日本内部統制研究学会設立記念シンポ
1年半ぶりに小僧さんよりコメントをいただきました。王子・北越事件のころは、小僧さんのご登場で、当ブログも記録的なアクセスとなりましたので、ご記憶の方も多いかと存じます。あのときは、どちらの社長さんも画面いっぱいの「勇姿」でありましたが、現在はどちらも「低姿勢」を貫いていらっしゃるようでして、おまけに今日の中越パルプの社長さんのご発言で、業界全体の問題に発展しそうになっております。この事件の報道を最初に聞いたとき、かなりヤバイ事件ではないかと想像いたしましたが、私の予想以上に問題が深刻になってきそうな気配であります。また、続編アップいたしますので、よろしくお願いいたします。(以下、本論)
都心に3センチも雪が積もる・・・・・との天気予報でしたので、大阪から重装備で東京に出てきましたが・・・・・・ヘ('◇'、)/~フッテナイジャン♪
ということで、21日は午前中、東京九段会館にて日本内部統制研究学会の理事会に出席し、午後からは大ホールにて第一回公開シンポジウム「内部統制と企業不正」に参加させていただきました。10日間で申し込みを締め切らざるをえなかった、ということでしたが、本当に3階席まで満員の状況でありまして、(東京における)内部統制報告制度への関心の高さに改めて驚きました。終了後の理事による懇親会では、研究学会会長の川北先生や八田先生は、「1000人集まったことよりも、その1000人の方々が、シンポジウム終了まで、ほとんど途中でお帰りにならなかったことのほうがビックリした」とのことでした。私もそうでしたけど、法施行を目前に控えて、実務に影響力を持つパネリストの方々が何をおっしゃるのか、最後まで来場者みなさん必死でメモされていましたので、「途中で帰るに帰れない」(笑)のが実際のところだったと思います。金融庁の意見書(実施基準)、関係政省令、Q&A、会計士協会の監査実務指針、監査役協会の内部統制監査基準などが出揃いましたが、金融庁のメッセージと実務現場の状況とでは、温度差はかなり大きいはずであります。「経営者主体の内部統制システムの整備と運用」と、いままで抽象的には繰り返し言われてきたところでありますが、こういったシンポジウムがもうすこし具体的にその中身を考えるきっかけになればいいですね。
★ちなみに、「山口先生はどこにおられたのですか?」とメールをいただいておりますが、私は2階の「関係者席」(ずいぶん偉そうで恐縮ですが・・・)におりましたので、せっかく探していただいたにもかかわらず、たぶんわからなかったと思います。私の前に、よく会計や法律雑誌でお見かけする金融庁の方が座っておられました。終了後、懇親会のほうへ出席しておりましたので、あまりウロウロしておりませんでした。★
なお、シンポジウムの詳細につきましては、会計雑誌等でお読みいただくとしまして、とりあえず感想だけ申し上げますが、昨日のエントリーで私が述べていたところはけっして(現状の把握において)的外れではなかったようです。やはり日本における内部統制報告制度の施行にあたり、中小の上場企業と規模の大きな上場企業とで、内部統制システムの整備のレベル、有効性評価の範囲や手法、もしくは監査のレベルにおいて、差を設けるべきかどうか、という点は議論の対象になっておりました。私などは、単純に70%もの米国企業がSOX法の適用猶予を受けているわけであるので、日本でも同様の猶予措置があってしかるべきではないかと考えているのですが、三井秀範課長のお話では、アメリカと日本では、そもそもマーケットの入り口が違う、とのこと。アメリカは資本市場に依拠する中小企業の数が日本と比べて圧倒的に多く、間接金融に依拠する割合の多い日本とは、およそ土壌が異なるので、一概に比較はできないそうであります。そういったこともあり、日本の場合は、とりわけ厳しい上場審査に耐えて上場しているわけであるから、新興市場の中小規模の上場企業といえども、一般投資家の信頼にこたえるだけのガバナンス開示を要求することも可能である、そもそも投資家の信頼にこたえる必要があるという意味においては、大企業も中小の上場企業も同じである、とのことでありました。たしかに金融庁の課長さんのご意見としては説得的であり、限界もあろうかとは思いますが、金融庁Q&Aでは、いちおうそのあたりにも触れておられるのですから、もう少し突っ込んだところまで議論できないものでしょうか。いまのままでは、中小の上場企業の社長さんは、内部統制報告制度における経営者の役割を理解することなく、会計監査人に「非監査業務」までお願いすることになったり、よくわからないから外部委託に丸投げしようとされたり、すべてJ-SOX担当者まかせにするばかりであります。「なんだ、その程度だったら、俺にもできるやないか」といった気持ちを新興市場の経営者にもっていただけるような制度、言わば「経営者をその気にさせる制度作り」のためには、中小上場企業における構築レベルの緩和はぜひとも必要ではないでしょうか。「構築レベルの緩和」という言い方に語弊(もしくは誤り)があるのでしたら、簡易評価方法とか、簡易監査指針のようなものが作れないものか、と思っております。(ひょっとすると、今後監査法人レベルでの「申し合わせ」のようなものが、このあたりの基準について示されるかもしれませんね。あと、補完統制に関しても、同様のことが考えられます)
もし、仮に評価や監査において簡素化のレベルというものが指針として示すことができないとすれば、内部統制報告制度の「メリハリ」について、もうすこしわかりやすいように広報すべきではないかと思います。経営者、自己監査部門、モニタリング部門相互の役割分担のようなところであります。リスク評価、対象を絞った範囲での深度ある業務プロセスの評価をきちんとわけて、重要な虚偽表示につながる不正リスクを評価することは、とりあえず経営者でないと意味がない、といったあたりを強調していただければ、かなり金融庁の制度趣旨に合致するところまでは制度の枠組みが築かれるのではないでしょうか。
この内部統制研究学会のあり方について
立場上、詳細には触れませんが、内部統制報告制度につきましては、おそらく4月以降、予想もしていないような、いろんな問題が出てくるかもしれません。この研究学会としては実務をリードするための指針のようなものを迅速に適宜出していこうということが理事会で合意されました。また初夏のころに年次大会が予定されているようですので、制度がスタートして、少し経過したころに、タイムリーに提言を出せればいいかもしれません。どうしてもそれぞれの組織の立場上、意見がだせないところに機動的に動けるような団体になっていただければ、と思います。(また、個人的に少しだけ懸案事項でありましたが、日本監査役協会のお出しになっておられる財務報告内部統制に関する実施基準との整合性、といったことも、かなり研究学会としては配慮されているようですので、安心をいしました。)
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コメント
toshi先生
おつかれさまです。九段会館で先生に挨拶をと思っていたのですが、2Fにいらっしゃったのですね。お会いできずに残念でした。
>>
金融庁のメッセージと実務現場の状況とでは、温度差はかなり大きいはずであります。
>>
この部分は参加しまして、ひしひしと感じました。監査人の立場もわかる側の人間としては、どうしたものかと悩ましいところであります。
監査人側のファームポリシーに基づいた文書化をして欲しいという感覚もわからないではないんですよね。
藤沼先生が仰っていた「企業の不祥事に巻き込まれる監査人」というのが現実になってしまっている以上、鳥飼先生が仰っていた「自分たちが結果責任を負わないよう~~」という方向性にならざるを得ないところはあるのでしょうし。
とはいえ、内部統制監査の実務が醸成される前に既に保守的になっているというのも、なんとも。。。
三井課長が仰っていた「合理的な水準でディスクロージャー違反を防ぐ」という制度趣旨が周知・徹底されるのが先決なのかもしれません。(誤解は多いと思います。マスコミは不祥事が出たら叩くでしょうし。)
投稿: grande | 2008年1月22日 (火) 05時04分
おはようございます。
コンピュータ屋です。
昨日、私も九段会館でお話をお聞きしました。山口先生をお探しすることは無理でしたね。たいへんな活況でした。
お聞きしての感想です。少し極端ですが。
みなさんおっしゃっていること本論であり、従来からのお話でした。お話を聞いて、では現場でのJSOX対応にどう生かすことができるのか、今更どうしようもないのでは。(極論です)
残り1年の中、経営者と監査人さん、お互いにうまく調整し、クリアするしか手はないと思います。実施基準を少し緩和されれば別の話ですか。
また、JSOX対応は日々おこなわれており、「実務をリードするための指針を出す」のは、次回の開催が初春に年次大会ぐらいでは無理ではないでしょうか。
「学会のあり方」などについて話が聞けなかったこと残念でした。(聞き漏らしたのかな)
そうは言っても内部統制の今後リーダーシップを期待しております。
余談ですが、「after jsox」「ポストJSOX」などと言っているブログがあると少しご批判のコメントが出ていました。少しびっくりでした。
投稿: コンピュータ屋 | 2008年1月22日 (火) 06時55分
初めてコメントさせていただきます。
昨日のシンポジウムに,小職も参加させていただきました。研究学会が今後どのような活動をしていくかについて,講演・パネル討論を通じてとくにお話がなく,少し物足りなく思って帰ったところでしたので,先生のブログで,今後あり方についての方針(たぶんほんの一部でしょが)をお教えいただけて,感謝しております。
川北会長の講演に触発されたわけでもないのですが,シンポジウム終了後,靖国神社に参拝いたしました。
私事で恐縮ですが,午後の会議で,小職が所属する会社の内部統制の状況について,15分程度の発表を行うことになっており,昨日のシンポジウムや日経MJ新聞の記事などを紹介しながら,話をしようかなと,現在,発表内容を見直しているところです。
これからも,時おり,発言させていただくことがあるかと思います。よろしくお願いします。
投稿: TENPOINT | 2008年1月22日 (火) 10時52分
grandeさん、コンピューター屋さん、TENPOINTさん、コメントありがとうございます。
シンポジウムの内容等、ポイントがgrandeさんのブログで掲載されておりますので、そちらもご参照ください。
シンポの途中で「ポストJ-SOXなる用語までブログに登場している・・・」との某司会者さんの発言には、私も思わずドキ!っとしてしまいました。
TENPOINTさん、また気軽に投稿してください。
ちなみに、川北会長の講演内容というのは、まだ九段会館が「軍人会館」と言われていた頃、戦地に向かう前に靖国神社に参拝をした折、その隣にある軍人会館で戦地に持っていく備品等をここで購入した、どういうわけか、負傷しながらも自分は戦地から帰還することができたが、「死を覚悟していた」その会館でまた自分が講演していることに感慨深いものがある・・・というものだったように記憶しております。(閲覧される方が、?と思われるのでは、と思いましたので、若干補足させていただきました。)今後ともよろしくお願いします。
投稿: toshi | 2008年1月22日 (火) 11時34分
一昨年に引き続き、落ち着いた議論が出来る場としてブログを汚させてもらうことになりますが、ひとつよろしく御願いします。
内部統制制度は、当社でも構築作業が進んでいるようです。素人から見ますと、日本企業は他の何よりも職務権限の明確化を徹底的にする事が肝じゃないかと感じています。今回の不祥事にしたって、社内で責任を取るべき人が特定できないんですよね。who had to decide the material formulation? アメリカ企業なら、それは○○部長とか一発で決まるでしょうが、伝統的な日本企業では職務権限なんか糞食らえでホウレンソウだ根回しだで責任を分散するので。
不祥事の社内処分も連帯責任でみんなで減給してお終いでは、やはり赤信号みんなで何とかという気分から抜けられないかと。残念ながら、当社はしばらく抜けられそうにありません。
投稿: 小僧 | 2008年1月22日 (火) 22時53分
はじめて投稿させていただきます。
途中休憩のときに、先生とご挨拶させていただいた某メーカーの法務担当者です。先生のブログのインフォメイションで参加できましたので、たいへん感謝しております。
金融庁課長さまのご意見、いくつかの雑誌等で拝読しておりましたが、実際にこのたびのシンポジウムで拝聴した甲斐がありました。ずいぶんと気が楽になりました。すでに第Ⅲフェーズに入り、運用評価テストの最中でありますが、それ以前に「メリハリ」の部分がまったく検討されておらず、また監査法人側もあまり指摘されないので、困惑ぎみです。今後の課題が理解できたように思います。
今後とも、有益な情報を期待しております。
投稿: sakuraba | 2008年1月23日 (水) 18時19分
今週の九段会館の内部統制のセミナーのメモの抜粋です・・・・・
鳥飼先生の話が気になりましたので、わたしも一言。
・法律家からみると、今の企業は自分で自分の首を絞めている
・会社法の内部統制構築の義務違反の判例はヤクルトなど極めて少ない
・法律は最低の基準を決めているだけ
・会社法の内部統制基本方針は、必ず見直すこと。これが大事
・J-SOXは、法的な思考が停止している
・COSOの基準を(まじめに)会社法に取り入れると大変なことになる
・急ぎすぎると、いいことはない
↓
・夕方、とっと高級な飲み屋へいくと壁に「喫茶去」と書かれた書を拝見する
<参考>
-「喫茶去」とは
①こだわるな
②まじめさも程々に
③まあ、お茶でも召し上がれ
今思うと、これも偶然ではないような気がする
急がず、あせらず、地に着いた取組みをとあらためて思いました
投稿: 技術屋の内部監査人 | 2008年1月23日 (水) 19時14分