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2008年1月30日 (水)

大森課長の「市場行政のいま」を読む

昨年12月20日のエントリー「課徴金制度のあり方と内部統制整備の要点」にてご紹介いたしました「金融システムを考える」の著者、大森泰人氏(金融庁企画課長)の講演録(証券レビュー第48巻第1号)が、財団法人日本証券経済研究所のHPでご覧になれます。前記「金融システムを考える」はいまでも時々参考にさせていただいている本でありますが、この講演録はまったく内容的にこの本とは重複しておらず、今後の金融行政のあり方をあらためて鳥瞰するには最適ではないかと思います。大森課長のサブプライム問題への意見につきましても最後の「金融テクノロジーと常識」のなかでしっかり楽しめますし、このブログをごひいきにしてくださる方にとりましても、「銀証ファイアーウォールの見直し」「課徴金制度の拡充」「金融専門人材の育成と交流」「ルールとプリンシプル(最近流行の議論だそうであります)」あたりはかなり興味を惹く内容であります。

関連エントリーのなかで、また折に触れて大森氏のご意見につきましては参考にさせていただくつもりでありますが、私が一番おもしろかったのが「課徴金制度の拡充と規制に関するプリンシプルベースとの関係」についてであります。たとえばインサイダー取引の規制(事後規制)について、私のなかでは「課徴金制度の拡充=うっかりインサイダーの摘発」といったことが当然のことと考えておりましたが、どうもそんな単純な図式ではなく、このあたりは金融庁の方々でも、考え方が「一枚岩」ではないようであります。ルールベースを基準とする、といいますか、ルールベースを重視するということになりますと、たとえ企業が不正目的であろうと、「うっかり」であろうと、利益を獲得しているのであれば、それを吐き出させるために課徴金命令を発出するのが当然と考えられます。したがいまして昨年も何件かうっかりインサイダー(たとえば「重要事実」の要件該当性ありとされるもの)が摘発されてしまったわけですが、プリンシプルベースを基準としますと、そこで斟酌されるのは「常識」でありますので、「形式的にはルール違反であっても、プリンシプルに照らせば摘発するほどのことはない」という見解に至るケースが生じます。そして、上記インサイダーの件につきましては、大森課長さんによれば、ついうっかりと公表前に(違法性の意識なく)売ってしまうこともあるので、そういった場合には今後気をつけなさいと注意して済ますのが常識というものである、とされております。なるほど、同じ金融商品取引法の運用としましても、金融庁のなかにはいろいろな考え方の相違があることが理解できます。

しかし、この講演のなかで、大森さんも少しだけ触れておられますが、プリンシプルベースによる規制、つまり「常識を基本として、センスある運用を行う」ためには、そのセンスといいますか、規制における「常識」というものが、官、民において共有されていなければならないわけでして、そういった常識が共有されていない時期もしくは領域においては、やはり厳格なルールベースによる運用もやむをえない(つまり、事前規制によって細かく行為規範を設けざるをえない)のかもしれません。また、その中間として、自主規制機関による自主ルールによって「常識」の隙間を埋める必要も出てくるようにも思われます。(もしお時間がございましたら、上記論稿をご一読されてはいかがでしょうか。)

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