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2008年2月29日 (金)

「弁護士の露出度」ってどうよ?

最近楽しみながら拝読させていただいている活字フェチ弁護士さんのブログに、「弁護士は露出が命?」なるたいへん興味深いエントリーがあり、私も実名ブログである以上は「露出フェチ弁護士」の部類に属するのであろうか・・・と真剣に考えております(笑)そういえば本日(2月29日)も含めて、2月はおかげさまで8回も講演をさせていただき(呼ばれるうちが華だと思いまして・・・)、アウトプットの時間ばかりでインプットの時間が相当に減ってしまった気もします。来週の講演がいよいよツアー最終(?)ということになりますが、法律会計雑誌への露出度も1月から3月、そしてまたまた5月(中央経済社の「企業会計」)とずいぶんと増えましたので(これまた誘われるうちが華だと思いまして・・・)、ひょっとすると私も「プチ露出フェチ弁護士」の部類に属するのかもしれません。ただ、活字フェチ弁護士さんがおっしゃるような弊害はおそらく私にはあたらないと思います。やはり弁護士といいましても、露出が依頼者にとって不利に働く可能性のある場合というのは、著作物の社会的影響度に依存するところが大きいことによるのでしょうね。私の論稿は「ブログの延長線」上のものでありまして、内容的にはかなりマジメなものでありますが、気にしなければならないほどの「社会的影響度」はないと思いますし、とくに将来的にも訴訟で議論の対象になりそうなものもございませんので、まぁまぁ大丈夫だろうと・・・・・(^^;;

それよりも、私が心配しておりますのは、三浦和義容疑者逮捕にあたって、ロス市警は3年間も三浦氏のブログを観察していた、という報道であります。(ニュースはこちら)ロス市警は三浦氏自身が運営するブログから、彼の生活情報を入手し、今回の逮捕に及んだということですから、けっこう実名ブログも「怖ぇ~~!Σ( ̄ロ ̄lll)
」とビビったりしております。「なにわの中年弁護士、『ブログ』で御用」とか、「法務の『部屋』から『牢獄』へ、そのトホホな人生」とか、なんかlivedoorニュースにでも書かれそうな、へんな夢を見そうな気もしてきました。。。(いえ、いまのところ、特に心当たりがある、というわけではございませんので、ねんのため・・・)

マニアックなテーマにつきまして、多数の常連の皆様方と「公共フォーラム」的なブログを目指しておりますので、まぁ観察されましても、とくに弊害はないと考えながら「ぷち露出」を心がけていきますね。(笑)いつまでも「身の丈」に合った、気負いのないブログでありたいと願っております。(それにしましても、2月はホントに疲れました。。。3月はまた訴訟活動を含め、本業に戻って精進します。)

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2008年2月28日 (木)

サッポロHD買収防衛ルールの「解釈」と「予見可能性」

27日の日経朝刊記事によりますと、サッポロHD取締役会は、スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド(オフショア)エル・ピー(以下、単にSPと表記します)からの買収提案について、これを拒否する旨公表したそうであります。(SPJSFによる当社株式の買付提案に対する当社取締役会の意見書2月26日付け)毎度のことでありますが、私はM&Aに詳しい専門弁護士ではございませんので、以下は大規模買付ルール終了までの経緯につきまして、「上場企業の一社外役員」という立場からの感想程度のものであります。

SPの買収提案につきましては、これまで通用していた事前警告型買収防衛ルール(サッポロHDの買収防衛旧ルール)が適用されることになっておりますが、2月20日に公表されました特別委員会の「追加意見書」などを読みましても、この買収防衛ルールの「当社株券等の大規模買付行為への対応方針」についてはスティール側とサッポロHD側との間に、大きな解釈の違いがあるように思われます。理屈のうえでは、サッポロHD社特別委員会の意見も首肯しうるところだとは思うのでありますが、素直にこの対応方針(4;大規模買付行為が為された場合の対応方針(1)大規模買付者が大規模買付ルールを遵守した場合)の「例外規定」を読む限りにおきましては、この防衛策は、大規模買付者が「濫用的買収者に該当する場合」もしくは、これと同程度の「濫用的な買収であると明らかに認められるほどの買収を行う場合」しか(ルールを遵守してきた大規模買付者への例外的措置としては)発動されることはないと解釈するのが自然ではないか、と思われます。少なくとも、SP側が買収防衛ルールを、自己に有利なように曲解して強引な主張をしているようには思えません。逆に私は、特別委員会にせよ、取締役会にせよ、ここまで事前警告型のルールにつきまして、最高裁決定の趣旨を取り込みながら広く「解釈」してしまっていいのだろうか・・・と、どうしても疑問を抱かざるをえません。

先のブルドックソース最高裁決定が、事前警告型防衛策をすでに導入している企業について、どの程度の先例的意味があるのかは不明な部分が多いと思われます。しかし防衛策を導入していない企業の緊急避難的な発動と比べて、発動の適法性要件が緩和される余地があるとするならば、それは導入された防衛策のスキームが株主の総意を反映したものであることや、買付予定者にとって、発動による損害の「予見可能性」を高めることに起因するのではないかと考えております。そうであるならば、すでに導入済みの買収防衛ルールの解釈につきましては、およそ理屈でどうか・・・というよりも、一般株主がどう解釈するか、買付希望者であればどう解釈するか、といった点も重要ではないでしょうか。サッポロHD社の特別委員会や取締役会の買収防衛ルールに対する解釈を前提とした場合、果たして一般株主も、同様の意味に解して承認決議を行ったものと判断することはできるのでしょうか。もしそうでなければ、その防衛ルールは「株主の総意を反映」したものではなく、また買付希望者に対して「予見可能性」を付与しうるものとはいえないはずであります。ましてや、サッポロHD社の防衛策の発動は、取締役会限りで行うものでありますから、その発動が多数株主による判断であることの正当性と相当性が認容されるためには、「株主の総意を反映したルール」であり「予見可能性のあるルール」であるかどうかは、きわめて重要なメルクマールであり、十分留意しておくべきポイントではなかろうか・・・と考えております。

ブルドックソース最高裁決定の理由4(2)によりますと、事前の対応策は、株主、一般投資家、買収をしようとする者などの関係者の予見可能性を高めることとなり、現にそのような定めをする事例が増加している、ブルドック社は(たしかに)事前の対応策の定めがないけれども、だからといって対応策を講ずることが許容されないものではなく、企業価値の毀損を防ぎ、株主共同利益の侵害を防ぐためには、多額の支出をしてでもこれを採用する必要があると判断されて行われたものであり、緊急の事態に対処するために行われたものであること、相手方に対してはその価値に見合う対価が支払われれることを考慮すれば、対応策が事前に定められていなかったからといって防衛策の発動が不公正は方法によるものとはいえない、とされております。このような決定理由の表現から、どれだけの買収防衛ルールの効用を認めるかは、まだ明確ではないかもしれませんが、権限分配原則や衡平の理念に照らしても、対応策に何らかの法的意味を見出すためには、予見しがたい解釈によって、そのルールの内容をあいまいにすることは回避すべきではないか、と思う次第であります。

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2008年2月26日 (火)

監査役の役割と監査行動

日本監査役協会主催の研修セミナーにて、関西支部2回、中部支部1回の講師を務めさせていただきました。本日名古屋での最終のセミナーも終了いたしましたが、関西、中部合わせて延べ750社ほどの監査役の方々に聴講いただき、また遠方より多数ご参集いただきましたこと、厚く御礼申し上げます。(しかし東京本部では2000社を超えるらしいですね。)今回は「金融商品取引法上の内部統制報告制度と監査役制度」といった、まさに金商法と会社法の「狭間」の問題だけに、かなり私見も入りましたが、自社でのご議論、ご活用の端緒になれば幸いであります。

Kansakoudou さて、今回のセミナー講演にあたり、昨年改正されました「監査役監査基準」(日本監査役協会)の全体像を的確に捉えておきたいと思いまして、長年日本監査役協会で常任理事をされておられた鈴木進一先生の「監査役の役割と監査行動」(商事法務)を拝読いたしました。監査役の理想像を追い求めるのではなく、基本に「現実の監査役の姿」を据えて、この金商法と会社法が交錯する時代の監査役の行動指針を提案するものとして、読み応えのある一冊であります。会社法(および規則)の条文の引用等はほとんどございませんが、監査役の皆様方が、監査役監査基準の指針を基本として、どのように行動すべきか、たいへん参考になるものと思います。

この本の「監査役監査基準の逐条解説」のなかで、会社法および会社法規則への、とても興味深い問題提起(といいますか、ご感想)がございまして、会社法施行規則124条(社外役員を設けた株式会社の特則)が、現実の取締役会と監査役との関係にどのような影響を及ぼすか・・・といったあたりへの言及がとても新鮮であります。(ちなみに現在「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」が2月29日までパブコメ手続実施中であり、この124条も改正条文に含まれておりますが、今回のお話の点につきましては変更はございません)ご承知のとおり、社外役員を選任している株式会社(公開会社)の場合、事業報告の内容として、①社外役員の取締役会への出席状況、②取締役会での発言状況、③当該社外役員の意見によって会社の事業方針及び事業その他の事項に係る決定が変更された場合にはその内容(ただし重要でないものは除く)、④取締役の法令違反行為が発生した場合において、その予防のために行った行為や発生後の対応(の概要)などを記述する必要があるとされております。おそらくこういった規程の趣旨は、社外役員の活動内容を事業報告に記述することで、会社としての株主への説明責任を果たし、また間接的であるにせよ、社外役員の積極的な職務行動を促す意図があるものと理解しておりますが、この本の著者でいらっしゃる鈴木先生はこういった事項の開示について疑問を呈しておられるようであります。(なお、条文のうえでは「社外役員」とありますが、ここでは「社外監査役」に絞ってのお話であります)

1 社外監査役の取締役会への出席状況・・・・・会社と委任関係にあることとの関係でいかがなものか。社外監査役の発言状況・・・・・取締役会議事録の閲覧要件との関係で均衡を失するのではないか

私も同感であります。社外監査役の活動成績は「取締役会の出席状況」「発言状況」でははかれないものと思います。(もちろん取締役会への出席や意見陳述は会社法383条1項により法律上の義務とされているので、それをカウントする、発言を公表するというやり方もどうなんだろうか・・・とは思うのでありますが)たとえ取締役会に出席していなくても、重要な経営会議に出席していれば、監査役会を通じて監査役の意見形成に関与することは可能ですし、独任制としての監査活動にも影響はないものと思われますので、出席や発言の多少によって「委任の趣旨」に反するような事態にはならないと思われます。また、取締役会で発言することがなくても、経営会議や常務会で発言することで、そもそも取締役会への議案の上程が撤回されたり、修正案が上程される場合も頻繁にあるわけですから、取締役会での発言状況はなんら(期待するほどは)参考にはならないものと思料いたします。

2 予防のために行った行為や発生後の対応として行った行為の問題は、社外監査役の役割と捉えるよりも、まず執行役員(発生後の対応はとりわけ代表取締役)の問題として捉えるべきではないか

会社法上「執行役員」の位置付けが明確ではないので、執行役員の問題とすべきかどうかはわかりませんが、社外監査役が実際に「行動する」ということは、常勤監査役を飛び越えることにほかなりませんので、現実問題としては想定しにくいのではないかと思われます。たしかに「監査役会」の行動とは別に、社外監査役の行動というものの法的には期待されるところがあるかとは思いますが、そのような特別の機会が生じた場合には、おそらく「事業報告」を待つまでもなく、総会等において「個別の監査報告」のなかで説明されるところではないでしょうか。このあたりが現実論ではないかと。

3 取締役会での社外監査役の意見により、会社の事業方針その他の点で決議内容が変更されることはありえることだが、実際にそのようなことを開示するとなると、取締役が恥をかくような印象を持つことになるのではないか

もしこの規程を厳格に捉えて開示する、ということになりますと、ご指摘のとおりかと思われます。ただ、私見ではありますが、こういったことにならないよう、社外監査役が重要な決議内容に修正を与えるほどの意見を持っているのであれば、まず監査役会において協議をしたうえで、監査役会もしくは常勤監査役の意見として取締役会に提言することになるでしょうし、そもそも「決議変更」とはならないように、形の上では取締役会で意見形成がなされたうえで決議が行われた・・・とするのが、「大人の社外監査役」の姿ではないかな・・・・と思う次第であります。社外監査役が本気で決議修正を求める、という事態といいますのは、「あえて取締役に恥をかいてもらう」決意をもって臨むときだけである、と考えておりますが、いかがでしょうか。(以上のほか、まだまだ鈴木先生の傾聴に値するご意見が満載でありますが、とりあえずこのあたりで)

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2008年2月24日 (日)

心の痛むニュースですが・・・

大阪証券取引所の執行役員の方が「不慮の事故死」とお聞きして、たいへん驚きました。私はお名前しか存じ上げておりませんでしたが、たしか3月初めにキャスターの田原総一朗さんとご一緒に事務所近くの中之島公会堂で「金融市場と取引所の役割」に関するシンポジウムに出演される予定ではなかったかと思います。まだお若い方ですし、関西の証券業界のためにも非常に残念です。謹んでお悔やみ申し上げます。

(追記)毎日新聞ニュース

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2008年2月22日 (金)

ついにパンドラの箱があいた「再生紙問題」

「ウソはいかんわ」さんに教えてもらいましたが、うーーーん・・・・・・・、ついにパンドラの箱は開いてしまったのですね。。。おそらく20日の行政庁(環境省および経済産業省)への各社最終報告書提出に合わせての報道ということで。(どこの企業とは申し上げませんが、各製紙会社の最終報告書提出の後、こういった内部告発が出るのでは・・・と予想されていた方はけっこういらっしゃったのではないかと。)

ダイヤモンドオンラインスクープ「認識時期も偽装」

取締役10名中、会長を除く9名が出席されていたということですが、監査役の方々も出席されていたのでしょうか?(ガクガクブルブル・・・)

(追記)「ウソはいかんわ」さんのコメント内容がやっと理解できました。(すいません、王子製紙さんの報告書をきちんと読んでおりませんでした。)この最終報告書を読みますと、取締役会議事録には、そうした発言内容は記録されていなかったようですので、別の重要な経営会議の議事録のようですね。しかし、こういったものが突然出てくるとなりますと、調査された社外監査役や社外取締役さんも、ビックリされたものと思われます。とりあえず速報版ということで失礼いたします。

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北越製紙調査報告書にみる「J-SOXリスク」

古紙配合率偽装問題は、各社が追加調査報告書を提出した20日の段階で、再び深刻化する様相を呈してきたようであります。ところで、いったんは「辞任しない」と表明されていた代表取締役の方が、この追加報告書の提出を転機として、ついに辞任されることとなった北越製紙社の調査報告書(追加)はなかなか興味深い内容であります。(再生紙製品の古紙配合率に関する調査報告について

この調査報告書の内容をそのまま真実として受け止めるのであれば(すこしアマいでしょうか?)、中間管理職の方々は、営業部門にあっては「再生紙シェアにおける自社の受注減はなんとしてでも食い止める」ため、そして製造部門にあっては、「製造原価を維持するためには、なんとしてでも生産効率の低下を食い止める」ために、配合率が適合していないことを知りつつ、生産を継続していた・・・、というところだったのでしょうか。そのように考えませんと、中間管理職の方々が、担当役員に相談もなく、このような偽装を続けてきたインセンティブが説明できないと思われます。経営トップから各部門への相当に厳しい指令(売上市場主義、利益第一主義)が飛んでいたのが実態だったのかもしれません。

さて、この調査報告書の記載内容におきまして、まず特徴的なのは、平成13年ころに北越製紙社の当時の監査役さんが最初に「どうもおかしいのではないか?」と(当時の社長に対して)疑義を呈したところであります。つまり当時の再生紙販売総数量から計算される理論値よりも、工場における古紙パルプの製造能力が劣っていることについて、疑問を呈されたようであります。このとき、当時の北越製紙社長は、総量において古紙パルプの量が不足していることを認識した、とのこと。その後、工場における古紙処理設備が増強されたことで、「すべての疑義が解消された」ように記述されておりまして、現社長さんも、技術本部長だった当時「問題は解決した」と認識されていたようであります。しかし、先のような疑義が呈されたのであれば、「配合率に問題があるのではないか」と考え、すぐにでも配合率に関する検証をするのが自然であると思われますし、なにゆえ現場の検証がなされなかったのか、疑問が残ります。この監査役さんの発言内容からしますと、平成13年ころまでは組織ぐるみでの偽装はなかったことが判明いたしますが、逆に平成13年以降につきましては、組織ぐるみではなかったか、という疑惑が拭いきれないのではないかと思われます。この監査役さんが「どうもおかしいのではないか」と疑念を抱くに至った過程とか、なぜ配合率を検証しなかったのか、といった事情については、もう少し深く知りたいところであります。

さて、もうひとつ特徴的なのは、「内部統制リスク」というものが調査報告書に登場したことであります。この報告書を読みますと、平成18年4月に「内部監査室」が新設されたようでありますが、この内部監査室が、このたびの偽装発覚のために機能しなかった理由として「金融商品取引法の下での、財務報告の信頼性確保を目的とする内部統制システムのチェックに主眼を置き、業務全般にかかわるコンプライアンス遵守を全社的にチェックする体制ではなかった」とのこと。当ブログでも以前から懸念していた「フレーズ」がついに現実に登場してしまった、という印象であります。この北越製紙社の内部監査室が、いわゆるJ-SOX対応プロジェクトの一貫として設立されたものであれば、やむをえないところもあるかもしれませんが、一般論として申し上げるならばJ-SOX対応への取り組みが本来内部監査室に求められている重要な機能に支障を来たす、というのはやや本末転倒ぎみであります。でも現場をみるかぎり、このような「言い訳」が通ってしまいそうな雰囲気が漂っている上場企業さんも、実際にあることは間違いないところでありまして、そのうち「監査法人さんからの指示でJ-SOX対応に専心しているあまり、業務監査を疎かにしていました」とか「J-SOX対応に追われていたので、四半期報告書の提出が遅れてしまいました」なる(もっともらしい)言い訳がまかり通るようになるのかもしれません。内部監査人が内部統制報告制度の要(かなめ)である、とは言われておりますが、こういったフレーズが現実化してくるとなりますと、J-SOXの理想と現実のギャップを埋める議論も必要になってくるのかもしれません。

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2008年2月20日 (水)

「公正ナル会計慣行」と長銀事件(その6)

すでにろじゃあさんのところでも話題になっておりますが、長銀粉飾事件の刑事事件(証券取引法違反、商法違反被告事件)につきまして、来る4月21日に口頭弁論が開かれるそうであります。(読売ニュースはこちら)ご承知の方も多いとは思いますが、最高裁で上告(受理)事件に口頭弁論が開かれるということは、高裁での判断が覆る可能性が濃厚ということでありまして、そうなりますと元長銀トップの方々の有罪判決が無罪となる可能性が高まったと考えてよさそうであります。この長銀事件は、刑事と民事で結論が食い違っておりまして、しかも立証の程度(無罪推定原則)の関係からみまして、民事違法→刑事無罪ならまだわかりますが、民事適法→刑事有罪という、「まれにみる食い違い」が生じておりまして、最高裁の判断が注目されていたところでありました。なお、エントリー(その1)から(その5)までは、公正妥当な企業会計慣行と長銀事件のカテゴリーでまとめてお読みになれます。民事事件についてもRCC側から上告がなされており、また日債銀事件の結論にも影響を及ぼす可能性のある最高裁判断ですので、刑事上告事件とはいえ、争点についてはかなり明確な判断が出るのではないかと期待をしております。

証券取引法193条【現 金融商品取引法193条】による包括委任(つまり内閣府令)のない会計基準については、どのような場合に「公正なる会計慣行」といえるのか、またすでに会計慣行といえる会計基準が存在する場合において、どのような要件が具備されれば、新しい会計基準が「唯一の会計慣行」にあたる(つまり法規範性を有する)のか、といったところが最大の争点だと思われます。ただし、なんといいましても、すでに10年以上前の不良債権処理が開始される頃の時代背景がございますので、金融商品会計基準が施行されていない時代の事件であること、投資家や会社債権者に対して「高度の注意義務が課されている」金融機関の事件であること、また当事者が新旧の会計基準が存在しうることを認識しつつも、最終的には会計士(監査法人)の意見を参考にして旧基準(いわゆる税法基準によって補充された改正前決算経理基準)にしたがって貸付金の消却・引当を行ったこと、当時は銀行の自己責任ということが言われだした時期ではありますが、いまだ「護送船団方式」の名残があったことなどが、裁判所の判断にどのように影響するのか、そのあたりも十分配慮しておく必要があろうかと思われます。

会計基準の「法規範性」の問題は、古くから「法と会計の狭間の問題」として、著名な商法学者の方々や会計学者の方々の間で広く議論されてきたところでありますが、本件のように「異なる会計基準」の適用に関する問題だけではなく、最近は会計コンバージェンスの趨勢のなかで「同一の会計基準」の解釈に関する問題も指摘されるところではないでしょうか。BS重視(連結グループにおける企業群全体の価値算定重視)の時代の会計基準となりますと、金融商品、リース会計、減損処理、繰延税金ほか、適用されるべき会計基準には争いはないけれども、その解釈には大きな幅がある、といった場合にも、そこに違法配当事件や有価証券報告書の虚偽記載事件などに問われるリスクが横たわっているケースが多いと思われます。最近でも、三洋電機社の過年度決算修正につきまして、社外独立委員会は、金融商品会計基準(子会社株式の評価)において、いわゆる「三洋減損ルール」が会計基準の適用として誤りがなかったかどうかを精査しておられますし、今後も、経営者の将来収益に関する見積もりを伴うような会計基準の適用にあたっては、同様の場面も十分想定されるところであります。少し場面は異なりますが、今回の不正会計事件に対する最高裁判決の判断内容が、最近の事例にもアレンジできるようなものであれば、非常に有意義なものになるかもしれません。

最後にろじゃあさんのエントリーからの引用ですが

司法に携わる方々は裁判官であろうと検察官であろうと、弁護士の方々も、本来、普通の移ろいやすい世間の時間軸とは別の時間軸を併せ持って、いろいろな社会の動きによる問題をある意味で「矯正」する作用があるように思います。
これを正当に評価する眼を本来であれば国民は持つべきだと思います。

そのように言ってもらえるとうれしいです。といいますか、そこでしか我々は社会に有用な仕事ができないと思います。「別の時間軸」を持つことで、ときどき石を投げられることもありますし、時間軸を素直に修正することもありますが、「いつかわかってくれるときがくるだろう」と期待しつつ、きょうも仕事をしております。。。

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2008年2月19日 (火)

会計不正事件と「あぐりあぽん」

京都のある会計士さんから、「おもしろそうですよ」とお勧めいただきましたので、近畿公認会計士協同組合主催の公認会計士さん向けのセミナーに参加してまいりました。第一部は共同通信社の種村記者(「監査難民」の著者でいらっしゃる方)と、会計士さんとの「会計不正事件と法改正」をテーマとした座談会、第二部は大証の執行役員の方の「金融商品取引法と大阪証券取引所の対応」なる講演で構成されておりまして、どちらかといいますと第二部の聴講が主たる目的だったのですが、第一部もけっこう興味深いものでありました。(会計士協会のセミナーではなく、会計士協同組合のセミナーとして開催された意味が少しだけわかったような・・・・・(^^;  )

誰が何を語っていたか・・・といったご報告は、関係者の方々のご迷惑になりますので、とりあえず、どんな内容のお話に私が関心を抱いたか・・・という点だけを記述いたしますと、①会計士の保証業務と「あぐりあぽん」(Agreed upon procedures)、②日米メディアの監査制度に関する知識の差、③日米「上場廃止」に関する意識の差、④監査法人のインセンティブの「ねじれ」と監査役制度、⑤公認会計士法改正と課徴金制度、⑥会計士とゲートキーパー(通報制度)、⑦会計士協会と金融庁の関係、⑧会計士と「監査現場離れ」の問題、⑨米国PCAOBと日本のPCAAOB(公認会計士・監査審査会)との権限やスタッフの差などなど・・・、ほかにもいろんな話題で盛り上がっておりましたが、上記の話題は会計士さんの立場から、どのように考えられているのか、とても参考になりました。もちろん、保証業務と「合意された手続き」の関係は、いま会計士さん方のブログでもっともホットな(といいますか熱い)話題と関連したものであります。(弁護士としても、財務DDをあまりご存知なければ、保証業務以外の会計士さんの業務というものはあまり認識されていないのではないか、と思います。)

このたびのアイ・シー・エフの事件は、被疑事実や被疑者供述の内容が未だ不明でありますので、なんとも申し上げることはできませんが、会計士さん方のリスクに関わる問題としては、このたびの事件と離れて、一度きちんと「犯罪関与リスク」なるものを、法律専門家との会合などによって理解されたほうがいいのではないかなぁ・・・といった印象を(本日のセミナーに参加して)強くいたしました。「ここまで監督官庁に監視されて、まっとうに業務をこなしているにもかかわらず、なんで逮捕リスクにさらされるねん?」といった強い憤りを覚える会計士さん方もいらっしゃるとは思いますが、昨今の監査法人を取り巻く環境を考えますと、今後も同様のリスクにさらされる可能性は増えることはあっても、減ることはないように感じます。

たとえばひとつの例ではありますが、日興コーディアル不正会計事件の際、検察ご出身の方が委員長でありました社外独立調査委員会の調査手法は「仮説を立てて、その仮説が合理的に正しいかどうかを、仮説を基礎付ける事実をひとつひとつ、検証して積み上げる手法」というものでありました。あのときは、会計基準の適用の可否(ベルシステム24なる上場企業を支援するSPCに、果たしてVC条項が適用されるか否か)といった点では、議論が堂々巡りになってしまって、そこから仮説を基礎付けることは困難とされ、いわゆる「取引日時を遡らせる」という事実を決定的な裏づけ事実として活用されたように記憶しております。そこで、もし会計士の方が逮捕リスクを負う、という事態が考えられるとするならば、会計基準や監査基準の解釈などに関わる問題ではなく、もっと積極的に犯行に関わることを示す「基礎事実」のところで検証がなされる傾向が強いのではなかろうか、と思われます。このあたりは法律家のほうが詳しい分野かもしれませんし、事実分析の手法が法律家と会計士では異なることもありえますので、ある程度の相互理解が必要なのかもしれません。「粉飾決算被疑事件」の積み上げ方につきまして、むしろ経済事件の捜査にそれほど詳しくない「ヤメ検」の先生などと、勉強の機会を設けるようなことも、有意義ではないでしょうか。そこでは単に「経営者と距離を置くこと」がリスク回避ではない・・・といったことも認識できる場になるかもしれません。

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2008年2月18日 (月)

イマドキの独立第三者委員会(その3)

サッポロHDは、事前警告型買収防衛ルールの改訂版を次回定時総会(3月29日)に提案するとリリースしております。(2月15日付けリリース)最も大きな修正点は、これまでの防衛ルールでは独立委員会(いわゆる独立第三者委員会)が発動の可否など、対応に関する重要な意見を述べた場合には、これを取締役会は最大限尊重したうえで決定する、とされておりました。しかしながら、この改訂版によりますと、来る3月29日の定時株主総会におきまして、社外取締役を一人追加したうえで(つまり社外取締役は合計3名)、本対応方針に係る重要な判断を決定する取締役会決議を行う場合には、出席社外取締役のうち、3分の2以上の可決を要するもの、とされるようであります。つまり防衛策発動を是とする場合も、非とする場合にも、社外取締役の3分の2以上の同意を要することになるわけでして、サッポロHD社の説明によれば「これまで以上に防衛策の透明性を高めたもの」とのこと。(ただし、リリースによれば、すでに大量取得報告書を受領している件については、現行の防衛策ルールが適用される、との附則があるようです。また、これまでどおり、独立委員会の勧告を最大限尊重して決議する、との点も変更はないようです。)

もちろん、こういった防衛策改訂版は、そもそも社外取締役がおそらく3名以上程度は存在しなければ、成り立たない(といいますかリスクが大きい)ように思いますが、いっぽうで社外取締役の存在を、単なる社外の有識者の意見を経営に採り入れる、というだけの意味ではなく、一般株主の代弁者として位置づけているとするならば、3名(社外取締役、社外監査役、有識者)で構成される独立第三者委員会の存在価値はどこにあるのでしょうか?これまでよりも、ずいぶんと独立委員会の位置づけが後退しているようにも思えるのでありますが。アクティビストファンドからの突然の大量買付行為に備えて、当該ファンドが濫用的買収者であるかどうか、といった点だけを独立委員会が判断するのであればまだしも、先日の意見書にもありますように、アクティビストファンドか競業他社かにかかわらず、支配権移転が株主共同利益の向上に資するものかどうか、といった点を判断するのであれば、社外取締役の判断尊重の姿勢だけで十分であると考えられるのでありますが、いかがでしょうか。

また、サッポロHD社の「新経営構想」のなかでは、2008年から2009年へ向けての構想としては以下のとおり記述されております。

b.戦略的提携の実施
事業の競争優位性をスピーディかつ大規模に構築していくために、グループ企業単独での事業運営にこだわらず、当グループが保有する強みの拡大や機能の補完、ノウハウの取得などができる有力なパートナーとの戦略的提携を推進します。

 <3>サッポログループ経営計画2008年-2009年(抜粋)

b. 強みを活かした事業展開と収益基盤の強化
様々な変化の中でも安定的な収益を確保できる、強固な事業基盤を構築します。そのために、収益構造改革をスピードを上げて実施します。

(5)戦略投資の基本的考え方
  経営計画2008-2009では、累計450億円の戦略投資、350億円の金融負債削減を実施いたします。
特に、戦略投資につきましては、各事業での高付加価値化への事業構造改革やM&A、不動産事業での新規物件取得等などで活用し、企業価値の向上を目指します。

ファンドや競業他社から買収を仕掛けられたときには、現経営陣として、これに賛同するかどうか、もしくは反対を表明して代替案を提示するか、ということを判断するために、買収防衛ルールをもって熟慮期間を設ける意味があるとは思うのでありますが、さて、自社が戦略的に他社を買収していく場面において、こういった防衛ルールの存在は足枷にならないのでしょうか?競争力を向上させるためには、どこの企業も戦略的にスピードを上げてM&Aを活用することも検討しているところではないかと思うのですが、他社の支配権を取得する際には、株主共同利益に資するかどうかを慎重に判断したり、他社側にも慎重な熟慮期間を設定したりする必要はないのでしょうか。(もちろん、友好的か敵対的かの違いはあるでしょうけど、必要な情報が揃った時点からでも最大90日間程度は熟慮期間がありますし)もちろん、友好的買収の場合には情報の偏在化もありませんし、他社を買収する場合には、「自社の支配権のあり方に関する基本方針」とは無関係だともいえそうでありますが、最終的には友好的買収であっても、交渉当初は敵対的な買収交渉、ということもありえるわけでして、そのような場合に自社への買収には厳格なルールを用意しながら、他社買収は事前警告型買収防衛ルールがない場合には、力づくで交渉する、ということにはどうも「公正な第三者」たる独立委員会の委員には納得できないようにも思われます。

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2008年2月14日 (木)

ICF(アイ・シー・エフ)強制捜査と会計士の逮捕

ICFに強制捜査が入りましたが、梁山泊グループの強制捜査が行われたのが、昨年の2月14日ですので、ちょうど1年ぶりの強制捜査ということなります。

しかし会計士の方も逮捕されてしまったんですね。この方のブログは愛読しておりますが、逮捕の4日前まで、素敵な文体でエントリーを書いておられます。この方の内部統制報告制度に関するエントリーは「簡にして要を得た」ものであり、卓見であります。しかし、ブログも閲覧可能ですし、直前までエントリー更新をされていたということは、ご自身は今回の身柄拘束は予期されておられなかったのでしょうか?私なら(って、とくに心当たりはございませんが)自分の身柄拘束を予期していれば、このブログもエントリー更新どころか、グーグルの巡回ロボットにもひっかからないように、休止してしまうと思います。もし、身柄拘束を予期しつつも、このようにブログを自然体で書けていたとすれば・・・・、スゴイ人だなぁと。。。

大阪府警4課ですよね。(暴対)マネロンの疑いがあり、海外の投資事業組合の実態解明には、どうしても会計士の身柄確保が必要(逃亡のおそれ、証拠隠滅のおそれあり)ということになるのでしょうか。ライブドア強制捜査のときと同様、参考人で事情聴取を受ける、といった考えがあったのかもしれませんが。

でも、この会社は1997年ころに、皆様ご承知のIT関連の著名な会社がお金を出し合って設立したものですよね。IPOによって大もうけをしようと考えていたところで、ITバブルの崩壊の時期と重なってしまって、儲けが飛んでしまったということで、著名な企業は一斉に株を手放し、あっという間にグレー企業(の関連会社)に株を取得されてしまったようです。株式会社を錬金箱といったイメージで捉える企業が多いのであれば、今後も同様の事例は出てくると思いますが、いかがでしょうか。(それとも、こういった企業が今後出現しないよう、主幹事証券会社の役割が重要であることを世間に示すがゆえに、ICFの強制捜査と時を同じくして丸八証券さんも強制捜査を受けることになったのでしょうか)この方が共著でお書きになった「投資事業組合とは何か」の「はしがき」の直前に記されたコラムの内容を思いおこしますと、なんともやりきれない気持ちになってしまいます。

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2008年2月13日 (水)

闘うコンプライアンス(景表法違反事件)

ダスキン事件の最高裁判決が出たようでありまして、概ね大阪高裁判決の内容が踏襲されたようであります。またWEB上で最高裁判決の内容が確認されましたら、エントリーでも検討しようかと思っております。

さて、私のブログでは、独占禁止法関連の話題は企業コンプライアンスとの関連が強いケースしかとりあげませんが、ちょっと気になりましたのが、新聞報道にもありますように、カー用品メーカー19社の製造した「燃費向上グッズ」がそろって公正取引委員会より排除命令(景表法6条1項)を受けた、というニュースであります。(公正取引委員会の公式リリースはこちら。 新聞報道はこちら)根拠条文は景表法4条1項1号の「有利  優良誤認」つまり一般消費者に対して、実際のものよりも著しく優良であると示すような表示行為があった、というものであります。対象企業の大手でありますソフト99コーポレーション社も、リリースによりますと事態を厳粛に受け止め、今後法令遵守体制の確立に向けて努力します、とのことでありますが、ホントに素直に受け止めてしまってよろしいのでしょうかね?これって、素直に受け止めてしまいますと、「何も根拠なく、消費者を騙して売っていました」ということになるんじゃないでしょうか。すでにカー用品販売大手のオートバックスセブン社やイエローハット社あたりは、この排除命令に基づきまして、購入者に対する自主回収の是非を検討したり、今後の排除命令を受けたメーカーさんとの取引関係の見直しなどについても検討されているものと思われますが(あくまでもこれは私の推測です)、真摯に排除命令を受け止めてしまったら、取引先にも、また消費者にも反論の余地がなくなるわけでして、本当にそれでいいのでしょうか。たしかに(かつて)カー用品メーカーが排除勧告を受けた20年ほど前の時代であれば、何の根拠もなく「燃費50%向上!」みたいな商品広告もあったかとは思いますが、これだけ日本の環境技術が向上し、またコンプライアンス意識が高揚しているような時代に、何の根拠もなく「燃費向上」と書いているとは到底思えません。

今から2年ほど前に、ヤマハ発動機さんが、「中国(産業用無人)ヘリコプター輸出」問題で関税法外為法違反(無許可輸出未遂被告事件)に問われましたが、あのとき、ヤマハ発動機の社長さんは、株主総会で「うちは絶対に間違ったことはしていない」と宣言し、世間の常識やマスコミを敵に回しても、コンプライアンスの精神は貫くとされ、その1年後、刑事被疑事件においては社員たちは不起訴処分となりました。(ただし法人としてのヤマハ発動機さんは略式起訴のうえ、罰金刑、その他一定期間の輸出禁止の行政処分を受けたように記憶しております)もちろん、時と場合にもよるとは思いますが、たとえ公正取引委員会が相手であろうと、自分たちが主張すべき点があれば、堂々と主張しなければ、そこで闘うことで失う社会的信用以上の損失を被る場合も出てくるのではないでしょうか。

本件ではおそらく公正取引委員会が出しておられる「不実証広告規制に関する指針(ガイドライン)」の運用解釈が問題になるのだろうと思われます。これは一応、法運用の透明性と事業者の予見可能性を確保するために設けられた指針ということでありますが、こういった指針が出てもなお、おそらく事業者にとりましては予見可能性はほとんどないと考えられます。たとえば一昨年の夏ころから、公正取引委員会は、カー用品メーカーへの調査を進めていたように聞き及んでおりますが、昨年12月ころに排除命令の事前通知がなされて、各社とも弁明の機会は与えられたものの、結局のところ「警告程度で済むのでは」といった楽観的な見通しも裏切られ、19社もの一斉排除命令に至ったわけでありまして、事業者にしてみれば、調査対象が何社だったのか、そのうちなぜ19社なのか、他の事業者と排除命令を受けたところとはどう違うのか、おそらく何もわからないままの状況だと推測されます。それぞれの事業者がいちおう合理的根拠になるような資料を提出しているにもかかわらず、公正取引委員会が「合理性を裏付ける根拠資料は具体的になにか」を事前に示してもらえないがゆえに、そのミスマッチによって排除命令に至っているとすれば、ほとんど透明性も予見可能性もないに等しいのではないでしょうか。ましてや事業者側が合理性ある資料だと認識したうえで、その検証結果などをHPで公開している場合には、その検証結果が虚偽とは認められないのであれば、表示内容と検証結果との対応関係についても「消費者の一般認識」を基準として考えるべきでありまして、「この対応関係が認められるためには、このデータがないとダメ」といった公正取引委員会の判断は、事業者側にとっては不意打ちにもなりかねず、景表法の解釈としても少し疑問があるように思われます。

平成15年に改正景表法が施行されまして、排除命令は事後審判手続きとなりましたので、義務履行を止めるためには裁判所に保証金を供託して執行を停止しておかなければならなくなりましたし、排除命令を争うためには東京へ出向く必要もあるわけですから、たしかにお金のかかることだとは思います。しかし、おそらく排除命令を受けた19社は、どこもそれなりに「合理的」と信じているデータに基づいて広告を打っているはずですし、そのことで胸を張って販売していたにもかかわらず、排除命令を素直に受け入れてしまっては、一般の消費者からみれば「詐欺まがい商法の極悪人が正義の味方公取委からお叱りを受けた」としか認識されないのは、なんとも口惜しいのではないでしょうか。本当にそのような事業者であれば文句はないかもしれませんが、日ごろ、コンプライアンスを標榜して販売を継続している事業者であれば、社員や製品を愛用してくれている消費者、顧客のためにも、ぜひ闘うコンプライアンスを貫いていただきたいと思った次第であります。(なお法律論等、不適切な文脈がございましたら、またご指摘いただけますと幸いです)

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2008年2月12日 (火)

東証の両社(IHI社と三洋電機社)への対応の違いはどこにあるのか?

皆様すでにご承知のとおり、2月9日付けにて、IHI社が特設注意市場銘柄の第一号として指定されたそうであります。(朝日ニュースはこちら)いずれも過年度決算を訂正した名門企業の三洋電機社とIHI社でありますが、「有価証券報告書等」への虚偽記載の影響が重大とまではいえない、という点では同じ判断を辿るものの、結論につきましては、かたや注意勧告(三洋)、かたや特設注意市場銘柄の指定(IHI)ということで、行く末に大きな差が生じてしまったような次第であります。この差がどこからきたのか、東証や大証は企業の内部統制システム構築への努力をどう考えているのか、そのあたり、短時間では十分な答えを見出すことはできませんが、(新興企業ならずとも、こういった事態に陥るわけでありますので)一般の上場企業の立場からすこし考察をしてみたいと思います。(なお、今回の考察のための参考資料は、IHI社の社内調査委員会報告書、同社外調査委員会報告書、および三洋電機社の社外独立委員会報告書等であります。いずれもWEB上にて閲覧可能です。)

1 特設注意市場銘柄への指定は、新興企業にかぎらず、指定される可能性があること。

特設注意市場銘柄の指定を受ける、ということは、少なくとも今後1年間は特設注意市場の株式として売買されるわけでして、1年後に内部統制改善確認書を証券取引所に提出することになります。そして3回提出しても改善が認められない場合には、上場廃止処分を受けることになります。(東証有価証券上場規程501条以下)IHI社がこういった厳しい指定を受けることにつきまして、最初はすこし驚きましたが、よく考えますと、日興コーディアルの不正会計事件のときに「日興の上場維持」とする東証の対応にかなりの批判が集まりまして、上場廃止と注意勧告の間に、中間的な処分があったほうがいいのではないか、といった議論がありましたので、名門企業が指定されても不思議はないということでしょうね。ある意味で、今後も当然のように「上場廃止か特設市場行きか」といった噂の出る虚偽記載事例というのは増えるものと予想されます。

2 J-SOXとは関係なく、東証が上場企業の内部統制の問題を指摘すること

まだ内部統制報告制度は施行されておりませんが、財務報告の信頼性確保のためのシステム構築云々よりも、ともかく東証が独自の判断で「内部統制に問題あり」とすれば特設注意市場指定に踏み切る、ということのようであります。(IHI社はJ-SOX施行前に指定されてしまいましたし、三洋電機社につきましては、内部管理体制の面では問題なし、ということで注意勧告処分となった経緯からみて)もちろん、内部統制報告書が提出されるようになれば、それも参考になろうかとは思いますが、ともかく有価証券報告書等の虚偽記載に至ってしまった企業に対するものである以上、報告制度の結論には左右されないということでしょうね。ということは外部監査人(監査法人)が、対象企業の内部統制報告書に「適正意見」を出している場合でも、過年度決算の訂正事由によっては「内部管理体制に問題あり」として、特設注意市場に指定される可能性もありますね。

今回、両社とも「違法配当」が問題視されたかと思料いたしますが、結局のところ、いずれも組織ぐるみの故意(違法配当、粉飾決算に向けての)が認められなかったために、「上場廃止と認めるまでの悪質さはなかった」と、結論付けざるをえなかったものと推察されます。社外調査委員会などの報告書を読みましても、いずれも経営トップによる粉飾への積極的な関与は認められなかったとされております。このあたりが、おそらく重要な点ではないかと思いますが、東証が両社に求めているのは、「もし粉飾があった場合に、経営トップの関与が立証できるような社内の体制を築くこと」に関心が向けられているように思われます。つまり、東証は、経営トップ(本社管理部門)がカンパニー(三洋)や事業本部(IHI)に多くの権限を移譲していることは、その企業規模や環境などからみて当然のこととしても、会計基準の適用方針や、会計基準適用の前提となる重大な事実を全社的に共有できるだけの「情報の共有」と、なにかあれば公正な立場で問題を指摘し、経営トップに報告できるような強力なモニタリング部門の存在が不可欠とみなしているようであります。そのうえで、三洋電機社は過年度に多大な虚偽記載が認められるものの、平成18年3月に行われた社内のガバナンス体制の改編により、ほぼ再発を防止できるだけの内部統制システムが構築されていると判断され、いっぽうのIHI社については、いまだ再発を防止するだけのシステムは構築されていない、と判断されたものではないかと推察されます。

3 事後的な内部統制システム構築への努力が、東証の指定に影響を与える?

これもまだ検討を要する点ではありますが、たとえ過年度決算の訂正(有価証券報告書への虚偽記載)があり、東証による処分の対象となった場合でも、東証の要請している「内部管理体制」を確保するように努力をすることで、その処分内容に影響を与える可能性があるということであります。(注意勧告と特設注意市場銘柄になるのとでは大きな違いですよね・・)新聞報道では、両社の処分に違いが出たことにつきまして、三洋では会計基準の解釈が中心問題であったのと比較して、IHI社は審査体制や情報伝達の不備があったことなどに起因する、とされていますが、そもそも会計基準を問題とするのであれば、三洋の金融商品会計基準と同様、IHI社でも(エネルギー・プラント事業に関する)工事進行基準会計の解釈が問題となっており、またカンパニー制と事業本部制を採用することによる統制面での弊害(つまり内部統制システムの問題)という意味ではどちらも同じような問題を抱えていたと判断されますので、やはり「虚偽記載が認められる場合において、責任の所在がうやむやになることなく、組織ぐるみか、そうでなかったのか断定できるだけのシステムになっているか、また、モニタリング部門が最終責任を負える程度に強力な権限が付与されているかどうか」といった体制の整備に尽力することが要請されているものと考えられます。

このように考えますと、証券取引所が考えている「内部管理体制」なるものも、現場に従事されている社員の方々の創意工夫を失わせてしまうようなガチガチの内部統制システムを要求しているものではなく、専ら日興コーディアル事件のときから問題とされていた「組織ぐるみの不正」をさせないシステム作りに向けられたものである、と思う次第であります。

なお、最後に特設注意市場銘柄に指定された会社が、1年ごとに提出しなければならない「内部管理体制確認書」において斟酌されるべきポイントが、東証上場管理等に関するガイドラインⅢに記述されておりますので、ご参考まで。

 内部管理体制等の認定において総合斟酌される事情は以下のとおり

・内部監査又は監査役による監査など、業務執行に対する監視体制n状況、監査の実施状況

・経営管理組織、社内規則の整備などの内部管理体制の状況

・経営に重大な影響を与える事実等の会社情報の管理状況

・会社情報の適時開示体制の状況

・法令等の遵守状況

・特設注意市場指定後の有価証券上場規程の上場管理に関する規定(適時開示、企業行動規範など)の遵守状況

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2008年2月 8日 (金)

オピニオン・ショッピング(「粉飾の論理」より)

(2月8日午前 追記あります)

私のブログでも、過去2回ほど監査法人さんの「セカンド・オピニオン」について書かせていただきましたが、弁護士業界と違って、監査法人さんがセカンド・オピニオンを書きたがらないのは、「そんなに短期間に会社の会計方針がわかるはずもなく、また余程会社の実情に詳しく精通していなければコワくてセカンド・オピニオンなど書けるものではないからである」といった回答が多く寄せられたことを記憶しております。ブログを書き始めてもうすぐ3年になりますが、今頃になって、ようやく会計監査のむずかしさもすこしばかり理解できるようになりまして、上記理由は会計監査人の短期ローテーションの弊害にも通じるところではないかなぁ・・などと感じるようにもなりました。

さて、本日(2月7日)の日経ニュースにおきまして、KDA監査法人さん(所属会計士数27名)が、平成20年2月7日付けにて公認会計士・監査審査会より、処分勧告を受けた、と報道されております。(公認会計士・監査審査会のリリースはこちら)ちなみにKDA監査法人さんというのは「国際第一監査法人」さんが名称変更されたようでして、企業会計に関心を寄せるブロガーとしましてはこのお名前は忘れもしません、一昨年のベストセラー「粉飾の論理」(高橋篤史 著)のなかで、「オピニオン・ショッピング/駆け込み寺」として登場されたあの監査法人さんですね。ちょうど、監査法人のセカンドオピニオンについて、いろいろとブログにも書いておりました時期にこの本を読んでおりましたので、「この監査法人さんは、こんな短期間によく社内事情を理解できるものだなぁ」と思いながら読んでおりましたが、やはり今回の処分勧告の理由におきましても、監査契約の新規締結等の問題点等を指摘されておられるようであります。

ここでは、KDA監査法人さんのことをあれこれと申し上げるつもりはなく、公認会計士・監査審査会が監査法人へ処分勧告を行う場合の、その理由付けに関心を持ったような次第であります。すでに平成19年も監査法人の内部管理態勢に不備(重大な不備)があったとして数社の監査法人さんが処分勧告を受けておりますが、その理由などを検討しますと、来るべきJ-SOX施行によります一般上場会社の内部統制評価や監査のあり方が少しだけ垣間見えてくるように思われます。たとえば、本件のKDA監査法人さんの場合をみますと、統制環境(理事会の機能不全)→品質管理体制の整備状況(品質管理責任者の職務分掌の不明確さ)→モニタリング(品質管理に係る独立的評価機能の不全)→リスク評価におけるトップダウンアプローチ(トップダウンリスクアプローチの適用方針が皆無)→業務プロセスの深度ある評価(ここでは監査業務の記録化の不存在)などなど。

さて、問題は、こういったKDA監査法人さんの内部管理態勢につきまして、これを「重大な不備」と判定する切り札はどこにあるのでしょうか?それとも「切り札」はないけれども、品質管理レビュー等で上記のような諸々の欠陥が判明した以上は、総合的に見て「重大な不備」だと認識されたのでしょうか。もし「切り札」があるとするならば、たとえば上場企業と契約をして監査業務を行う監査法人さんは、どこでも公認会計士協会に「品質管理基準」なるものを提出しているわけでありますが、そういった書面と調査実態の差をとらえて「重大な不備」と認定してされているのか、それとも不正会計等で上場廃止等の問題となった企業の監査を引き受けていたことが、そもそも「切り札」となりまして、これを「重大な不備」と結びつけて判断されるのか、このあたりがとても気になるところであります。実際、今後の財務報告に係る内部統制の制度が施行された後、とりわけ決算、財務報告プロセスの不備や重要な欠陥というものが、「後だしじゃんけん」方式によって、会計上のミスがあったから、架空取引等不正な会計処理があったから、「重大な欠陥」がある、といった判断がなされる余地もあるように思えます。大きな会社の場合にはないかもしれませんが、中小の上場企業の場合ですと、全社的内部統制に重要な欠陥がある、と監査人に指摘される可能性もあると考えております。ただ、その場合の重要な欠陥は「行為無価値」つまり、たとえば統制環境がイマイチということで判断されるのか、それとも実際に会計不正が認められた、という「結果無価値」を捉えて認定されてしまうのか、どうもこのあたりが、今後の内部統制評価、監査実務の運用の気になるところであります。

(8日午前 追記)本日のエントリーに関しましては、数名の方々より、コメントはできませんが・・・・、ということでメールを頂戴いたしました。新設されました金商法193条の3の積極活用へのご意見などは別途採り上げたいと考えておりますが、下記のような情報もいただいております。(どうもありがとうございます)

 今回の件につきましては、私の正直な感想としましては「見せしめ」というか「△△」ではないかなと思っております。

「監査契約の新規締結等の問題点等」については、現在のJICPA・CPAAOBの重点レビューテーマでありまして、「特に」あやしげな監査法人のほうでは厳しいチェックが入っているようです。(△△△も確か現在進行形で受けているはずで、相当ヤバイらしいという話は聞きましたから、なにかでてくるかもしれません)

(注 △△△は管理人により抹消・・・ちなみに文字数も不知)

私も、会計士さんと一緒にお仕事をする機会がありますので、いろいろと話題になるような監査法人さんの会計士さんも存じ上げているのですが、そういった監査法人さんの方も個人的には非常に勤勉で、人情味あふれており、楽しい方が多いように感じているのですが、やはり最終的にはトップの方々の色が出てくるのでしょうか?監査法人さんの場合、東京事務所と大阪事務所のように、事務所が違いますと、まったくカラーが違うのではないかといった印象を抱いております。このあたりも組織再編などを繰り返している影響なのかもしれませんが。

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2008年2月 6日 (水)

イマドキの独立第三者委員会(その2)

(2月6日午前 追記あります)

新聞等でも報道されておりますとおり、SPJSF(スティールパートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンド 以下「SP」といいます)が昨年2月15日に買収提案を行っていた案件につきまして、サッポロHDの特別委員会の意見書が2月4日、サッポロHDの取締役会に提出されたようであります。( 「当社株券等の大規模買付行為への対応方針」に基づく特別委員会からの意見書受領について)ちなみに、この手続は「当社株券等の大規模買付行為への対応方針」に則ったものであります。

この特別委員会の意見書の内容につきましては、いろいろとご議論のあるところでしょうし、そもそも特別委員会がどの程度、防衛策の適法性に影響を及ぼすものであるかは未知数の部分が多いわけでありますが、先のルールによりますと、サッポロHDは取締役会としての対応を決定するにあたり「特別委員会の勧告を最大限尊重したうえで」判断することとなっております。「勧告」というからには、①防衛策を発動すべきである、②防衛策は発動すべきではない、③発動の是非については委員会としては結論が出なかったので、勧告は控える、の3つしか結論はないと考えられます。しかしながら、今回の意見書を読みますと、「(SPによる支配権取得は)株主共同利益を著しく毀損するおそれは大きい」といった意見のみであり、いわゆる「勧告」はどこにも見当たりません。これはなぜなんでしょうか?

以前イマドキの独立第三者委員会(1)でも記載しましたが、私が独立委員を務める会社の委員会(もちろん平時の委員会)が開催された折、独立委員会は「勧告」を行うにあたっては、防衛策が発動された場合の買付株主や既存株主の損害がどの程度か(つまり取締役会は発動にあたって金銭的補償行為を行うのかどうか)、あらかじめ知っておかないと、発動のインパクトがわからないために自分たちの損害賠償リスクが把握できないのではないか、といった議論がありました。独立委員会の活動が法的に意味がある、と考えるのであれば、それは逆に株主等からの損害賠償リスクも背負うということを意味するように思われます。こういったところで思い悩みますと、このサッポロHDの特別委員会のように、勧告はしないけど意見だけは表明するから、あとは取締役会で判断してください・・・と言いたくなるのも理解できそうであります。ただ、私はそもそも独立第三者委員会の正当性は(株主より1年の有効期限を付加されている)事前警告型防衛ルールにしか依拠していない存在でありますので(もちろん、裁判規範という視点からでの判断であり、機関投資家等による株主評価という視点では存在意義はあるものと考えております)、その権限は謙抑的に行使されるべきであり、粛々とルールに則ってその職責をまっとうすべきと考えております。したがって、濫用目的かどうかを判断せよ、というルールであればそのルールのとおり、また「勧告せよ」とあれば明確に勧告を行うのが独立第三者委員会の職務だと認識しております。

委員の方々は、やはり特別委員会がひょっとして背負わなければならないリスクに思いをはせて、「勧告」なる言葉を差し控えられたのでしょうか。でも、そうなりますと、取締役会としては「最大限尊重すべき」前提がなくなってしまうようにも思えますが・・・・・

(PS)こちらのニュースにおける特別委員会の委員長さんの記者会見内容によりますと、「防衛策発動要件については正当性は具備しているが、相当性は防衛策の中身次第だ」といった趣旨の発言をされておられるようです。なるほど、まだ取締役会特別委員会のほうでは、どういった防衛策となるのかは(判明していないので)わからない、ということかもしれませんね。つまり、現段階ではまだ「勧告」はできない、といった判断ではないかと思うのでありますが。(追記;このあたりの記述にはご異論のある方もいらっしゃるようですので、コメント欄をご覧ください)

(2月6日午前;追記)taka-mojitoさん、辰のお年ごさん、katsuさん、コメントありがとうございます。批判されるかもしれませんが、できるだけ冷静かつ客観的な続編をアップしたいと思います。(ただ、このドリームチームの委員会のおひとりは、私が所属している某団体のボスですよね・・・・汗。まぁ、個人的な意見ということでご容赦いただきたく。。 )

また、katsuさんと英国弁護士(英国系事務所の日本の弁護士)のtaka-mojitoさんが、私のエントリーとは比べ物にならないほど(こういうのを無料で読めるのがブログのいいところ 笑)秀逸な関連のエントリーをリリースされておりますので、TBからご覧いただければと。実は私も、この意見書を読みながら、カブドットコム証券の独立委員会意見書を思い起こしておりました。磯崎さんが委員だから・・・というわけではまったくありませんが、(委員会としては賛同も反対の意思も表明しない、でしたっけ?)あれはかなりおもしろかった記憶があります。(時間がなくて、記憶だけに頼った意見です。)

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2008年2月 5日 (火)

食品コンプライアンスと製造物責任(その1)

いまだに中国産ギョーザの食中毒事件につきまして、どういった経路で有機リン系農薬成分が混入したのかは不明でありますが、すでに多数の食中毒被害者の方々がいらっしゃるのは事実であります。ところで、あまりブログ等で輸入販売業者や加工食品を用いた外食産業の製造物責任について論じられているものがないように見受けられます。こういった時点で法律問題に触れるのもどうかとは思ったのでありますが、やはり企業コンプライアンスをまじめに議論するブログとしましては、輸入企業や販売企業、加工品を使用した外食産業など、食品コンプライアンスにかかわる企業のリスク(とりわけ有事の危機管理)はどこにあるのだろうか、といった視点で「食中毒事件に製造物責任(PL法責任)は問われるのか」といった問題について考察してみたいと思います。なお、私は消費者保護に詳しい弁護士ではなく、これはあくまでも一個人としての意見でありますので、正式なリーガルリスクのチェックはお近くの弁護士さんとご相談ください。また、今回の事例につきましては、コンプライアンスという視点からは「農薬成分入りの食品を輸入、販売してしまった」ことと、「発見してから報告、公表が遅れたことで被害が拡大してしまったこと」とは別の責任構成になるのではないかと考えますので、今回の製造物責任論は前者の問題と関連するものとご理解ください。

1 食中毒事件について製造物責任法(PL法)は適用されるのか

製造物責任法は平成6年7月1日に公布され、同7年7月1日より施行されておりますが、それに先立つ平成5年11月に、「食品に係る消費者被害防止・救済対策研究会」(農水省流通局)より「食品に係る消費者被害防止・救済対策のあり方」なる報告書が提出され、この報告内容も踏まえて法律が制定された経緯があります。内容はみなさまご承知のとおり、民法の不法行為責任の特則でありまして、加害者側に主観的な責任事由(いわゆる故意、過失)がなくても製品(商品)に「欠陥」があれば(拡大損害----購入したその「製品」が毀損したことの損害ではなく、その欠陥によって生命、身体、財産等に拡張的に損害が発生した場合---に対する)賠償責任が認められる、といった無過失責任の構造になっております。なお「製造物責任法(平成6年第85号)」はわずか6カ条からなる、たいへんコンパクトな法律ですから、全体像はすぐに把握できると思います。さて、食品に関してこのPL法が適用されるかどうか、といった問題でありますが、そもそも製造物責任法2条2項によれば、「欠陥」とは製品において通常人が正当に期待できる安全性を欠く場合をいうものとされておりますが、①食品は人の健康に直結する物資であり、その安全性につきましては、きわめて高度なものが要請されていること、②近年、加工食品は複雑な工程のもとで製造されたものが多く、製造物責任制度を考えるうえで他の工業製品と同じ側面があることは否めないこと、また③PL法制定以前の判例におきましても、食品の安全への配慮には製造業者側に高度な注意義務が課されるのが通常であったことなどを勘案しまして、消費者保護の立場を明確にするためにも、食品にも製造物責任が適用されるというのがほぼ定説となっているようであります。
ただ、食品といいましても、この製造物責任法が適用されるのは加工品に関してであり、一般の農水産物につきましては、同法2条1項の「製造又は加工された動産」には含まれないとされるのが一般的であります。このような理解からしますと、今回の農薬成分の混入したギョーザは加工食品ということで、原則としましては製造物責任法の適用範囲にあるものと思われます。

製造物責任法(平成6年法律第85号) 

(目的)
第1条 この法律は、製造物の欠陥により人の生命、身体又は財産に係る被害が生じた場合における製造業者等の損害賠償の責任について定めることにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「製造物」とは、製造又は加工された動産をいう。

2 この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。(中略)

(製造物責任)

第3条 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

2 製造物責任法が適用されるとして、何が問題となるのか

さて、農薬入りギョーザに製造物責任法の適用があるとの前提に立ったとしましても、今回の事例におきまして同法による賠償責任は発生するのか(食品について「欠陥」とは何か)、誰が欠陥を証明するのか、誰に対して責任が発生するのか、食品というものの特性はPL法の要件を解釈するにあたっては特別に検討される点はあるか、100%の安全を確認できないような場合にまで業者は責任を負担しなければならないのか、食品安全法などで行政が安全対策を企業に要求していることで結論が変わるか、などなど、検討すべき論点がたくさんあるようです。(これらは、仕事の合間に、事務所にありました相当古い解説書をパラパラ読みながら頭に浮かんだものにすぎませんので、本当はもっとたくさんあると思われます)これらの論点につきましては、また(その2)で検討していきたいと思います。ちなみに、わかりやすい判例をひとつご紹介しておきますと、異物混入ジュース事件(名古屋地裁平成11年6月30日 判例時報1682号106頁)が著名なものではないでしょうか。あるファーストフード店で女性がジュースを購入し、これを飲んだところ、ジュースのなかに異物が含まれており、喉を負傷した、というものでありますが、裁判所はこのファーストフード店に対して、慰謝料を含む損害賠償責任を認めております。裁判では、異物自体が何であったのか、どこから混入されたのか不明ではありましたが、このジュースを飲んだことで喉を負傷したことは事実であるために、ジュースの「欠陥」を認め、詳細な「因果関係」の認定の末、製造物責任法を適用したものであります。とくに「製造業者」の範囲は製造物責任法ではかなり広いものであることにご留意ください。(その2へ続く)

製造物責任法(平成6年法律第85号) 

第2条3項

この法律において「製造業者等」とは、次のいずれかに該当する者をいう。

1 当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(以下単に「製造業者」という。)
2 自ら当該製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示(以下「氏名等の表示」という。)をした者又は当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者

3 前号に掲げる者のほか、当該製造物の製造、加工、輸入又は販売に係る形態その他の事情からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者

(PS)今回、製造物責任法を調べているうちに、興味ある法律を見つけました。

「流通食品への毒物の混入等の防止等に関する特別措置法」 (昭和62年9月26日 法律第103号 昭和62年10月16日 施行)

こういった法律があるということは、国にも食品流通における毒物排除への責務があり、また企業もこれに協力する責務(義務?)があることが法律上で認められている、ということですね。私も存じ上げませんでした。この法律はどちらかといいますと、製造物責任というよりも、事後の報告通知義務とか、行政の連絡体制の不備など、いわゆる「二次不祥事」のほうと関係がありそうな感じがいたします。

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2008年2月 4日 (月)

反社会勢力排除体制の開示

2月3日の朝日新聞の朝刊(9面)によりますと、昨年1年間に企業不祥事を公表した上場企業50社の平均株価下落率が、公表後5日で約1割とのこと。なかでも4社は35%を超える下落率だったそうでして、こういった調査結果をみますと、不祥事公表前になんとか売り抜けてしまおう・・・といった誘惑にかられる役職員の方も大勢いらっしゃるのかもしれません。中国産ギョーザを輸入していた企業におきましても、証券取引等監視委員会の調査が開始される、との報道がなされておりますが、証券取引等監視委員会の陣容は拡大しておりますし、課徴金制度がますます厳格に適用されるなか、インサイダー取引は企業の社会的評価をますます毀損する、いわゆる「二次不祥事」の典型ですので、十分ご留意ください。

さて、大証では、この2月1日から「特設注意市場銘柄」指定制度の導入等に伴う上場制度の見直しに係る関連諸規則の一部改正」が施行されまして、1部、2部上場企業は、コーポレート・ガバナンス報告書」において「反社会的勢力排除に向けた体制整備」を記載することとなります。(東証でも同様ではないかと思われます)昨年6月の政府指針が公表されて以来、企業行動規範や、内部統制システムの基本方針を見直された会社も多いかとは思いますが、このたびは各企業における反社会的勢力を排除する仕組みについて報告書で開示する必要があります。(4月末までに手続を済ませる必要があるようです)これまでほとんどの企業の内部統制基本方針の記載、行動規範の記載が「宣言」にとどまっており、なんら具体的な取り組みが(外からは)見えてきませんでしたので、もし具体的な取り組みが報告書に記載されるとすれば、興味深いところです。(どこでも同じ記載では開示事項としたことに意味ないですし)昨年の12月3日に反社会的勢力対策の実務的深化なるエントリーをアップいたしましたが、そのなかで排除の仕組みを検討する際のいくつかの視点を図にしておりますので、(開示するか否かは別として)議論の整理としてご活用いただければ幸いです。

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2008年2月 2日 (土)

内部統制報告制度導入に伴う上場制度の整備について

中国産ギョーザ中毒事件のエントリーが盛り上がっているときに、誠に恐縮でありますが、少しだけ内部統制関連のお知らせをさせてください。

金商法上の内部統制報告制度導入に伴う上場制度の整備(パブコメ案公表)

すでにご承知の方も多いかとは思いますが、東証HPにて「金融商品取引法における四半期報告制度の導入等に伴う上場制度の整備について」(パブコメ案)が1月29日に公表され、2月28日まで意見募集がされております。なお、この内容は上場制度総合整備プログラム2007の具体化でありまして、すでに会社法務A2Zの2月号におきましても、柿崎環准教授が一部解説されているところであります。経営者評価において「重要な欠陥」があるとされる場合でも、直ちには上場廃止には至らないこと(すでに前記プログラムのなかでも直ちに実施すべき事項のなかで記述されておりましたが)、しかしながら、内部統制報告書において重要な欠陥もしくは評価不実施を表明した場合、または内部統制監査報告書において「不適正意見」または「意見不表明」なる記載がある場合には、発行企業はその旨を適時開示しなければならないことにご留意ください。(これは前記プログラムにおいては第二次実施事項とされていたもの)その他、前記上場整備プログラムの具体化の詳細は、前記A2Z2月号の柿崎先生の論稿をご参照ください。

管理人のセミナー、盛況御礼

管理人の特権(?)により、すでにご案内させていただいておりました2月13日の関西セミナーでありますが、受講者がほぼ定員に達しましたこと、厚くお礼申し上げます。まだ(本当にわずかですが)申し込み可能とのことでありますので、2月13日の午後、忙しい合間をぬって、天満橋までお越しいただける方がおられましたら、ぜひよろしくお願いいたします。

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2008年2月 1日 (金)

サンプリングテストはコンプライアンスに通用するのか?

(1日午後 追記あります)

中国製ギョーザ事件は、昨日エントリーした時点では想像もつかなかったような騒ぎになってしまったようで、その全体像を概括するにはまだ時期尚早なようであります。日本では400件ほどのギョーザ食中毒事例が確認されている・・・ということでありますが、当の中国では有機リン系殺虫剤「メタミドホス」はサンプルテストでは検出されなかった(日経ニュース)、との結果が報告されております。しかし、この記事を読みまして、違和感を抱いた方はおられませんでしょうか?「サンプル検査」で検出されないことで満足できるのでしょうかね?たまたまサンプルでは検出されなかっただけであり、サンプル以外のところで検出される可能性だってあるわけですから、なんの結果報告にもなっていないんじゃないでしょうか。食中毒の症状が出た方々が食べたとされる昨年10月20日ころ製造されたもので、工場に残っているもの全てを検査して初めて報告に値するのではないか、と憤る方もいらっしゃるのではないかと想像いたします。

以前このブログでは、内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)における(経営者評価、監査人監査のための)業務プロセスの運用評価手順としての「サンプリング」を採り上げたことがありました。(あのシリーズも、今回の再生紙配合率偽装事件と同様、たいへん盛り上がったシリーズでした。)会計士さん方にご教示いただき、すくなくとも伝統的な監査論の体系のうえで、統計解析に関する知識をもってはじめて理解しうるものである、といった認識をもった記憶がございます。内部統制の有効性評価の場面におきましては、財務報告に重大な影響を与える虚偽記載が存在するリスクを、合理的な範囲にまで低減することを目的とするサンプリング手法でありますので、あれはあれで納得した次第であります。しかしながら、食品コンプライアンスが問題となる場面で、サンプリングの話が出てくると少し違和感がありそうです。

最新号のITコンプライアンス・レビュー(第六号 季刊誌)を拝読させていただきましたが、このなかで「完璧主義の弊害」なる日立システムアンドサービス社の方がお書きになった論稿がございまして、これがなかなかおもしろいのでありますが、完璧主義の日本人にとっては、「合理的な範囲」で保証する、といった感覚が異質に感じられるのではないか、といった疑問を呈しておられます。この論稿のなかでは、狂牛病騒動の際の日米の考え方の違いに言及されておりまして、アメリカは当然のごとく、サンプリング手法による検査方法を合理的な手法として主張していたわけですが、日本は最後まで「全頭検査」の手法にこだわったわけであります。ここで論者は、日本人の気質を「完璧主義」なる用語で表しておられますが、そもそも私などは、サンプリング手法というものが食品衛生の場面で用いられること自体に違和感を覚えるわけでして、完璧主義の民族でも「いい加減(アバウト)」好きな民族でも、いざ食中毒に関する問題となりますと、やっぱりサンプリングはマズイのでは?といった感覚になるのではないかと思われます。

ただ、よくよく考えてみますと、狂牛病騒動のときは、対象は牛であり、アメリカは「非現実的」と論難しておりましたが、日本が主張していた「全頭検査」も、コストと時間はかかっても、まだ実現可能ではないかと想像できます。しかしながら、対象が「ひとくち餃子」となりますと、「全品検査」というものは、輸出時点で中国企業が行うことも、また輸入時点で日本の企業が行うことも、おそらく不可能ではないでしょうか。ましてや、原材料に殺虫剤が含まれていたのか、それとも加工工場内で混じってしまったのかは、わからないわけですから、「ひとくち餃子」のひとつひとつに農薬調査を行うことはほとんど不可能ではないかと想像いたします。(まぁ、全品検査をしたからといって100%の安全が保証される、というわけでもないとは思いますが)現時点では、まだ被害拡大の防止と被害者の早期回復が優先事項でありますので、それほど話題になることもあるまいとは思いますが、今後中国から食品を輸入する場合の検査方法といったものが、「絶対に食中毒は起こさない」といった前提で話を進めるのではなく、「ある程度の食中毒は発生することもやむをえないが、その発生率を合理的な範囲にまで低減できるだけのシステムは整えましょう」といった前提で議論をする必要があるのではないでしょうか。(注・これは「言いすぎ」とのご批判がありましたので、「そういった前提で議論をするべきだ」といった考え方もありうる、という意味でご理解ください)」そうでないと再発防止策に関する議論が困難になるように思いますし、また「できもしないことを、さもできるかのように」議論することは、かえって思考放棄といいますか、「運用重視」の対策にはならないような気がいたします。

価格競争の面で、どうしても中国から食品を輸入することは避けられないのでありますから、食品コンプライアンスに関する議論についても、危険(リスク)への国民の認識も、現実論にたって考えていく時代が到来しつつあるように思います。ひょっとすると、昨日のJT社や生協さんの記者会見での質問が「なぜ2件目、3件目が防げなかったのか」といったあたりに集中していたのも、記者の方々は「今回のケースでは、1件目はしかたないけれども、2件目、3件目は企業不祥事ではないか?」といったスタンスにたってのものだったのかもしれません。私もこの2件目、3件目を抑止するために官民が知恵を絞ることはできたとしましても、1件目を水際で発生を阻止することを期待するのは・・・、かなりしんどい話のように思います。

(1日午後追記)ロンさんのコメント(削除済み)などでも予想されていた方向に、どうやら問題が整理されつつあるようですね。毎日新聞ニュースの最新版によりますと、兵庫県警が問題の餃子の袋に「小さな穴」を発見したようで、殺人未遂事件として本格的に捜査を進めるようであります。つまり、事件の原因については故意犯の方向で、事件公表が遅れた原因については関連の行政、民間の責任問題の方向で、今後議論が整理されていくのかもしれません。しかしまだ全容が解明されるまでは、未確認事実ということで。

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