品質偽装事件への詐欺罪適用の課題
長距離界の人気ランナーである福士加代子さんは、「大阪マラソン挑戦」を思い立ち、わずか1ヶ月の調整期間で42.195キロに臨んだそうであります。その絶大なる人気と瞬発力をもって、大阪の街中をかけめぐり、拍手喝采のなか「御堂筋のヒロイン」となったのでありますが、それも束の間30キロ付近から失速し、最後は脱水症状で何度も転倒しながら長居競技場のゴールにたどりつきました。
さて、大阪ではこの日、「現職で最年少の知事」という、もうひとりのヒーロー候補が誕生しました。彼も「200%ありえない」との前言をひるがえし、突然「大阪府知事挑戦」を思い立ち、わずか1ヶ月ほどの調整期間で「任期4年」という長丁場の府知事の仕事へ走り出しました。文字通り、その絶大なる人気と瞬発力をもって大阪をかけめぐることになるのでしょう。しかし、失速して何度も転倒した福士さんには、最後まで大きな声援が送られましたが、知事の失速、転倒には(これまでの経験からみて)大阪府民はきわめて冷酷であります。とりわけ府民の7割が居住する大阪市、堺市(いわゆる政令指定都市)と大阪府の関係は、失速、転倒のリスクが大きい問題が山積しておりますので、とりあえず私は冷静に今後の市と府の関係がどうなるのか、見守っていきたいと思っております。
>>>>>>>(以下、本題)
このたびの再生紙配合率偽装問題につきましては、このブログのコメント欄は、企業がコンプライアンス問題にどう立ち向かうか、といったご意見の「宝庫」となっております。(どうもありがとうございます)最初はこういった議論をどうまとめようか、と模索いたしましたが、閲覧されていらっしゃる方々の感想に任せるほうがよろしいのではないかと思い、あまり議論を集約する方向での私見は述べておりません。ただ、私と同業者の方々(たとえばkawailawさん、ともさん、辰のお年ごさんなど)は、みなさんマスコミが採り上げること以上に、「道義的に問題だとおっしゃるだけでなく、詐欺罪についても検討されるべきでは」といった法的責任論にも踏み込んだ見解を述べられております。また、小僧さんご自身も、このたびの問題に法的責任がどう課される可能性があるのだろうか、といったご関心をもっておられるようであります。そこで、品質偽装事件への詐欺罪適用といった論点につきまして、とりあえずその前にクリアにしておくべき問題に、すこしだけ触れておきたいと思います。
再生紙配合率偽装問題について、果たして刑事事件として問えるのかどうか、財産罪、不正競争防止法違反、独禁法関連等、いろいろ考えられるところでありますが、たとえば詐欺罪による立件(刑事事件として)といった可能性も(私も)検討の余地はあろうかと思います。契約によって決められた配合率に達していないにもかかわらず、さも達しているかのように「再生紙」なる表示をもって日本郵政公社や官公庁、民間会社に販売していた、といった場合、欺罔行為者(取引の相手方を直接欺いた人)が誰なのか、といった問題もあるかとは思いますが、最大の問題は、欺罔行為の相手方が本当に「騙されていたのか」というあたりではないでしょうか。薄々知りながら(つまり、配合率に問題があることに気づきながら)購入していた、ということになりますと、詐欺罪は成立しませんし、そのあたりを突っ込んだ場合、本当に相手方は今回の事情を知らなかったといえるのかどうか、そのあたりが新たな問題になってくるのではないか、と予想されます。(未遂ならともかく、既遂であれば「騙されながら金員を交付した」ことが必要になってきます)
もちろん、小僧さんのコメントによりますと、行政機関は知らなかった、ということでありまして、私もそのあたりを深くツッコミを入れるだけの情報もございません。しかしながら、この偽装は10年以上も続いているものであって、製紙業界の方々も、その間にいろんなところへ転職、転籍されているはずであります。派遣従業員や下請事業者も多数存在すると思われます。また「業界の定説」のようなものであった以上は、製紙業界だけで情報が管理されていたと考えるには少し疑義がありそうです。そうなりますと、この偽装問題に刑事手続を持ち込みますと、消費者と直接対面している取引先自身のコンプライアンス問題にも飛び火する可能性があるのではないでしょうか。以前、コンプライアンス経営はむずかしいシリーズにおきまして、取引先をかばうのも「隠蔽」の要因ではないかと書きました。マスコミで騒がれている範囲におきましては、kawailawさんがおっしゃるとおり、騒がれるだけで済めば御の字かもしれませんが、いざ詐欺罪の適否にまで発展するとなりますと、また違う側面での不祥事(隠蔽など)の問題が出てくるかもしれません。
たしかミートホープ社の刑事事件につきましても、当初は不正競争防止法違反と詐欺罪で立件する予定だったのですが、ミートホープ社の相手方が、異常に安い値段で購入していたことから、「表示に誤りがあることを知ってて購入したのではないか」といった疑念が出てきましたよね。そうしますと、今度は取引の相手方自身もまた消費者を裏切っていたことになってしまいますので、結局詐欺罪での立件をしないものと報道されておりました。(ただし、1月27日のニュースによりますと、ミートホープ社長は詐欺罪での立件もされた、とのことであります。)今回の再生紙問題も、これだけ製紙業界においては「常識」のように多くの社員の方々が配合率偽装を知っておられたわけですから、その取引先の(少なくとも)従業員レベルにおきましても、「それと知りつつ」購入していたような事情はなかったんでしょうか。もし刑事事件に発展するならば、製紙業界側の弁護士さん方も黙ってはいないはずでして、相手方直接担当者の認識を徹底的に立証することになるでしょう。そうなりますと、もし相手方が「古紙が少ないことを知りながら」購入していたとするならば、今度はその相手方が直接的に「消費者を騙していた」ことにつながるように思います。このあたりが詐欺罪立件のむずかしさであり、この再生紙問題だけでなく、品質偽装事件全般にわたって、詐欺罪を適用する際の前提として、「少しひっかかる」ところではないかと考えております。
今回の再生紙配合率偽装の事件が、今後どのような方向に向かうのか(収束するのか、新たな展開をみせるのか)は私にも不透明でありますが、こういった偽装事例に関しまして、実務として関与すべき「弁護士の姿勢」につきましては、ともさんはじめ、多くの方のご意見にたいへん感銘を受けた次第であります。(やはり「胆力」が必要ですね)
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コメント
再生紙配合率偽装問題については、色々と考えさせられますが、結局の所、被害者は誰であろうかと考えると分からなくなります。
刑事、行政、民事で、どうなるかを考えれば、刑事面はtoshiさんが書いておられるように相当困難と思いますし、行政面は差し控えますが、民事面でも損害賠償が成立困難と思うのです。誰が、いくらの損害を受けたのか、不思議な問題です。原料の古紙の割合の問題であって、製造・販売された製品の品質問題ではない。
社会的には、問題だと思います。しかし、社会的な問題は、犯人検挙として対応するのではなく、制度的な面を考えないと誤ってしまうと思います。
投稿: ある経営コンサルタント | 2008年1月28日 (月) 11時33分
業務の真っ最中ではありますが、経営コンサルトさんのご意見にどうしても答えなければと思いまして、急いで調査して書き込ませていただきます。
まず、刑法の詐欺罪の成立には欺もう行為、すなわち欺く行為が必要ですが、取引上の重要な事項に関して具体的に人を錯誤に陥れる方策が講じられ、それによって買主の購買意思の決定に影響を与えたような場合は欺もう行為があったというのが判例であり通説です。判例では、白椿というレッテルを貼った流動パラフィン油を、大島の椿油であると偽り代金の交付を受けた場合(大審院昭和10年11月9日判決)など多数あります。今回の事件を想起させますね。
また、誰が被害者かわからないという点ですが、例えば上記の大島椿油の例をとれば、それが椿油でないと知ったならば買わなかったであろうという事情があり、本物であると錯誤に陥いらせて金員を代金として交付させたならばその代金全額が詐欺による被害金であるというのが、刑法の一貫した解釈になっています。
他方、民法の詐欺の規定では、だまされて買い取ったという行為は取り消しうる行為となりますから、理論上、詐欺による売買の取消しを買主が行い、代金の返還請求をすることが可能です。
このような伝統的刑法・民法解釈によればー即断するのは慎まなければならないもののー今回の再生紙の問題は詐欺の成立の可能性のある行為であるということは避けられないと思います。それだけに、社会的な問題にとどまらず、私のいう「サイテ~」な話になってくると思います。
投稿: とも | 2008年1月28日 (月) 15時13分
初めて書き込みます。メーカで10年法務を勤めておりこのブログは大変参考にしておりますが、今回の事件で皆さんがずいぶん熱くなられていることに正直とまどいを覚えます。会社は社会正義を実現する器でないことは皆さんご承知のことと思いますし、経営に対して直接責任を負わない方々がここで「熱く」議論されても私のような一般社員からすると温度差を覚えます(で、「だからどうするの?」と問いたい)。もともとM&Aやアライアンスをばりばりやりたい私がここ3-4年は突然社内のあちこちから出てきた法律も英語も不自由なのに「思い」だけをもった内部監査の人たちが要求する規程、手順書、チェックツールを作り、通訳半分で海外監査につきあわされています。監査役や内部監査の方々が本当に会社を通じて社会正義を実現されたいなら自ら経営に携わってください。そして公正さと利益を見事両立させてください。そしたら社員は文句を言わず皆さんの後をついていきます。
投稿: 法務10年選手 | 2008年1月28日 (月) 22時37分
先週末に当社の社長から受けた「達示」への怒りから冷静を欠いて、ともさんのコメントの真意が読めなくなっていました。ともさん、失礼しました。今回の偽装発覚のきっかけとなった、内部告発者は今何を考えておられるだろうかと、思いをめぐらせました。さて、
>>toshiさん
大阪ではご同業の方の当選報道で目立ってないでしょうけれど、ミートホープの社長さんは、今日初公判だったようです。
以下 http://www.bnn-s.com/news/08/01/080128184735.html から引用です。
ーーーーここからーーーー
検察官は、不正競争防止法違反と詐欺の罪に問われた田中被告に対し、次のように起訴状を読み上げた。
「平成18年5月から平成19年6月にかけて、不正に利益を得る目的で苫小牧市の同社汐見工場において、331回にわたって製造・加工した豚、鳥、羊、鴨などの畜肉を加えたカット肉や挽き肉、計約138トンに牛肉のみを原料とする表記をし、取引先15カ所に発送。また、同時期に、北海道加ト吉その他2社に対して、同様に豚、鳥、羊、鴨などの畜肉を加え、さらに豚の血液製剤を使うなどして色を加えたカット肉や挽き肉を販売。代金として計約3,900万円を銀行口座に振り込ませ、詐取した。よって被告人を、平成19年11月14日付け起訴状で、不正競争防止法違反と詐欺の罪で起訴するものとする」
ーーーーここまでーーーー
再生紙偽装と事件の本質は全く一緒です。ちなみに、偽装再生紙にはそれっぽく見せるために、わざわざコストをかけて墨を混ぜています。
で、いろいろ大層なことを書いている割に、実は私の専らの興味は、これから当社がどうやって立ち直っていくかという事にあります。まずは今回の不始末を徹底的に反省し、ご迷惑をお掛けしたお客様の信頼を取り戻す手立てを尽くすことじゃなかと思いますが、件の達示には今期の利益を取り戻せというような指示が載っておりました。トップが今回の不正の根本原因を「行き過ぎた収益至上主義」ではなく「社員のコンプライアンス意識の欠如」と捉えている(またはすり替えている)証とみて、私は本気で会社存亡の危機を感じています。もはや国家権力からの強力なご指導を得る以外には目が覚めないのじゃないかと...刑事罰適用の可能性を想像しているのは、単なる自虐趣味とか義憤ではなかったりもします。ミートホープ、三菱自動車、拓銀と、最近立て続けに不祥事企業の経営者に関する裁判があり、どれも経営者に厳しいことになっていて興味深いです。
>>法務10年選手さん
会社の根幹を揺るがすような、あるいは取引先に重大な経営危機を起こすような大問題に直面しますと、私のようなグウダラ社員も少しは熱くなるようです。
投稿: 小僧 | 2008年1月29日 (火) 00時23分
小僧さん、ご指摘ありがとうございます。確認したところ、やはり以前の報道内容の引用にはまちがいなかったようですが、起訴内容には詐欺罪が含まれておりますので、エントリーを訂正させていただきました。
小僧さんのコメントを拝読しますと、やはり製紙会社自身の体質に大きな問題がある、とのこと。(何度も同じようなことを小僧さんにお聞きしていたようで失礼いたしました。)私は過去に3回、内部告発人の代理人をさせていただきましたが、そのうちの1回だけでありますが、たったひとりの社員の「熱意」が会社の根幹を揺るがすほどの体制変革を成し遂げました。その社員の方はもう会社には在籍しておりませんが、すくなくとも経営の透明性は格段に向上しています。今回のことがうやむやになるのではなく、せめて業界あげて収益活動と環境対応との関係について一定の指針を策定していただきたいと願っております。
>法務10年選手さん
はじめまして。いつもご覧いただき、ありがとうございます。
私は「会社は社会の公器である」と信じております。それは社会奉仕的なものではなく、持続的成長を遂げることによって、従業員や地域住民、取引先、株主など、多くの利害関係者の信頼のうえにしか成り立たないと思っております。このブログが「企業価値と法」について考えることをメインテーマにしておりますのも、持続的成長を遂げることができる企業がそれ相応の評価を受けるためには、コンプライアンスへの体制は不可欠ではないか、といった疑問からであります。
いま関西で研究会を開催しておりますが、そこに来られる実務担当者の方々のなかには、法務10年選手さんと同様の考え方の方もいらっしゃいますが、それは内部監査人や監査役との意思疎通が十分なされていない典型ではないかと思います。作業の意味を十分認識いただけない、ということであれば、内部監査人としても職務を果たしておられないのかもしれません。(ちなみに、内部監査人というのは、監査というよりも、本来は業務の効率性向上のための提言を行う人のことをさします)
「熱くなる」ことへの「温度差」というものにつきましては、たいへんおもしろい話がありますので、また別エントリーでアップしたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2008年1月29日 (火) 02時12分
小僧さまの感じておられる「絶望」に、
私も実業の世界に身を置くものとして全く言葉もありません。
そんなにそんなにアキマセンか…。
海外メーカー、輸入品との自由競争が働かない業界は
コンプライアンスの思想が根付かないということなのでしょうか。
昨今は「日本には圧力を掛けても時間のムダだ」という
ガイアツさえからも置いていかれる状況になっていると言われますが、
またここでガイアツを期待してしまうというのも
あまりにも哀しい話であります。
>内部監査人というのは、監査というよりも、本来は業務の効率性向上の
>ための提言を行う人
仰せのとおりでございます。必ずこの基本に立ち返らねばなりません。
法務10年選手さまのご不満は本当によく分かりますが、
どうぞ頑張ってくださいませ。
投稿: 機野 | 2008年1月29日 (火) 10時22分
このところ頻繁にコメントさせていただいており恐縮です。
小僧さん、私の真意が理解していただけたようでほっとしています。
法務10年選手さんのコメントは、私は正直、法務部員なのにこんなことをいう人がいるのかと怒るやらびっくりするやらしたのですが、冷静になってみると異議ある論点が含まれていると思うようになりました。
第一の「会社は社会正義を実現する器ではない」という点は、私もそのとおりであると思います。会社は金儲けをする道具です。しかし、TOSHI先生のいわれるとおり、会社は永続性のある存在であり、株主、従業員その他のステークホルダーがその存続と価値に大きな利害関係を有しています。そのために他の皆さんは「どうしたら、悪事をせず、また大きなリスクを拾うことなく永続的に商売ができ、成長できるか」ということを論じているのです。会社を通じて社会正義を実現するなんてこと、だれかいってましたっけ?
第二に「経営者でもないものがあれこれ論じてどうするの?」という意見ですが、命題が上記のようなものであり、自分が悪事や社会的に受け入れられないことに関与してしまうリスクが今の日本の会社に「ごろごろ」しているなら(実際、そういう状態でしょう、ちがいますか?)、この命題を論じるのに、経営者も従業員も関係ないと思います。経営に責任を持たない者であってもいつでも巻き込まれるし、巻き込まれないためできることがあるはずです。逆に、法務10年選手さんはどうするんですか、とお聞きしたいと思います。「あなたは経営者に盲従して生きていきますか?くくり人形ではないというならば、どうされますか?」
この問に関連して「経営者が本来すべきことを末端の我々に押し付けないで下さい」という意見があったことを思い出しました。法務10年選手さんのご意見がこの趣旨であるとすれば、これは検討に値します。経営者が率先してコンプラ経営に乗り出さなければ従業員はついてこないという点を端的に指摘していると思えるからです。この点については長くなるので書きませんが、久保利英明先生の「経営改革と法科の流れ」(商事法務)、「株式会社の原点」(日経BP社)がさまざまな論点にふれています。特に前者は過去の日本企業の不祥事と近時の「社長が知らない」不祥事までを簡潔に分析しております。「経営者自ら直接関与した不祥事」(再生紙問題はこのパターン)から「モラルの低い従業員が起こした不祥事により、『とかげのシャッポきり』としてトップの首がとぶ、あるいはとびかけたケース」(例として三井物産のDPF黒鉛除去装置のデータ捏造事件)にいたるまで大変説得力のある意見が述べられていますので、皆様にご一読をお勧めします。
第三の「突然社内のあちこちから出てきた法律も英語も不自由なのに「思い」だけをもった内部監査の人たちが要求する規程、手順書、チェックツールを作り、通訳半分で海外監査につきあわされています。監査役や内部監査の方々が本当に会社を通じて社会正義を実現されたいなら自ら経営に携わってください」という点は、内部統制業務へのフラストレーションの爆発とみました。TOSHI先生の指摘されるとおり、法務10年選手さんが作業の意義を納得されていないということであろうと思います。思い切り自分の疑問を内部監査の方、あるいは経営陣にぶつけられてはいかがでしょうか。ただし、冷静な議論をするため「法律も英語も不自由」というような、いささか相手を見下したものの言い方は控えられたほうがよろしいかと思います。
また、長くなりすぎました。TOSHI先生、ごめんなさい。
投稿: とも | 2008年1月29日 (火) 10時50分
■「会社は金儲けをする道具」だけではない
DMORIです。
会社は社会正義を実現するボランティアの場ではないでしょうが、金儲けをするためだけの道具でもないと思います。
「社会とともに」のキャッチコピーはいくつかの大手企業が使っていますが、これは決して対面上のポーズでなく、CSRを分かっている企業人なら普通に持っている感覚だと思います。
社員にとって、生活を成り立たせる収入を得る、すなわち会社が儲からなければいけませんが、それだけでなく、仕事を通じて自分の人生を実現する場として会社を捉えてこそ、そこにコンプライアンスが自然に定着するのだと思います。
もっとも、そういう感覚の人が少ない会社は、コンプライアンスがなじまないのかも知れません。
ビジネス法務の部屋なので、人生観を語るのは例外的にこのへんでとどめたいと思います。
きょう、環境庁が記者会見で偽装コピー用紙を使用するのは、当面やむを得ない判断を発表しながら、「製紙企業は責任をどうとるつもりなのか、あまり聞こえてきませんが、どうなっているのでしょう」と語っていました。
詐欺罪としての追求は、これから証拠を積み重ねて特捜部の判断が出てくるのでしょうか。
投稿: DMORI | 2008年1月29日 (火) 22時25分
先ほどのNHKニュースでも取り上げられておりましたが、日本全国の皆様に大変なご迷惑をお掛けしております。重ね重ねお詫び申し上げます。
>>toshiさん
勇気ある告発者で会社が変わる、とてもいいエピソードです。私は残念ながら、そこまでの胆力が据わっていません。なので弁護士さんに囲まれた安全地帯の感があるこの場をお借りして情報を出すことで、マスコミの皆さんにも声が届き、回りまわって当社関係者の耳に伝わり、少しでも風向きが変わることを期待いる次第です。
>>機野さん
ええ酷いです。
私も不正自体は知っていましたので大きなことは言えませんが、不正発覚後に次々と企業体質の暗部が露呈しておりまして、大変な無念を感じております。
先々週の記者会見では、当社の社長が「業績には大きな影響はない」と言っておりましたが、この不正発覚の影響を受けて経営的に甚大なダメージを負う取引先の方々を慮ることができれば、絶対に吐けない台詞だと思いました。
ただ、輸入品との競争に関して言えば、近年ようやくわが業界にも国際競争がやってきております。その焦りも不正に深入りした一つの要因だったと考えます。また、コンプラアンスや環境規制が厳しくない国の競争相手と、どのように戦っていけばよいのか、非常に重い命題でもあります。日本と発展途上国では、ザッと想像して比数%の環境、コンプラアンス関連コストの差がありますから、薄利商売の素材産業では大きなハンデとなっています。今回のことで環境面でのアドバンテージを失った国内製紙メーカーは、今後大変な苦境に陥ることでしょう。
別エントリのご指摘については、もはや我々の内部ではマネージしきれないほどのtoo big to stopな不正であったとご理解ください。
>>ともさん
コンプラアンスの意義は、仰るとおり企業の永続性の前提として語られることが多いと思います。当社も今回の不正のツケは非常に大きく、永続性が揺るぐ事態になってしまいました。
しかし、いざ自分が不正企業の社員になってみますと、事前の想定より大きな危機が、自分自身に迫って参ります。
懇意にしてもらっていた取引先の皆さんの平穏な生活を奪って一生十字架を背負う事になるかもしれませんし、事を知らなかったことにしたいトップの人身御供にされる可能性もありますし、あるいは不正の巣窟のような会社のトップに座るという幸か不幸か分からない事態がまっているかもしれません。
身近のコンプライアンス違反を放置することは、自分自身の人生に大きなリスクをもたらしますですね。
#明日からしばらくの間、事情により書き込みが出来ませんので、事前にお知らせ致します。
投稿: 小僧 | 2008年1月29日 (火) 23時03分
まず昨晩のかなり乱暴なコメントに各位より真摯なコメントをいただけましたことをお礼申し上げます。あまり発散するのもどうかと思いますので端的にコメントし、再び一読者に戻りたいと思います。
>>TOSHI先生
図星ですので何ら反論はございません。ただ残念ながら連結ベースの子会社にまでJ-SOXがISO変形ぐらいの印象でほぼ定着しつつある中、この状況を改善するのは難しいと思います。
「企業は社会の公器性」についてはほぼ同義の言葉を社是とする会社に勤めております。創業者の思いは「社会に新しい価値を提供し続け、社会から必要とされ続ける存在であること」であり、その本質は変革とインノベーションです。内部統制は経営管理の一施策として今後も存在するでしょうが、本質的な部分ではないというのは言い過ぎでしょうか?
>>とも先生
私は法務でも「ハゲタカ」派ですから(笑)。冗談はさておき、私の会社への貢献は最強の事業を創る手伝いをすることで、経営者の言いなりになることではありません。自分なりに過去の企業不祥事調査や各部門の支援を通じ、結局弱い事業はどこかでひずみ(ごまかかしや業界内協調等)が生じるとの結論にいたりました。今、スペック通りの再生紙が市場に供給できる大手製紙会社があれば一人勝ちだと思いますが各社が横並びを選ばれた結果、大きなビジネスチャンスを逃されました。開発や営業ではない私がM&Aやアライアンスにこだわるのは、事業を1+1=3にのばす可能性のあるプロセスだからです。経営管理の強化ではなく事業の最強化こそが最良のコンプライアンスとの信念はあります。弱い事業体に経営管理としてのコンプライアンスを求め「座して死ね」とは言いたくないのです。ロジックの破綻、言葉遣いの品格のなさは先生のご指摘のとおりです。ご不快な思いをおかけしたことはお詫びします。
投稿: 法務10年選手 | 2008年1月29日 (火) 23時08分
>>法務10年選手さん
余計なお世話を承知で言いますが、M&Aとかアライアンスを成功させる鍵は、人間性とか信頼とか信義とか正義感とか、とても泥臭いところにあると感じています。提案~契約締結~実行フェーズまで、通しで成功させて果実を得ようと思いますと、理屈よりも心のほうが大切じゃないかと。M&Aの成功も失敗も当事社の一員として見てきた経験論でしかありませんが。
ちなみに、当社は今の時点で真正の再生紙を作れる唯一の製紙メーカーであったりしますが、ここで火事場泥棒のような真似をするなとトップの指示が出ています。これについては卓見だと私は思っております。泡銭身につかずということで。
投稿: 小僧 | 2008年1月30日 (水) 00時15分
法務10年選手さん
ありがとうございます。おっしゃりたい趣旨がよく理解できました。
トピックからやや外れますが、M&Aについてちょっとだけいわせてください。これほど難しいものはありません。
私がかつて勤務していた米系銀行は米国内で大きな買収を2回も繰り返しました。私が参加したときは、買ったほう、買われた先の出身者が適度にミックスしており、非常にいいカルチャーで業績もぐんぐん伸びており、世上、買収巧者といわれていましたが、それは今考えると優れたリーダーと、それを支える一群のエクゼクティブ達がいたからです。
しかし私が参加後、1年の間に二つの巨大な投資銀行を買収したのは完全に失敗でした。買収側であったにもかかわらず、非買収側のエクゼクティブが内部でのポジション争いを誘発、買収時の明確な将来の図式欠落とともにポリティックスばかりの環境に嫌気がさした有能なマネージャー達が次々と離れていきました。そして今度は買収され、以来、時価総額は大きくとも株価は最高値であった99年の86ドルにはるかに及ばぬ40ドル台で低迷しています。私がライバルと目される欧州系投資銀行に移ったあと、その欧州系投資銀行は業績、ROEなど経営指標はかの米系銀行を相当下まわっていましたが、業績は上向き、ごろごろ世界中に転がっていた法務リスクは強いジェネラルカウンセルが率いる法務部とコンプライアンス部の出現で適切なコントロールが及ぶようになり、やめる年には米系銀行はすでに特定の分野では競争相手ではないと言い切るようになりました。株価は実に28ユーロから88ユーロまでのびていました。
M&Aはすぐれたリーダーがいてマネジメント上の各種のリスクをコントロールできてこそ有効です。いったい今の日本企業に何社このようなリーダーを持った会社があるのでしょう。そして従業員達は見えるリーダーなしでどのように融合できるのでしょう?それを考えると私はそういう仕事をお手伝いする立場とはいえ、本当に憂鬱になるのです。内部統制もM&Aも、経営者の強い自覚なしではなしえない、それなしでは多数の従業員を不幸にするということを、私は会社生活で骨の髄まで知らされました。
投稿: とも | 2008年1月30日 (水) 01時14分
いつも拝見させていただいております。ちょっとコンプライアンスと論点がずれるかもしれませんが、関係者の方もおられるようなので、興味があり書き込まさせていただきます。
私はアメリカ在住なのですが、アメリカのオフィス用品店舗に行くと100% Recycled Paperがずらっと並んでいますし(たとえば、大手STAPLESのサイトでは、オンライン・カタログも見られます。)、普通にオフィスでこういった紙が使われています。ところが、日本の議論は、100%再生紙は品質面の問題により技術的に困難であったことが所与の前提になっているようにも見えます。一応、アメリカで品質偽装がないことを前提としますが、100%再生紙も十分実用に耐えうるだけのものが既に市場に流通しているように見えますので、日本の現在の「技術的に困難であった」という所与の前提が本当に正しいのかどうか、まず疑問に思います。
次に、もし業界内で比率偽装が「常識」になっている状況なら、他社製品の問題点を告発し、例えば海外で流通している100%再生紙を安く輸入して販売するような新規参入の会社が現れてもいいとも思うのです。しかし、実際にはそういう会社がメジャーな存在にはなれなかったわけです。とすると、ここでは自由競争によって質の悪い製品が淘汰されていくというシステムが全く機能していなかった(あるいは歪んで機能していた)ということになるのではないかと思います。このような自由競争の阻害が一体どのような原因によって生じていたのか、その辺りに関心があります。
投稿: MIT | 2008年1月30日 (水) 01時15分
DMORIです。
MITさんの、米国では100%再生紙がずらり、はとてもいい情報でした。
今回の日本の製紙大手は、古紙50%配合でも品質保持が難しいので…というコメントでした。
1.米国メーカーは偽装なく本当に100%なのか
2.日本の製紙企業の技術力は、米国よりそれほど低いのか
3.米国のユーザーは、紙の手ざわりやインクののり具合など、日本人のように気にしない文化だから通用するのか
※たとえば、洋書はかなりザラザラ・ぼそぼその紙を平気で使っています。クルマにしても、米国人はへこんだりサビの出たクルマにあまり気にせず乗りますが、日本人はクルマに1本ひっかきキズが入っても、一生懸命補修してピカピカにするような、文化の違い?
こういう点を、環境省などが製紙メーカーに「米国の100%再生紙を研究して報告せよ」と指示して、結論を聞きたいと思います。
小僧さんなど、製紙メーカーの方のコメントもお伺いしたいところです。
投稿: DMORI | 2008年1月30日 (水) 10時05分
久しぶりにコメントさせていただきます。
途中からコメントしちゃってごめんなさい。
小僧様、法務10年選手様
お二人ともがんばってください。
とも様
米系銀行でのお話、非常に興味深いです。
こういう経験的裏づけのあるお話は説得力があります。
とも様のような方と有能な法務スタッフが連携するような環境で経営ができる方々は幸せになれる可能性が高いのでしょうね。
皆様へ
今回の小僧様と法務10年選手様のコメント及びそれに対する他の方々のコメント、すべてに非常に感銘を受けつつ拝読いたしました。
昔から私は法務部スタッフは職務にマジメで熱いものをお持ちの方ほどいつも片思いをせざるを得ない立場におかれていると思っています。
職務上というか資質上?、会社の特定の法的枠組みにおける位置づけが結構早めにわかってしまって、それにどのような対応をしないとどんなことが起るかもある程度予測がついてしまうことがある訳で。
それを思うからこそ諫言するにも環境が整っているとは限らない。
とも様がおっしゃるように経営者が本来は、しっかりしていただかないといけない部分があると思うのですが、これもご指摘の通り、すべての企業でそう人を得ている訳でもないのも事実だと思います。
いや、結構優秀な方も多いのですよ、実際は。
ただ、会社としての意思形成の段階でそれが希薄化していく傾向があるところもありまして。
会社法と金融商品取引法で変わってくれたのかしら?その辺は・・・。
法務の方も若手の中堅以降になると当然この辺のことはわかりすぎるほどわかるので、社内でその辺の話がわからない経営の方の行動のアラが、またわかりすぎるほどわかってしまう場合もある訳で。
知らなければこれほど楽なことも幸せなこともないのかもしれません。
それでも好きで法務部でスタッフをやってる方に多分共通しているのはそれでも文句言いながらも仕事をされておられることだとおもいます。
アラの見えちゃう方にはそれなりに助け舟を出したりもするのです。さりげなくですけど。でも想いが通らないことも多いですよね。
片思いをする方が悪いのか、思いをわかってくれない相手が悪いのか・・・ろじゃあにはよくわかりません。
そんなこんながわかりすぎるほどわかるので、小僧さんと法務10年選手さんにはある意味では前線でいろいろ大変だとは思うのですががんばっていただきたいと思いました。
同時に社内にとも様みたいな方がおられるといいんだろうなあという感じも持ちました。
長いコメント、ごめんなさいね、toshiさん。
自分のブログで書きゃいいんですけど、ついつい書かずにはいられなくなっちゃったもんで・・・お許しくださいませ。
投稿: ろじゃあ | 2008年1月30日 (水) 11時09分
ほんの御参考まで…
http://www.jpa.gr.jp/states/global-view/index.html
投稿: 日下 雅貴 | 2008年1月30日 (水) 11時46分
皆様、コメントありがとうございます。(アクセス検索の結果では、コメント欄がたいへん読まれていることがわかります。)
私のブログはコメント承認制と採用しておりますので、すぐに皆様がたのコメントがアップされない仕組みになっておりますが、昨夜のともさんと小僧さんのコメントは、私が自宅に帰ってから、同時にアップいたしました。いずれも「M&A」に絡むコメントですが、比べて読ませていただきますと、興味深いですね。
「一読者」に戻られることなく、また思いを述べていただければ幸いです。>法務10年選手さん
MITさん、はじめまして。
待望の(?)、47thさん、neon98さんにつづくLLM留学ブログの登場を予感させますね(って、こうことを書いたらまずいのかなぁ (^^;)100%再生紙製造に関する品質問題は、小僧さんのコメントあたりをみますと、日本でも可能なんでしょうね。ただ、末端社員さんのコメントを読みますと、おそらく製造過程に気をつかう部分が多くなり、コストがどの程度なのか、という点も問題になってくるのかもしれません。
後半の疑問については私も関心があるのですが、おそらくこのあたりはもうすこし本件問題の展開をみてから検討しようかと思っております。
投稿: toshi | 2008年1月30日 (水) 12時34分
書けないといいつつ少しだけ。
>>MITさん
アメリカが偽装しているか否かは情報を持っていません。日本で100%品を作る困難は、DMORIさんのご賢察どおり品質要求、特に汚れに対する厳しさにあります。実用上あるいは統計上問題ないレベルでも、お客様のご要望とあれば対応しなければなりません。それが末端社員さんのご苦労になっています。コピー用紙で言えば、当社では毎日何万箱のオーダーで出荷していますが、汚れの苦情が月に10件もあると、中間業者さんを破産での大騒ぎになります。
古紙処理技術そのものは、現段階で日本が世界一、次がドイツ、少し離れてアメリカなどなどという序列だと思います。
>>ろじゃあさん
ありがとうございます。
投稿: 小僧 | 2008年1月30日 (水) 20時39分
小僧さん、私のコメントにご返答下さいまして有難うございました。網羅的に調べてはいませんが、米国最大手STAPLES(日本でいうとASKULでしょうか)のペーパーの場合、グレードの表示が4段階あり、100%再生紙は下から2番目のCOPY PAPERという位置づけで、その上のグレードのPRINTING PAPERには50%再生紙しかないようです。再生紙はコスト的に少し高くなっているように思いますので、多分売れ筋は安い方に流れているかと思いますが、それでも再生紙は売り場の半分弱くらい占めていますので、やはりそれなりの需要があるのではないかと想像します。ただし、一般的には、アメリカ人のリサイクル意識は日本と比べるとかなり低いように思います(笑、個人的見解です)。ご参考までに、STAPLESのサイトのアドレスを貼っておきます。
http://www.staples.com/webapp/wcs/stores/servlet/CategoryDisplay?&secondlevelCategoryId=10051&langId=-1&storeId=10001&splCatType=0&catalogId=10051&cmArea=&categoryId=10589&secondlevelCatName=Paper+%26+Pads
小僧さんのコメントによりますと、顧客の「汚れに対する厳しさ」が大きな要因になっているようですが、その意味で日本では「顧客のニーズに合致した」品質の100%再生紙の実現は技術的に困難であった、ということは言えるかもしれませんね。もちろんそれを実現できることにしてしまったのは大問題なわけですが・・。
Toshiさん、こちらこそはじめましてです。それらの方々のブログも存じておりますが、そのようなハイレベルなブログを維持する能力もバックグラウンドもございませんので、単なる子育てブログ程度にご記憶にお留めおきいただければ幸いです。失礼しました。
投稿: MIT | 2008年1月31日 (木) 05時41分