社からの依頼があって不利益証拠を求めるわけですから、そういったことも考えてもいいのかな、と。

投稿: toshi | 2008年1月10日 (木) 01時03分

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